説明

音声信号注入形搬送波同期装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、QPSK変調波の復調回路等の変復調装置に併用される音声のFM複合変調回路に用いられる音声信号注入形搬送波同期装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、QPSK変調波の搬送波再生と、この搬送波にFM変調により重畳されている音声の抽出とは、同一の回路内にて実現していた。
【0003】図2には、従来方式の回路の一例構成が示されている。
【0004】この図に示されるQPSK復調器1は、QPSK変調波と再生搬送波とを混合するミキサ2及び3を備えている。ミキサ2及び3の出力は、LPF4及び5によりそれぞれ濾波されたのち、Pch及びQchベースバンド信号として識別器6及び7に入力される。
【0005】LPF4及び5の後段には、クロック再生回路8が接続されている。このクロック再生回路8は、Pch及びQchベースバンド信号から再生クロック信号を再生する。再生クロック信号は、前述の識別器6及び7に供給される他、搬送波位相判定回路9に供給される。
【0006】識別器6及び7は、クロック再生回路8において再生されたクロックのタイミング毎に、Pch及びQchのベースバンド信号を、それぞれディジタル値に変換した後、搬送波位相判定回路9に入力される。
【0007】搬送波位相判定回路9は、クロック再生回路8において再生されたクロック毎に搬送波位相判定が行われ、その検出信号は、ループフィルタ10を介して、VCO11に供給される。このVCO11の出力は、一方でミキサ2、他方で90°移相器12を介して、ミキサ3にそれぞれ供給される。
【0008】すなわち、このQPSK復調器1においては、クロック再生回路8、搬送波位相判定回路9、ループフィルタ10、VCO11により構成される搬送波再生ループによって搬送波の同期再生が行われる。
【0009】一方、QPSK変調波の搬送波にFM変調により重畳されている音声信号は、VCO11に供給される搬送波位相検出信号より抽出される。抽出された音声信号は、音声帯域増幅器13により諸定のレベルに増幅した後出力される。
【0010】ところで、QPSK変復調系におけるFM複合変調による音声を再生するには、FM変調の周波数偏移量に合わせて、ループフィルタの通過帯域を広くする必要がある。ループフィルタの通過帯域を広くした場合、再生搬送波のC/Nが低下し、誤り率特性が劣化する。
【0011】一方、受信ベースバンドフィルタ等の遅延は、搬送波再生ループ遅延となり、搬送波再生ループの帯域を制限してしまう。
【0012】搬送波再生ループの帯域が制限されると、FM複合変調の周波数偏移量が大きい場合には音声の再生が出来ない事もある、云いかえると、搬送波を再生できない事もある。
【0013】このため、従来の方式では、FM複合変調における周波数偏移量を可能な範囲で最小化と、ループフィルタの特性最適化により、C/Nに対する誤り率特性の確保と音声再生信号のS/Nの確保を実現している。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、波形整形の送受配分による搬送波再生ループ内の波形整形フィルタの遅延量増加、或は図2:図中A〜B及びC〜D間への波形歪補償回路、干渉補償回路などの追加による遅延量の増加等、搬送波再生ループ内遅延の増加は、搬送波再生ループの帯域を更に制限し、搬送波再生ループの応答を遅くする事になり、搬送波の再生が困難となり、同時にFM複合変調による音声信号の再生も困難となる。
【0015】この様に、搬送波再生ループ内に過大な遅延が存在する場合において、QPSK変調系の主信号のC/Nに対する誤り率特性の劣化防止と、FM複合変調による音声再生信号のS/N確保の両立が困難という問題がある。
【0016】そこで、本発明の技術的課題は、上記欠点に鑑み、搬送波再生ループ内に過大な遅延が存在する場合においても、主信号のC/Nに対する誤り率特性の劣化防止と、FM複合変調による音声再生信号のS/N確保とを、両立した音声信号注入形搬送波同期装置を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、QPSK変調波の搬送波に重畳されている音声信号を再生音声信号として再生する音声信号再生用復調器と、前記QPSK変調波を復調するQPSK復調器とを含み、このQPSK復調器は、前記QPSK変調波の搬送波を再生搬送波として再生する搬送波再生ループ回路を有し、この搬送波再生ループ回路は、ループフィルタとこのループフィルタの出力に接続されたVCOとを含んで前記VCOの出力に前記再生搬送波を得るものであり、前記QPSK復調器は、前記VCOの出力に得られた前記再生搬送波を基に、前記QPSK変調波を復調するものであり、前記QPSK復調器が受信した前記QPSK変調波の搬送波に重畳されている音声信号を相殺するように、前記再生音声信号を前記搬送波再生ループ回路の前記VCOに入力する位相回路を、更に含むことを特徴とする音声信号注入形搬送波同期装置が得られる。
【0018】すなわち、本発明は、QPSK変復調系主信号のC/Nに対する誤り率特性の劣化を最小にすべく、ループフィルタの帯域を狭くしたQPSK復調器と、FM複合変調による音声信号の再生を最適化した声信号再生用復調器とを備え、音声信号再生用復調器による再生音声信号に基づいて、QPSK復調器内のVCOにFM変調を掛けることにより、QPSK復調器内のベースバンド信号に音声成分が乗らない様に制御することを特徴とする。
【0019】
【作用】本発明の音声注入形搬送波同期回路においては、まずQPSK変調波と再生搬送波との混合により得られた2系列のベースバンド信号を、自らのベースバンド信号から再生したクロック毎に、2系列のA/Dコンバータにてディジタル値にそれぞれ変換する。
【0020】更に、ディジタル値に変換された2系列の信号は、再生クロックと共に搬送波位相検出回路に供給され、クロック毎に、Pch信号及びQch信号に対する搬送波の位相検波を行う。
【0021】位相検波された出力信号は、波形整形用フィルタやA〜B及びC〜D間に追加挿入される波形歪補償回路或は干渉補償回路の遅延、そしてクロック毎による搬送波位相検波の為、搬送波にFM変調方式により重畳されている音声信号による位相成分を、忠実に検波しない。
【0022】ここで、得られた搬送波位相検波信号に、音声信号再生用復調器より出力される音声信号を、同相に合成しVCOに供給する。
【0023】VCO出力は、再生搬送波としてミキサに供給される構成により搬送波再生ループとして搬送波同期再生が行われる。
【0024】一方、分岐されたもう一つのQPSK変調波と再生搬送波との混合により得られる2系列のベースバンド信号を、遅延量を極力抑えたフィルタにより、それぞれ高調波濾波を行い、これら2系統列の信号からリアルタイムに搬送波の位相検波を行う。
【0025】この位相検波信号は、LPFを介しVCOに供給され、VCO出力は再生搬送波としてミキサに供給される。
【0026】この様な構成の搬送波再生ループにより得られる搬送波位相検波信号の雑音を除く交流成分は、搬送波に重畳されている音声信号そのものである。
【0027】従って、この音声信号と、前述の音声信号による位相成分に対して検波されていない搬送波位相判定信号とを、位相振幅を調整し合成することにより得られた信号は、再生搬送波に対する位相雑音の抑圧と搬送波に重畳されている音声信号の再搬送波に対する位相成分の忠実な再生とを兼ね備える。
【0028】よって、この合成された信号により搬送波再生ループを構成し得られる再生搬送波は、充分なC/Nの確保と、QPSK変復調系のPch信号及びQch信号に対し、音声信号成分を残さない為、主信号に対するC/N対誤り率特性に良好な特性が得られる。
【0029】また、主信号即ちPch及びQchを復調する搬送波再生同期回路と音声を再生する為の回路とが、互いに、独立しているので、主信号に対するC/N対誤り率特性に影響することなく、FM複合変調の周波数偏移量を増加させることが可能である。その結果、S/Nの良い再生音声信号が得られる。
【0030】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0031】図2に示される従来例と同様の構成には同一の符号を付し説明を省略する。
【0032】図1には、本発明の実施例に係る音声抽入形搬送波再生同期回路の構成が示されている。
【0033】取り込まれたQPSK変調波は、Pch信号及びQch信号復調用QPSK復調器(A)1と、音声信号再生用復調器(B)14とに分岐される。Pch信号及びQch信号復調用QPSK復調器(A)1に取り込まれたQPSK変調波は、ミキサ2,3にて2系列のベースバンド信号に変換された後、LPF4,5及び識別器6,7を介して、サンプリング形搬送波位相判定回路9に供給される。この判定回路9にて検波された出力は、ループフィルタ10を介して、位相判定出力として出力される。
【0034】この位相判定出力は、クロック毎にサンプリングされた情報から得られた出力であり、クロックから次のクロックまでの搬送波位相情報は欠落している。即ち、FM変調方式にて搬送波に重畳されている音声信号に対する搬送波の位相情報が欠落していることになる。
【0035】この位相判定出力の制御により得られた再生搬送波により復調される主信号、即ちPch信号及びQch信号には、送信側にて送搬送波に重畳された音声信号が重畳する結果となり、主信号に対するC/N対誤り率特性が劣化してしまう。
【0036】一方、音声信号再生用復調器(B)14に取り込まれたQPSK変調波は、ミキサ15,16にそれぞれ供給され、本復調器14により再生された搬送波と混合する事により、2系列のベースバンド信号として出力される。
【0037】この2系列のベースバンド信号は、LPF17,18にそれぞれ入力され、高調波成分を除去した後、出力される。ここで、LPF17及び18は、本調器14の応答を速くする為に遅延量を極力抑えたものとする。
【0038】LPF17及び18より出力された2系列のベースバンド信号は、リアルタイム形搬送波位相判定回路19に供給され、リアルタイムで搬送波位相判定が行われる。この出力はLPF20を介してVCO21に供給される。
【0039】VCO出力は、一方でミキサ15へ、他方で90°移相器22を介してミキサ16に供給される。すなわち、この音声信号再生用復調器(B)14においては、リアルタイム形搬送波位相判定回路19、ループフィルタ20、VCO21により構成される搬送波再生ループにより搬送波の同期再生が行なわれる。
【0040】更に、ループフィルタ20の出力信号における交流成分は、音声の再生信号であり、増幅器13にて所定レベルまで増幅され、音声再生信号として出力される。
【0041】音声再生信号は、可変抵抗器23、移相器24を介して振幅及び位相を調整した後、主信号復調用搬送波同期回路1内、LPF10の出力信号と合成される。
【0042】この合成された信号をVCO11に供給し、VCO11の出力により得られる再生搬送波は、ミキサ2及びミキサ3に供給される。すなわち、VCO11に供給される搬送波の位相情報は、音声信号の搬送波の位相変化情報も含まれており、この信号の制御により得られた搬送波により復調される主信号には、音声信号は重畳されないことになる。従って、主信号に対するC/N対誤り率特性は、FM複合変調の影響を受けることがなく劣化の少ない特性が得られる。
【0043】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明によれば、主信号復調用搬送波再生ループ内にディジタル形の波形歪補償回路や干渉補償回路を必要とする場合に不可欠となるサンプリング形搬送波位相検出方式を用いた搬送波同期回路においても、音声再生用に独立したリアルタイム形の搬送波同期回路を用いて合成することにより、音声のFM複合変調の影響を受ける事なく、主信号の復調が可能となり、良好なC/N対誤り率特性が得られる。
【0044】又、本発明の回路は、主信号の伝送容量が小さい場合、すなわち、主信号のクロック周期が遅く、音声信号の周期との比が小さい場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る音声注入形QPSK搬送波同期回路。
【図2】従来方式のQPSK変調波同期回路の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
1 Pch信号及びQch信号復調用QPSK復調器(A)
2 ミキサ
3 ミキサ
4 LPF
5 LPF
6 識別器
7 識別器
8 クロック再生回路
9 搬送波位相判定回路
10 ループフィルタ
11 VCO
12 90°移相器
13 音声帯増幅器
14 音声信号再生用復調器(B)
15 ミキサ
16 ミキサ
17 LPF
18 LPF
19 リアルタイム形搬送波位相判定回路
20 ループフィルタ
21 VCO
22 90°移相器
23 可変抵抗器
24 移相器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 QPSK変調波の搬送波に重畳されている音声信号を再生音声信号として再生する音声信号再生用復調器と、前記QPSK変調波を復調するQPSK復調器とを含み、このQPSK復調器は、前記QPSK変調波の搬送波を再生搬送波として再生する搬送波再生ループ回路を有し、この搬送波再生ループ回路は、ループフィルタとこのループフィルタの出力に接続されたVCOとを含んで前記VCOの出力に前記再生搬送波を得るものであり、前記QPSK復調器は、前記VCOの出力に得られた前記再生搬送波を基に、前記QPSK変調波を復調するものであり、前記QPSK復調器が受信した前記QPSK変調波の送波に重畳されている音声信号を相殺するように、前記再生音声信号を前記搬送波再生ループ回路の前記VCOに入力する位相回路を、更に含むことを特徴とする音声信号注入形搬送波同期装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【特許番号】第2543802号
【登録日】平成8年(1996)7月25日
【発行日】平成8年(1996)10月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−74244
【出願日】平成4年(1992)3月30日
【公開番号】特開平5−276209
【公開日】平成5年(1993)10月22日
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【参考文献】
【文献】特開平3−133236(JP,A)
【文献】特開昭59−225655(JP,A)