説明

音楽用電子機器

【課題】クリップ部を備えた調律装置の収納時に、調律装置本体とクリップ部、クリップ部自体の隙間を減らしコンパクト化を図ることができるとともに、楽器への高い把持力を備えた音楽用電子機器を提供する。
【解決手段】調律装置1において、クリップ部10を、平板形状の第1板材20と、第1板材20の上方に対向配置されて挟持板部32と逃げ板部34とを備える第2板材30と、これらを相対回動可能に連結して第1板材20と挟持板部32とが閉じて平行となる方向に付勢するヒンジ部36とから構成し、挟持板部32と逃げ板部34とに囲われた空間を収納スペースとし、第2板材30に連結された調律装置本体40を、その背面を挟持板部32及び逃げ板部34の上面に沿わせ、表示部42を挟持板部32の上方に向けた状態で収納する。また、クリップを閉じた状態では凹型の窪み部を形成した中央部61bに上パッドと挟持板先端部33が収納される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音楽の演奏時(演奏開始前)や練習時に用いられる調律装置やメトロノーム等の音楽用電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、音楽の演奏時や練習時に用いられる音楽用電子機器が知られており、その一例としては、任意の音を入力してその音高情報を基準として調律を行う調律装置が挙げられる。
【0003】
この調律装置は、楽器に直接取り付けて楽器から発生した音の調律状態を調律装置本体の表示部に表示するものであり、従来の調律装置は、調律対象である楽器から発せられる音を効率良く感知する場所を探りながら設置する必要があった。調律対象が金管楽器の場合、ベル付近の発音側が最も効率の良い採音ができる位置であるが、この位置に調律装置を設置すると、調律装置本体の表示面がベルに隠れてしまうという問題があった。このような問題を解消するために、楽器の発音部近傍を挟持するクリップ部と、調律した結果を表示する表示面を備えた調律装置本体との間に回動可能な継手を設け、表示面が演奏者から視認し易い位置に配置可能な調律装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、一般に調律装置用クリップの挟み付け部には滑り止めラバーが取り付けられており、ラバーを中空形状にすることでクリップ部を楽器にしっかりホールドさせるように工夫されたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−255932号公報
【特許文献2】特開2005−284035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の調律装置は、クリップ部と調律装置本体とが独立して配置された状態でこれらクリップと調律装置本体とが継ぎ手によって連結された構成とされている。したがって、クリップと調律装置本体との一体感はなく、これらクリップと調律装置本体との間に無駄なスペースが生じてしまい、コンパクトな構成とすることができないという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2の調律装置用クリップの場合、クリップを単体で閉じたときにラバーの厚みがあるため挟み付け部を完全に閉じることができず、クリップ自体のコンパクトさも妨げる構造となっていた。
【0007】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、クリップ部収納時に無駄なスペースを作らない構成とすることでコンパクト化を図ることができるとともに、楽器等への取り付け時の高い把持力を備えた音楽用電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みて、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る音楽用電子機器は、所定の情報を表示する表示部を表面に備えた電子機器本体と、該電子機器本体を楽器などに装着するクリップ部と、前記電子機器本体を前記クリップ部に連結する連結部材とを備える音楽用電子機器において、前記クリップ部の一方の先端に配置される凹型の形状を成す凹型パッド部材と、前記クリップ部の他方の先端に配置される凸型パッド部材を有し、前記クリップ部を閉じた時に、前記凸型パッド部材が前記凹型パッド部材の凹部に収納されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記クリップ部が、平板形状をなす第1板材と、該第1板材の上方に対向配置され、先端側が前記第1板材と平行に延びる挟持板部とされるとともに後端側が前記第1板材から離間する方向に傾斜して延びる逃げ板部とされる第2板材と、前記第1板材と前記第2板材とを相対回動可能に連結して、前記第1板材と前記挟持板部とによって前記楽器を把持可能とするヒンジ部とを有し、前記挟持板部と前記逃げ板部とに囲われた収納スペースに、前記第2板材の先端部上面に前記連結部材によって連結された前記電子機器本体が、該電子機器本体の背面を前記挟持板部及び前記逃げ板部の上面に沿わせるとともに前記表示部を前記挟持板部の上方に向けて収納されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記第2板材の先端に前記凸型パッド部材を配置し、前記第2板材および前記凸型パッド部材は前記第1板材の先端に配置された凹型パッド部材の凹部に収納されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る音楽用電子機器は、前記凹型パッド部材と前記凸型パッド部材は、前記クリップ部の内側を沿う形で配置された保護部材で連結されていることを特徴とする。
さらに、前記凹型パッド部材が楽器などに接触する面が異なる曲率を持つ複数の曲面で構成されていてもよい。
なお、本発明に係る音楽用電子機器は、前記凹型パッド部材の曲面はヒンジ部側の曲率に比べ先端側の曲率が高くなっていてもよい。
または、前記凹型パッド部材が楽器などに接触する面に滑り止め加工を施されていてもよい。
【0012】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記第2部材に、前記逃げ板部の後端側から傾斜して延びる把持部を有することを特徴とする。
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記把持部は、平板形状に形成され、前記クリップ部を閉じた時に、第1板材と平行であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記第2板材の後端に突起で構成された把持突起部を有することを特徴とする。
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記電子機器本体が、前記クリップ部から分離可能な構造をとることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、上記のように分離可能な場合、前記クリップ部は、前記第2部材の先端に設けられた連結部と、 前記連結部で前記第2部材と連結する平板状をなす第3板材と、前記第3部材の平行な2辺に直線状に設けられた凹型の接続スリットと、を有し、前記電子機器本体は、前記表示部を備えた面と反対の面の両辺に直線状に設けられた前記凹型と同一形状の突起で構成された接続突起部と、を有していることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る音楽用電子機器は、前記第3板材に突起部を設けるとともに、前記電子機器本体に前記突起部と同一形状の前記凹部を設けることを特徴とする。
なお、本発明に係る音楽用電子機器は、前記電子機器本体に、楽器の操作により生じた振動を検知する振動センサが内蔵されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の音楽用電子機器によれば、クリップ部の第2板材上部の収納スペースに電子機器本体を収納し、さらに下パッドの凹型窪み部に上パッドおよびクリップ上部先端部を収納することにより、電子機器本体とクリップ部との一体化を図り、音楽用電子機器自体をコンパクトな構成とすることができる。
【0017】
また、下パッドの楽器接触面が、異なる曲率を持つ複数の曲面や、波型形状などで構成されることで、楽器への把持力を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る調律装置の側面図である。
【図2】調律装置を収納した状態の側面図および斜視図である。
【図3】クリップ部先端の拡大図である。
【図4】第一の実施形態に係る調律装置のクリップ部で、楽器を挟み込んだ場合の側面図である。
【図5】ラバー部の曲率が一定なクリップ部で、厚みの小さい楽器を挟みこんだ場合の側面図である。
【図6】第二の実施形態に係る調律装置の側面図である。
【図7】第二の実施形態に係る調律装置のクリップ部で、厚みの大きい楽器を挟み込んだ場合の側面図である。
【図8】第二の実施形態に係る調律装置のクリップ部で、厚みの小さい楽器を挟み込んだ場合の側面図である。
【図9】第三の実施形態に係る調律装置の側面図である。
【図10】第四の実施形態に係る調律装置の側面図である。
【図11】第四の実施形態に係る調律装置の側面図である。
【図12】第五の実施形態に係る調律装置の側面図である。
【図13】第五の実施形態に係る調律装置本体の側面図および正面図、調律装置本体とクリップ部の連結を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の音楽用電子機器の実施形態としての調律装置について説明する。図1は本発明に係る調律装置の側面図、図2は調律装置を収納した状態の側面図および斜視図である。
【0020】
なお、本発明は、調律装置に限らず、メトロノーム、メトロノーム付調律器、音楽再生用携帯電子機器などの音楽用電子機器に適用することができる。
【0021】
図1に示すように、調律装置(音楽用電子機器)1は、クリップ部10と、調律装置本体(電子機器本体)40と、連結部材50とを有している。
【0022】
クリップ部10は、互いに対をなす第1板材20及び第2板材30の間に配置されて図示しないねじりコイルバネや板バネを備えたヒンジ部36の付勢力によって、例えば管楽器やギター等の楽器を挟持することにより、調律装置1を該楽器に取り付けるものである。
【0023】
図1に示すように、第1板材20は、矩形平板形状をなす第1板材本体21を有しており、該第1板材本体21の長手方向の先端側(図1における右側)には、該第1板材本体21の先端から上方に向かって傾斜して延在する顎板部22が一体に形成されている。この顎板部22の先端部上面にはラバーなどで構成される下パッド(パッド部材)61が接着するなどして設置されている。
【0024】
第2板材30は、上記第1板材20の上方に対向配置され、矩形平板がその中間部において下方に凸となるように屈折した形状をなしている。
【0025】
この屈折部31を境界とした第2板材30の先端側の部分は、上記第1板材20と平行に延びる挟持板部32と、該挟持板部32より横幅が小さく構成された挟持板先端部33とされており、該挟持板先端部33の先端部下面には、ラバーなどで構成される上パッド(パッド部材)62が接着するなどして設置されている。
【0026】
また、屈折部31を境界とした後端側の部分は、屈折部31から後端側に向かうに従って第1板材20から逃げるように傾斜して延びる逃げ板部34とされている。
【0027】
そして、逃げ板部34の先端部下面と第1板材20の上面における逃げ板部34の先端部下面に対向する箇所とが、ヒンジ部36によって連結されている。
【0028】
このヒンジ部36は、第1板材20及び第2板材30の長手方向に直交するとともにこれら第1板材20及び第2板材30の板面に平行な回転軸37を有しており、これによって、第1板材20及と第2板材30とが対向状態を維持しつつ該回転軸37を支点として互いに相対回動するようになっている。
【0029】
このヒンジ部36は、図示しないバネ等の弾性部材によって第1板材20と挟持板部32とを接近させる方向に回動付勢している。これにより、第1板材20と第2板材30の挟持板部32とが近接してクリップ部10が閉じた状態とされ、この際、第2板材30の先端が第1板材20の顎板部22の上面に当接する。なお、この状態においては、挟持板部32の下面と第1板材20の上面との間にクリアランスが形成される。
【0030】
また、第2板材30の逃げ板部34の後端側と第1板材20の後端側とを接近させる方向に外力を加えると、挟持板部32と第1板材先端部上面とが離間し、クリップ部10が開いて、下パッド61と上パッド62によって楽器を把持することが可能な状態となる。
【0031】
一方、クリップ部1の先端部に設置された下パッド61と上パッド62は保護シート63を介し、一体となって接続されている。保護シート63はクリップ部10で楽器を把持したときに、楽器がクリップ部10と接触して傷つけられたり、楽器をクリップ部10に入れる量が多すぎるなど適切な挟み方を行えなくなったりする問題を防ぐ役割を果たす。
【0032】
図3はクリップ部1を開口した状態の、先端部の拡大図である。下パッド61は、楽器接触面61aが曲面となっており、楽器をはさんだ際に挟み込んだ対象に合わせて変形し、把持力を高める構造になっている。また、下パッド61の中央部61bは凹型の窪みを形成しており、図2に示すようにクリップ部1を閉じた状態で上パッド62および挟持板先端部33が凹部に収納される構造となっている。このため、クリップ部1が閉じた状態では、下パッド61と上パッド62の厚みに影響されることなく第2板材30の挟持板部32と第1板材20とが平行状態に維持される。
【0033】
このようなクリップ部10の第2板材30の上方には、挟持板部32の上面と逃げ板部34の上面とに囲われた空間が形成され、該空間が調律装置1の調律装置本体40の収納スペースとされている。
【0034】
調律装置本体40は、図1及び図2に示すように概略船形状をなし樹脂製からなる筐体41を備えており、該筐体41における平坦状の表面全域には、調律器として機能する際の情報が表示される表示部42が設けられている。この表示部42としては、例えばメーター、複数のLED、LCD表示器などが使用される。
【0035】
上記筐体41の内部には、電気回路や電池とともに振動センサ(図示省略)が内蔵されている。楽器の演奏時には空気を伝搬する振動が該振動センサによって検知され、この検知に基づく電気信号が増幅回路により所望のレベルの電気信号に増幅されてピッチ抽出手段に入力される。このピッチ抽出手段は、例えば「入力された信号の中で最も周期が長い基本波成分の周期を計測する」というような命令が記憶されているメモリとマイクロコンピュータで実現される。
【0036】
続いて、このピッチ抽出手段において計測されたピッチと予め設定されている基準ピッチがピッチ誤差検出手段に入力される。このピッチ誤差検出手段は「入力された周波数の差を計算する」という命令が記憶されているメモリとマイクロコンピュータによって実現される。
【0037】
そして、このピッチ誤差検出手段において計算された周波数偏差の値に応じて、表示部42に結果が表示される。
【0038】
また、上記筐体41は、表示部42の反対側に位置し該表示部42と平行をなす主背面43と、該主背面43の長手方向両端側から広がるようにそれぞれ前面側に傾斜して延びる一対の傾斜背面44a、44bとを有している。
【0039】
この傾斜背面44a、44bのうち、一方の傾斜背面44aと主背面43とのなす角度は、上記第2板材30の挟持板部32と逃げ板部34とのなす角度と同一に形成されている。
【0040】
そして、本実施形態においては、上記構成の調律装置本体40が、表示部42を上方に向けるとともに、主背面43を第2板材30の挟持板部32上に沿わせ、さらに、一方の傾斜背面44aを第2板材30の逃げ板部34に沿わせた収納状態で、第2板材30上に配置される。
【0041】
そして収納状態において、第2板材30の挟持板部32の先端部上面と、調律装置本体40の筐体41の他方の傾斜背面44bとが連結部材50によって連結支持されている。なお、調律装置本体40が収納状態とされている場合には、第2板材30上面と調律装置本体40背面との間には僅かなクリアランスが設けられている。
【0042】
該連結部材50は、第2板材30及び調律装置本体40の長手方向に直交するとともにこれら第2板材30の上面及び調律装置本体40の表示部42に平行な回転軸51を有している。この回転軸51を支点として第2板材30と調律装置本体40とが相対回動可能に構成されている。これによって、調律装置本体40は、図2に示すようにその背面が第2板材30の上面に沿って配置される収納状態と、図1に示すように表示部42が第1板材20及び第2板材30の先端側、即ち、クリップ部10の先端側を向く立ち上がり状態との間で回動可能とされている。
【0043】
以上のような構成の調律装置1は、未使用時においては通常調律装置本体40が収納状態とされており、使用する際にはクリップ部10の第1板材20と挟持板部32とによって楽器を挟み込み、調律装置本体40を立ち上がり状態へと回動させる。
【0044】
その後、楽器が演奏されると、その振動が調律装置本体40に内蔵された振動センサによって検知され、表示部42に情報が表示される。
【0045】
本実施形態に係る調律装置1によれば、クリップ部10の第2板材30の上方に挟持板部32と逃げ板部34とに囲われた収納スペースが形成され、該収納スペースに挟持板部32及び逃げ板部34の上面に調律装置本体40が背面を沿わせた状態で収納される。さらに、第1板材20に設置した下パッド61の中央部61bの凹型窪み部に、第2板材30先端側の挟持板先端部33、および挟持板先端部33に設置した上パッド62が収納される。これにより、調律装置本体40と第2板材30、および第1板材20と第2板材30と間に生じる無駄なスペースを最小限に抑えることができるため、クリップ部10と調律装置本体40との一体感を高め、調律装置1自体をコンパクトな構成とすることが可能となる。
【0046】
また、クリップ部10の第1板材の顎板部22先端部上面に設置された上パッド61および第2板材30における挟持板先端部33の下面に設けられた上パッド62、さらに保護シート63によって、楽器を把持した際に、クリップ部10によって楽器に傷が付けられるのを回避できるとともに、クリップ部1が把持した対象からずれてしまうのを防止することができる。
【0047】
以上、本発明の音楽用電子機器の実施の形態である調律装置1について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。例えば、調律装置本体40に代えて、メトロノーム等の他の電子機器本体を備えたものであってもよい。
【0048】
ところで、調律装置1のクリップ部10では状況に応じて様々な厚さの楽器を挟むことがある。図4は図1の調律装置で厚みのある楽器を挟み込んだ場合の側面図、図5は図1の調律装置で厚みの小さい楽器を挟み込んだ場合の側面図である。
【0049】
この下パッドの楽器接触面61aは一様になだらかな曲面で構成されており、図4のように厚みのある楽器を挟み込んだ場合は、上パッド62が楽器上面72を押圧する位置と、下パッド61が楽器下面71を押圧する位置について、楽器端面73からの距離が上下ともほぼ同じとなり、上パッド62・下パッド61ともに楽器70を面で確実に押圧しつづけるため、楽器が安定して把持される。しかし、厚みの小さい楽器を挟み込んだ場合は、図5の(a)のように上パッド62が楽器上面92を押圧する位置と、下パッド61が楽器下面91を押圧する位置について、挟み方によっては楽器端面93からの距離が上下で離れる場合がある。このときは図5の(b)のように調律装置1が上パッド62と下パッド61の押圧する力の位置のずれによって傾いてしまい、上パッド62・下パッド61が楽器70を押圧する位置が面ではなく線となる場合がある。このため、調律装置1の楽器70への把持力が弱くなり、調律装置1が楽器70から外れやすくなってしまう。また、この調律装置1では楽器70の振動が上パッド62や下パッド61を介して調律装置本体40内の振動センサに伝播するが、把持力が弱くなることで調律装置本体40に伝播するまでに減衰し、振動センサが振動を検知しにくくなることで調律装置としての性能が落ちることがある。
【0050】
そこで、下パッドの形状を工夫することで、調律装置1がどのような厚さの楽器に取り付けた場合にもクリップ部10が安定して楽器を把持することが可能となる。図6は下パッドの楽器接触面を、曲率の違う2つの曲面で構成した調律装置の実施例に係る側面図である。下パッド80は図3の下パッド61の中央部61bと同様に、中央部に図示しない凹型窪みを形成しており、クリップ部を閉じた状態で上パッド62および挟持板先端部が凹部に収納される構造となっている。また、下パッド80の楽器接触面は曲率の小さい接触部80aと曲率の大きい接触部80bで構成されている。
【0051】
図7は図6の調律装置で厚みのある楽器を挟み込んだ場合の側面図、図8は図6の調律装置で厚みの小さい楽器を挟み込んだ場合の側面図である。厚みのある楽器に対しては、図7のように下パッド80は楽器下面71に対し曲率の小さい接触部80aで押圧することとなる。この押圧する位置は、上パッド62が楽器上面92を押圧する位置と、楽器端面73からの距離がほぼ同じとなり、図4と同様に上パッド62・下パッド61ともに楽器70を面で確実に押圧しつづけるため、楽器が安定して把持される。一方、厚みの小さい楽器を挟みつけた場合は、図8のように下パッド80は楽器下面91に対し曲率の大きい接触部80bで押圧することとなる。この下パッド80が押圧する位置は、図5のようになだらかな曲面で構成された下パッドの押圧する場合の位置と比べ、より楽器端面93側に寄る。その結果、上パッド62が楽器上面92を押圧する位置と、楽器端面73からの距離が近づくこととなり、楽器90に対して上下方向に押圧する力のずれが小さくなって調律装置1が傾くのを防ぐことができる。なお、この実施例では異なる2つの曲率を持つ曲面の構成を提示したが、複数の曲率をもつ曲面を組み合わせることでより多くの厚さの楽器に対応することもできる。
【0052】
これによって、挟む楽器の厚みに関わらず、上パッド・下パッドで楽器を面で確実に押圧しつづけることができるため、楽器に対する把持力を増すと共に、振動を確実に調律装置本体に伝播させることができる。
【0053】
また、下パッドの楽器接触面の形状を、滑り止め加工を施した構造にしてもよい。図9は下パッドに滑り止めの加工を施した調律装置の側面図である。下パッド81の楽器接触面81aはのこぎり波状に形成されている。これにより楽器を挟んだ状態での下パッドの静摩擦力を高め、楽器取り付け時のクリップ部のずれをより少なくすることが可能である。なお、滑り止め加工は形状に限らず、下パッドの材質をより摩擦係数の高いものに変えてもよい。
【0054】
これによって、挟む楽器の厚みに関わらず、上パッド・下パッドで楽器を安定して押圧しつづけることができるため、楽器に対する把持力を増すと共に、振動を確実に調律装置本体40に伝播させることができる。
【0055】
また、クリップ部10の持ち手部分をより持ちやすくするため、長さを長くしても良い。図10はクリップ部10の第1板材20および第2板材30において、持ち手部分を長くした実施例を示す図である。図10において、第2板材30の逃げ板部34の後端側から傾斜して延びる把持部38を設けている。これにより、クリップ部の開閉に用いる力を軽減すると共に、楽器に取り付けた際にクリップ部を適切な位置で把持するための調整を行いやすくすることができる。また、把持部38を設けた場合、第1板材20と第2板材30の狭持板部32とが近接してクリップ部10が閉じた状態のときに、第1部材20の後端が把持部38の後端と同じ位置まで延びていてもよい。また、クリップ部10が閉じた状態のとき、把持部38が、平板形状を形成され、第1部材20と平行に設けられてもよい。これにより、クリップ部10をより把持しやすくすることができる。
【0056】
さらに、図11は、第1板材20の把持部38上に把持突起部39を設けた図である。図11(a)は本実施例における調律装置の側面図であり、図11(b)は、その斜視図である。図11において、把持突起部39は、把持部38の後端、すなわち第2板材の後端上に設けられている。また、把持突起部39は、曲面で構成されている。このように把持突起部39をつけることにより、指の腹で容易にクリップを掴んで開閉することができる。また、滑り止めとしても有効であるため、より確実に開閉することが可能である。なお、把持突起部39は、把持部38を設けられていない場合、逃げ板部、すなわち第2板材の後端上に設けることもできる。また、把持突起部39は、把持部38の後端全体でなく、一部に設けられていてもよい。この場合、把持突起部39が設けられている部分を掴んで開閉させれば、同様の効果が得られる。また、把突起部39は曲面以外にも平面などの形状で構成されていてもよい。
【0057】
図12は、調律装置本体とクリップ部が連結部において着脱可能な構造になっている調律装置の実施例を示し、図13は図12の調律装置における調律装置本体およびクリップ部の構造を示す図である。この実施例では、第2板材30と調律装置本体40との接続について、図12に示す第3板材100を介して行う。第2板材30と第3板材100とは第2板材30の先端側に設けられた連結部101で連結されており、第3板材100は連結部101を回転軸として回転し、クリップ部10から起き上がることが可能である。これにより、第3板材100は、図12に示すようにその背面が、第2板材30の上面に沿って配置される収納状態と、図13(b)に示すように背面と反対の面が第1板材20及び第2板材30の先端側、即ちクリップ部10の先端側を向く立ち上がり状態との間で回動可能になっている。また、第3板材100は平板形状に形成され、第3板材100には調律装置をスライドさせて第3板材100に接続するための接続スリット101aが第3部材100のクリップ部10の先端側から第2部材30の後端側に向かう方向の両辺に直線状に備わっている。一方、調律装置本体40には、表示部を設けた面と反対の面の平行な2辺に第3板材100の接続スリット101aに接続するための接続突起部45が直線状に備わっている。すなわち、接続スリット101aは接続突起部45と同一形状の凹型に構成され、接続突起部45の突起部の突起と嵌合させ、接続突起部45により調律装置本体40を第3板材100に対して平行移動させることができる。第3板材100をクリップ10から起こした状態で、調律装置本体40を第3板材100の接続スリット101aの方向に、すなわちクリップ部10の先端側に向かってスライドさせて接続したり、逆方向にスライドさせて調律装置本体40とクリップ部10を分離させたりことができる。さらに、調律装置本体40は逆向きに、すなわち調律装置本体40の向きを反転させた状態で、スライドさせて第3板材100に接続することもできる。これにより、楽器に調律装置を取り付けた状態で調律装置本体40を逆向きに取り付けて表示方向を反転させることが可能である。また、第3部材100または接続スリット101aの一部に突起部を設けるとともに、調律装置本体40において、調律装置本体40を第3板材100の先端までスライドさせた状態で、突起部に対応する位置に突起部と同一形状の凹部を設けてもよい。これにより、より確実に調律装置本体40をクリップ部10に固定することができる。また、第3板材100または接続スリット101a、および調律装置本体40のうち一方に、複数の突起部または凹部を設けることができる。これにより、調律装置本体40を第3板材100にスライドさせて段階的に固定させることができ、演奏者の調律しやすい位置に調律装置本体40を固定することができる。また、調律装置本体40をクリップ部10から取り外して調律装置本体40のみで調律することが可能となる。また、接続スリット101aを第3板材100においてクリップ部先端側の辺と、第2板材の30の後端側、すなわち第3板材100の後端側の辺との両辺に直線状に形成することもできる。この場合、調律装置本体40に形成される接続突起部45は、接続スリット101aと対応する両辺に設けられる。すなわち接続スリット101aおよび第3板材の平行な2辺にそれぞれスリットおよび接続突起部45を設ける。この場合においても、調律装置本体とクリップ部が分離可能な構造において、調律装置本体40を固定することができる。また、本実施例では、第3板材100側に突起部、調律装置本体40側に凹部を設けたが、第3板材100側に凹部、調律装置本体40側に突起部を設けてもよい。なお、突起及び凹部を第3板材100及び調律装置本体40の中央部に設けた場合、調律装置本体40を反転させて第3板材100に接続しても、調律装置本体40を第3板材100に対して同じ位置で固定することができる。また、突起部の代わりに第3板材100の表面に滑り止めを設けて、調律装置本体40を固定してもよい。この場合、凹部は設けなくてよい。
【0058】
なお、以上の実施例は、調律装置で説明したが、メトロノーム、メトロノーム付調律器などの音楽用電子機器に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 調律装置(音楽用電子機器)
10 クリップ部
20 第1板材
22 顎板部
30 第2板材
31 屈折部
32 挟持板部
33 挟持板先端部
34 逃げ板部
36 ヒンジ部
37 回転軸
38 把持部
39 把持突起部
40 調律装置本体
42 表示部
43 主背面
44a 傾斜背面
44b 傾斜背面
45 接続突起部
50 連結部材
51 回転軸
61 下パッド(パッド部材)
61a 楽器接触面
61b 下パッド中央部
62 上パッド(パッド部材)
63 保護シート
70、90 楽器
71、91 楽器下部
72、92 楽器上部
73、93 楽器端面
80、81 下パッド(パッド部材)
80a 接触部
80b 接触部
100 第3板材
101 連結部
101a 接続スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の情報を表示する表示部を表面に備えた電子機器本体と、該電子機器本体を楽器などに装着するクリップ部と、前記電子機器本体を前記クリップ部に連結する連結部材とを備える音楽用電子機器において、
前記クリップ部の一方の先端に配置される凹型の形状を成す凹型パッド部材と、
前記クリップ部の他方の先端に配置される凸型パッド部材を有し、
前記クリップ部を閉じた時に、前記凸型パッド部材が前記凹型パッド部材の凹部に収納されることを特徴とする音楽用電子機器。
【請求項2】
前記クリップ部が、
平板形状をなす第1板材と、
該第1板材の上方に対向配置され、先端側が前記第1板材と平行に延びる挟持板部とされるとともに後端側が前記第1板材から離間する方向に傾斜して延びる逃げ板部とされる第2板材と、
前記第1板材と前記第2板材とを相対回動可能に連結して、前記第1板材と前記挟持板部とによって前記楽器を把持可能とするヒンジ部とを有し、
前記挟持板部と前記逃げ板部とに囲われた収納スペースに、前記第2板材の先端部上面に前記連結部材によって連結された前記電子機器本体が、該電子機器本体の背面を前記挟持板部及び前記逃げ板部の上面に沿わせるとともに前記表示部を前記挟持板部の上方に向けて収納されることを特徴とする請求項1に記載の音楽用電子機器。
【請求項3】
前記第2板材の先端に前記凸型パッド部材を配置し、前記第2板材および前記凸型パッド部材は前記第1板材の先端に配置された前記凹型パッド部材の凹部に収納されることを特徴とする請求項2に記載の音楽用電子機器。
【請求項4】
前記凹型パッド部材と前記凸型パッド部材は、前記クリップ部の内側を沿う形で配置された保護部材で連結されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項5】
前記凹型パッド部材が楽器などに接触する面が異なる曲率を持つ複数の曲面で構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項6】
前記凹型パッド部材の曲面は前記ヒンジ部側の曲率に比べ先端側の曲率が高くなっていることを特徴とする請求項5に記載の音楽用電子機器。
【請求項7】
前記凹型パッド部材が楽器などに接触する面に滑り止め加工を施したことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項8】
前記第2部材に、前記逃げ板部の後端側から傾斜して延びる把持部を有することを特徴とする請求項2から7のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項9】
前記把持部は、平板形状に形成され、前記クリップ部を閉じた時に、第1板材と平行であることを特徴とする請求項8に記載の音楽用電子機器。
【請求項10】
前記第2板材の後端に突起で構成された把持突起部を有することを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項11】
前記電子機器本体が、前記クリップ部から着脱可能な構造を有することを特徴とする請求項2から10のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。
【請求項12】
前記クリップ部は、
前記第2部材の先端に設けられた連結部と、
前記連結部で前記第2部材と連結する平板状をなす第3板材と、
前記第3部材の平行な2辺に直線状に設けられた凹型の接続スリットと、
を有し、
前記電子機器本体は、
前記表示部を備えた面と反対の面の両辺に直線状に設けられた前記凹型と同一形状の突起で構成された接続突起部と、を有することを特徴とする請求項11に記載の音楽用電子機器。
【請求項13】
前記第3板材に突起部を設けるとともに、前記電子機器本体に前記突起部と同一形状の前記凹部を設けることを特徴とする請求項12に記載の音楽用電子機器。
【請求項14】
前記音楽用電子機器本体に、楽器の操作により生じた振動を検知する振動センサが内蔵されていることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の音楽用電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−53649(P2011−53649A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130484(P2010−130484)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】