説明

音響信号送出装置、音響信号送出方法、およびプログラム

【課題】同じ音源から発せられる音に対し、ある地点に対しては音圧を抑制せず、他の地点に対しては音圧を抑制すること。
【解決手段】予め所定の音響信号を生成するためのデータが記憶される音響信号記憶部10と、音響信号記憶部10に記憶されているデータから生成されてスピーカ12から送出される所定の音響信号の位相とスピーカ16から送出される所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整部13と、スピーカ12とスピーカ16との間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、スピーカ16から送出される所定の音響信号の送出時刻をスピーカ12から送出される所定の音響信号の送出時刻よりも遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整部14と、を有する音響信号送出装置1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号送出装置、音響信号送出方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
騒音を低減させるために、騒音とは位相が逆の音波を送出し、騒音を相殺して低減させる技術が知られている(たとえば特許文献1参照)。この技術では、騒音となっている音波をマイクロフォンで収集し、収集した音波の位相を解析して収集した音波とは位相が逆になる音波が生成される。そして、生成された音波が騒音に重畳させるように送出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−349979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術は、誰にとっても無用である騒音を低減させるためのものである。その一方で、同じ音でありながら、ある地点にいる者にとっては有用であるが他の地点にいる者にとっては無用であるといった音もある。上述した技術は、同じ音源から発せられる音に対し、ある地点に対しては音圧を抑制せず、他の地点に対しては音圧を抑制するといったことはできない。
【0005】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、同じ音源から発せられる音に対し、ある地点に対しては音圧を抑制せず、他の地点に対しては音圧を抑制することができる音響信号送出装置、音響信号送出方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつの観点は、音響信号送出装置としての観点である。本発明の音響信号送出装置は、予め所定の音響信号を生成するためのデータが記憶される音響信号記憶手段と、音響信号記憶手段に記憶されているデータから生成された所定の音響信号を所定の方向に向けて送出する第1のスピーカと、所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて所定の音響信号を送出する第2のスピーカと、第1のスピーカから送出される所定の音響信号の位相と第2のスピーカから送出される所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整手段と、第1のスピーカと第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、第2のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻を第1のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻よりも遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整手段と、を有するものである。
【0007】
たとえば、送出時刻調整手段は、第1のスピーカと第2のスピーカとの間の距離を音速によって除算して遅延時間を計算する遅延時間計算手段と、遅延時間計算手段が計算に用いる音速の値を、第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温によって補正する音速補正手段と、を有することができる。
【0008】
あるいは、音速補正手段は、音速を、第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温、気圧、または湿度のいずれか1つまたは複数によって補正するようにしてもよい。
【0009】
本発明の他の観点は、音響信号送出方法としての観点である。本発明の音響信号送出方法は、予め音響信号記憶手段に記憶されている所定の音響信号を生成するためのデータから生成された所定の音響信号を所定の方向に向けて第1のスピーカから送出するステップと、第2のスピーカから所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて所定の音響信号を送出するステップと、送出するステップの処理により第1のスピーカから送出される所定の音響信号の位相と第2のスピーカから送出される所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整ステップと、第1のスピーカと第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、第2のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻を第1のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻よりも遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整ステップと、を有するものである。
【0010】
たとえば、送出時刻調整ステップの処理は、第1のスピーカと第2のスピーカとの間の距離を音速によって除算して遅延時間を計算する遅延時間計算ステップと、遅延時間計算ステップの処理が計算に用いる音速の値を、第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温によって補正する音速補正ステップと、を有することができる。
【0011】
あるいは、音速補正ステップの処理は、音速を、第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温、気圧、または湿度のいずれか1つまたは複数によって補正するステップを有するようにしてもよい。
【0012】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、コンピュータに、予め所定の音響信号を生成するためのデータが記憶される音響信号記憶機能と、音響信号記憶機能に記憶されているデータから生成された所定の音響信号を所定の方向に向けて第1のスピーカから送出させる制御機能と、第2のスピーカから所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて所定の音響信号を送出させる制御機能と、第1のスピーカから送出される所定の音響信号の位相と第2のスピーカから送出される所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整機能と、第1のスピーカと第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、第2のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻を第1のスピーカから送出される所定の音響信号の送出時刻よりも遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整機能と、を実現させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同じ音源から発せられる音に対し、ある地点に対しては音圧を抑制せず、他の地点に対しては音圧を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施の形態の音響信号送出装置のブロック構成図である。
【図2】図1の2つのスピーカから送出される音波の位相の関係を示す図である。
【図3】図1の音響信号送出装置の音圧抑制効果の測定系の一例を示す図である。
【図4】図1の音響信号送出装置の音圧抑制効果の一例を示す図である。
【図5】図1の音響信号送出装置の実際の利用形態を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施の形態の音響信号送出装置のブロック構成図である。
【図7】本発明の第三の実施の形態の音響信号送出装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔概要について〕
本発明の実施の形態の音響信号送出装置1は、2つのスピーカ12(請求項でいう第1のスピーカ),16(請求項でいう第2のスピーカ)を有し、スピーカ12から送出される音響信号の音圧をスピーカ16から送出される音響信号で抑制する。このときに、スピーカ12が音響信号を送出する所定の方向よりもスピーカ16が音響信号を送出する方向の範囲を狭くしておけば、スピーカ12が音響信号を送出する方向のうちの一部の範囲では音圧が抑制され、他の範囲では音圧が抑制されないようにできる。また、スピーカ12から送出される音響信号の位相とスピーカ16から送出される音響信号の位相とが互いに逆位相となってスピーカ12から送出される音響信号の音圧を抑制するが、このときに、スピーカ12とスピーカ16との間の距離を音波が伝わる時間分、スピーカ16から送出される音響信号をスピーカ12から送出される音響信号よりも遅らせるようにする。この遅らせるための遅延時間の計算には、そのときの気温、気圧、または湿度のいずれか1つまたは複数によって補正された音速の値を用いるようにする。
【0016】
〔本発明の第一の実施の形態の音響信号送出装置1について〕
(構成)
音響信号送出装置1は、音響信号記憶部10、増幅部11、スピーカ12、位相調整部(請求項でいう位相調整手段)13、送出時刻調整部(請求項でいう送出時刻調整手段、遅延時間計算手段)14、増幅部15、スピーカ16、および制御部(請求項でいう位相調整手段の一部、送出時刻調整手段の一部、遅延時間計算手段の一部)17により構成される。
【0017】
音響信号記憶部10は、所定の音響信号を生成するためのデータを記憶するメモリMを有する。メモリMは、音響信号送出装置1の電源がOFF状態でも記憶を保持できる不揮発性メモリ、または書き換え不可のROM(Read Only Memory)などである。たとえば、所定の音響信号としては、サイレンなどの警報音、所定の音声メッセージ、所定の音楽などがある。音響信号記憶部10のメモリMには、これらの警報音、音声メッセージ、音楽などのいずれか1つまたは複数の音響信号が記憶されている。また、音響信号記憶部10は、メモリMに記憶されているデータから音響信号を生成し、増幅部11および位相調整部13に出力する。
【0018】
増幅部11は、音響信号記憶部10から出力される音響信号を増幅してスピーカ12に出力する。
【0019】
スピーカ12は、増幅部11から出力される音響信号を音波として空中に送出する。スピーカ12は、無指向性でもよいし、所定の方向に対して指向性を有してもよい。
【0020】
位相調整部13は、音響信号記憶部10から出力される音響信号を入力し、入力した音響信号とは逆位相になる音響信号を生成して送出時刻調整部14に出力する。なお、入力した音響信号とは逆位相となる音響信号を生成する手法としては、どのような手法を採ってもよいが、たとえば2とおりの手法が考えられる。その1つは「音響信号記憶部10から入力した音響信号の位相を解析し、その位相とは逆位相になる音響信号を位相の反転またはシフトなどにより生成して送出時刻調整部14に出力する手法」である。また、他の1つは「音響信号記憶部10のメモリMに記憶されている音響信号とは逆位相となるように位相の反転またはシフトが施された音響信号を位相調整部13が予め記憶しており、音響信号記憶部10からの音響信号の入力を機に、位相調整部13が逆位相の音響信号を送出時刻調整部14に出力する手法」である。
【0021】
送出時刻調整部14は、位相調整部13から出力される音響信号を入力し、その音響信号を増幅部15に出力するタイミングを所定の遅延時間分遅らせるものである。
【0022】
増幅部15は、送出時刻調整部14から出力される音響信号を増幅してスピーカ16に出力する。
【0023】
スピーカ16は、増幅部15から出力される音響信号を音波として空中に送出する。スピーカ16は、所定の方向に対して指向性を有する。
【0024】
制御部17は、音響信号記憶部10、増幅部11、位相調整部13、送出時刻調整部14、および増幅部15の動作を制御する。なお、制御部17と、その制御対象となる音響信号記憶部10、増幅部11、位相調整部13、送出時刻調整部14、および増幅部15とは、本体機能部18を構成する。なお、本体機能部18は、スピーカ12,16の接続端子(不図示)を有し、本体機能部18とスピーカ12,16とが着脱自在になるように構成してもよい。
【0025】
また、本体機能部18は、増幅部11,15で用いる電力増幅用の電子デバイス(電力増幅用トランジスタなど)等を除けば、本体機能部18の主要部は、1つのコンピュータによって実現可能である。本体機能部18の主要部を実現するコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/O(Input/Output)ポートなどを有する。本体機能部18によって実行されるプログラムは、本体機能部18の内部の不揮発性のメモリ(不図示)にあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータである本体機能部18にあらかじめインストールしておくことができる。本体機能部18がプログラムを実行すると、制御部17と、その制御対象となる音響信号記憶部10、増幅部11,15の電力増幅用の電子デバイスの制御機能、位相調整部13、および送出時刻調整部14の各機能とが実現される。
【0026】
(音圧抑制の原理)
次に、音響信号送出装置1において、スピーカ12から送出される音響信号の音圧を、スピーカ16から送出される音響信号によって抑制する原理を図2を参照して説明する。
【0027】
図2の上段には、スピーカ12から送出される音響信号の波形を模式的に示している。図2の下段には、スピーカ16から送出される音響信号の波形を模式的に示している。図2の音響信号は、説明を簡単にするために正弦波を用いている。
【0028】
図2において、スピーカ12とスピーカ16とは、音響信号の進行方向に、所定の距離(「スピーカ間距離」と称する)だけ離れている。ここで、スピーカ12から送出される正弦波の位相と、スピーカ16から送出される正弦波の位相とが互いに逆位相になるようにするためには、スピーカ12から音響信号が送出されてからスピーカ間距離を音波が進む時間分の遅延時間後にスピーカ16から音響信号を送出させる送出時刻の調整が必要になる。そこで、位相調整部13により、スピーカ12から送出される音響信号とは逆位相になる音響信号を生成し、この音響信号のスピーカ16からの送出を送出時刻調整部14により、スピーカ間距離を音波が進む時間分の遅延時間だけ遅らせている。
【0029】
なお、送出時刻調整部14は、上述の遅延時間を、スピーカ間距離を音速によって除算して計算する。すなわち、
遅延時間=スピーカ間距離/音速
である。ここで、音速cは、気温をt℃とするときに、
c=331.5+0.6t(m/s) …(1)
である。音速は、気温によって変動するが、送出時刻調整部14は、気温の情報を取得することができないので、たとえば音響信号送出装置1の使用者が現在の季節に応じた平均気温などから計算される概算的な音速の値を、定期的に送出時刻調整部14に設定するなどして対応する。
【0030】
(音圧抑制の効果)
次に、音響信号送出装置1の音圧抑制の効果の一例について図3および図4を参照して説明する。図3に示す測定系は、音響信号送出装置1の本体機能部18にスピーカ12,16を接続し、スピーカ12の設置位置に対し、スピーカ12から送出される音の進行方向に1.25m離れた位置に、スピーカ16を設置する。さらに、スピーカ16の設置位置に対し、スピーカ16から送出される音の進行方向に2.5m離れた位置に、音圧測定用のマイクロフォン20を設置する。このとき、スピーカ12,16の音響信号の送出部位の高さとマイクロフォン20の音圧測定部位の高さとは同一とする。なお、図3には、説明のために本体機能部18を図示してあるが、本体機能部18は、スピーカ12,16から送出される音響信号を遮ったり反射したりしない位置にある(たとえば床下や天井に埋め込み)ものとし、音圧測定には影響しないものとする。マイクロフォン20で取得した音響信号は、音圧測定装置21に入力されて音圧が解析される。
【0031】
また、図3に示す状態を測定点(1)とし、スピーカ12の設置位置C1を中心とし、この設置位置C1からマイクロフォン20の設置位置C2までの距離を半径rとする円周上で、マイクロフォン20の設置位置C2を時計回り(または反時計回り)に45度ずつ動かした8ヶ所の測定点(1)〜(8)でそれぞれ測定を行う。
【0032】
音圧の測定手順は、測定点(1)〜(8)にマイクロフォン20を移動させた後に、各測定点(1)〜(8)のそれぞれで、
ステップS1:スピーカ12からのみ送出される音響信号の音圧を測定
ステップS2:スピーカ16からのみ送出される音響信号の音圧を測定
ステップS3:スピーカ12,16双方から送出される音響信号の音圧を測定
の手順で測定を行うものである。
【0033】
図4は、図3に示す測定系によって測定された音圧分布を示している。実線30は、スピーカ12から送出される音響信号の音圧分布である。破線31は、スピーカ16から送出される音響信号の音圧分布である。二点鎖線32は、スピーカ12,16双方から送出される音響信号の音圧分布である。点線33は、暗騒音の音圧分布である。なお、暗騒音とは、測定系の周囲に予め存在するバックグラウンドノイズである。
【0034】
スピーカ12から送出される音響信号の音圧分布(実線30)は、スピーカ12が測定点(1)方向に指向性を有するため、測定点(1)のステップS1の測定結果が最も大きな音圧(約80dB)であり、測定点(1)の裏側の測定点(5)のステップS1の測定結果が最も小さな音圧(約60dB)である。
【0035】
スピーカ16から送出される音響信号の音圧分布(破線31)は、スピーカ16が測定点(1)方向に指向性を有するため、測定点(1)のステップS2の測定結果が最も大きな音圧(約80dB)であり、測定点(1)の裏側の測定点(5)のステップS2の測定結果が最も小さな音圧(約70dB)である。
【0036】
スピーカ12,16双方から送出される音響信号の音圧分布(二点鎖線32)は、測定点(1)のステップS3の測定結果が最も小さな音圧(約60dB)であり、測定点(1)の裏側の測定点(5)のステップS3の測定結果が最も大きな音圧(約75dB)である。
【0037】
このように、スピーカ12の音響信号の位相がこの位相とは逆位相であるスピーカ16の音響信号の位相により相殺されているため、スピーカ12または16のいずれか一方による音響信号の音圧分布が最も大きな測定点(1)において、スピーカ12,16双方から送出される音響信号の音圧分布が最も小さな音圧を呈している。これにより、スピーカ12から送出される音響信号の音圧がスピーカ16から送出される音響信号により抑制されていることがわかり、測定点(1)では、約10dB程度の音圧抑制ができたことがわかる。
【0038】
(音響信号送出装置1の実際の利用形態とその効果)
次に、音響信号送出装置1の実際の利用形態とその効果の一例について、図5を参照して説明する。図5は、家屋40、河川敷41、堤防42、および河川敷41に設置された音響信号送出装置1を示している。河川敷41は、上流にあるダム(不図示)が放水を行うと水没する可能性がある。一方、家屋40は、堤防42の内側に建っているので、ダムが放水を行っても水没の可能性は無い。
【0039】
このような状況下において、音響信号送出装置1は、ダムの放水を報知するための警報音を送出するものである。この警報音は、たとえば河川敷41で釣りをしている釣り人にとってはきわめて有用なものであるが、家屋40の住人にとっては無用なものである。したがって、音響信号送出装置1のスピーカ12から送出される警報音の音圧を、家屋40の方向のみ音圧を抑制するようにしたい。
【0040】
ここで、スピーカ12は、家屋40および河川敷41を含む広い方向に対して警報音を送出する。一方、スピーカ16は、家屋40を含む狭い方向に対して警報音を抑制するための音響信号を送出する。これによれば、家屋40を含む狭い方向の範囲のみが音圧抑制範囲になり、その他の範囲では、音圧が抑制されることはない。これにより、警報音が有用な釣り人には、充分な音圧で警報音が到達するが、警報音が無用な家屋40の住人には、抑制された小さな音圧で警報音が到達する。
【0041】
このように、スピーカ12から送出される所定の音響信号の位相とスピーカ16から送出される所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相をシフトさせる位相調整部13と、スピーカ12とスピーカ16との間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、スピーカ16から送出される所定の音響信号の送出時刻をスピーカ12から送出される所定の音響信号の送出時刻よりも遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整部14と、を有することにより、音響信号送出装置1は、同じ音源から発せられる音に対し、ある地点に対しては音圧を抑制せず、他の地点に対しては音圧を抑制することができる。
【0042】
また、特許文献1のように、音圧を抑制したい音を集音するためのマイクロフォン(検知マイク、センサマイクなど)が不要であり、音響信号送出装置1は、装置構成を簡単にすることができると共に、装置コストを安価にすることができる。さらに、音圧抑制の対象となる音が予め定まっているので、音響信号送出装置1は、音圧抑制の対象となる音の逆位相の音を生成する際に、音圧抑制の対象となる音の位相を解析する機能および処理を不要にできる。たとえば音響信号送出装置1は、予め音圧抑制の対象となる音の逆位相の音をメモリ等に記憶させておけばよい。これによっても音響信号送出装置1は、装置構成を簡単にすることができると共に、装置コストを安価にすることができる。
【0043】
〔本発明の第二の実施の形態の音響信号送出装置1Aについて〕
本発明の第二の実施の形態の音響信号送出装置1Aについて、図6を参照しながら説明する。音響信号送出装置1Aの構成は、音響信号送出装置1の構成に温度センサ(請求項でいう音速補正手段の一部)50が追加された構成である。これにより送出時刻調整部(請求項でいう送出時刻調整手段、遅延時間計算手段、音速補正手段の一部)14Aは、現在の気温の情報を取得可能である。上述の遅延時間は、スピーカ間距離を音速によって除算したものである。上述したように、音速cは、気温をt℃とするときに、
c=331.5+0.6t(m/s) …(1)
である。音速は、気温によって変動するので、送出時刻調整部14Aは、温度センサ50から気温の情報を取得し、音速の値を、気温に応じて逐次補正する。
【0044】
このように、送出時刻調整部14Aが計算に用いる音速の値を、スピーカ12,16が設置されている周囲の気温によって補正するので、音響信号送出装置1Aは、気温の変化によらず、効率の良い音圧抑制を実現できる。
【0045】
〔本発明の第三の実施の形態の音響信号送出装置1Bについて〕
本発明の第三の実施の形態の音響信号送出装置1Bについて、図7を参照しながら説明する。音響信号送出装置1Bの構成は、音響信号送出装置1の構成に温度センサ50、気圧センサ(請求項でいう音速補正手段の一部)51、および湿度センサ(請求項でいう音速補正手段の一部)52が追加された構成である。これにより送出時刻調整部(請求項でいう送出時刻調整手段、遅延時間計算手段、音速補正手段の一部)14Bは、現在の気温、気圧、および湿度の情報を取得可能である。上述の遅延時間は、スピーカ間距離を音速によって除算したものである。上述したように、音速cは、気温をt℃とするときに、
c=331.5+0.6t(m/s) …(1)
であるが、その他にも気圧p(N/m2)、空気の密度ρ(kg/m3)、空気の比熱比κとするときに、
c=√(κp/ρ) …(2)
とも表せる。また、音速cは、乾燥空気中の音速をcd、気圧H、水蒸気圧pw、水蒸気の定圧比熱と定積比熱との比γw、乾燥空気の定圧比熱と定積比熱との比γとしたときに、
c=cd/√〔1−(p/H)*((γw/γ)−0.622)〕 …(3)
とも表せる。このように、音速は、気温、気圧、湿度の変化によって変動する。
【0046】
そこで送出時刻調整部14Bは、温度センサ50、気圧センサ51、または湿度センサ52から気温、気圧、および湿度の情報を取得し、音速の値を、気温、気圧、または湿度に応じて逐次補正する。たとえば上記の式(3)を採用すれば、温度センサ50および湿度センサ52により気温および湿度の情報が取得できるので、水蒸気圧pwが計算できる。また、気圧センサ51により気圧Hの情報が取得できる。これにより、温度、気圧、および湿度に応じて音速cを計算できる。
【0047】
このように、送出時刻調整部14Bが計算に用いる音速の値を、スピーカ12,16が設置されている周囲の気温、気圧、および湿度によって補正するので、音響信号送出装置1Bは、気温、気圧、および湿度の変化によらず、効率の良い音圧抑制を実現できる。
【0048】
〔その他の実施の形態〕
第二の実施の形態の音響信号送出装置1Bでは、温度センサ50、気圧センサ51、および湿度センサ52を有したが、これらのセンサのいずれか1つまたは複数を有するようにしてもよい。たとえば、気圧センサ51のみ、湿度センサ52のみ、温度センサ50と気圧センサ51、温度センサ50と湿度センサ52、気圧センサ51と湿度センサ52などの組み合わせを採用してもよい。これによれば、音響信号送出装置1Bが設置されている地域の周辺環境に応じて最適な音速の値の補正を行うことができる。たとえば、砂漠地帯のように、季節が無く、気圧および湿度の変化は小さいが、昼夜の気温の変化が大きな地域であれば、温度センサ50のみを有すればよい。あるいは、日本のように、四季が有り、気温、気圧、湿度のいずれも変化が大きな地域であれば、温度センサ50、気圧センサ51、および湿度センサ52を全て有するようにすればよい。もしくは、これらのセンサ類を一切有さず、季節情報または月日の情報をユーザが手動で設定することで、音速が補正されるようにしてもよい。
【0049】
また、本体機能部18によって実行されるプログラムは、本体機能部18にあらかじめインストールされると説明したが、プログラムが記録されている(プログラムを記憶している)リムーバブルメディアを図示せぬドライブなどに装着し、リムーバブルメディアから読み出したプログラムを本体機能部18の内部の不揮発性のメモリに記憶することにより、または、有線または無線の伝送媒体を介して送信されてきたプログラムを、図示せぬ通信部で受信し、本体機能部18の内部の不揮発性のメモリに記憶することで、コンピュータである制御装置1にインストールすることができる。これによれば、プログラムの更新作業など、プログラムの一部または全部を変更する工程を簡単に行うことができる。
【0050】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0051】
その他にも本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、様々に変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1A、1B…音響信号送出装置、12…スピーカ(第1のスピーカ)、13…位相調整部(位相調整手段)、14…送出時刻調整部(送出時刻調整手段、遅延時間計算手段、音速補正手段)、16…スピーカ(第2のスピーカ)、17…制御部(位相調整手段の一部、送出時刻調整手段の一部、遅延時間計算手段の一部、音速補正手段の一部)、18…本体機能部(コンピュータ)、50…温度センサ(音速補正手段の一部)、51…気圧センサ(音速補正手段の一部)、52…湿度センサ(音速補正手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め所定の音響信号を生成するためのデータが記憶される音響信号記憶手段と、
前記音響信号記憶手段に記憶されている前記データから生成された所定の音響信号を所定の方向に向けて送出する第1のスピーカと、
前記所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて前記所定の音響信号を送出する第2のスピーカと、
前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相と前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整手段と、
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻を前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻よりも前記遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整手段と、
を有する、
ことを特徴とする音響信号送出装置。
【請求項2】
請求項1記載の音響信号送出装置であって、
前記送出時刻調整手段は、
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカとの間の距離を音速によって除算して前記遅延時間を計算する遅延時間計算手段と、
前記遅延時間計算手段が計算に用いる音速の値を、前記第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温によって補正する音速補正手段と、
を有する、
ことを特徴とする音響信号送出装置。
【請求項3】
請求項2記載の音響信号送出装置であって、
前記音速補正手段は、前記音速を、前記第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温、気圧、または湿度のいずれか1つまたは複数によって補正する、
ことを特徴とする音響信号送出装置。
【請求項4】
予め音響信号記憶手段に記憶されている所定の音響信号を生成するためのデータから生成された前記所定の音響信号を所定の方向に向けて第1のスピーカから送出するステップと、
第2のスピーカから前記所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて前記所定の音響信号を送出するステップと、
前記送出するステップの処理により前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相と前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整ステップと、
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻を前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻よりも前記遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整ステップと、
を有する、
ことを特徴とする音響信号送出方法。
【請求項5】
請求項4記載の音響信号送出方法であって、
前記送出時刻調整ステップの処理は、
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカとの間の距離を音速によって除算して前記遅延時間を計算する遅延時間計算ステップと、
前記遅延時間計算ステップの処理が計算に用いる音速の値を、前記第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温によって補正する音速補正ステップと、
を有する、
ことを特徴とする音響信号送出方法。
【請求項6】
請求項5記載の音響信号送出方法であって、
前記音速補正ステップの処理は、前記音速を、前記第1および第2のスピーカが設置されている周囲の気温、気圧、または湿度のいずれか1つまたは複数によって補正するステップを有する、
ことを特徴とする音響信号送出方法。
【請求項7】
コンピュータに、
予め所定の音響信号を生成するためのデータが記憶される音響信号記憶機能と、
前記音響信号記憶機能に記憶されている前記データから生成された所定の音響信号を所定の方向に向けて第1のスピーカから送出させる制御機能と、
第2のスピーカから前記所定の方向に含まれる範囲の方向に向けて前記所定の音響信号を送出させる制御機能と、
前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相と前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の位相とが互いに逆位相になるように位相を反転またはシフトさせる位相調整機能と、
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカとの間の距離を音波が進む時間を遅延時間とし、前記第2のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻を前記第1のスピーカから送出される前記所定の音響信号の送出時刻よりも前記遅延時間分遅らせて送出する送出時刻調整機能と、
を実現させる、
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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