説明

音響特性測定装置

【課題】 一般的な音響管では測定不可能な高域まで音響特性の測定が可能な音響特性測定装置を提供すること。
【解決手段】 測定対象の試験体18を収容した音響管11の一端に音源スピーカ13を設け、上記音源スピーカ13によって上記音響管11内に平面波を励起し、2つの測定用マイクロホン16−1、16−2によって前記音源スピーカ13と前記試験体18との間の2点の長手方向位置間の複素音圧伝達関数測定を行い、この複素音圧伝達関数から音響特性を算出することが可能な音響特性測定装置であって、上記2つの測定用マイクロホン16−1、16−2の設置位置を上記音響管11の周方向にずらして角度を付けて配置することで、上記音響管11の長手方向のマイクロホン間距離ΔM2を近接させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響管を用いて試験体の音響特性を測定する音響特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の音響特性測定装置は、例えば図5に示すように構成されている(特許文献1参照)。図5において、1は定在波を発生させるための音響管で、この音響管1内に測定対象の試験体(吸音材)2が収容されている。音響管1の一端側には音源としてのスピーカ3が設けられており、他端側には剛壁4に接続されたピストン5が設けられている。剛壁4は、試験体2との間に背後空気層6を形成するためのもので、ピストン5を音響管1の長手方向に移動させ、試験体2と剛壁4を規定した距離に調整可能になっている。
【0003】
上記音響管1におけるスピーカ3と試験体2との間には、音響管1内の音圧を測定するための測定用マイクロホン7−1、7−2が設けられている。これらの測定用マイクロホン7−1、7−2は、音響管1の長手方向に離れた2カ所に設置されており、それぞれの位置での音圧の測定を行う。
【0004】
そして、上記スピーカ3から定常のランダム音波、例えばホワイトノイズ(入射波)を発生させ、音響管1内を平面波として伝搬させて試験体2に当てる。入射波は試験体2を透過して剛壁4で反射し、音響管1内部に入射波(前進波)と反射波(後進波)の重ね合わせによって定在波干渉パターンが発生する。上記測定用マイクロホン7−1、7−2で音響管1の2点の音圧を計測し、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザに入力して複素音圧伝達関数を計算する。この伝達関数から2点マイク法による音響インピーダンスの式を用いて、試験体2前面の音響インピーダンスを求める。また、試験体2後面の音響インピーダンスは解析的に算出できる。これらにより、試験体2の特性インピーダンスと伝播定数を算出する。
【0005】
一般的に、上記音響管1の内径φ1は29mm〜100mm程度であり、音源には管径と必要出力から直径が80mm〜100mm程度の動電型のスピーカ3を使用している。また、音響管1の内径φ1が100mmの場合、安定した平面波を得るためには、音源であるスピーカ3から試験体2までの距離が300mm程度は必要となるので、音響管1の全長L1としては500mm以上となることがある。
【0006】
上記構成でなる音響特性測定装置の測定可能な上限周波数は、音響管1の内径φ1とマイクロホン間距離ΔM1の関係に依存する。音響管1の内径φ1が太いと径方向に波ができ、平面波が崩れて高い周波数まで計測できず、マイクロホン間距離ΔM1が大きいとやはり高い周波数まで測定できない。例えば、音響管1の内径φ1が100mmでは約2KHzまで、内径φ1が29mmで約6.8KHzまでである。また、マイクロホン間距離ΔM1が30mmで約5.1KHzまで測定できる。このため、上述した一般的な従来の音響管1では、10KHzを超えるような高域までの音響特性測定は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−233649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、人間の可聴範囲の上限は20KHz程度の高域まであるため、10KHzを超える高い周波数の音響特性の測定が要求されることがある。この場合には、音響管1の内径φ1を14mm以下にするとともに、マイクロホン間距離ΔM1を13mm以下にまで狭くする必要がある。しかしながら、例えば音響測定用に広く用いられているブリュエル・ケアー(B&K)社製の1/4インチマイクロホンをこのような至近距離で配置するのは困難である。
【0009】
本発明は、上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、一般的な音響管では測定不可能な高域まで音響特性の測定が可能な音響特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明の音響特性測定装置は、測定対象の試験体18を収容した音響管11の一端に音源スピーカ13を設け、前記音源スピーカ13によって前記音響管11内に平面波を励起し、2つの測定用マイクロホン16−1、16−2によって前記音源スピーカ13と前記試験体18との間の2点の長手方向位置間の複素音圧伝達関数測定を行い、この複素音圧伝達関数から音響特性を算出することが可能な音響特性測定装置であって、前記2つの測定用マイクロホン16−1、16−2の設置位置を前記音響管11の周方向にずらして角度を付けて配置することで、前記音響管11の長手方向のマイクロホン間距離ΔM2を近接させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る本発明は、請求項1記載の音響特性測定装置において、前記音源スピーカ13は、コンデンサマイクロホンであることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に係る本発明は、請求項1または2記載の音響特性測定装置において、前記音響管11の好ましい内径φ2は14mmから5mmの範囲、前記音響管11の好ましい長手方向のマイクロホン間距離ΔM2は13mmから3mmの範囲であることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項4に係る本発明は、請求項1または3記載の音響特性測定装置において、前記音響管11は、透明な材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の本発明では、音源スピーカから試験体までの距離を近づけることができるので高い周波数まで測定が可能になり、かつ低出力の音源スピーカでも測定に必要な音圧が得られる。これにより一般的な音響管では測定不可能な高域まで安定した計測ができ、かつ超小型の音響特性測定装置が実現できる。
【0015】
また、請求項2記載のように、コンデンサマイクロホンを音源スピーカとして用いることで、音響特性測定装置の小型化が図れる。
【0016】
さらに、請求項3記載の本発明では、音響管が細いので径方向に波の分布が出なくなり、入力波が理想的な平面波に近くなるので高い周波数まで高精度に測定できる。また、マイクロホン間距離が狭いのでこの点からも高い周波数の測定が容易になる。
【0017】
さらにまた、請求項4記載の本発明のように、音響管を透明な材料で形成することで、試験体のセット後に試験体の状態(変形や位置等)や、マイクロホンの位置が正しい状態にあるのか容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る音響特性測定装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る音響特性測定装置の一部を切り欠いて内部構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係る音響特性測定装置の外観を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例に係る音響特性測定装置の外観を示す上面図である。
【図5】従来の音響特性測定装置の断面図である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明の実施例に係る音響特性測定装置を示す断面図、図2は音響特性測定装置の一部を切り欠いて内部構造を示す斜視図である。また、図3は上記図1および図2に示した音響特性測定装置の外観を示す斜視図、図4はその上面図である。図1および図2に示す如く、この音響特性測定装置は、定在波を発生させるための音響管11の一端側に、アダプタ12により音源スピーカ13が保持されて設置されている。
【0021】
本例では、音響管11を透明なアクリル製パイプで形成しており、内径φ2を14mm、全長L2を約150mmにしている。音響管11を透明な材料で形成することで、試験体のセット後に試験体の状態(変形や位置等)や、マイクロホンの位置が正しい状態にあるのか容易に確認できる。また、上記音源スピーカ13は音響管11内に平面波を励起するもので、例えば1/4インチサイズのコンデンサマイクロホン(例:G.R.A.S社のType40BP)が用いられる。
【0022】
上記音響管11における音源スピーカ13と測定対象の試験体(吸音材)18との間の側面には、図3および図4に示すようにマイクロホンホルダ15−1、15−2に装着された測定用マイクロホン16−1、16−2が、音響管11の中心軸AXに実質的に直交する方向にV字型に設置されている。そして、2つの測定用マイクロホン16−1、16−2によって2点の長手方向位置間の複素音圧伝達関数測定を行い、この伝達関数から音響特性を算出することが可能になっている。
【0023】
このように、測定用マイクロホン16−1、16−2の設置位置を、音響管11の周方向にずらして角度を付けて配置することで、マイクロホンホルダ15−1、15−2や測定用マイクロホン16−1、16−2を干渉させることなく接近して設置することができる。これによって、音響測定用に広く用いられているブリュエル・ケアー(B&K)社製の1/4インチマイクロホンを用いても、音響管11の長手方向のマイクロホン間距離ΔM2を狭小化でき、本例ではマイクロホン間距離ΔM2を13mmにしている。この場合、測定用マイクロホン16−2から試験体18までの距離は14mm程度、音源スピーカ13から測定用マイクロホン16−2までの距離は60mm程度になる。
【0024】
上記音響管11の両側面には、留め具17−1、17−2が設けられており、音響管11から試験体18を出し入れする際に、音響管11を試験体18の収容部(サンプルホルダ)近傍で分離可能に構成されている。
【0025】
図1および図2に示したように、上記音響管11における音源スピーカ13近傍の内面11aは、音源スピーカ13からの平面波を伝えるために滑らかに径を変化させた、例えばエクスポーネンシャルカーブになっている。また、試験体18の背面には背後空気層19を形成するための中空円筒状のスペーサリング20が設けられ、このスペーサリング20の背後に剛壁として働くスペーサ21−1、21−2が設けられている。上記スペーサリング20とスペーサ21−1、21−2には種々の幅が用意されており、スペーサリング20とスペーサ21−1、21−2をそれぞれ入れ換えたり、増減したりすることで上記試験体18から剛壁(スペーサ21−1)までの距離を調整可能になっている。
【0026】
上記のような構成において、音源スピーカ13から定常のランダム音波、例えばホワイトノイズを発生させ、音響管11内を平面波として伝搬させて試験体18に当てると、入射波は試験体18を透過して剛壁21−1で反射し、音響管11内部に入射波と反射波の重ね合わせによって定在波干渉パターンが生ずる。
【0027】
そして、上記測定用マイクロホン16−1、16−2で音響管11の2点の音圧を計測し、例えばFFT(Fast Fourier Transform)アナライザに入力して複素音圧伝達関数を計算する。この伝達関数から周知の2点マイク法による音響インピーダンスの式を用いて、試験体18前面の音響インピーダンスを求める。また、試験体18後面の音響インピーダンスは解析的に算出できる。これらにより、試験体18の特性インピーダンスと伝播定数を算出する。
【0028】
上記のような構成によれば、音源スピーカ13としてコンデンサマイクロホンを用い、音響管11の内径φ2を細くしたうえで、マイクロホン間距離ΔM2を狭小化したので、一般的な音響管では測定不可能な高域まで音響特性の測定が可能となる。
【0029】
また、音響管11の内径φ2を細くすることで、径方向に波の分布が出なくなり、綺麗な平面波に近づくので、波長が短い高い周波数まで安定した計測が可能になる。しかも、音源スピーカ13から試験体18までの距離を近づけることができるので、低出力の音源でも測定に必要な音圧が得られる。これらにより一般的な音響管では測定不可能な10KHzを超える高域まで安定した計測ができ、かつ超小型の音響特性測定装置を実現できる。上述した例では、音響管11の内径φ2を14mm、音響管11の長手方向のマイクロホン間距離ΔM2を13mmとしているので、測定可能な周波数は約12KHzとなる。
【0030】
なお、上記実施例では音源スピーカ13として1/4インチサイズのコンデンサマイクロホンを用いる場合を例に取って説明したが、1/2インチサイズのコンデンサマイクロホンを用いることもでき、ヘッドホン用等の他の小型スピーカを利用しても良い。
【0031】
また、測定用マイクロホン16−1、16−2をV字型に配置する例を示したが、2つの測定用マイクロホン16−1、16−2の設置位置を音響管11の周方向にずらして角度を付けて配置することで、測定用マイクロホンとマイクロホンホルダが互いに干渉しない角度であれば自由に設定できる。
【0032】
さらに、音響管11の内径φ2が14mm、長手方向のマイクロホン間距離が13mmで、周波数が12KHz程度まで測定する装置を例に取って説明したが、音響管11の内径φ2を10mm、長手方向のマイクロホン間距離を7.6mmにすることで、人間の可聴範囲の上限である20KHz程度の周波数まで測定可能である。本発明の作用効果が得られる好ましい音響管11の内径φ2は14mmから5mm程度、好ましいマイクロホン間距離ΔM2は13mmから3mm程度である。音響管11の内径φ2が5mm以下になると管の抵抗が大きくなってしまい、マイクロホン間距離ΔM2が3mm以下になると音圧差が小さく測定が困難になる。
【0033】
さらにまた、試験体18の背後に背後空気層19を形成するために、スペーサリング20とスペーサ21−1、21−2を用いる場合を例に取って説明したが、ピストンと剛壁で背後空気層を生成しても良いのはもちろんである。
【0034】
以上実施例を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施例には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば実施例に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも1つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0035】
1 音響管
2 試験体
3 スピーカ
4 剛壁
5 ピストン
6 背後空気層
7−1、7−2 測定用マイクロホン
11 音響管
12 アダプタ
13 音源スピーカ
15−1、15−2 マイクロホンホルダ
16−1、16−2 測定用マイクロホン
17−1、17−2 留め具
18 試験体
19 背後空気層
20 スペーサリング
21−1、21−2 スペーサ
ΔM1、ΔM2 マイクロホン間距離
φ1、φ2 音響管の内径
L1、L2 音響管の全長
AX 音響管の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の試験体(18)を収容した音響管(11)の一端に音源スピーカ(13)を設け、前記音源スピーカ(13)によって前記音響管(11)内に平面波を励起し、2つの測定用マイクロホン(16−1、16−2)によって前記音源スピーカ(13)と前記試験体(18)との間の2点の長手方向位置間の複素音圧伝達関数測定を行い、この複素音圧伝達関数から音響特性を算出することが可能な音響特性測定装置であって、
前記2つの測定用マイクロホン(16−1、16−2)の設置位置を前記音響管(11)の周方向にずらして角度を付けて配置することで、前記音響管(11)の長手方向のマイクロホン間距離(ΔM2)を近接させることを特徴とする音響特性測定装置。
【請求項2】
前記音源スピーカ(13)は、コンデンサマイクロホンであることを特徴とする請求項1記載の音響特性測定装置。
【請求項3】
前記音響管(11)の好ましい内径(φ2)は14mmから5mmの範囲、前記音響管(11)の好ましい長手方向のマイクロホン間距離(ΔM2)は13mmから3mmの範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の音響特性測定装置。
【請求項4】
前記音響管(11)は、透明な材料からなることを特徴とする請求項1または3記載の音響特性測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−202804(P2012−202804A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67277(P2011−67277)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】