説明

音響装置

【課題】音響信号の音量を適正に補正することによってユーザに対する違和感を軽減すること。
【解決手段】所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置は、入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録し、記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力し、音響信号レベルが更新記録される音響信号レベル記憶部の前段に設けられ、音響信号レベル記憶部へ入力される音響信号を音量補正OFF状態で減衰させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響信号の音量を補正する音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジオ受信機、テレビ受像機およびCD(Compact Disc)プレイヤーなど複数の音響ソースを入力し、音声を再生する音響装置が知られている。
【0003】
これらの音響ソースは、音響信号の特性がそれぞれ異なることから、音響ソースを切り替えた際に、音量変化が生じてしまい、ユーザに対して違和感を与えてしまうこととなる。
【0004】
そのため、ユーザに与える違和感を解消することを目的として、音響ソースが切り替えられた場合に、音響信号の信号レベルに基づき、出力する音量を補正する音響装置が提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、テレビ受信機で受信した放送チャンネルが変更された場合に、入力される音響信号の信号レベルを所定のレベル値へ初期化する音響装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−42333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の音響装置は、音響ソースや放送チャンネルなどが切り替えられた際に、音響信号の音量に対する補正が適切に行われない場合があり、結果的に、ユーザに対して違和感を与えてしまうという問題があった。
【0008】
たとえば、音響装置を、補正を行わない状態から行う状態へ切り替えた際、補正を行わない状態で算出されていた補正値が適用された補正を行ってしまう場合がある。この場合、かかる音響装置は、予期しない音量によって音声を再生することとなり、ユーザに対して違和感を与えてしまう。
【0009】
これらのことから、音響信号の音量を適正に補正することによってユーザに対する違和感を軽減することができる音響装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、音響信号の音量を適正に補正することによってユーザに対する違和感を軽減することができる音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置であって、入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録する音響信号レベル記憶手段と、前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力する利得算出手段と、前記音響信号レベル記憶手段の前段に設けられ、前記音響信号レベル記憶手段へ入力される音響信号を音量補正OFF状態で減衰させるアッテネート手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置であって、入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録する音響信号レベル記憶手段と、前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力する利得算出手段と、前記利得算出手段の前段に設けられ、前記音響信号レベル記憶手段から出力される音響信号レベル値を音量補正OFF状態で減衰させるアッテネート手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置は、入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録し、記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力し、音響信号レベルが更新記録される音響信号レベル記憶部の前段に設けられ、音響信号レベル記憶部へ入力される音響信号を音量補正OFF状態で減衰させることとしたので、音響信号の音量を適正に補正することによってユーザに対する違和感を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施例に係る音響装置の概要を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本実施例に係るDSP(Digital Signal Processor)の回路構成例である。
【図4】図4は、信号レベルの補正切替指示画面を示す図である。
【図5】図5は、補正切替指示処理手順の概要を示すフローチャートである。
【図6】図6は、変形例に係るDSPの回路構成例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る音響装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、まず、本発明に係る音響装置の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る音響装置についての実施例を図2〜図6を用いて説明する。
【0016】
図1は、本実施例に係る音響装置の概要を示す図である。なお、図1の(A)には、従来の音響装置を、図1の(B)には、従来の音響装置の問題点を、図1の(C)には、本発明に係る音響装置を、それぞれ示している。
【0017】
図1の(A)に示すように、従来の音響装置は、音響信号をアンプへ流す第一の系統と、アンプに対する利得を音響信号に基づいて算出する音量補正部を含んだ第二の系統とを備える。ここで、利得とはアンプの増幅率で、たとえば、デジタル信号(DSPによる増幅処理)の場合は、音響信号に乗じる係数を指す。
【0018】
また、従来の音響装置は、音量の補正を行うか否か切り替えが可能である。たとえば、従来の音響装置は、ユーザによって補正を行うか否かの状態が切り替えられた際に、「補正ON」または「補正OFF」の制御信号を受け付ける。
【0019】
図1の(A)に示したように、従来の音響装置は、「補正OFF」の状態で、「補正ON」の制御信号を受け付けた際、音量補正部に対して「利得の初期化」の指示をする。この際、従来の音響装置では、図1の(B)に示したように、装置内の通信遅延などの理由によって「利得の初期化」の処理が遅延する場合がある。
【0020】
なお、図1の(B)には、従来の音響装置が「補正OFF」の状態で所定の音響信号を再生中に「補正ON」の制御信号を受け付けた場合の利得の変化を示しており、横軸は時間を示す。
【0021】
たとえば、「補正OFF」の状態の際、従来の音響装置が「補正OFF」状態の利得として利得=5で処理する場合について説明する。この場合、従来の音響装置は、「補正ON」の制御信号を受け付けてから「利得の初期化」の処理が実行されるまでの間、それまでの音響信号(前回の初期化以降)の信号レベルに基づき、音響補正部が算出していた利得、たとえば利得=3を適用して音量の補正を実行してしまう。
【0022】
その後、従来の音響装置では、「利得の初期化」が実行され、利得が3から5へ変更される。すなわち、従来の音響装置では、「補正ON」の制御信号を受け付けた後に、それまでの音響信号に基づく利得の変化が発生し、さらにその後に初期化による利得の変化も発生するので、利得の変化に伴って補正される音量にも不自然で不適切な変化が生じてしまい、ユーザに対して違和感を与えてしまう。
【0023】
そこで、本発明の一実施例に係る音響装置は、図1の(C)に示したように、上記した第二の系統における音量補正部の前段にアッテネータ(減衰部)を備えることとした。そして、本音響装置は、「補正OFF」の状態でアッテネータに対して「音響信号の減衰開始」の指示を行う。
【0024】
ここで、本音響装置は、「音響信号の減衰開始」の指示として、たとえば、アッテネータの減衰率が0になるように指示する。これにより、アッテネータは、音響信号の信号レベルを0へ減衰させる。
【0025】
なお、本実施例では、デジタル信号処理(DSP)によりアッテネータを構成しており、音響信号の信号レベルへ乗じる係数を「減衰率」と呼ぶこととする。たとえば、減衰率が0の場合、減衰後の信号レベルは0(減衰後の信号レベル=減衰前の信号レベル×0=0)となる。また、減衰率が1の場合、減衰後の信号レベル(減衰後の信号レベル=減衰前の信号レベル×1)は、減衰前の信号レベルと同じとなる。
【0026】
また、本実施例の音響装置の音量補正部の音量補正内容(「補正ON」)は、つぎのようなものである。新しいコンテンツ(楽曲・番組のコーナー等の区切り)を検出すると、利得を初期値にする。なお、この初期値は信号レベルが最小レベル(設計値)であるコンテンツを所定音量で再生するための利得である。
【0027】
つまり、最小レベルは、設計時に決めた所定値で、初期値は、この信号レベルの小さな所定値レベルのコンテンツを所定音量(各音量レベルのコンテンツのこの所定音量で再生する制御)で再生しようとする利得値(たとえば、本例では利得=5)となる。
【0028】
このため、実際により小さいレベルのコンテンツが再生される場合は、その音量は所定音量より小さくなる。新しいコンテンツの検出は、たとえば、曲の切り替わりや、ソースの切り替わり、あるいはラジオ・TV放送にあっては番組あるいは番組のコーナの切り替わりを検出することにより行われ、曲の切替信号、放送信号に含まれるデータ、あるいは無音部分の検出等により、検出(推定)することができる。
【0029】
その後、音量補正部は、入力音響信号レベルに応じて利得値を更新するが、利得値を下げるべき信号レベルが入力された時、つまり、それまでの最大レベルを更新するような大きなレベル信号が入力された場合に利得値を更新(小さくされる)する。
【0030】
音量補正部は、「補正OFF」となると利得を初期値とし、その後は入力音響信号レベルにより利得を算出する。また、入力音響信号レベルは、アッテネータによって信号レベル=0へ減衰されているため、音量補正部は利得を補正せず、初期値を維持する。
【0031】
したがって、本音響装置では、「補正ON」の制御信号を受け付けた時点で、利得は初期値となっており、また「補正ON」から利得の初期化までの利得の変化も非常に小さなもの(補正期間が非常に短時間)であるため、利得の初期化時に利得の変化、つまり音量の急変が防げ、違和感の無い制御が可能となる。
【0032】
なお、音響補正部における利得算出処理は、リセット処理等は必要であるものの、略常時利得を算出するといった演算処理に略特化したものとなるため、DSP等の演算処理に特化した素子(LSI(Large Scale Integration))では適したものとなる。
【0033】
また、本音響装置は、利得を5に初期化してから所定時間が経過したならば初期化が完了したとみなし、アッテネータの減衰率を0から1へ変化させるが、この点については図5を用いて後述する。
【0034】
なお、図1の(C)では、アッテネータを音量補正部の前段に設ける場合を例示したが、アッテネータの位置は、音量補正部の前段には限られない。この点については、図6を用いて後述する。
【0035】
以下では、図1を用いて説明した本発明の実施例に係る音響装置について、その全容も含め詳細に説明する。まず、本実施例に係る音響装置の構成について図2を用いて説明する。図2は、本実施例に係る音響装置10の構成を示すブロック図である。なお、図2では、音響装置10の特徴点を説明するために必要な構成要素についてのみ記載している。
【0036】
図2に示すように、本実施例に係る音響装置10は、セレクタ部11と、DSP(Digital Signal Processor)12と、音量設定部13と、マイコン14と、操作部15と、表示部16と、音響ソース17とを備えている。なお、音響装置10には、スピーカ21と、受信アンテナ22とが接続されている。
【0037】
セレクタ部11は、ユーザの操作により、操作部15から音響ソース17の切替指示(以下、「ソース切替指示」と記載する)を切替制御信号としてマイコン14経由で受け取り、受け取った切替制御信号に基づいて音響ソース17を選択する処理を行う処理部である。
【0038】
これにより、セレクタ部11は、選択した音響ソース17の音響信号をDSP12へ出力する。また、マイコン14は、セレクタ部11へのソース切替指示に伴い、音響ソース17が切り替えられたことを示すソース切替情報をDSP12へ出力する処理を併せて行う。
【0039】
なお、ここで、音響装置10は、セレクタ部11経由で受け取った音響信号の信号レベルに基づく音量補正を行うか否かの切り替え操作を操作部15から行うことができる。その際、DSP12は、信号レベルの補正処理を行うか否かの指示情報として補正切替指示をマイコン14経由で受け取る。
【0040】
そして、DSP12は、マイコン14から受け取った補正切替指示が「音量を補正する」(以下、「補正ON」と記載する)であった場合に、セレクタ部11から受け取った音響信号に基づいて音響信号の信号レベルを算出し、さらに、かかる信号レベルから利得を算出して、当該利得による音響信号の増幅処理(音響信号(デジタル)への利得の積算)を行う。なお、DSP12が実行する補正処理の詳細については図3を用いて後述する。
【0041】
音量設定部13は、DSP12から受け取った音響信号(デジタル/アナログ変換処理が行われたアナログ信号)を操作部15からマイコン14経由で受け取った音量調整値(所謂、ユーザによるボリューム操作値)に応じた利得で増幅してスピーカ21に出力するもので、プリアンプ、パワーアンプ回路等により構成される。
【0042】
なお、音量設定部13は、DSP12の演算処理(音響信号(デジタル)に係数(ユーザによるボリューム調整値が大音量の場合は大きい係数、小音量の場合は小さい係数)を乗算する)と、その演算出力(デジタル/アナログ変換処理が行われたアナログ信号)を固定利得のアンプ(パワーアンプ)で増幅する構成により、実現することも可能である。
【0043】
また、DSP12で、音響信号の信号レベルに基づく音量補正と、ユーザ操作による音量調整とを合算した形で演算処理し、その利得で音響信号を増幅するといった処理も可能である。
【0044】
マイコン14は、音響装置10の全体制御を行う制御部であり、たとえば、統合マイコンやオーディオマイコンなどによって構成されるマイコン部に相当する。マイコン14は、操作部15からソース切替指示を受け付けたならば、受け付けたソース切替指示に基づいて切替制御信号をセレクタ部11へ出力する処理を行う処理部である。
【0045】
また、マイコン14は、操作部15から音響信号の信号レベルの補正切替指示を受け付けたならば、その旨を表示部16へ表示し、補正切替指示をDSP12へ出力する処理を併せて行う。たとえば、マイコン14は、信号レベルの補正処理を行う場合の補正切替指示として「補正ON」、一方、信号レベルの補正処理を停止する場合の補正切替指示として「補正OFF」をDSP12へ出力する。
【0046】
操作部15は、ソース切替指示を行う操作、信号レベルの補正切替指示を行う操作、および、音響信号の音量調整を行う操作などを行うための操作ボタンや操作スイッチなどを備える操作部である。表示部16は、選択中の音響ソース17、信号レベルの補正切替指示に関する情報、および、設定されている音響信号の音量などを表示するディスプレイである。
【0047】
なお、操作部15および表示部16に備える構成部品は限定する必要はなく、操作部15と表示部16とが一体となった構成としてもよい。たとえば、押圧感知により入力を受け付け、かつ表示出力も兼ねるタッチパネル式の液晶ディスプレイを用いることとしてもよい。
【0048】
音響ソース17は、FMラジオ、AMラジオ、DTV(Digital Television)、CD、DVD(Digital Versatile Disc)、および外部入力端子のAUX(Auxiliary)からの入力などの複数の音響ソースであり、いずれかに限定されるものではない。
【0049】
また、図2では、音響装置10が音響ソース17を含む場合を例示したが、音響装置10の外部に音響ソース17を設け、かかる音響ソース17からの信号を、音響装置10が受け取るように音響装置10を構成してもよい。
【0050】
受信アンテナ22は、FMラジオ、AMラジオおよびDTVなどの放送波を受信するアンテナである。
【0051】
つぎに、セレクタ部11から受け取った音響信号の信号レベルを補正する処理の詳細、および、音響装置10のDSP12の回路例(DSP12の信号処理内容を回路ブロックにて表現)について図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係るDSP12の回路構成例である。なお、図3では、DSP12の特徴点を説明するために必要な構成要素についてのみ記載している。
【0052】
図3に示すように、本実施例に係るDSP12は、遅延処理部120と、アッテネータ121と、BPF(Band Pass Filter)122と、信号レベル算出部123と、信号レベル比較部124と、利得算出部125と、演算増幅部126、スイッチ端子127、128、129を備えるスイッチと、I/F(インターフェース)130とを備える。また、信号レベル比較部124が備えるメモリには補正用信号レベル124aが、利得算出部125が備えるメモリには現在利得125aが、それぞれ記憶される。
【0053】
なお、ここでは、BPF122、信号レベル算出部123、信号レベル比較部124、および、利得算出部125までの破線で囲んだ一連の処理部を、「音量補正部200」と記載する。
【0054】
I/F130は、他構成要素との通信を可能にするデバイスで構成され、具体的には、マイコン14からDSP12へ制御信号の送信を行う。なお、図3には、制御信号の流れを破線で示し、音響信号の流れを実線で示す。
【0055】
遅延処理部120は、セレクタ部11から受け取った音響信号を遅延させ、演算増幅部126へ出力する処理を行う処理部である。なお、遅延処理部120が遅延させる時間としては、アッテネータ121および音量補正部200によって利得が出力され、演算増幅部126が当該利得で信号を増幅できるまでの所定の時間とする。
【0056】
アッテネータ121は、セレクタ部11から受け取った音響信号の信号レベルを減衰率に基づいて減衰させた音響信号をBPF122へ出力する。たとえば、アッテネータ121は、マイコン14が「補正OFF」の補正切替指示を受け付けた際、マイコン14からの制御信号によって減衰率が0になるように制御され、信号レベルを0へ減衰させる。なお、マイコン14からの制御信号によって減衰率が0になるように制御されることとしたが、音響装置10に備える他の処理部、たとえば、セレクタ部11がアッテネータ121に対して、減衰率が0になるように制御することとしてもよい。
【0057】
また、アッテネータ121は、マイコン14からの制御信号によって減衰率が1になるように制御されている場合(「補正OFF」の場合)は、セレクタ部11から受け取った音響信号の信号レベルを維持したままBPF122へ出力する。
【0058】
なお、ここでは、アッテネータ121は、音響信号の信号レベルを0へ減衰させることとしたが、0に限定されるものではなく、音量補正部200によって利得が初期値に維持される信号レベルであればよい。
【0059】
たとえば、音量補正部200に入力された信号レベルが0.1以下の場合に利得が初期値に維持される設定(初期補正値による音量補正から音量低減方向の変化を行わない設定)であれば、アッテネータ121には音響信号の信号レベルが0.1以下となるような減衰率をセットすればよい。なお、本実施例では、かかる信号レベルを0として説明する。
【0060】
BPF122は、音響信号に含まれる所定の周波数帯域の成分を通過させるフィルタであり、たとえば0.3kHz〜3.4kHzの周波数帯域の信号を通過させ、それ以外の周波数帯域の信号を遮断する。
【0061】
なお、BPF122を設ける代わりに音響信号のサンプリングを間引く処理を行ってもよく、またその両方を行っても良い。これは、人が音量変化を関知し易い帯域の信号だけを処理することにより、演算量を削減するようにしたもので、これにより、以降の処理にかかる負荷を低減できる。また、BPF122は、フィルタリングした音響信号を信号レベル算出部123へ出力する。
【0062】
信号レベル算出部123は、BPF122から受け取った音響信号に基づいて音響レベルを算出するもので、本実施例では、異なる複数の計算期間について音響信号の信号レベルを平均化し、最も高い信号レベルを算出する処理を行うが、簡易的には1つの所定計算期間について音響信号の信号レベルを平均化し出力する処理でもよい。
【0063】
たとえば、信号レベル算出部123は、時定数の異なる複数の積分回路を用いて計算期間の異なる複数の信号レベルを算出する。そして、信号レベル算出部123は、算出された複数の信号レベルから最も高い信号レベルを算出値とし、算出値とした信号レベルを信号レベル比較部124へ出力する。
【0064】
信号レベル比較部124は、信号レベル算出部123によって算出された信号レベルと、信号レベル比較部124に備えるメモリに記録されている補正用信号レベル124aとを比較する。
【0065】
そして、信号レベル比較部124は、信号レベルが補正用信号レベル124aよりも高い場合に、かかる信号レベルによって補正用信号レベル124aを更新する。また、信号レベル比較部124は、信号レベルが補正用信号レベル124a以下の場合には、補正用信号レベル124aを更新しない。また、信号レベル比較部124は、補正用信号レベル124aを利得算出部125へ出力する。
【0066】
ただし、信号レベル比較部124は、音量補正部200がマイコン14から補正切替指示を受け取った際や、セレクタ部11からのソース切替情報を受け取った際などには、補正用信号レベル124aを初期化する(0とする)。
【0067】
つまり、補正用信号レベル124aは、初期化以降の最大となる信号レベル算出部123により検出された信号レベルが記憶されることになる。
【0068】
利得算出部125は、信号レベル比較部124から受け取った補正用信号レベル124aと所定の基準レベルとに基づいて目標とする利得(以下、「目標利得」と記載する)を算出する。
【0069】
具体的には、利得算出部125は、信号レベル比較部124から受け取った補正用信号レベル124aと目標利得との積が所定の基準レベルとして一定の値(信号レベル×目標利得=基準レベル)となるよう目標利得を出力する。
【0070】
なお、利得算出部125が実行する目標利得の算出手法は、これに限定されるものではなく、別の手法であってもよい。たとえば、補正用信号レベル124aが所定のレベルの範囲にある場合に、かかる範囲に対応する目標利得を出力する算出テーブルに基づいて算出することとしてもよいし、音響ソース17ごとに、予め目標利得を設定しておくこととしてもよい。
【0071】
また、別の処理方法として次の方法も適用可能である。利得算出部125は、算出した目標利得と現在利得125aとに基づいて現在利得125aを更新する。たとえば、算出した目標利得と現在利得125aとを比較して、現在利得125aよりも目標利得が大きい場合は、現在利得125aを上げる処理を行う。また、現在利得125aよりも目標利得が小さい場合は、現在利得125aを下げる処理を行う。このように音響信号の信号レベルに対する利得の値を更新する。
【0072】
ただし、利得算出部125は、音量補正部200がマイコン14から補正切替指示を受け取った際や、セレクタ部11からのソース切替情報を受け取った際等には、現在利得125aを初期化する(たとえば本例では、利得=5)。
【0073】
なお、補正用信号レベル124aの記憶値は初期化後、つぎの初期化までは減少することはないので、現在利得125aの記憶値も当該期間は増加することは無いこととなる。
【0074】
さらに、利得算出部125は、更新した現在利得125aを演算増幅部126へ出力する。このように、利得算出部125は、演算増幅部126で実行する音響信号の信号レベルを増幅させる際に使用する利得を算出する。
【0075】
演算増幅部126は、遅延処理部120によって遅延させた音響信号と利得算出部125から受け取った利得(現在利得125a)に基づいて算出された音響信号をスイッチ端子128へ出力する。たとえば、演算増幅部126は、音響信号に利得を乗算させることによって出力用の音響信号を算出する。
【0076】
図3に示したようなON/OFFスイッチは、スイッチ端子127、128、129を含んで構成され、信号レベルを補正するか否かの切り替え操作によって音響信号の出力が切り替えられるスイッチである。
【0077】
図3に示したように、マイコン14が「補正ON」の補正切替指示を受け付けた際、マイコン14からの制御信号によってスイッチ端子128とスイッチ端子129とが接続するように切り替えられる。これにより、DSP12は、演算増幅部126からの音響信号を音量設定部13へ出力する。
【0078】
一方、マイコン14が「補正OFF」の補正切替指示を受け付けた際、マイコン14からの制御信号によってスイッチ端子127とスイッチ端子129とが接続するように切り替えられる。これにより、DSP12は、補正をしない音響信号を音量設定部13へ出力する。なお、切り替え時に音響信号の時間差を無くすために、スイッチ端子127側の経路にも遅延処理部120と同特性の遅延処理部を挿入するのが好ましい。
【0079】
したがって、「補正OFF」の場合はスイッチ端子127側の経路により補正されない音響信号が出力され、スピーカ21から音量補正されない形態で音声再生されることになり、また「補正ON」の場合はスイッチ端子128側の経路により演算増幅部126によって音量補正された音響信号が出力され、スピーカ21から音量補正された形態で音声再生されることになる。
【0080】
つぎに、ユーザの操作による音響信号の信号レベルを補正するか否かの切り替え操作の詳細について図4を用いて説明する。図4は、信号レベルの補正切替指示画面を示す図である。
【0081】
図4に示したように、補正切替指示画面は、補正「ON」/「OFF」ボタンと、効果量ボタンと、効果パターンボタンとを備える。補正「ON」/「OFF」ボタンは、「補正ON」または「補正OFF」を切り替えるボタンである。
【0082】
効果量は、音量補正部200によって算出される利得値の落ち着き度であり、「High」、「Mid」、「Low」のボタンには、それぞれ利得値が安定する数値が対応づけられている。
【0083】
例えば、初期値より「High」であれば最大「−9dB」の減衰、「Mid」であれば最大「−6dB」の減衰、「Low」であれば最大「−3dB」の減衰と言った音量低減処理を行うように制限する。なお、効果量は3種類から選択できるようにしたが、たとえば、「−3dB」や「−6dB」のように、利得値が安定する数値を入力することができるようにしてもよい。
【0084】
効果パターンは、「1」、「2」、「3」のボタンには、音量補正部200によって算出される利得値へ加味される割合が対応付けられている。なお、効果パターンについても3種類から選択できるようにしたが、詳細に設定することができるようにしてもよい。
【0085】
ユーザによって補正「ON」が選択された場合には、音響装置10は、効果量ボタンで選択された効果量と、効果パターンボタンで選択された効果パターンとに基づいて音響信号の信号レベルを補正する。
【0086】
具体的には、マイコン14によって効果量と効果パターンとを受け付け、効果量および効果パターンに対応する制御信号をDSP12へ渡す。そして、DSP12は、制御信号に基づいて音響信号の信号レベルの補正を行うこととなる。
【0087】
つぎに、マイコン14が実行する補正切替指示処理の詳細について図5を用いて説明する。図5は、補正切替指示処理手順の概要を示すフローチャートである。なお、かかる処理は、音響信号の信号レベルを補正するか否かの補正切替指示を受け付けた際に実行される。
【0088】
まず、操作部15を経由してマイコン14は、ユーザの操作によって音響信号の信号レベルを補正するか否かの補正切替指示を受け付けた際に、「補正ON」であるか否かを判定する(ステップS101)。
【0089】
マイコン14は、補正切替指示が「補正ON」であると判定した場合(ステップS101,Yes)、アッテネータ121の減衰率が0になるような制御信号をDSP12へ出力する(ステップS102)。
【0090】
そして、マイコン14は、演算増幅部126で乗算する値、つまり利得の初期化を行う(信号レベル比較部124の補正用信号レベル124aを初期値にし、また利得算出部125の現在利得125aを初期値にする)制御信号をDSP12へ出力し(ステップS103)、初期化が完了したか否かを判定する(ステップS104)。
【0091】
なお、ここでは、マイコン14は、利得の初期化を行う制御信号をDSP12へ出力してから所定時間が経過したならば初期化が完了したとみなす。たとえば、所定時間とは、初期化後、音量補正部200がアンプへ初期利得(たとえば利得=5)を出力するまでの時間以上とする。
【0092】
マイコン14は、初期化が完了していないと判定した場合(ステップS104,No)、初期化が完了となるまでステップS104を繰り返す。
【0093】
また、マイコン14は、初期化が完了したと判定した場合(ステップS104,Yes)、アッテネータ121の減衰率が1(減衰なし)になるような制御信号をDSP12へ出力し(ステップS105)、音響装置10が行う一連の補正切替指示処理を終了する。
【0094】
一方、マイコン14は、補正切替指示が「補正ON」ではないと判定した場合(ステップS101,No)、アッテネータ121の減衰率が0(減衰∞、出力0)になるような制御信号をDSP12へ出力し(ステップS106)、音響装置10が行う一連の補正切替指示処理を終了する。
【0095】
なお、ここでは、初期化が完了したと判定した際に、アッテネータ121の減衰率を1としたが、これに限定されるものではない。たとえば、マイコン14は、アッテネータ121の減衰率を初期化から初期化が完了するまでの間に、アッテネータ121の減衰率を0から1まで段階的に変化するように制御信号をDSP12へ出力することとしてもよい。
【0096】
なお、マイコン14が実行する一連の補正切替指示処理と、DSP12が実行する音量補正部200とは並列に処理されるよう、音響装置10内ではタスク管理されている。また、マイコン14が一連の補正切替指示処理を実行することとしたが、かかる補正切替指示処理の一部をDSP12で処理を実行することとしてもよい。
【0097】
また、マイコン14が音響信号の信号レベルを補正するか否かの補正切替指示を受け付け、補正切替指示が「補正ON」であると判定した場合(ステップS101,Yes)、ステップS102〜ステップS105の処理を行うこととした。
【0098】
しかし、補正切替指示を受け付けたタイミングだけに限定されるものではない。たとえば、マイコン14は、音楽ファイルなどのファイルやトラックの切替信号や、曲の切り替えを通知する曲間信号、および、音響ソース17の切替信号を受け付けた場合にもこれらの処理、ステップS102〜ステップS105の処理を行う。
【0099】
これにより、たとえば、曲が切り替えられたタイミングであっても、前曲の利得を参照して音響信号の信号レベルが補正されてしまうことなく、当該曲に合っていない音量補正が行われることが防止され、ユーザに対する違和感を軽減することができる。
【0100】
ところで、これまでは、音量補正部200の前段にアッテネータ121を備えることとしたが、アンプに対する利得を初期状態(初期利得)に維持するようにアッテネータ121を第二の系統に配置すれば良く、たとえば信号レベル比較部124の後段に補正用信号レベル124aを0とするようにアッテネータ121を備えればよい。
【0101】
そこで、以下では、これらの変形例について説明することとする。図6は、変形例に係るDSP12の回路構成例である。たとえば、図6の(A)に示したように、信号レベル比較部124と利得算出部125との間にアッテネータ121’を備えることとしてもよい。
【0102】
この場合、補正用信号レベル124aが0でない、たとえばβであっても、マイコン14は、補正切替指示が「補正ON」の場合に、アッテネータ121’の減衰率が0になるように制御する。
【0103】
したがって、アッテネータ121’によって補正用信号レベル124aを0へ減衰させる。これにより、利得算出部125は、補正用信号レベル124a=0を受け取って、現在利得125aを初期化するので、音量補正部200は、利得=5を出力することができる。
【0104】
また、図6の(B)に示したように、信号レベル算出部123に備えるそれぞれの積分回路の下位側へアッテネータ121”を備えることとしてもよい。信号レベル算出部123は、所定の計算期間分の音響信号の信号レベルを平均化して最も高い信号レベルを算出する。
【0105】
そこで、図6の(B)に示したように、各積分回路の下位側へアッテネータ121”をそれぞれ備えることとすれば、各積分回路によって算出された信号レベルはすべて0となる。したがって、信号レベル算出部123は、最も高い信号レベルを0と算出することになる。
【0106】
これにより、信号レベル算出部123は、信号レベル=0を信号レベル比較部124へ出力するので、音量補正部200は、利得=5を出力することができる。
【0107】
上述してきたように、本実施例では、音響信号をアンプへ流す第一の系統と、アンプに対する利得を音響信号に基づいて算出する音量補正部を含んだ第二の系統とを備え、音量補正部が設けられた系統にアッテネータを設けるように音響装置を構成した。
【0108】
これにより、アッテネータは、音響信号の信号レベルの補正を行う状態へ切り替えられた際などに、音量補正部へ入力する音響信号の信号レベルを減衰させ、音量補正部は、利得の初期化を行う。したがって、利得の初期化処理が遅延して実行された場合であっても音響信号の音量を適正に補正することによってユーザに対する違和感を軽減することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 音響装置
11 セレクタ部
12 DSP
13 音量設定部
14 マイコン
15 操作部
16 表示部
17 音響ソース
21 スピーカ
22 受信アンテナ
120 遅延処理部
121 アッテネータ
122 BPF
123 信号レベル算出部
124 信号レベル比較部
124a 補正用信号レベル
125 利得算出部
125a 現在利得
126 演算増幅部
127 スイッチ端子
128 スイッチ端子
129 スイッチ端子
130 I/F
200 音量補正部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置であって、
入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録する音響信号レベル記憶手段と、
前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力する利得算出手段と、
前記音響信号レベル記憶手段の前段に設けられ、前記音響信号レベル記憶手段へ入力される音響信号を音量補正OFF状態で減衰させるアッテネート手段と
を備えることを特徴とする音響装置。
【請求項2】
所定単位の音声情報における音響信号のレベルに基づいて出力音響信号の音量を補正する音響装置であって、
入力される音響信号のレベルに応じ、順次当該音声情報の音響信号レベルを更新記録する音響信号レベル記憶手段と、
前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルに基づいて利得を算出し、音響信号を増幅する増幅手段に対して該利得を制御信号として出力する利得算出手段と、
前記利得算出手段の前段に設けられ、前記音響信号レベル記憶手段から出力される音響信号レベル値を音量補正OFF状態で減衰させるアッテネート手段と
を備えることを特徴とする音響装置。
【請求項3】
音量補正制御のON/OFF切替時に、前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルを初期値へ更新する第1の初期化手段
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の音響装置。
【請求項4】
音声情報の切替時に、前記音響信号レベル記憶手段に記憶された音響信号レベルを初期値へ更新する第2の初期化手段
を備えることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の音響装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−217023(P2012−217023A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80998(P2011−80998)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】