説明

音響調整システム

【課題】音場の音響特性の調整を、従来よりも自在に行うことに寄与させるためのシステムを提供する。
【解決手段】音響調整システム5において、PAエンジニアが音響調整卓300の操作部340を操作することにより、音源から与えられる音信号の特性を変化させてスピーカSPに出力させたり、吸音・散乱ボックス1や吸音・散乱パネル50によって奏する吸音・散乱効果の周波数帯域を変化させたりする。これにより、制御部310が音信号の特性を変化させなくても、又はその変化を小さくしつつ、音響特性を調整することができる。これにより、音源から与えられる音信号が表す本来の音を損ねることを抑制できる。また、音信号の特性と、吸音・散乱特性の調整とを並行して制御することによって、音信号の調整のみを行う従来構成と比べて、音場の音響特性の調整を自在に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場の特性の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
音響空間の静粛性を高めるために、音響構造体を壁面や天井面に取り付けることがある。特許文献1には、1方向に延在する空洞が形成され、その空洞を外部に通じさせる開口部を有する部材が複数並べられた音響構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
拡声システムの操作においては、演奏会などが行われるホール内の音響特性を考慮して、音響技術者が各周波数成分の出力レベル(すなわち、音圧レベル)を調整することが行われているが、音を吸収する効果や、音の散乱させる効果を高めたい周波数帯域は音場の種類や利用者の要請などによって様々である。また、ホールの音響特性は、拡声システムの内容や設置場所、観客の数、舞台設備の内容などの様々な原因により変動しやすく、音響技術者にとって音響特性の調整が従来よりも自在に行えるシステムが望まれている。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、音場の音響特性の調整を、従来よりも自在に行うことに寄与させるためのシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明に係る音響調整システムは、音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、前記音響構造体は、内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体であって、前記開口部が開口端となる共鳴体が前記中空空間に構成される筐体と、前記中空空間内を移動させられ、前記共鳴体の閉口端となる移動部材と、前記移動部材の位置又は移動量に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記移動部材を前記位置に設定し、前記共鳴体の前記開口端の位置に対する前記閉口端の位置を設定する位置設定手段とを備え、前記音響調整装置は、ユーザの操作を受け付ける操作手段と、前記操作手段が操作を受け付けると、当該操作に応じた前記制御情報を前記位置設定手段に出力する制御情報出力手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る音響調整システムは、音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、前記音響構造体は、内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体と、閉状態においては、前記開口部を塞いで外部空間から前記中空空間に入射する音波を遮り、開状態においては、当該開口部を塞がない開閉部材と、前記開閉部材の開閉状態に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記開閉部材を前記開状態又は前記閉状態に切り替える切替制御手段とを備え、前記音響調整装置は、ユーザの操作を受け付ける操作手段と、前記操作手段が操作を受け付けると、当該操作に応じた前記制御情報を前記切替制御手段に出力する制御情報出力手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る音響調整システムは、音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、前記音響構造体は、内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体であって、前記開口部が開口端となる共鳴体が前記中空空間に構成される筐体と、前記中空空間内を移動させられ、前記共鳴体の閉口端となる移動部材と、前記移動部材の位置又は移動量に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記移動部材を前記位置に設定し、前記共鳴体の前記開口端の位置に対する前記閉口端の位置を設定する位置設定手段とを備え、前記音響調整装置は、音場の音響特性が決められた音響特性となるように、前記移動部材の位置を設定するための前記制御情報を前記位置設定手段に出力する制御情報出力手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る音響調整システムは、音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、前記音響構造体は、内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体と、閉状態においては、前記開口部を塞いで外部空間から前記中空空間に入射する音波を遮り、開状態においては、当該開口部を塞がない開閉部材と、前記開閉部材の開閉状態に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記開閉部材を前記開状態又は前記閉状態に切り替える切替制御手段とを備え、前記音響調整装置は、音場の音響特性が決められた音響特性となるように、前記開閉部材の開閉状態を切り替えるための前記制御情報を前記切替制御手段に出力する制御情報出力手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、音場の音響特性の調整を従来よりも自在に行うことに寄与させるためのシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態である音響調整システムが設置された音響空間を示す図である。
【図2】同実施形態に係る音響調整システムの構成を表した図である。
【図3】音響調整卓の構成を示すブロック図である。
【図4】音信号調整部の構成を示すブロック図である。
【図5】吸音・散乱ボックスの外観を示す斜視図である。
【図6】同実施形態の吸音・散乱ボックスが有する箱型部材の内部の構成を示す図である。
【図7】同実施形態の音響管の外観を示す斜視図である。
【図8】図7に示す矢印IV方向から音響管を見た様子を表す平面図である。
【図9】図7に示す切断線V-Vで音響管を切断したときの断面を表す図である。
【図10】共鳴時における吸音・散乱ボックス周辺の反射波の挙動を説明する図である。
【図11】同実施形態の音響管の外観を示す斜視図である。
【図12】図11に示す切断線VII-VIIで音響管を切断したときの断面を表す図である。
【図13】同実施形態の吸音・散乱ボックスの制御系を説明する図である。
【図14】図12に示した状態から隔壁の位置が変更した音響管の断面を表す図である。
【図15】吸音・散乱ボックスによって実現される共鳴周波数の一例を示す図である
【図16】吸音散乱体の外観を示す斜視図である。
【図17】同実施形態の中空部材の断面を表す図である。
【図18】同実施形態の音響構造体により奏する吸音・散乱効果を説明する図である。
【図19】本発明の第2実施形態に係る音響調整システムの構成を表した図である。
【図20】本発明の変形例に係る伸縮可能な音響管を例示する断面図である。
【図21】本発明の変形例に係る中空部材の断面を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
(A)音響調整システムの構成
図1は、この実施形態の音場である音響空間Rを模式的に表した図である。音響空間Rは、例えばコンサートや催事が行われるホールであり、そこには音響調整システム5が設置されている。音響空間Rには、楽音や声音などを発する演者が位置するステージ(舞台)STと、この演者による演奏、歌唱、講演又は演劇といった実演を鑑賞する鑑賞者が位置する客席SEとが設けられている。音響空間Rの壁面WLや天井RFには複数のスピーカSPが設置される。スピーカSPからは、ステージSTから発せられる音、又は音信号が入力された音響調整卓300によって電気的に調整加工された音信号に基づく音が放音される。また、音響空間Rの壁面WLや天井RFには、音響空間Rの音響特性を調整するために、吸音・散乱ボックス1及び吸音・散乱パネル50がそれぞれ複数設置されている。この実施形態の音響特性は、音圧レベルの周波数特性や、残響特性、特定周波数の音圧分布特性など、音場において音の響きや聞こえに関する物理的特性のことである。音響調整卓300は、音響空間Rの音響特性の調整の際に用いられ、いわゆるミキシングコンソールの機能を有している。音響調整卓300は、客席SEの一部に設置されている。操作者であるPAエンジニアUが音響調整卓300を操作すると、音響調整卓300はその操作内容に応じて、音響空間Rの音響特性の調整に関する種々の制御を行う。この制御の内容について詳しくは後述する。
【0012】
図2は、音響調整システム5の構成を模式的に表す図である。
図2に示すように、音響調整システム5の構成は、音響調整卓300と、複数のスピーカSPと、複数の吸音・散乱ボックス1と、複数の吸音・散乱パネル50とに大別される。
音響調整卓300は、本発明の音響調整装置の一例である。音響調整卓300は、スピーカSP、吸音・散乱ボックス1及び吸音・散乱パネル50のそれぞれを制御の対象としており、これら各装置と電気的に接続されている。音響調整システム5には一例として4チャンネルの出力系統があり、各スピーカSPにいずれかのチャンネルが割り当てられている。以下では、複数のスピーカSPを、スピーカSP1,SP2,SP3,SP4と表現することがあり、チャンネル毎に符号を異ならせることがある。なお、このチャンネル数は4よりも少ない数であってもよいし、4よりも多い数であってもよい。
【0013】
音響調整卓300は、音源から与えられる音信号を調整加工し、音信号の特性を電気的に変化させて、スピーカSPに出力する。ここでいう音源は、音を直接発するステージST上の演者(楽器も含む)や、音信号を出力する電子楽器・電気楽器、音信号を直接生成し、又は読み出しする装置である音信号発生装置等である。楽音信号発生装置には、例えば、オーディオ機器、ミュージックシーケンサ、リズムボックスがある。なお、前記ステージST上の演者(楽器を含む)が発する音は、マイクロホンにより収音されて音信号に変換され、音響調整卓300に入力される。音響調整卓300は、PAエンジニアUによる操作内容に応じて、吸音・散乱ボックス1や吸音・散乱パネル50によって奏する効果であって、音を吸収する効果(以下、「吸音効果」という)、及び音を散乱させる効果(以下、「散乱効果」という。)を奏する周波数帯域を変化させるための制御を行う。なお、以下の説明において、吸音効果及び散乱効果を総称して、「吸音・散乱効果」と称することがある。また、吸音・散乱ボックス1及び吸音・散乱パネル50を総称して、「吸音散乱体」と称することがある。
【0014】
図3は、音響調整卓300のハードウェア構成を示すブロック図である。
制御部310は、CPU等の演算装置や、DSP(Digital Signal Processing)、メモリを備えている。制御部310は、記憶部320に記憶された制御プログラムに従って、音響調整卓300の各部を制御する。より具体的には、制御部310は、スピーカSPに出力する音信号を調整加工したり、吸音散乱体の駆動の制御を行う。記憶部320は、例えばハードディスク装置を備える記憶手段であり、制御部310によって実行される制御プログラムや、その実行時に使用されるデータを記憶する。表示部330は、液晶ディスプレイを有する表示手段であり、制御部310による制御の下で各種の画像を表示する。
【0015】
操作部340は、音調整操作部341と、第1調整操作部342と、第2調整操作部343とを備えている。操作部340は、PAエンジニアUによる操作を受け付けると、その操作内容に応じた操作信号を制御部310に出力する。なお、第1調整操作部342及び第2調整操作部343は、本発明の操作手段の一例である。
【0016】
音調整操作部341は、スイッチやフェーダ(例えば、スライドフェーダ)を含む複数の操作子を備える。制御部310は、音調整操作部341から操作信号が供給されると、その操作内容に応じた態様で、音信号調整部360より音信号を調整加工する。第1調整操作部342は、音調整操作部341と同種の操作子を備える。制御部310は、第1調整操作部342から操作信号が供給されると、その操作内容に応じた態様で吸音・散乱ボックス1の駆動を制御するための制御情報を、通信インタフェース350により各吸音・散乱ボックス1に出力する。第2調整操作部343は、スイッチである複数の操作子を備える。制御部310は、第2調整操作部343から操作信号が供給されると、その操作内容に応じた態様で吸音・散乱パネル50の駆動を制御するための制御情報を、通信インタフェース350により各吸音・散乱パネル50に出力する。
なお、この実施形態の操作部340が備える各操作子の種類は一例であり、ユーザからの操作を受け付ける操作子であれば、どのような種類の操作子であってもよい。
【0017】
通信インタフェース350は、吸音散乱体と通信するためのインタフェースである。通信インタフェース350は、制御部310の制御の下で、吸音散乱体の駆動を制御するための制御情報をそれらに出力する。また、制御部310及び通信インタフェース350は、本発明の制御情報出力手段の一例である。
音信号調整部360は、音信号調整手段の一例であり、音源からの音信号を取得して、取得した音信号に調整加工を施す。そして、音信号調整部360は、調整加工した音信号をスピーカSPに出力する。
【0018】
図4は、音信号調整部360の構成を示すブロック図である。
音信号調整部360は、アナログの音信号をデジタルの音信号に変換するためのA/D変換器361と、A/D変換器361から出力された音信号の特性を調整する4つの調整ユニット362と、各調整ユニット362から出力されたデジタルデータをアナログの音信号に変換するための4つのD/A変換器363とを有する。なお、マイクロホンなどアナログ形式の音信号はA/D変換器361経由で音信号調整部360に入力される。一方、電子楽器などデジタル形式の音信号はA/D変換器361を経由しないで、直接調整ユニット362に入力される構成であるとする。
【0019】
A/D変換器361から出力された音信号は、スピーカSP1〜SP4に対応する4チャンネルの音信号に分岐させられ、その各々が異なる調整ユニット362に供給される。調整ユニット362は、各チャネルの音信号の音圧レベルを特定の周波数帯域ごとに調整するイコライザ362aと、イコライザ362aから出力された音信号を遅延させる遅延回路362bと、遅延回路362bから出力された音信号のレベルを調整するアンプ362cとを有する。イコライザ362aによる音圧レベルの増減の対象となる周波数帯域やその増減量、遅延回路362bによる遅延時間、及びアンプ361cによるレベルの増減量を含む、音信号の調整に関わるパラメータは、PAエンジニアUによる音調整操作部341の操作により決定付けられる。各調整ユニット362により為される調整を経て、各D/A変換器363から出力された音信号は、図示せぬアンプを介して、スピーカSP1,SP2,SP3,SP4のそれぞれに供給される。
【0020】
(B)吸音・散乱ボックス1の構成
次に、音響調整システム5が備える吸音・散乱ボックス1の構成について説明する。図5は、吸音・散乱ボックス1の外観を示す斜視図である。図6は、吸音・散乱ボックス1が有する箱型部材2の内部の構成を示す図である。
吸音・散乱ボックス1の箱型部材2は、外形が直方体の箱型の部材である。箱型部材2は、例えば木材、合成樹脂又は金属により形成された板状の部材で各面が構成され、内部には空間が形成されている。箱型部材2の六面のうち前面に相当する面2aには、箱型部材2の内外を通じさせる3つの円形の孔3が開けられている。孔3は、それぞれ音圧透過性を有する、例えばネット状等の部材で覆われている。箱型部材2の内部には、音響管10,20が設置されている。
【0021】
音響管10は、本発明の音響構造体の一例であり、外観は管状である。音響管10は、中空空間を外部空間に通じさせる開口部12を有している。音響管20は、本発明の音響構造体の一例であり、中空状の部材である。音響管20は、中空空間を外部空間に通じさせる開口部12a,12bを有する。音響管10,20において、開口部12,12a,12bはそれぞれ異なる孔3に近接し、且つ孔3の面に対して略平行となるように固定されている。また、吸音・散乱ボックス1は、ケーブル4を介して音響調整卓300の通信インタフェース350と接続されている。吸音・散乱ボックス1は、通信インタフェース350により送信された制御情報を、ケーブル4経由で受信する。吸音・散乱ボックス1は、受信した制御情報に応じて駆動する。
なお、音響調整卓300から吸音・散乱ボックス1へ制御情報を送信するための通信路は、有線のほか、無線であってもよいし、優先及び無線の組み合わせでもよい。また、説明の便宜のために、以下では、箱型部材2の面2aの法線方向成分であって、孔3の面に直交する方向成分を「x軸」とし、面2aに平行な一方向の成分を「y軸」とし、x軸及びy軸に直交する方向成分を「z軸」としたxyz直交座標系を定める。吸音・散乱ボックス1が水平面に平行な面に置かれたときには、z軸は重力方向の成分を表し、x軸及びy軸は水平面に平行な方向の成分を表す。音響管10,20は、それぞれ延在方向を有しており、その延在方向はx軸方向に一致するよう箱型部材2内に固定されている。
【0022】
次に、吸音・散乱ボックス1の内部の構成について説明する。
図7は、音響管10の外観を示す斜視図である。図8は、図7に示す矢印IV方向から音響管10を見た様子を表す平面図である。図9は、図7に示す切断線V-Vで音響管10を切断したときの断面を表す図である。
音響管10は、管状部材11と、開口部12と、リードスクリュー13と、隔壁14とを有する。管状部材11は、本発明の筐体の一例であり、金属で管状に形成された部材である。管状部材11の内部には、x軸方向に延在する柱状の中空空間15が形成されている。管状部材11は、中空空間15を外部空間に通じさせる開口部12を有する。管状部材11の中空空間15のx軸方向の長さをLとする。管状部材11の開口部12に対する他端(閉口端)の一部には、リードスクリュー13を外部に通じさせるための貫通孔が開けられている。
【0023】
リードスクリュー13は、隔壁14をx軸方向に移動させるための軸状の部材であり、その周面には、図示せぬ螺子山が設けられている。リードスクリュー13は、管状部材11の閉口端に開けられた貫通孔を介して、モータ31aの回転軸に接続されている。リードスクリュー13は、モータ31aの駆動により回転する。なお、モータ31aを含む吸音・散乱ボックス1の制御系については後述する。隔壁14は、金属で円柱状に形成されており、本発明の移動部材の一例である。隔壁14は、管状部材11に対して中空空間15内をx軸方向に移動可能に設けられ、隔壁14の移動方向に対する寸法はDである。円柱状である隔壁14の底面には、それらを貫通する孔であってリードスクリュー13が貫通する孔が開けられている。この孔には、リードスクリュー13が有する螺子山に係わり合う螺子山が設けられている。隔壁14の外周面は、筐体11の内周面に近い形状をしており、隔壁14は筐体11の内側に接触することにより、リードスクリュー13の回転に対して回り止めされる。これにより、隔壁14にリードスクリュー13が貫通した状態でリードスクリュー13が回転させられると、隔壁14はリードスクリュー13に対してx軸方向に移動する。
なお、軸状のガイドレール(案内手段)をリードスクリュー13に平行に設け、これを隔壁14に貫通させて、ガイドレールによって案内される方向に隔壁14が移動させられるようにしてもよい。また、リードスクリュー13と隔壁14とを結合した構造と、リードスクリュー13の外周面の螺子山に噛み合わせた歯車の回転とに応じて、リードスクリュー13とともに隔壁14がx軸方向に移動させられる構成であってもよい。
【0024】
隔壁14の外周面(側面)は管状部材11の内周面に良好に密着しており、隔壁14は、中空空間15を、部分空間151と部分空間152とに隔てる。部分空間151のx軸方向の長さは、開口部12の位置から、部分空間151と隔壁14とが接する位置までの長さであり、l1である。部分空間152のx軸方向の長さは、管状部材11の開口部12に対する他端の位置から、部分空間152と隔壁14とが接する位置までの長さであり、l2である。つまり、L=l1+D+l2という関係を満たす。
【0025】
音響管10において、部分空間151に共鳴体が構成される。この共鳴体は開口部12を開口端とし、部分空間151と隔壁14とが接する面を閉口端とする。中空空間15をその延在方向に直交する平面(yz平面)で切断した場合の断面の直径は、Lに対して十分に小さい。より具体的には、共鳴時においてx軸方向には定在波が発生し、その径方向には位相のずれがほとんどなく、音圧がほぼ一様である。この条件を満たすのは、例えば、中空空間の直径が0.58λ(λ:共鳴周波数での波長)以下の場合である。また、部分空間151と部分空間152とは、実質的に互いに独立した空間として扱われる。ただし、部分空間151と部分空間152とが完全に遮断されていなくても、部分空間151に開口部12を開口端とし、隔壁14を閉口端とした1つの共鳴体が構成されていると扱える程度に両空間が接していてもよい。
【0026】
部分空間151に構成される共鳴体において、隔壁14が閉口端となるからx軸方向の長さはl1である。音響管10の開口部12に外部空間から共鳴周波数の音波が入射すると、部分空間151に構成された共鳴体はその入射波に応じて共鳴する。音響管10は共鳴によって生じる反射波を、開口部12を介して外部空間に放射する。この反射波と入射波との位相差により互いの波が干渉して打ち消しあうので、この作用により共鳴周波数付近の周波数帯域で吸音効果を奏する。部分空間151に構成された共鳴体の共鳴周波数f0は、部分空間151の長さl1を用いると式(1)の関係を満たす。式(1)において、vは音速(大気中であれば、約340m/s)であり、nは1以上の整数である。また、式(1)や以下の説明において開口端補正を無視する。
0=(2n−1)・v/4l1 ・・・(1)
【0027】
ここで、吸音・散乱ボックス1によって奏する吸音・散乱効果についてより具体的に説明する。
図10は、共鳴時における吸音・散乱ボックス1が備える箱型部材2の前面2a周辺の反射波の挙動を説明する図である。図10において、入射波の音圧が極大となる「山」が前面2a及び孔3(すなわち、開口部12)に到達し、それに応じた反射波が生成される様子を示している。また、同図には、反射波を実線と破線とで示しているが、実線は、反射波の音圧が極大となる「山」の位置を表しており、破線は、音圧が極小(「山」とは逆位相)となる「谷」の位置を表している。
【0028】
吸音・散乱ボックス1の前面2aに対して共鳴周波数の入射波が入射すると、共鳴によって生じる反射波として、前面2aは、入射波に対して位相が変位(完全反射であれば、180度変位)した反射波を放射する。前面2aは、反射性を有する材料で形成されており、前面2aから放射される反射波の位相は、入射波の位相に対してほとんど変位しない。すなわち、前面2aから放射される反射波の位相は、入射波とほぼ同位相の反射波とであり、図10の例では、前面2aの位置で「山」となっている。つまり、前面2aは、音響管10,20を収容する箱としてだけでなく、反射面(バッフル板)としても機能する。一方、孔3の位置では、音響管10の共鳴によって生じる反射波が放射され、図10の例では、孔3、すなわち開口部12の位置で「谷」となる。この作用により、孔3(開口部12)、及び前面2a付近である領域C1,C2において、前面2aからの反射波と孔3からの反射波とが互いに隣接し、且つ両者の反射波の位相が不連続となる現象が発生する。
【0029】
以上の作用によって、吸音効果は、開口部12付近の領域での共鳴現象により奏する。散乱効果は、前面2aに入射する入射波と反射波との位相干渉と、開口部12に入射する入射波と共鳴により生じる反射波との位相干渉との相互作用によって生じる。この作用によって開口部12付近では、前面2aに平行な成分を持つ方向に気体分子の流れが生じて、音が散乱する。このように、開口部12からの反射波と前面2aからの反射波とは、それらの位相角度が異なり、その位相差に応じた現象が近接した空間で発現するので、吸音・散乱ボックス1の構成によって、吸音効果及び散乱効果を同時に奏する。
【0030】
図11は音響管20の外観を示す斜視図である。図12は、図11に示す切断線VII-VIIで音響管20を切断したときの断面を表す図である。図11、12に示すように、音響管20は、本発明の筐体の一例である筐体21の内部に、中空空間が形成された中空状の部材である。音響管20の構成は、音響部20a,20b,20cの各部に大別される。音響管20において、音響部20a,20bの構成はそれぞれ、音響管10の構成と略同じである。よって、以下の説明において、音響部20aの構成のうち、音響管10の構成と対応する構成には末尾に「a」という符号を付して表し、音響部20bの構成のうち、音響管10と対応する構成には末尾に「b」という符号を付して表す。このような符号の関係にある構成どうしはそれぞれ同等の機能を実現するので、それらの説明を適宜省略する。また、音響管20によって奏する吸音・散乱効果は、音響管10の場合と同じ作用により生じるから、その説明についても適宜省略する。
【0031】
音響部20aの内部には、x軸方向に延在し、開口部12aを介して外部空間に通じる柱状の中空空間15a(本発明の第1の中空空間の一例)が形成されている。音響部20bの内部には、x軸方向に延在し、開口部12bを介して外部空間に通じる柱状の中空空間15b(本発明の第2の中空空間の一例)が形成されている。音響部20cは、両端開口の管状部材と同等の構成を有し、その内部には、y軸方向に延在する柱状の中空空間15c(本発明の第3の中空空間の一例)が形成されている。図12に示すように、中空空間15a,15bの延在方向はx軸方向に平行であり、中空空間15a,15bの延在方向(x軸方向)と、中空空間15cの延在方向(y軸方向)とは互いに直交する。中空空間15cは、中空空間15aと中空空間15bとの間に設けられ、中空空間15aと中空空間15bとを通じさせる通路に相当する。換言すれば、音響管20において、延在する中空空間15aと、延在する中空空間15bとのそれぞれから分岐する中空空間はともにの中空空間15cである。このようにして、中空空間15a,15b,15cによって、図12に示すような略「H」字型を成す連続した中空空間が形成される。
なお、説明の便宜のために、図12に示すように、中空空間15aと中空空間15cとの境界であり、中空空間15cの一端を端部161とし、中空空間15bと中空空間15cの境界となり、中空空間15cの他端を端部162とする。
【0032】
音響部20aには、リードスクリュー13aの回転により、筐体21に対して中空空間15aをx軸方向に移動する隔壁14aが設けられ、音響部20bには、リードスクリュー13bの回転により、筐体21に対して中空空間15bをx軸方向に移動する隔壁14bが設けられている。リードスクリュー13aは、モータ31bの回転軸に接続され、リードスクリュー13bは、モータ31cの回転軸に接続されている。部分空間151aのx軸方向の長さをl1aとし、部分空間152aのx軸方向の長さをl2aとする。また、部分空間151bのx軸方向の長さをl1bとし、部分空間152bのx軸方向の長さをl2bとする。また、中空空間15cのy軸方向の長さはlcである。隔壁14a,14bのx軸方向の長さは、隔壁14と同じでDである。なお、音響部20cの端部161,162の直径はDよりも僅かに小さくなるように形成されている。
以上の構成を有している音響管20において、中空空間15aには、開口部12aを開口端とし、隔壁14aを閉口端とした共鳴体が構成される。また、中空空間15bには、開口部12bを開口端とし、隔壁14bを閉口端とした共鳴体が構成される。
【0033】
図13は、吸音・散乱ボックス1の制御系を説明する図である。
制御装置40は、CPU等を備えた演算装置である。制御装置40は、音響調整卓300から制御情報が与えられると、その制御情報に応じた位置に隔壁14,14a,14bを設定させるための駆動信号を、それぞれ対応するモータ31a,31b,31cに出力する。モータ31a,31b、31cは、制御装置40からの駆動信号に応じて駆動し、この駆動により隔壁14,14a,14bをx軸方向に移動させて、閉口端である各隔壁の位置を設定する。この制御情報は、隔壁14,14a,14bのそれぞれの位置又は移動量に関するものである。制御装置40は、制御情報に従ってリードスクリュー13,13a,13bをそれぞれ独立して回転させる。すなわち、制御装置40及びモータ31a〜31cは、本発明の位置設定手段の一例である。なお、ここでは、リードスクリュー毎に1ずつモータを用いているが、クラッチやギア等を用いて、1のモータでリードスクリュー13,13a,13bを回転させるようにしてもよい。また、モータ以外の駆動手段を用いてもよい。
【0034】
以上説明した構成を有する吸音・散乱ボックス1では、制御装置40が隔壁14,14a,14bの位置を移動させて、音響管10,20に構成される共鳴体の閉口端の位置を変更する。この制御により、吸音・散乱ボックス1によって奏する吸音・散乱効果の周波数帯域が変化させられる。
音響管10については、隔壁14の位置に応じて、共鳴体の開口端(つまり、開口部12)の位置に対する閉口端の位置が変化するから、部分空間151のx軸方向の長さl1が変化して、音響管10の共鳴周波数f0が変化する。具体的には、開口部12の位置に隔壁14が移動させられたときには、l1は最小値「0」となるし、隔壁14が開口部12の反対側の端部に移動させられたときには、l1は最大値「L−D」となる。よって、音響管10の共鳴周波数f0は、およそ0≦f0≦(2n−1)・v/4(L−D)という関係を満たす。隔壁14が開口部12寄りの位置に移動させられるほど、部分空間151の長さl1が短くなるので共鳴周波数が高くなり、高い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏する。一方、隔壁14が閉口端側の位置に移動させられるほど、部分空間151の長さl1が長くなるので共鳴周波数は低くなり、低い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏する。
【0035】
次に、音響管20において生じる共鳴について説明する。
図12に示す例では、隔壁14a,14bによって各音響部の部分空間が他の空間と隔てられている。よって、音響管20の共鳴周波数f0は、音響部20aの部分空間151aの長さl1a、及び音響部20bの部分空間151bの長さl1bによって決まり、式(1)のl1をl1a,l1bに置き換えた共鳴周波数となる。
【0036】
図14は、図12と同じ方向に音響管20を切断したときの断面図である。なお、図14ではモータ31b、31cの図示を省略する。
図14(a)は、図12に示す位置から隔壁14a、14bの位置が変更させられた場合を表したものである。図14(a)に示す位置に隔壁14bがある場合、隔壁14aによって中空空間15cが塞がれ、中空空間15aと、中空空間15b及び15cとが隔てられる。一方で、隔壁14bは中空空間15c(つまり、端部162)に接しない位置にあり、音響部20b、20cによって1つの管が形成される。これにより、部分空間151bと中空空間15cとによって、「L」字型の空間が形成される。図14(a)に示すように、部分空間151bと中空空間15cとが通じている場合に、これらが分岐しないか、又は、或る許容範囲内で分岐するが実質的に分岐しないとみなせる位置に隔壁14bがあるときには、音響部単体の全長よりも長い1つの管が形成される。これにより、音響部単体により実現可能な共鳴周波数よりも、さらに低い共鳴周波数を得ることができる。開口部12a,12bを開口端とした各共鳴体は、それぞれ隔壁14aを閉口端とする空間に構成される。これにより、音響管20の共鳴周波数f0には、音響部20aの部分空間151aの長さl1aに応じて式(1)により算出される周波数と、部分空間151bと中空空間15cとの合計の長さl1b+lcに応じた周波数とが存在する。音響管20においては部分空間151bと中空空間15cとが連なっているので、音響管20内部に構成された共鳴体の全長を、音響部単体で構成される共鳴体よりも長くすることができる。これにより、低い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏する。
【0037】
同様に、隔壁14bによって中空空間15cが塞がれて、中空空間15bと、中空空間15a、15cとが隔てられる場合がある。この場合、開口部12a,12bを開口端とした共鳴体は、それぞれ隔壁14bの位置を閉口端とする。音響管20の共鳴周波数f0には、音響部20bの部分空間151bの長さl1bに応じて式(1)により算出される周波数と、部分空間151aと中空空間15cとの合計の長さl1a+lcに応じた周波数とが存在するから、この場合も低い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏する。この場合、隔壁14aは中空空間15c(つまり、端部161)に接していない。このとき、音響部20a、20cによって1つの管が形成されて「L」字型の空間が形成されており、その空間は途中で分岐していない。このように、部分空間151aと中空空間15cとが通じる場合、これらが分岐しないか、又は、或る許容範囲内で分岐しないとみなせる位置に隔壁14aがあるときには、音響部20b、20c音響部単体の全長よりも長い1つの管が形成される。これにより、音響部単体により実現可能な共鳴周波数よりも、さらに低い共鳴周波数を得ることができる。
【0038】
次に、図14(b)に示す位置に隔壁14a,14b(閉口端の位置)がある場合、中空空間15cは塞がれず、中空空間15a,15b,15cはすべて通じている。また、部分空間151aと、中空空間15cと、部分空間151bとにより「コ」字型の空間が形成され、その空間が途中で分岐していない。このように、部分空間151aと、中空空間15cと、部分空間151bとが通じる場合に、これらが分岐しないか、又は、或る許容範囲内で分岐しないとみなせる位置に隔壁14a,14bがあるときには、音響部20a、20b、20c音響部単体の全長よりも長い1つの管が形成される。これにより、音響部単体により実現可能な共鳴周波数よりも、さらに低い共鳴周波数を得ることができる。この構成において、共鳴体の全長は中空空間15a,15b,15cの延在方向の合計の長さに相当する大きさとなる。つまり、音響管20の共鳴周波数f0は、中空空間15c、部分空間151a及び151bの長さの合計l1a+lc+l1bに応じた周波数となる。ただし、開口部12aを一端とし、開口部12bを他端とした1つの管が音響管20に構成されることになるから、共鳴周波数f0は両端開口の音響管の場合と同様で式(2)の関係を満たす。式(2)において、vは音速であり、nは1以上の整数である。また、以下の説明において開口端補正を無視する。
0=n・v/2(l1a+lc+l1b) ・・・(2)
【0039】
両端開口の音響管の共鳴周波数と、一端開口の音響管の共鳴周波数とを同一にする場合、両端開口の音響管の方が管全体としての長さが大きくなるが、図14(a)の場合よりもさらに共鳴周波数を低く設定することもある。
【0040】
以上述べたように、図12に示す位置に隔壁14a,14bがある場合や、図14(a)に示す位置に隔壁14aがある場合など、これらの隔壁が決められた位置に移動させられたときには、一の音響部の内部に形成された中空空間と、これと異なる他の音響部の内部に形成された中空空間との間の通路(中空空間)が塞がれる。一方、隔壁14a,14bが図14(b)に示す位置にあるとき、及び隔壁14bが図14(a)に示す位置にあるときには通路は塞がれず、複数の音響部の中空空間が通じて1つの管が構成される。この場合、共鳴体の全長が音響部20a,20b,20c単体で構成される共鳴体のそれよりも大きく、共鳴周波数をさらに低くすることができる。低い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏するためには、共鳴体をかなり大きくせざるを得ないという問題があるが、これに対し、音響管20の外形は図12,14に示したように、音響部20a、20bとがx軸方向に対して平行で、且つx軸方向に対する位置が略同じであるから、共鳴体の長さを十分に確保しつつ、吸音・散乱ボックス1全体としての寸法を小さくすることができる。また、移動部材としての隔壁14,14a,14bは、音響管10,20の中空空間を移動するから、その移動に応じて音響管10,20自体の寸法が変化することもなく、比較的小型の箱型部材2内に音響管10,20を収容することができる。
【0041】
図15は、音響管20によって実現される共鳴周波数の計算結果の一例を示す図である。なお、ここでは、l1a=500mm,l1b=200mm,lc=100mmとし、複数の共鳴周波数f0のうち、低いものから順に、f01,f02,f03,f04[Hz]と表す。図15に示す第1行及び第2行は、図12に示される位置に隔壁14a,14bが位置する場合の共鳴周波数を示したものである。同図に示すように、この場合、170Hz,425Hz,510Hz,850Hz,1190Hz,1275Hz,2125Hz,2975Hzに共鳴周波数が実現される。第1行、第3行は、図14(a)に示される位置に隔壁14a,14bが位置する場合の共鳴周波数を示す。この場合、170Hz,283Hz,510Hz,850Hz,1190Hz,1417Hz,1983Hzであり、図12の場合よりも共鳴周波数は全体として低くなっている。また、第2行、第4行は、図14(a)の場合とは異なり、隔壁14bによって中空空間15cが塞がれて、中空空間15bと、中空空間15a、15cとが隔てられる場合の共鳴周波数である。この場合、142Hz,425Hz,708Hz、992Hz,1275Hz,2125Hz,2975Hzに共鳴周波数が実現される。また、図14(b)の場合、第5行に示されるように、213Hz,425Hz,638Hz,850Hzに共鳴周波数が実現され、図12や図14(a)の場合よりも、共鳴周波数の総数は少なくなるが、低い周波数帯域に集中して共鳴周波数が現れる。このように、隔壁14a,14bの位置によって、かなり広い周波数範囲から共鳴周波数を選択可能である。
【0042】
以上の構成により、吸音・散乱ボックス1の共鳴周波数は可変に構成されている。また、PAエンジニアUは、第1調整操作部342を操作するだけで、吸音・散乱ボックス1の吸音・散乱特性を変化させることができる。
【0043】
(C)吸音・散乱パネル50の構成
次に、吸音・散乱パネル50の構成について説明する。
図16は、吸音・散乱パネル50の外観を示す斜視図である。図17は、吸音・散乱パネル50を構成する中空部材51−1〜51−5の断面を表す図である。図17(a)は、図16の切断線XI−XIで切断したときの断面を表した図であり、図17(b)は、図16の切断線XII−XIIで切断したときの断面を表した図である。吸音・散乱パネル50は、本発明の音響構造体の一例である。
中空部材51−1〜51−5は、それぞれ本発明の筐体の一例であり、それぞれ同じ延在方向に配列され、同じ長さを有している。中空部材51−1〜51−5は、図16に示すように、開口部52−1〜52−5の位置がそれぞれ異なるだけで、その他の構成は略同じである。以下の説明において、中空部材51−1〜51−5のそれぞれを区別する必要のないときには「中空部材51」と総称し、開口部52−1〜52−5のそれぞれを区別する必要のないときには「開口部52」と総称する。また、説明の便宜のために、中空部材51−1〜51−5の延在方向の成分を「x軸」とし、x軸に直交し、中空部材51−1〜51−5が並べられた方向の成分を「y軸」とし、x軸及びy軸に直交する方向の成分を「z軸」としたxyz直交座標系を定める。
【0044】
中空部材51は、例えばアクリル樹脂等を材料として角筒状に形成されている。中空部材51−1〜51−5は、ぞれぞれの閉口端(底面)の位置がx軸方向に対して同じであるよう、y軸方向に対して配列されている。吸音・散乱パネル50において、隣り合う中空部材51−1〜51−5どうしは、接着される等して一体とされている。中空部材51の内部には、x軸方向に延在する直方体状の中空空間53が形成されている。また、中空部材51には、中空空間53を外部空間に通じさせる正方形の開口部52が設けられている。また、図示しないが、吸音・散乱パネル50はケーブルを介して音響調整卓300の通信インタフェース350と接続されている。吸音・散乱パネル50は、音響調整卓300から制御情報が供給されると、供給された制御情報に応じて駆動する。
なお、ここでは、吸音・散乱パネル50を構成する中空部材の数を「5」としているが、この数は一例に過ぎず、さらに多くてもよいし、少なくてもよい。
【0045】
吸音・散乱パネル50において、中空部材51の中空空間53が共鳴体として構成されている。具体的には、中空部材51の閉口端511を一端とした共鳴体と、中空部材51の閉口端512を一端とした共鳴体とが構成される。これらの共鳴体は、開口部52を介して外部空間から入射する音波に応じて共鳴する。ここで閉口端511の位置を一端とする共鳴体の長さをl1とし、閉口端512の位置を一端とする共鳴体の長さをl2とすると、中空部材51の共鳴周波数f0は、共鳴体の長さl1、l2に応じた固定の周波数となる。上述したように、中空部材51−5〜51−5において、開口部52−1〜52−5のx軸方向に対する位置がそれぞれ異なるから、共鳴周波数はそれぞれ異なる。また、中空部材51の表面はそれぞれ反射面として機能し、その表面からの反射波と開口部52から放射される反射波との関係が、図10に示す関係となることにより、吸音・散乱パネル50によって吸音・散乱効果を奏する。また、図16に示すように、開口部52−1、・・・、52−5の順に、閉口端511寄りの一端の位置から中空空間53の中央部の位置まで、少しずつ位置を変えて開口部が設けられている。この場合、吸音・散乱パネル50による吸音・散乱効果を奏する周波数帯域のうち、中空部材51−1寄りにある中空部材ほど、その周波数帯域の高域側及び低域側の周波数帯域での吸音・散乱効果を奏することに寄与する。一方、中空部材51−5寄りにある中空部材ほど、その周波数帯域の中心に近い周波数帯域での吸音・散乱効果を奏することに寄与する。
【0046】
また、図17(a),(b)に示すように、中空部材51の開口部52の位置には、板状の開閉部材54が開口部52を塞ぐようにして設けられている。開閉部材54は、例えば中空部材51と同じ材料により形成され、入射する音波を遮る材料で形成されている。なお、開閉部材54の材料は、音波を全く透過させないものに限らず、共鳴現象の発生を十分に抑制するような、音波をほとんど透過させないものであればよい。開閉部材54には、「閉状態」と「開状態」という2つの状態がある。「閉状態」においては、中空部材51の開口部52を塞いで外部空間から中空空間53に入射する音波を遮り、「開状態」においては、開口部52を塞がない。この「開状態」は、開閉部材54が外部空間から中空空間53に入射する音波を遮らない状態のことである。すなわち、中空空間53が開口部52を介して外部空間に連通しており、外部空間からの音波が開口部52を介して中空空間53に入射する状態を総称する。開閉部材54の位置は、図17(a)に示すように、モータ60及び制御装置70により変更させられる。制御装置70は、音響調整卓300から開閉部材54の開閉状態に関する制御情報が与えられると、この制御情報に応じてモータ60に駆動信号を供給する。モータ60は、制御装置70からの駆動信号に応じて、開閉部材54により開口部52を塞いで「閉状態」としたり、中空部材51による支持点を中心として、「閉状態」の位置から開閉部材54を90度だけ回転させて、「開状態」としたりする。「閉状態」である中空部材51の中空空間53には、外部空間からの音波が入射しないので、共鳴現象は生じず、吸音・散乱効果は発現しない。なお、開閉部材54の開閉に係る構成にはスライド式でもよく、これ以外の開閉を切り替え可能な種々の公知の手法を採り得る。
なお、モータ60は、中空部材51−1〜51−5のそれぞれに対して1ずつ設けられており、制御装置70は中空部材51毎に独立して開閉状態を切り替える制御を行う。すなわち、制御装置70及びモータ60は、本発明の切替制御手段の一例である。
【0047】
次に、吸音・散乱パネル50により発現する吸音・散乱効果について、図18を参照しつつ説明する。
図18(a)〜(c)はそれぞれ、中空部材51の開閉状態と、吸音・散乱効果を奏する周波数域との関係を説明する図である。図18(a)〜(c)において、開口部52がハッチングされたものは開閉部材54により塞がれていることを意味し、中空部材51が「閉状態」であることを意味する。一方、開口部52がハッチングされていないものは開閉部材54により塞がれていないことを意味し、中空部材51が「開状態」であることを意味する。また、図18(a)〜(c)に示すグラフの横軸は周波数を表し、縦軸は吸音・散乱効果を奏する程度の大きさを表す。横軸については矢印方向に周波数が高くなり、縦軸については矢印方向に吸音・散乱効果が高くなることを意味する。また、吸音・散乱効果を奏する周波数帯域の中心周波数をfcとする。
【0048】
まず、図18(a)は、開口部52−1〜52−5のすべてが開放し、中空部材51−1〜51−5すべてが「開状態」である場合を例示したものである。この場合、グラフに実線で示すように、中心周波数fcを中心として比較的広い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏する。図18(b)は、中空部材51−1のみが「閉状態」で、中空部材51−2〜51−5が「開状態」の場合を例示したものである。上述したように、中空部材51−1の開口部52−1は、他の中空部材に比べて最も閉口端511側に位置するから、この中空部材51−1が「閉状態」となると、図18(a)において吸音・散乱効果を奏する周波数帯域のうち、高域側の帯域および低域側でその効果を奏しなくなる。よって、図18(b)に実線で示すように、吸音・散乱効果を奏する周波数幅は、点線で示した図18(a)の場合よりも小さくなる。すなわち、吸音・散乱特性の鋭さ(Q値)は大きくなる。なお、吸音・散乱特性の鋭さのことを、以下では単に「鋭さQ」ということがある。図18(c)は、中空部材51−1〜51−3が「閉状態」で、中空部材51−4及び51−5が「開状態」の場合を例示したものである。この場合、図18(a)、(b)に実線で示す周波数帯域のうち、高域側の帯域および低域側の帯域で吸音・散乱効果を奏しなくなる。実線で示したようにその効果が発現する周波数帯域はさらに小さくなる。よって、図18(c)に示すように、点線で示した図18(a)、(b)の場合よりも、吸音・散乱特性の鋭さQはさらに大きくなる。
以上のように、吸音・散乱パネル50によれば、制御装置70が中空部材51−1〜51−5の開閉状態をそれぞれ切り替えることにより、吸音・散乱効果を奏する周波数幅を変更させて、鋭さQを調整することができる。
【0049】
なお、制御装置70による中空部材51−1〜51−5のどれを「閉状態」とし、又は「開状態」とするかは音響調整卓300の操作者の操作内容に依存する。よって、例えば、中空部材51−3のみを「閉状態」とし、それ以外を「開状態」とする構成であってもよく、制御装置70は、各開口部52−1〜52−5に設けられた開閉部材54を個別に開閉状態を制御するものであればよい。
このように、吸音・散乱パネル50によれば、制御装置70が中空部材51−1〜51−5のそれぞれの開閉状態をそれぞれ切り替えることにより、吸音・散乱効果を奏する周波数幅を可変にすることができる。
【0050】
以上説明した吸音・散乱パネル50によれば、制御装置70は中空部材51−1〜51−5のそれぞれの開閉状態を切り替えることにより、中心周波数fcを中心とした、吸音・散乱効果を奏する周波数幅を変化させる。これにより、吸音・散乱特性の鋭さQが変化する。このような吸音・散乱パネル50においても、PAエンジニアUは音響調整卓300を操作する簡易な操作を行うだけで、吸音・散乱パネル50によって奏する吸音・散乱効果音の周波数帯域を可変にすることができる。
【0051】
(D)音響調整システム5の構成のまとめ
吸音・散乱ボックス1は、音響空間R内の複数の位置に配置され、例えばスピーカ装置のスピーカボックス上に置かれる。吸音・散乱ボックス1は、外観の構成が直方体であるから、その積み上げがしやすく、設置位置や設置数を変えるための作業負担は少ない。よって、所望する吸音・散乱効果を得るための調整を容易に行える。また、吸音・散乱ボックス1及び吸音・散乱パネル50は、それぞれ独立した部材として扱え、吸音・散乱ボックス1の位置の調整も比較的容易に行えるから、音響特性を測定しながら、それが所望する特性となるように、吸音散乱体の設置態様を微調整することもできる。
【0052】
また、吸音散乱体を、音響空間の壁面や天井付近に設置した場合、拡声システムにより拡声して発せられた音や、拡声していない生音の周波数特性上のピーク或いはディップ(カラレーションやハウリングに関連する周波数特性上の癖)を、壁面や天井に近い位置で改善することができる。また、これらの部材の取り付け位置や設置数についても制約をさほど受けずに、その調整をより自在に行える。また、吸音散乱体を拡声システムのマイクロホンの近くまたはスピーカの近くに設置した場合、収音または発音される音を直接制御するので、吸音散乱体による吸音・散乱効果が高まり、音響空間Rの音響特性に与える影響を大きくすることができる。
【0053】
(E)音響調整システム5による制御
音響調整システム5において、PAエンジニアUが音響調整卓300の操作部340を操作すると、制御部310はその操作に応じて、スピーカSPから放音される音の音信号の特性を変化させるほか、吸音・散乱ボックス1が備える隔壁14,14a,14bの位置を移動させたり、吸音・散乱パネル50の開閉部材54の開閉状態をそれぞれ切り替えたりする。従来、ホール内にハウリング等の音響障害が生じた場合、音信号の所定の周波数帯域の音圧レベルを低下させることで、ハウリング等の音響障害を抑制するという対応が採られていた。この場合、音源から与えられた音信号を変化させてしまうことになり、例えば本来音圧レベルを上げたい帯域のそれを上げられないなど、音源からの音の特性を損なわせてしまうことがあった。これに対し、音響調整システム5によれば、吸音散乱体も音響特性の調整に寄与させることができる。これにより、従来のように音信号のみを調整の対象とする場合に比べて、音信号を変化させずに、又はその変化を小さくして、音響空間の音響特性の調整を行うことができる。よって、音響調整システム5によれば、音源の特性を損なうことなく、音響空間に出力する拡声音の調整ができる。
【0054】
また、PAエンジニアUは、演奏などの公演中にスピーカSPや、モニタスピーカから放音される音を調整することがある。実際のコンサートでは、歌い手がボーカルマイクを持ってステージ上を移動しながら歌唱したり、観客に語りかけたりしながら歌唱を進行していく。この場合、PAエンジニアUは、上述のように移動する歌い手に応じて時々刻々と変動するハウリングなどを防止するとともに、所望の拡声音の品質を維持するために、ボーカルマイクの移動に応じて音響調整卓300の調整内容を時々刻々と変更させなければならない。しかしながら、音響障害を回避するために音信号を調整すると、客席SEにいる観客に聞こえる音も変化してしまい、歌い手の歌唱音声において違和感を与えやすくなる。これに対し、音響調整システム5によれば、吸音散乱体を調整して音響空間Rの音響特性を変化させることで、演奏音そのものを変化させずに済むことがあるから、観客に違和感を与えなくて済む。
以上のように、音響調整システム5の構成によれば、音源から与えられた音信号の特性の制御と、吸音散乱体の制御との協働させることで、音響特性の調整を従来よりも自在に行うことに寄与させることができる。
【0055】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
上述した第1実施形態の音響調整システム5では、PAエンジニアUによる音響調整卓300の操作に応じて、吸音散乱体を制御して音響特性を変化させていた。これに対し、この実施形態の音響調整システムは、第1実施形態で説明した構成のほか、音響特性の調整に係る自動制御を行う機能を有している。
【0056】
図19は、音響調整システム5aの構成を模式的に表す図である。なお、音響調整システム5と同じ構成については同じ符号を付して表し、その説明を省略する。音響調整システム5aにおいては、音響空間Rの複数の位置に収音手段としてのマイクロホンMICが設けられている。マイクロホンMICは、周囲の音を収音し、収音した音を表す音信号を制御部310に出力する。
続いて、制御部310が実行する制御について説明する。
【0057】
(I)試験用信号を用いた音場の制御
まず、試験用信号を用いた音場の制御について説明する。
本番演奏前などの音響特性の調整時において、制御部310は、あらかじめ決められた試験用信号に応じて、それぞれのスピーカSPに放音させる。この試験用信号は、例えばピンクノイズであり、音圧レベルの周波数特性が既知の音信号の一例である。制御部310は、スピーカSPに放音させた試験用信号に応じた音をマイクロホンMICにより収音し、その収音音を表す音信号を取得する。そして、制御部310は、取得した音信号を解析して、その音信号によって表される音圧レベルの周波数特性を、音場の音響特性として特定する。
【0058】
次に、制御部310は、特定した音場の音響特性と、その音場において基準となる音響特性(以下、「基準特性」という。)とを対比して、音響空間Rで特定した音場の音響特性を基準特性に近づけるための吸音散乱体の制御を行う。基準特性については、試験用信号の特性に基づいてあらかじめ決められており、それを表すデータは記憶部320に記憶されている。基準特性は、好ましい音響特性を表すものとして定められていればよく、音場の種類、音楽の種類、公演の内容、PAエンジニアの嗜好等の音響条件に応じたものである。
ここでは、制御部310は、特定された音響特性の音圧レベルの周波数特性と、周波数成分毎に決められた基準特性の音圧レベルの周波数特性とを対比し、周波数帯域ごとに両者の差異が小さくなるよう、吸音散乱体を制御する。具体的には、制御部310は、特定された音響特性の音圧レベルの周波数特性において、基準特性よりも音圧レベルの高い周波数帯域を特定すると、その周波数帯域において吸音効果を高めるよう、吸音散乱体の駆動を制御する。このとき、所定の周波数帯域(例えば、可聴域)での差異が平均的に小さくなるようにしてもよいし、特定の周波数帯域を重視して、その帯域での差異を優先して小さくする制御が行われてもよい。また、この制御により、吸音効果だけでなく散乱効果を高めることにも寄与させることができる。
また、自動制御の対象となる音響特性は、音圧レベルの周波数特性以外のものであってもよく、上述した音響特性を残響特性としてもよい。この場合、例えば低周波数帯域(250Hz、1/1オクターブバンド)の長すぎる残響時間を短くするよう、低周波数帯域で奏する吸音効果を高める制御が為されてもよい。また、或る特定の場所での或る周波数の音を局所的に低減したい場合には、制御部310は、その特定の場所でのその周波数での吸音効果を高めるようにしてもよい。この場合、制御部310が、その特定の場所に対応する位置に設置された吸音散乱体を選択して制御し、伝送周波数特性のピークを下げるとよい。
【0059】
ところで、制御部310が制御対象とする吸音散乱体については、各マイクロホンMICに対応付けてグルーピングして割り当てられていればよい。制御部310は、各々のマイクロホンMICの収音結果に基づいて、そのマイクロホンMICに割り当てられた吸音散乱体を制御対象として選択する。その一例として、マイクロホンMICの場所から近い順に決められた数の吸音散乱体が制御対象として割り当てられる。マイクロホンMICの場所での音響特性については、それに近い吸音散乱体ほど、マイクロホンMICの場所での音響特性の調整させやすいことがあるからである。
【0060】
また、制御部310は、音響空間Rのうち予め決められた場所(以下、「優先場所」という。)の音響特性の制御を優先して行ってもよい。音響空間Rでは、観客席SEを優先場所とすればよく、人物が居る場所として予め決められた場所を優先場所とするのが好適である。この場合に、制御部310は、観客席SEの場所から近いものや、スピーカSPなどの発音体に近い場所にある吸音散乱体を制御し、優先場所での音響特性が基準特性に一致するか、許容範囲で一致するようにしてから、他の吸音散乱体の制御を行うとよい。このようにすれば、観客席など特に吸音・散乱効果を高めたい場所で奏する効果を顕著にすることができる。なお、観客席SEに限らず、音響空間R内のどの場所を優先場所としてもよい。
【0061】
(II)試験用信号以外の音信号を用いた制御
制御部310は、試験用信号に代えて、実際の演奏音やハウリング音をマイクロホンMICに収音させ、その収音した音を表す音信号に基づいて音響特性の調整を行ってもよい。例えば、演奏音が高周波数帯域に主要な成分を持つものであれば、制御部310はその中で音圧の振幅レベルが特に高い周波数帯域で吸音・散乱効果を奏するような制御を行う。
【0062】
(III)音信号を用いない制御
音響特性の調整は、マイクMICによる収音結果によるものに限定されない。
例えば、制御部310は、音場の条件毎に決められた基準特性(音場の種類や、舞台条件、聴衆の数など)を基に音響特性の制御を行ってもよい。音場の種別は、ホールのほか、駅やデパート、遊園地など屋外施設、競技場、体育館など様々である。例えば、体育館においては、観客の声援やスポーツ選手の発する打撃音などが適度に響くよう、適切な残響特性であることが好ましい。よって、ある程度以上の残響があり、且つ過度ではない残響がある音響特性であることが好ましい。一方、講演会などが行われる音響空間では、残響が過度であると、話者の話が響きすぎて、聴衆にとっては音の明瞭度が低下する。よって、残響特性を適度に少なくし、人間が聞き取る音声に相当する周波数帯域(例えば、可聴域)の音を明瞭する音響特性が好適である。また、舞台条件、聴衆の数によっても、残響特性などの音響特性が音響空間の物理的条件に応じて変化することは周知の事実である。
【0063】
このように、音場の種類により、あるいは音場の物理的条件により音響的なサービス内容(目的)が異なるから、それに応じて好ましい音響特性は異なる。また、同種の音場であっても種々の原因により音響特性の調整に係る制御内容は異なる。
【0064】
そこで、制御部310は、PAエンジニアUの操作部340の操作により、音場の種別などを含む音場の条件が入力されると、入力された音場の条件に応じた基準特性に近づけるよう、音響空間Rの音響特性を制御する。この場合、上述の音場の条件と、基準特性との対応関係が予め記憶部320に記憶されており、制御部310は、PAエンジニアUにより入力された音場の条件に対応付けて記憶された基準特性を記憶部320から読み出して、音響特性の制御に反映させるとよい。
【0065】
(IV)音場に応じた制御対象の選択
また、音場の種別が同じであっても、音場ごとに制御対象とする吸音散乱体を異ならせて更に詳細かつ最適な制御を行えるようにしてもよい。
例えば、音響空間の形状や材料によっては音が伝搬する経路が異なるが、この伝搬経路に吸音散乱体を設置すると、それ以外の場所に吸音散乱体を設置する場合に比べて、奏する吸音・散乱効果は高まる。また、或る周波数帯域の吸音・散乱効果を高めたい場合に、制御対象とする吸音散乱体の位置をすべて同じにしても、設置する吸音散乱体の構造や種類の違いによっては、実際に吸音・散乱効果を奏する周波数帯域が異なることがある。例えば、吸音散乱体が設置される空間と、吸音散乱体が持つ筐体内の空間との連成振動に係る相互作用により、吸音散乱体が単独で持つ吸音散特性とは異なる別の或る周波数帯域で吸音・散乱効果を奏することがある。このようになるのは、吸音散乱体が設けられる音場、すなわち音響空間Rと吸音散乱体とが音響的に一体となり、1つの共鳴体とみなすことができるからである。これら相互関係から上記連成振動が生じ、吸音散乱体と共鳴体でエネルギーの授受が行われて、別の周波数帯域で吸音・散乱効果を奏することがある。
このように、音響空間毎に制御対象とする吸音散乱体を異ならせて制御を行うことで、制御部310が所定数の吸音散乱体の中で最適な組み合わせを選択して、最上の効果を奏するための制御を行うことも可能である。この場合、音響調整システム5aにあっては、音場ごとに、吸音・散乱効果を奏する周波数帯域と、制御対象とする吸音散乱体との対応関係を記憶部320に記憶しておく。そして、制御部310はこの対応関係に従って、制御対象の吸音散乱体を選択する。
【0066】
以上の音響調整システム5aによれば、吸音散乱体の自動制御によって、音場毎の個別の音響特性が、予め決められた音響特性(基準化された標準特性)となるような制御が可能である。その上で、PAエンジニアUは音調整操作部341を操作して、音場毎の個別の音響特性ではなく、基準化された標準特性を対象に音源の調整加工を行うことができる。この調整加工にあっては、制御部310の制御により、ハウリングなどの音響特性が発生し難いものに既に修正されているので、PAエンジニアUは音楽作りのためのより創造的な作業に専念することができる。また、音場毎の個別の音響特性すなわちホール毎の条件等によらず、一定の標準特性に基準化されているので、ホールの特性によって調整内容の差異が小さくなり、音作りの作業がやり易く、音場の音響特性の調整を自在に行えるという効果がある。
【0067】
なお、この第2実施形態において、制御部310は記憶部320に記憶された制御プログラムに従って音響調整システム5aの各部を制御する。この制御プログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク(HDD、FD)など)、光記録媒体(光ディスク(CD、DVD)など)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録した状態で提供し得る。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。また、この実施形態の音響調整システム5aを自動制御のみを行うものとしてもよく、この場合、音響調整卓300に代えて、コンピュータ装置等の情報処理装置を音響調整装置として適用することもできる。
【0068】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施することが可能である。また、以下に示す変形例は、各々を適宜に組み合わせてもよい。
[変形例1]
上述した各実施形態では、音響調整卓300が音信号調整部360を有していたが、音信号調整部360に相当する構成は音響調整卓300の外部に設けられていてもよい。この場合、音響調整卓300は、音信号調整部360に操作内容に操作信号を供給し、音信号調整部360はその操作信号に応じて音信号の特性を変化させる制御を行う。
【0069】
[変形例2]
上述した各実施形態の吸音・散乱ボックス1は、音響管10,20が1つずつ箱型部材2内に設置された構成を有していたが、音響管10,20の数はそれぞれいくつであってもよい。また、箱型部材2の形状は、例えば球型や、六面体よりも面数の多い多面体状の箱型の部材によって構成されてもよい。また、音響管10,20の一部又は全体が外部空間に露出するように構成されていてもよい。この場合、音響ホールの壁面や天井面を反射面として利用し、その反射面からの反射波と、音響管10,20が放射する反射波との関係が図10の関係を満たすような位置関係になるようにすれば、実施形態と同じように吸音・散乱効果を奏することができる。また、音響管10,20のみの配置の仕方によっては散乱効果を奏しないこともあるが、少なくとも吸音効果を奏する。
また、音響管10の管状部材11や隔壁14、音響管20の筐体21や隔壁14a,14bの材料は、金属に限らず、合成樹脂や木材等の他の材料により形成されていてもよい。
【0070】
[変形例3]
上述した各実施形態において、音響管20は音響部20a,20b,20cの3つの音響部により構成されていたが、さらに多くの音響部を有する構成であってもよい。音響部の数に関係なく、隔壁が決められた位置に移動させられたときには、通路に相当する中空空間が塞がれて、複数の音響部の中空空間どうしが隔てられ、隔壁がそれ以外の位置に移動させられたときには複数の音響部の中空空間どうしが連なるようにすれば、共鳴周波数をより広い周波数帯域から設定可能となる。また、音響管20において、音響部20a,20bの内部空間はx軸方向に延在し、音響部20cの内部空間はy軸方向に延在していたが、これらの延在方向はxy平面上、又はxyz空間においてどの方向を向いていてもよい。また、音響管10,20の筐体や、その中空空間をyz平面方向に切断したときの断面形状が円形となるものに限らず、例えば別の形状となるようにしてもよい。ただし、隔壁14,14a、14bは音響管10,20の中空空間を複数に隔てるものであるから、その断面形状に応じた形状、寸法のものが用いられる。また、音響管10や、音響管20の音響部20a,20b,20は、一方向(x方向)に延在する中空空間を有していたが、中空空間に共鳴体が構成されればよく、例えば湾曲状である等の他の形状であってもよい。
また、上述した実施形態では、音響管20の中空空間には隔壁14a,14bが設けられていたが、そのうちの片方を設けない構成としてもよい。この構成において、例えば隔壁14aを設けないようにして、さらに音響部20bの閉口端側を開口端に変更しても良い。また、隔壁14bを設けないようにし、さらに音響部20bの閉口端側を開口端に変更してよい。このような構成にすると、音響管20の内部には、両端開口の共鳴体が構成されるので、実施形態の構成と異なる共鳴周波数の設定が可能となる。
【0071】
上述した各実施形態では、中空部材51は角筒状の部材であったが、円柱状や底面が多角形の柱状に構成されていてもよく、さらに別の形状であってもよい。要するに、音響管が有する延在する中空空間が共鳴体と機能するとともに、その断面方向には音圧分布がほとんど生じないような小ささであればよい。また、中空空間53を、yz平面方向やxz平面方向に切断したときの断面の形状が別の形状であってもよい。また、中空部材51は、2つの共鳴体が構成されるように中空部材51の側面に開口部52が設けられていたが、閉口端511,512を開口させるようにしてもよい。また、中空部材51は、2つの共鳴体が一直線上に位置するように構成されていたが、それ以外の角度をなすように構成されていてもよい。また、各共鳴体は同一平面(xy平面)上に構成されていなくてもよく、各共鳴体の延在方向はxyz空間内においてどの方向に向いていてもよい。また、中空部材51は、金属や木材などの他の材料で形成されていてもよい。
【0072】
また、上述した各実施形態では、吸音・散乱パネル50は、それぞれ別々の部材である中空部材51−1〜51−5によって構成され、その各々が中空空間を有することにより、吸音・散乱パネル50に複数の共鳴体が形成されていた。この構成に代えて、内部に中空空間が形成された箱状部材を用い、その中空空間をx方向に延在する仕切部材(例えば、板状部材)によって複数の中空空間にそれぞれ分けることにより、複数の中空空間が、それぞれ共鳴周波数の異なる共鳴体として構成されるようにしてもよい。この構成であっても、中空部材51は、中空空間をそれぞれ外部空間に通じさせる複数の開口部を有することになる。
【0073】
[変形例4]
上述した各実施形態の吸音・散乱ボックス1において、音響管10,20の内部に構成される共鳴体の全長が変更されるように構成されていれば、共鳴周波数を可変にすることができる。よって、筐体の開口部を開口端とした共鳴体において、閉口端となる移動部材を設けておき、制御装置が移動部材の位置を移動させて共鳴体の開口端の位置に対する閉口端の位置を変更する構成を有していればよい。すなわち、隔壁14,14a,14bに代えて、中空空間を移動可能な他の形状や他の寸法の部材を用いてもよい。例えば音響管10に代えて、図20に示すような音響管100を用いてもよい。
【0074】
図20は、この変形例に係る音響管を例示する断面図である。図20(a)は、音響管100に伸縮可能な機構を設けた音響管100を、図9と同一方向に切断したときの断面を表した図であり、図20(b)は、同図(a)の状態から音響管100を縮めたときの断面を表した図である。
図20(a)に示すように、音響管100は、第1部材101と、第2部材102により構成され、内部には柱状の中空空間103が形成されている。第1部材101は、内部空間を外部に連通させる開口部120を有する中空状の部材であり、両端開口の管状部材である。第2部材102は、一端開口の管状部材であり、その外周面の直径は、第1部材101の内周面の直径よりも小さい。第2部材102は開口端側が中空空間103内を移動可能に設けられ、開口端に対する他端は閉口端104となっている。このように、音響管100は、第2部材102の外周面が第1部材101の内周面に接するようにして嵌め込まれた構成を有している。
【0075】
第2部材102は、図中の矢印が示す方向(x軸方向)に移動させられる。この第2部材102の移動に係る構成の構成は、第2部材102の外周面に雄螺子を構成する溝が設けられ、第1部材101の内周面に雌螺子を構成する溝が設けられる構成とし、第1部材101に対して第2部材102が移動可能に設けられ、制御装置がモータを駆動して、第2部材102を回転させる。この駆動により、第2部材102が第1部材101に対してx軸方向に移動させられる。なお、この移動に係る構成は、スライドによる移動を採用するなど、公知のものを用いることができる。この音響管100において、第2部材102が本発明の移動部材に相当する。このような音響管100においては、開口部120の位置を開口端とし、閉口端104を閉口端とした共鳴体が中空空間103に構成される。
制御装置は、制御情報をミキサから受け取ると、それに応じて第2部材102の位置をx軸方向に移動させる。例えば、制御装置は、第2部材102を開口部120の方向(つまり、図20(b)に示す白抜き矢印方向)へ移動させると、共鳴周波数は高くなるし、その反対側へ移動させると、共鳴周波数は低くなる。この構成によれば、第1部材101と第2部材102との密着度が高く、共鳴周波数に応じて音響管10の寸法や形状が安定する。また、共鳴時に音響管が伸び縮みしにくいので、安定した共鳴現象を発生させることができる。
また、移動部材を移動させるための制御系の構成は前掲のもの以外にも、種々の公知の構成を採ることができる。
【0076】
また、本発明をヘルムホルツ共鳴器に適用してもよい。この構成においては、ヘルムホルツ共鳴器のバネ成分に相当する容器の内側に形成される空気層(気体層)の体積を可変にするよう移動部材が設けられていればよい。具体的には、ヘルムホルツ共鳴器の容器の底面や側面を移動部材により構成しておけば、この移動部材は共鳴体の閉口端となる。この構成であっても、制御装置が共鳴体の閉口端となる移動部材を移動させることにより共鳴周波数が変化するので、実施形態と同等の効果を奏する。また、ヘルムホルツ共鳴器のマス成分に相当する首部分の長さを可変にするように移動部材が設けられてもよい。この場合、変形例4で述べたような管状部材が伸縮可能な構成を用いて、両端開口の管状部材を伸縮させる構成を採るとよい。
【0077】
[変形例5]
上述した各実施形態の吸音・散乱パネル50は、吸音・散乱効果を奏する周波数幅(鋭さQ)を可変にする構成を有していたが、さらに第1実施形態で説明した音響管10,20が備える構成を採用することにより、共鳴周波数も可変にする構成を備えるようにしてもよい。例えば中空部材51の中空空間に、第1実施形態と同様にして、隔壁14がx軸方向に対して移動可能なように、リードスクリュー13及び隔壁14を設けておく。この構成において、隔壁14が共鳴体の閉口端となっていれば、隔壁14の位置に応じて共鳴体の閉口端の位置が変化し、共鳴周波数が変わるからである。
【0078】
上述した各実施形態において共鳴周波数及び鋭さQを可変にする構成として、以下のような中空部材を用いてもよい。
図21は、この変形例に係る中空部材51aを例示する断面図である。図21(a)、(b)は、それぞれ図21(b)と同一方向に中空部材51aを切断したときの断面を表した図である。なお、中空部材51と同じ構成については同一の符号を用いて表し、その説明を省略する。
図21(a)に示すように、中空部材51aの側面には内部空間53を外部空間に通じさせる孔55が開けられている。この孔55のx軸方向の寸法Bは、第2実施形態の孔52の例えば3倍程度あり、y軸方向に対する寸法は孔52の寸法と同じである。また、内部空間53には、可動板56が設けられている。可動板56は、板状の基部56aと、基部56aの中央付近に開けられた正方形の孔56bとにより構成される。孔56bのx軸方向に対する寸法Eは、孔55のそれとほぼ同じであり、y軸方向に対する寸法も孔55のそれと同じである。可動板56は、制御装置70の制御の下で、内部空間53において中空部材51aの孔55が開けられた側の内壁に沿って、x軸方向にスライド方式により移動させられる。可動板56のうち基部56aは孔55を塞ぎ、孔56bは孔55と内部空間53とを通じさせる。すなわち、孔56bと孔55とが重なり合った位置で内部空間53は外部空間に通じる。
【0079】
例えば、図21(a)の位置に可動板56がある場合、中空部材51aは、x軸方向に対する中央付近の位置で開口する。一方、図21(a)の位置から図中左方向に可動板56が移動させられ、図21(b)に示すように可動板56が端部511に接する位置に移動させられた場合、図21(a)の場合よりも、端部511寄りの位置で中空部材51aは開口する。この構成により、可動板56の位置に応じて端部511,512を一端としてそれぞれ構成される共鳴体の全長が変化する。例えば、図21(a)の場合、吸音・散乱効果を奏する周波数帯域のうち、中心周波数fcに近い周波数帯域での効果の発現に寄与する。一方、図21(b)の場合、中心周波数fcから遠い周波数帯域の効果の発現に寄与する。この構成によれば、可動板56の位置によって共鳴周波数が変わるから、各中空部材51aについて可動板56の位置を調整することにより、鋭さQの調整が可能となる。また、鋭さQの調整の仕方によらず、すべての中空部材51aが吸音・散乱効果を発現させるので、鋭さQを変化させるために有効に働かない部材を増やしてしまうことがない。つまり、鋭さQを可変にするにあたり、吸音・散乱効果の強さの変化を少なくすることができる。なお、ここでは、可動板56は、図21(a)、(b)示す範囲で移動可能であったが、端部511と512との間で移動可能に設けられてもよく、中空部材51aの左右方向を逆にすれば、端部512の位置に移動させられる場合と同等の機能を実現できる。また、孔55の寸法においては、共鳴周波数を変化させたい周波数範囲に基づいて決められればよい。また、また、スライド方式に限らず、例えばローラ等の駆動手段を用いて、可動板56を移動可能にしてもよい。
【0080】
ここで、中空部材51aに係る構成においてx軸方向に対する寸法は以下の関係式を満たす。ただし、Aは、端部511の位置から孔56bの位置(端部511寄りの基部56aと孔56bとの境界)までの距離であり、Cは端部511の位置から基部56aの位置までの距離であり、Dは基部56aの端部511側の部分の長さであり、Fは基部56aの端部512側の部分の長さである。
C+D<A
D≦C
E+F>B
【0081】
[変形例6]
上述した各実施形態では、音響部20a,20bの中空空間15a,15bの延在方向と、音響部10cの中空空間15cとが直交していた。これに代えて、これらの中空空間が連なったときに1本の管と機能しやすいように、つまり、共鳴体として機能しやすいように、音響部10cの内部空間を中空空間15a,15bに対して直交させる構成に代えて、「U」字型のように湾曲させ、1本の管としての形状が滑らかなものとなるようにすることが好ましい。
また、上述した第1実施形態では、複数の音響部の中空空間を通じさせる場合に、図10に示すように空間が分岐しないように隔壁14a、14bの位置を設定していたが、分岐する位置に設定することを妨げるものではない。かかる位置に設定することにより、実施形態の場合よりも複雑な音響現象が発現し、実施形態とは異なる音響作用が発現すると考えられる。
【0082】
[変形例7]
上述した実施形態又は変形例に係る音響構造体は、音響特性を制御する各種の音響室に配置することが可能である。ここで各種音響室は、防音室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルーム、会議室等の居室、各種輸送機器の空間、スピーカや楽器などの筐体等である。
【符号の説明】
【0083】
1…吸音・散乱ボックス、10,20,100…音響管、101…第1部材、102…第2部材、103、15,15a,15b,15c,53…中空空間、104…閉口端、10a,10b,10c…音響部、11…管状部材、12,12a,12b…開口部、13,13a、13b…リードスクリュー、14,14a,14b…隔壁、151,151a,151b,152,152a,152b…部分空間、2…箱型部材、3…孔、30,60…モータ、300…音響調整卓、310…制御部、320…記憶部、330…表示部、340…操作部、341…音調整操作部、342…第1調整操作部、343…第2調整操作部、350…通信インタフェース、360…音信号調整部、4…ケーブル、40,70…制御装置、5,5a…音響調整システム、50…吸音・散乱パネル、51…中空部材、52…開口部、54…開閉部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、
前記音響構造体は、
内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体であって、前記開口部が開口端となる共鳴体が前記中空空間に構成される筐体と、
前記中空空間内を移動させられ、前記共鳴体の閉口端となる移動部材と、
前記移動部材の位置又は移動量に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記移動部材を前記位置に設定し、前記共鳴体の前記開口端の位置に対する前記閉口端の位置を設定する位置設定手段と
を備え、
前記音響調整装置は、
ユーザの操作を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が操作を受け付けると、当該操作に応じた前記制御情報を前記位置設定手段に出力する制御情報出力手段と
を備えることを特徴とする音響調整システム。
【請求項2】
音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、
前記音響構造体は、
内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体と、
閉状態においては、前記開口部を塞いで外部空間から前記中空空間に入射する音波を遮り、開状態においては、当該開口部を塞がない開閉部材と、
前記開閉部材の開閉状態に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記開閉部材を前記開状態又は前記閉状態に切り替える切替制御手段と
を備え、
前記音響調整装置は、
ユーザの操作を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が操作を受け付けると、当該操作に応じた前記制御情報を前記切替制御手段に出力する制御情報出力手段と
を備えることを特徴とする音響調整システム。
【請求項3】
音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、
前記音響構造体は、
内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体であって、前記開口部が開口端となる共鳴体が前記中空空間に構成される筐体と、
前記中空空間内を移動させられ、前記共鳴体の閉口端となる移動部材と、
前記移動部材の位置又は移動量に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記移動部材を前記位置に設定し、前記共鳴体の前記開口端の位置に対する前記閉口端の位置を設定する位置設定手段と
を備え、
前記音響調整装置は、
音場の音響特性が決められた音響特性となるように、前記移動部材の位置を設定するための前記制御情報を前記位置設定手段に出力する制御情報出力手段と
を備えることを特徴とする音響調整システム。
【請求項4】
音響構造体と、音源から与えられる音信号の特性を電気的に調整する音響調整装置とを備え、
前記音響構造体は、
内部に中空空間が形成され、前記中空空間を外部空間に通じさせる開口部を有する筐体と、
閉状態においては、前記開口部を塞いで外部空間から前記中空空間に入射する音波を遮り、開状態においては、当該開口部を塞がない開閉部材と、
前記開閉部材の開閉状態に関する制御情報が与えられると、前記制御情報に応じて前記開閉部材を前記開状態又は前記閉状態に切り替える切替制御手段と
を備え、
前記音響調整装置は、
音場の音響特性が決められた音響特性となるように、前記開閉部材の開閉状態を切り替えるための前記制御情報を前記切替制御手段に出力する制御情報出力手段と
を備えることを特徴とする音響調整システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−95597(P2011−95597A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250713(P2009−250713)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】