説明

顔料分散剤およびこれを含んだ顔料組成物

【課題】C.I.ピグメントバイオレット23をはじめとするバイオレット系等の有機顔料を含む顔料分散液について、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を引き起こすことなく、微粒子化・高濃度化すること、並びにカラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な分散体を提供する。
【解決手段】ナフタレンスルホン酸およびその誘導体とベンゼンスルホン酸誘導体からなるアゾ化合物を金属で錯体化した塩を用いることによりなる含金アゾ顔料分散剤及び、含金アゾ顔料分散剤、樹脂分散剤及び有機顔料を含有する顔料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや撮像素子などの製造に使用されるカラーフィルター用レジストやインクジェット用インクに用いられる、微細で流動性、透明性に優れる顔料分散剤および該顔料分散剤を含有する顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料や印刷インキ、近年ではカラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、顔料が利用されている。顔料は、耐熱性、耐候性、耐マイグレーション等の諸特性で、染料と比較して堅牢性の面で優れるが、一方で凝集、沈降、経時的な粘度の増加、異種顔料と混合した際の色分かれ等の潜在的な問題を有している。
【0003】
また最近では、液晶ディスプレイの高コントラスト化や撮像素子の微細化、インクジェットインクの高着色・高鮮明化等を達成するために、顔料の微粒子化および顔料組成物中における顔料の高濃度化の要求が高まっているが、粒子径の微細化に伴い、また顔料の高濃度化に伴い凝集が起こりやすくなり、安定な分散体を得ることが困難となっている。
【0004】
そこで、こうした問題を解決する為に、顔料自体の改良検討(顔料表面処理)や顔料に対して良好な吸着性を有する分散剤、界面活性剤の開発、および顔料分散剤等の提案がこれまでに行われてきた。カラーフィルターやインクジェットで用いられる顔料としては、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料、染料レーキ顔料等が挙げられ、特にフタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料を中心に数々の顔料分散剤が報告されてきた。例えば、顔料のスルホン化物あるいはその金属塩を顔料と混和する方法(特許文献1〜3)、置換アミノメチル誘導体を混和する方法(特許文献4)フタルイミドメチル誘導体を混和する方法(特許文献5)等が知られている。
【0005】
これらの方法は、特定の顔料骨格に対して効果は認められるものの、スルホン基、アミノメチル基、フタルイミドメチル基などを導入することが構造上難しい顔料に対しては、導入する置換基の数や位置の制御が難しく、結果として分散剤としての効果が不充分であり、しかも色調にも悪影響を及ぼす副生成物が多量に生成し、顔料分散液の品質が安定しない等の課題を有する。また、カラーフィルターの分野で現在広く使用されているC.I.ピグメントバイオレット23 に対しては、これまで適当な顔料分散剤が存在しなかった為、非常に難分散な顔料となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭41−2466号公報
【特許文献2】特開昭63−172772号公報
【特許文献3】特公昭50−4019号公報
【特許文献4】特公昭39−16787号公報
【特許文献5】特開昭55−108466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、C.I.ピグメントバイオレット23をはじめとするバイオレット系等の有機顔料を含む顔料分散液を、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を引き起こすことなく微粒子化・高濃度化することであり、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ナフタレンスルホン酸およびその誘導体とベンゼンスルホン酸誘導体からなるアゾ化合物を金属で錯体化した塩を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は
(1)下記式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基またはハロゲン原子を表す。R2は水素原子、フェニル基、ナフチル基、ベンゾイル基またはメチルカルボニル基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。L、M及びTは互いに独立して、水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはアルミニウムを表し、Ln+、Mn+及びTn+はn価の陽イオンを表す。Metalは、Cu、Fe、Co、NiまたはAlを表す。mは1〜2の整数を、複数存在するnは互いに独立して1〜3の整数を、q及びtは互いに独立して0〜1の整数を表す。)で表される含金アゾ顔料分散剤、
(2)前項(1)に記載の含金アゾ顔料分散剤、樹脂分散剤及び有機顔料を含有する顔料組成物、
(3)樹脂分散剤がカチオン系である前項(2)に記載の顔料組成物、
(4)有機顔料に対する含金アゾ顔料分散剤の含有量が1〜50質量%である前項(2)又は(3)に記載の顔料組成物、
(5)カラーインデックスでピグメントバイオレットに分類される有機顔料を含有する前項(2)乃至(4)のいずれか一項に記載の顔料組成物、
(6)カラーインデックスでピグメントバイオレットに分類される有機顔料がC.I.ピグメントバイオレット23である前項(5)に記載の顔料組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の式(1)で示される含金アゾ顔料分散剤は製造が極めて容易であり、該分散剤を使用することにより、C.I.ピグメントバイオレット23等の顔料を含む顔料組成物を、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を引き起こすことなく微粒子化・高濃度化することが可能となり、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な分散体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の含金アゾ顔料分散剤は下記式(1)で表される構造を有する。
【0013】
【化2】

【0014】
式(1)中、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基またはハロゲン原子を表す。炭素数1〜3のアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基及びiso−プロピル基が、ハロゲン原子の具体例としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。式(1)中のR1としては水素原子またはハロゲン原子であることが好ましく、水素原子または塩素原子であることがより好ましい。また、R1の置換位置は、下記式(3)または(4)においてベンゼン環上に3で示した位置であることが好ましい。
式(1)中、R2は水素原子、フェニル基、ナフチル基、ベンゾイル基またはメチルカルボニル基を表す。R2が表すフェニル基及びベンゾイル基は置換基を有していてもよく、該置換基は特に限定されないが、例えばヒドロキシル基、スルホン基等が挙げられ、無置換であることが好ましい。R2が表すナフチル基は置換基を有していてもよく、該置換基は特に限定されないが、例えばヒドロキシル基、スルホン基等が挙げられ、ナフチル基が下記式(2)で表されることが好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
式(2)中、R1、R3、L、M、T、Metal、m、n及びtは式(1)におけるのと同じ意味を表し、*は式(1)における置換基NHR2中のN原子との結合位置を表す。
式(1)中のR2としてはフェニル基または前記式(2)で表されるナフチル基が好ましく、無置換のフェニル基並びに式(2)におけるR1が水素原子、Mがナトリウム、MetalがCu、mが1、nが1及びtが0であって、かつXがSO3(Ln+/n)であってLがナトリウムであるか又はXがSO2NHR3であってR3が水素原子であるナフチル基がより好ましい。
式(1)中、置換基NHR2の数を表すqは0又は1の整数であり、1であることが好ましい。またqが1の場合の置換基NHR2の置換位置は、下記式(3)または(4)においてナフタレン環上に6又は8で示した位置であることが好ましい。
【0017】
式(1)中、R3は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、炭素数1〜3のアルキル基の具体例としてはR1において挙げたものと同じである。式(1)中のR3としては水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子であることがより好ましい。
式(1)中、L、M及びTは互いに独立して、水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはアルミニウムを表し、Ln+、Mn+及びTn+はn価の陽イオンを表す。式(1)中のL、M及びTとしては、水素原子またはナトリウムであることが好ましい。
式(1)中に複数存在するnは、前述したn価の陽イオンに対応する1〜3の整数を表す。
式(1)中、置換基Xの数を表すmは1又は2の整数であり、1であることが好ましい。また、mが1の場合の置換基Xの置換位置は、下記式(3)または(4)においてベンゼン環上に5で示した位置であることが好ましい。mが2の場合の置換基Xの置換位置は、下記式(3)または(4)においてベンゼン環上に3及び5で示した位置であることが好ましい。
式(1)中、tは0又は1の整数であり、0であることが好ましい。また、tが1の場合の置換基SO3(Tn+/n)の置換位置は、下記式(3)または(4)においてナフタレン環上に6又は8で示した位置であることが好ましい。
式(1)中、MetalはCu、Fe、Co、NiまたはAlを表し、Cuであることが好ましい。
本発明の含金アゾ顔料分散剤としては、下記表1または表2において、化合物番号1、10、11及び15で示される化合物が特に好ましい。
【0018】
本発明の含金アゾ顔料分散剤は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、常法により、下記式(A)又は(B)で示される芳香族アミンをジアゾ化し、下記式(C)で示されるカップラーと0〜40℃、好ましくは5〜10℃、pH3〜11、好ましくはpH4〜10でカップリング反応することにより得られる中間体(D)又は(E)を、金属塩を用いてレーキ化することにより、所望の化合物を得ることが出来る。
【0019】
【化4】

【0020】
式(A)〜(D)中、R1〜R3、L、M、T、m、n、q及びtは式(1)におけるのと同じ意味を表す。
【0021】
次に、本発明の式(1)で表される含金アゾ顔料分散剤の具体例を下記式(3)、(4)に基づき表1および表2に示す。
【0022】
【化5】

【0023】
表1 化合物例1(式(3)に基づく具体例)
【表1】

【0024】
表2 化合物例2(式(4)に基づく具体例)
【表2】

【0025】
本発明の顔料組成物は、例えば次のような方法で調整することができる。すなわち、有機顔料および本発明の含金アゾ顔料分散剤の配合の方法としては、従来公知の種々の方法、例えば、それぞれの乾燥粉末やプレスケーキを単に混合する方法やニーダー、ビーズミル、ディゾルバー、アトライター等の各種分散機により機械的に混合する方法、水又は有機溶剤中に有機顔料を懸濁させ、その中に含金アゾ顔料分散剤を添加混合して有機顔料の表面に均一に沈着する方法などが挙げられる。次に、得られた有機顔料および含金アゾ顔料分散財の混合物に、樹脂分散剤と必要に応じて各種有機溶剤、樹脂ワニス、各種添加剤等を配合して、サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散することにより、所望の顔料組成物を製造することができる。或いは簡便的には、有機顔料、本発明の含金アゾ顔料分散剤及び樹脂分散剤と必要に応じてその他の成分を、一括で混合及び分散しても構わない。なお、含金アゾ顔料分散剤の添加量は、有機顔料100質量部に対して通常0.1〜50質量部であり、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。含金アゾ顔料分散剤の配合割合が少なすぎると、目的とする分散安定性および有機顔料の微粒子化が達成されず、また配合割合を増やしすぎても分散安定性の低下が認められるため、配合量の最適化が必要である。
【0026】
本発明の顔料組成物が含有する有機顔料としては、カラーインデックスに記載されたものなど従来公知のものであれば特に限定されないが、本発明の式(1)で表される含金アゾ顔料分散剤自体がバイオレット系の色相を有するため、有機顔料本来の色相を損なわない意味ではバイオレット系の有機顔料を用いるのが好ましく、カラーインデックスでピグメントバイオレットに分類される有機顔料を用いるのがより好ましく、特に好ましくはC.I.ピグメントバイオレット23番が挙げられる。
【0027】
本発明の顔料組成物が含有する樹脂分散剤としては、公知の樹脂分散剤であれば特に限定されないが、本発明の含金アゾ顔料分散剤のスルホン酸誘導体部位との親和性を考慮した場合、カチオン系の樹脂分散剤が好ましい。カチオン系の樹脂分散剤としては、例えば、ビッグケミージャパン株式会社のBYK112、116、140、142、161、162、164、166、182、2000、2001、2050、2070、2150、エフカ社のEFKA4010、4015、4020、4050、4055、4060、4300、4330、4400、4406、日本ルーブリゾール株式会社のソルスパース、24000、32500、味の素ファインテクノ社のアジスパーPB711、821、822、881などが挙げられる。樹脂分散剤の添加量は、顔料100質量部に対して通常5〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。樹脂分散剤の添加量が5質量部よりも少ない場合は、良好な分散安定性を得ることができない。
【0028】
本発明の顔料組成物には、必要により有機溶剤を加えることができる。用い得る有機溶剤は特に限定されないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。有機溶剤は顔料組成物中に90質量%以下を占める量が用いられる。
【0029】
本発明の顔料組成物には、必要により樹脂ワニスを加えることができる。用い得る樹脂ワニスは特に限定されないが、例えば、スチレン系(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体、セルロースアセテート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂ワニスは顔料組成物中に50質量%以下を占める量が用いられる。
【0030】
本発明の顔料組成物に必要により加えることのできるその他の添加剤としては、例えばチクソ付与剤、重合性を持つ樹脂及び重合開始剤や硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤、有機又は無機フィラー、カップリング剤等が挙げられるが、これらは顔料組成物の具体的な目的用途によって選択すればよく上記に限定されない。また、その添加量も、具体的な目的用途に合わせて選択すれば良い。
【0031】
本発明の顔料組成物の用途は特に限定されず、例えばグラビア印刷インキなどの各種印刷インキ、塗料、電子写真用乾式トナー又は湿式トナー、インクジェット記録用インキ、カラーフィルター用レジスト着色剤などの種々の用途が挙げられる。特に、本発明の顔料組成物は、顔料の微粒子化および高い安定性が要求されるカラーフィルター用レジスト着色剤、インクジェット記録用インキとして有用である。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
【0033】
実施例1(表1の化合物番号1で示される化合物の合成)
2−アミノフェノール−4−スルホン酸94.6部を600部の水、および104.3部の塩酸中に懸濁し、これを34.5部の亜硝酸ナトリウムが入っている500部の氷水中に10〜15℃で添加し、添加後、同温度で2時間撹拌することにより、ジアゾ化反応を行った。次に、7−アニリノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸157.7部を2400部の水に溶解して得られた溶解液に、前記のジアゾ化反応により生成したジアゾニウム塩を5〜10℃で投入し、ソーダ灰を用いてpHを8〜10に調整し、同温度及びpHで5時間反応させることにより、下記式(5)で示される化合物を含む反応液を得た。式(5)で示される化合物の物性データーを表3に示した。
【0034】
【化6】

【0035】
表3 式(5)で表わされる化合物の1H−NMR(重DMSO)帰属データー
【表3】

【0036】
前記で得られた反応液のpHを35%塩酸を用いて6〜7とし、次いで反応液を20〜30℃とした。次に、硫酸銅79.8部を250部の水に溶解し、25%アンモニア水245部を加えて得られた硫酸銅水溶液を、前述の反応液に加え、20〜30℃で5時間撹拌した。反応終了後、ろ過を行うことにより、表1の化合物番号1で示される本発明の含金アゾ顔料分散剤257部を得た。原料の使用量から算出した収率は89%であった。
【0037】
実施例2(表2の化合物番号11で示される化合物の合成)
2−アミノフェノール−4−スルホン酸94.6部を2−アミノフェノール−4−スルホンアミド94.1部に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、表2の化合物番号11で示される本発明の含金アゾ顔料分散剤262部を得た。原料の使用量から算出した収率は91%であった。
【0038】
実施例3(表2の化合物番号15で示される化合物の合成)
2−アミノフェノール−4−スルホン酸94.6部を2−アミノフェノール−4−スルホンアミド94.1部に、7−アニリノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸157.7部を7,7’−イミノビス(4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸)230.7部に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、表2の化合物番号15で示される本発明の含金アゾ顔料分散剤462部を得た。原料の使用量から算出した収率は90%であった。
【0039】
実施例4(表1の化合物番号10で示される化合物の合成)
2−アミノフェノール−4−スルホン酸94.6部を2−アミノフェノール−6−クロロ−4−スルホン酸111.8部に、7−アニリノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸157.7部を7,7’−イミノビス(4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸)230.7部に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、表1の化合物番号10で示される本発明の含金アゾ顔料分散剤483部を得た。原料の使用量から算出した収率は88%であった。
【0040】
実施例5(本発明の顔料組成物の調製)
有機顔料としてC.I.ピグメントバイオレット23(BASFジャパンリミテッド社製、バイオレットGT)3.0部、含金アゾ顔料分散剤として実施例1で得られた化合物0.3部、樹脂ワニスとしてアクリル樹脂(メタクリル酸:ベンジルメタクリレート=3:7(重量比)の共重合体を固形分35%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈したもの、分子量10,000)2.1部、樹脂分散剤としてBYK2001(ビッグケミージャパン株式会社製、カチオン系分散剤、固形分46%)2.0部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート19.5部及びエトキシプロパノール6.5部を配合し、プレミキシングの後、0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーで60分間分散した。得られた分散液を5μmのフィルタでろ過することにより顔料組成物を調製した。
【0041】
比較例1(比較用の顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物を用いないこと以外は実施例1と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0042】
実施例6(本発明の顔料組成物の調製)
BYK2001、2.0部をアジスパーPB881(味の素ファインテクノ株式会社製、カチオン系分散剤)1.1部に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート19.5部を27.5部に、エトキシプロパノール6.5部を0部に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で、顔料組成物を調製した。
【0043】
比較例2(比較用の顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物を用いないこと以外は実施例2と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0044】
実施例7(本発明の顔料組成物の調製)
アジスパーPB881、1.1部をアジスパーPB821(味の素ファインテクノ株式会社製、カチオン系分散剤)1.4部に変更したこと以外は実施例6と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0045】
比較例3(比較用の顔料組成物の調製)
実施例1の化合物を用いない以外は実施例7と同じ方法で比較用の顔料組成物を調製した。
【0046】
実施例8(本発明の顔料組成物の調製)
有機顔料としてC.I.ピグメントブルー15:6(BASF社製、ヘリオゲンブルーL6700F)1.9部、C.I.ピグメントバイオレット23、0.8部、樹脂分散剤としてソルスパース5000(日本ルーブリゾール株式会社製 フタロシアニン系顔料分散剤)0.1部、及びEFKA4330(BASFジャパンリミテッド社製、カチオン系分散剤、固形分70%)1.7部、含金アゾ顔料分散剤として実施例3で得られた化合物0.04部、樹脂ワニスとして実施例5で用いたのと同じアクリル樹脂、2.7部、並びに溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート16.5部を配合し、プレミキシングの後、0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーで60分間分散した。得られた分散液を5μmのフィルタでろ過することにより顔料組成物を調製した。
【0047】
比較例7(比較用の顔料組成物の調製)
実施例3の化合物を用いない以外は実施例8と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0048】
実施例9(本発明の顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物0.3部を実施例3で得られた化合物0.3部に変更したこと以外は実施例5と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0049】
実施例10(本発明の顔料分散体の調製)
実施例1で得られた化合物0.3部を実施例3で得られた化合物0.3部に変更したこと以外は実施例6と同じ方法で顔料組成物を調製した。
【0050】
上記実施例5〜10及び比較例1〜6の顔料組成物について、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて顔料組成物の平均粒子径を、またB型粘度計を用い、室温(25℃)10rpmの条件で粘度を測定した。尚、保存安定性を確認する意味でために、粘度については初期(調整直後)の他に40℃で7日放置後についても測定を行った。結果を表4に示した。
【0051】
表4 顔料組成物の評価結果
【表4】

【0052】
表4から明らかなように、実施例5〜10の顔料組成物は、本含金アゾ顔料分散剤を添加しない比較例1〜4と比べて、初期粒径が小さく、より微分散化されていることが分かる。また初期粘度も比較例と比べて低く抑えられており、実際に使用する際の作業性並びにレジストやインクの品質を損なわないものである。更に保存安定性についても、比較例と比べて良好な結果を示した。
具体的には、実施例5は比較例1と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は1/3以下であった。
実施例6は比較例2と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は、実施例6が5%未満であったのに対して、比較例2は増加率が10%を越えていた。
実施例7は比較例3と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は、実施例7が5%未満であったのに対して、比較例3は10%を越えていた。
実施例8は比較例4と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は、1/3以下であった。
実施例9は比較例1と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は、1/4以下であった。
実施例10は比較例2と比べて初期粒径及び初期粘度が小さく、また40℃×7日後の粘度増加率は、実施例10が5%未満であったのに対して、比較例2は10%を越えていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の含金アゾ顔料分散剤を用いることにより、これまで分散が困難であったC.I.ピグメントバイオレット23等を含む顔料組成物を、凝集、沈降、経時的な粘度の増加をすることなく、微粒子化・高濃度化することが可能であり、該含金アゾ顔料分散剤は、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な分散体を得るために非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基またはハロゲン原子を表す。R2は水素原子、フェニル基、ナフチル基、ベンゾイル基またはメチルカルボニル基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。L、M及びTは互いに独立して、水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたはアルミニウムを表し、Ln+、Mn+及びTn+はn価の陽イオンを表す。Metalは、Cu、Fe、Co、NiまたはAlを表す。mは1〜2の整数を、複数存在するnは互いに独立して1〜3の整数を、q及びtは互いに独立して0〜1の整数を表す。)で表される含金アゾ顔料分散剤。
【請求項2】
請求項1に記載の含金アゾ顔料分散剤、樹脂分散剤及び有機顔料を含有する顔料組成物。
【請求項3】
樹脂分散剤がカチオン系である請求項2に記載の顔料組成物。
【請求項4】
有機顔料に対する含金アゾ顔料分散剤の含有量が1〜50質量%である請求項2又は3に記載の顔料組成物。
【請求項5】
カラーインデックスでピグメントバイオレットに分類される有機顔料を含有する請求項2乃至4のいずれか一項に記載の顔料組成物。
【請求項6】
カラーインデックスでピグメントバイオレットに分類される有機顔料がC.I.ピグメントバイオレット23である請求項5に記載の顔料組成物。

【公開番号】特開2012−107157(P2012−107157A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258767(P2010−258767)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】