説明

顔料分散物

本発明は、有機バインダーを実質的に含んでいない実質的に水性の顔料分散物を製造する方法であって、少なくとも1の水溶性または水分散性のシラン化合物とコロイドシリカ粒子とを混合して、水性分散物中のシラン処理されたコロイドシリカ粒子を生成し、これによって当該少なくとも1のシラン化合物が、約0.2〜約1.5のシランとシリカとの重量比でコロイドシリカ粒子と混合されている段階、当該シラン処理されたコロイドシリカ粒子を有機および/または無機顔料と混合して、ここでシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であり、当該実質的に水性の顔料分散物を生成する段階、を含む方法に関する。本発明は、該方法に従う水性顔料分散物、ならびに有機バインダーを実質的に含んでいない顔料分散物であって、シランとシリカとの重量比が約0.2〜約1.5であるところのシラン処理されたコロイドシリカ粒子、およびシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であるところの有機および/または無機顔料、を含んでいる顔料分散物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散物、当該分散物を調製する方法、およびそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機顔料は、しばしば増白剤、着色剤、または不透明化剤として各種のポリマー中に取り込まれる。顔料、たとえばTiOはこれらの目的に特に有用である。何故ならば、これは光を非常に効率的に散乱するからである。このような顔料は、たとえば特許文献1によって知られている顔料分散物中に存在することができ、特許文献1はその表面上に分散された、離散された無機粒子を有するところのTiO粒子を開示している。しかし、このような分散物は、必ずしも十分に安定であるとは限らず、光散乱効率のかなりの低下をもたらす不安定化またはゲル化によって損なわれないで比較的長い期間貯蔵することを許さない。このような分散物は、TiO粒子が互いに過度に緊密に接触するならば、光学的クラウディング(crowding)によって損なわれることもある。この結果、隠ぺい力および着色強度が、かなり低減されることがある。TiO粒子間の間隔を空けて散乱効率を保つように、増量剤が塗料配合物に添加されている。しかし、増量剤の分配は困難でありかつ隠ぺい力が影響を受ける。分散剤、たとえば界面活性剤を含んでいない水性顔料分散物を調製することが望ましいであろう。界面活性剤は分散物に発泡問題を生じさせることがあり、これは次なる結果として耐水性および耐化学薬品性を悪化させることがある。
【0003】
特許文献2は、有機バインダーと一緒にされた、シラン処理されたコロイドシリカ粒子を開示している。しかし、有機バインダーは顔料分散物の安定性を妨げることがある。有機バインダーの存在において顔料を分散させる工程は、より高いせん断力が必要であることがあるので、追加のエネルギー投入を要求することもある。さらにその上、有機バインダーの存在は、分散可能な顔料量を低減し、これは次なる結果として得られる光散乱効率を下げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,886,069号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/035474号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、改良された安定性を有する水性顔料分散物を調製する容易化された方法に関する。本発明の1のさらなる目的は、より長い貯蔵および在庫保管寿命を可能にする方法を提供することであり、これは、塗料を包含する任意の配合物に付加混合されたときに許容される顔料特性、たとえば光散乱効率を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有機バインダーを実質的に含んでいない実質的に水性の顔料分散物を製造する方法であって、少なくとも1の水溶性または水分散性のシラン化合物とコロイドシリカ粒子とを混合して、水性分散物中のシラン処理されたコロイドシリカ粒子を生成し、これによって当該少なくとも1のシラン化合物が、約0.2〜約1.5のシランとシリカとの重量比でコロイドシリカ粒子と混合される段階、当該シラン処理されたコロイドシリカ粒子を有機および/または無機顔料と混合して、ここでシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であり、当該実質的に水性の顔料分散物を生成する段階、を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
「有機バインダーを本質的にまたは実質的に含んでいない」の語句は、水性顔料分散物中約15未満、たとえば約10未満または約5未満、たとえば約3未満または約1未満または約0.1重量%未満の有機バインダー含有量を意味する。したがって、1の実施態様に従うと、得られた分散物が当該定められた限界未満の有機バインダーの量を含有するような様式で、該分散物は製造される。
【0008】
1の実施態様に従うと、シランおよびコロイドシリカ粒子は、約0.25〜約1.5、たとえば約0.3〜約1.2、または約0.35〜約0.8、または約0.4〜約0.8の範囲にあるシランとシリカとの重量比で付加混合される。
【0009】
シラン化合物は、シラノール基と安定なシロキサン共有結合(Si−O−Si)を形成することができ、またはたとえばコロイドシリカ粒子の表面上の水素結合によってシラノール基に結合されることができる。
【0010】
1の実施態様に従うと、シランとコロイドシリカ粒子との混合は、たとえば約20℃〜約95℃、または約50℃〜約75℃、たとえば約60℃〜約70℃の温度において連続的に実施されることができる。シランは、制御された速度で激しい撹拌下にシリカ粒子にゆっくりと添加されることができ、該制御された速度は好適には、(コロイドシリカ粒子上の)コロイドシリカ表面積nmおよび時間当たり約0.01〜約100、たとえば約0.1〜約10、または約0.5〜約5、たとえば約1〜約2個のシラン分子である。シランの添加は、添加速度、添加されるべきシランの量、および所望のシラン化度に応じて、任意の適当な時間続けられることができる。しかし、シランの添加は、適当な量のシランが添加されてしまうまで、約5時間まで、たとえば約2時間まで続けられることができる。コロイドシリカ粒子に付加されるシランの量は、好適には約0.1〜約6、たとえば約0.3〜約3、または約1〜約2個のシラン分子毎コロイドシリカ粒子表面積nmである。
【0011】
シランとシリカとの混合は、約1〜約13、たとえば約6〜約12、または約7.5〜約11、または約9〜約10.5のpHにおいて実施されることができる。
【0012】
コロイドシリカ粒子は、本明細書ではシリカゾルとも呼ばれ、たとえば沈降シリカ、マイクロシリカ(シリカヒューム)、焼成シリカ(ヒュームドシリカ)または十分な純度を有するシリカゲル、およびこれらの混合物から誘導されることができる。
【0013】
コロイドシリカ粒子およびシリカゾルは修飾されてもよく、他の元素、たとえばアミン、アルミニウムおよび/またはホウ素を含有することができ、これらは粒子中および/または連続相中に存在することができる。ホウ素修飾シリカゾルは、たとえば米国特許第2,630,410号に記載されている。アルミニウム修飾シリカ粒子は、好適には約0.05〜約3重量%、たとえば約0.1〜約2重量%のAl含有量を有する。アルミニウム修飾シリカゾルを調製する手順は、たとえばIler,K.Ralph、「シリカの化学」、1979年、John Wiley & Sons社および米国特許第5,368,833号にさらに記載されている。
【0014】
好適に用いられるコロイドシリカ粒子は約2〜約150、たとえば約2〜約100、または約3〜約50、または約4〜約40、または約4〜約15、または約5〜約12nmの範囲にある平均粒子直径を有する。好適には、コロイドシリカ粒子は約20〜約1500、たとえば約50〜約900、または約70〜約600、または約200〜約500m/gの比表面積を有する。
【0015】
コロイドシリカ粒子は狭い粒子サイズ分布、すなわち粒子サイズの低い相対標準偏差を有する。粒子サイズ分布の相対標準偏差は、粒子サイズ分布の標準偏差の、数基準平均粒子サイズに対する比である。粒子サイズ分布の相対標準偏差は、数基準で約60%よりも低く、たとえば数基準で約30%よりも低く、または数基準で約15%よりも低いことができる。
【0016】
コロイドシリカ粒子は、好適には水性溶媒中に、好適には安定化カチオン、たとえばK、Na、Li、NH、有機カチオン、1級、2級、3級および4級アミン、またはこれらの混合物の存在において分散されて、その結果、水性シリカゾルを形成する。しかし、たとえば低級アルコール、アセトンまたはこれらの混合物を含む部分的に有機性の分散物の中に分散されたコロイドシリカも使用されることができ、この中で有機性部分の体積は、水性体積と有機性体積との合計の、好適には約1〜約20、たとえば約1〜約10、または約1〜約5体積%の量である。1の実施態様に従うと、コロイドシリカ粒子は負に帯電している。好適には、ゾル中のシリカ含有量は約1〜約80、たとえば約5〜約80、または約10〜約80、たとえば約20〜約80、たとえば約25〜約70、または約30〜約60重量%である。シリカゾルのpHは、好適には約1〜約13、たとえば約6〜約12、または約7.5〜約11である。しかし、アルミニウム修飾シリカゾルの場合、pHは好適には約1〜約12、または約3.5〜約11である。
【0017】
シリカゾルは約20〜約100、たとえば約30〜約90、または約60〜約90のS値を有することができる。
【0018】
S値は、コロイドシリカ粒子の凝集の程度、すなわち凝集体またはミクロゲルの形成の程度を特性付ける。Iler,R.K.およびDalton,R.L.、J.Phys.Chem.、1956年、第60巻、955〜957ページに示された式に従って、S値は測定され計算された。
【0019】
S値は、コロイドシリカ粒子のシリカ含有量、粘度、および密度に依存する。高いS値は低いミクロゲル含有量を表す。S値は、たとえばシリカゾルの分散相中に存在するSiOの量を重量パーセント単位で表す。ミクロゲルの程度は、たとえば米国特許第5368833号にさらに記載されているように、製造工程の間に制御されることができる。
【0020】
1の実施態様に従うと、アルカリ金属ケイ酸塩、たとえばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、またはケイ酸リチウムのようなケイ酸塩が、安定性をさらに増加するためにシラン処理されたコロイドシリカ粒子に付加混合されることができる。1の実施態様に従うと、シリカとMOとのモル比は、約4〜約20、たとえば約5〜約15、たとえば約6〜約11であり、ここでMとはアルカリ金属である。
【0021】
1の実施態様に従うと、コロイドシリカ粒子に付加混合されるべき好適なシラン化合物は、エポキシシラン、およびグリシドキシまたはグリシドキシプロピル基を有するシラン化合物;トリス−(トリメトキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン;イソシアネートシラン、たとえばトリス−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート;ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス−(3−[トリエトキシシリル]プロピル)ポリスルフィド、ベータ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン;エポキシ基を有するシラン(エポキシシラン)、グリシドキシおよび/またはグリシドキシプロピル基を有するシラン、たとえばガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシラン、ベータ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシラン;ビニル基を有するシラン、たとえばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン;ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメチルオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジメチルジメチルオキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシリルクロライド、ビニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、およびこれらの混合物を包含する。米国特許第4,927,749号は、本発明に使用されることができるさらなる好適なシランを開示している。
【0022】
1の実施態様に従うと、コロイドシリカ粒子上のシラノール表面基の数基準で少なくとも約1%は、シラン化合物のシラン基に結合しまたは連結する能力があり、たとえば少なくとも約5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%がシラン基に結合しまたは連結する。
【0023】
1の実施態様に従うと、シラン化合物は、コロイドシリカ粒子と混合される前に、たとえば水で希釈されて、好適には約1:8〜約8:1、または約3:1〜約1:3、たとえば約1:5〜約1:1.5のシランと水との重量比においてシランと水との予混合物を形成する。得られたシラン−水の溶液は、実質的に清澄かつ安定でありコロイドシリカ粒子と容易に混合する。コロイドシリカ粒子へのシランの連続的添加においては、シランの添加が止められた後、約1秒間〜約30分間、または約1〜約10分間、混合が続けられることができる。
【0024】
1の実施態様に従うと、顔料は無機質である。1の実施態様に従うと、無機顔料は炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化鉄(II、III)、たとえばFe、α型酸化鉄(a−Fe)、水酸化酸化鉄(III)、たとえばα型オキシ水酸化鉄(a−FeOOH)、酸化クロム(III)、コバルト化合物、たとえばアルミン酸コバルト、酸化亜鉛、硫化亜鉛、塩基性硫酸鉛、塩基性炭酸鉛、酸化アンチモン、リトポン、酸化チタン、たとえばルチル形またはアナターゼ形のTiO、またはこれらの混合物から選択される。1の実施態様に従うと、顔料はまた粘土、たとえばカオリンまたは顔料特性を有するフィラー物質、たとえばヒュームドシリカ、マイクロシリカ、沈降シリカまたはシリカゲルであってもよい。
【0025】
1の実施態様に従うと、顔料は、約10〜約5000、たとえば約100〜約1000、または約100〜約500、または約200〜約400nmの範囲にある粒子サイズを有する。
【0026】
1の実施態様に従うと、顔料は、シラン処理されたコロイドシリカ粒子と、約0.01〜約0.7、たとえば約0.01〜約0.6、または約0.01〜約0.5、または約0.01〜約0.4、または約0.01〜約0.3、または約0.01〜約0.2、または約0.02〜約0.05の範囲にあるシリカと顔料との重量比で付加混合される。
【0027】
1の実施態様に従うと、混合機、たとえば1400rpmにおけるディゾルバータービンが用いられて、シラン処理されたコロイドシリカ粒子と、顔料が混合される。混合時間は約1〜約40、たとえば約5〜30、またはたとえば約10〜20分間であることができる。混合温度は約1〜約80、たとえば約10〜約60、または約20〜約40℃であることができる。1の実施態様に従うと、半径方向速度は約1〜約50、たとえば約5〜35、たとえば約15〜約25m/秒の範囲にある。
【0028】
上に列挙された顔料のうちの一つであるTiO顔料は、塩化物法かあるいは硫酸塩法によって製造された慣用のルチル型またはアナターゼ型の種類のものであることができる。1の実施態様に従うと、約100〜約500nmの範囲の粒子サイズを有する、塩化物法によって造られたルチル型TiO粒子が使用される。1の実施態様に従うと、TiO顔料を調製するために使用されるTiO粒子は基本TiOであることができ、基本TiOとは本明細書では酸化するTiClから直接取り出されかつ何らかの仕上げ段階および/または何らかの表面処理が加えられる前のTiO粒子のことをいう。硫酸塩法では、基本TiOとは、何らかの表面処理が加えられる前のTiO粒子のことをいう。あるいは、本発明の顔料を調製するために使用されるTiO粒子は、仕上げられたTiO粒子であることができ、これは本明細書では、慣用の仕上げ段階に付されたTiO粒子および/または水和酸化物、たとえばアルミナ、シリカ、ジルコニア等、もしくはこれらの物質の組み合わせで表面処理されたTiO粒子のことをいう。水和酸化物は、合計TiO顔料生成物重量の約16まで、たとえば約10重量%までであることができる。
【0029】
本発明は、本明細書で規定された方法によって得られることができる水性顔料分散物にも関する。
【0030】
本発明は、有機バインダーを実質的に含んでいない水性顔料分散物であって、約0.2〜約1.5のシランとシリカとの重量比にあるシラン処理されたコロイドシリカ粒子、ならびにシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であるところの有機および/または無機顔料、を含んでいる水性顔料分散物にも関する。
【0031】
1の実施態様に従うと、約20まで、たとえば約10まで、または約5体積%までの水溶性もしくは水分散性の有機溶媒、たとえば低級アルコールが、調製された水性顔料分散物中に含有されていてもよい。このような分散物は、ある割合の有機溶媒を含んでいる水性分散物、たとえばシリカゾル、シラン化合物、または有機溶媒もしくは有機媒体中に少なくとも部分的に分散された顔料から生成されたものでもよい。
【0032】
1の実施態様に従うと、顔料は無機質である。1の実施態様に従うと、顔料は、得られた顔料分散物中に約25〜約85、たとえば約50〜約80、または約60〜約75重量%の顔料含有量をもたらすような量で付加混合される。1の実施態様に従うと、得られた顔料分散物中のシリカと顔料との重量比は、約0.01〜約0.7、たとえば約0.01〜約0.6、または約0.01〜約0.5、または約0.01〜約0.4、または約0.01〜約0.3、または約0.01〜約0.2、または約0.02〜約0.05の範囲にある。
【0033】
調製された顔料分散物中のシリカの合計含有量は、シラン処理され修飾されたシリカ粒子および修飾されていないシリカ粒子を含んでおり、後者も、調製された分散物中に存在することができる。シラン化合物の合計量は、遊離して分散されたもしくは溶解されたすべてのシラン化合物、およびシラン基またはシランの誘導体によって連結されもしくは結合されたすべてのシラン化合物に基づいている。したがって、調製された顔料分散物中の、遊離したおよび連結されもしくは結合された基を含む、シランとシリカとの重量比は、付加混合されているシラン成分とシリカ成分との重量比の範囲内、すなわち約0.25〜約1.5、たとえば約0.3〜約1.2、または約0.35〜約0.8、または約0.4〜約0.8であることができる。
【0034】
1の実施態様に従うと、水性顔料分散物は、遊離して分散されたシラン化合物および/またはコロイドシリカ粒子、ならびに本明細書に開示されたコロイドシリカ粒子およびシラン化合物から調製された、シラン処理されたコロイドシリカ粒子を含んでいる。
【0035】
1の実施態様に従うと、水性顔料分散物は、本明細書に開示された無機顔料のうちのいずれかを含んでいる。水性顔料分散物中に含まれている成分のさらなる特性は、方法の節に記載された通りであることができる。
【0036】
顔料分散物が安定であることは、貯蔵を許容しかつ使用直前にその場で調製されることを必要としないので、任意の用途におけるその取扱いおよび施与を容易にする。前もって調製された分散物が、このようにして容易に直接使用されることができる。該分散物は、有害な量の毒性成分を含まないという意味でも利益がある。
【0037】
分散物は、シラン処理されたコロイドシリカ粒子の他にも、少なくともある程度まで、シラン処理されていないコロイドシリカ粒子を、該シリカ粒子のサイズ、シランとシリカとの重量比、混合されるシラン化合物の種類、反応条件等に応じて、含有することができる。好適には、コロイドシリカ粒子の少なくとも約40重量%、たとえば少なくとも約65、または少なくとも約90、または少なくとも約95、たとえば少なくとも約99重量%がシラン化される。分散物は、シリカ粒子の表面に結合されもしくは連結されたシラン基またはシラン誘導体の形をしたシランの他にも、少なくともある程度まで、遊離して分散された結合されていないシラン化合物を含んでいることができる。好適には、該シラン化合物の少なくとも約40、たとえば少なくとも約60、または少なくとも約75、たとえば少なくとも約90、または少なくとも約95重量%が、シリカ粒子の表面に結合されまたは連結されている。
【0038】
1の実施態様に従うと、調製された顔料分散物は、約1〜約80、たとえば約5〜約80、または約10〜約80、たとえば約20〜約80、たとえば約25〜約70、または約30〜約60重量%のシリカ含有量を有することができる。
【0039】
得られた顔料分散物は、コーティング用途、たとえば建築用コーティング、屋内および屋外用塗料、染色液、工業用コーティング、たとえば電線コイルコーティング、紙コーティング、ならびに保護コーティングまたは他の用途、たとえば製紙、積層物材料および複合物材料、たとえば紙、プラスチック、ゴム、コンクリートおよびセメント系、インク、およびセラミックス、たとえばセラミックタイルに使用されるのに適している。該顔料分散物は、塗装された物質または非吸収性物質、たとえばガラス繊維壁紙上に使用されて、たとえばしっくいまたはパテ中の気泡の生成を低減しまたは防止することもできる。
【0040】
本発明はこのようにして記載されたが、同は多くの様式で変えられることができることは明らかであろう。以下の実施例は、記載された発明がどのようにして実施されることができるかを、その範囲を限定することなく、さらに例示する。
【0041】
すべての部およびパーセントは、他様に定められなければ、重量部および重量パーセントのことである。
【0042】
実施例1〜13
【0043】
使用されたシリカゾルは、他様に定められない限り、顔料分散物として使用される前に、実施例11および12を除いて13.4重量%のシリカ含有量を有しており、実施例11および12についてはシリカ含有量は4.46重量%であった。該ゾルのコロイドシリカ粒子は、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いて修飾された。シラン修飾は、特許文献2の出願明細書に記載されたように60℃において実施された。この評価に使用された種々のコロイドシリカ分散物の特性は下の表1に示されており、表1は従来技術で使用されるポリアクリレートも参照例として含んでいる。
【表1】

【0044】
顔料ペーストの調製
【0045】
二酸化チタン(高度に粉砕されたチタニア顔料、Tiona 595、Univar社供給)300gが、表1に従う希釈されたシリカゾル100gに穏やかな撹拌下に約20秒間で添加されて、他様に述べられない限り75重量%の顔料ペーストが得られた(表2参照)。顔料は、40mm直径のディゾルバータービンを用いて1400rpmで10分間分散されて、十分に分散された顔料が調製された。ペーストの番号は、表1の分散剤として使用されたシリカゾルの番号に対応している。
【表2】

【0046】
コーティングシリーズ
【0047】
樹脂エマルション中にペーストが取り込まれて、光学的評価のためのコーティング組成物が生成された。使用された樹脂エマルションは、Setalux(商標)6774であり、Nuplex Resins社から供給された。調製されたコーティング組成物は、乾燥コーティング組成物中にそれぞれ酸化チタン5、10、20、30、40および50重量%を含んでいた。100ミクロンの開口部を有する膜塗布機を使用して、膜がキャストされた。各コーティング組成物は樹脂エマルション50g(乾燥樹脂22gに等しい。)を含有していた。
【0048】
膜の評価
【0049】
可視光領域の波長(300〜700nm)について、光学的測定が実施された。硫酸バリウムを参照反射物として使用する積分球を備えたBeckman Acta 5240分光光度計によって、顔料を添加されたコーティングの反射率が測定された。顔料ペースト1〜4、10、11、および13に基づいたコーティング組成物が評価された。顔料ペースト5、6、8、9および12は、表2に掲げられたように直ちにまたは短時間後にゲル化し、他方、ペースト7はTiO260〜270gの添加後、固形化する。この文脈においては、ペースト5、6または8のいずれもシラン処理されたコロイドシリカ粒子を含んでいないこと、およびペースト7および9のみのシランとシリカとの重量比がそれぞれ0.2および0.15であることが注釈されることができる。ペースト12は、その逆にペースト中に過剰の量の顔料、すなわちTiO350gを含有している。
【0050】
顔料ペーストの安定性
【0051】
コロイドシリカの高いシラン修飾度は、低い修飾度と比較してペーストの安定性を改良した。すなわち、たとえば表2中のNo.1(高い)、No.2(低い)、No.3(低い)、およびNo.4(高い)を比較せよ。分散剤としてポリアクリレートであるDispex N40を使用した「参照」ペーストNo.10は、沈降およびペーストが分離する傾向を示した。
【0052】
コーティング組成物
【0053】
コーティング組成物は7.5月間後に検査された。すべてのサンプルが分離していた。TiO顔料はサンプルの底に沈降してしまっていた。しかし、コーティングシリーズNo.1、4および13は容易に再分散し、他方、コーティングシリーズNo.3、10(参照例)、および11は、はるかにより多くの固形「ケーキ」をサンプルの底に有していた。
【0054】
顔料の光散乱効率
【0055】
この節における検討は、コロイドシリカ分散物に対する慣用のポリアクリレート分散物であるDispex N40の観点から、積分可視光反射率(λ:波長領域300〜700nm)としての光散乱に焦点を合わせている。顔料分散剤としてDispex N40の代わりにコロイドシリカ分散物を使用すると、供給業者によって推奨された0.40重量%の配量において、顔料効率の大きい増加を得ることが可能であった。すなわち、下の表3中の(シリカゾルNo.1を含んでいる)シリーズNo.1と、(表1に掲げられたようにDispex N40、すなわちNo.10を含んでいる)シリーズNo.10とを比較せよ。これは最も顕著な効果であり、高い顔料充填量において得られた。すなわち、たとえばコロイドシリカによって分散された30重量%のチタニア含有物は、コーティング膜中において、Dispex N40によって分散された約40重量%のチタニアと同じ反射率を与える。
【表3】

【0056】
粒子サイズ
【0057】
5nmの粒子サイズは500m/gの比表面積に相当し、反射率の観点からは750m/gの比表面積に相当する4nmの粒子サイズよりもいくぶん効率的であるようであった(表4中のコーティングシリーズ1および4を比較せよ。)。
【表4】

【0058】
コロイドシリカ分散物のシラン修飾度
【0059】
コロイドシリカの高いシラン修飾度は、可視スペクトル(波長300〜700nm)においても、とりわけ5nmの粒子の場合に有益である。この現象についての理由は、顔料の高められた濡れ、および凝集に抗する改良された安定性および酸化チタン顔料間の間隔に依存しているようであった(表5中のコーティングシリーズ1〜4を比較せよ。これらの中にシリカゾル1〜4が付加混合されて、それぞれシリーズ1〜4の分散物が調製されている。)。とは言いながら、これらのコーティングシリーズの場合、その差はそれほど顕著ではない。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダーを実質的に含んでいない実質的に水性の顔料分散物を製造する方法であって、少なくとも1の水溶性または水分散性のシラン化合物とコロイドシリカ粒子とを混合して、水性分散物中のシラン処理されたコロイドシリカ粒子を生成し、これによって当該少なくとも1のシラン化合物が、約0.2〜約1.5のシランとシリカとの重量比でコロイドシリカ粒子と混合される段階、当該シラン処理されたコロイドシリカ粒子を有機および/または無機顔料と混合して、ここでシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であり、当該実質的に水性の顔料分散物を生成する段階、を含む方法。
【請求項2】
顔料が、約10〜約5000nmの範囲にある粒子サイズを有する、請求項1に従う方法。
【請求項3】
分散物中の顔料含有量が、約25〜約85重量%である、請求項1または2に従う方法。
【請求項4】
顔料がTiOである、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法。
【請求項5】
シリカと顔料との重量比が、約0.01〜約0.4の範囲にある、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
シランとシリカとの重量比が、約0.25〜約1.5である、請求項1〜5のいずれか1項に従う方法。
【請求項7】
水性分散物が、約20体積%までの水溶性または水分散性の有機溶媒を含有している、請求項1〜6のいずれか1項に従う方法。
【請求項8】
有機バインダーの添加が、得られた分散物が約1重量%未満の有機バインダーを含有するようなものである、請求項1〜7のいずれか1項に従う方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に従う方法によって得られることができる水性顔料分散物。
【請求項10】
有機バインダーを実質的に含んでいない水性顔料分散物であって、該顔料分散物中におけるシランとシリカとの重量比が約0.2〜約1.5であるところのシラン処理されたコロイドシリカ粒子、ならびにシリカと顔料との重量比が約0.001〜約0.8であるところの有機および/または無機顔料、を含んでいる水性顔料分散物。
【請求項11】
顔料が、約10〜約5000nmの範囲にある粒子サイズを有する、請求項9または10に従う分散物。
【請求項12】
シランとシリカとの重量比が、約0.25〜約1.5である、請求項9〜11のいずれか1項に従う分散物。
【請求項13】
シリカと顔料との重量比が、約0.01〜約0.4である、請求項9〜12のいずれか1項に従う分散物。
【請求項14】
分散物中のシリカ含有量が、約1〜約80重量%である、請求項9〜13のいずれか1項に従う分散物。
【請求項15】
分散物中の顔料含有量が、約25〜約85重量%である、請求項9〜14のいずれか1項に従う分散物。
【請求項16】
顔料が無機質である、請求項9〜15のいずれか1項に従う分散物。
【請求項17】
顔料がTiOである、請求項9〜16のいずれか1項に従う分散物。
【請求項18】
約1重量%未満の有機バインダーの含有量を有する、請求項9〜17のいずれか1項に従う分散物。
【請求項19】
分散物が、コーティング用途に使用される、請求項9〜18のいずれか1項に従う分散物を使用する方法。
【請求項20】
分散物が、気泡の生成を低減するために使用される、請求項9〜19のいずれか1項に従う分散物を使用する方法。

【公表番号】特表2010−509431(P2010−509431A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536200(P2009−536200)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/SE2007/050748
【国際公開番号】WO2008/057029
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】