説明

顔料分散組成物の製造方法

【課題】ビーズミル方式の分散装置を用いて高顔料濃度の顔料分散液を調製する際の粘度の増加及びゲル化を防止するとともに、上記顔料分散液を保存した際の粘度の増加及びゲル化を防止する。
【解決手段】本発明の顔料分散組成物の製造方法は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを含む顔料分散組成物の製造方法であって、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、第1の重合禁止剤とを含む混合物を調製する工程と、前記混合物を分散装置で処理して、前記混合物の各成分を分散させる工程とを含み、前記分散装置が、ビーズミル方式でかつ前記混合物の送液方法として循環方式を用いる分散装置であり、前記分散装置のシール液が、第2の重合禁止剤を含み、前記第1の重合禁止剤及び前記第2の重合禁止剤が、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線硬化型インクジェットインクに用いる顔料分散組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、圧力、熱、電界などを駆動源として用いることにより、液状のインクをノズルから記録媒体に向けて吐出させて印刷する記録方式である。このような記録方式は、ランニングコストが低く、高画質化が可能であり、また用途に合わせて各種のインクを印字できることから、近年、市場を拡大している。
【0003】
インクジェット記録方式に適用されるインクとしては、水を主成分とする水性インクや有機溶剤を主成分とする油性インクが用いられてきたが、印刷物のにじみを抑えるために、媒質としてエチレン性二重結合を有するモノマーなどの重合性化合物を用い、エネルギー線(例えば、紫外線)の照射によりインクを硬化させる無溶剤タイプのエネルギー線硬化型インクジェットインクが注目されている。
【0004】
この種のエネルギー線硬化型インクジェットインクに用いられる着色材としては、染料も使用されているが、発色性に優れた高精細な画像を形成するため、顔料の使用が検討されている。顔料系のエネルギー線硬化型インクジェットインクにおいて、インクジェット記録方式で印刷する場合の吐出安定性を確保するためには、媒質中で顔料が微細に分散されている必要があるが、一般に、エネルギー線硬化型インクジェットインク中の顔料濃度は1〜5質量%程度と低い。そのため、インクの最終組成で顔料の分散が行われた場合、長時間の分散を必要とし、生産効率が低下する。
【0005】
上記観点から、分散性を向上させるために、顔料と、樹脂、分散剤及び重合性化合物から選ばれる少なくとも1つとを含有する混合物を二本ロールミルで分散させて高顔料濃度の顔料分散液を調製し、次いで顔料分散液を重合性化合物及び光重合開始剤で希釈することによりエネルギー線硬化型インクジェットインクを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−306622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような二本ロールミルからなる分散装置では混合物にシェアが十分に掛かりにくいため、顔料の微粒子化が不十分となりやすい。
【0008】
一方、顔料の分散性を向上させるために、ガラスビーズやセラミックビーズなどの分散メディアを利用した高分散エネルギーが得られるビーズミル方式の分散装置を用いることも考えられる。しかしながら、上記のような分散メディアを利用した高分散装置は大きな分散エネルギーが得られる反面、顔料分散液中に光重合開始剤が添加されていなくても、分散工程において発生する熱やメカノケミカル的に発生するラジカルにより重合性化合物が容易に重合反応を開始してしまい、粘度の増加やゲル化などの問題が発生する。
【0009】
また、ビーズミル方式の分散装置では、シール液を用いたメカニカルシール方式を採用して顔料分散液の液漏れや逆流を防止している。この場合、メカニカルシール部で分散処理時に発生する熱やメカノケミカル的に発生するラジカルによって重合性化合物が重合を起こし、メカニカルシール部に不適切な隙間を生じたり、重合物が詰まることにより回転軸の回転に負荷がかかるなどして顔料分散液の液漏れや逆流を起こすという問題がある。
【0010】
特許文献1では、分散時の粘度の増加やゲル化を防止するために重合禁止剤を使用することも提案されており、重合禁止剤の中でもフェノール系酸化防止剤を使用することにより重合性化合物の重合反応を抑制できることが開示されている。しかしながら、このような酸化防止タイプの重合禁止剤を添加した高顔料濃度の混合物を分散メディアを用いた高分散装置で分散させた場合、重合反応抑制の効果が小さく、顔料分散液の粘度が高くなりやすいという問題がある。また、特許文献1に記載の重合禁止剤の使用のみでは、メカニカルシール部での顔料分散液の液漏れや逆流を防止できない問題がある。
【0011】
さらに、酸化防止タイプの重合禁止剤を添加しても、調製される顔料分散液は経時変化により粘度が顕著に増加し、長期保存した場合には顔料分散液がゲル化するという問題がある。上記のような高顔料濃度の顔料分散液を調製し、これを希釈する方法により工業的にインクを製造する場合、顔料分散液を多量に製造した後、これを一定期間保存し、必要に応じて顔料分散液を希釈することが生産上好ましい。従って、保存安定性に優れた顔料分散液が要求されている。また、上記のような保存により一旦粘度の増加あるいはゲル化した顔料分散液は重合性化合物で希釈されても流動性が回復せず、インクジェット記録方式に適した低粘度で、顔料が微細に分散されたインクを製造できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の顔料分散組成物の製造方法は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを含む顔料分散組成物の製造方法であって、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、第1の重合禁止剤とを含む混合物を調製する工程と、前記混合物を分散装置で処理して、前記混合物の各成分を分散させる工程とを含み、前記分散装置が、ビーズミル方式でかつ前記混合物の送液方法として循環方式を用いる分散装置であり、前記分散装置のシール液が、第2の重合禁止剤を含み、前記第1の重合禁止剤及び前記第2の重合禁止剤が、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ビーズミル方式の分散装置を用いて高顔料濃度の顔料分散液を調製する際の粘度の増加及びゲル化を防止することができるとともに、上記顔料分散液を保存した際の粘度の増加及びゲル化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ビーズミル方式の分散装置であって、混合物の送液方法として循環方式を用いた分散装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】分散装置のメカニカルシール部の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の顔料分散組成物の製造方法は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを含む顔料分散組成物の製造方法であって、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、第1の重合禁止剤とを含む混合物を調製する工程と、上記混合物を分散装置で処理して、上記混合物の各成分を分散させる工程とを含み、上記分散装置が、ビーズミル方式でかつ上記混合物の送液方法として循環方式を用いる分散装置であり、上記分散装置のシール液が、第2の重合禁止剤を含み、上記第1の重合禁止剤及び上記第2の重合禁止剤が、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の顔料分散組成物の製造方法によれば、ビーズミル方式の分散装置を用いて高顔料濃度の顔料分散液(顔料分散組成物)を調製する際の粘度の増加及びゲル化を防止することができるとともに、上記顔料分散液を保存した際の粘度の増加及びゲル化を防止することができる。特に、上記分散装置のメカニカルシール部における重合性化合物の重合を抑制でき、メカニカルシール部からの液漏れや逆流を防止できる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
先ず、本発明の顔料分散組成物の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、第1の重合禁止剤とを含む混合物を調製する工程と、上記混合物をビーズミル方式でかつ上記混合物の送液方法として循環方式を用いる分散装置で処理して、上記混合物の各成分を分散させる工程とを備えている。これにより、顔料の表面を予め分散剤や重合性化合物で濡らすことができ、高顔料濃度の混合物であっても、分散工程において顔料を高分散することができる。
【0019】
上記顔料としては、耐候性の観点より、無機顔料、有機顔料のいずれか又は両方を使用することが好ましい。
【0020】
上記無機顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。
【0021】
上記有機顔料としては、具体的には、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系の有機顔料などが挙げられる。また、酸性、中性又は塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子なども有機顔料として用いてもよい。
【0022】
上記シアン色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4のいずれか又は両方が好ましい。
【0023】
上記マゼンタ色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0024】
上記イエロー色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントイエロー214などが挙げられる。これらの中でも、耐候性などの点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー213、及びC.I.ピグメントイエロー214からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0025】
上記ブラック色を有する顔料としては、具体的には、例えば、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF;キャボット社製のモナーク、リーガル;デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス;東海カーボン社製のトーカブラック;コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、及びデグサ・ヒュルス社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0026】
上記混合物中の顔料の配合量は、分散工程時に高い分散エネルギーを顔料に付与させるため、混合物全量に対して、有機顔料であれば8〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましく、無機顔料であれば20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。本実施形態の製造方法によれば、このような高顔料濃度の混合物を分散メディアによる高い分散エネルギーで分散させても、顔料分散液の粘度の増加やゲル化を十分に抑制することができる。顔料の配合量が少なすぎると、混合物が低粘度となり、分散工程において分散が不十分となりやすく、そのため長時間の分散を必要とし、生産効率が低下する。一方、顔料の配合量が多すぎると、分散工程において顔料分散液の粘度が上昇しやすく、流動性が損なわれ、分散性が低下しやすい傾向がある。
【0027】
上記混合物は、顔料の分散性を向上させるため、分散剤を含有する。分散工程前に顔料と分散剤とを予め混合することにより、顔料の表面を適度に分散剤で濡らすことができる。このような分散剤としては、具体的には、例えば、イオン性又は非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の高分子化合物などが挙げられる。これらの中でも、分散安定性の点から、カチオン性基又はアニオン性基を含む高分子化合物が好ましい。市場で入手可能な分散剤としては、ルーブリゾール社製の“SOLSPERSE”、ビックケミー社製の“DISPERBYK”、エフカアディティブズ社製の“EFKA”などが挙げられる。混合物中の分散剤の配合量は、顔料の配合量にもよるが、混合物全量に対して、通常0.05〜15質量%が好ましい。
【0028】
上記重合性化合物としては、エネルギー線により硬化する特性を有する分子内にエチレン性二重結合を1個又は複数有する単官能モノマー又は多官能モノマーを用いることができる。混合撹拌工程では単官能モノマーもしくは二官能モノマーを主成分として含む重合性化合物を使用することが好ましい。単官能モノマーや二官能モノマーは、三官能以上の多官能モノマーに比べて反応性が低いことから、分散工程や顔料分散液保存時における粘度の増加やゲル化をさらに抑制することができる。
【0029】
上記分子内にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーとしては、具体的には、例えば、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−フタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸などが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。また、上記モノマーは、リンやフッ素などの官能基で置換されていてもよい。これらの中でも、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びトリデシル(メタ)アクリレートは低粘度であるため、特に好ましい。
【0030】
上記分子内にエチレン性二重結合を2個有する二官能モノマーとしては、具体的には、例えば、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。
【0031】
上記分子内にエチレン性二重結合を3個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。
【0032】
上記分子内にエチレン性二重結合を4個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。
【0033】
上記分子内にエチレン性二重結合を5個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。
【0034】
上記分子内にエチレン性二重結合を6個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。
【0035】
上記混合物は、重合性化合物として、オリゴマー又はプレポリマーをさらに含有してもよい。このようなオリゴマー又はプレポリマーとしては、具体的には、例えば、ダイセルUCB社製のEbecryl 230、Ebecryl 244、Ebecryl 245、Ebecryl 270、Ebecryl 280/15IB、Ebecryl 284、Ebecryl 285、Ebecryl 4830、Ebecryl 4835、Ebecryl 4858、Ebecryl 4883、Ebecryl 8402、Ebecryl 8803、Ebecryl 8800、Ebecryl 254、Ebecryl 264、Ebecryl 265、Ebecryl 294/35HD、Ebecryl 1259、Ebecryl 1264、Ebecryl 4866、Ebecryl 9260、Ebecryl 8210、Ebecryl 1290、Ebecryl 1290K、Ebecryl 5129、Ebecryl 2000、Ebecryl 2001、Ebecryl 2002、Ebecryl 2100、KRM7222、KRM7735、KRM4842、KRM210、KRM215、KRM4827、KRM4849、KRM6700、KRM6700−20T、KRM204、KRM205、KRM6602、KRM220、KRM4450、KRM770、IRR567、IRR81、IRR84、IRR83、IRR80、IRR657、IRR800、IRR805、IRR808、IRR810、IRR812、IRR1657、IRR1810、IRR302、IRR450、IRR670、IRR830、IRR835、IRR870、IRR1830、IRR1870、IRR2870、IRR267、IRR813、IRR483、IRR811、IRR436、IRR438、IRR446、IRR505、IRR524、IRR525、IRR554W、IRR584、IRR586、IRR745、IRR767、IRR1701、IRR1755、IRR740/40TP、IRR600、IRR601、IRR604、IRR605、IRR607、IRR608、IRR609、IRR600/25TO、IRR616、IRR645、IRR648、IRR860、IRR1606、IRR1608、IRR1629、IRR1940、IRR2958、IRR2959、IRR3200、IRR3201、IRR3404、IRR3411、IRR3412、IRR3415、IRR3500、IRR3502、IRR3600、IRR3603、IRR3604、IRR3605、IRR3608、IRR3700、IRR3700−20H、IRR3700−20T、IRR3700−25R、IRR3701、IRR3701−20T、IRR3703、IRR3702、RDX63182、RDX6040、IRR419;サートマー社製のCN104、CN120、CN124、CN136、CN151、CN2270、CN2271E、CN435、CN454、CN970、CN971、CN972、CN9782、CN981、CN9893、CN991;BASF社製のLaromer EA81、Laromer LR8713、Laromer LR8765、Laromer LR8986、Laromer PE56F、Laromer PE44F、Laromer LR8800、Laromer PE46T、Laromer LR8907、Laromer PO43F、Laromer PO77F、Laromer PE55F、Laromer LR8967、Laromer LR8981、Laromer LR8982、Laromer LR8992、Laromer LR9004、Laromer LR8956、Laromer LR8985、Laromer LR8987、Laromer UP35D、Laromer UA19T、Laromer LR9005、Laromer PO83F、Laromer PO33F、Laromer PO84F、Laromer PO94F、Laromer LR8863、Laromer LR8869、Laromer LR8889、Laromer LR8997、Laromer LR8996、Laromer LR9013、Laromer LR9019、Laromer PO9026V、Laromer PE9027V;コグニス社製のフォトマー3005、フォトマー3015、フォトマー3016、フォトマー3072、フォトマー3982、3215、フォトマー5010、フォトマー5429、フォトマー5430、フォトマー5432、フォトマー5662、フォトマー5806、フォトマー5930、フォトマー6008、フォトマー6010、フォトマー6019、フォトマー6184、フォトマー6210、フォトマー6217、フォトマー6230、フォトマー6891、フォトマー6892、フォトマー6893−20R、フォトマー6363、フォトマー6572、フォトマー3660;根上工業社製のアートレジンUN−9000HP、アートレジンUN−9000PEP、アートレジンUN−9200A、アートレジンUN−7600、アートレジンUN−5200、アートレジンUN−1003、アートレジンUN−1255、アートレジンUN−3320HA、アートレジンUN−3320HB、アートレジンUN−3320HC、アートレジンUN−3320HS、アートレジンUN−901T、アートレジンUN−1200TPK、アートレジンUN−6060PTM、アートレジンUN−6060P;日本合成化学社製の紫光UV−6630B、紫光UV−7000B、紫光UV−7510B、紫光UV−7461TE、紫光UV−3000B、紫光UV−3200B、紫光UV−3210EA、紫光UV−3310B、紫光UV−3500BA、紫光UV−3520TL、紫光UV−3700B、紫光UV−6100B、紫光UV−6640B、紫光UV−1400B、紫光UV−1700B、紫光UV−6300B、紫光UV−7550B、紫光UV−7605B、紫光UV−7610B、紫光UV−7620EA、紫光UV−7630B、紫光UV−7640B、紫光UV−2000B、紫光UV−2010B、紫光UV−2250EA、紫光UV−2750B;日本化薬社製のカヤラッドR−280、カヤラッドR−146、カヤラッドR131、カヤラッドR−205、カヤラッドEX2320、カヤラッドR190、カヤラッドR130、カヤラッドR−300、カヤラッドC−0011、カヤラッドTCR−1234、カヤラッドZFR−1122、カヤラッドUX−2201、カヤラッドUX−2301、カヤラッドUX3204、カヤラッドUX−3301、カヤラッドUX−4101、カヤラッドUX−6101、カヤラッドUX−7101、カヤラッドMAX−5101、カヤラッドMAX−5100、カヤラッドMAX−3510、カヤラッドUX−4101などが挙げられる。
【0036】
上記混合物中の重合性化合物の配合量は、上記顔料の配合量を確保できれば特に限定されないが、混合物全量に対して、40〜90質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
【0037】
上記混合物は、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む第1の重合禁止剤を含有する。上記混合物に上記重合禁止剤を含有させることにより、高顔料濃度の混合物を分散メディアを用いて高分散エネルギーで分散させても、分散工程における粘度の増加やゲル化を抑制することができる。また、上記重合禁止剤を使用することにより、調製された顔料分散液を一定期間保存しても、顔料分散液の粘度の増加やゲル化が少ない。さらに、保存後の顔料分散液を希釈してインクを製造した場合に、高粘度となりにくく、微粒子の顔料が分散されたインクを得ることができる。
【0038】
上記ヒンダートアミン化合物としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ基を有する化合物が好ましい。具体的には、例えば、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用されてもよい。これらの中でも、N−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケートが好ましい。市場で入手可能な2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ基を有するヒンダートアミン化合物からなる重合禁止剤としては、チバ社製の“IRGASTAB UV−10”などが挙げられる。
【0039】
上記キノン化合物としては、アルキル基を有する化合物が好ましい。具体的には、例えば、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジ−tert−アミルベンゾキノン、2−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−シクロヘキサジエン−1−オン,2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−(フェニルエチレン)−(9Cl)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用されてもよい。これらの中でも、2,5−シクロヘキサジエン−1−オン,2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−(フェニルエチレン)−(9Cl)が好ましい。市場で入手可能な2,5−シクロヘキサジエン−1−オン,2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−(フェニルエチレン)−(9Cl)からなる重合禁止剤としては、チバ社製の“IRGASTAB UV−22”が挙げられる。
【0040】
上記ニトロソアミン化合物としては、例えば、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンセリウム塩などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用されてもよい。
【0041】
上記混合物中の上記重合禁止剤の配合量は、重合性化合物の種類や配合量にもよるが、混合物全量に対して、0.01〜3質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。上記重合禁止剤の配合量が0.01質量%以上であれば、分散工程や顔料分散液の保存時に発生するラジカルを十分に捕捉することができ、顔料分散液の粘度の増加やゲル化をさらに抑制することができる。一方、上記重合禁止剤の配合量が3質量%以下であれば、エネルギー線照射時の重合反応の低下が抑えられ、硬化性に優れたインクを得ることができる。
【0042】
上記混合物は、上記重合禁止剤を含有していれば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤をさらに含有してもよい。上記混合物中の上記酸化防止剤の配合量は、特に限定されるものではないが、混合物全量に対して、0.1〜4質量%が好ましい。
【0043】
上記混合物の調製にあたっては、従来の混合撹拌機を用いることができる。このような混合撹拌機としては、具体的には、例えば、ディスパ、ニーダ、プラネタリミキサなどが挙げられる。
【0044】
次に、上記のようにして調製された混合物中の顔料を微細化するため、分散メディアを充填したビーズミル方式の分散装置により混合物を分散処理する分散工程が行われる。上記分散装置で高顔料濃度の混合物を分散処理することにより、顔料を微粒子化することができ、顔料が小粒径で分散された顔料分散液を調製することができる。上記分散装置としては、従来のビーズミル方式の分散装置を使用することができる。具体的には、例えば、アトライタ、ボールミル、ピンミル、サンドミル、ダイノミルなどが挙げられる。分散メディアとしては、ガラスビーズ、セラミックビーズ、金属ビーズ(表面が樹脂で被覆されたものも含む。)などの従来の分散メディアを使用できる。これらの中でも、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどのセラミックからなるビーズが好ましい。分散メディアの粒径は、0.05〜2.0mmが好ましく、0.1〜1.0mmがより好ましく、0.1〜0.5mmが特に好ましい。
【0045】
上記ビーズミル方式の分散装置へのビーズの充填率は特に限定されないが、40〜90%が一般的であり、分散液の粘度及び粒径の観点から60〜80%が好ましい。また、上記分散装置の周速は、3〜40m/sが一般的であり、分散液の粘度及び粒径の観点から周速3〜20m/sが好ましく、周速5〜12m/sが特に好ましい。
【0046】
上記ビーズミル方式の分散装置による分散液の処理方法(混合物の送液方法)としては、混合物(スラリー)をホールディングタンクとビーズミルとの間で循環させる循環方式と、ビーズミルに連続的に混合物(スラリー)を供給するパス方式があるが、本実施形態の分散装置としては、作業性がよく、処理時間の長い難分散性の混合物に適する循環方式を用いる。図1は、ビーズミル方式の分散装置であって、混合物の送液方法として循環方式を用いた分散装置の一例を示す模式断面図である。図1において、分散装置1は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを攪拌して混合物2を調製するホールディングタンク3と、上記混合物を分散処理して、上記混合物の各成分を分散させるビーズミル4と、ホールディングタンク3とビーズミル4とを連結する循環パイプ5と、循環ポンプ6とを備えている。調製された混合物2は、ビーズミル4で分散処理された後、再びホールディングタンク3に戻され、上記と同様の処理が必要回数繰り返される。ビーズミル4において、顔料粒子を細かくし、その粒度分布をシャープにするためには、同じ分散時間であれば循環回数が多いほどよい。また、上記循環運転では分散は時間とともに進行するため、粒度コントロールや自動化運転を可能にし、運転中に分散の進行状況の確認や、添加剤等の添加も任意に行える。
【0047】
分散時間は、顔料や重合性化合物の種類や分散液の処理量及び組成などにより異なるが、30〜600分が好ましい。また、分散時には、顔料分散液が高温となるのを防止するため、分散装置を冷却しながら顔料分散液を調製することが好ましい。
【0048】
上記分散工程直後の顔料分散液の粘度は、25℃で15〜100mP・sが好ましい。また、分散工程直後の顔料の分散平均粒径は、20〜300nmが好ましい。分散平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて求めることができる。
【0049】
また、上記分散装置のシール液は、上記顔料分散液に含まれる上記重合性化合物と同種の重合性化合物を含んでいてもよい。上記「上記重合性化合物と同種の重合性化合物を含んでいる。」とは、両者の重合性化合物が少なくとも1種共通することをいう。
また、上記シール液は、前述のヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む第2の重合禁止剤を含んでいる。これにより、上記分散装置のメカニカルシール部で分散処理時に発生する熱やメカノケミカル的に発生するラジカルによって重合性化合物が重合を起こすことを防止でき、メカニカルシール部に不適切な隙間を生じたり、重合物が詰まることにより回転軸の回転に負荷がかかるなどして顔料分散液の液漏れや逆流を起こすという問題を解決できる。
【0050】
上記シール液中の上記重合禁止剤の配合量は、重合性化合物の種類や配合量にもよるが、シール液全量に対して、1〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。上記重合禁止剤の配合量が1質量%以上であれば、分散工程に発生するラジカルを十分に捕捉することができ、顔料分散液の液漏れや逆流を抑制することができる。
【0051】
ここで、上記メカニカルシールについて図面に基づき簡単に説明する。図2は、分散装置のメカニカルシール部の一例を示す模式断面図である。図2において、分散装置のメカニカルシール部10は、シール液11aで満たされたシール液タンク11と、顔料分散液12aで満たされた分散タンク12と、回転軸13とを備えている。回転軸13の上部には攪拌用プロペラ(図示せず。)が取り付けられており、これが回転することにより、顔料分散液12aを攪拌して各成分を分散させることができる。また、回転軸13の下部は、シール液11aで満たされており、これにより顔料分散液12aの液漏れや逆流を防止している。シール液11aには、例えば顔料分散液12aに含まれる重合性化合物と同種の重合性化合物と、例えば顔料分散液12aに含まれる重合禁止剤と同種の重合禁止剤とが含まれている。シール液11aが重合禁止剤を含むことにより、メカニカルシール部10で分散処理時に発生する熱やメカノケミカル的に発生するラジカルによって重合性化合物が重合を起こすことを防止できる。
【0052】
また、シール液11aが顔料分散液12aに含まれるものと同種の重合性化合物及び重合禁止剤を含むことにより、シール液11aと顔料分散液12aとが多少混合しても、顔料分散液12aの特性に影響を与えることを防止できる。
【0053】
(実施形態2)
次に、本発明の顔料分散組成物の実施形態について説明する。本実施形態の顔料分散組成物は、顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを含み、上記重合禁止剤は、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含んでおり、実施形態1の製造方法で製造した顔料分散液に相当するものである。本実施形態の顔料分散組成物の各成分は、実施形態1で説明したものと同様であるので、その説明は省略する。
【0054】
本実施形態の顔料分散組成物を用いてエネルギー線硬化型インクジェットインクを製造する場合は、本実施形態の顔料分散組成物(顔料分散液)に、さらに重合性化合物と光重合開始剤とを混合撹拌する希釈工程を行ってインクを調製すればよい。このような希釈工程により、インク中の顔料濃度を低下させることができ、インクジェット記録方式に適した低粘度のインクを得ることができる。インクの最終組成における顔料の配合量は、顔料の種類や用途にもよるが、インク全量に対して、1〜5質量%が好ましく、1〜2質量%がより好ましい。
【0055】
本明細書では、高顔料濃度の顔料分散液も、それを希釈したインクも、ともに顔料分散組成物からなるインク材料として扱う。
【0056】
上記希釈工程で使用される重合性化合物としては、上記顔料分散組成物に含まれているものと同種の重合性化合物を使用することもできる。これらの中でも、硬化性の高いインクを得るために多官能のモノマーを主成分として含む重合性化合物を使用することが好ましい。インクの最終組成における重合性化合物全体の配合量は、上記顔料の配合量を確保できれば特に限定されないが、インク全量に対して、60〜95質量%が好ましい。
【0057】
上記光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアルキルフェノン類、チオキサントン類、アリールアルキルケトン類、オキシムケトン類、アシルホスホナート類、チオ安息香酸S−フェニル類、チタノセン類、芳香族ケトン類、ベンジル類、キノン誘導体類、ケトクマリン類などが挙げられる。これらの中でも、上記重合性化合物とともに用いた場合に、低エネルギーで重合を開始させることができるアシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアルキルフェノン類、及びチオキサントン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の光重合開始剤が好ましく、アシルホスフィンオキサイド類、又はα−アミノアルキルフェノン類とチオキサントン類との混合物がより好ましい。
【0058】
上記アシルホスフィンオキサイド類としては、具体的には、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−エチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−イソプロピルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−メチルシクロヘキサノイルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチルエステル、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸イソプロピルエステル、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。市場で入手可能なアシルホスフィンオキサイド類としては、BASF社製の“Lucivin TPO”などが挙げられる。
【0059】
上記α−アミノアルキルフェノン類としては、具体的には、例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メトキシチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−2−オンなどが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。市場で入手可能なα−アミノアルキルフェノン類としては、チバ社製の“IRGACURE 369”、“IRGACURE 907”などが挙げられる。
【0060】
上記チオキサントン類としては、具体的には、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン,2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどが挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用されてもよい。市場で入手可能なチオキサントン類としては、日本化薬社製の“KAYACURE DETX−S”、ダブルボンドケミカル社製の“Chivacure ITX”などが挙げられる。
【0061】
上記インクの最終組成における光重合開始剤の配合量は、重合性化合物の種類や配合量にもよるが、インク全量に対して、総量で2〜15質量%が好ましい。光重合開始剤の配合量が2質量%以上であれば、低エネルギーの照射でも硬化性及び密着性に優れたインクを得ることができる。一方、光重合開始剤の配合量が15質量%以下であれば、未反応成分の残存を抑えることができる。
【0062】
上記希釈工程においては、さらに上記ヒンダードアミン化合物などの重合禁止剤を添加することが好ましい。希釈工程で上記重合禁止剤を添加することにより、インク組成物の保存安定性をさらに向上することができる。
【0063】
また、希釈工程では、他の特性の向上を目的として、必要により、表面調整剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料などの一般的な添加剤がさらに添加されてもよい。
【0064】
上記希釈工程で用いられる混合撹拌機としては、前述の混合物の混合撹拌工程で用いられる混合撹拌機と同様のものを用いることができる。
【0065】
上記のようにして製造されるインク中の顔料の分散平均粒径は20〜300nmが好ましく、50〜230nmがより好ましい。本実施形態の顔料分散組成物からなる顔料分散液は、顔料が高度に分散されているとともに、高顔料濃度でも顔料の分散安定性に優れているため、長期保存した顔料分散液を希釈してインクを調製した場合でも上記のような微粒子の顔料が分散されたインクを得ることができる。分散平均粒径が20nm未満では粒子が細かすぎ、印刷物の耐候性が低下する傾向がある。一方、分散平均粒径が300nmを超えるとインクジェットでの吐出不良を起こす原因となる。
【0066】
また、本実施形態の顔料分散組成物からなる顔料分散液は高分散エネルギーで分散を行っても粘度の増加が少なく、また保存安定性に優れているため、顔料分散液を一定期間保存した後でインクを製造しても、25℃において4〜30mPa・s程度の低粘度のインクを得ることができる。また、上記インクは、加温しなくても、低粘度であり、さらに顔料の分散安定性も良好で、保存中や使用中に粘度の増加やゲル化が少なく、また顔料が沈降するなどの支障をきたさない良好な保存安定性を有している。このため、実質的に有機溶剤などの希釈溶剤を含有しなくても、インクジェット記録方式において、インクを加温することなく、室温で安定な吐出が得られる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づきさらに具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下で、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0068】
先ず、各実施例及び比較例で用いた各成分を以下の表1に示す。表2、表4及び表6の組成の表示は表1中の種類欄の括弧内の表示と同一のものであることを示す。
【0069】
【表1】

【0070】
<顔料分散液の調製>
ステンレス鋼製のタンクに、顔料、分散剤、重合性化合物、及び重合禁止剤を表2に示す配合割合で計り取り、混合撹拌して混合物1〜7を各1000g調製した。
【0071】
【表2】

【0072】
上記混合物1〜7を表3に示すビーズミル方式かつ循環方式の分散装置1〜3を用いて2時間分散した。その際、各分散装置のメカニカルシール部に表4に示すシール液1〜4を用いた。分散後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、内容物を吸引ろ過し、表5に示す実施例1〜10と比較例1〜5の顔料分散液を調製した。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
上記のようにして得られた調製直後の実施例1〜10及び比較例1〜5の顔料分散液を下記のように評価した。その結果を表5に合わせて示す。
【0076】
<分散工程>
各分散工程を観察し、下記の基準で分散工程の良否を評価した。
A:シール液タンクに分散液が逆流しなかった。
B:シール液タンクに分散液が逆流した。
【0077】
表5から比較例1〜5では全てシール液タンクに分散液が逆流したことから、比較例1〜5の顔料分散液については以下の評価は行わなかった。
【0078】
<粘度>
調製直後の顔料分散液の粘度を、R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーンの回転数20rpmの条件下で、測定した。
【0079】
<粘度変化>
調製直後の顔料分散液を70℃の条件下で7日間保存し、保存後の顔料分散液の粘度を上記と同様にして測定し、粘度変化の有無を観察して、下記の基準で保存安定性を評価した。
A:20%未満の粘度増加
B:20%以上40%未満の粘度増加
【0080】
<平均粒径>
調製直後の顔料分散液中の顔料の分散平均粒径を、粒度分布測定装置FPER−1000(大塚電子社製)を用いて、測定した。
【0081】
<粒径変化>
調製直後の顔料分散液を70℃の条件下で7日間保存し、保存後の顔料分散液の分散平均粒径を上記と同様にして測定し、粒径変化の有無を観察して、下記の基準で保存安定性を評価した。
A:10%未満の分散平均粒径の増加
B:10%以上20%未満の分散平均粒径の増加
【0082】
【表5】

【0083】
表5から実施例1〜10の顔料分散液は、ビーズミル方式の分散装置を用いて高顔料濃度の顔料分散液を調製する際の粘度の増加及びゲル化を防止することができるとともに、上記顔料分散液を保存した際の粘度の増加及びゲル化を防止することができることが分かる。
【0084】
一方、シール液に重合禁止剤を添加しなかった比較例1では、分散工程開始直後にシール液タンクに分散液が逆流した。また、顔料分散液に重合禁止剤を添加しなかった比較例2では、分散工程終了後にシール液タンクに分散液が少量逆流し、分散液も増粘した。さらに、シール液及び顔料分散液ともに重合禁止剤を添加しなかった比較例3〜5では、分散工程開始直後にシール液タンクに分散液が逆流した。
【0085】
<インクの製造>
次に、上記のようにして調製した直後の実施例1〜10の顔料分散液を用いて、最終組成が下記表6に示すインク組成となるよう各顔料分散液を希釈し、各インクを製造した。重合禁止剤については、顔料分散液の調製時に使用した重合禁止剤と同じ重合禁止剤を使用した。
【0086】
【表6】

【0087】
上記のようにして製造した製造直後の各インクを用いて、下記のように連続吐出性及び硬化性を評価した。
【0088】
<連続吐出性>
ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、インクを吐出させる吐出性試験を行い評価した。このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、及びピエゾヘッドを備えている。インクの吐出に際しては、インクの粘度がヘッドでの最適吐出粘度8〜13mPa・sとなるように、インクジェット記録装置内の温調システムによりインクを加熱した。また、液滴サイズ約6pl、解像度1200×1200dpiでインクを射出できるよう、駆動周波数28KHzでインクジェット記録装置を駆動した。
【0089】
その結果、上記インクはすべて、吐出不良を起こさず、サテライトや飛行曲がりを起こすことはなかった。
【0090】
<硬化性>
ポリカーボネート(PC)からなる各フィルム上に、上記インクをバーコータにより印刷して、厚さ3μm(バーコータ:#3)の印字膜をそれぞれ形成した。この印字膜に、照射手段として紫外線LED(日亜化学工業社製“NLBU21W01−E2”)を用い、トータル照射光量が500mJ/cm2となるように、紫外線を照射して硬化させた。その後、このように硬化させた印字膜を指で触り、指へのインク付着の有無を目視で調べた。その結果、上記インクはすべて、指への付着はなく十分に硬化していた。
【0091】
以上のように実施例1〜10の顔料分散液を希釈して作製したインクは、インクジェット記録装置に使用しても何ら問題のないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、ビーズミル方式の分散装置を用いて高顔料濃度の顔料分散液を調製する際の粘度の増加及びゲル化を防止することができるとともに、上記顔料分散液を保存した際の粘度の増加及びゲル化を防止することができる。また、上記顔料分散液を用いて信頼性の高いエネルギー線硬化型インクジェットインクを提供できる。
【符号の説明】
【0093】
1 分散装置
2 混合物
3 ホールディングタンク
4 ビーズミル
5 循環パイプ
6 循環ポンプ
10 メカニカルシール部
11a シール液
11 シール液タンク
12a 顔料分散液
12 分散タンク
13 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、分散剤と、重合性化合物と、重合禁止剤とを含む顔料分散組成物の製造方法であって、
顔料と、分散剤と、重合性化合物と、第1の重合禁止剤とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を分散装置で処理して、前記混合物の各成分を分散させる工程とを含み、
前記分散装置が、ビーズミル方式でかつ前記混合物の送液方法として循環方式を用いる分散装置であり、
前記分散装置のシール液が、第2の重合禁止剤を含み、
前記第1の重合禁止剤及び前記第2の重合禁止剤が、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物及びキノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする顔料分散組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ヒンダートアミン化合物が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ基を有する請求項1に記載の顔料分散組成物の製造方法。
【請求項3】
前記キノン化合物が、アルキル基を有する請求項1に記載の顔料分散組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混合物の各成分を分散させた後、前記混合物にさらに重合性化合物と、光重合開始剤とを混合して攪拌する工程をさらに含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の顔料分散組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12224(P2011−12224A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159873(P2009−159873)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】