説明

顔料組成物の製造方法および該製造方法により製造された顔料組成物

【課題】生産性やコストの面で非常に有効な手段である、粗製銅フタロシアニンの乾式粉砕した摩砕物および該摩砕物を用い直接印刷インキを製造する方法において、酸化による経時劣化のない高品位のβ型銅フタロシアニン顔料組成物およびそれを用いた平版印刷インキを提供することである。
【解決手段】粗製銅フタロシアニンに対して1〜200重量%の樹脂および0.01〜3重量%の酸化防止剤を添加し脱酸素雰囲気下で乾式粉砕して得られる顔料組成物および得られた顔料組成物を用いて得られる平版印刷インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型銅フタロシアニン顔料の印刷インキを製造する際に、銅フタロシアニンのβ型結晶形態を経由することなく、粗製銅フタロシアニンから直接印刷インキを製造するための顔料組成物の製造方法および該製造方法により製造された顔料組成物ならびに該顔料組成物を含有してなる平版印刷インキに関わるものである。
【背景技術】
【0002】
通常、合成後の銅フタロシアニンは粗製銅フタロシアニンと呼ばれ、10〜200μm程度の巨大β型結晶粒子のため、そのまま印刷インキ用顔料として使用することはできない。この粗製銅フタロシアニンを印刷インキとして使用可能な大きさ(0.02〜0.1μm程度)まで微細化(顔料化)しなければならない。顔料化には種々の方法がある。
【0003】
最も一般的なのがソルベントソルトミリング法と呼ばれる方法である。この方法は粗製銅フタロシアニンに食塩などの磨砕剤とβ型への結晶転移を促進させる有機溶剤を加え磨砕する方法である。この方法によるβ型銅フタロシアニン顔料はアスペクト比(一次粒子の短径と長径の比)が1〜3で、緑味鮮明で高着色力など印刷インキに適しており、広く使用されている。しかし顔料の数倍量の磨砕剤が必要であり、この磨砕剤や有機溶剤を回収する工程に多くの時間と労力を必要とする。
【0004】
これに対して粗製銅フタロシアニンを乾式で粉砕した後に有機溶剤等で処理するする方法も知られている。この場合、粉砕時に機械的な力を加えることでβ型結晶の一部がα型結晶へ転移するため、再びβ型に転移させるために、この磨砕物を有機溶剤と共に加熱処理しなければならない。この方法はソルベントソルトミリング法に比べて工程が簡略化され、コスト的に有利であるが、有機溶剤で加熱処理する際に粒子が針状に成長しアスペクト比が大きくなり、インキ化した際の顔料分散性が必ずしも良好ではなく、色相が赤味になることや流動性劣化など品質面で問題がある。
【0005】
一方、顔料から印刷インキを製造する方法としては乾燥顔料を用いる方法と水分を40〜70重量%含んだウエットケーキ顔料を用いる方法が一般的である。乾燥顔料を用いるインキ化方法は乾燥顔料を印刷インキワニス、溶剤、添加剤などと混合した後、ビーズミル、3本ロールなどを用いて顔料を分散させる方法であるが、乾燥顔料は一次粒子の凝集が強いため顔料を分散させるために多くのエネルギーを必要とする。ウエットケーキ顔料を用いる方法はフラッシング法と呼ばれている。フラッシング法はウエットケーキ顔料を印刷インキワニス、溶剤、添加剤などと混合し顔料を水相からワニス相へ転換させる方法であり、乾燥顔料のインキ化工程のエネルギーは必要としないもののニーダーなどの大型装置が必要となり、またフラッシングの工程においては排水も発生する。
【0006】
この様にβ型銅フタロシアニンの印刷インキを製造するためには、顔料化工程とインキ化工程で非常に多くの時間とエネルギーが必要である。
【0007】
低コストの印刷インキを提供するためには、顔料の形態を経由せずに粗製銅フタロシアニンから直接インキを製造することが考えられ、実際に粗製銅フタロシアニンを印刷インキ用ワニスまたは印刷インキ用溶剤と混合した後、ビーズミルを用いてインキ化と同時に顔料化を行う方法が知られている。しかしながら、印刷インキワニス中での顔料化は摩砕効率が低いため、超微細なビーズを用いた分散ミルなどを必要とし、エネルギー効率、品質などの点で問題が多い。
【0008】
特公昭55−6670号公報には、粗製銅フタロシアニンを一度乾式で磨砕した後、そのままインキ化する方法が記載されている。乾式の磨砕は効率的に行われるため、非常に有効な方法である。しかしながら乾式粉砕した磨砕物は強固な凝集体であり、またα/β型結晶の混合物となってしまうため、インキ中での磨砕物の分散やβ型結晶への再転移は非常に困難である。
【0009】
この様な問題を解決するため、英国特許第1224627号公報には、粗製銅フタロシアニンを乾式で摩砕する際に1〜8倍量の樹脂を添加する方法が、また、特許第3159049号公報では、粗製銅フタロシアニンに対して、樹脂を1〜200重量%、および溶剤を該樹脂に対して0.5〜20重量%添加し、70〜90℃で乾式粉砕する方法が記載されている。これらの方法は、添加した樹脂の効果により銅フタロシアニン粒子の凝集を防止する意味と添加した樹脂が後に使用する樹脂と同じものを使用できる点で非常に有効な方法と言える。
【0010】
しかしながら、多くの樹脂は室温で保存した場合でも酸化による劣化が起こることが知られている。即ち、これらの特許の方法では添加した樹脂は粉砕されることで表面積が増大することや衝撃による瞬間的な熱により、例え冷却したとしても粉砕時の樹脂の酸化を避けることはできない。樹脂は酸化されることでその溶解性や色調、その他の物性が変化してしまうため、従来の使用されてきた樹脂をそのまま適用したとしても同じインキの性能を引き出すことは不可能である。具体的には、樹脂の劣化により平版印刷インキの分散性劣化、乾燥性劣化、乳化適性の劣化に繋がる。
【0011】
この問題に関し、特開平9−291221号公報記載の脱酸素雰囲気下で乾式粉砕する方法は、磨砕時の樹脂の酸化防止に対して有効であるものの、磨砕後の顔料組成物を印刷インキに使用するまでの経時劣化に対しては効果がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭55−6670号公報
【特許文献2】英国特許第1224627号公報
【特許文献3】特許第3159049号公報
【特許文献4】特開平9−291221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、生産性やコストの面で非常に有効な手段である、粗製銅フタロシアニンの乾式粉砕した摩砕物および該摩砕物を用い直接印刷インキを製造する方法において、酸化による経時劣化のない高品位のβ型銅フタロシアニン顔料組成物の製造方法および該製造方法により製造された顔料組成物ならびに該顔料組成物を含有してなる平版印刷インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、特定の製造方法によって製造された顔料組成物は、酸化により経時劣化のない高品位であり、該顔料組成物を含有してなる平版印刷インキは、分散性、乾燥性、乳化適性等の優れた物性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明の第1の発明は、粗製銅フタロシアニン、樹脂および酸化防止剤を、脱酸素雰囲気下で乾式粉砕する顔料組成物の製造方法であって、
樹脂が、粗製銅フタロシアニンに対して、1〜200重量%
であり、かつ
酸化防止剤が、粗製銅フタロシアニンに対して、0.01〜3重量%
であることを特徴とする顔料組成物の製造方法に関するものである。
【0016】
また、本発明の第2の発明は、樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする第1の発明記載の顔料組成物の製造方法に関するものである。
【0017】
さらに、本発明の第3の発明は、酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤であることを特徴とする第1の発明または第2の発明記載の顔料組成物の製造方法に関するものである。
【0018】
また、本発明の第4の発明は、第1の発明〜第3の発明いずれか記載の顔料の製造方法により製造してなる顔料組成物に関するものである。
【0019】
さらに、本発明の第5の発明は、第4の発明記載の顔料組成物を含有してなる平版印刷インキに関するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によって、粗製銅フタロシアニンを乾式粉砕する方法でも酸化による経時変化のない高品位のβ型銅フタロシアニン顔料組成物を得ることができ、またこの顔料組成物を用いることで安定的に高品位の平版印刷インキを得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明における乾式粉砕物は、ビーズ等の粉砕メディアを内蔵した粉砕機を使用して、実質的に液状物質を介在させないで粗製銅フタロシアニンを粉砕するものである。粉砕は、粉砕メディア同士の衝突による粉砕力や破壊力を利用して行なわれる。乾式粉砕装置としては、乾式のアトライター、ボールミル、振動ミルなどの公知の方法を用いることができる。また、窒素ガスなどを流すことなどにより乾式粉砕装置内部を脱酸素雰囲気として乾式粉砕を行う。
【0022】
また、乾式粉砕は60〜180℃が好ましく、加熱下で行ってもよい。乾式粉砕を行うことにより粗製銅フタロシアニンのβ型結晶の一部がα型へ結晶転移し、粉砕物はα/β混合型結晶となる。この際、乾式で粉砕する場合の温度を低温で行うと磨砕物中のα型結晶の割合が増加し、後工程で再びβ型結晶へと転移させるための負担が増加するばかりか、最終的なβ型結晶粒子のアスペクト比が大きくなってしまい好ましくない。また、この温度を高温で行うと乾式粉砕装置内部での樹脂の固着が生じる危険性が高くなる。樹脂の固着は装置内部を閉塞させ、生産に支障をきたすことがあり注意しなくてはならない。
本発明で乾式粉砕時に添加される酸化防止剤は、製品中の成分の酸化を抑える効果のあるものであれば特に制約はなく単独あるいは2種類以上の組み合わせで任意に使用できるが、フェノール系酸化防止剤が特に好適であり、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノンなどが例示され得る。フェノール系酸化防止剤は平版印刷インキの添加剤として一般的に用いられているものであり印刷適性への悪影響が全くない。添加量は粗製銅フタロシアニンに対して、0.01〜3重量%であり、好ましくは0.1〜1重量%である。添加量が0.01重量%未満では所望の酸価防止の効果が得られず、添加量が3重量%を超えると平版印刷インキの乾燥性劣化を招く恐れがある。
【0023】
本発明で乾式粉砕時に添加される樹脂は特に制約はないが、平版印刷インキ用として最も利用されているロジンフェノール樹脂が好適である。添加量は粗製銅フタロシアニンに対して、1〜200重量%であり、好ましくは20〜80重量%である。樹脂の添加量が少ないとインキの中での分散性が悪くなり、添加量が多すぎると乾式粉砕装置内部での樹脂の固着が生じる危険性が高くなり生産に支障をきたす。また、装置内部を低温に保つと固着は防止できるが、β型結晶粒子のアスペクト比が大きくなり、得られたインキの色相は赤味となってしまうため好ましくない。
【0024】
当該ロジン変性フェノール樹脂の原料としては特に制約はなく、ロジンとしてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなど、フェノール樹脂としてはノボラック型、レゾール型、ノボラック−レゾール複合型のフェノール樹脂など、ポリオールとしてはグリセリン、ペンタエリスリトールなどが代表的に使用できる。また、前記原料を用いたロジン変性フェノール樹脂の製法や樹脂粘度の調整方法に関して、樹脂原料の投入順、反応触媒、温度や時間などの反応条件に特に制限はない。
【0025】
本発明の顔料組成物中の銅フタロシアニンはα/β混合結晶型であるため、印刷インキ溶剤又はワニスと混合し加熱処理することで全てをβ型結晶型へ転移させる必要がある。このβ型への結晶転移は、緩やかな攪拌で十分に進行し、特に分散機などは必要としない。摩砕物の十分な分散とα型結晶のβ転移は使用する印刷インキ用溶剤によって異なるが数10分〜3時間程度で完了し、次に簡単な分散機を通すことでベースインキの作成は完了する。
【0026】
しかし、特にこの工程の時間短縮を希望する場合は、従来から使用されているビーズミル分散機などを用いて前述の温度条件で処理することで、その時間は大幅に短縮することも可能である。
【0027】
本発明の顔料組成物を用いて印刷インキを製造する場合の印刷インキ用溶剤またはワニス中の溶剤としては、高沸点石油系溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、高級アルコール系溶剤など印刷インキに適した溶剤であれば芳香族を含まない溶剤であっても単独あるいは2種類以上の組み合わせで任意に使用できる。
【0028】
また、同様に印刷インキを製造する場合の印刷インキワニス用樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂など印刷インキに適した樹脂が使用でき、大豆油、桐油、アマニ油など印刷インキに適した乾性油や重合乾性油、その他印刷インキ用の添加剤などと共に任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
上述の顔料組成物と印刷インキ用ワニス或いは印刷インキ用溶剤、補助剤を定法に従い、混合することで目的となる平版印刷インキが得られる。
【0030】
本発明によって、粗製銅フタロシアニンを乾式粉砕する方法でも酸化による経時変化のない高品位のβ型銅フタロシアニン顔料組成物を得ることができ、またこの顔料組成物を用いて平版印刷インキを生産することで、分散性劣化、乾燥性劣化、乳化適性の劣化のない、高品位のインキを安定して供給することが可能となることが確認された。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるもではない。なお、本発明において、特に断らない限り、「部」とは「重量部」であり、「%」とは「重量%」である。
【0032】
〔実施例1〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部、ハイドロキノン(和光純薬株式会社製)0.35重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を常温で一週間保管後、得られた摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が、7.5μm以下に分散されたベースインキ1が得られた。次に、得られたベースインキ1を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ1を得た。
【0033】
〔実施例2〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部、t−ブチルハイドロキノン(和光純薬株式会社製)0.35重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を常温で一週間保管後、得られた摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が7.5μm以下に分散されたベースインキ2が得られた。次に、得られたベースインキ2を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ2を得た。
【0034】
〔実施例3〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部、ハイドロキノン(和光純薬株式会社製)0.35重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を70℃で一週間保管後、摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が7.5μm以下に分散されたベースインキ3が得られた。次に、得られたベースインキ3を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ3を得た。
【0035】
〔実施例4〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部、ハイドロキノン(和光純薬株式会社製)0.7重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を70℃で一週間保管後、摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が7.5μm以下に分散されたベースインキ4が得られた。次に、得られたベースインキ4を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ4を得た。
【0036】
〔比較例1〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を常温で一週間保管後、得られた摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が10.0μm以下に分散されたベースインキ5が得られた。次に、得られたベースインキ5を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ5を得た。
【0037】
〔比較例2〕
乾式アトライターに、粗製銅フタロシアニン70重量部、ロジン変性フェノール樹脂30重量部を仕込み、窒素気流下において160℃で1時間粉砕を行った。得られた摩砕物を70℃で一週間保管後、摩砕物24重量部に、印刷インキ用ワニス13重量部、大豆油13重量部を加え120℃にて1時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子径が12.5μm以下に分散されたベースインキ6が得られた。次に、得られたベースインキ6を70重量部、ゲルワニス35重量部、大豆油10重量部、AF5号ソルベント(日本石油株式会社製)5重量部、酸化重合触媒としての金属ドライヤー2重量部を混合後、更にAF5号ソルベントを少量添加して粘度75〜80Pa・s(25℃)に調整した平版印刷インキ6を得た。
【0038】
(評価結果)
上記実施例および比較例それぞれのインキについて、下記の粘度、分散性、インキしまり、インキ流動性、乾燥性および乳化適性について評価を実施し、結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
<粘度の測定方法>
Thermo Haake社製粘度計のHAAKE RheoStress 600を用いて測定する。(測定条件:25℃、コーン径20mm、角度5°ずり速度120/sec )。
【0041】
<分散性の評価方法>
それぞれのインキについてグラインドメーター(粒ゲージ)にてGRを測定し、インキ中に含まれる顔料粒子がどの程度の大きさであるか判断する。顔料粒子が小さいほど、同じ機械的エネルギーを与えた際に、より容易に顔料が分散され得ることを示す。
【0042】
<インキしまりの評価方法>
レオメトリックス社レオメーターDynamic Analyzer RDA-3を用いて、Dynamic Time Sweep Modeにて、貯蔵弾性率G’の経時変化を測定、このとき6分と60分のG’の比(G’[60分]/G’[6分])を求める。この比率が高い程、インキ中に蓄えられるエネルギーが多くなりインキがしまりやすい、即ち分散安定性に劣るということになる。なお、インキ1の値を100とした場合の値を表示する。
【0043】
<スプレッドメーターによるインキ流動性の評価方法>
スプレッドメーターに一定容量の試験インキを測り盛り、測定開始後1分後にインキが流動した中心からの距離を計測する。測定値の大きいものを流動性が高いと判定する。なお、実施例1で得られたインキ1の測定値を100とした場合の値を表示する。
【0044】
<乾燥性の評価方法>
インキをRIテスターにてアート紙に展色し、朝陽会乾燥試験機にて乾燥時間を評価する。乾燥に要する時間が短いものほど乾燥性に優れていることを示す。
【0045】
<乳化適性の評価方法>
一定量のインキに水を一定速度で滴下しながら攪拌・混合する。水の滴下を続けると、インキがそれ以上乳化することができず、水と乳化インキの層に分かれるようになる。この、インキがそれ以上乳化することができなくなった際のインキの乳化率を最大乳化率と定義する。インキの最大乳化率が50%以上となるインキは、実印刷機上で汚れなど印刷トラブルが発生しやすくなるため、乳化適性の劣るインキと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
粗製銅フタロシアニンを乾式粉砕する方法でも酸化による経時変化のない高品位のβ型銅フタロシアニン顔料組成物を得ることができ、またこの顔料組成物を用いて平版印刷インキを生産することで、分散性劣化、乾燥性劣化、乳化適性の劣化のない、高品位のインキを安定して供給することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製銅フタロシアニン、樹脂および酸化防止剤を、脱酸素雰囲気下で乾式粉砕する顔料組成物の製造方法であって、
樹脂が、粗製銅フタロシアニンに対して、1〜200重量%
であり、かつ
酸化防止剤が、粗製銅フタロシアニンに対して、0.01〜3重量%
であることを特徴とする顔料組成物の製造方法。
【請求項2】
樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤であることを特徴とする請求項1または2記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の顔料の製造方法により製造してなる顔料組成物。
【請求項5】
請求項4記載の顔料組成物を含有してなる平版印刷インキ。


【公開番号】特開2012−207191(P2012−207191A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75891(P2011−75891)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】