説明

顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法

【課題】 顔料の分散安定性が非常に高く、かつ粒径が小さく均一な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 (1)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含む顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法。(2)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含む製造方法。(3)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体を超臨界から脱した状態または亜臨界から脱した状態とする工程を経て、前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程と含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法に関し、特に長期にわたって良好な分散安定性を有し、かつ粒径が小さく均一な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェト記録方法は、直接記録方法として、コンパクト、低消費電力という大きな特徴がある。また、ノズルの微細化等により急速に高画質化、高速印刷化が進んでいる。インクジェット技術の一例は、インクタンクから供給されたインクをノズル中のヒーターで加熱することで蒸発発泡させ、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成させるという方法である。他の例はピエゾ素子を振動させることでノズルからインクを吐出させる方法である。
【0003】
これらの方法に使用されるインクは通常染料水溶液が用いられるため、色の重ね合わせ時ににじみが生じたり、記録媒体上の記録箇所に紙の繊維方向にフェザリングと言われる現象が現れたりする場合があった。
【0004】
これらを改善する目的で顔料分散インクを使用することが検討されている。例えば特許文献1では染料に代わりに顔料を用いたインク、特許文献2では、高分子分散剤を用いて顔料を分散安定化させたインクを開示しており、その耐光性や耐水性、定着性が染料の場合に比べて大幅に向上することが確認されている。これらインクに用いられる顔料は、一般的には市販されている顔料の凝集物をボールミルなどの分散機を用いて機械的に微粉砕する工程により得るため、典型的には、前記微粉砕工程後の顔料の平均粒径は、約100nm(0.1μm)よりも大きく、さらに、粒度分布が比較的広いものである。
【0005】
これに対し、特許文献3および特許文献4においては、超臨界流体に溶解した顔料を晶析させることにより粒径が100nm以下の顔料を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平4−28776号公報
【特許文献2】特開平6−136311号公報
【特許文献3】特開2002−285032号公報
【特許文献4】特開2002−138229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、顔料は染料に比べ有利な点を有するため、その使用が幅広く検討されているが、近年、より高精細、高彩色、高着色力の顔料インクが要求されている。このような色純度が優れた高精細用インクの実現には、小さくかつ均一な顔料粒子をインク組成物として使用することが好ましいと考えられている。しかしながら、前記した顔料の分散機による微粉砕工程では、入手した顔料の一次粒径より小さくすることは大変困難であり、粉砕後の粒子の粒度分布が広いため、大きな顔料粒子がインクジェットのノズルを塞ぐという問題があった。この課題に対しても、大粒径の顔料粒子を含まない、小さくかつ均一な粒度分布を有する顔料が要求される。
【0007】
また、前記の分散機による微粉砕では、経費と時間のかかる工程を必要とするという課題もあった。さらに、顔料は本質的に水に不溶であるため、上記超臨界流体を利用した小粒径の顔料も実用に耐えうる十分な分散安定性には至っていなかった。
【0008】
従って、本発明は、顔料の分散安定性が非常に高く、かつ粒径が小さく均一な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法を提供することにある。
また、本発明は、色純度や着色力の優れた色材分散インク材料に有用な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
本発明の第1は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする顔料複合体の製造方法である。
【0010】
本発明の第2は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含むことを特徴とする顔料複合体の製造方法である。
【0011】
本発明の第3は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる前記工程の後、溶解した顔料を含む前記流体を超臨界から脱した状態または亜臨界から脱した状態とする工程を経て、前記ポリマーを含む溶液と接触させる工程を行う顔料複合体の製造方法である。
【0012】
本発明の第4は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする顔料含有組成物の製造方法である。
【0013】
本発明の第5は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含むことを特徴とする顔料含有組成物の製造方法である。
【0014】
前記ポリマーが、ブロックポリマーまたはグラフトポリマーであることが好ましい。
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーの少なくとも一成分が前記ポリマーを含む溶液の溶媒と親和性を有することが好ましい。
【0015】
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーが実質的に単分散の分子量分布を有することが好ましい。
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーの分子量分布指数Mw/Mnが1.7以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、顔料の分散安定性が非常に高く、かつ粒径が小さく均一な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法を提供することができる。
また、本発明は、色純度や着色力の優れた色材分散インク材料に有用な顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法は、超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法の最初の工程は、超臨界状態もしくは亜臨界状態の流体に顔料を溶解する工程である。
本発明における超臨界状態とは、臨界温度以上でかつ臨界圧力以上の状態のことを言い、亜臨界状態とは、温度または圧力の一方だけが臨界温度・臨界圧力に達しているが、他方は臨界温度・臨界圧力に達していない状態、もしくは温度および圧力の両方が臨界温度および臨界圧力に達していないが、温度および圧力の少なくとも一方が常温・常圧より十分高く臨界温度または臨界圧力に近い状態を言う。
【0019】
超臨界状態もしくは亜臨界状態の流体に用いる材料としては、代表例としては水、二酸化炭素が挙げられ、他に、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、更にはエーテル類、エステル類、芳香族類なども用いることができるが、本発明に使用可能な溶媒はこれらに限定されるものではなく、また複数の材料を混合しても良い。例えば、水の場合374℃以上かつ22MPa以上、アセトンは235℃以上かつ4.7MPa以上、メタノールは240℃以上かつ7.9MPa以上、エタノールは243℃以上かつ6.3MPa以上、二酸化炭素は31℃以上かつ7.3MPa以上で超臨界状態となる。水を含めて上記に挙げられた溶媒は、混合溶媒もしくは単一溶媒として用いることができる。また、顔料の溶解性を向上させる目的で、これらに適量の添加物を入れることもある。添加物の一例としては、硫酸、トリフルオロ酢酸などの酸等が挙げられる。
【0020】
本発明で使用する顔料の種類は特に限定されず、公知の顔料を用いることができる。例示すると、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、ハロゲン化銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ系顔料;キナクリドン系顔料;イソインドリノン系顔料;インダンスロン系顔料;ジケトピロロピロール系顔料;ジオキサジン系顔料;ペリレン系顔料;ペリノン系顔料;アントラキノン系顔料等が挙げられるが、使用可能な顔料はこれらに限定されるわけではない。
【0021】
上記顔料としては、市販されている顔料を用いても良く、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を以下に例示する。
黒色の顔料としては、Raven 1060、Raven 1080、Raven 1170、Raven 1200、Raven 1250、Raven 1255、Raven 1500、Raven 2000、Raven 3500、Raven 5250、Raven 5750、Raven 7000、Raven 5000 ULTRA II、Raven 1190 ULTRA II(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、Regal660R、Regal330R、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW200、Color Black 18、Color Black S160、Color Black S170、Special Black 4、Special Black 4A、Special Black 6、Printex 35、Printex U、Printex 140U、Printex V、Printex 140V(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigment Blue−3、C.I.Pigment Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:2、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22、C.I.Pigment Blue−60等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1、C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202、C.I.Pigment Red−207等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
黄色の顔料としては、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16、C.I.Pigment Yellow−17、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.Pigment Yellow−95、C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、C.I.Pigment Yellow−151、C.I.Pigment Yellow−154等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
次に、顔料を含んだ溶液と接触させるポリマーを含んだ溶液について説明する。本発明において使用されうる顔料を被覆するポリマーとしては、特に両親媒性ブロックポリマーおよび両親媒性グラフトポリマーが好ましく用いられる。ブロックポリマーとしては、親水性ブロック(Aブロック)と疎水性ブロック(Bブロック)から成るA−B型ブロックポリマーやA−B−A型およびB−A−B型ブロックポリマー、3種類以上のブロックからなるマルチブロックポリマーなどが例としてあげられ、グラフトポリマーとしては、疎水性成分を幹、親水性成分を枝としたグラフトポリマーが例として挙げられる。こられのブロックポリマーまたはグラフトポリマーは、ポリマー中のある成分が溶媒と親和性を有し、溶媒中にポリマー鎖が伸びる。該ポリマー鎖の反発力により、溶媒中において会合体をエントロピーおよび立体的に安定化させるとともに、もう一成分内部に顔料を取り込み、被覆することによって、顔料微粒子を分散安定化させる役割を担っている。
【0026】
なお、本発明においては、ポリマーで被覆された上記顔料微粒子を顔料複合体と呼ぶ。
これらブロックポリマーおよびグラフトポリマーの親水性成分としては、親水基を含んだ構造の高分子が好ましく、親水基の例としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリマレイン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコールなどの構造が例として挙げられるが、親水性高分子構造であれば、非イオン性、イオン性のいずれでもよく特に制限されない。これらポリマーは、通常は数平均分子量としては500〜400000、好ましくは2000〜200000である。この数平均分子量が500未満では、分散安定化する役割が十分発現されない場合があり、逆に400000を超えると、分散安定剤を製造する際に問題が生ずる場合がある。
【0027】
本発明における顔料複合体の粒径は、小さく均一であることが求められることから、被覆するポリマーの鎖長も均一であることが強く望まれる。すなわち、前記ブロックポリマーまたはグラフトポリマーは実質的に単分散であることが特に好ましい。本発明において、単分散であるポリマーとは、分子量分布が十分に狭いポリマーのことを言い、具体的にはポリマーの分子量分布指数(Mw/Mn)が1.7以下であることが好ましく、さらには1.4以下であることがより好ましい。使用するポリマーの分子量分布指数が1.7よりも大きい場合には、生成する顔料複合体の粒度分布も広くなる傾向が認められた。
【0028】
このような分子量分布の狭いブロックポリマーやグラフトポリマーとしては、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール型ブロックポリマーに代表されるポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレン型ブロックポリマーや、ポリプロピレングリコール−ポリマレイン酸型グラフトポリマーなどの市販のポリマーを利用できる他、分子量および分子量分布の制御されたポリマーの有効な合成法であるリビング重合法により適宜製造することができる。リビング重合法としては、当該分野で公知の技術であるリビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、リビングラジカル重合法、リビング開環重合法などを用いることができるが、これらに限定されず、例えば、サイエンス(Science)、1991年、251巻、887頁に示されるような様々なリビング重合法を用いることができる。
【0029】
これらリビング重合により上記ポリマーを製造する際に使用し得るモノマーについては、下記の公知の重合性単量体を用いることができる。リビングアニオン重合法で使用し得る上記重合性単量体を例示すれば、以下を挙げることができる。
【0030】
スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;
スチレンスルフォン酸、2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル類; トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
トリメチルシロキサニルジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキサニル)シリルプロピル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルプロピルジメチルシリルエーテルなどのような、トリアルキルシリル基で保護されたヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリロニトリル類;
イソプレン、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4―シクロヘキサジエン等の共役ジエン類などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0031】
リビングカチオン重合方法で使用し得る上記重合性単量体を例示すれば、以下を挙げることができる。
スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;
スチレンスルフォン酸、2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールエチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテルで代表されるモノアルキルビニルエーテル類、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、パラトリルビニルエーテル、ナフチルビニルエーテルに代表されるモノアリールビニルエーテル類、ブタンジオールモノビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ヘキサンジオールモノビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;
およびイソブチレン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0032】
リビングラジカル重合方法で使用し得る上記重合性単量体を例示すれば、以下を挙げることができる。
スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;
スチレンスルフォン酸、2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類; クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
トリメチルシロキサニルジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキサニル)シリルプロピル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルプロピルジメチルシリルエーテルなどのシロキサニル化合物類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミン含有(メタ)アクリレート類;
クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル、ケイ皮酸2−ヒドロキシプロピルなどの不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アリルアルコールなどの不飽和アルコール類;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などの不飽和(モノ)カルボン酸類;
(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−プロピルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−エチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類; およびこれらのモノ、ジエステル類;
その他、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどのN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド類;
N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ポリカルボン酸(無水物)類、塩化ビニル、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
上記ポリマーを含んだ溶液の溶媒としては、用いるポリマー中に含まれるある成分に対してのみ親和性を有する良溶媒で、別のある成分に対して貧溶媒である選択溶媒であれば、特に限定されないが、同時に用いる超臨界流体の種類に応じても決定することができる。このような溶媒の例として、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;更にはエーテル類、エステル類、芳香族類などの溶媒も用いることができる。また、水性溶媒を添加することもでき、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合して用いることができる。
【0034】
本発明における顔料複合体とは、ポリマーで被覆された顔料微粒子を表わす。前記顔料複合体の粒子径は、300nm以下、好ましくは1〜100nmの範囲が望ましい。
本発明における顔料含有組成物とは、顔料粒子が顔料複合体の状態で溶媒に分散し含有されている溶液を表わす。顔料複合体の含有量は、0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜40重量%範囲が望ましい。また、顔料含有組成物に含まれる顔料複合体の粒子径は、300nm以下、好ましくは1〜100nmの範囲が望ましい。
【0035】
次に、超臨界状態を経た本発明の分散処理に用いる製造装置について説明する。図1、図2、および図3は、顔料複合体の製造装置の構成を示す概略図である。図1は(1)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする、顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法、図2は(2)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含むことを特徴とする、顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法、図3は(3)超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体を超臨界から脱した状態または亜臨界から脱した状態とする工程を経て、前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程と含むことを特徴とする顔料複合体および顔料含有組成物の製造方法、に各々対応した製造装置である。
【0036】
図1において、1は超臨界流体または亜臨界流体として用いる溶媒が入っている溶媒タンクである。この溶媒は、第1のポンプ2で、溶媒供給管3を介して、耐圧容器5に高圧で送液される。溶媒は溶媒供給管3で送液されている途中に、第一のポンプ2と耐圧容器5の間に設置されている予熱部4で所望の温度まで予備加熱される。耐圧容器5に送液された溶媒は、耐圧容器の周囲に取り付けられた加熱部(図示しない)で、超臨界もしくは亜臨界状態の所望の温度まで加熱され、耐圧容器5の中にあらかじめ入れておかれた顔料6を溶解し、この顔料を溶かした流体は顔料流体供給管7を介して混合部11に送られる。
【0037】
8はポリマーを含む溶液が入っている分散剤タンクである。ポリマーを含む溶液は、第2のポンプ9で分散剤供給管10を介して、混合部11に送液される。混合部11では、顔料流体供給管7から送られてきた高温高圧の顔料流体と、分散剤供給管10から送られてきた低温のポリマーを含む溶液とが混合され、混合された溶液は混合溶液供給管12に送り込まれ、冷却部13で冷却された後、背圧弁14を経て顔料複合体の採集口15に送液される。第1のポンプ2から背圧弁14、および第2のポンプ9から背圧弁14までの間の流体の圧力は、背圧弁で所定の圧力になるよう制御されている。
【0038】
図1に示した製造装置を用いた場合、主として混合部11で顔料微粒子が析出するが、析出と同時に、ポリマーにより少なくとも部分的に安定化され、目的の顔料複合体が得られる。
【0039】
図2は、上記(2)の製造方法に対応した顔料複合体の製造装置の構成例の図である。図中、図1と同じ構成ユニットには同じ番号を付けており、説明を省略する。
図2に示した製造装置では、図1の製造装置例と同様に、溶媒は超臨界状態もしくは亜臨界状態で顔料を溶解し、その流体は顔料流体供給管7に送りこまれるが、図2の製造装置においてはその後、背圧弁14で常圧まで減圧された後、混合容器17に入っているポリマーを含む溶液16に直接吐出される。混合容器17には、吐出された顔料溶液がすみやかにポリマーを含む溶液中に拡散するよう、攪拌器18を取り付けてもよい。さらに混合器17には、冷却部19が取り付けられており、顔料流体が連続して吐出されても、ポリマーを含む溶液16は所定の温度を保つように冷却されることが好ましい。
【0040】
図3は、上記(3)の製造方法に対応した対応した顔料複合体の製造装置の構成例の図である。図中、図1と同じ構成ユニットには同じ番号を付けており、説明を省略する。
図3に示した製造装置では、混合部11を冷却部13の後に取り付けているため、臨界温度の高い超臨界流体を使用した場合でも、ポリマーを含む溶液を顔料溶液と混合した際に高温になることがなく、熱によるポリマーの分解することを防ぐことができる。
【0041】
本発明における顔料複合体の製造装置は、超臨界流体に溶解した顔料とポリマーを含んだ溶液を混合する機能を有している装置であればなんら限定されることはなく、上記3種類の製造装置以外にも、例えば、予め顔料をスラリー状に分散した液を耐圧容器5に送液する装置の使用なども可能である。
【0042】
本発明においては、さらに、粒子の分散安定性を高める目的において、ポリマーを含む溶液に界面活性剤を共存させてもよい。界面活性剤としては、非イオン性、イオン性ともに用いることができるが、粒子間の電気的反発を利用する目的で、イオン性界面活性剤が好適に用いられる。本発明に用いられるイオン性界面活性剤は、カチオン性界面活性剤あるいはアニオン性界面活性剤いずれも用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型活性剤、スルホン酸塩型活性剤、リン酸エステル塩型活性剤、ジチオリン酸エステル塩などが挙げられるが、本発明のイオン性界面活性剤はこれらに限定されるものではない。
【0043】
本発明においては、以上のように、顔料複合体の分散液を製造することができ、これはインク用組成物、カラーフィルター用組成物などの顔料含有組成物として応用することができるが、顔料を含んだ組成物であれば、用途はこれらに限定されるわけではない。例として、本発明の顔料含有組成物がインク用組成物に用いられる場合を以下に示す。
【0044】
組成物に含まれる溶媒は、特に限定されないが、組成物に含まれる成分を溶解、懸濁、分散できる媒体を意味する。本発明では、直鎖、分岐鎖、環状の各種脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、複素芳香族炭化水素などの有機溶媒、水性溶媒、水などが溶媒として含まれる。特に、本発明の組成物では水および水性溶媒を好適に使用することができる。
【0045】
水性溶媒の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒等を挙げることができる。また、インクの用途としては、紙での乾燥を速めることを目的として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類を用いることもできる。
【0046】
上記溶媒の含有量は、組成物の全重量に対して、20〜95wt%の範囲で用いるのが好ましい。さらに好ましくは30〜90wt%の範囲である。また本発明のインクに用いられる顔料は、インクの重量に対して、0.1〜50wt%が好ましい。顔料の量が0.1wt%未満であると、より十分な画像濃度を得られない場合があり、50wt%を超えると粘性が大きくなりすぎたりする場合がある。さらに好ましい範囲としては0.5wt%から30wt%の範囲である。
【0047】
本発明の組成物には、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。また、親水性疎水性両部を持つ樹脂を使用することも可能である。本発明の組成物中に含まれてもよい添加剤の例としては、熱または電磁波の印加により活性化される架橋剤、酸発生剤、重合開始剤等を挙げることができる。本発明において組成物中に添加することができるその他の添加剤は、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るためのpH調整剤;記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする浸透剤;インク内での黴の発生を防止する防黴剤;インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止するキレート化剤;記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する消泡剤;酸化防止剤;粘度調整剤;導電剤;紫外線吸収剤;および、水溶性染料、分散染料あるいは油溶性染料のような着色剤等を含む。
【実施例】
【0048】
以下に、合成例、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
<ポリマーの合成例1>
2−メトキシエチルビニルエーテル(MOVE)と2−エトキシエチルビニルエーテル(EOVE)とからなるABジブロックポリマーの合成
ポリ[(2−メトキシエチルビニルエーテル)−b−(2−エトキシエチルビニルエーテル)](ここで、「b」はブロックポリマーであることを示す記号である)を、リビングカチオン重合法により以下の手順で合成した。
【0049】
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、12ミリモルのEOVE、酢酸エチル16ミリモル、1−イソブトキシエチルアセテート0.1ミリモル、およびトルエン11mlを加え、反応系をさらに冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2ミリモルを加え重合を開始し、ABブロックポリマーのA成分を合成した。分子量を時分割にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、A成分の重合完了を確認した。
【0050】
次いで、18ミリモルのMOVEを添加して、B成分の合成を行った。GPCを用いるモニタリングによって、B成分の重合完了を確認した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させて、目的物であるMOVE−EOVEジブロックポリマーを得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行い、いずれも目的とするポリマーのスペクトルを得ることができた。(Mn=57700、Mw/Mn=1.23)。
【0051】
<ポリマーの合成例2>
スチレン(St)とアクリル酸(AA)とからなるABジブロックポリマーの合成
ポリ(スチレン)−b−ポリ(アクリル酸)の前駆体となるポリ(スチレン)−b−ポリ(tert−ブチルアクリレート)を、リビングラジカル重合法の一つである原子移動ラジカル重合法を用いて以下の手順により合成した。
【0052】
臭化銅1.7ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン1.7ミリモル、1−フェニルエチルブロミド1.7ミリモル、スチレン(St)425ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、100℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリスチレンの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=18900、Mw/Mn=1.19であった。
【0053】
次いで得られた臭素を末端に有するポリスチレン0.4ミリモル、臭化銅0.2ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.2ミリモル、tert−ブチルアクリレート160ミリモル、アセトン10mlを混合、窒素置換した。60℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたポリ(スチレン)−b−ポリ(tert−ブチルアクリレート)の分子量をGPCで確認した結果、Mn=47800、Mw/Mn=1.28であった。
【0054】
さらに、得られた前駆体ブロックポリマーをジクロロメタンに溶解した後、トリフルオロ酢酸を添加し、室温で24時間加水分解反応を行うことによりポリ(tert−ブチルアクリレート)セグメントをポリ(アクリル酸)へと変換した。加水分解生成物をNMRおよびFT−IRにより構造解析を行った結果、定量的にポリ(アクリル酸)へと変換されていることが確認され、目的の生成物であるジブロックポリマー、ポリ(St)−b−ポリ(AA)を得た。
【0055】
<ポリマーの合成例3>
メタクリル酸メチル(MMA)を主鎖成分、ポリ(エチレングリコール)を側鎖成分とするグラフトポリマーの合成
リビングラジカル重合法の一つである原子移動ラジカル重合法を用いて、ポリ(MMA)−g−ポリ(エチレングリコール)(ここで、「g」はグラフトポリマーであることを示す記号である)を以下の手順により合成した。
【0056】
臭化銅0.1ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.1ミリモル、パラトルエンスルホニルクロリド0.2ミリモル、MMA68ミリモル、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(Mn=1100)3.4ミリモル、ジメチルフォルムアミド10mlを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、40℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止し、目的の生成物ポリ(MMA)−g−ポリ(エチレングリコール)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行い、いずれも目的とするポリマーのスペクトルを得ることができた。(Mn=39300、Mw/Mn=1.17)。
【0057】
実施例1
図1に示した装置を用いて、顔料複合体を作製した。銅フタロシアニン0.5gを容量10mlの耐圧容器5の内部に予め詰め、さらにステンレス製のフィルターを耐圧容器5の前後に取り付け、溶解前の顔料の流出を防止した。タンク1から送液管3を介して水を5ml/minの流量で耐圧容器5に供給し、25MPa、400℃で超臨界状態とし、容器内を通過させ、顔料を超臨界流体に溶解させる工程を行った。
【0058】
次いで、合成例1で得られたジブロックポリマー、ポリ[(2−メトキシエチルビニルエーテル)−b−(2−エトキシエチルビニルエーテル)]を含んだ水溶液(10mg/ml)を5ml/minの流量で混合部11に送液し、顔料が溶解した超臨界流体と混合した。混合後の温度は150℃であった。さらに、冷却管13で分散液が室温まで十分に温度が下がるようにした後、採集口15により分散液を採取した。分散液に含有される顔料複合体の含有量は7mg/mlであった。
【0059】
この顔料微粒子分散液中に含まれる顔料複合体の粒径を大塚電子株式会社製の動的光散乱装置(DLS−7000)を用いて測定したところ、平均粒径が25nm、粒径の範囲は15〜50nmとその分布は狭いものであった。分散安定性については、分散液を室温にて放置し、粒子の凝集・沈殿を観察した結果、1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0060】
実施例2
本実施例は、顔料を溶解した超臨界流体を、直接ポリマーを含む溶液中に放出し、顔料複合体を作製した例である。図2に示す超臨界装置を用いて、銅フタロシアニンを溶解した超臨界状態の水を、合成例1で得られたジブロックポリマー、ポリ[(2−メトキシエチルビニルエーテル)−b−(2−エトキシエチルビニルエーテル)]を含む水溶液16に直接吐出させる以外は、実施例1と全く同様の条件で、超臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液中の粒子の平均粒径は30nmであり、粒径の範囲は15〜65nmと狭いものであった。また1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0061】
実施例3
本実施例は、顔料を溶解した超臨界流体に対して冷却工程を施した後にポリマーを含む溶液と接触させ、顔料複合体を作製した例である。図3に示す超臨界装置を用いて、13の冷却部による冷却後に銅フタロシアニン分散液とポリマーを含む水溶液を混合させた以外は、実施例1と全く同様の条件で、超臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液中の粒子の平均粒径は55nmであり、粒径の範囲は35〜80nmと狭いものであった。また1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0062】
実施例4
本実施例は、実施例1と同じ装置と、実施例1とは異なるブロックポリマーを用いて、顔料複合体を作製した例である。ポリマーを含む溶液中のポリマーとして、合成例2で得られたジブロックポリマー、ポリ(St)−b−ポリ(AA)を用いた以外は、実施例1と全く同様の条件で、超臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液中の粒子の平均粒径は30nmであり、粒径の範囲は20〜50nmと狭いものであった。また1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0063】
実施例5
本実施例は、実施例1と同じ装置と、グラフトポリマーで顔料複合体を作製した例である。ポリマーを含む溶液中のポリマーとして、合成例3で得られたグラフトポリマー、ポリ(MMA)−g−ポリ(エチレングリコール)を用いた以外は、実施例1と全く同様の条件で、超臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液中の粒子の平均粒径は30nmであり、粒径の範囲は15〜50nmと狭いものであった。また1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0064】
実施例6
本実施例は、超臨界流体の代わりに亜臨界流体を用い、実施例4と同じ装置、および同じポリマーを用いて顔料複合体を作製した例である。実施例4において、25MPa、250℃で亜臨界状態とした後、耐圧容器5を通過させて顔料を溶解した以外は、実施例4と全く同様の条件で、亜臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液中の粒子の平均粒径は55nmであり、粒径の範囲は25〜95nmであった。また1ヶ月間の放置後も沈澱は確認されなかった。
【0065】
実施例7
本実施例は、顔料含有組成物を作製した例である。実施例1で得られた顔料複合体12重量部、ジエチレングリコール15重量部をイオン交換水73重量部に加えた。さらに1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料含有組成物(インク組成物)とした。顔料複合体の分散性は良好であった。
【0066】
比較例1
実施例1と同じ構成の装置を用い、ポリマーを含む溶液の代わりに、ポリマーを含まない溶液を用いて、実施例1と同じ条件で超臨界状態を経た顔料複合体作製を行った。分散液は、1週間の静置後には沈澱が見られ、また粒度分布測定結果は、一次粒子による50nmのピークと凝集粒による30μmのピークの両方を示し、一次粒子が凝集を起こしてしまっていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、分散安定性に優れ、かつ粒径が小さく均一な顔料複合体および顔料含有組成物を製造することができるので、着色力に優れ、かつ色の鮮やかな印刷画像を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明における顔料複合体の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明における顔料複合体の製造装置の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明における顔料複合体の製造装置の他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1 溶媒タンク
2 第1のポンプ
3 溶媒供給管
4 予熱部
5 耐圧容器
6 顔料
7 顔料流体供給管
8 分散剤タンク
9 第2のポンプ
10 分散剤供給管
11 混合部
12 混合溶液供給管
13 冷却部
14 背圧弁
15 採集口
16 ポリマーを含む溶液
17 混合容器
18 攪拌器
19 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする顔料複合体の製造方法。
【請求項2】
超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含むことを特徴とする顔料複合体の製造方法。
【請求項3】
超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる前記工程の後、溶解した顔料を含む前記流体を超臨界から脱した状態または亜臨界から脱した状態とする工程を経て、前記接触させる工程を行う請求項1に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項4】
前記亜臨界状態は、温度または圧力の一方のみが臨界温度または臨界圧力に達していて、他方が臨界温度または臨界圧力に達していない状態である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項5】
前記亜臨界状態は、温度及び圧力の両方が臨界温度及び臨界圧力に達していないが、温度及び圧力の少なくとも一方が、臨界温度または臨界圧力に近い状態である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、ブロックポリマーまたはグラフトポリマーであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項7】
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーの少なくとも一成分が前記ポリマーを含む溶液の溶媒と親和性を有することを特徴とする請求項6に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項8】
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーが実質的に単分散の分子量分布を有することを特徴とする請求項6または7に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項9】
前記ブロックポリマーまたは前記グラフトポリマーの分子量分布指数Mw/Mnが1.7以下であることを特徴とする請求項8に記載の顔料複合体の製造方法。
【請求項10】
超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液と接触させる工程とを含むことを特徴とする顔料含有組成物の製造方法。
【請求項11】
超臨界状態または亜臨界状態の流体に顔料を溶解させる工程と、溶解した顔料を含む前記流体をポリマーを含む溶液中に放出させる工程とを含むことを特徴とする顔料含有組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−89569(P2006−89569A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275590(P2004−275590)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】