説明

顕微鏡用標本ホルダ、ステージ、顕微鏡

【課題】標本の着脱が容易な顕微鏡用標本ホルダ、この顕微鏡用標本ホルダを有するステージ、このステージを有する顕微鏡を提供すること。
【解決手段】標本37を保持し標本37を載置するステージ3上を移動可能であり、保持する標本37との接触面部47に開口51を備え、開口51と連結する空洞49を更に備えたホルダ本体25と、空洞49内の気体の気圧を調整し開口51に標本37を吸着させて保持する真空ポンプ31、ゴムチューブ29、及びゴムキャップ27とを有する顕微鏡用標本ホルダ23。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡用標本ホルダ、ステージ、顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡のステージ上で標本を観察するための顕微鏡用標本ホルダが種々提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−128441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顕微鏡用標本ホルダとして、標本の着脱ができるだけ容易なものが求められている。
【0005】
本発明は、標本の着脱が容易な顕微鏡用標本ホルダ、この顕微鏡用標本ホルダを有するステージ、このステージを有する顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る顕微鏡用標本ホルダは、標本を保持し前記標本を載置するステージ上を移動可能であり、保持する前記標本との接触面部に開口を備え、前記開口と連結する空洞を更に備えたホルダ本体と、前記空洞内の気体の気圧を調整し前記開口に前記標本を吸着させて保持する気圧調整手段とを有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るステージは、前記顕微鏡用標本ホルダを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る顕微鏡は、前記ステージを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、標本の着脱が容易な顕微鏡用標本ホルダ、この顕微鏡用標本ホルダを有するステージ、このステージを有する顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態に係る顕微鏡用標本ホルダを備えた顕微鏡を示す側面図である。
【図2】第1実施形態に係る顕微鏡用標本ホルダを示す図であり、(a)は平面図、(b)は検鏡者から見て右側面図(ゴムキャップ及びゴムチューブは断面で示す)、(c)は正面図である。
【図3】第1実施形態に係る顕微鏡用標本ホルダのホルダ本体の分解図である。
【図4】第2実施形態に係る顕微鏡用標本ホルダを示す図であり、(a)は平面図、(b)は検鏡者から見て右側面図(ゴムキャップは断面で示す)、(c)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願の実施形態に係る顕微鏡用標本ホルダ、この顕微鏡用標本ホルダを有するステージ、このステージを有する顕微鏡について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23を備えたステージ3と、このステージ3を備えた顕微鏡1について図1を参照して説明する。なお、ステージ3上の顕微鏡用標本ホルダ23は後述する第2実施形態のものでもよく、この場合は図1と図2に示すゴムチューブ29及び真空ポンプ31は必要ない。また、図1に示す顕微鏡1及びステージ3は一例であり、この形態に限定されるものではない。
【0013】
図1に示すように、顕微鏡1は、ステージ3と顕微鏡本体5と接眼レンズ7とレボルバ9と対物レンズ11とを備える。顕微鏡本体5は、ベース13と支柱15とアーム17とを有する。顕微鏡本体5には、上下動ハンドル19を操作することによって上下方向(対物レンズ11の光軸方向)に移動するサブステージ21が設けられている。ステージ3はサブステージ21に取り付けられている。
【0014】
ステージ3は、サブステージ21に固定されている板状の顕微鏡固定部と、その上の板状のY軸方向可動部を有するものであり、Y軸方向可動部上面(ステージ3上面)に第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23が載置されている。顕微鏡用標本ホルダ23は、例えばY軸方向可動部に形成されたX軸方向へ延びる不図示のガイド溝に摺動可能に保持された不図示の移動部材に取り付けられている。
【0015】
ステージ3には、ステージ3の下方へ突出するXYハンドル2が設けられている。XYハンドル2のX軸ハンドルを操作することにより、Y軸方向可動部に対して移動部材と共に顕微鏡用標本ホルダ23をX軸方向へ移動することができる。XYハンドル2のY軸ハンドルを操作することにより、顕微鏡固定部に対してY軸方向可動部と共に顕微鏡用標本ホルダ23をY軸方向へ移動することができる。X軸とY軸は互いに直交し、本実施形態ではX軸方向は図2(a)における紙面上の左右方向に一致している。
【0016】
検鏡者は、スライドガラスやプレパラート等の標本37(図2(a)参照)を顕微鏡用標本ホルダ23で保持し、対物レンズ11から接眼レンズ7までの光学系を通して標本37を観察することができる。
【0017】
次に、第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23について図1から図3を参照して説明する。
【0018】
図1、図2に示すように、第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23は、板状のホルダ本体25と、ゴムキャップ(弾性部材)27及びゴムチューブ29によりホルダ本体25に接続された真空ポンプ31とから構成されている。ホルダ本体25は、上述の移動部材に2つの螺子33により取り付けられる取付部35と、スライドガラスやプレパラート等の標本37(図2(a)参照)を保持するL字状の標本保持部39とからなる。
【0019】
図2、図3に示すように、標本保持部39は、装着する標本37との接触部の内側に溝41が形成された本体43と、本体43上部を覆うカバー45と、本体43とカバー45のL字内側の側面部分を覆い、標本37を保持する際に標本37の端面に接触する接触面部47とからなる。組立時、図3に二点鎖線で示すように、カバー45を本体43に密着させて貼り付ける。次に図3に矢印で示すように、貼り合わせたカバー45と本体43に接触面部47を貼り付ける。このようにして組み立てたホルダ本体25の標本保持部39には、空洞49が形成される。
【0020】
接触面部47は、標本37の隣り合う2つの端面にそれぞれ接触する2つの平面部47a、47bからなる。平面部47a、47bには、空洞49に連続する複数の略楕円状の開口51が形成されている。なお、開口51の数や形状は特に限定されず、例えば開口51として平面部47a、47bに1つずつ長孔を形成してもよい。接触面部47の素材にはゴムなどの弾性部材を用いている。
【0021】
カバー45の一端には円孔53が形成されており、本体43に形成された溝41は円孔53の下で本体43の標本37との接触部の端面に添って拡がっている。ゴムキャップ(弾性部材)27は、下端に外側に拡がるフランジ部55を有し、フランジ部55を円孔53に嵌入することで標本保持部39に取り付けられている。ゴムキャップ27の内部空間は空洞49及びゴムチューブ29内部に連続している。真空ポンプ31につながるゴムチューブ29は、顕微鏡用標本ホルダ23のX軸方向及びY軸方向への移動の妨げにならない程度に長い。第1実施形態では真空ポンプ31は支柱15の背面に取り付けられているが、真空ポンプ31の設置位置は特に限定されず、例えば机上の顕微鏡1から離れた所に敷いたゴム製の防振パッドの上に設置してもよい。
【0022】
真空ポンプ31、ゴムチューブ29、及びゴムキャップ27は一体化している。真空ポンプ31を作動させると、空洞49内の気圧が下がり、外部から開口51を通して空洞49内に空気が吸い込まれる。標本保持部39に標本37を保持するには、真空ポンプ31を例えば常時、吸引状態としておく。そしてこの状態で、図2(a)に示すように、標本37の隣り合う2つの端面を2つの平面部47a、47bにそれぞれ接触させると、標本37がホルダ本体25に対して位置決めされると共に、接触面部47に吸着する。このようにして、標本保持部39に標本37を保持することができる。ここで、上述のように接触面部47の素材にはゴムなどの弾性部材を用いているため、ゴムの弾性により標本37と接触面部47とが密着し、開口51を通して空洞49内に空気が流入することが防止されて標本37の吸着性が高まる。
【0023】
標本保持部39から標本37を取り外す時は、検鏡者は手で標本37を手前に引くことによって取り外すことができる。真空ポンプ31の吸引力は、標本37を保持したままホルダ本体25を上述のXYハンドルでX軸方向へ移動させることができると共に、真空ポンプ31を停止させることなく手で標本37を取り外すことができる程度の強さにしておく。
【0024】
また、第1実施形態では、例えば平面部47a、47bの一部分に、標本保持部39への標本37の着脱を検知する図示しない標本着脱検知部(例えばフォトセンサ)を設け、標本着脱検知部からの電気信号(検知情報)に基づいて、真空ポンプ31を制御する構成とすることができる。具体的には、標本37が接触面部47に接触している時は真空ポンプ31を吸引状態とし、標本37が接触面部47に接触していない(即ち標本37が取り外されている)時は真空ポンプ31の吸引を止めておくことができる。
【0025】
また、第1実施形態では、例えば上述のXYハンドルのX軸ハンドルの操作量から、ホルダ本体25がステージ3上をX軸方向へ移動しているか否かを検知する図示しないホルダ移動検知部を設け、ホルダ移動検知部からの電気信号(検知情報)に基づいて、真空ポンプ31を制御する構成とすることができる。具体的には、ホルダ本体25がX軸方向へ移動している時は真空ポンプ31の吸引力を大きくし、ホルダ本体25がX軸方向へ移動していない時は真空ポンプ31の吸引力を小さくすることができる。この構成によれば、大きな吸引力で標本37を確実に保持してホルダ本体25をX軸方向へ移動させることができる。またホルダ本体25がステージ3上で静止している時は吸引力が自動的に小さくなるので、標本37を指で容易に取り外すことができる。
【0026】
第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23は、検鏡者から見て標本保持部39の右側には手前に突出する部分がないため、標本37の着脱時、標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がやり易い。なお、顕微鏡用標本ホルダ23の標本保持部39は、検鏡者から見て左側及び右側の構成を反転させたものでもよい。即ち、標本保持部39は右側が手前に突出している形であってもよい。この場合も、検鏡者から見て標本保持部39の左側には手前に突出する部分がないため、標本37の着脱時、標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がやり易い。
【0027】
また、第1実施形態の変形例として、検鏡者から見て標本保持部39を左右にまっすぐ延びる形状とし、接触面部47を平面部47bのみにして、標本保持部39に標本37を保持する際、標本37の1つの端面(図2(a)において上側の端面)を平面部47bに吸着させる構成とすることも可能である。この構成によれば、標本保持部39の左右の手前には突出する部分がないので標本37の着脱時、標本37と突出部が干渉することがなく、標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がよりやり易くなる。
【0028】
また、特に第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23では、空洞49内の気圧を下げることができる真空ポンプ31を利用するため、標本37の端面を接触面部47に接触させるだけで標本37を保持することができると共に、標本37を指で手前に引くだけで取り外すことができる。つまり、検鏡者は片手で標本37を容易に着脱することができる。なお、標本37の上下面ではなく端面を吸着させる構成なので、標本37を取り外す際に大きな力は必要ない。
【0029】
以上のように、第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23によれば、標本37の着脱が容易となる。また、空気圧による吸着保持なので、標本37を傷め難いという利点もある。第1実施形態の顕微鏡用標本ホルダ23を用いれば、例えば病理検査などで大量の標本37を検査する場合に標本37の交換作業をスムーズに行うことができ、作業効率を大幅に向上させることができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57について図4を参照して説明する。第2実施形態は第1実施形態と構成が略同じであり、第1実施形態と同様の部分を図4に同一符号で示し、相違点のみを説明する。
【0031】
図4に示すように、第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57は、ゴムチューブ及び真空ポンプを設けずに、ゴムキャップ(弾性部材)59のみを標本保持部39に取り付けている点が第1実施形態と相違する。ゴムキャップ59の内部空間は空洞49に連続しており、ゴムキャップ59は指で押して弾性変形させることができる。
【0032】
標本保持部39に標本37を保持するには、まず、ゴムキャップ59を指で押し下げる。そしてこの状態で、図4(a)に示すように、標本37の隣り合う2つの端面を2つの平面部47a、47bにそれぞれ接触させて標本37をホルダ本体25に対して位置決めし、ゴムキャップ59から指を離す。すると、空洞49内の気圧が下がり、標本37が接触面部47に吸着する。このようにして、標本保持部39に標本37を保持することができる。ここで、上述のように接触面部47の素材にはゴムなどの弾性部材を用いているため、ゴムの弾性により標本37と接触面部47とが密着し、開口51を通して空洞49内に空気が流入することが防止されて標本37の吸着性が高まる。
【0033】
標本保持部39から標本37を取り外す時は、検鏡者は手で標本37を手前に引くことによって取り外すことができる。ゴムキャップ59の容積は、上述の標本37吸着の強さが、標本37を保持したままホルダ本体25を上述のXYハンドルでX軸方向へ移動させることができると共に、手で標本37を取り外すことができる程度となるようにしておく。
【0034】
第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57は、検鏡者から見て標本保持部39の右側には手前に突出する部分がないため、標本37の着脱時、標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がやり易い。なお、顕微鏡用標本ホルダ57の標本保持部39は、検鏡者から見て左側及び右側の構成を反転させたものでもよい。即ち、標本保持部39は右側が手前に突出している形であってもよい。この場合も、検鏡者から見て標本保持部39の左側には手前に突出する部分がないため、標本37の着脱時、標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がやり易い。
【0035】
また、第2実施形態の変形例として、検鏡者から見て標本保持部39を左右にまっすぐ延びる形状とし、接触面部47を平面部47bのみにして、標本保持部39に標本37を保持する際、標本37の1つの端面(図4(a)において上側の端面)を平面部47bに吸着させる構成とすることも可能である。この構成によれば、標本37の着脱時、第1実施形態と同様の理由により標本37の端面を接触面部47に接触させる動作、及び標本37の端面を接触面部47から離す動作がよりやり易くなる。
【0036】
また、特に第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57では、ゴムキャップ59だけで空洞49内の気圧を下げる構成であるため、コストを抑えることができる。なお、標本37の上下面ではなく端面を吸着させる構成なので、標本37を取り外す際に大きな力は必要ない。
【0037】
以上のように、第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57によれば、標本37の着脱が容易となる。また、空気圧による吸着保持なので、標本37を傷め難いという利点もある。第2実施形態の顕微鏡用標本ホルダ57を用いれば、例えば病理検査などで大量の標本37を検査する場合に作業効率を大幅に向上させることができる。
【0038】
なお、上述の実施形態は例に過ぎず、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 顕微鏡
3 ステージ
23,57 顕微鏡用標本ホルダ
25 ホルダ本体
27,59 ゴムキャップ
29 ゴムチューブ
31 真空ポンプ
37 標本
39 標本保持部
47 接触面部
49 空洞
51 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本を保持し前記標本を載置するステージ上を移動可能であり、保持する前記標本との接触面部に開口を備え、前記開口と連結する空洞を更に備えたホルダ本体と、
前記空洞内の気体の気圧を調整し前記開口に前記標本を吸着させて保持する気圧調整手段とを有することを特徴とする顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項2】
前記接触面部は、弾性部材からなることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項3】
前記接触面部は矩形である前記標本の1つの端面に接触することを特徴とする請求項1又は2に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項4】
前記気圧調整手段は、前記ホルダ本体に取り付けられ、前記空洞に連続する内部空間を有する弾性部材を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項5】
前記気圧調整手段は真空ポンプを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項6】
前記ホルダ本体への前記標本の着脱を検知する標本着脱検知部を有し、
前記標本着脱検知部の検知情報に基づいて前記気圧調整手段を作動又は停止させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項7】
前記ステージ上で前記ホルダ本体が移動しているか否かを検知するホルダ移動検知部を有し、
前記ホルダ本体が移動しているかの検知情報に基づいて、前記気圧調整手段により前記空洞内の気圧を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の顕微鏡用標本ホルダ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の顕微鏡用標本ホルダを有することを特徴とするステージ。
【請求項9】
請求項8に記載のステージを有することを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−256808(P2010−256808A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109638(P2009−109638)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】