説明

顕微鏡観察用容器

【課題】 容器中の水溶液の水位が高くても低くても適正な顕微鏡観察ができる。
【解決手段】 ウエル2aの中には生物試料Sと水溶液Wが入っている。図4(a)に示すように、水溶液Wの水位が高いときには、透明円板3は、水溶液Wに浮いた状態で、円板本体4の上面P1、下面P2がウエル2aの底面と平行を保っている。図4(b)に示すように、水溶液Wの水位が低いときには、透明円板3の突起部5の先端がウエル2aの底面に接し、円板本体4の上面P1、下面P2がウエル2aの底面と平行を保つとともに、円板本体4が生物試料Sに触れたり押圧することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料および水溶液を収納して顕微鏡ステージに設置される顕微鏡観察用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生物細胞を培養しながら顕微鏡観察したり、生物細胞に試薬を添加して反応状態を顕微鏡観察するのに用いられる容器として、例えばマイクロプレート(ウエルプレート)がある。マイクロプレートに培養液や染色液などの水溶液を注入すると、表面張力の作用でマイクロプレート壁面近くで液面が彎曲し、そのレンズ作用により顕微鏡像が歪んで見える。特に、口径が10mm程度以下のマイクロプレートでは、この悪影響が顕著に現れる。そこで、この液面彎曲を防止するために、透明平板を水溶液に浮かせて観察する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−181068号公報(第2頁、図3,5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロプレート中の水溶液の液面の高さは、常に一定とは限らない。水溶液の量が減ってしまうと、上記の特許文献1の技術では、透明平板の下面が生物細胞(試料)に接触したり、生物細胞を押圧することになり、正常な状態での顕微鏡観察を妨げるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決するために、請求項1の発明に係る顕微鏡観察用容器は、生体試料および水溶液を収納する容器本体と、容器本体中の水溶液に浮いた状態で上面が水平面と平行になる透明平板とを備え、透明平板は、上面と平行な下面の外周部に突起を有することを特徴とする。
請求項2の発明に係る顕微鏡観察用容器は、請求項1の顕微鏡観察用容器において、突起が透明平板よりも密度が大きいことが好ましい。
請求項3の発明に係る顕微鏡観察用容器は、請求項1または2の顕微鏡観察用容器において、突起が3個以上設けられていることが好ましい。
(2)請求項4の発明に係る顕微鏡観察用容器は、請求項1〜3の顕微鏡観察用容器において、透明平板の上面に、疎水性処理が施されていてもよい。
請求項5の発明に係る顕微鏡観察用容器は、請求項1〜4のいずれかの顕微鏡観察用容器において、透明平板の下面に、親水性処理が施されていてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、透明平板の下面の外周部に突起を設けたので、水溶液の液面が下がっても透明平板が試料に触れることなく適正な観察ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態による顕微鏡観察用容器について、図1〜5を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態による顕微鏡観察用容器が顕微鏡観察のためにセットされる倒立型顕微鏡の構成を模式的に示す全体構成図である。
【0008】
図1に示される倒立型顕微鏡10は、基台11、ステージ12、照明系支柱13、鏡筒14および対物レンズ15を備える。ステージ12は、顕微鏡観察用容器1を載置し、図中、X−Y方向に移動できるとともに、焦準ハンドル16によりZ方向(光軸方向)に移動できるようになっている。照明系支柱13の上部には、光源17aを収納するランプハウス17が設けられ、照明系支柱13の内部には、照明光学系が収納されている。鏡筒14の先端には、接眼レンズ18が設けられ、鏡筒14内部には、透過観察用の光学系が収納されている。
【0009】
光源17aから発する照明光L1は、顕微鏡観察用容器1(以下、ウエルプレート1)の上側からウエルプレート1へ入射する。倒立型顕微鏡10においては、照明光L1が不図示のコンデンサレンズによって視野全体を均一に照射する、いわゆるケーラー照明が採用されている。ウエルプレート1中の観察対象物を透過した透過光L2は、ウエルプレート1の下側に位置する対物レンズ15へ入射し、対物レンズ15により顕微鏡像が形成される。この顕微鏡像は、接眼レンズ18により観察される。なお、倍率や開口数などが異なる複数種類の対物レンズ15をレボルバ15aに装着し、観察時にはレボルバ15aの回転により任意の対物レンズ15を光路に挿入してもよい。
【0010】
図2は、本発明の実施の形態によるウエルプレート1の外観を模式的に示す斜視図である。ウエルプレート1は、ウエルと称する多数の円柱状の孔がマトリックス状に形成された透明プレート2と、各々のウエル2aにそれぞれ対応する複数個の透明円板3とから成る。透明円板3は、通常、その外径がウエル2aの内径よりもやや小さく、その厚さがウエル2aの深さよりも薄く作製される。透明円板3の厚さは、ウエルの寸法にもよるが、0.1〜1mmの範囲が好ましい。
【0011】
ウエルプレート1の大きさを一定とすると、各々のウエル2aの内径を大きくすれば、ウエル2aの個数は少なくなり、各々のウエル2aの内径を小さくすれば、ウエル2aの個数は多くなるので、目的に応じて種々のウエルプレート1が使い分けられている。各々のウエル2aには、観察対象物として様々な種類の生物試料Sと水溶液W(培養液、染色液など)が収容される。生物試料Sと水溶液Wがウエル2aの中に注入された後に、透明円板3がウエル2aの中に挿入され、顕微鏡観察が行われる。
【0012】
図3を参照して透明円板3について詳細に説明する。図3は、透明円板3の外観を模式的に示す斜視図である。透明円板3は、円板本体4と突起部5から成る。円板本体4の上面P1と下面P2は、いずれも平面であり、互いに平行である。下面P2の外周部分R(2点鎖線の外側領域)には、寸法形状および重量が等しい3個の円柱状の突起部5が設けられ、これらの3個の突起部5は、等間隔に配列している。突起部5の長さは、生物試料Sの大きさ(厚さ)にもよるが、20μm以上が望ましい。円板本体4と突起部5とを同一のプラスチック材料で作製する場合は、例えば一体成型で加工する。突起部を円板本体4よりも高い密度の材料で作製する場合は、例えば接着により円板本体4に固定する。なお、透明円板3の形状は、ウエル2aの形状と同じにせずに、例えば多角形や星型としてもよい。
【0013】
透明円板3は、水溶液Wに浮かせて用いられるので、水溶液Wの密度よりも小さいものであればよい。水溶液Wの密度は、溶質の種類や含有率によって異なるが、一般に1g/cm以上である。簡単のために、透明円板3の体積の大半を占める円板本体4の密度と水溶液Wの密度とを比較することにより、透明円板3が水溶液Wに浮くか否かを説明する。円板本体4の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが挙げられる。また、突起部5を円板本体4よりも高い密度の材料で作製する場合は、突起部5の材質として、AS樹脂(スチレン−アクリロニトリル共重合体:密度1.08g/cm)、ABS樹脂(密度1.06g/cm)が挙げられる。
【0014】
ポリエチレンとポリプロピレンは、密度が1g/cm以下であるので水溶液Wに浮くが、ポリスチレン(密度1.05g/cm)は、密度が1g/cmよりわずかに大きいので、水溶液Wの密度によって浮く場合と浮かない場合がある。従って、水溶液Wの密度がポリスチレンの密度を越えていれば、ポリスチレン製の円板本体4でも使用できる。なお、透明円板3は、水溶液Wに浮くという条件を満たせばよいので、例えば円板本体4を中空構造として、見かけの比重を水溶液Wの密度より小さくすれば使用可能となる。
【0015】
円板本体4の上面P1には疎水性処理が施されている。疎水化の方法には、ふっ素系樹脂の塗布、ふっ素系化合物のプラズマ重合処理、カップリング剤による処理がある。透明円板3の上面P1は、疎水性を呈しているので、水溶液Wとの濡れ性が悪く、水溶液Wの液滴が上面P1の上に留まることがない。従って、上面P1は、常に露出した状態に保たれるので、照明光L1は常に平面に入射することになる。
【0016】
また、円板本体4の下面P2には親水性処理が施されている。親水性付与の方法には、界面活性剤の塗布やグラフト重合、プラズマ重合、紫外線照射などの処理がある。透明円板3の下面P2は、親水性を呈しているので、水溶液Wとの濡れ性が良く、透明円板3の姿勢を安定させる効果がある。
【0017】
以下、図4を参照しながら、ウエル2a内の生物試料S、水溶液Wおよび透明円板3の状態を説明する。図4(a)は、水溶液Wの液面Aの水位が高い場合のウエル2a内の状態を模式的に示す部分断面図である。図4(b)は、水溶液Wの液面Aの水位が低い場合のウエル2a内の状態を模式的に示す部分断面図である。図4(a)と図4(b)とが異なる点は、水溶液Wの液面Aの水位だけである。
【0018】
図4(a)を参照すると、生物試料Sは、水溶液Wの中にあり、ウエル2aの底面に接触している。透明円板3は、水溶液Wに浮いた状態で、円板本体4の上面P1、下面P2がウエル2aの底面と平行を保っている。突起部5を付設することにより、水溶液Wに浮いた状態で重心位置が下方(図1のZ方向)へ移動するが、水平面(図1のX−Y方向)での重心移動はないので、透明円板3が傾斜することはない。また、突起部5を円板本体4よりも密度が高い材料で作製すれば、水溶液Wに浮いた状態で透明円板3の安定性がより向上し、透明円板3が上下反転するような事態を防ぐ効果が大きくなる。
【0019】
上述したように、3個の突起部5は、同一重量であり、下面P2の外周部分に等間隔に配列しているので、透明円板3全体としてのバランスは崩れない。突起部5の個数は、4個以上であっても、下面P2の外周部分に等間隔に配列すればバランスは維持される。
【0020】
図中、上方からの照明光L1は、水平面である上面P1へ垂直に入射し、円板本体4、水溶液W、生物試料Sを透過し、透過光L2として透明プレート2の底部から下方へ射出する。照明光L1の光束を上面P1の外周部分Rの内側に入射させることにより、照明光L1が突起部5に遮蔽されることなく、生物試料Sはケーラー照明の条件で照明される。
【0021】
図4(b)では、図4(a)に比べて水溶液Wの水位が下がったため、透明円板3の突起部5の先端がウエル2aの底面に接している。透明円板3は、水位の変化に応じて上下するからである。透明円板3には突起部5があるので、円板本体4の下面P2が生物試料Sに接触したり押圧することは回避される。透明円板3は、水溶液Wに浮いた状態ではなくなっているが、円板本体4の上面P1、下面P2がウエル2aの底面と平行を保っていることには変わりはない。従って、図4(b)でも図4(a)と同様に、生物試料Sは照明光L1によりケーラー照明の条件で照明される。このように、透明円板3を使用することにより、水溶液Wの水位によらず、生物試料Sを適切な照明条件で観察することができる。
【0022】
ここで、図5を参照して、透明円板3を使用しない場合のウエル2a中の生物試料Sと水溶液Wの状態を説明する。図5は、ウエル2aの内部の状態を模式的に示す部分断面図であり、図4の場合と比較するための図である。図5においても図4と同様に、生物試料Sは、水溶液Wの中にあり、ウエル2aの底面に接触している。しかし、透明円板3を使用しないために、水溶液Wの液面Aは、表面張力の作用で図示のように彎曲している。このように液面Aが彎曲していると、そのレンズ作用によってケーラー照明の条件を満たさなくなり照明ムラが生じる。また、液面Aが彎曲していると、位相差顕微鏡観察においては、輪帯照明光を形成する遮光板と対物レンズの瞳の位置にある位相リングとが共役であるという条件を満たさなくなり、適正な観察に支障をきたすことになる。このような顕微鏡観察に及ぼす悪影響は、ウエル2aの内径が小さくなるほど顕著になるが、図4で説明したように、透明円板3を使用することにより、ウエル2aの内径の大小を問わず適正な顕微鏡観察が可能となる。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態の透明円板3は、次のような効果がある。(1)透明円板3には突起部5があるので、水溶液Wの水位が下がっても円板本体4の下面P2が生物試料Sに接触したり押圧することを回避できる。(2)透明円板3を水溶液Wに浮かせることにより、液面Aの彎曲によるレンズ作用を除去できる。(3)透明円板3が水溶液Wの液面Aのほとんどを覆っているので、水溶液Wの蒸発や水溶液W中への塵埃、異物の混入を防止できる。(4)透明円板3を取り外さずに、透明円板3の上から水溶液Wを補充したり他の試薬を添加することができるので、作業性を低下させることがない。(5)透明円板3の上面P1は、疎水性を呈しているので、補充した水溶液Wなどの液滴が上面P1の上に留まることがない。(6)透明円板3の下面P2は、親水性を呈しているので、水溶液Wとの濡れ性が良く、透明円板3の姿勢が安定する。
【0024】
本発明は、顕微鏡観察用容器(ウエルプレート)の透明円板の下面の外周部に突起を設けたことに特徴がある。本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。例えば、この顕微鏡観察用容器を正立型顕微鏡による観察に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係るウエルプレートが顕微鏡観察のためにセットされる倒立型顕微鏡の構成を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るウエルプレートの外観を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るウエルプレートの透明円板の外観を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るウエルプレートのウエル内の状態を模式的に示す部分断面図である。図4(a)は、水溶液Wの液面Aの水位が高い場合、図4(b)は、水溶液Wの液面Aの水位が低い場合を示す。
【図5】本発明の実施の形態の比較例であり、ウエルプレートのウエル内の状態を模式的に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1:ウエルプレート
2:透明プレート
2a:ウエル
3:透明円板
4:円板本体
5:突起部
10:倒立型顕微鏡
11:基台
12:ステージ
13:照明系支柱
14:鏡筒
15:対物レンズ
A:液面
L1:照明光
L2:透過光
P1:上面
P2:下面
S:生物試料
W:水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料および水溶液を収納する容器本体と、
前記容器本体中の水溶液に浮いた状態で上面が水平面と平行になる透明平板とを備え、
前記透明平板は、前記上面と平行な下面の外周部に突起を有することを特徴とする顕微鏡観察用容器。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡観察用容器において、
前記突起は、前記透明平板よりも密度が大きいことを特徴とする顕微鏡観察用容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の顕微鏡観察用容器において、
前記突起は、3個以上設けられていることを特徴とする顕微鏡観察用容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の顕微鏡観察用容器において、
前記透明平板の上面には、疎水性処理が施されていることを特徴とする顕微鏡観察用容器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡観察用容器において、
前記透明平板の下面には、親水性処理が施されていることを特徴とする顕微鏡観察用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−23644(P2006−23644A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203358(P2004−203358)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】