説明

顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール及びこれを使用した樹脂包埋方法

【課題】カバーガラスなどの上で培養された培養細胞を簡便かつ確実に樹脂包埋できる顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール及びこれを使用した樹脂包埋方法を提供する。
【解決手段】顕微鏡試料作成における樹脂包埋に使用する補助ツールであって、中央に樹脂包埋用カプセルを嵌挿可能な挿通孔部を有し底部に接着層を形成したEVAなどの柔軟性を有する合成樹脂から構成され、この樹脂包埋補助ツールを、細胞を培養したカバーガラス上の該細胞面から貼着し、前記樹脂包埋ツールの中央孔部に前記細胞を配置すると共に、予め包埋用樹脂を投入した樹脂包埋用カプセルの開口部に前記樹脂包埋ツールを嵌挿し、前記樹脂包埋カプセル内の樹脂によって前記培養細胞を包埋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーガラスなどの上で培養された培養細胞を簡便かつ確実に樹脂包埋できる顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール及びこれを使用した樹脂包埋方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医学・生物学の研究材料として用いられるカバーガラス上に培養された培養細胞や、スライドガラス上に貼付した準超薄切片を電子顕微鏡などで観察する際には、これらの観察対象物を予め樹脂によって包埋する必要があった。とくにカバーガラス上に培養された細胞は、ガラス面に突起などを伸ばして接着しているため、トリプシン等の酵素を使用して5〜10分間処理して剥がし取り、さらに遠心機によって浮遊した細胞を塊状(ペレット)にして回収する必要があった。
【0003】
しかしながら、上記の方法によって樹脂包埋を行なうと細胞は球状に変形するため、ガラス上で培養された細胞の本来の形態とは異なるものとなり、しかも酵素処理によって生理学的条件の変化・修飾や、遠心操作による細胞の機械的損傷の虞もあった。
【0004】
そのため、エポキシ樹脂等を適量流し込んだ包埋用カプセルを培養細胞または準超薄切片の上から覆い被せて包埋する方法も試まれているが、カバーガラスやスライドガラスと包埋用カプセルとの間の隙間から樹脂が漏出したり、エポキシ樹脂等が重合する際に一時的に粘度が低下して包埋用カプセルがガラス面を移動し、培養細胞または準超薄切片が包埋されないというトラブルが生じていた。とくに電子顕微鏡による組織化学的な研究などで多用されるLowicryl K4M(Polysciences,INC.社製)等の低粘度樹脂の場合、軽微な震度で漏出する虞があり事実上使用不可能であった。
【0005】
そこで、免疫組織染色用抗体溶液の流出を防止するためのプラスチック製のわくが提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】実開昭63−10454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に提案されているプラスチック製のわくの場合、裏面に粘着剤を着けてスライドガラス上に脱着可能に貼着し、染色用抗体溶液の流出を防止するのであり、しかも顕微鏡による観察時にはガラス面からわくを取り除いてカバーガラスをかけて使用するものであるが、わく内に樹脂包埋用カプセルを嵌挿して樹脂包埋を行なうことは考慮しておらず、樹脂を重合させる際に樹脂の粘度低下による位置ずれを生じたり、包埋後に包埋樹脂をガラス面から取り外す際に、わくと一緒に取れてしまうという問題点があった。
【0008】
上記の問題点に鑑み本発明者らは、カバーガラスなどの上で培養された培養細胞を樹脂包埋する際に、細胞を生理学的条件な変化や機械的損傷を生じることなく、しかも簡便かつ確実に樹脂包埋できる顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール及びこれを使用した樹脂包埋方法を提供するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明の顕微鏡試料作成における樹脂包埋に使用する補助ツールは、中央に樹脂包埋用カプセルを嵌挿可能な挿通孔部を有し底部に接着層を形成したことを第1の特徴とする。
【0010】
また、前記樹脂包埋補助ツールは、EVAなどの柔軟性を有する合成樹脂からなることを第2の特徴とする。
【0011】
また、前記樹脂包埋補助ツールを、細胞を培養したカバーガラス上の該細胞面から貼着し、前記樹脂包埋ツールの中央孔部に前記細胞を配置すると共に、予め包埋用樹脂を投入した樹脂包埋用カプセルの開口部に前記樹脂包埋ツールを嵌挿し、前記樹脂包埋カプセル内の樹脂によって前記培養細胞を包埋する樹脂包埋方法であることを第3の特徴とする。
【0012】
そして、前記包埋用樹脂は、低粘度樹脂であることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツールによれば、中央に樹脂包埋用カプセルを嵌挿可能な挿通孔部を有し底部に接着層を形成しているため、カバーガラスなどに確実に密着して樹脂包埋用カプセルを嵌挿し、樹脂包埋を行なうことができるという優れた効果を有する。
【0014】
また、前記樹脂包埋補助ツールは、EVAなどの柔軟性を有する合成樹脂から構成されるため、樹脂が重合した後に細胞を包埋した樹脂包埋用カプセルをカバーガラスから容易に取外しができるという効果を有する。
【0015】
さらに、前記樹脂包埋補助ツールを、細胞を培養したカバーガラス上の該細胞面から貼着し、前記樹脂包埋ツールの中央孔部に前記細胞を配置すると共に、予め包埋用樹脂を投入した樹脂包埋用カプセルの開口部に前記樹脂包埋ツールを嵌挿し、前記樹脂包埋カプセル内の樹脂によって前記培養細胞を包埋する樹脂包埋方法であるため、低粘度樹脂であっても漏出することがなく確実に樹脂包埋ができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施例を示す図面に基づいて説明するが、本発明が本実施例に限定されないことは言うまでもない。図1は、本発明に係る顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツールを示す平面図、図2は、図1の側面図、図3は本発明の樹脂包埋補助ツールの使用説明図である。
【実施例】
【0017】
図1及び図2に示すように、本発明の顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール1は、中央に挿通孔部3を有し、底面に接着剤層4を有するリング体2から構成されている。リング体2は柔軟性を有するEVA樹脂から構成され、接着層4にはガラス面と強力に接着するものが選択され使用される。また挿通孔部3は後述する包埋用カプセルを嵌挿する径とされている。尚、本実施例に使用する包埋用カプセルは、ポリエチレン樹脂製で後述するカプセル突起部付きとした。
【0018】
図3は上記の構成の樹脂包埋補助ツール1を使用した樹脂包埋例を示しており、スライドガラス5の上で培養された細胞6を中央に配置してリング体2が載置され、接着層4によってスライドガラス5と強力に接着されている。そして挿通孔部3には樹脂包埋用カプセル7が嵌挿され、樹脂包埋用カプセル7の開口部10がスライドガラス5の表面と当接し、リング体2の上面には樹脂包埋用カプセル7のカプセル突起部8が当接する。
【0019】
上記の構成によって細胞6の樹脂包埋を行なうと、予め包埋用カプセル7内に充填されていた包埋用樹脂9は、スライドガラス5とリング体2に嵌挿された包埋用カプセル7とで囲まれる空間に保持され、包埋用樹脂9が漏出することなく確実に細胞6を包埋することができる。しかも、包埋用樹脂9が重合する際に粘度が低下しても、リング体2とスライドガラス5とが接着層4によって強力に接着されており、細胞6を確実に包埋することができる。さらに、細胞6はスライドガラス5上で培養された状態のままの形態を維持してリング体2の中央位置に配置されているため、樹脂包埋後の顕微鏡による観察に適する。
【0020】
次に、上記構成の樹脂包埋補助ツール1を使用する細胞の樹脂包埋方法を図3によって説明する。まず樹脂包埋用カプセル7をEVA樹脂製リング体2の中央挿通孔部3に嵌るように装着し、開口部10を上にして包埋に使用する樹脂9例えばLowicryl K4M(Polysciences,INC.社製))を注入する。そして、樹脂9を注入した樹脂包埋用カプセル7の開口部10を上にした状態で、細胞6が付着したスライドガラス5から透かし見るようにして、細胞6が開口部10に収まるように位置合わせ(開口部10の中心部が望ましい)を行い、スライドガラス5を上から押しつけて接着層4で強力に接着する。このようにして接着したスライドガラス5と樹脂包埋用カプセル7を上下転倒させ、樹脂包埋用カプセル7内の樹脂9によって細胞6を包埋する。尚、樹脂9は360nmの紫外光によって重合される。
【0021】
充分に包埋用樹脂9が重合したら、樹脂包埋用カプセル7をEVA樹脂製リング体2から抜き取り、樹脂包埋用カプセル7を解体して包埋済み樹脂(図示せず)を取り出し、顕微鏡用試料とする。
【0022】
以上の構成からなる、本発明の顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツールを使用した樹脂包埋方法によれば、低粘度の樹脂であっても漏出することなくカバーガラスなどの上に培養された細胞の樹脂包埋を行なうことが可能であり、樹脂の重合の際の低粘度化による密着不良も生じない。しかも、カバーガラスなどの上の細胞の位置を確認してリング体を取り付けることができるため、顕微鏡用試料として最適な位置に細胞を包埋することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツール及びこれを使用した樹脂包埋方法によれば、医学・生物学分野の顕微鏡試料作成技術において活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツールの平面図である。
【図2】図2の側面図である。
【図3】本発明に係る顕微鏡試料作成における樹脂包埋補助ツールの使用説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 樹脂包埋補助ツール
2 リング体
3 挿通孔部
4 接着層
5 スライドガラス
6 細胞
7 樹脂包埋用カプセル
8 カプセル突起部
9 包埋用樹脂
10 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡試料作成における樹脂包埋に使用する補助ツールであって、中央に樹脂包埋用カプセルを嵌挿可能な挿通孔部を有し底部に接着層を形成したことを特徴とする樹脂包埋補助ツール。
【請求項2】
前記樹脂包埋補助ツールは、EVAなどの柔軟性を有する合成樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の樹脂包埋補助ツール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂包埋補助ツールを、細胞を培養したカバーガラス上の該細胞面から貼着し、前記樹脂包埋ツールの中央孔部に前記細胞を配置すると共に、予め包埋用樹脂を投入した樹脂包埋用カプセルの開口部に前記樹脂包埋ツールを嵌挿し、前記樹脂包埋カプセル内の樹脂によって前記培養細胞を包埋することを特徴とする顕微鏡試料作成における樹脂包埋方法。
【請求項4】
前記包埋用樹脂は、低粘度樹脂であることを特徴とする請求項3記載の顕微鏡試料作成における樹脂包埋方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−139029(P2008−139029A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322699(P2006−322699)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】