風圧抵抗の少ない船舶
【課題】水面上の風圧面積が比較的大きく、風圧力の影響を受け易い自動車専用船、コンテナ船、客船などの風圧力の影響を低減できて、船舶の運航性能を向上することができる風圧抵抗の少ない船舶を提供する。
【解決手段】船舶1の航海速力に関係するフルード数Fnが、0.13〜0.30の船舶1で、上甲板11上に設けた上部構造物12の船尾側の形状13,14、または、水面2上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成する。
【解決手段】船舶1の航海速力に関係するフルード数Fnが、0.13〜0.30の船舶1で、上甲板11上に設けた上部構造物12の船尾側の形状13,14、または、水面2上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風圧抵抗の少ない船舶に関し、更に詳細には、船橋や居住区などの上部構造物の船尾側の形状を工夫することにより風圧抵抗を少なくした船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を走行する商船の殆どの船舶は、排水量型と呼ばれ、航行中は、水面下の部分と水面上の部分とを有し、水面下の水の粘性による抵抗と、水面付近の波による抵抗と、水面上の空気(風)による抵抗を受けながら、プロペラ等の推進器で発生する推力により航行している。
【0003】
船舶の水面下においては、船体形状の工夫による抵抗減少や船体とプロペラと舵などの関係による推進性能の向上が進められ、また、水面付近での波による造波抵抗や砕波抵抗や反射波における抵抗減少についても船首形状や船尾形状の工夫により抵抗減少が図られている。これらに関しては、多大な労力が費やされ、現在も努力が継続されている。
【0004】
一方、水面上の空気による抵抗に関しては、従来においては、水面下及び水面付近における抵抗量が大きく、船体形状の工夫による改善効果もあったため、どちらかといえば軽視されてきていた。しかしながら、水面下及び水面付近における抵抗量が減少するにつれて、相対的に空気抵抗即ち風圧抵抗への改善の要求が高まってきている。
【0005】
特に、乾舷が高く風圧面積が大きい自動車専用船や積み荷の積載により風圧面積が増加するコンテナ船や上部構造部が大きい客船等は水面上の風圧面積が大きいため、風圧力の影響を受け易い。そのため、風圧抵抗による直接的な抵抗増加や、風圧力による船体の姿勢変化による斜航により水中抵抗が増加したり、針路維持のための当舵等による間接的な抵抗増加が生じ、船速が低下する等の運航性能の問題があった。
【0006】
これに関連して、船舶の上甲板上に位置する上部構造の前壁に半円筒体を垂直に取り付けて中空構造体とし、この中空構造体の下端にラッパ状の拡大部を有する空気吸込口を、上端に空気吐出口を設けて、上部構造物の前壁の下部に当たる風を空気吸込口で吸い込んで、煙突効果で吸い上げて空気吐出口より放出することで、前壁の前面の圧力を低減し、これにより、上部構造前面の風圧抵抗を低減する船舶の風圧抵抗低減装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、複数の車両搭載デッキを有する自動車専用船において、係船機が配置される船首側係船デッキを囲む外板に船首側係船窓を閉鎖可能に設けて、船首付近の気流の流れの乱れを抑制して、空気の流れをスムースなものとし、気流の乱れに起因する風圧抵抗の増加を抑制し、更には、格納式フラップや切欠部などを空気流入促進手段として利用して、船尾側係船デッキへの空気の流入を促進させて、船尾付近の負圧領域に空気を送り込んで圧力回復を図ることにより、船体全体の風圧抵抗を低減させる自動車専用船が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
また、主船体の船側上部に、船首から離間し、かつ、上部構造物よりも船首側の位置に、船外壁の上端に連続させて、且つ、船首より離間した位置から立ち上がり、船尾に向かうにつれて次第に高さが増していく防風フェンスを設けて、この防風フェンスの主船体の外側を向く面を、上端が下端よりも上部構造側に位置する傾斜面とすることで、主船体の構造を変更することなく、空気抵抗を低減する船舶が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
これらの船舶では、上部構造物の形状はそのままで、周囲の空気の流れを変化させることにより、風圧抵抗の減少を図っている。これに対して、船体形状の一部を変化させることにより、風圧抵抗を減少することが考えられている。
【0010】
このような船舶の一つとして、船体の上甲板と両舷側部とを結ぶ両角部に、それぞれ船首から船尾のほぼ全長に、あるいは、船首からほぼ船体中央部にわたって切欠段部を設けて、更に、船首部に船首前縁上端から上甲板に向かって水平面に対して上向きの傾斜面を形成した船舶が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
また、船体の上甲板と両舷側部とがなすそれぞれの角部に、船首から船尾の方向に沿って形成された切欠段部と、少なくとも一方の切欠段部に設けられた換気ユニットと、換気ユニットを覆うとともに上面と側面とがなす舷側部側に位置する角部が第1の傾斜面に形成されたハウジングとを具備した船舶が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0012】
これらの船舶で、この切欠段部により斜め方向の風に対して上甲板と舷側部とを結ぶ角部での剥離及び渦の発生が抑制されて、風圧による抵抗、横力、ヨーモーメントが軽減されることが、風洞実験結果やCFD(Computational Fluid Dynamics)解析結果で確認されている。しかしながら、上甲板の上に設けた船楼の角型の形状や船尾部の角型の形状に関しては改善に余地があると考えられる。
【0013】
上記のように、従来技術においては、船橋や居住区等の上甲板より上に設けられた上部構造物に関しては、容積の減少を嫌うことから、大きな形状変化を考えることなく、従来の箱型の組み合わせに近い形状のままで、上部構造物やその周囲に風の流れを変える付加物を取り付けているような工夫だけであった。
【0014】
しかしながら、航海用機器や舵取り機構の小型化や、抵抗減少による燃費の改善と容積の増減を考慮しながら、上部構造物の後側の形状や、喫水線より上の風を受ける部分の船体の後部の形状を、風圧抵抗を減少するために大幅に形状変化させるような、全体的な改良までは検討されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平6−183392号公報
【特許文献2】特開2005−82030号公報
【特許文献3】特開2005−132314号公報
【特許文献4】特開2003−291883号公報
【特許文献5】特開2006−36118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、水面上の風圧面積が比較的大きく、風圧力の影響を受け易い自動車専用船、コンテナ船、客船などの風圧力の影響を低減できて、船舶の運航性能を向上することができる風圧抵抗の少ない船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための風圧抵抗の少ない船舶は、航海速力で、船舶の航行速度に関係するフルード数が、0.13〜0.30の船舶で、上甲板上に設けた上部構造物の船尾側の形状、または、水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成して構成する。この予め設定された風速とは、通常は、対象とする船舶が航行する想定海域の風速から設定される設計用の風速であり、設計仕様から決まる風速である。また、航海速力も設計仕様から決まる。
【0018】
なお、この渦流は死水領域に生じる停滞渦やカルマン渦のような流出渦であり、水面上構造物の大きさと比較して考えたときにそれ相当の大きさの渦であり、本発明が問題としている風圧抵抗の大きさに比べて小さく、本発明が問題としている風圧抵抗に大きな影響を与えない小さい渦に関しては問題としない。例えば、船尾垂線A.P.よりも0.2×Lpp(垂線間長)後方の位置で、水面上構造物の最大幅(船橋を有する上部構造物の場合は、ドジャー及びドジャーの支持構造体を除く)Bの10分の1以下のような渦は問題としない。つまり、強いて言えば、ここでいう「渦流」とは、船尾垂線A.P.よりも0.2×Lpp(垂線間長)後方の位置で、水面上構造物の最大幅Bの3倍(あえて上限を示せば)の大きさからこの最大幅Bの10分の1の大きさまでの直径を持つような渦流を意味する。
【0019】
また、フルード数Fnは、船速をV、垂線間長をLpp、重力加速度をgとしたときに、Fn=V/(Lpp×g)1/2となる。ここで、本発明の対象とする船舶のフルード数Fnを0.13〜0.30とする理由は、フルード数Fnが0.30より大きい場合が殆どの高速の艦艇では、レーダー反射をする少なくするためのステルス技術に関して、船体全体を覆いでカバーすることがあるので、このようなステルス用のカバーと区別するためである。
【0020】
上記の構成によれば、船橋や居住区等の上部構造物や水面上の船体の船尾側にスムーズな流れを形成するフェアリング部が設けられることになる。そして、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側を左右方向に延びる壁面で形成した上部構造物や、従来のトランサム形状等の水面上の船尾の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0021】
この船尾側に渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0022】
上記風圧抵抗の少ない船舶で、上部構造物の船尾側の形状又は水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状において、船橋を有する上部構造物の場合にはドジャー及びドジャーの支持構造体を除いた最大幅をBとしたときに、この水面上構造物の船尾側の形状を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、該下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとする等脚台形よりも外側の範囲で、且つ、前記最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、該底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80degとする二等辺三角形よりも内側の領域に入るように形成して構成する。
【0023】
なお、ドジャーとは、接岸時や離岸時等の操船に際して、舷側を監視するために人員が舷側側に移動できるように、船橋の操舵室から左右両方向に延びて形成された構造物である。
【0024】
また、平面視でこの範囲にあると、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できるので、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができる。
【0025】
そして、このような形状とすることで、水面上の船体の船尾側に適用した場合には、船尾部が延長され、これにより、水線長が長くなり、水面下の船尾における剥離流れと造波抵抗の低減も図ることができる。
【0026】
上記の風圧抵抗の少ない船舶で、前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、水面に平行な各断面の形状において、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるなめらかな曲線状の部分、又は、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる直線部分、又は、両者の組み合わせで形成して構成する。
【0027】
この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状に形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて、ここで問題にしている抵抗に影響を与えるような大きな渦が発生することを抑制できる。
【0028】
上記の風圧抵抗の少ない船舶で、前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲において、水平面に対して30deg〜90degの傾斜角θ3を有するように形成して構成する。
【0029】
この船尾側の側壁部を水平面に対して30deg〜90deg傾斜させることにより、水面上構造物の船尾側を形成する船尾側上面と船側側壁部との角部で生じる渦流を抑制することができる。また、更に、この船尾側上面と船側側壁部との角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流を抑制することができるようになる。
【0030】
なお、上記の風圧抵抗の少ない船舶の構造の決定方法は、風圧抵抗の少ない船舶の設計方法としても利用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の風圧抵抗の少ない船舶によれば、風圧抵抗を低減し船速低下を改善することができ、風圧抵抗が低減することにより、風圧抵抗によって生じる船体の姿勢変化による斜航や当舵を抑制することができ、速力性能と操縦性能を改善することができる。その結果、燃費と運航性能を向上することができる。また、桟橋に離着する際に、港内で受ける風圧力が低減されるので、港内での操船性が向上し、離着桟時に要する時間の短縮を図ることができる。
【0032】
また、居住区を含む上部構造物を対象にした場合には、この上部構造物の後方で剥離して生じる渦を抑制することができるので、煙害などを抑制することができ、上甲板作業の安全性と作業性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態における船舶の上部構造物を斜め上方の前方から見た図である。
【図2】図1の船舶の上部構造物の側面図である。
【図3】図1の上部構造物の船尾側形状を示した平面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における船舶を斜め上方の後方から見た図である。
【図5】図4の船舶を斜め後方から見た図である。
【図6】図4の船舶の正面図である。
【図7】図4の船舶の背面図である。
【図8】図4の船舶の右側面図である。
【図9】図4の船舶の左側面図である。
【図10】図4の船舶の平面図である。
【図11】図4の船舶の底面図である。
【図12】図4の船舶の船尾側部分の船尾側形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明に係る風圧抵抗の少ない船舶の実施の形態について説明する。ここでは、第1の実施の形態では上甲板より上に設けられた居住区兼船橋の上部構造物を有する船舶を例にして説明し、第2の実施の形態では自動車専用船を例にして説明している。しかしながら、本発明は、自動車専用船のみならず、コンテナ船、タンカー、客船等の他の船舶にも適用できる。なお、ステルス技術のために船体を覆いでカバーしている艦艇を除くために、航海速力Vで、船舶の航行速度Vに関係するフルード数Fnが、0.13〜0.30の船舶としている。
【0035】
最初に、第1の実施の形態の風圧抵抗の少ない船舶(以下船舶という)について説明する。図1〜図3に示すように、この第1の実施の形態の船舶1では、上甲板11上に上部構造物(水面上構造物)12が設けられている。この上部構造物12は船橋を有しており、左右にドジャー17が設けられ、また、上部構造物12の船尾側の水平部16に煙突18が設けられている。
【0036】
本発明においては、船橋や居住区等の上部構造物12の船尾側にスムーズな流れを形成するフェアリング部を設ける。つまり、上部構造物12の船尾側の形状を船尾側の側壁部13、14と水平部15、16とで形成して、上甲板11上に設けた上部構造物12の船尾側の形状を予め設定された風速Vwの中を船舶1の航海速力Vで前進したときに、上部構造物12の船尾側に渦流が発生しない形状に形成する。この船尾側に渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0037】
この船尾側の側壁部13、14と水平部15、16で囲まれる部分は、居住区などにして利用してもよいが、空隙としてもよい。すなわち、側壁部13、14と水平部15、16を、船尾側の空気の流れで渦流が発生しないようにするための、空間を囲むカバー体として形成してもよい。また、側壁部13等には係船上等の必要に応じて開口部13aを設けてもよい。
【0038】
なお、具体的な形状を風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から決定する代わりに、次のようにして、この上部構造物12の船尾側の形状を決めてもよい。
【0039】
先ず、ドジャー17及びドジャー17の支持構造体(図示しない)を除いた最大幅をBとする。次に、図3に示すように、この上部構造物12の船尾側の形状を、この上部構造物12の高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この上部構造物12の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、上部構造物12の高さには、煙突やマスト等の上部構造物12からの突出物は含まない。
【0040】
つまり、この範囲において、上部構造物12の最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、この下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとして等脚台形を作る。また、最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、この底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとする二等辺三角形を作る。そして、この上部構造物12の船尾側の形状を、平面視で、この等脚台形の領域よりも外側で、二等辺三角形の内側の領域に入るように形成する。
【0041】
なお、高さ方向(上下方向)に関しては、段差が無い方が、空気の流れが円滑に流れ、渦流の発生が無くなるので好ましいが、構造上必要な場合には、図1〜図2に示すように高さ方向に段差があってもよい。この場合は、段差のある部分の角部に面取りや丸みを設けることが好ましい。
【0042】
この構成により、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができ、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できる。
【0043】
なお、等脚台形の底角θ1の角度を、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。また、二等辺三角形の底角θ2の角度についても同様に、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。
【0044】
なお、この船尾側の側壁部13、14の形状に関しては、水面に平行な各断面の形状において、平面視で滑らかな曲線状の部分、又は、直線状の部分で形成することが好ましい。この滑らかな曲線又は滑らかな直線とは実際の船舶では、完全に凹凸が無いということは無理であるので、凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるように形成することが好ましい。この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状で形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて大きな渦が発生することを抑制することができる。
【0045】
また、更に、上部構造物12の船尾側を形成する船尾側の側壁部13、14を、この上部構造物12の高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この上部構造物12の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、上部構造物12の高さには、煙突やマスト等の上部構造物12からの突出物は含まない。
【0046】
つまり、この範囲において、水平面に対して、30deg〜90deg、好ましくは、50deg〜70degの傾斜角θ3を有するように形成することが好ましい。この構成により、上部構造物12の船尾側を形成する船尾側上面15、16と船尾側の側壁部13、14との角部で生じる渦流を抑制することができる。また、更に、この船尾側上面と船側側壁部との角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流の発生を抑制することができるようになる。
【0047】
この側壁部13、14は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成した場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。なお、傾斜角θ3を30degより小さくすると、上部構造物12の船尾側の下部が大きく船尾方向に延びることになり、90degより大きくし過ぎると実用的ではなくなる。
【0048】
この構成によれば、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速Vwの中を航海速力Vで前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側を左右方向に延びる壁面で形成した上部構造物の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0049】
そして、斜め前方からの風に対しても、従来技術の箱型の上部構造物に比べて渦流が発生し難く、斜め前方からの風に対する上部構造物12の風圧抵抗が小さくなり、また、上部構造物12は、荷役を考えて一般に船尾側に配置されていることが多いので、風圧に起因するヨウモーメントも小さくなるので、操縦性が向上することになる。
【0050】
次に、第2の実施の形態の風圧抵抗の少ない船舶(以下船舶という)について説明する。図4〜図13に示すように、この第2の実施形態の船舶1Aは、自動車専用船を例にしたものであり、船体20の船首から船尾にわたって、自動車を固定して搬送するために、階層構造の複数の甲板を有し、最上部の甲板である上甲板21には、マスト22や煙突23は設けるが、船橋や居住区等の船楼を設けない。この船舶1Aでは、船橋も居住区も上甲板21より下に設け、上甲板21より上にはできるだけ突出するものを設けず、風圧抵抗を減少させる。
【0051】
また、水面より下には、船首側に船首バルブ31が、船尾側にスクリュープロペラ32と舵33が設けられている。
【0052】
この構成では、例えば、船橋は上甲板21より下で見晴らしがよい船首部に設け、居住区はエンジンのある機関室に近い船尾側に設ける。最近はエンジンの制御や船内制御がリモートコントロール化されてきているので、船橋と機関室と居住区を必ずしも近傍に配置する必要性も小さくなってきているので、船楼を設けない構成でも大きな不便は生じない。
【0053】
船首には、船首前縁上端から上甲板21に向かって上向きの傾斜面24を形成する。この傾斜面24は、水平面に対する上向き角度が20deg〜60degで、好ましくは38degになるように形成される。これにより、風の流れが船首前縁上端から上甲板に向かって流れる際に、上甲板部分における剥離と渦の発生を抑制でき、風圧抵抗を低減できる。
【0054】
船体の上甲板21と両舷側部25とがなす角部に、船首から船尾のほぼ全長にわたって切欠段部26を設ける。この切欠段部26は、図6に示すように、船体中央における、上甲板から船底(キールライン)までの深さDからバラスト喫水dbを引き算したバラスト状態における乾舷fbの5〜20%の深さdsと幅bsを有して形成される。例えば、積み荷となる自動車1台分の幅で、方形状に切り欠くことによって形成される。
【0055】
この切欠段部26により斜め方向の風に対して上甲板21と舷側部25とを結ぶ角部での剥離及び渦の発生が抑制されて、風圧による抵抗、横力、ヨーモーメントが軽減される。なお、この切欠段部26は、船首から船尾のほぼ全長にわたって設けると効果が大きいが、船首からほぼ船体中央部までの範囲にわたって設けてもよい。
【0056】
この切欠段部26の舷側部25と上甲板21との角部においては、傾斜面27を設けて横風を受けたときの抵抗を軽減することが好ましく、図4、図5、図8〜図10の構成では、角部と傾斜面とを船首尾方向に交互に配置している。この傾斜面26aは、30deg〜60degで、好ましくは、45degとし、この傾斜面27の高さは、切欠段部26の深さdsの3分の2〜3分の1程度が好ましい。
【0057】
本発明においては、船体20の水面上の部分(水面上構造物)の船尾側部分20aにスムーズな流れを形成するフェアリング部である側壁部27、28を設ける。つまり、船尾側部分20aの船尾側の形状を船尾側の側壁部27、28と上甲板21で形成して、この船尾側部分20aの形状を予め設定された風速Vwの中を船舶1Aの航海速力Vで前進したときに、船尾側部分20aに渦流が発生しない形状に形成する。この船尾側部分20aに渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0058】
この船尾側部分20aの側壁部27,28と上甲板21で囲まれる部分は、係船装置や舵取り機構を配置するが、空隙部分を設けてもよい。すなわち、側壁部27、28と上甲板21を、船尾側の空気の流れで渦流が発生しないようにするための、空間を囲むカバー体として形成してもよい。また、側壁部27、28には係船上等の必要に応じて開口部を設けてもよい。この構成では、自動車の荷役を行うためのランプウエイ用の開口部とその扉29を設けている。また、船体20の中央部付近の舷側部25にも自動車の荷役を行うためのランプウエイ用の開口部とその扉30を設けている。
【0059】
なお、具体的な形状を風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から決定する代わりに、次のようにして、この船尾側部分20aの船尾側の形状を決めてもよい。
【0060】
先ず、船尾側部分20aの最大幅をBとする。この船尾側部分20aとしては、船体20の平行部の最後から船尾側とするが、平行部の最後が明確でない場合には、船尾垂線A.P.から0.2×Lpp(垂線間長)前方の位置から後方部分とする。
【0061】
図12に示すように、この船尾側部分20aの船尾側の形状を、この船尾側部分20aの上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この船尾側部分20aの高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、船尾側部分20aの高さには、煙突やマスト等の船尾側部分20の上甲板21からの突出物は含まない。
【0062】
つまり、この範囲における、水面に平行な各断面の形状において、船尾側部分20aの最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、この下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとし、上辺の長さB2を0.9×Bとして等脚台形を作る。また、最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、この底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとする二等辺三角形を作る。そして、この船尾側部分20aの船尾側の形状を、平面視で、この等脚台形の領域よりも外側で、二等辺三角形の内側の領域に入るように形成する。
【0063】
この構成により、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができ、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できる。
【0064】
なお、等脚台形の底角θ1の角度を、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。また、二等辺三角形の底角θ2の角度についても同様に、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。
【0065】
なお、この船尾側部分20aの側壁部27、28の形状に関しては、水面に平行な各断面の形状において、平面視で滑らかな曲線状の部分、又は、直線状の部分で形成することが多く、また、このように構成することが好ましい。しかしながら、ランプウエイの扉29を設けたりする場合には、完全に凹凸が無いということは無理であるので、凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるように構成することが好ましい。この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状で形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて大きな渦が発生することを抑制することができる。
【0066】
また、更に、船尾側部分20aの船尾側を形成する側壁部27,28を、この船尾側部分20aの高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この船尾側部分20%の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、船尾側部分20aの高さには、煙突やマスト等の船尾側部分20の上甲板21からの突出物は含まない。
【0067】
つまり、この範囲において、水平面に対して、30deg〜90deg、好ましくは50deg〜70degの傾斜角θ3を有するように形成することが好ましい。この構成により、船尾側部分20aの船尾側を形成する上甲板21と側壁部27、28との角部で生じる渦流を抑制することができる。
【0068】
この側壁部13、14は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成した場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。
【0069】
なお、この側壁部27、28は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成することが好ましく、この場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。また、更に、この上甲板21と側壁部27、28の角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流の発生を抑制することができるようになる。
【0070】
なお、傾斜角θ3を30degより小さくすると、船尾側部分20aの下部が大きく船尾方向に延びることになり、90degより大きくし過ぎると、実用的ではなくなる。
【0071】
この構成によれば、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速Vwの中を航海速力Vで前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側部分を左右方向に延びる壁面で形成したトランサム船型の船尾の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0072】
そして、斜め前方からの風に対しても、従来技術のランサム船型の船尾の形状に比べて渦流が発生し難く、斜め前方からの風に対する船体20の風圧抵抗が小さくなり、風圧に起因するヨウモーメントも小さくなるので、操縦性が向上することになる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の風圧抵抗の少ない船舶は、風圧抵抗を低減し船速低下を改善することができて、速力性能と操縦性能を改善することができ、その結果、燃費と運航性能を向上することができるので、数多くの種類の船舶として利用でき、特に、風圧面積が大きくなる自動車専用船、コンテナ船、客船として利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1、1A 船舶
2 水面
11、21 上甲板
12 上部構造物(水面上構造物)
13、14 側壁部(フェアリング部)
15、16 水平部
17 ドジャー
20 船体
20a 船体の水面上の部分(水面上構造物)の船尾側部分
21 上甲板
25 舷側部
26 切欠段部
27、28 傾斜部
29、30 ランプウエイ用の開口部の扉
B 最大幅
B1 等脚台形の下辺の長さ
B2 等脚台形の上辺の長さ
B3 二等辺三角形の底辺の長さ
Vw 風速
V 航海速力
θ1 等脚台形の底角
θ2 二等辺三角形の底角
θ3 側壁部の水平面に対する傾斜角
【技術分野】
【0001】
本発明は、風圧抵抗の少ない船舶に関し、更に詳細には、船橋や居住区などの上部構造物の船尾側の形状を工夫することにより風圧抵抗を少なくした船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を走行する商船の殆どの船舶は、排水量型と呼ばれ、航行中は、水面下の部分と水面上の部分とを有し、水面下の水の粘性による抵抗と、水面付近の波による抵抗と、水面上の空気(風)による抵抗を受けながら、プロペラ等の推進器で発生する推力により航行している。
【0003】
船舶の水面下においては、船体形状の工夫による抵抗減少や船体とプロペラと舵などの関係による推進性能の向上が進められ、また、水面付近での波による造波抵抗や砕波抵抗や反射波における抵抗減少についても船首形状や船尾形状の工夫により抵抗減少が図られている。これらに関しては、多大な労力が費やされ、現在も努力が継続されている。
【0004】
一方、水面上の空気による抵抗に関しては、従来においては、水面下及び水面付近における抵抗量が大きく、船体形状の工夫による改善効果もあったため、どちらかといえば軽視されてきていた。しかしながら、水面下及び水面付近における抵抗量が減少するにつれて、相対的に空気抵抗即ち風圧抵抗への改善の要求が高まってきている。
【0005】
特に、乾舷が高く風圧面積が大きい自動車専用船や積み荷の積載により風圧面積が増加するコンテナ船や上部構造部が大きい客船等は水面上の風圧面積が大きいため、風圧力の影響を受け易い。そのため、風圧抵抗による直接的な抵抗増加や、風圧力による船体の姿勢変化による斜航により水中抵抗が増加したり、針路維持のための当舵等による間接的な抵抗増加が生じ、船速が低下する等の運航性能の問題があった。
【0006】
これに関連して、船舶の上甲板上に位置する上部構造の前壁に半円筒体を垂直に取り付けて中空構造体とし、この中空構造体の下端にラッパ状の拡大部を有する空気吸込口を、上端に空気吐出口を設けて、上部構造物の前壁の下部に当たる風を空気吸込口で吸い込んで、煙突効果で吸い上げて空気吐出口より放出することで、前壁の前面の圧力を低減し、これにより、上部構造前面の風圧抵抗を低減する船舶の風圧抵抗低減装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、複数の車両搭載デッキを有する自動車専用船において、係船機が配置される船首側係船デッキを囲む外板に船首側係船窓を閉鎖可能に設けて、船首付近の気流の流れの乱れを抑制して、空気の流れをスムースなものとし、気流の乱れに起因する風圧抵抗の増加を抑制し、更には、格納式フラップや切欠部などを空気流入促進手段として利用して、船尾側係船デッキへの空気の流入を促進させて、船尾付近の負圧領域に空気を送り込んで圧力回復を図ることにより、船体全体の風圧抵抗を低減させる自動車専用船が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
また、主船体の船側上部に、船首から離間し、かつ、上部構造物よりも船首側の位置に、船外壁の上端に連続させて、且つ、船首より離間した位置から立ち上がり、船尾に向かうにつれて次第に高さが増していく防風フェンスを設けて、この防風フェンスの主船体の外側を向く面を、上端が下端よりも上部構造側に位置する傾斜面とすることで、主船体の構造を変更することなく、空気抵抗を低減する船舶が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
これらの船舶では、上部構造物の形状はそのままで、周囲の空気の流れを変化させることにより、風圧抵抗の減少を図っている。これに対して、船体形状の一部を変化させることにより、風圧抵抗を減少することが考えられている。
【0010】
このような船舶の一つとして、船体の上甲板と両舷側部とを結ぶ両角部に、それぞれ船首から船尾のほぼ全長に、あるいは、船首からほぼ船体中央部にわたって切欠段部を設けて、更に、船首部に船首前縁上端から上甲板に向かって水平面に対して上向きの傾斜面を形成した船舶が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
また、船体の上甲板と両舷側部とがなすそれぞれの角部に、船首から船尾の方向に沿って形成された切欠段部と、少なくとも一方の切欠段部に設けられた換気ユニットと、換気ユニットを覆うとともに上面と側面とがなす舷側部側に位置する角部が第1の傾斜面に形成されたハウジングとを具備した船舶が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0012】
これらの船舶で、この切欠段部により斜め方向の風に対して上甲板と舷側部とを結ぶ角部での剥離及び渦の発生が抑制されて、風圧による抵抗、横力、ヨーモーメントが軽減されることが、風洞実験結果やCFD(Computational Fluid Dynamics)解析結果で確認されている。しかしながら、上甲板の上に設けた船楼の角型の形状や船尾部の角型の形状に関しては改善に余地があると考えられる。
【0013】
上記のように、従来技術においては、船橋や居住区等の上甲板より上に設けられた上部構造物に関しては、容積の減少を嫌うことから、大きな形状変化を考えることなく、従来の箱型の組み合わせに近い形状のままで、上部構造物やその周囲に風の流れを変える付加物を取り付けているような工夫だけであった。
【0014】
しかしながら、航海用機器や舵取り機構の小型化や、抵抗減少による燃費の改善と容積の増減を考慮しながら、上部構造物の後側の形状や、喫水線より上の風を受ける部分の船体の後部の形状を、風圧抵抗を減少するために大幅に形状変化させるような、全体的な改良までは検討されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平6−183392号公報
【特許文献2】特開2005−82030号公報
【特許文献3】特開2005−132314号公報
【特許文献4】特開2003−291883号公報
【特許文献5】特開2006−36118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、水面上の風圧面積が比較的大きく、風圧力の影響を受け易い自動車専用船、コンテナ船、客船などの風圧力の影響を低減できて、船舶の運航性能を向上することができる風圧抵抗の少ない船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための風圧抵抗の少ない船舶は、航海速力で、船舶の航行速度に関係するフルード数が、0.13〜0.30の船舶で、上甲板上に設けた上部構造物の船尾側の形状、または、水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成して構成する。この予め設定された風速とは、通常は、対象とする船舶が航行する想定海域の風速から設定される設計用の風速であり、設計仕様から決まる風速である。また、航海速力も設計仕様から決まる。
【0018】
なお、この渦流は死水領域に生じる停滞渦やカルマン渦のような流出渦であり、水面上構造物の大きさと比較して考えたときにそれ相当の大きさの渦であり、本発明が問題としている風圧抵抗の大きさに比べて小さく、本発明が問題としている風圧抵抗に大きな影響を与えない小さい渦に関しては問題としない。例えば、船尾垂線A.P.よりも0.2×Lpp(垂線間長)後方の位置で、水面上構造物の最大幅(船橋を有する上部構造物の場合は、ドジャー及びドジャーの支持構造体を除く)Bの10分の1以下のような渦は問題としない。つまり、強いて言えば、ここでいう「渦流」とは、船尾垂線A.P.よりも0.2×Lpp(垂線間長)後方の位置で、水面上構造物の最大幅Bの3倍(あえて上限を示せば)の大きさからこの最大幅Bの10分の1の大きさまでの直径を持つような渦流を意味する。
【0019】
また、フルード数Fnは、船速をV、垂線間長をLpp、重力加速度をgとしたときに、Fn=V/(Lpp×g)1/2となる。ここで、本発明の対象とする船舶のフルード数Fnを0.13〜0.30とする理由は、フルード数Fnが0.30より大きい場合が殆どの高速の艦艇では、レーダー反射をする少なくするためのステルス技術に関して、船体全体を覆いでカバーすることがあるので、このようなステルス用のカバーと区別するためである。
【0020】
上記の構成によれば、船橋や居住区等の上部構造物や水面上の船体の船尾側にスムーズな流れを形成するフェアリング部が設けられることになる。そして、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側を左右方向に延びる壁面で形成した上部構造物や、従来のトランサム形状等の水面上の船尾の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0021】
この船尾側に渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0022】
上記風圧抵抗の少ない船舶で、上部構造物の船尾側の形状又は水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状において、船橋を有する上部構造物の場合にはドジャー及びドジャーの支持構造体を除いた最大幅をBとしたときに、この水面上構造物の船尾側の形状を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、該下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとする等脚台形よりも外側の範囲で、且つ、前記最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、該底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80degとする二等辺三角形よりも内側の領域に入るように形成して構成する。
【0023】
なお、ドジャーとは、接岸時や離岸時等の操船に際して、舷側を監視するために人員が舷側側に移動できるように、船橋の操舵室から左右両方向に延びて形成された構造物である。
【0024】
また、平面視でこの範囲にあると、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できるので、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができる。
【0025】
そして、このような形状とすることで、水面上の船体の船尾側に適用した場合には、船尾部が延長され、これにより、水線長が長くなり、水面下の船尾における剥離流れと造波抵抗の低減も図ることができる。
【0026】
上記の風圧抵抗の少ない船舶で、前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、水面に平行な各断面の形状において、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるなめらかな曲線状の部分、又は、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる直線部分、又は、両者の組み合わせで形成して構成する。
【0027】
この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状に形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて、ここで問題にしている抵抗に影響を与えるような大きな渦が発生することを抑制できる。
【0028】
上記の風圧抵抗の少ない船舶で、前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲において、水平面に対して30deg〜90degの傾斜角θ3を有するように形成して構成する。
【0029】
この船尾側の側壁部を水平面に対して30deg〜90deg傾斜させることにより、水面上構造物の船尾側を形成する船尾側上面と船側側壁部との角部で生じる渦流を抑制することができる。また、更に、この船尾側上面と船側側壁部との角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流を抑制することができるようになる。
【0030】
なお、上記の風圧抵抗の少ない船舶の構造の決定方法は、風圧抵抗の少ない船舶の設計方法としても利用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の風圧抵抗の少ない船舶によれば、風圧抵抗を低減し船速低下を改善することができ、風圧抵抗が低減することにより、風圧抵抗によって生じる船体の姿勢変化による斜航や当舵を抑制することができ、速力性能と操縦性能を改善することができる。その結果、燃費と運航性能を向上することができる。また、桟橋に離着する際に、港内で受ける風圧力が低減されるので、港内での操船性が向上し、離着桟時に要する時間の短縮を図ることができる。
【0032】
また、居住区を含む上部構造物を対象にした場合には、この上部構造物の後方で剥離して生じる渦を抑制することができるので、煙害などを抑制することができ、上甲板作業の安全性と作業性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態における船舶の上部構造物を斜め上方の前方から見た図である。
【図2】図1の船舶の上部構造物の側面図である。
【図3】図1の上部構造物の船尾側形状を示した平面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における船舶を斜め上方の後方から見た図である。
【図5】図4の船舶を斜め後方から見た図である。
【図6】図4の船舶の正面図である。
【図7】図4の船舶の背面図である。
【図8】図4の船舶の右側面図である。
【図9】図4の船舶の左側面図である。
【図10】図4の船舶の平面図である。
【図11】図4の船舶の底面図である。
【図12】図4の船舶の船尾側部分の船尾側形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明に係る風圧抵抗の少ない船舶の実施の形態について説明する。ここでは、第1の実施の形態では上甲板より上に設けられた居住区兼船橋の上部構造物を有する船舶を例にして説明し、第2の実施の形態では自動車専用船を例にして説明している。しかしながら、本発明は、自動車専用船のみならず、コンテナ船、タンカー、客船等の他の船舶にも適用できる。なお、ステルス技術のために船体を覆いでカバーしている艦艇を除くために、航海速力Vで、船舶の航行速度Vに関係するフルード数Fnが、0.13〜0.30の船舶としている。
【0035】
最初に、第1の実施の形態の風圧抵抗の少ない船舶(以下船舶という)について説明する。図1〜図3に示すように、この第1の実施の形態の船舶1では、上甲板11上に上部構造物(水面上構造物)12が設けられている。この上部構造物12は船橋を有しており、左右にドジャー17が設けられ、また、上部構造物12の船尾側の水平部16に煙突18が設けられている。
【0036】
本発明においては、船橋や居住区等の上部構造物12の船尾側にスムーズな流れを形成するフェアリング部を設ける。つまり、上部構造物12の船尾側の形状を船尾側の側壁部13、14と水平部15、16とで形成して、上甲板11上に設けた上部構造物12の船尾側の形状を予め設定された風速Vwの中を船舶1の航海速力Vで前進したときに、上部構造物12の船尾側に渦流が発生しない形状に形成する。この船尾側に渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0037】
この船尾側の側壁部13、14と水平部15、16で囲まれる部分は、居住区などにして利用してもよいが、空隙としてもよい。すなわち、側壁部13、14と水平部15、16を、船尾側の空気の流れで渦流が発生しないようにするための、空間を囲むカバー体として形成してもよい。また、側壁部13等には係船上等の必要に応じて開口部13aを設けてもよい。
【0038】
なお、具体的な形状を風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から決定する代わりに、次のようにして、この上部構造物12の船尾側の形状を決めてもよい。
【0039】
先ず、ドジャー17及びドジャー17の支持構造体(図示しない)を除いた最大幅をBとする。次に、図3に示すように、この上部構造物12の船尾側の形状を、この上部構造物12の高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この上部構造物12の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、上部構造物12の高さには、煙突やマスト等の上部構造物12からの突出物は含まない。
【0040】
つまり、この範囲において、上部構造物12の最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、この下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとして等脚台形を作る。また、最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、この底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとする二等辺三角形を作る。そして、この上部構造物12の船尾側の形状を、平面視で、この等脚台形の領域よりも外側で、二等辺三角形の内側の領域に入るように形成する。
【0041】
なお、高さ方向(上下方向)に関しては、段差が無い方が、空気の流れが円滑に流れ、渦流の発生が無くなるので好ましいが、構造上必要な場合には、図1〜図2に示すように高さ方向に段差があってもよい。この場合は、段差のある部分の角部に面取りや丸みを設けることが好ましい。
【0042】
この構成により、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができ、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できる。
【0043】
なお、等脚台形の底角θ1の角度を、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。また、二等辺三角形の底角θ2の角度についても同様に、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。
【0044】
なお、この船尾側の側壁部13、14の形状に関しては、水面に平行な各断面の形状において、平面視で滑らかな曲線状の部分、又は、直線状の部分で形成することが好ましい。この滑らかな曲線又は滑らかな直線とは実際の船舶では、完全に凹凸が無いということは無理であるので、凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるように形成することが好ましい。この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状で形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて大きな渦が発生することを抑制することができる。
【0045】
また、更に、上部構造物12の船尾側を形成する船尾側の側壁部13、14を、この上部構造物12の高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この上部構造物12の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、上部構造物12の高さには、煙突やマスト等の上部構造物12からの突出物は含まない。
【0046】
つまり、この範囲において、水平面に対して、30deg〜90deg、好ましくは、50deg〜70degの傾斜角θ3を有するように形成することが好ましい。この構成により、上部構造物12の船尾側を形成する船尾側上面15、16と船尾側の側壁部13、14との角部で生じる渦流を抑制することができる。また、更に、この船尾側上面と船側側壁部との角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流の発生を抑制することができるようになる。
【0047】
この側壁部13、14は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成した場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。なお、傾斜角θ3を30degより小さくすると、上部構造物12の船尾側の下部が大きく船尾方向に延びることになり、90degより大きくし過ぎると実用的ではなくなる。
【0048】
この構成によれば、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速Vwの中を航海速力Vで前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側を左右方向に延びる壁面で形成した上部構造物の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0049】
そして、斜め前方からの風に対しても、従来技術の箱型の上部構造物に比べて渦流が発生し難く、斜め前方からの風に対する上部構造物12の風圧抵抗が小さくなり、また、上部構造物12は、荷役を考えて一般に船尾側に配置されていることが多いので、風圧に起因するヨウモーメントも小さくなるので、操縦性が向上することになる。
【0050】
次に、第2の実施の形態の風圧抵抗の少ない船舶(以下船舶という)について説明する。図4〜図13に示すように、この第2の実施形態の船舶1Aは、自動車専用船を例にしたものであり、船体20の船首から船尾にわたって、自動車を固定して搬送するために、階層構造の複数の甲板を有し、最上部の甲板である上甲板21には、マスト22や煙突23は設けるが、船橋や居住区等の船楼を設けない。この船舶1Aでは、船橋も居住区も上甲板21より下に設け、上甲板21より上にはできるだけ突出するものを設けず、風圧抵抗を減少させる。
【0051】
また、水面より下には、船首側に船首バルブ31が、船尾側にスクリュープロペラ32と舵33が設けられている。
【0052】
この構成では、例えば、船橋は上甲板21より下で見晴らしがよい船首部に設け、居住区はエンジンのある機関室に近い船尾側に設ける。最近はエンジンの制御や船内制御がリモートコントロール化されてきているので、船橋と機関室と居住区を必ずしも近傍に配置する必要性も小さくなってきているので、船楼を設けない構成でも大きな不便は生じない。
【0053】
船首には、船首前縁上端から上甲板21に向かって上向きの傾斜面24を形成する。この傾斜面24は、水平面に対する上向き角度が20deg〜60degで、好ましくは38degになるように形成される。これにより、風の流れが船首前縁上端から上甲板に向かって流れる際に、上甲板部分における剥離と渦の発生を抑制でき、風圧抵抗を低減できる。
【0054】
船体の上甲板21と両舷側部25とがなす角部に、船首から船尾のほぼ全長にわたって切欠段部26を設ける。この切欠段部26は、図6に示すように、船体中央における、上甲板から船底(キールライン)までの深さDからバラスト喫水dbを引き算したバラスト状態における乾舷fbの5〜20%の深さdsと幅bsを有して形成される。例えば、積み荷となる自動車1台分の幅で、方形状に切り欠くことによって形成される。
【0055】
この切欠段部26により斜め方向の風に対して上甲板21と舷側部25とを結ぶ角部での剥離及び渦の発生が抑制されて、風圧による抵抗、横力、ヨーモーメントが軽減される。なお、この切欠段部26は、船首から船尾のほぼ全長にわたって設けると効果が大きいが、船首からほぼ船体中央部までの範囲にわたって設けてもよい。
【0056】
この切欠段部26の舷側部25と上甲板21との角部においては、傾斜面27を設けて横風を受けたときの抵抗を軽減することが好ましく、図4、図5、図8〜図10の構成では、角部と傾斜面とを船首尾方向に交互に配置している。この傾斜面26aは、30deg〜60degで、好ましくは、45degとし、この傾斜面27の高さは、切欠段部26の深さdsの3分の2〜3分の1程度が好ましい。
【0057】
本発明においては、船体20の水面上の部分(水面上構造物)の船尾側部分20aにスムーズな流れを形成するフェアリング部である側壁部27、28を設ける。つまり、船尾側部分20aの船尾側の形状を船尾側の側壁部27、28と上甲板21で形成して、この船尾側部分20aの形状を予め設定された風速Vwの中を船舶1Aの航海速力Vで前進したときに、船尾側部分20aに渦流が発生しない形状に形成する。この船尾側部分20aに渦流が発生するか否かは、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって容易に検証することができ、具体的な形状もこれらの風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から容易に決定することができる。
【0058】
この船尾側部分20aの側壁部27,28と上甲板21で囲まれる部分は、係船装置や舵取り機構を配置するが、空隙部分を設けてもよい。すなわち、側壁部27、28と上甲板21を、船尾側の空気の流れで渦流が発生しないようにするための、空間を囲むカバー体として形成してもよい。また、側壁部27、28には係船上等の必要に応じて開口部を設けてもよい。この構成では、自動車の荷役を行うためのランプウエイ用の開口部とその扉29を設けている。また、船体20の中央部付近の舷側部25にも自動車の荷役を行うためのランプウエイ用の開口部とその扉30を設けている。
【0059】
なお、具体的な形状を風洞模型実験や、数値流体シミュレーションの結果や、従来の周知の形状等から決定する代わりに、次のようにして、この船尾側部分20aの船尾側の形状を決めてもよい。
【0060】
先ず、船尾側部分20aの最大幅をBとする。この船尾側部分20aとしては、船体20の平行部の最後から船尾側とするが、平行部の最後が明確でない場合には、船尾垂線A.P.から0.2×Lpp(垂線間長)前方の位置から後方部分とする。
【0061】
図12に示すように、この船尾側部分20aの船尾側の形状を、この船尾側部分20aの上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この船尾側部分20aの高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、船尾側部分20aの高さには、煙突やマスト等の船尾側部分20の上甲板21からの突出物は含まない。
【0062】
つまり、この範囲における、水面に平行な各断面の形状において、船尾側部分20aの最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、この下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとし、上辺の長さB2を0.9×Bとして等脚台形を作る。また、最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、この底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80deg、より好ましくは50deg〜70degとする二等辺三角形を作る。そして、この船尾側部分20aの船尾側の形状を、平面視で、この等脚台形の領域よりも外側で、二等辺三角形の内側の領域に入るように形成する。
【0063】
この構成により、いちいち、風洞模型実験や、数値流体シミュレーションによって検証する手間を省くことができ、正面からの風に対して船尾側に大きな渦が発生することを回避できる。
【0064】
なお、等脚台形の底角θ1の角度を、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。また、二等辺三角形の底角θ2の角度についても同様に、40degより小さくすると渦ができ易くなり、80degより大きくすると上部構造物12の船尾側が大きく船尾方向に延びすぎることになる。
【0065】
なお、この船尾側部分20aの側壁部27、28の形状に関しては、水面に平行な各断面の形状において、平面視で滑らかな曲線状の部分、又は、直線状の部分で形成することが多く、また、このように構成することが好ましい。しかしながら、ランプウエイの扉29を設けたりする場合には、完全に凹凸が無いということは無理であるので、凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となるように構成することが好ましい。この凹凸の少ない滑らかな曲線状又は直線状で形成することにより、この曲線状の部分又は直線状の部分で流れに剥離が生じて大きな渦が発生することを抑制することができる。
【0066】
また、更に、船尾側部分20aの船尾側を形成する側壁部27,28を、この船尾側部分20aの高さの範囲、即ち、上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%、好ましくは0%〜70%、より好ましくは0〜100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。言い換えれば、この船尾側部分20%の上下方向の範囲のうちで、50%以上の範囲、好ましくは70%以上の範囲、より好ましくは100%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、次のように構成する。なお、船尾側部分20aの高さには、煙突やマスト等の船尾側部分20の上甲板21からの突出物は含まない。
【0067】
つまり、この範囲において、水平面に対して、30deg〜90deg、好ましくは50deg〜70degの傾斜角θ3を有するように形成することが好ましい。この構成により、船尾側部分20aの船尾側を形成する上甲板21と側壁部27、28との角部で生じる渦流を抑制することができる。
【0068】
この側壁部13、14は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成した場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。
【0069】
なお、この側壁部27、28は、水面上の全体又は上側の一部分が外側に凸となる曲面状に形成することが好ましく、この場合には、曲面上の各点における接面が、水平面となす角度を傾斜角θ3とする。また、更に、この上甲板21と側壁部27、28の角部に角取り又は丸めを設けることにより、より効果的に渦流の発生を抑制することができるようになる。
【0070】
なお、傾斜角θ3を30degより小さくすると、船尾側部分20aの下部が大きく船尾方向に延びることになり、90degより大きくし過ぎると、実用的ではなくなる。
【0071】
この構成によれば、正面からの風による風圧抵抗が最も大きくなるのは、予め設定された風速Vwの中を航海速力Vで前進したときであり、この時に船尾側に渦流(死水領域の停滞渦及びカルマン渦の流出渦等)ができなければ、風圧抵抗が小さくなるので、航海中全般にわたって、従来技術の船尾側部分を左右方向に延びる壁面で形成したトランサム船型の船尾の形状よりも風圧抵抗を少なくすることができる。
【0072】
そして、斜め前方からの風に対しても、従来技術のランサム船型の船尾の形状に比べて渦流が発生し難く、斜め前方からの風に対する船体20の風圧抵抗が小さくなり、風圧に起因するヨウモーメントも小さくなるので、操縦性が向上することになる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の風圧抵抗の少ない船舶は、風圧抵抗を低減し船速低下を改善することができて、速力性能と操縦性能を改善することができ、その結果、燃費と運航性能を向上することができるので、数多くの種類の船舶として利用でき、特に、風圧面積が大きくなる自動車専用船、コンテナ船、客船として利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1、1A 船舶
2 水面
11、21 上甲板
12 上部構造物(水面上構造物)
13、14 側壁部(フェアリング部)
15、16 水平部
17 ドジャー
20 船体
20a 船体の水面上の部分(水面上構造物)の船尾側部分
21 上甲板
25 舷側部
26 切欠段部
27、28 傾斜部
29、30 ランプウエイ用の開口部の扉
B 最大幅
B1 等脚台形の下辺の長さ
B2 等脚台形の上辺の長さ
B3 二等辺三角形の底辺の長さ
Vw 風速
V 航海速力
θ1 等脚台形の底角
θ2 二等辺三角形の底角
θ3 側壁部の水平面に対する傾斜角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上記の目的を達成するための風圧抵抗の少ない船舶は、航海速力で、船舶の航行速度に関係するフルード数が、0.13〜0.30の船舶で、上甲板上に設けた上部構造物の船尾側の形状、または、水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成したことを特徴とする風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項2】
上部構造物の船尾側の形状又は水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状において、
船橋を有する上部構造物の場合にはドジャー及びドジャーの支持構造体を除いた最大幅をBとしたときに、
この水面上構造物の船尾側の形状を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、
最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、該下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとする等脚台形よりも外側の範囲で、且つ、前記最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、該底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80degとする二等辺三角形よりも内側の領域に入るように形成したことを特徴とする請求項1記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項3】
前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、水面に平行な各断面の形状において、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる滑らかな曲線状の部分、又は、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる直線部分、又は、両者の組み合わせで形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項4】
前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲において、水平面に対して30deg〜90degの傾斜角θ3を有するように形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項1】
上記の目的を達成するための風圧抵抗の少ない船舶は、航海速力で、船舶の航行速度に関係するフルード数が、0.13〜0.30の船舶で、上甲板上に設けた上部構造物の船尾側の形状、または、水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状を、予め設定された風速の中を前記航海速力で前進したときに船尾側に渦流が発生しない形状に形成したことを特徴とする風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項2】
上部構造物の船尾側の形状又は水面上の船体の船尾側の形状の少なくとも一方の水面上構造物の形状において、
船橋を有する上部構造物の場合にはドジャー及びドジャーの支持構造体を除いた最大幅をBとしたときに、
この水面上構造物の船尾側の形状を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲における、水面に平行な各断面の形状において、
最大幅Bの船尾側最後部を下辺とし、該下辺の長さB1を0.9×Bとし、底角θ1を40deg〜80degとし、上辺の長さB2を0.5×Bとする等脚台形よりも外側の範囲で、且つ、前記最大幅Bの船尾側最後部を底辺とし、該底辺の長さB3を1.2×Bとし、底角θ2を40deg〜80degとする二等辺三角形よりも内側の領域に入るように形成したことを特徴とする請求項1記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項3】
前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、水面に平行な各断面の形状において、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる滑らかな曲線状の部分、又は、平面視で凹凸の深さが最大幅Bの5%以下となる直線部分、又は、両者の組み合わせで形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【請求項4】
前記水面上構造物の船尾側を形成する船尾側の側壁部を、この水面上構造物の上下方向の範囲のうちで少なくとも0%〜50%の範囲において、水平面に対して30deg〜90degの傾斜角θ3を有するように形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の風圧抵抗の少ない船舶。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−57052(P2011−57052A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207907(P2009−207907)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(502055377)商船三井テクノトレード株式会社 (5)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(502055377)商船三井テクノトレード株式会社 (5)
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