説明

食中毒予防用抗菌性組成物

【課題】食中毒の原因となる種々の微生物に対し、強く抑制し、しかも安全で使用し易い製剤を開発する。
【解決の手段】タンニン酸物質、脂肪酸エステル類、キレート剤、有機酸と有機酸塩類、含水エタノールよりなる組成物の開発により課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明には、食中毒予防を主たる目的とする抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食中毒予防や食品の保存性改善を目的として、脂肪酸エステル類が多用されてきた。
【0003】
脂肪酸エステル類は、有機酸及びその塩類と組み合わせ、含水エタノール溶液として使用される場合が多い。
【0004】
特異的な使用例としては、活性酸素発生化合物と併用する方法
【特許文献1】、ポリリジンと組み合わせて使用する方法
【特許文献2】、有機酸やキレート剤と接触させた後、急速凍結する方法
【特許文献3】のほか、麺類や種々の食品に直接混入させる方法
【特許文献4.5】などがある。
【特許文献1】 特開2004−10564
【特許文献2】 特許第2838574号
【特許文献3】 特開2003−70451
【特許文献4】 特開平9−163945
【特許文献5】 特許第353007号
【0005】
一方、食中毒原因菌としては、従来から重視されているものとして、
腸管出血性大腸菌(Escherichia coliO157)
サルモネラ菌(Salmonella Enteritidis)、
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、
カンピロバクター(Campylobacter jejuni、Campylobacter coli)
腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、
セレウス菌(Bacillus cereus)などが上げられる。現在種々の抗菌剤や、抗菌技術が応用されているが、その成果は必ずしも充分とは言えない。これら多種類の菌に対応できる抗菌剤としては、抗菌スペクトルがより広く、抗菌力がより強く、しかも安全なものが要望されている。
【0006】
そこで本発明者らは、脂肪酸エステル類の抗菌メカニズムとは全く異なり、タンパク変性作用や、タンパク凝集作用を有するタンニン物質に着目し、種々検討を行った。
【0007】
タンニンは古くから皮なめし材として使われるほか、種々の繊維の染色バインダーとしても多用されてきた。
【0008】
又、抗菌を目的とした応用例としては、タンニン酸を溶存させた氷による食品の保存法
【特許文献6】や高分子素材にタンニン物質をスペーサーとし、更に抗菌性金属を結合させる方法
【特許文献7】などが見られている。
【特許文献6】特開2004−159514
【特許文献7】特許第3081919号
【0009】
このほかタンニン物質は、抗ウイルス剤を目的とした開発も進められている。
例えば、ウイルス性疱疹に対して、フラボンなどと併用する方法
【特許文献8】、ヘルペスウイルスに対し、サリチル酸などと併用する方法
【特許文献9】、HIVなどのレトロウイルスに対し転写制御剤として応用する方法
【特許文献10】などが上げられる。
【特許文献8】特公平3−54086
【特許文献9】特公平6−704
【特許文献10】特開2002−262878
【0010】
又、タンニン物質のウイルスに対する作用メカニズムに関しても、いくつかの研究報告が見られている。例えば、茶タンニンがウイルスの代謝回転促進酵素ポリグリコヒドロラーゼを阻害すること
【非特許文献1、2】
や、HIVの転写抑制作用
【非特許文献3,4】
などの研究報告がある。
【非特許文献1】S.Tanuma J.Biol.Chem.261,965−969(1986)
【非特許文献2】H.Maruta Biochemstry,30,5907−5912(1991)
【非特許文献3】F.Uchiumi Biochem.Biophys.Res.Commun,220,411−417(1996)
【非特許文献4】F.Uchiumi J.Biol.chem.12499−12508(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に述べた従来の技術の中で、脂肪酸エステル類を応用した抗菌剤や食品保存方法は、数多く見られているが、多岐にわたる食中毒に充分対応できるものは、まだ完成されていない。抗菌スペクトルがより広く、抗菌力がより強く、しかもより安全な製品が待望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する目的で、タンニン酸と脂肪酸エステルの新しい組み合わせについて、種々検討を重ねた結果、抗菌作用、安全性両面において優れた製剤の開発に成功した。
【0013】
しかし、タンニン酸は、鉄などの金属と反応し、黒く着色する性質があり、食品加工の過程でトラブルが生じる可能性が考えられた。
【0014】
そこで、このタンニン酸と鉄との発色を防止するため、検討を行った結果、タンニン酸と脂肪酸エステルにキレート剤を加えることによって解決した。
【0015】
本発明の最も好ましい組成物としては、タンニン酸、脂肪酸エステル、キレート剤、有機酸及びその金属塩類、含水エタノールにより、構成されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明による組成分の抗菌力は非常に優れており、水で20倍に希釈しても、大腸菌や黄色ブドウ球菌を1分間接触させただけで、完全に死滅させるほど強力である。
【0017】
このほか、タンニン酸の作用メカニズムから考えると、近時社会問題となっているノロウイルスなどに対しても効果が期待できる。
【0018】
又、本組成物は、本来原液のまま使用するものであるが、水で希釈されても充分に殺菌力があること、および組成分の全成分が、食品添加物で安全性が非常に高いことから、食品の調理場から食品工場まで、食品加工のあらゆる場面で利用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【請求項1.2.3】
記載のタンニン物質としては、タンニン酸、ピロカテキン、没食子酸、柿タンニン、茶タンニン、五倍子タンニン、ミモザタンニンのほか、植物由来のタンニン物質は全て使用できる。
しかし、組成物の他成分との相溶性、安定性、安全性などの見地から、タンニン酸が最も好ましい。
【0020】
本組成物に対するタンニン酸の配合量は、0.01〜5.0重量パーセントであり、更に好ましくは、0.02〜2.0重量パーセントである。
【0021】
【請求項1.2.3】
の脂肪酸エステル類としては、天然脂肪酸の炭素数6〜18の脂肪酸であって、界面活性作用と、抗菌作用を併有するグリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、しょ糖エステル、ソルビタンエステル等いずれも使用できる。この脂肪酸の中で、より好ましいものとしては、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)を上げることができる。又、脂肪酸エステルは、1種又は2種類以上を配合することができる。
【0022】
本組成物に対する脂肪酸エステルの配合量は、0.01〜10.0重量パーセントであり、更に好ましくは、0.03〜5.0重量パーセントである。
【0023】
【請求項1.2.3】
のキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、フィチン酸、重合リン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸およびこれらの金属塩類の中から1種又は2種類以上を配合することができる。
しかし、本組成物としての相溶性、酸性強度、鉄に対する着色防止効果、組成物の抗菌力などから、クエン酸が最も好ましい。
【0024】
本組成物に対するクエン酸の配合量としては、0.1〜10.0重量パーセントであり、更に好ましくは、0.2〜2.0重量パーセントである。
【0025】
【請求項2.3】
の有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸の中から、1種又は2種類以上を選ぶことができる。
【0026】
又、有機酸の塩類とは、上記有機酸のナトリウム、カリウム塩であり、その中から、1種又は2種類以上を選ぶことができる。
【0027】
【請求項3】
の有機酸および有機酸塩によって構成される組成物のpHは、2〜6の間が好ましく、更に好ましくは、pH2.5〜5.5である。
【0028】
上記の条件を満たす有機酸としては、本組成物としての相溶性、安定性、pH効果の他、キレート効果、抗菌力などを総合すると、乳酸、クエン酸およびそのナトリウム塩が好ましい。
【0029】
乳酸、クエン酸およびそのナトリウム塩の本組成物に対する全配合量は、0.5〜10.0重量パーセントであり、更に好ましくは1.0〜5.0重量パーセントである。
【0030】
【請求項3】
の含水エタノールは、組成物に対する純エタノール濃度としては、10.0〜95.0重量パーセントが好ましく、更に好ましくは、20.0〜90.0重量パーセントである。
【実施例】
【実施例1】
【0031】
組成物−1の製造方法

A液(95%エタノール溶液)を攪拌しながら、これに、B液(水溶液)を静かに加えて、無色透明の液とする。このpHは3.64である。
【実施例2】
【0032】
組成物−1の抗菌力試験
大腸菌(Escherichia coli)(IFO3301)
組成物−1の水希釈液を大腸菌と1分間感作し、デソキシコレート培地に塗抹して、24時間培養後に、菌数を測定した。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(IFO12732)
上記と同様にして、黄色ブドウ球菌球菌に1分間感作し、マンニットソルト卵黄加培地に塗抹して、48時間培養後、菌数を測定した。

(コメント)大腸菌、黄色ブドウ球菌ともに、20倍希釈まで、完全に抑制した。
【実施例3】
【0033】
タンニン酸の効果を明確にする目的で行った。
組成物の処方内容
製造方法は、
【実施例1】
と同様にした。

(コメント)タンニン酸の量のみを変動させ、組成物5は0とした。
【実施例4】
【0034】
タンニン酸の有無による抗菌力比較
抗菌力試験は、
【実施例2】
と同様にして行った。

(コメント)タンニン酸を、0.05%0.20%0.50%処方した組成物2・3・4は24倍希釈まで、大腸菌、黄色ブドウ球菌とも、全て有効であったが、タンニン酸を含まない組成物5は、黄色ブドウ球菌に対して、明らかに効力が弱かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤よりなる抗菌性組成物
【請求項2】
タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤、有機酸及びそれらの金属塩よりなる抗菌性組成物
【請求項3】
タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤、有機酸及びそれらの金属塩、含水エタノールよりなる抗菌性組成物
【請求項4】
剤型が液剤、ゲル化剤、クリーム剤、軟膏剤、ムース剤である請求項1、請求項2、請求項3、記載の抗菌性組成物
【請求項5】
タンニン物質が、タンニン酸、ピロカテキン、没食子酸、柿タンニン、茶タンニン、五倍子タンニンである請求項1,2,3,4記載の抗菌性組成物
【請求項6】
脂肪酸エステル類が、天然脂肪酸の炭素数6〜18の脂肪酸であって、界面活性作用と抗菌作用を併有するグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステルしょ糖エステル、ソルビタンエステルである請求項1,2,3,4記載の抗菌性組成物
【請求項7】
キレート剤がエチレンジアミン四酢酸、フィチン酸、重合リン酸、フマル酸、クエン酸 酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びそれらの塩から選ばれる一種又は二種以上からなる請求項1,2,3,4記載の抗菌性組成物
【請求項8】
有機酸が酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる一種又は、二種以上からなる請求項2,3、4記載の抗菌性組成物

【公開番号】特開2006−206558(P2006−206558A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44690(P2005−44690)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000101684)アルタン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】