説明

食品保存方法の評価方法

【課題】迅速かつ簡便に食品保存方法を評価する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物組織又は植物組織を評価対象の食品保存方法により保存すること、保存後の該組織中の該標識遺伝子による発光又は蛍光レベルを測定すること、及び発光又は蛍光レベルに基づき該保存方法の保存効果を判定することを含む、食品保存方法の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品保存方法の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数多くの食品保存技術が開発され、食品の生産及び流通の分野において幅広く用いられている。食品保存技術の開発においては、新たな食品保存条件を設定し、その条件下で任意の食品を一定期間保存した後、味覚、臭覚等に基づく官能試験と、食品中の成分の化学的分析に基づき保存効果を判定していた。そのため、1つの保存条件についてその保存効果を評価するまでに極めて長い時間を要するので、迅速に新たな食品保存技術を開発することは困難である。従って、食品の保存方法をより迅速かつ簡便に評価する方法の開発が求められている。
【0003】
一方、細胞及び分子の生物学的事象をリアルタイムで明示する画像化ストラテジーの最近の進歩から、生きた動物の中で発現する生物学的プロセスを容易に理解できるようになった。クラゲ(Aequorea victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)やホタル(Photinus pyralis)由来のルシフェラーゼなどの分子タグの開発は過去10年にわたり大変革を促し、複雑な生化学的プロセスと生きた細胞におけるタンパク質の作用とを関連付けることを可能にした(非特許文献1、2)。特に、ルミネッセンス光による画像化は生きた細胞内の種々の生物学的プロセスを検討する重要な機会を提供してくれる(非特許文献2、3)。バイオルミネッセンス光レポーターは、哺乳動物の組織内におけるシグナル対ノイズ比がかなり大きく、非侵襲的測定法を用いて正常な動物内で放出された光シグナルを定量できる。本発明者らは、これまでにGFPトランスジェニックラット、LacZトランスジェニックラット、及びルシフェラーゼトランスジェニックラットを開発し、これらのラット由来の組織を用いると、移植片の拒絶反応を容易に観察できることを示している(非特許文献4、5)。
【0004】
非特許文献6には、GFPトランスジェニックラット由来の細胞が死滅した後においても、GFPが強い蛍光を発することが開示されている。
【0005】
本発明者らは、ルシフェラーゼトランスジェニック動物由来の組織を用いた、優れた組織保存液の評価方法を開発している(非特許文献7)。
【非特許文献1】Science, vol.300(5616), p.87, 2003
【非特許文献2】Nat. Med., vol.4(2), p.245, 1998
【非特許文献3】Annu. Rev. Biomed. Eng., vol.4, p.235, 2002
【非特許文献4】Biochem. Biophys. Res. Commun., vol.329(1), p.288, 2005
【非特許文献5】Transplantation, vol.81, No.8, p.1179-1184, 2006
【非特許文献6】J. Biomed. Opt., vol.10(4), p.41204, 2005
【非特許文献7】American Journal of Transplantation, vol. 8, issue s2, p.501 1212, 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、迅速かつ簡便に食品保存効果を評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、ルシフェラーゼ等の発光又は蛍光標識遺伝子を導入した動物又は植物の組織を評価対象の食品保存条件下で保存し、保存された組織からの発光又は蛍光のレベルを測定することにより、リアルタイムで食品保存効果を評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物組織又は植物組織を評価対象の食品保存方法により保存すること、保存後の該組織中の該標識遺伝子による発光又は蛍光レベルを測定すること、及び発光又は蛍光レベルに基づき該保存方法の保存効果を判定することを含む、食品保存方法の評価方法。
[2]該標識遺伝子がルシフェラーゼである、[1]記載の方法。
[3]該組織中の発光又は蛍光レベルが非破壊的に測定される、[1]記載の方法。
[4]該組織が発光又は蛍光標識遺伝子が導入された非ヒト動物又は植物から単離されたものである、[1]記載の方法。
[5]食品が生鮮食品である、[1]記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法を用いれば、極めて迅速且つ簡便に食品保存方法の保存効果を評価することが可能である。従って、本発明の方法を用いれば、食品保存技術の開発スピードが飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物組織又は植物組織を評価対象の食品保存方法により保存すること、保存後の該組織中の該標識遺伝子による発光又は蛍光レベルを測定すること、及び発光又は蛍光レベルに基づき該保存方法の保存効果を判定することを含む、食品保存方法の評価方法を提供するものである。
【0011】
本発明の方法においては、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物組織又は植物組織が用いられる。
【0012】
本発明の方法において用いられる発光又は蛍光標識遺伝子には、発光又は蛍光を有するタンパク質をコードする遺伝子、及び対応する発光又は蛍光基質と混合することにより発光又は蛍光を生じる酵素をコードする遺伝子が含まれる。前者としては、GFP、RFP、YFP、CFP、EGFP等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。後者としては、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素をコードする遺伝子を挙げることが出来る。ルシフェラーゼの基質(発光)としてはルシフェリン(及び必要に応じてATP)等を挙げることができる。β−ガラクトシダーゼの基質(発光)としては、ルシフェリンガラクトシド基質(6−O−β−ガラクトピラノシルルシフェリン)等を挙げることができる。ペルオキシダーゼの基質としては、ルミノール(及び必要に応じて過酸化水素)等を挙げることができる。感度等の観点から、該標識遺伝子としては発光標識遺伝子が好ましい。発光標識遺伝子としては上記酵素をコードする遺伝子が好ましく、該酵素としては、ルシフェラーゼが特に好ましい。GFPは、細胞の死滅後においても強い蛍光を発してしまうのに対して(J. Biomed. Opt., vol.10(4), p.41204, 2005)、ルシフェラーゼ活性は、組織の生存度(viability)(即ち、鮮度)を良好に反映するため、標識遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いることにより、高感度で食品保存方法の保存効果(特に食品の鮮度の保存効果)を評価することができる。
【0013】
保存対象の食品としては、生鮮食品、加工食品等を挙げることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。本発明の方法は、特に生鮮食品の保存方法の評価に有利である。生鮮食品とは、新鮮であることが求められる食品をいう。生鮮食品としては、青果(野菜・果物)、鮮魚、精肉等を挙げることができる。
【0014】
生鮮食品の保存においては、保存の初期段階で生じる食品中のATPの枯渇が食品内に含まれる生存細胞を死に至らしめ、食品の鮮度を低下させる一因となっている。そのため、食品(特に生鮮食品)中のATP濃度は、食品の鮮度を左右する重要なファクターである。
ルシフェラーゼはATP依存的にルシフェリンを酸化し、発光を生じる。組織内のルシフェラーゼはルシフェリンと反応し、組織内の残存ATPレベルを反映した発光を生じ得る。従って、本発明の方法において標識遺伝子としてルシフェラーゼを用いれば、組織中(即ち食品中)の残存ATPレベルをも反映した、高感度な食品保存方法の保存効果の評価が可能となる。
【0015】
動物には、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等が含まれる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。鳥類としては、ニワトリ、アヒル、ダチョウ等を挙げることができる。魚類としては、ゼブラフィッシュ等を挙げることができる。
【0016】
植物には、単子葉植物及び双子葉植物が含まれる。単子葉植物としては、イネ、麦、ススキ、トウモロコシ、バナナ等を挙げることができる。双子葉植物としては、ジャガイモ、タバコ等を挙げることができる。
【0017】
動物組織には、保存が所望される全ての臓器(例:脳、脊髄、胃、膵臓、腎臓、肝臓、甲状腺、骨髄、皮膚、筋肉、肺、消化管(例: 大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、末梢血、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、骨格筋など)、臓器の一部(切片等)、細胞が含まれる。
【0018】
植物組織には、保存が所望される全ての器官(葉、茎、根、果実、花等)、器官の一部(切片等)、細胞が含まれる。
【0019】
保存対象の食品の種類に応じて、使用する組織の由来を適宜選択することが可能である。例えば、哺乳動物(ウシ、ブタ等)の精肉の保存方法を評価する場合には、哺乳動物由来の組織が好ましく用いられる。鳥類(ニワトリ等)の精肉の保存方法を評価する場合には、鳥類由来の組織が好ましく用いられる。鮮魚の保存方法を評価する場合には、魚類由来の組織が好ましく用いられる。野菜や果実の保存方法を評価する場合には、植物由来の組織が好ましく用いられる。また、保存対象の食品の種類に応じて、使用する組織の部位を適宜選択することも可能である。例えば哺乳動物の精肉(筋肉部位)の保存方法を評価する場合には、哺乳動物由来の筋肉を評価に用いることが好ましい。
【0020】
食品を保存剤で処理して保存する方法を評価する場合、組織として、臓器又は器官の一部(切片等)を用い、マルチウェルプレート中でこれを所望の保存剤で処理して、評価に用いることにより、多種類の保存剤サンプルを一度に評価することができる。従って、この場合、臓器又は器官の一部は、マルチウェルプレートの各ウェルに入り得る大きさ(例えば、直径が3〜6mmで、重量が10〜50mg)に、組織スライサー等を用いて調製される。
【0021】
動物組織又は植物組織への発光又は蛍光標識遺伝子の導入は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。例えば、目的とする組織内で機能可能なプロモーターの下流に上記標識遺伝子が連結されたコンストラクト(発現ベクター)により、哺乳動物から分離された組織をインビトロでトランスフェクトし、該組織を適当な培地中で培養することによって、該標識遺伝子を組織内に導入することができる。
【0022】
トランスフェクションの方法としては、生物学的方法、物理的方法、化学的方法などを示すことができる。生物学的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する方法、特異的受容体を利用する方法、細胞融合法(HVJ(センダイウイルス)、ポリエチレングリコール(PEG)、電気的細胞融合法、微少核融合法(染色体移入))が挙げられる。また、物理的方法としては、顕微注入(マイクロインジェクション)法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法を用いる方法が挙げられる。化学的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション法、DEAE−デキストラン法、プロトプラスト法、赤血球ゴースト法、赤血球膜ゴースト法、マイクロカプセル法が挙げられる。
【0023】
発現ベクターとしては、プラスミドベクター、PAC、BAC、YAC、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、適宜選択することが出来る。
【0024】
プロモーターの種類は、標識遺伝子が導入された組織内で、該標識遺伝子の発現を誘導又は促進できるものであれば特に限定されない。動物組織において使用可能なプロモーターとしては、SRαプロモーター、CMVプロモーター、PGKプロモーター、SV40プロモーター、ROSA26等を挙げることができる。植物組織において使用可能なプロモーターとしては、CaMV35Sプロモーター、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター等を挙げることができる。
【0025】
上記発現ベクターは、目的とするmRNAの転写を終結する配列(ポリA、一般にターミネーターと呼ばれる)を有していることが好ましい。その他、標識遺伝子をさらに高発現させる目的で、スプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5'上流、プロモーター領域と翻訳領域との間あるいは翻訳領域の3'下流に連結することも可能である。また、上記発現ベクターは、導入された標識遺伝子が安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含み得る。
【0026】
また、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物又は植物から単離された組織を用いてもよい。
【0027】
例えば、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された哺乳動物は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて製造することができる。例えば、哺乳動物の受精卵や、未受精卵、精子及びその前駆細胞などの生殖細胞に、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE−デキストラン法などの遺伝子導入法によって、発光又は蛍光標識遺伝子を導入し、その生殖細胞に由来する子孫動物を得ることにより、発光又は蛍光標識遺伝子が導入された哺乳動物を製造することができる。
【0028】
生殖細胞への遺伝子導入にあたっては、目的とする標識遺伝子を、対象となる哺乳動物の細胞内で機能可能なプロモーターの下流に連結したコンストラクト(発現ベクター)を用いるのが一般的に有利である。
【0029】
具体的には、対象となる哺乳動物の細胞内で機能可能なプロモーターの下流に、標識遺伝子を含むポリヌクレオチドを連結した発現ベクターを、対象となる哺乳動物の受精卵等へマイクロインジェクションし、その受精卵を偽妊娠動物の子宮内に移植することによって、標識遺伝子を高発現する遺伝子導入哺乳動物を作出できる。
【0030】
発現ベクターとしては、プラスミドベクター、PAC、BAC、YAC、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、適宜選択することが出来る。
【0031】
プロモーターの種類は、標識遺伝子が導入された哺乳動物内で、該標識遺伝子の発現を誘導又は促進できるものであれば特に限定されない。プロモーターとして、組織非特異的なものを用いることにより、発光又は蛍光標識遺伝子を偏在性(ユビキタス)に発現する哺乳動物を製造することができる。この哺乳動物から単離された組織を用いれば、一回の試験で多数の種類の組織の保存効果を同時に評価することが可能である。組織非特異的なプロモーターとしては、SRαプロモーター、CMVプロモーター、PGKプロモーター、SV40プロモーター、ROSA26、βアクチンプロモーター等を挙げることができる。また、組織特異的プロモーターを用いれば、発光又は蛍光標識遺伝子を目的とする組織に特異的に発現する哺乳動物を製造することができる。例えばα1ATプロモーターを用いれば肝臓特異的に、α−アクチンプロモーターを用いれば骨格筋特異的に、エノラーゼプロモーターを用いれば神経特異的にそれぞれ標識遺伝子を発現させることができる。
【0032】
上記発現ベクターは、目的とするmRNAの転写を終結する配列(ポリA、一般にターミネーターと呼ばれる)を有していることが好ましい。その他、標識遺伝子をさらに高発現させる目的で、スプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5'上流、プロモーター領域と翻訳領域との間あるいは翻訳領域の3'下流に連結することも可能である。また、上記発現ベクターは、導入された標識遺伝子が安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含み得る。
【0033】
評価対象の食品保存方法には、低温処理、保存剤処理、真空処理、低酸素処理やこれらの組み合わせ等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではなく、評価の実施者が任意で選択することが出来る。
【0034】
動物組織又は植物組織を評価対象の食品保存方法で一定期間保存した後で、該組織中の発光又は蛍光標識遺伝子による発光又は蛍光のレベルが測定される。発光又は蛍光レベルの測定は、保存後の組織を破砕し、破砕液中の発光又は蛍光のレベルを測定してもよく、あるいは非破壊的に組織中の発光又は蛍光レベルを測定してもよい。操作が簡便であり、測定後の組織を引続き評価のための試験に用いることが可能であることから、発光又は蛍光のレベルは好ましくは組織を破壊せずに測定される。発光又は蛍光レベルは、ルミノメーターや、蛍光分光光度計等の自体公知の機器を用いて測定することができる。発光又は蛍光レベルを非破壊的に測定する場合は、発光又は蛍光を検出可能なイメージングシステム等を用いて測定することができる。
【0035】
標識遺伝子として、発光又は蛍光を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用した場合には、保存後の組織中の該タンパク質の発光又は蛍光が直接測定される。一方、標識遺伝子として、対応する発光又は蛍光基質と混合することにより発光又は蛍光を生じる酵素をコードする遺伝子(例えばルシフェラーゼ)を使用した場合には、保存後の組織(又はその破砕液)を対応する基質(例えばルシフェリン)と接触させることにより生じる発光又は蛍光が測定される。
【0036】
例えば、上記酵素を標識遺伝子として使用し、非破壊的に発光又は蛍光レベルを測定する場合、保存後の組織を、対応する基質を含む水溶液(基質液)中に浸す。該水溶液としては、リンゲル液、生理食塩水等の生理的な溶液を用いることができる。
【0037】
基質液中の基質濃度は、当業者が通常使用する濃度範囲において適宜設定される。例えば、基質としてルシフェリンを用いた場合の基質濃度は、通常約10〜1000μg/ml(例えば150〜200μg/ml)である。
【0038】
組織を基質液中に浸してから、実際に発光又は蛍光を測定するまでの時間も適宜設定することができる。この時間が短すぎると発光又は蛍光のレベルが十分ではなく、感度が低下してしまう。一方、この時間が長すぎると基質が分解してしまい、やはり感度が低下してしまう。このような観点から、組織を基質液中に浸してから約3〜30分(例えば5分)後に発光又は蛍光のレベルを測定することが好ましい。
【0039】
また、組織を基質液中に浸したままの状態で、評価対象の食品保存方法により保存してもよい。こうすることにより、リアルタイムで保存効果を判定することができる。
【0040】
基質液の温度は、酵素反応を可能とする範囲で適宜設定することが出来る。基質液の温度が低すぎると酵素反応が進行せず、また温度が高すぎると酵素が失活してしまう。このような観点から、基質液の温度は通常1〜40℃である。蛍光又は発光レベルの測定後の組織を引続き評価の試験に用いる場合には、組織の保存条件を良好に維持するため、保存条件にできる限り近い温度にて蛍光又は発光レベルを測定することが好ましい。従ってこの場合、標識遺伝子として、このような低温条件においても十分な発光又は蛍光を生じるものを選択する必要がある。ルシフェラーゼは、比較的幅広い温度範囲において、ルシフェリンと反応し、十分な発光を生じ得るので、種々の保存条件において使用可能な点で有利である。
【0041】
次に、発光又は蛍光レベルに基づき保存効果が判定される。例えば、保存操作の前の段階で、組織中の発光又は蛍光標識遺伝子による発光又は蛍光レベルを測定しておき、保存後の発光又は蛍光レベルを保存前のレベルと比較し、保存前後での発光又は蛍光レベルの減少の幅を算出する。その結果、発光又は蛍光レベルの減少の幅が小さいほど、食品保存方法の保存効果が高い(食品鮮度の維持効果が高い)と判定することができる。
【0042】
上記判定に際しては、上記発光又は蛍光レベルの減少の幅を、保存効果を有することが知られている食品保存方法(例:4℃での保存等)を用いた場合(ポジティブコントロール)について同時に測定しておくことが好ましい。ポジティブコントロールを設けることにより、本発明の評価方法が確実に機能していることを確認することができ、また、評価対象の食品保存方法の保存効果の程度をポジティブコントロールと比較して評価することが可能である。
【0043】
本発明の評価方法を用いれば、新たな食品保存方法を効率的に開発することができる。
【0044】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
試験方法
ルシフェラーゼ遺伝子を導入したLewisラット(Luc-LEW)(Transplantation, vol.81, No.8, p.1179-1184, 2006)から大腿四頭筋を単離した。Luc-LEWラットは、ルシフェラーゼ遺伝子を遍く(ubiquitous)発現している(Transplantation, vol.81, No.8, 2006)。大腿四頭筋を生理食塩水中で4℃又は37℃にて静置保存した。保存開始から0.5、1、2及び3時間後に、プレートリーダー(Mithras LB 940、Berthold社)を用いて大腿四頭筋からの発光光量を測定した。プレートリーダーインジェクターからのルシフェリン20μlの添加によって、試験溶液中のルシフェリン濃度が最終的に190μg/mlとなるよう設定した。発光光量を数値化し(単位:RLU)、2種の保存条件における保存効果を比較した(n=7)。
【0046】
結果
保存開始から0.5〜3時間後の大腿四頭筋からの発光光量の経時的変化を図1に示す。4℃で保存したときは、37℃で保存したときと比較して、発光光量の減少が緩やかであり、鮮度の保たれた状態で大腿四頭筋が保存されていることが示された。
以上の結果から、組織からのルシフェラーゼ発光を指標として、食品保存方法を評価できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法を用いれば、従来法と比較して簡便な方法で、食品保存方法を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】生理食塩水中で4℃又は37℃にて保存された大腿四頭筋からの発光強度の経時的変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光又は蛍光標識遺伝子が導入された動物組織又は植物組織を評価対象の食品保存方法により保存すること、保存後の該組織中の該標識遺伝子による発光又は蛍光レベルを測定すること、及び発光又は蛍光レベルに基づき該保存方法の保存効果を判定することを含む、食品保存方法の評価方法。
【請求項2】
該標識遺伝子がルシフェラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該組織中の発光又は蛍光レベルが非破壊的に測定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該組織が発光又は蛍光標識遺伝子が導入された非ヒト動物又は植物から単離されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
食品が生鮮食品である、請求項1記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−284863(P2009−284863A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142979(P2008−142979)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】