説明

食品包装材用コーティング液組成物

【課題】 本発明は、キャンデーやキャラメルなどの、包装材にべたつきやすい食品を、べたつきを軽減して取り出しやすく包むために、その包装材の内面に塗布するコーティング液組成物及びそれを塗布した包装材を提供することを課題とする。
【解決手段】 ポリグリセリン脂肪酸エステルと、低沸点有機溶剤とを含有する食品包装材の内面用コーティング液組成物、及びそれを内面に塗布した包装材。ポリグリセリン脂肪酸エステルは常温で固体であるものがより好ましい。また前記コーティング液に食用色素を添加して着色することにより、包装材への塗布工程や包装工程において、該コーティング液が塗布されていること及び塗布されている箇所の確認が容易になり、塗布及び包装作業の管理を確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装材の内面に塗布するコーティング液組成物及びそれを塗布して乾燥させた食品用包装材に関する。この包装材は、中に包まれる食品の表面に粘着性やべたつきがあっても、べたつきを軽減して食品の出し入れが容易である特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
キャラメル、キャンデー(特に水分を含んでソフトなもの)、飴などを、袋に入れたり、紙やフィルム等を用いて包装したりすると、キャラメル等が元々有するべたつきやすい性質や、湿気の影響などにより、袋や包装材にくっついて取り出しにくくなる場合がある。
尚、前記のキャラメル、キャンデー等を本明細書では「べたつき食品」とも呼ぶ。また包装材が食品とくっついたりしないように加工することを「非付着加工」とも呼ぶ。包装されて外気と遮断された状態ではべたつきが無くても、開封すると湿気等の影響で表面にべたつきが生じるものもべたつき食品に含める。
【0003】
べたつき食品が互いにくっついたり、包装材にくっついたりすることを防ぐために従来行われている方法の一つに、コーンスターチ等のでんぷんを食品にまぶす方法がある。和菓子やもち等を扱いやすくするために取り粉をまぶすこともその一例である。でんぷん等の食用の粉をまぶすことは、表面が粉っぽくなり、食材本来とは異なった外観や食感になるという問題がある。
【0004】
キャラメルなどでは、一個ずつをワックス加工した紙で包むことも行われている。包装は簡単に行えるが、紙の透明性が低いため、中身が見えにくい問題がある。紙ではなくオブラートのような可食材料で包むことも行われているが、やはり中身が見えにくく、また食感にも影響がある。
【0005】
特許文献1には、トレイ等の成型した容器であって、特にソーセージ等のタンパク質食品を入れた場合に食品がくっつきにくい成型物が記載されている。この成型物は特定の界面活性剤をポリオレフィン系樹脂に練りこんだ組成物を溶融押し出し成型したものである。界面活性剤としては食品用乳化剤が用いられ、ポリグリセリン脂肪酸エステルも例示されている。
この発明を実施するには容器の素材を製作する段階で界面活性剤を添加しておく必要があるため、さまざまな既製の素材に必要に応じて後から非付着加工を行うことは難しい。また特許文献3の段落4にも記載されているように、界面活性剤を樹脂素材に添加しておくことは、成型装置の運転時に様々なトラブルを起こす場合がある。
【0006】
特許文献2には、ポリエステルフィルム基材に防曇剤がコーティングされた防曇性フィルムが記載されている。防曇剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルも挙げられている。このフィルム基材は電子レンジ耐熱性、透明性、防曇性等を兼ね備えた容器成型に好適に用いられる。防曇剤の塗布量は5〜100mg/m2とやや少なめであり、また溶媒としてはエチルアルコールや水が好ましいとされている。
【0007】
特許文献3には、成型時の安定性、透明性、防曇性に優れた食品包装用フィルムが記載されている。このフィルムの素材はポリオレフィン系樹脂に、特定の脂肪酸と、非イオン系界面活性剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル等)を添加したものである。前記界面活性剤は成型時にフィルムに練りこまれており、前記の特許文献1の紹介で記述したように、やはりさまざまな汎用の素材に必要に応じて非付着加工を行うことは難しいという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−258881号公報
【特許文献2】特開2004−156018号公報
【特許文献3】特開2004−210375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、キャンデーやキャラメルなどの、包装材にべたつきやすい食品を、べたつきを軽減して取り出しやすく包むために、その包装材の内面に塗布するコーティング液組成物及びそれを塗布した包装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは鋭意実験及び研究を重ねた結果、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、低沸点有機溶剤とを含有する食品包装材の内面用コーティング液組成物をその内面に塗布した包装材を用いることにより、前記の課題が解決されることを見出して本発明を完成した。なお前記のポリグリセリン脂肪酸エステルは常温で固体であるものがより好ましい。
また前記コーティング液に食用色素を添加して着色することにより、包装材への塗布工程や包装工程において、該コーティング液が塗布されていること及び塗布されている箇所の確認が容易になり、塗布及び包装作業の管理を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング液を塗布した包装材を用いることによって、キャンデーやキャラメルなどの、包装材にべたつきやすい食品を、べたつきを軽減して取り出しやすく包むことができる。また従来行われている粉末をまぶしたり、ワックス加工紙で包んだりする方法に比べて、食品の外観や食感への影響が少ない利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書では部、%は特記しない限り質量基準である。
本発明のコーティング液組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを低沸点有機溶剤に溶解して作製する。ポリグリセリン脂肪酸エステルは食品添加物として認可されているものの中から選択する。ポリグリセリン脂肪酸エステルは常温で液体、固体(フレーク状、バター状など)の形態があるが、本発明に用いるには常温で固体のものがより好ましく、特にフレーク状のものが好ましい。中でも好ましいものの具体例としてデカグリセリンベヘニン酸エステルが挙げられる。
常温で固体であると、包装材に塗布して乾燥後、表面に微細なフレーク状に付着した状態になり、これが立体的な障害となって食品が包装材にべったりと付きにくくなると推測される。このことが、本発明の包装材に食品がべたつきにくい理由の一つと考えられる。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは低沸点の有機溶剤に溶解して液体(コーティング液組成物)とし、それをフィルム等の食品の包装材の内面に塗布する。
【0014】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのコーティング液中の濃度は、塗工方式や使用する溶剤によって調節する必要があるが、グラビアコーティングを行う場合は1〜5質量%が好ましい。より好ましくは1〜3質量%である。
【0015】
前記の低沸点の有機溶剤は、沸点が150℃未満のものが好ましく、より好ましくは120℃未満である。包装材に塗布し、乾燥した後の被膜に溶剤分が残留することは避けねばならず、熱風による乾燥時に揮散しやすいように低沸点の溶剤を使用する。溶剤として、トルエンや酢酸エチルが好ましく用いられる。本発明に適したポリグリセリン脂肪酸エステルはHLBが10未満で水に不溶性のものであり、溶剤として水やアルコールは適しない。トルエンや酢酸エチルは大変揮散しやすいので、沸点よりも低い熱風であっても短時間で食品用途に問題無い程度に溶剤を飛ばすことができる。
【0016】
本発明のコーティング液組成物は、食品用の包装材のフィルム等に塗布される。包装用フィルムの基材に塗布する段階で、食品と接触する部分にのみ塗布しておき、それ以外のシールする部分等はシール性を低下させないために塗布しないことが好ましい。シールはヒートシールによるのが一般的である。
【0017】
前記のようにフィルムの基材に部分的に塗布すること(パターンコート、パートコートなどとも呼ばれる)はグラビア印刷、フレキソ印刷等の一般的な印刷方法において常用されているが、塗布する部分の位置確認等、作業中の管理及びできた包装材の点検等のために、本発明のコーティング液組成物に着色しておくことが好ましい。
【0018】
着色剤としては、天然または合成の食用色素が好適である。包装材の色や材質、包まれる食品の種類や色に応じて食用色素を選定する。但し本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは水には不溶性であり、溶剤も油性の有機溶剤を用いるため、油に溶解または分散しない色素は用いることができない。
【0019】
本発明で好ましく用いられる色素としては、水溶性の食用色素をポリグリセリン脂肪酸エステルに乳化分散したものや、アルミニウムレーキ色素が挙げられる。これらの色素は油性の食品の着色にも広く用いられている。食用色素はコーティング液中に、0.5〜1.5質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0020】
本発明のコーティング液組成物を包装材に塗布する場合は、溶剤を揮散させて乾燥した後の塗布量(乾燥塗布量)が0.2〜0.7g/m2となるように塗布することが好ましい。より好ましくは0.2〜0.4g/m2である。
例として、2%の濃度のコーティング液を塗布して0.3g/m2の乾燥塗布量を得るには、コーティング液の塗布量を15g/m2とする。
【0021】
塗布方法としては、グラビアコーティング、バーコーティング、フレキソコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティングなどの公知の方法を用いることができる。塗布した後は熱風乾燥により、溶剤の残留が無いように十分に乾燥する。
【実施例】
【0022】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明する。
[コーティング液組成物の作製]
表1に示す配合で、実施例1及び2のコーティング液組成物を作製した。それぞれ全量を100gとして、全量をカップに入れた後、加熱して液温を60℃に保ち、15分間ミキサーで撹拌して全体を溶解した。
【0023】
[使用する包装材]
包装材は積層体であり、その構成は次の通りである。
1)外装・・・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製E−5100)。幅1000mm。厚み25μm。片面はコロナ放電処理されている。包装体の一番外側が未処理面となるように用いる。絵柄等を印刷する場合は処理した面に印刷する。
2)内装・・・片面にアルミニウムを真空蒸着した塩素化ポリプロピレンフィルム(尾池工業株式会社製ピーブライトENG)。幅1000mm。厚み20μm。
3)前記の外装フィルムのコロナ放電処理面と、内装フィルムの蒸着面とを接着剤でドライラミネートし、積層体フィルムが完成する。
4)実施例では本発明のコーティング液を前記の積層体の内装フィルム面に塗布する。
【0024】
[実施例1及び2:塗布、乾燥方法]
グラビア印刷試験機を用いてコーティングする。
実施例2のコーティング液は赤色の着色剤で着色されている。
グラビアロールはヘリオ版100線を使用する。この場合は、塗布量は約15g/m2になる。コーティング液の固形分は2%であるので、乾燥後の被膜量は0.3g/m2になる。この被膜はポリグリセリン脂肪酸エステルから成る。
基材フィルム(幅1000mm)に、幅方向7cm、流れ方向4cmの大きさの長方形の塗布パターンを幅方向・流れ方向のいずれにも2.5cmの間隔で印刷する。面付は幅方向に8個並ぶようにする。
間隔を空けて非塗布部を設けるのは、塗布した部分はシール性が悪くなるためである。
印刷後、40℃の熱風を10秒間当てて乾燥する。
【0025】
[比較例1及び2]
比較例1は包装材に何も塗布しないで使用する。
比較例2も包装材には何も塗布しないが、グミキャンデーにはコーンスターチをまぶす。
【0026】
[袋の成形と食品の封入]
コーティング液を塗布し、乾燥したフィルムを個別包装用にカットする。カットした1枚ずつをヒートシールによりピロー包装の形に成形する。但し比較例1及び2のフィルムには何も塗布していない。
ピロー包装の3箇所(両端及び中央)のシール部分の内、端部の一辺のみ未シールの袋を作り、それに森永製菓株式会社製のグミキャンデーを入れ、残りの一辺をシールして密閉する。
包装したものは、一個はおおよそ短辺2.5cm、長辺4cmの長方形で、内部にグミキャンデーが入っている。
【0027】
[評価]
包装したキャンデー50個を縦横高さが15cmの箱に入れて、10日間静置する。
その後キャンデーを取り出し、一個ずつ開封し、キャンデーを取り出す際のべたつき、袋内面とのべたつきを目視および手触りで評価する。
【0028】
【表1】

【0029】
[表1の説明]
ポリグリセリン脂肪酸エステル・・・三菱化学株式会社製のデカグリセリンベヘニン酸エステル(品番B−100D)を用いる。
食用色素・・・三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の食用赤色40号アルミニウムレーキを用いる。
袋からの取り出し易さの評価方法・・・べたつきや引っ掛かりを感じることなく、スムーズに取り出せるものを○、そうでないものを×とする。
袋内面へのべたつき・・・袋に入っている状態で観察し、あきらかにべたついた部分があるものを×、べたつきが見られないものを○とする。比較例2は粉があるのでべたつきはほとんど見られなかった。
食品の外観・・・グミキャンデーの表面は少し濡れたような光沢がある。この状態がそのままで変わらないものを○とする。比較例1ではべたついたことにより表面の均一性がしこし損なわれているので△とする。比較例2は粉がまぶされた状態であるので△とする。
実施例2ではコーティング液の塗布部分が薄い赤色に着色されていて明瞭であるため、フィルムを個別包装用にカットする作業が大変やり易い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のコーティング液を塗布した包装材は、食品の外観や食感にはほとんど影響を与えずに、キャンデーやキャラメルなどの、包装材にべたつきやすい食品を、べたつきを軽減して取り出しやすく包むことができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン脂肪酸エステルと、低沸点有機溶剤とを含有する食品包装材の内面用コーティング液組成物。
【請求項2】
食用色素を含有する請求項1に記載のコーティング液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のコーティング液組成物をその内面に塗布し、乾燥させた食品用包装材。
【請求項4】
表面に粘着性又はべたつきがある食品を請求項3に記載の包装材で包んだ食品。




【公開番号】特開2006−306922(P2006−306922A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127826(P2005−127826)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】