説明

食品及び煙草の矯味矯具用カルボン酸塩化合物を含んで成る香味剤

【発明の詳細な説明】
本発明は、食品の使用条件に応じて脂肪族アルデヒドを生ずるアルデヒド発生体として食品中に含めることのできる新規な中和カルボン酸塩を含んで成る香味剤に関する。本発明の香味剤は新規な中和カルボン酸塩を含んで成り、このカルボン酸塩は物質の矯味矯臭のための好ましいアルデヒドを発生する。
アセトアルデヒドとプロピオンアルデヒドの両方が例えば果物、肉、乳製品、焼いた食品及び野菜のような、広範囲な新鮮な食品及び既製食品中に生ずることは周知である。特に、アセトアルデヒドがもぎたての柑橘類果物及びいちごを特有に特徴づける風味要素(新鮮効果)に寄与する重要な要素であることは判明している。アセトアルデヒドは「新鮮効果」が必要である場合に、人工風味を混入するために不可欠な脂肪族アルデヒドの1つである。
プロピオンアルデヒドと、炭素数4から約12までのブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド等のような他の脂肪族アルデヒドも広範囲な種類の果物及び食品の風味に寄与し、天然でのそれらの発生に相当する影響と特別な風味を与えている。本発明による新規な中和カルボン酸塩から、このような他のアルデヒドを発生させることが可能である。
好ましい使用条件下でのみ、特に使用時にアルデヒドを放出する安定な「固定」形のアセトアルデヒドを提供するという課題に関する特許文献によつて立証されるようち、この20年間に多くの試みがなされてきた。1つの要件は、使用する食品に混合または食品を調合する際に迅速にアルデヒドを放出することである。他の要件はアルデヒド発生体からの残渣が水中に良好に溶解することである。さらに、例えば無水混合飲料のような、多くの食品では、約10℃程度の低温において迅速な放出が生ずることが必要である。
アセトアルデヒドを固定させるために、研究者達は例えばアセタールを用いて、化学的誘導体を形成することを試みている。化学的誘導体化は、通常の貯蔵条件下で化学的に不活性であり安定であるという要件を含めて、幾つかの、しばしば相反する要件を満たすものと思われる。例えば、酸の機能を含むアセタールは自己加水分解を起して、食品に混入する前にアセトアルデヒドを放出する。
さらに、加水分解時に生成する誘導体と残渣のいずれも、好ましい風味を香りまたは味の上で妨げるものであつてはならない。この要件を満たすために、誘導体と好ましいアルデヒド以外のその転化生成物とは相対的に無味無臭でなければならない。例えば、アセタールと残渣がエステル機能が有することは一般に好ましくない。エステルが好ましい味の妨げとなるからである。
アセトアルデヒドの固定に関する主な問題はアセトアルデヒドの物理的特性にある。すなわち、アセトアルデヒドは通常の周囲圧力下で室温(21℃)において気体であり、水と混和しやすく、非常に反応性であり、不安定である。アセトアルデヒドは重合してパラアルデヒドやメタアルデヒドを形成する傾向があり、また酸化されて酢酸になる傾向がある。または酸もしくは塩基の存在下で他の物質と化学的に結合する傾向がある。
例えばジメチルアセタール、ジエチルアセタール及びジヘキシルアセタールのような、1価のアルコールから誘導されるアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及び約ドデシルアルデヒドまでの他の脂肪族アルデヒドの周知のアセタールの使用は除外する。これらのアセタール自体の風味が親アルデヒドの風味とは通常許容しがたく異なり、特にC1〜約C8アルデヒドの場合には、好ましい風味のバランスを妨げるからである。さらに、このようなアルデヒドの製造に用いるアルコールは、炭素数1〜5の脂肪族アルコール、シクロヘキサノールまたはベンジルアルコールに限定される。C6以上約C12までの脂肪族アルコールはそれら自身の風味を有し、本来の目的の風味を損うからである。
特許文献では、カルバメート、カルボネート、尿素、エチリデン化合物(米国特許第2,305,620号)及び特定のカルボン酸塩(米国特許第3,829,504号と第3,857,964号)を含めて、種々なアルデヒド誘導体がアセトアルデヒドを発生させるために提案されている。前記の誘導体は全て、好ましくない味を有する、有害である、さらに目的の食品中で適当な温度において適当な速度でアルデヒドを放出し得るほど反応性ではない、またはそれら自身の邪魔になる味または臭いを有するというような種々な欠点を有する。
米国特許第4,296,138号はアセテートの形成によつてアセトアルデヒドを「固定する」方法を開示している。しかし、このようなアセテートは周囲温度において容易に加水分解するため、食品組成物中に使用して、アルデヒド発生が好ましい時まで食品組成物中に貯えることが困難である。
本発明によると、食品中に混和することのできる香味剤は次の一般式:

(式中、R1は炭素数1〜14のアルキルを表し、R2は炭素数1〜7のアルキルを表し、R3は炭素数1〜7のアルキルを表し、そしてMはK+またはCa2+を表す)を有するカルボン酸塩化合物を含んで成る。
本発明によるカルボン酸塩化合物は目的の使用のあらゆる通常条件下で風味物質及び風味をつけた食品ベース中で迅速にアルデヒドを放出する貯蔵安定なアルデヒド発生体である。これらは好ましい風味を妨げず、無水風味物質中に混入されて安定に留まることができ、今まで可能であつたよりも高い割合の固定したカルボキシル化アルデヒドを無水風味物質または風味物質ベース中に加えることができる。
一般式Iの化合物は次の一般式II:

の化合物を、次の一般式III:

の化合物と酸の中で最初に反応させて、次の一般式IV:

の化合物を形成し、次に一般式IVの化合物を水とアルコールの中で塩基と反応させて、一般式Iの中和カルボキシレートを形成することによつて製造される。
一般式Iのカルボン酸塩において、アルデヒド残基R1は 分枝鎖または直鎖のアルキルである炭素数1〜14の炭化水素残基より成る群から選択した基であり、 R2は,例えばメチル、エチル、プロピルまたはt−ブチル、特に好ましくはメチルまたはエチルであるような、それ自体強い味または香りを有さないアルコールに相当する炭素数7までの脂肪族炭化水素基であり、 R3は、R2とR3とを合わせた合計炭素数が9〜14の範囲であるという限定をさらに加えた、R2に一致する炭化水素基であり、 Mは、消耗され得るK+またはCa2+陽イオンであることが好ましい。
例えば、式Iのカルボキシレートは酸触媒の存在下で適当なビニルアルキルエーテルと好ましいベータヒドロキシエステルとを反応させることによつて合成することができる。この例を挙げると、エチルラクテート(II)をプロペニルエチルエーテル(III)と反応させて、化合物IV構造体を形成し、次にKOHのようなアルカリ金属の水酸化物で処理することによつて、2−〔(1′−エトキシ)プロポキシ〕プロパン酸カリウム(V)を製造することができる:

本発明に有用であることが判明したα−ヒドロキシエステルには、乳酸エチルと酒石酸ジエチルまたは、ビニルエーテルとの反応によつて直鎖カルボン酸エステルを形成し得る比較的緩和なα−ヒドロキシ酸のエステルがある。α−ヒドロキシエステルのモル重量は放出されるアルデヒド量に応じて、親カルボン酸塩誘導体の重量を実際に限定する。
本発明に用いることのできる典型的なビニルエーテルはエチルビニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルブテニルエーテル、ブチルビニルエーテル、エチルヘキセニルエーテル、メチルオクテニルエーテル及びメチルデセニルエーテル等である。
本発明によるカルボン酸塩化合物を使用すると、水を加えることによつて式(I)の化合物から風味の良いアルデヒドが放出される。混合物を、望ましい場合には、加熱することもできる。
例えば次のように、風味の良いアルデヒドが形成されると考えられる:

実施例 1.2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カリウム 乳酸エチル766g(6.49モル)と36%塩酸1.9gを含む、5℃の300mlフラスコに、エチルビニルエーテル700.0g(9.72モル)を4時間にわたつて加える。1時間攪拌した後に、2%炭酸ナトリウム溶液75gを加えて反応を中断した、有機物質を分留し、エチル2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパノエート1064.4g(86.3%)を回収する(17mmHgにおいて沸点89〜90℃)。
23℃のエチル2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパノエート38.0g(0.20モル)に、KOH14.8g(0.264モル)、水30.0g(1.667モル)及びエタノール10.0g(0.217モル)を30分間にわたつて加える。23℃に維持しながら、この溶液を1時間攪拌し、次にヘキサン20gで抽出する。次に真空下で全ての溶媒を水層から除去する。黄色の粘稠な液体として、一定重量(43.7g)の2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カリウムが得られる。
IRおよびNMRの分析結果は以下の通りであった。
2−[(1′−エトキシ)エトキシ]プロパノエートIR2980,2930,2900,2880,1748,1735,1450(br),1390,1370,1270,1195,1175,1145,1100(br),1055,1028,967,925,853cm-1NMR(CDCl3/TMS)
1.20(t,3,J=7),1.30(t,3,J=7),1.3−1.6(m,6),3.3−3.9(m,2),4.27(q,2,J=7),[4.37(q,1,J=7)とオーバーラップ],4.82(q,1,J=7)
2−[(1′−エトキシ)エトキシ]プロパン酸カリウムNMR(DMSO−d6/TMS)
1.08(t,3,J=7),1.22(t,3,J=6.5),[1.23(d,3,J=5.5)とオーバーラップ],3.3−4.1(m,3),4.6−5.0(m,1)
実施例 2.2−〔(1′−エトキシ)プロポキシ〕プロパン酸カリウム 30℃の乳酸エチル37.0g(0.31モル)と32%塩酸4滴を含有する250mlフラスコに、エチルプロペニルエーテル71g(0.82モル)を加える。混合物を75℃に50分間加熱し、25℃に冷却し、次に5%炭酸水素ナトリウム溶液100gを加えて反応を停止させる。有機物質をフラツシユ蒸留して、エチル2−〔(1′−エトキシ)プロポキシ〕プロパノエート52.3g(90%)を得る。
エチル2−〔(1′−エトキシ)プロポキシ〕プロパノエート52.3g(0.27モル)を含む、25℃の250mlフラスコに、水酸化カリウム18.5g(0.33モル)とメタノール56g(1.75モル)の混合物を加える。25℃に2時間放置した後、反応混合物を真空排気し、非常に粘稠な液体、2−〔(1′−エトキシ)プロポキシ〕プロパン酸カリウム70.8gを回収する。
IRおよびNMR等の分析結果は以下の通りであった。
エチル2−[(1′エトキシ)プロポキシ]プロパノエートIR2973,2930,2892,2877,1748,1732,1462,1445,1370,1270,1195,1174,1110(v br),1055,1020,977,915cm-1NMR(CDCl3/TMS)
0.94(br t,3,J=8),1.19(t,3,J=7),1.27(t,3,J=7),1.41(br d,3,J=7),1.4−1.9(m,2),3.3−3.9(m,2),4.21(q,1,J=7)[4.24(q,2,J=7)とオーバーラップ],4.54(br t,1,J=6)
2−[(1′エトキシ)プロポキシ]プロパン酸カリウムNMR(DMSO−d6/TMS)
0.83(t,3,J=7),1.10(t,3,J=7),1.20(d,3,J=7),1.55(dq,2,J=7,7),3.2−4.1(m,3),4.50(q,1,J=5.5)
実施例 3.2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カルシウム 実施例1の生成物5.9g(0.05モル)と水6.5g(0.36モル)を含む、20℃の50mlフラスコに50%塩化カルシウム水溶液20gを加える。■別した白色結晶の固体物質を乾燥させて、2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カルシウム3.6g(20%)を得る。
NMRの測定結果は以下の通りであった。
2−[(1′−エトキシ)エトキシ]プロパン酸カルシウムNMR(DMSO−d6/TMS)
1.10(t,3,J=7),1.23(br d,6,J=6),3.3−3.7(m,2),3.8−4.3(m,1),4.6−5.0(m,1)
実施例 4.2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カリウムの加水分解速度 実施例1の生成物を含む水溶液を酸によつて、pH3.0に調節する。アルデヒド放出速度をGLCまたはU.V.(275nm)によつて監視する。放出速度を下記の表に示す。


実施例 5.オレンジジユース味覚テスト 実施例1の生成物が効果的なアルデヒド発生体であるかどうか及びこれを用いた風味物質にそれ自体の味を与えるかどうかを調べるために、風味検査斑によつて、次のサンプルを「盲検」した。
重量部2−〔(1′−エトキシ)エトキシ〕プロパン酸カリウム 0.023g再構成したオレンジジユース 1.000g オレンジジユースを対照として用いた場合に、検査斑は全員一致で、実施例1の生成物を含むサンプルを「絞りたてのオレンジジユースの風味」としてとり上げた。この風味は「純粋」だと考えられ、「異常な特徴」を有さなかつた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】次の一般式

(式中、R1は炭素数1〜14のアルキルを表し、R2は炭素数1〜7のアルキルを表し、R3は炭素数1〜7のアルキルを表し、そしてMはK+またはCa2+を表す)を有するカルボン酸塩化合物を含んで成る香味剤。
【請求項2】R2がメチル、エチル、プロピルまたはt−ブチルであることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の香味剤。
【請求項3】カルボン酸塩化合物が2−[(1′−エトキシ)エトキシ]プロパン酸カリウムまたは2−[(1′−エトキシ)プロポキシ]プロパン酸カリウムである特許請求の範囲第1項記載の香味剤。
【請求項4】カルボン酸塩化合物が2−[(1′−エトキシ)エトキシ]プロパン酸カルシウムである特許請求の範囲第1項記載の香味剤。
【請求項5】食品に使用することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の香味剤。
【請求項6】水を含む食品に使用することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の香味剤。
【請求項7】オレンジジュースに使用することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の香味剤。