説明

食用油の製造方法

【課題】食用油中にポリフェノール等の有用成分を効率的に含有させることができる手段の提供。
【解決手段】油分含有原料から食用油を搾油する際に、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4質量%以上となるように、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させた後に搾油する食用油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂含有原料から食用油を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、植物の果実や種子に含まれる色素、苦味成分の代表的なものとして知られ、古くから食品や化粧品に使われている。近年では、いわゆる「フレンチパラドックス」を背景とした赤ワインブームや、茶カテキン類の体脂肪蓄積抑制効果など、ポリフェノールの健康価値が注目されている(非特許文献1)。食用油中のポリフェノール含有量は、サラダ油などの精製油では少なく、オリーブ油や胡麻油などの圧搾未精製油で比較的多い。ところが、現在の搾油技術では、ポリフェノールは圧搾油中ではなく、搾油後の残渣中により多く残留する(非特許文献2)。一方で、当該課題を直接解決するものとは限らないが、油の風味や収量、有用成分の含有量を改善するために、油糧果実・種子に前処理を施す方法が知られている。
【0003】
例えば、オリーブ果実を嫌気性条件下で乳酸発酵させてから搾油する事でオリーブ臭と油分収量を改善する方法(特許文献1)、除核したオリーブ果実にセルラーゼ、プロテアーゼを作用させてから搾油する事で油分収量を向上させる方法(特許文献2)、オリーブ果実を−10℃以下で24時間以上冷凍処理した後、オリーブ油を製造することで、品質劣化が少なく、油の収量向上を図ることができる方法(特許文献3)、大豆の有用成分が多く含まれる胚芽区分のみを分離してから搾油する方法(特許文献4)等が知られている。
【非特許文献1】Shahidi F, Natural Antioxidant, Chemistry, Health Effects and Application, AOCS press, 1997
【非特許文献2】Artajo et al, J Sci Food Agric 86: 518, 2006
【特許文献1】特開2004−307709号公報
【特許文献2】特開平5−59390号公報
【特許文献3】特開2004−254555号公報
【特許文献4】特開2002−112723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のうち特許文献1〜3記載の技術は油脂の収量を改善するものであり、また、特許文献4記載の技術は予め有用成分の多い部分のみを取りだして搾油するもので、製造コストや効率上好ましいものとはいえないのみならず、その他の油分含有原料中の有用成分を抽出するのに有効な方法とはいえない。
【0005】
従って、本発明は、簡便な方法で油糧原料等の油分含有原料から搾油した食用油中に、油糧原料等に含まれるポリフェノール等の有用成分を効率良く含有させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、油分含有原料から食用油を製造する際に、圧搾油中に効率よくポリフェノール等の有用成分を含有させる方法を検討した結果、油分含有原料から油を分離する前に、油分含有原料に一定条件を満たすようにリパーゼを作用させることが効果的であることを見出した。
即ち、本発明は、油分含有原料から食用油を搾油する際に、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4質量%以上となるように、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させた後に搾油する食用油の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食用油中にポリフェノール等の有用成分を効率的に含有させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、油分含有原料とは、オリーブ果実、胡麻種子、月見草種子、椿種子、コーヒー豆、アマニ種子、ナタネ種子、米糠、胡桃やアーモンドなどのナッツ類、アボガド果実、パンプキンシード、グレープシード、大豆、コーンジャーム、べに花種子、ひまわり種子、綿実、オリーブ種子、小麦糠等が挙げられる。中でも、オリーブ果実、胡麻種子、米糠、胡桃やアーモンドなどのナッツ類等が、有用成分の含有率や食用油としての汎用性の点から好ましく、更にオリーブ果実、米糠、胡桃やアーモンドなどのナッツ類等が好ましい。
【0009】
本発明において、油分含有原料に含まれる有用成分としては、アピゲニン、ルテオリン、ケルセチン、ルチン、ゲニスチン、ダイゼイン、ヘスペレチン、ヘルペリジン、カテキン、アントシアニン、シアニジン、カルタミンなどのフラボノイド類;テアフラビン、カフェ酸、クロロゲン酸、セサミン、セサモール、エラグ酸、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン、クルクミン、ショウガオール、レスベラトロール、カプサイシン等の単純ポリフェノール類;プロアントシアニジン、縮合タンニン等の多重ポリフェノール類;ステロール、オクタコサノール等のアルコール類;アスタキサンチン、β-カロチン等のカロテノイド類;更にこれらの誘導体等が挙げられる。
【0010】
本発明においては、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4質量%(以下、単に「%」と表記する)以上となるように、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させた後に搾油する。搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量は、好ましくは5〜20%、更に7〜10%となるように、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させることが、食用油中にポリフェノール等の有用成分を効率的に含有させることができる点から好ましい。
【0011】
油分含有原料中に内在するリパーゼを利用する方法は、例えば油分含有原料を温度0〜60℃の条件で30分から50日程度保存することにより、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4%以上となるように油分含有原料中に内在するリパーゼを作用させるのが好ましい。この時、リパーゼを効率的に作用させ、かつ得られる油脂の風味を良好なものとするため、油分含有原料を洗浄及び/又は殺菌処理し、温度0〜60℃の条件で、1〜50日程度保存するのが好ましい。この処理は、リパーゼ作用中にカビ等の微生物や昆虫などの被害を抑制する上でも好ましい。ここで殺菌処理は、油分含有原料に殺菌剤、抗菌剤の添加をすればよい。温度は、更に10〜40℃、特に20〜30℃、保存時間は、更に1〜40日、特に1〜30日とすることが好ましい。
【0012】
本発明においては、油分含有原料により内在するリパーゼの活性が異なるため、リパーゼを作用させる条件(温度、反応時間)は、搾油後に得られる油脂中の有用成分の含有量が、リパーゼを作用させない油分含有原料を用いて搾油して得られた油脂中のものに比べて20%以上、更に50%以上、特に70%以上多くなる量を目安とし、適宜設定するのが好ましい。なお、本発明においては、内在するリパーゼを作用させるものであり、油分含有原料に別途リパーゼを添加することはしない。
【0013】
本発明において、油分含有原料から搾油する方法は、(1)油分含有原料を粉砕した後にフィルタープレスなどにより油分を濾しとる方法、(2)スクリュープレスなどを用いて油分含有原料から直接油分を濾しとる方法、(3)油分含有原料を粉砕した後に遠心分離機やデカンテーションにより油分を分離する方法等が挙げられる。例えば、オリーブ果実から搾油する場合には、果実をミルで粉砕した後に遠心分離機により油分を分離するという方法が一般的である。胡麻種子から搾油する場合には、スクリュープレスなどにより直接油分を分離するのが一般的である。搾油条件としては、例えば、オリーブ果実やマカダミアナッツ等の搾油で行われるコールドプレス法においては、40℃以下の温度条件で搾油する事が好ましい。なお、本発明における「食用油」とは、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させ、搾油して得られた油脂を指し、実施例においては「分離油」とも称する。
【実施例】
【0014】
〔ジアシルグリセロール含有量の測定法〕
油脂中のジアシルグリセロール含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いた内部標準法により測定した。油脂に内部標準物質としてトリオクタノイン(SIGMA社)を加え、シリル化処理後にガスクロマトグラフィーに供した。予めジオレイン(SIGMA社)を使用して同様に測定し、作成した検量線より油脂中のジアシルグリセロール含有量を算出した。
【0015】
〔ポリフェノール含有量の測定法〕
油脂中のポリフェノール含有量は、フォリン−シオカルト試薬を用いた比色法により測定した。1gの油脂に1mLのノルマルヘキサンを加えた後、ポリフェノールを2mLの80%メタノール水溶液で3回抽出した。抽出液を窒素気流下で乾燥させた後、アセトニトリルに溶解し、試験溶液とした。蒸留水で希釈した試験溶液にフォリン−シオカルト試薬を加えて3分間室温で反応させた後、35%炭酸ナトリウム水溶液を加えて725nmの吸光度を測定した。別途、没食子酸による検量線によりポリフェノール含有量を算出し、没食子酸相当濃度で示した。
【0016】
試験例1
油分含有原料としてオリーブ果実(油分13%)を用い、枝・葉などを取り除き、蒸留水でよく洗浄した後、果実を清潔なポリエチレンの袋に密封した。袋に入れたオリーブ果実を20℃又は30℃の恒温室で保存し、経時的に取り出し、ミル(大阪ケミカル社WB−1)で粉砕してオリーブペーストを得た。オリーブペーストを遠沈管に入れ、20,000gで30分間遠心分離を行ない、分離油1〜9を得た。なお、分離油1については、オリーブ油を蒸留水で洗浄した後、保存することなくミルで粉砕してオリーブペーストとした。各分離油について、ジアシルグリセロール含有量及ポリフェノール含有量を前記方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4%以上となるように、油分含有原料を保存して内在するリパーゼを作用させた場合(分離油5及び7〜9)、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含量が4%未満の場合(分離油1〜4及び6)と比べて、搾油された油脂(分離油)中に含まれる有用成分であるポリフェノール含有量が増加した。なお、オリーブ果実の保存中、カビの発生や昆虫等の被害は認められず、衛生状態は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分含有原料から食用油を搾油する際に、搾油後に得られる油脂中のジアシルグリセロール含有量が4質量%以上となるように、油分含有原料に内在するリパーゼを作用させた後に搾油する食用油の製造方法。
【請求項2】
油分含有原料がオリーブ果実である請求項1記載の食用油の製造方法。

【公開番号】特開2009−178134(P2009−178134A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21976(P2008−21976)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】