説明

食肉の鮮度保持及びその加工肉の酸敗防止の方法及び飼料添加用組成物

【課題】食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法並びに飼料添加用組成物を提供する。
【解決手段】リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を、家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させることからなる食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法、ビタミンE及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与すること、並びにゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与することからなる、上記食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法、並びにこれらの方法で使用するための飼料添加用組成物、該組成物を配合した飼料。
【効果】家畜、家禽の体内で生ずる酸化反応を抑制し、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉の酸化の進行を抑制し、かつ食肉の保存品質の改善を可能とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜、家禽から得られる食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法並びに飼料添加用組成物に関するものであり、更に詳しくは、リポ酸を混合した飼料を給与した家畜、家禽の生肉及び加工肉の高保存性及び高鮮度保持性に有用な家畜、家禽肉(以下、食肉と記載することがある。)の酸化進行防止及び保存品質改善方法並びに飼料添加用組成物に関するものである。本発明は、家畜、家禽の体内で生じる酸化反応(過酸化反応)を抑制し、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉の酸化の進行を防止し、それにより、食肉の保存品質を改善することを可能とする新しい食肉の酸化進行防止及び保存品質改善技術並びに飼料添加用組成物を提供するものである。本発明の飼料添加用組成物は、家畜、家禽全般の産業動物や、愛玩動物を対象とする病気予防に適用するサプリメント(健康補助材)としても有用である。
【背景技術】
【0002】
食肉のうち、不飽和脂肪酸を多く含むとされる鶏などの家禽の肉は、品質が劣化し易く、保存性が劣るとされている。その原因には、主に、生体膜を構成する不飽和脂肪酸の酸化(自動酸化)に伴う過酸化物(過酸化脂質など)の発生があり、これが進むと、異臭を放つなど、食肉の品質や保存性の低下につながる。しかし、必ずしも他の家畜、例えば、豚又は牛から得られる食肉が酸化されにくく、品質や保存性が安定している訳ではない。家禽と同様に、豚や牛などの哺乳動物にあっても、体内には不飽和脂肪酸が存在し、特に生体膜を構成する主要成分のリン脂質には過酸化が著しく生じる高度不飽和脂肪酸が含まれている。すなわち、生体並びに食肉にみられる脂質過酸化は、家禽のみならず哺乳類の家畜においても共通して起こる反応と言える。
【0003】
本発明は、家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉全般を対象とするものであるが、ここで、とりわけ品質劣化されやすいとされている家禽を代表例として説明すると、例えば、家禽の解体作業では、除骨中に肉の細胞が壊れ、家禽肉は、肉に酸素が流入するなど、酸素に触れることにより、酸化し易い条件に晒される。このため、家禽の解体処理後は、食肉の酸化を遅らせるために、速やかに冷凍もしくは低温で貯蔵しなければならない。例えば、鶏肉を流通、貯蔵するには、5℃以下の温度管理が求められる。
【0004】
また、例えば、鶏肉を5℃で流通、貯蔵する場合は、その鮮度が保たれる限界は9日前後である。しかしながら、流通、販売の過程で、解体後から消費者に届くまで冷蔵温度を絶えず5℃以下に保つことには実際上は困難がある。冷凍、冷蔵による輸送、流通技術は、進歩しているものの、コストの面で課題がある。
【0005】
食肉の鮮度や保存性を左右する過酸化物の発生は、家畜、家禽などの生体でもみられる。したがって、この過酸化物、とりわけ過酸化脂質は、生体及び食品における酸化の程度を知る指標ともなり得る。生体で発生する過酸化物の増加は、生体における老化の進行だけではなく、様々な病気の原因になることが報告されている。
【0006】
この過酸化物の発生を促す要因には、生体で生じるストレスがあり、細胞は、ストレスを通じて増加した過酸化物、とりわけ過酸化脂質によってダメージを受け、生体では、様々な障害が起こる。そのストレスがもたらす悪影響は、家畜、家禽においても同様に発生する。例えば、家畜、家禽の輸送作業による輸送ストレスは、家畜、家禽の解体時の肉質の低下をもたらすことが報告されている。
【0007】
また、暑さに顕著に弱い家畜、家禽、とりわけ汗腺を欠く鶏では、暑熱に対する暑熱ストレスは、鶏の斃死や肉質の悪化など、産業上の損失を招く大きな要因になっている。また、鶏の出荷時の捕鳥作業、8〜12時間の絶食(断餌)、屠殺時に行う感電処理は、鶏に対してストレスを与え、その後の肉質に大きな悪影響を及ぼす要因になっている。
【0008】
これらの問題を改善するためには、酸化防止剤を家畜、家禽に経口投与するか、若しくは酸化防止剤を食肉の加工において添加する方法がとられる。従来、一般に、食品の酸化防止のための添加剤としては、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエンなど、フェノール系合成酸化防止剤が使用されてきたが、これらは、発癌性など、安全性の点で使用が敬遠されている。そのため、安全性が高く、強力な効果を持つ天然の酸化防止素材の導入及びそれへの転換が強く求められている。
【0009】
現況では、天然の酸化防止剤としては、ビタミンEが代表的であり、食品や、家畜、家禽に広く使用されている。しかし、このような天然の酸化防止剤は、食品や、家畜、家禽に対して、充分な効果を示しているとは言い難い。とりわけ、酸化防止効果を示すとされている既存の酸化防止剤では、暑熱ストレスなど、種々のストレス反応が生じた生体から得られる食肉において、その効果が発揮されるか否かは不明である。
【0010】
食品への使用可能な成分として注目されているリポ酸は、健康補助食品の成分として広く知られるようになった。リポ酸は、生体内で産生可能なビタミン様作用因子の一つであり、エネルギー代謝を円滑に行う働きを有している。リポ酸のその他の働きには、抗酸化作用があり、体内の活性酸素を除去若しくは低減させる作用がある。
【0011】
先行文献では、リポ酸の食品や飼料への利用について、幾つかの先行技術が報告されている(特許文献1〜9参照)。また、リポ酸が有する酸化防止作用は、例えば、食品加工における酸化防止剤などとしての応用が提案されている(特許文献10、11参照)。しかしながら、食肉の加工処理時にリポ酸を利用する酸化防止方法などでは、加工段階の原料を、リポ酸を含有している酸化防止液に浸すなどの方法で処理している。
【0012】
この場合、リポ酸は、加工段階及び加工後の品質を保持するための酸化防止には有効であっても、家畜、家禽にあっては、前記したストレスなどが原因で、酸化の進行が容易な状態となっている食肉に対して、その酸化を防止し、保存品質を改善することは困難である。すなわち、当技術分野では、家畜、家禽に投与することで、生体の酸化(過酸化反応)を防止(低減)しつつ、生肉及び加工肉として流通させる食肉に対して、それらの酸化を防止し、保存品質を改善することを可能にするために、特定の飼料を家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させ、食肉の酸化防止及び保存品質を改善する方法は、未だ報告された例は見当たらない。
【0013】
前記した食肉の保存性を改善するために、その原因となる酸化を防止するには、何らかの酸化防止剤の使用が有効ではないかと考えられるが、従来のフェノール系合成酸化防止剤などの使用は、安全性に問題があるため、安全性及び効果の高い天然素材の酸化防止剤の提供が望まれている。
【0014】
しかし、従来の酸化防止剤では、食肉の加工段階で酸化を防止する方法は提案されているものの、既に酸化が進行、若しくは酸化の進行が懸念される生体内の過酸化脂質などの酸化物の除去には対応することが困難である。すなわち、原料の生産段階で生じ、蓄積された過酸化脂質などの酸化物が増加した場合、加工段階での酸化防止剤の使用は、それ以上の酸化を遅らせる効果が期待できるに過ぎず、本来的な食肉の保存品質の改善には不十分である。
【0015】
このような課題に対しては、食肉の原料となる家畜、家禽の飼育時に酸化防止剤を投与する方法が見受けられるが、前述のように、その効果は、該家畜、家禽から得られる食肉については全く不明である。したがって、酸化防止剤を有効的に生体で使用するには、強い酸化防止作用を有する新しい酸化防止素材とその新しい利用形態の開発が必要とされる。
【0016】
ところで、結晶中で微細孔を持ち、アルミナ珪酸塩に位置づけられるゼオライトは、イオン交換材、触媒や吸着剤として応用される鉱物である。家畜、家禽の生産では、主に糞尿の脱臭剤若しくは増体効果を有する飼料添加剤として利用されている。ゼオライトの畜産上の利用に関しては、糞尿処理で直接に添加する方法もあれば、家畜に摂取させる方法も提案されている。
【0017】
飼料添加剤として使用する場合、ゼオライトを主成分とする飼料添加物では、多くは飼料中に5%以上の量を添加する必要がある。その他、飼料に対して、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を微量の0.3%(重量%)添加し、高濃度酸素水の給与と組み合せることで、家畜、家禽の糞尿の悪臭を低減することができることが報告されている(特許文献12参照)。しかし、前記の食肉の保存性に関しては、ゼオライト、若しくはゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物が、食肉の酸化防止に有効性を示すかどうかは不明である。
【0018】
このように、従来の酸化防止剤は、とりわけ生体にストレスが誘発した家畜、家禽から得られる食肉においては、酸化防止作用が有効であるかどうかは確かではない。そこで、酸化防止剤の有効性を活かし得る新たな食肉の酸化防止方法の開発が求められる。また、家畜、家禽への酸化防止剤の投与については、飼料の投与の態様や労力面を配慮し、酸化防止剤の投与の態様は、従来の酸化防止液への浸漬処理法のような複雑なものではなく、簡便、かつ容易に実施できる手法を開発することが求められる。
【0019】
【特許文献1】特開2000−103983号公報
【特許文献2】特開2002−121134号公報
【特許文献3】特開2004−323815号公報
【特許文献4】特開2005−028559号公報
【特許文献5】特開2005−343880号公報
【特許文献6】特表2006−510711号公報
【特許文献7】特開2006−045100号公報
【特許文献8】特開2006−193499号公報
【特許文献9】特開2006−306825号公報
【特許文献10】特開2006−333791号公報
【特許文献11】特開2006−333792号公報
【特許文献12】特許第3428126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、酸化防止素材を用いて、簡便な利用形態で、食肉及びその加工肉の酸化を防止し、保存品質を改善する方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、家畜、家禽に給与したリポ酸が、生体及び食肉の酸化防止、加工肉の酸化進行の防止及び保存品質の改善に有効であることを見出し、特に、家畜、家禽から得られる食肉であっても、優れた酸化進行防止及び保存品質改善効果があり、かつゼオライトとフェライト及び木炭、及びビタミンEの併用が、その有効性を向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
本発明は、消費者にとって、安全性が高く、かつ飼料へ混合して、簡便、かつ容易に家畜、家禽に給与することができ、更に、生体から生肉及び加工肉にまで酸化進行防止及び保存品質改善効果が及ぶ、天然素材を用いた食肉の酸化進行の防止及び保存品質の改善を可能とする酸化進行防止及び保存品質改善方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、これらの方法で使用するための飼料添加用組成物及び該飼料添加用組成物を配合した飼料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を、家畜又は家禽に給与することで、該家畜又は家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させることを特徴とする食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(2)上記家畜又は家禽が、健康な家畜又は家禽、あるいは生体にストレスが生じた家禽である、前記(1)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(3)飼育時、又は出荷若しくは屠殺時に生体にストレスが生じた家禽である、前記(2)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(4)飼料にリポ酸を少なくとも50ppm混合する、前記(1)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(5)上記家禽が、鶏である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(6)上記ストレスが、暑熱、出荷時の絶食又は屠殺解体前の感電により生体に生じたものである、前記(2)又は(3)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(7)ビタミンE及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与する、前記(1)から(6)のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(8)ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与する、前記(1)から(6)のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(9)ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を少なくとも0.3から1%の範囲で含む飼料を給与する、前記(8)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(10)ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物にリポ酸を少なくとも50ppm含む飼料を給与する、前記(8)又は(9)に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(11)ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を少なくとも0.3から1%の範囲で含み、かつリポ酸を少なくとも50ppm含む飼料を給与する、前記(8)から(10)のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
(12)前記(8)から(11)のいずれか1項に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法に使用するための飼料添加用組成物又は飼料であって、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物又は該飼料添加用組成物を配合した飼料。
【0023】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、食肉の酸化進行を防止し、保存品質を改善する方法であって、リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を、家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させることを特徴とするものである。また、本発明は、これらの方法で使用するための飼料添加用組成物及び該飼料添加用組成物を配合した飼料の点に特徴を有するものである。
【0024】
本発明は、上記家畜、家禽が、健康な家畜、家禽、あるいは生体にストレスが生じた家禽であること、飼育時、又は出荷若しくは屠殺時に生体にストレスが生じた家禽であること、飼料にリポ酸を少なくとも50ppm混合すること、上記ストレスが、暑熱、出荷時の絶食又は屠殺解体前の感電により生体に生じたものであること、上記方法において、ビタミンE及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与すること、を好ましい実施の態様としている。
【0025】
また、本発明では、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与すること、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を少なくとも0.3から1%の範囲で含む飼料を給与すること、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物にリポ酸を少なくとも50ppm含む飼料を給与すること、を好ましい実施の態様としている。
【0026】
本発明において、飼料添加用組成物に使用するリポ酸及びビタミンEは、既に食品用として消費者に提供されており、高い安全性が確認されている天然素材として利用されている。また、飼料に混合するリポ酸及びビタミンEは、後記する割合で使用すれば、家畜、家禽にとっても、増体、飼料摂取量、成長の成績などに障害がなく、安全性が確認されている。
【0027】
本発明では、飼料は、市販飼料を適宜使用することができる。リポ酸は、粉末状の形態が望ましく、少なくとも50ppm、望ましくは100ppmのリポ酸を含有してなる飼料を、家畜、家禽に給与する。例えば、家禽の場合、該飼料を家禽に少なくとも3週間給与する。更に、リポ酸の酸化進行防止及び保存品質改善の効果の向上には、飼料に、少なくとも100ppmのビタミンEを混合することが好適である。
【0028】
本発明において、前記の飼料添加用組成物の調製方法及び給与方法は、いたって簡便であり、通常の方法により適宜実施することが可能であり、この飼料の調製及び給与については、特段の制限や格別の給与方法は必要がない。また、本発明で対象とする家畜、家禽の種類は、特に限定されず、いずれでも使用可能であり、本発明は、特に食肉として多用される豚、牛、及び鶏に好適である。また、本発明を実施するための飼料及び飼育方法は、通常の飼料と飼育方法を用いることができる。
【0029】
本発明の方法は、豚、牛などの家畜及び家禽に適用される。ここでは、家禽の場合を例に具体的に説明するが、家畜の場合についても、基本的には同様に適用される。家禽に給与する飼料は、市販品を適宜選択して使用することができるが、雛用(スタータ)、中雛用、成鶏用など、家禽の生育段階に適した組成のものが望ましい。リポ酸は、粉末状態のもので、ラセミ体であるRS型若しくは天然型のR型を適宜選択して使用することができる。リポ酸の飼料への混合にあたっては、一旦、フスマなどの賦形剤に配合しなくても簡便、かつ容易に飼料に直接添加することができる。
【0030】
そのため、本発明では、複雑で、労力を要する作業は不要である。このリポ酸の投与の態様は、リポ酸は、50から200ppmの範囲でよく、少なくとも50ppm、望ましくは100ppmのリポ酸を含有する飼料を、家禽に少なくとも3週間与えることが好ましい。
【0031】
更に、生体にストレスが生じた家禽で、リポ酸の酸化防止効果を向上させるために、ビタミンEを混合することが好ましい。しかし、ビタミンEをリポ酸と併せて使用するか否かは、家禽の飼育環境を勘案し、その効果を確認の上、適宜選択することが望ましい。とりわけ、生体にストレスの誘発が懸念される場合は、ビタミンEの添加水準は100ppm程度が好ましい。
【0032】
粘性の液状の状態にあるビタミンEの飼料への混合については、賦形剤の代わりに、予め少量の飼料にビタミンEを混合し、次いで、該飼料全量へ混合すれば、均一に混合することが可能である。一例として、40kgの市販飼料のうち、3kg程度の該飼料を採り、そこへビタミンEを混合する方法が例示される。
【0033】
混合方法は、均一に混合できれば特に限定されず、必要に応じて、市販の飼料用混合装置を使用することが好ましい。このとき、必要量のリポ酸は、ビタミンEの混合前に、賦形剤の代わりに使用する少量の飼料に予め混合することができる。本発明の方法によって飼育した家禽は、常法にしたがって、約8から12時間の絶食後に、捕鳥、輸送し、処理施設で屠殺、解体し、家禽肉として、流通、販売される。
【0034】
また、本発明では、家畜、家禽に、ゼオライトとフェライト及び木炭が含有する飼料添加物と、リポ酸を組み合わせた飼料を給与すると、生肉及び加工肉の酸敗防止に強い有効性がある。とりわけ、本発明では、家畜、家禽から得られる食肉が空気中の酸素と触れて、酸化が進行する破砕、加熱、冷蔵という処理操作に伴なう食肉の酸化防止に適することが実証された。
【0035】
ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物は、ゼオライト及びフェライトを、硫酸カリウムアルミニウム及び/又は硫酸アンモニウムアルミニウム溶液に浸漬して使用することが望ましい。すなわち、硫酸カリウムアルミニウム〔カリウムミョウバン:Al(SO・KSO・24HO(又はAlK(SO・12HO)〕、硫酸アンモニウムアルミニウム〔アンモニウムミョウバン:Al(SO・(NHSO・24HO(又はAlNH(SO・12HO)〕又はこれらの混合物の1〜3%溶液に、ゼオライト及びフェライトを浸漬して、硫酸カリウムアルミニウム又は硫酸アンモニウムアルミニウムを含浸させ、乾燥する。
【0036】
この混合粉末(ゼオライト90%、フェライト10%)に、木炭を1.0%の割合で加えたものを、飼料に0.3%〜1.0%の範囲で混合し、給与する。特に、これらをリポ酸と組み合わせて、食肉の酸化の進行を抑える場合、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物は1%、リポ酸は100ppm程度で飼料中に添加混合することが好ましい。例えば、短期飼育のブロイラーにあっては、2週齢から、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸を併用した飼料を給与し、屠殺までの概ね3から4週間の不断給与期間を設ければよい。
【0037】
ゼオライトとフェライト及び木炭からなる飼料添加物は、市販飼料に少なくとも0.3%、好ましくは1%混合して給与すればよく、ゼオライト及びフェライトが、硫酸カリウムアルミニウム又は硫酸アンモニウムアルミニウム溶液に浸漬させたものであることが望ましい。また、加熱、乾燥したゼオライトとフェライト粉末の混合物に木炭末を添加したものを市販飼料に混合したものが望ましいが、各成分の配合割合は、特に限定されるものではない。該飼料添加物を混合した飼料は、例えば、家禽に不断給与で、少なくとも3週間与える。
【0038】
リポ酸は、粉末状が望ましく、少なくとも50ppm、望ましくは100ppmのリポ酸を、前記のゼオライトとフェライト及び木炭が含有する飼料添加物と合わせて飼料に混合するが、この飼料は、例えば、家禽に少なくとも3週間給与する。本発明において、前記の酸化防止剤の混合方法は、いたって簡便であり、この飼料の給与については、特段の制限や格別の給与方法は必要がない。
【0039】
ところで、既述のとおり、食肉の中では、家禽肉がとりわけ品質劣化しやすいとされるが、必ずしも他の家畜、例えば、豚又は牛から得られる食肉が酸化されにくく、品質や保存性が安定している訳ではない。家禽と同様に、哺乳動物にあっても、体内には不飽和脂肪酸が存在し、特に生体膜を構成する主要成分のリン脂質には過酸化が著しく生じる高度不飽和脂肪酸が含まれている。すなわち、生体並びに食肉にみられる脂質過酸化は、家禽のみならず哺乳類の家畜においても共通して起こる反応と言える。
【0040】
事実、例えば、豚肉では、家禽肉の場合と同様に、脂質の酸化が旨味や保存性など、肉の品質価値の低下につながる要因として、過酸化脂質含量を評価指標とする学術的報告が数多く見受けられる。とりわけ、加工肉の貯蔵寿命(Shelf life)に関する関心は高く、破砕した生肉の過酸化脂質は、4℃での冷蔵条件の下、歴然たる過酸化脂質含量の増加が4日でみられ、その加熱加工肉の場合にあっては、冷蔵2日で生じる[文献1:Guo,Q.,B.T.Richert,J.R.Burgess,D.M.Webel,D.E.Orr,M.Blair,A.L.Grant and DF.E.Gerrard.Effect of dietary vitamin E supplementation and feeding period on pork quality.Journal of Animal Science,84:3071−30778(2006)]。
【0041】
この豚肉の脂質過酸化、すなわち、品質劣化の進行を防ぐために、抗酸化剤であるビタミンEを豚に投与する方法が報告されている。常法で飼育した豚において、加熱加工肉の過酸化脂質含量は、冷蔵開始後に経日的な増加を示すが、ビタミンEを投与することで、その進行が抑えられたとする結果が示されている[文献1:Guo,Q.,B.T.Richert,J.R.Burgess,D.M.Webel,D.E.Orr,M.Blair,A.L.Grant and DF.E.Gerrard.Effect of dietary vitamin E supplementation and feeding period on pork quality.Journal of Animal Science,84:3071−30778(2006)、文献2:Buckley,D.J.,P.A.Morrissey and J.I.Gray.Influence of dietary vitamin E on the oxidative stability and quality of pig meat.Journal of Animal Science,73:3122−3130(1995)]。
【0042】
本発明では、豚肉や牛肉と比べて、特に、肉の脂質過酸化の進行が著しい家禽肉において、その生肉及び破砕・加熱加工肉に対して強い酸化防止効果を示す。これを換言すれば、家禽肉は、食肉の酸化防止効果を評価するにあたって明確な効果を知り得るに適した代表的な材料と言え、また、この家禽肉の条件下で酸化防止の効力が明らかであることは、既述の豚肉や牛肉などの食肉全般に対する酸化防止に適用できることを意味する。それ故に、本発明は、家禽肉だけでなく、家禽肉より比較的に保存性がよい、豚、牛などの家畜の食肉、とりわけ破砕・加熱した加工肉にあっては、本発明の酸化防止効果がむしろ顕著に発揮されるものと言える。
【0043】
従来技術として、リポ酸を飼料用に用いることは知られている。しかし、リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を、家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させ、それにより、食肉の酸化進行の防止及び保存品質の改善を図り、食肉を高鮮度に保持する方法は、これまで知られていなかった。
【0044】
本発明は、リポ酸などを単に飼料用に用いて、該飼料を家畜、家禽に投与する技術ではなく、リポ酸などを飼料を介して家畜、家禽に給与し、それにより、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉の酸化進行の指標となる過酸化脂質含量を低下させ、食肉としての酸化進行を抑制及び防止し、保存品質を改善することが可能であることを生体を対象とした試験結果に基づいてはじめて実証し得たことで、食肉の高鮮度保持技術として確立されたものである。
【0045】
ビタミンEをはじめ、本発明に用いるリポ酸あるいはこの誘導体を含める天然の酸化防止剤又は抗酸化成分は、食品の酸化防止、並びにヒトを含む動物の生体で生じる活性酸素の除去及び活性酸素の発生予防に有効とする知見が多く見受けられる。とりわけ、ヒトにおけるこの抗酸化成分の摂取効果は、活性酸素が癌など種々の病気の発生、老化に深い関係を持つことが明らかにされてきた。このことから、酸化防止剤(抗酸化成分)は、体内の活性酸素の除去又は発生予防に効力を発揮するとされている。
【0046】
新たに、本発明では、従来の酸化防止成分の持つ抗酸化作用と比べて、ゼオライト、フェライト及び木炭からなる添加物と上記の既知抗酸化成分の併用により、相乗的な酸化防止効果が得られることを立証した。また、本発明は、上記ゼオライト、フェライト及び木炭からなる添加物と同じ組成物を使用した、野菜鮮度維持の方法及び鮮度管理装置(特願昭和62−324309)、凍結食品の解凍方法及び解凍装置(特許第3429064)などの対象としての農畜産物又は食品に対し、酸化が深く関係する鮮度保持効果を実証するに至っている。同じく、本発明のゼオライト、フェライト及び木炭などからなる添加物は、先行技術の家畜の添加物(特許第3428126)に対し、動物体に与えた場合であっても、酸化防止効果が得られることが実証された。
【0047】
従って、ゼオライト、フェライト及び木炭などからなる本発明の組成物は、食品、加工食品などにも添加、あるいはその水溶液を加えることによって、鮮度保持効果が他の保存剤、酸化防止剤(害のある物も多々ある)と比べ、リポ酸以外の酸化防止剤との組み合わせによる効果としても飛躍的に顕著である。更に、本発明が、活性酸素の発生による脂質過酸化が進行しやすい鶏肉をもって明確な酸化防止効果を実証し得たことは、この効果が、家畜・家禽など産業動物のみならず、社会的関心の高いヒト並びに愛玩動物の老化又は癌発生の予防など、健康維持に既知の抗酸化成分より優れた効力を持つ可能性も充分に有することを示すものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を、家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉及びその加工肉の酸化の進行を防止し、保存品質を改善することができる。
(2)これらについては、例えば、特に、屠殺前の絶食及び感電、及び飼育時の暑熱暴露によって生体にストレスが生じた家禽体から得られる食肉、及び家畜、家禽肉を破砕及び加熱した加工肉について高い効果が得られる。
(3)家畜、家禽の肝臓(レバー)で発生する脂質酸化物(過酸化脂質)の含量は、リポ酸及びビタミンEを併用することで一層低減することができる。
(4)本発明は、家畜、並びにストレスが生じる飼育環境下で飼育された家禽を含む家禽の生体内で生ずる酸化反応(過酸化反応)を抑制し、該家畜、家禽から得られる食肉の酸化の進行を抑制し、かつ食肉の保存品質の改善を可能とする新しい方法を提供するものとして有用である。
(5)上記家畜、家禽肉の酸化進行防止の効果は、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を含む飼料、又はゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物にリポ酸を併用した飼料を給与した家畜、家禽で、その併用による相乗的効果が得られ、また、食肉の酸化が著しい加工肉で優れた効果が得られる。
(6)本発明による食肉の酸化進行の防止方法は、常法による飼料の給与の他は、格別の処理が不要であることから、飼育現場や飼料配合工場での取り扱いが容易であるという利点を有する。
(7)本発明の方法で使用するための飼料添加用組成物自体及び該飼料添加用組成物を配合した飼料自体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例では、食肉の中でもとり分け品質劣化しやすく品質評価と効果の判定が比較的明瞭に表われる家禽を代表例として試験を実施したが、本発明は、豚及び牛などの哺乳動物についても同様に適用し得るものであることは言うまでもない。
【実施例1】
【0050】
本実施例では、生体におけるリポ酸の酸化防止効果について、ストレスを与えていないブロイラーを試験対象として調べた。ブロイラー(チャンキー種、雌)に、2週齢から6週齢まで、リポ酸(DL−α−リポ酸、シグマ社製)を50ppm(実施例1−1)並びに200(実施例1−2)ppm添加した飼料を不断給与して飼育し、屠殺直後のブロイラーの浅胸筋について、過酸化脂質含量を指標に酸化の程度を測定した。
【0051】
ここでは、常法による屠殺処理に伴うストレスの影響を与えないように、鶏を全身麻酔薬で安楽死させ、直ちに浅胸筋を採取し、鶏肉を得た。過酸化脂質の定量分析は、鶏肉中から過酸化脂質であるマロンアルデヒドを抽出し、これにチオバルビツール酸を高温下で反応させ、その反応物を分光光度計による吸光度を測定して定量分析した。
【0052】
その結果を図1に示す。この結果から、実施例1−1の50ppm及び実施例1−2の200ppmは、対照の比較例(リポ酸:0ppm)の場合と比較して、屠殺直後から過酸化脂質含量が低くいことが示された。このことから、飼育時の鶏に対する所定の濃度のリポ酸の給与は、鶏体で発生する酸化(過酸化物の発生)を抑制し、鶏肉の過酸化脂質含量を低下させることが分かった。
【実施例2】
【0053】
次に、本実施例では、リポ酸の酸化防止効果を二つの目的から調べた。その目的の一つは、常法として家禽処理で推奨される屠殺前8から12時間の絶食及び放血前の感電処理によるストレスがブロイラーに与えられた場合、生体で生じるリポ酸の酸化防止の効力が十分に得られるかどうかを調査することである。また、二つ目の目的は、リポ酸の酸化防止効果が、破砕及び加熱処理した鶏肉においても、有効であるかをどうかを明らかにすることである。
【0054】
ここでは、100ppmのリポ酸(実施例2−1)を混合した飼料をブロイラーに与え、対照の比較例(リポ酸:0ppm)には、リポ酸を混合しない同様な飼料を給与し、実施例1と同様な方法で飼育した。これらの飼料は、不断給飼で4週間与えた。その後、家禽の屠殺前に少なくとも8時間から12時間の絶食を行った。飲水は、制限しなかった。この後、捕鳥して屠殺台に吊るし、塩水に通電(50V)した水槽内に、少なくとも10秒間、家禽体を浸して感電させた。
【0055】
このとき、鶏は、筋肉の硬直が生じたものの、死に至るものは見られなかった。次いで、直ちに頚静脈を切り、放血を行って屠殺した。その後、約50℃の温水に屠体を3分間浸け、脱羽後に採取した浅胸筋を4℃の低温室で4時間放置した。このような出荷作業と屠殺に伴なうストレスを与えた鶏肉を得た。このときの生鶏肉における過酸化脂質含量によって、酸化の程度を評価した。その結果を図2に示す。
【0056】
次に、前記のストレスを与えたブロイラーから得られた肉の酸化防止効果が加工後の肉においても見られるかどうかを検討した。ここでは、肉の酸化を誘発、促進させるように、肉試料をブレンダーで10秒間破砕し、その一定量を計り取り、90℃のオーブンにおいて、40分間加熱した。その後、4℃の低温室において、16時間放置(冷蔵)した。
【0057】
リポ酸100ppmを与えて飼育したブロイラーの肉を実施例2−2、リポ酸を与えないで飼育したブロイラーの肉を比較例(リポ酸:0ppm)として示した。このときの酸化の程度を、同じくチオバルビツール酸反応物からの過酸化脂質含量によって、評価した。その結果を図3に示す。尚、本実施例では、過酸化脂質含量を実施例1で使用した分光光度計による測定から、より高感度に検出できる蛍光分光光度計による蛍光強度を測定する方法に改変し、分析した。
【0058】
その結果、リポ酸を100ppmの水準で給与したブロイラーは、出荷時の絶食、感電処理を受けても、対照の比較例より、生鶏肉(図2)及び加熱加工した鶏肉(図3)の場合、過酸化脂質含量が低いことが見出された。とりわけ、この効果は、破砕と加熱を施した加工肉で顕著にみられる過酸化脂質含量の増加に対して有効であることが分かった。すなわち、リポ酸の給与は、生肉のみならず、肉の破砕及び加熱によって進む加工鶏肉の酸化を持続的に遅らせる効果を有することが分かった。
【実施例3】
【0059】
次に、本実施例では、飼育の上で生産性に悪影響を与える夏季の高温環境で発生する暑熱ストレスに対して、リポ酸の家禽肉に対する酸化進行防止効果が有効であるかどうかを検討した。実施例1と同様な条件で、ブロイラーを飼育し、リポ酸、並びにリポ酸及びビタミンEを給与した。すなわち、リポ酸(100ppm)のみを添加した飼料を給与したものは、実施例3−1、リポ酸(100ppm)及びビタミンE(100ppm)を添加した飼料を給与したものは、実施例3−2、両化合物を除いた対照は、比較例(リポ酸/ビタミンE:0ppm)とした。
【0060】
次いで、屠殺前に、ブロイラーを35℃の室温で1日に5時間の暑熱に暴露し、これを5日間実施して生体にストレスを誘発させた。その後、該ブロイラーを実施例1と同様の要領で屠殺し、その浅胸筋と肝臓を採取した。このときの過酸化脂質含量を実施例2と同様な定量法によって求め、鶏肉の酸化の程度を評価した。浅胸筋についての結果を図4に示し、肝臓についての結果を図5に示す。
【0061】
その結果、暑熱ストレスを与えた生肉では、リポ酸の酸化防止効果が、実施例1及び実施例2と同様に得られた。実施例3−1と実施例3−2の浅胸筋における過酸化脂質含量は、対照となる比較例のそれよりも著しく低下した。とりわけ、実施例3−1の鶏肉は、全体として最も高い酸化進行防止効果を示した。すなわち、胸肉では、ビタミンEを与えなくてもリポ酸の単独給与で十分な酸化進行防止効果が得られることが分かった。
【0062】
次に、肝臓の過酸化脂質含量は、浅胸筋と比べて、全体に高い値を示した。その中で、実施例3−3と実施例3−4の過酸化脂質含量は、浅胸筋の場合と同様に、対照となる比較例と比べて減少した。ここで、高い酸化進行防止効果を示したものは、胸肉の場合と異なり、実施例3−3よりも実施例3−4であった。この結果から、肝臓(レバー)の酸化進行防止効果を高めるには、リポ酸にビタミンEを併用することが必要であることが分かった。
【0063】
これらの結果から、飼料に配合し、家禽に給与したリポ酸は、それのみで十分な鶏肉の酸化進行防止効果を示し、鶏肉の酸化進行防止及び保存品質を改善する作用効果を有することが分かった。また、肝臓においては、その高い保存品質改善効果を得るために、リポ酸とビタミンEとの併用が必要であることが分かった。更に、この酸化進行防止及び保存品質改善効果は、ストレスを与えたブロイラーの鶏肉にあっても、優れた効果を持つことが明らかとなった。
【実施例4】
【0064】
本実施例では、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物のみの給与が鶏肉の酸化進行の防止に有効であるかどうかを調査するために行った。ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を0.3%添加した飼料を、ブロイラー(チャンキー種、雌)に、2〜7週齢まで不断給与した。また、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を混合しない飼料を給与したブロイラーを対照とした。
【0065】
44日齢のブロイラーには、全身麻酔薬を静脈内に投与して屠殺し、鶏肉の酸化を測定するために、浅胸筋を摘出した。ここでは、常法による屠殺処理に伴なうストレスの影響を与えないように、鶏を全身麻酔薬で安楽死させ、直ちに浅胸筋を採取し、鶏肉を得た。鶏肉の酸化の進行の程度を知るために、その指標となる過酸化脂質含量をもって評価した。この過酸化脂質の定量分析は、鶏肉中から過酸化脂質であるマロンアルデヒドを抽出し、これに、チオバルビツール酸を高温下で反応させ、その反応物を分光光度計による吸光度を測定して分析した。
【0066】
また、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物が、鶏肉中の過酸化脂質含量に与える効果を評価する条件として、鶏肉を3〜4cm角に切り分け、一つの鶏肉は、直ちに0日目の過酸化脂質含量の定量を行った。もう一つの鶏肉は、プラスチックシャーレに移し、4℃の条件下で7日間放置した後に、過酸化脂質含量を測定した。屠殺直後のゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を給与した鶏肉を、実施例4−1とした。また、対照となる飼料を与えた鶏肉を比較例4−1とした。一方、4℃で7日間保存した鶏肉において、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を給与した鶏肉を、実施例4−2とし、対照となる飼料を給与した鶏肉を比較例4−2とした。
【0067】
その結果を図6に示した。冷蔵開始前、すなわち、屠殺直後の鶏肉では、実施例4−1における鶏肉の過酸化脂質含量は、対照の(比較例4−1)のそれより42%低い値を示した。また、7日間冷蔵した鶏肉では、冷蔵開始前より酸化が進んだことから、過酸化脂質含量が屠殺直後のそれより増えていた。ところが、屠殺直後の鶏肉にみられた実施例4−1の過酸化脂質含量の抑制効果は7日間の冷蔵後も実施例4−2でも認められた。この結果から、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物には、それ自身で鶏肉の酸化の進行を防止する効果があり、冷蔵時の鶏肉でみられる酸化進行も遅延できることが示された。
【実施例5】
【0068】
次に、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物の使用、並びにゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸の併用が、常法の鶏肉処理方法に準じて得られた鶏肉の酸化進行の防止に効果を示すかどうかを調査した。更に、酸化進行が著しい破砕及び加熱処理した鶏肉にあっても、これらのゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸の併用が、酸化進行の防止に有効に働くかどうかを調査した。
【0069】
雄ブロイラー(チャンキー種)に、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を1%及び100mg/kgのリポ酸(DL−α−リポ酸、シグマ社製)を組み合わせて添加した飼料を2〜6週齢まで給与した。ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物を給与した実験区を、実施例5−1及び実施例6−1とし、これにリポ酸を併用した飼料を給与した実験区を、実施例5−2及び実施例6−2とした。また、飼料に、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸を添加しない飼料を給与した実験区を、対照(比較例5−1及び比較例6−1)とし、リポ酸のみ混合した飼料を給与した実験区を、比較例5−2及び比較例6−2とした。
【0070】
次いで、該ブロイラーについて、一般に推奨される屠殺処理方法に準じて、屠殺前には8〜12時間の絶食を行い、放血直前に鶏体を50Vで通電した塩水中にて10秒間感電させた。この後に続いて、放血を行い、直ちに55℃の温浴中に屠体を浸し、脱羽後に胸肉を採取した。鶏肉は、4℃の低温室において4〜5時間放置した。このときの鶏肉におけるチオバルビツール酸反応物を過酸化脂質含量として定量し、鶏肉の酸化度合いを評価した。その結果を図7に示す。
【0071】
更に、冷蔵した鶏肉をブレンダーで破砕した後に、一定量を容器内に入れ、90℃に調節したオーブンで40分間加熱した。次に、加熱した加工鶏肉は、更に酸化が進行するように、4℃の低温室において16時間冷蔵した。この条件における鶏肉中の過酸化脂質含量を定量した。その結果を図8に示す。尚、この実験では、過酸化脂質を実施例4で使用した分光光度計による測定から、より高感度に検出できる蛍光分光光度計による蛍光強度を測定する方法に改変し、分析した。
【0072】
慣行法に従って屠殺した雄ブロイラーの生胸肉では、図7に示すように、実施例5−1及び5−2は、対照区(比較例5−1)より過酸化脂質の量が低い値を示した。しかし、実施例5−1は、リポ酸のみ投与した比較例5−2より、その効果は劣っていた。ところが、リポ酸(比較例5−2)の単独投与の場合と比較して、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸を組み合わせた併用区(実施例5−2)は、過酸化脂質含量が顕著に低い値を示した。この結果から、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物にリポ酸を組み合わせることは、それぞれの単独投与の場合より、鶏肉の酸化抑制が強化できることを示した。
【0073】
一方、図8に示すように、加熱などで調理した鶏肉の過酸化脂質含量は、生肉の結果と同様であった。特に、生肉の場合と比べると、加工した鶏肉の過酸化脂質含量は著しく増えていた。ところが、この条件下であっても、実施例6−1並びに実施例6−2では、対照となる比較例6−1の場合と比べると、過酸化脂質含量は低い値を示した。特に、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸を組み合わせた実施例6−2は、対照となる比較例6−2の場合と比べると、生肉の場合より顕著に過酸化脂質の蓄積を抑制することが見出された。すなわち、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有してなる飼料添加物及びリポ酸を併用すると、特に、加工処理した鶏肉では、顕著な酸化進行防止効果が引き出されることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上詳述したように、本発明は、食肉の鮮度保持及び該加工肉の酸敗防止の方法及び飼料添加用組成物に係るものであり、本発明により、リポ酸を家畜、家禽に給与することで、該家畜、家禽から得られる食肉の酸化の進行を防止し、保存品質を改善する効果を得ることができる。この効果は、特に、屠殺前の絶食及び感電、飼育時の暑熱暴露によって生体にストレスが生じた家禽体から得られる食肉に有用であり、かつ家畜、家禽肉を破砕及び加熱した加工肉について有効である。また、家畜、家禽の肝臓(レバー)で発生する脂質酸化物は、リポ酸及びビタミンEを投与することで一層低減される。上記食肉の酸化進行防止の効果は、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を含む飼料、又はゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物にリポ酸を併用した飼料を給与した家畜、家禽で、その併用による相乗的効果が得られ、また、食肉の酸化が著しい加工肉で優れた効果が得られる。本発明は、家畜、並びにストレスが生じる飼育環境下で飼育された家禽を含む家禽の体内で生ずる酸化反応(過酸化反応)を抑制し、該家畜、家禽から得られる食肉の酸化の進行を抑制し、かつ食肉の保存品質の改善を可能とする新しい食肉の高鮮度保持技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】屠殺直後のブロイラーの生浅胸筋における過酸化脂質量の変化を表すグラフである。
【図2】絶食及び感電処理のストレスを与えたブロイラーの生胸肉の過酸化脂質の変化を表すグラフである。
【図3】絶食及び感電処理のストレスを与えたブロイラーの破砕並びに加熱した加工肉の過酸化脂質の変化を表すグラフである。
【図4】暑熱に暴露して暑熱ストレスを与えたブロイラーにおける生肉の過酸化脂質の変化を表すグラフである。
【図5】暑熱に暴露して暑熱ストレスを与えたブロイラーにおける肝臓(レバー)の過酸化脂質の変化を表すグラフである。
【図6】屠殺直後及び冷蔵7日の生浅胸筋における過酸化脂質量の変化を表すグラフである。
【図7】絶食及び感電処理を与えたブロイラーの生胸肉中過酸化脂質の変化を表すグラフである。
【図8】絶食及び感電処理を与えたブロイラーの破砕並びに加熱した胸肉中過酸化脂質の変化を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を、家畜又は家禽に給与することで、該家畜又は家禽から得られる食肉及びその加工肉中の過酸化脂質含量を低下させることを特徴とする食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項2】
上記家畜又は家禽が、健康な家畜又は家禽、あるいは生体にストレスが生じた家禽である、請求項1に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項3】
飼育時、又は出荷若しくは屠殺時に生体にストレスが生じた家禽である、請求項2に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項4】
飼料にリポ酸を少なくとも50ppm混合する、請求項1に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項5】
上記家禽が、鶏である、請求項1から4のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項6】
上記ストレスが、暑熱、出荷時の絶食又は屠殺解体前の感電により生体に生じたものである、請求項2又は3に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項7】
ビタミンE及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与する、請求項1から6のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項8】
ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物を配合した飼料を給与する、請求項1から6のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項9】
ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を少なくとも0.3から1%の範囲で含む飼料を給与する、請求項8に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項10】
ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物にリポ酸を少なくとも50ppm含む飼料を給与する、請求項8又は9に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項11】
ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物を少なくとも0.3から1%の範囲で含み、かつリポ酸を少なくとも50ppm含む飼料を給与する、請求項8から10のいずれかに記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか1項に記載の食肉の酸化進行防止及び保存品質改善方法に使用するための飼料添加用組成物又は飼料であって、ゼオライトとフェライト及び木炭を含有する飼料添加物及びリポ酸を含有してなる飼料添加用組成物又は該飼料添加用組成物を配合した飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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