説明

香りの選定方法、選定された香りが付された体液吸収性物品、体液吸収性物品包装体及び装置

【課題】製品に付すのに最適な香りの種類を選定する。
【解決手段】体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズを抽出し、それぞれの感性フレーズを個別に想起した際の第1基準脳波を測定して処理し、複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理し、体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理し、処理後の第1基準脳波と香り脳波とを比較して得られる、感性フレーズ毎の第1感性出力を得て、処理後の第2基準脳波と香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得て、第2感性出力と、感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を複数の感性フレーズの中から決定し、感性フレーズの主要素における第1感性出力を指標にして、複数の香りの中から好ましい香りを選定する行程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液吸収性物品に付すのに適した香りを選定する香りの選定方法、選定された香りが付された体液吸収性物品、体液吸収性物品包装体及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アロマセラピーや香水等、香りを楽しむ需要者が増えている。この香りを楽しむという傾向は、生理用品等の日用品分野においてもみることができる。そして、製品に付されている香りの種類は、需要者が製品を選定する要素の一つとなっている。
【0003】
従来は、製品に付す香りを選定するには、需要者が好むと予想される香りを数種類用意して実際に香りを嗅いでもらい、その香りに関するアンケートを実施して、最も評価の高い香りを選定していた。このアンケートは、製品に付された香りについてどのように感じたかを書面に記載する方法や、感想に最も近い表現の選定肢を選定する方法等で個々のデータを取得するものであり、その手法は種々あるものの、従来の方法はすべて、香りを嗅いだ前後における、使用者に対する質問と使用者の回答を基礎としたものである(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、下記の非特許文献1には、周囲の環境や被験者の状態に左右されにくいものとして、脳波を測定し感性評価を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−013207号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「フラクタル感性情報工学(脳波の複雑性から感性を読み取る)」中川 匡弘,信学技報,2008年6号,社団法人電子情報通信学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、被験者の記憶を一種のパラメータとして使用し、香りを嗅いだときに想起される記憶に関して数値化を行う方法が開示されている。しかし、想起される記憶に関しても、常に同じ記憶が想起されるとは限らず、その場の環境や、被験者の緊張の程度等によっても容易に左右されてしまう。
【0008】
非特許文献1では、周囲の環境や被験者の状態に左右されにくいものとして、脳波を測定し、脳波フラクタル次元解析手法を用いて感性評価を行う方法が開示されているが、この方法は既存の製品について導き出される感性の評価が可能であるに過ぎず、これを用いた実際の製品評価、特に香りの選定方法への適用は行われていない。
【0009】
本発明は、製品に付すのに最適な香りの種類を選定する方法、当該方法により選定された香りを付した体液吸収性物品、当該方法により選定された香りに適したフレーズが付された該体液吸収性物品及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、体液吸収性物品に付すのに好ましい香りを、複数の香りの中から選定する方法であって、前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズを抽出する第1行程と、それぞれの前記感性フレーズを個別に想起した際の第1基準脳波を測定して処理する第2行程と、前記複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理する第3行程と、前記体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理する第4行程と、前記処理後の第1基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を得る第5工程と、前記処理後の第2基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得る第6工程と、前記第2感性出力と、前記感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、前記体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を前記複数の感性フレーズの中から決定する第7行程と、前記感性フレーズの主要素における前記第1感性出力を指標にして、前記複数の香りの中から好ましい香りを選定する第8行程と、を備える香りの選定方法に関する。
【0011】
また、前記脳波の測定後の処理を脳波フラクタル次元解析法により行うことが好ましい。
【0012】
また、前記第7行程は、前記第2感性出力を目的変数とし、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を説明変数とした重回帰分析により行うことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記の方法によって選定された香りを付した体液吸収性物品を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記の方法によって選定された香りを付した体液吸収性物品の包装体に、前記主要素の感性フレーズ、又は該感性フレーズに類似のフレーズが付された体液吸収性物品包装体を提供する。
【0015】
また、本発明は、体液吸収性物品に付すのに好ましい香りを、複数の香りの中から選定する装置であって、前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズの入力を入力手段から受け付け、記憶手段に記憶させる手段と、前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズをそれぞれ個別に想起した際の第1基準脳波を測定して処理する第1基準脳波測定手段と、前記複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理する香り脳波測定手段と、前記体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理する第2基準脳波測定手段と、前記処理後の第1基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を得る第1感性出力取得手段と、前記処理後の第2基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得る第2感性出力取得手段と、前記第2感性出力と、前記感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、前記体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を前記複数の感性フレーズの中から決定する主要素決定手段と、前記感性フレーズの主要素における前記第1感性出力を指標にして、前記複数の香りの中から好ましい香りを選定する香り選定手段と、を備える装置に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製品に付すのに最適な香りの種類を選定する方法、当該方法により選定された香りを付した体液吸収性物品、当該方法により選定された香りに適したフレーズが付された該体液吸収性物品、及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る香りの選定方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態に係る感性フレーズを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る第7行程の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る第8行程の結果を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る第8行程の結果を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る第8行程の結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る第8行程の結果を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る香りの選定方法の概要について説明する。図1は、香りの選定方法の概要を示すフローチャートである。また、図8は、本発明の実施形態に係る装置10の機能構成を示すブロック図である。なお、本実施形態においては、体液吸収性物品として、パンティライナに付す香りの選定方法及び装置10について説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る香りの選定方法は、大きく8つの行程を含む。まず、第1行程では、体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズを設定する(図1のS1)。第2行程では、それぞれの感性フレーズを個別に想起し、そのときの脳波を第1基準脳波としてそれぞれ測定して処理する(図1のS2)。第3行程では、複数の香りを個別に嗅いだ際の被験者の脳波(香り脳波)をそれぞれ測定して処理する(図1のS3)。第4行程では、被験者に体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起させ、その際の被験者の脳波を第2基準脳波として測定して処理する(図1のS4)。第5行程では、第1基準脳波と香り脳波とをそれぞれ比較して得られる、感性フレーズ毎の第1感性出力を得る(図1のS5)。第6行程では、第2基準脳波と香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得る(図1のS6)。第7行程では、第2感性出力と感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を複数の感性フレーズから決定する(図1のS7)。そして、第8行程では、第7行程で決定した香りの主要素となった感性フレーズについての第1感性出力を指標にして、複数の香りの中から好ましい香りを選定する(図1のS8)。
【0021】
また、本発明に係る装置10は、制御部11と記憶手段である記憶部12と、入力手段13と、出力手段14と、を備える。制御部11は、第1基準脳波測定手段111と、香り脳波測定手段112と、第2基準脳波測定手段113と、第1感性出力取得手段114と、第2感性出力取得手段115と、主要素決定手段116と、香り選定手段117と、を備える。また、記憶部12は、リファレンス脳波記憶手段121と、第1基準脳波記憶手段122と、香り脳波記憶手段123と、第2基準脳波記憶手段124と、を備える。
【0022】
以下、図1から図8を参照しながら本発明の実施形態に係る香りの選定方法及び装置10について、各工程を説明する。
【0023】
[第1行程]
第1行程(図1のS1)では、体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズを設定する。感性フレーズ受付手段110は、入力手段13により入力された複数の感性フレーズを後述する各処理において使用する感性フレーズとして設定する。例えば、感性フレーズ受付手段110は、出力手段14に所定の入力用画面を表示させ、当該画面内の入力欄に感性フレーズの入力を促す。そして、入力欄に感性フレーズが入力された場合に、感性フレーズ受付手段110は、入力手段13により入力された複数の感性フレーズを受け付けて記憶部12に記憶させる。ここで本実施形態では、感性フレーズは、被験者が香りを嗅いだ際の印象を象徴する表現をいう。例えば「リラックス」や「爽快感」等の香りを嗅いだ際に想起される気分や感情を示す表現が挙げられ、好ましくは、気分や感情の良さを示す表現であることが好ましい。本実施形態においては、図2に示すように、「リラックス」、「幸せ」、「爽快感」、「やさしい」、「豪華な」、「ときめき」、「元気な」、「かわいい」、「清潔な」、「和らぐ」の10語を設定したものとしている。
【0024】
感性フレーズは、香りを付す対象製品に応じて設定することができ、本実施形態で設定した表現に限られない。また、感性フレーズは、任意のものを設定することができる。例えば、対象製品について過去に使用された頻度の高い表現や商品に付された場合に需要者の注意を引きやすい表現等、マーケティング調査の結果等を参照してもよい。また、予め複数の言葉を登録した辞書データベースを用意して任意に抽出するようにしてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、感性フレーズとして言語による表現を使用するがこれに限らず何らかの図形や色若しくは文字、図形、色等の組み合わせであってもよい。
【0026】
[第2行程]
第2行程(図1のS2)では、それぞれの感性フレーズを個別に想起し、そのときの脳波を第1基準脳波としてそれぞれ測定して処理する。
【0027】
まず、複数の被験者を個別に椅子に座らせ、第1基準脳波測定手段111により、眼を閉じて安静にした状態で脳波を30秒間測定される(安静脳波)。この脳波は、脳波フラクタル次元解析法により処理され、処理後の安静脳波となる。この安静脳波は、リファレンス脳波記憶手段121に記憶される。
【0028】
その後、被験者に目を閉じて安静にした状態のまま、図2の表1に示す10語の感性フレーズをそれぞれ想起させ、第1基準脳波測定手段111は、各感性フレーズを想起した際の脳波を30秒間測定し、処理を行う。本実施形態では感性フレーズは10語であるので、第1基準脳波は、被験者1人に対して10回測定される。そして、感性フレーズ毎の第1基準脳波は、脳波フラクタル次元解析法により処理され、処理後の第1基準脳波を得る。なお、脳波の測定後の処理は、非特許文献1の脳波フラクタル次元解析法により行われる。また、第1基準脳波測定手段111は、第1基準脳波を第1基準脳波記憶手段122に記憶させる。
【0029】
フラクタル次元解析法は、多チャンネルで計測した生体信号(本実施形態では脳波)について、それらのチャンネル間の差分信号に対して、フラクタル次元解析を行う。本実施形態においては、非特許文献1に記載されているように、q次モーメントを用いた手法を用いて処理を行う。これにより、感性テンソルとバイアスペクトルを得ることができる。
【0030】
脳波の測定は、既存の測定方法により行うことができ、例えば非特許文献1に開示されているような方法で測定を行なうことができる。本実施形態では、被験者の頭部に16個の電極を配置し、複数種類の脳波信号を測定する。以降の脳波の測定も同様である。
【0031】
[第3行程]
第3行程(図1のS3)では、香り脳波測定手段112は、複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理し、処理後の香り脳波を取得する。複数の香りは、対象製品に付すr種類の候補となる香りである。第3行程では、パンティライナに個別に香りを付し、複数の香りそれぞれについて、被験者に香りを嗅がせ、そのときの脳波を測定する。ここで測定した脳波を香り脳波とする。また、香り脳波は、香り脳波記憶手段123に記憶される。本実施形態ではr=6であるが、好ましいrは1から10である。rが10を超えると、被験者の感覚が麻痺して安定した脳波が得られにくい。
【0032】
本実施形態では、サンプルAからサンプルDの香りを含む6種類の香りを使用した。そして、6種類のそれぞれの香りを付したパンティライナを被験者に手に取らせ、開かせて顔の前で目を閉じた状態で香りを嗅がせる。そして、香り脳波測定手段112は、各サンプルそれぞれについての香りを嗅いでいるときの脳波を30秒間測定する。したがって、香り脳波は被験者1名に対してr回測定される。これらの香り脳波は、脳波フラクタル次元解析法により処理され、処理後の香り脳波を得る。そして、香り脳波測定手段112は、香り脳波を香り脳波記憶手段123に記憶させる。
【0033】
香り成分の具体例としては特に限定されないが、一例を挙げれば、本実施形態のサンプルAの香りの成分は、主な成分として、化学物質では、p−tブチル−α−メチルヒドロけい皮酸アルデヒド、1−(1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2,3,8,8−テトラメチル−2−ナフタレニル)エタナール、4,6,6,7,8,8−ヘキサメチル−1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロシクロペンタ[g][2]ベンゾピラン、メチル(2−フェニル−3−オキソシクロペンチル)アセテート、ヘキシルシナミックアルデヒドアルファの混合物であり、他に、エッセンシャルオイルとして、ペパーミント、レモン、バジルを含むものである。
【0034】
サンプルBの香りの成分は、化学物質では、メチル(2−ペンチル−3−オクソシクロペンチル)アセテート、1−(1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2、3,8,8−テトラメチル−2−ナフタレニル)−エタノン、エチレンブラシレート、p−tブチル−α−メチルヒドロけい皮酸アルデヒド、4,6,6,7,8,8−ヘキサメチル−1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロシクロペンタ[g][2]ベンゾピランの混合物であり、他に、エッセンシャルオイルとして、イランイラン、ブルガリアローズを含むものである。
【0035】
サンプルCの香りの成分は、主な成分として、化学物質では、ヘキシルシナミックアルデヒド、リリアル、リナロール、ジプロピレングリコールを含むものである。
【0036】
サンプルDの香りの成分は、主な成分として、化学物質では、リナロール、デヒドロジャスモン酸メチル、ベンジルアセテート、ジプロピレングリコールを含むものである。
【0037】
なお、それぞれのサンプルに付す香りの成分は任意であり、候補となる香りの種類に応じて任意に選定し、配合することができ、本実施形態において挙げた成分の種類及び数に限られない。
【0038】
[第4行程]
第4行程(図1のS4)では、パンティライナに付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理する。具体的には、被験者に第3行程で嗅いだ複数の香りを基礎として、パンティライナに付すのに最も好ましい香り(=理想の香り)を想起させ、第2基準脳波測定手段113は、そのときの脳波を測定して処理する。この第4行程で測定した脳波を第2基準脳波とする。この第2基準脳波は被験者1名に対して1回測定される。そして、第2基準脳波も脳波フラクタル次元解析法により処理され、処理後の第2基準脳波を得る。そして、第2基準脳波測定手段113は、第2基準脳波を第2基準脳波記憶手段124に記憶させる。
【0039】
したがって、基準脳波となるのは、被験者に10語の感性フレーズをそれぞれ想起させた際の脳波を測定した10の第1基準脳波と、被験者にパンティライナに最も好ましい香りを想起させた際の脳波を測定した1の第2基準脳波の、計11の脳波となり、これらが、それぞれフラクタル次元解析により処理される。
【0040】
[第5行程]
第5行程(図1のS5)では、処理後の安静脳波と処理後の第1基準脳波との差分から得られるリファレンス脳波と、処理後の香り脳波とを比較して得られる、感性フレーズ毎の第1感性出力を得る。詳細には、第1感性出力取得手段114は、10語の感性フレーズ毎のリファレンス脳波と2つの香り脳波とをそれぞれ比較し、フラクタル次元解析法により第1感性出力を求める。感性出力を得る手法は、例えば、非特許文献1により開示された方法を使用することができる。
【0041】
[第6行程]
第6行程(図1のS6)では、処理後の安静脳波と処理後の第2基準脳波との差分から得られるリファレンス脳波と、処理後の香り脳波とを比較して得られる、感性フレーズ毎の第2感性出力を得る。詳細には、第2感性出力取得手段115は、パンティライナに付すのに最も好ましい香りを想起した際のリファレンス脳波と2つの香り脳波とをそれぞれ比較し、フラクタル次元解析法により第2感性出力を求める。フラクタル次元解析法は、第5行程と同様に、例えば、非特許文献1により開示された方法を使用することができる。
【0042】
[第7行程]
第7行程(図1のS7)では、第2感性出力と、感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、パンティライナに求められる好ましい香りの主要素を複数の感性フレーズの中から決定する。
【0043】
詳細には、主要素決定手段116は、パンティライナに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波と香り脳波から得られた第2感性出力を目的変数とし、感性フレーズ毎の第1感性出力を説明変数とした重回帰分析により香りの主要素を感性フレーズの中から決定する。具体的には、主要素決定手段116は、下記の式を用いて計算処理を行う。この実施形態においてはn=29人、r=6種類、i=10種類である。
【数1】

Sn:(目的変数)第2感性出力
Xn,i:(説明変数)第1感性出力
n :被験者数
r :香り
i :感性フレーズ
【0044】
これにより、パンティライナに最も好ましい香りと感性フレーズとの相関性が最も高い感性フレーズが香りの主要素として決定される。すなわち、パンティライナに最も好ましい香りを表現するのに好ましい感性フレーズを得ることができる。
【0045】
第7行程の結果は、重回帰分析によって図3に示すようなグラフ2で表すことができる。本実施形態では、10語の感性フレーズのうち「豪華な」という感性フレーズが最も相関性が高く、次いで「やさしい」「爽快感」となることがわかる。したがって、この実施形態においては、香りの主要素となる感性フレーズは「豪華な」と決定される。なお、主要素とは、相関性の高い感性フレーズを意味し、香り選定における指標となり得るものであればよく、必ずしも一つである必要はない。
【0046】
[第8行程]
第8行程(図1のS8)では、感性フレーズの主要素における第1感性出力を指標(本実施形態においては「豪華な」)にして、複数の香りの中から好ましい香りを選定する。詳細には、香り選定手段117は、第7行程で得られた香りの主要素について、感性フレーズ毎の第1感性出力を指標として、下記の式2を用いて最も値の高い感性フレーズと香りとの組み合わせを求める。
【数2】

Xn,i:第1感性出力
Wn,i:第2感性出力
n:感性フレーズ
r:香り
i:被験者数
【0047】
サンプルA及びサンプルBのそれぞれの香りについて、式2を使用して値yを求めた結果を図4から図7に示す。被験者数iが第7工程の29人から23人に減少しているのは、重回帰分析によって相関性の低い6名を除外したためである。図4はサンプルAの香りについての結果を示す図であり、図5はサンプルBについての結果を示す図であり、図6はサンプルCについての結果を示す図であり、図7は、サンプルDについての結果を示す図である。
【0048】
サンプルBとサンプルCとでは、10語の感性フレーズについてyの値を合計した結果はほとんど差が見られなかった。しかし、個々の感性フレーズに関するyの値の分布については大きな差が見られたことがわかる。
【0049】
サンプルA及びBでは、第7行程で香りの主要素となった感性フレーズである「豪華な」の値が高いが、サンプルC及びDでは逆に、「豪華な」の感性フレーズでは低い値を示している。
【0050】
したがって、香りの主要素となる感性フレーズである「豪華な」について好ましい香りはサンプルAの香りであることがわかる。そして、パンティライナに付されるのに最も好ましい香りは、サンプルA及びBが選定されることになる。
【0051】
[製品への適用]
本実施形態に係る香りの選定方法によって、パンティライナに付されるのに最も好ましい香りを選定することができる。香りを嗅いだときや感性フレーズを想起したときの脳波は、周囲の環境等に左右されにくい傾向がある。特に、被験者がある香りを嗅いだ際やその後のアンケートに記入する際に、何らかの感性フレーズが表示されていた場合、需要者が見た感性フレーズに大きく影響されることもない。例えば、「ほっとやすらぐ」といった感性フレーズが製品の包装体に付されており、実際には、パンティライナにフルーティなイメージの香りが付されていたような、表現と香調が不一致の場合でも、当該表現を付さないときの結果と変わらない結果を得ることができる。この点、香り選定における外的要因を排除して客観的な香り選定が可能となる。
【0052】
<香りを付した体液吸収性物品>
上記の香り選定方法により選定された香りをパンティライナ等の体液吸収性物品に付したものが本発明の体液吸収性物品である。本実施形態からは、「豪華な」という感性フレーズがパンティライナにおける客観的な主要素であり、この主要素が高い香りのサンプルAが、香りr種類のなかで最もパンティライナにおける好ましい香りということができる。
【0053】
<体液吸収性物品包装体>
なお、上記主要素となる感性フレーズ又はこれと類似のフレーズを当該体液吸収性物品の包装容器に付した包装体も、本発明の体液吸収性物品包装体である。ここで、類似のフレーズとは、図1に示すような感性フレーズに関連する関連フレーズを意味するものである。本実施形態で言えば、香りの主要素となった感性フレーズである「豪華な」という語、又は関連フレーズである「高級な」「贅沢な」等のフレーズを、サンプルAの香りが付されたパンティライナの包装体に表示することができる。
【0054】
香りの主要素となった感性フレーズを体液吸収性物品の包装体に付すことで、パンティライナに付されるのに最も好ましい香りを表現する感性フレーズが包装体に表示されることになる。これにより、需要者は、包装体に表示された当該感性フレーズを視認した際に、パンティライナに付されるのに最も好ましい香りが付されていることを予感させることができる。そして、需要者は、包装体を開封した際に当該感性フレーズに最も親和性の高い香りを嗅ぐことができる。これにより、感性フレーズから生じる印象とともに、当該感性フレーズに最も親和性の高い香りを嗅いだことにより、予感どおりの香りを嗅ぐことができたという安心感や満足感を需要者に生じさせることができる。このため、製品の購買意欲の向上に資することができる。
【0055】
装置10は、コンピュータ及びその周辺装置を使用することができる。本実施形態における各部、各手段は、コンピュータ及びその周辺装置が備えるハードウェア並びにこのハードウェアを制御するソフトウェアによって構成される。
【0056】
上記ハードウェアとしては、制御部11及び記憶部12が該当し、制御部11としては、CPU等のコンピュータの制御装置を挙げることができる。なお、制御部11には、外部ネットワークへの接続が可能な通信部を含んでもよい。この通信部は、各種有線及び無線インターフェース装置が挙げられる。記憶部12としては、例えば、メモリ(RAM、ROM等)、ハードディスクドライブ(HDD)及び光ディスク(CD、DVD等)ドライブが挙げられる。出力手段14としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイが挙げられる。入力手段13としては、例えば、キーボード及びポインティング・デバイス(マウス、トラッキングボール等)が挙げられる。また、被験者の頭部から脳波を電気信号として装置10に入力する手段等のコンピュータによって処理される電気信号を装置10に入力する手段も入力手段13に含む。
【0057】
上記ソフトウェアには、上記ハードウェアを制御するコンピュータ・プログラムやデータが含まれる。コンピュータ・プログラムやデータは、記憶部12により記憶され、制御部11により適宜実行、参照される。また、コンピュータ・プログラムやデータは、通信ネットワークを介して配布することも可能であり、CD−ROM等のコンピュータ可読媒体に記憶して配布することも可能である。
【0058】
本実施形態では、図8において、装置10において各手段による一連の処理を行うとしたが、これに限らない。例えば、第1基準脳波測定手段111、香り脳波測定手段112、第2基準脳波測定手段113、第1感性出力取得手段114及び第2感性出力取得手段115を一つの装置10において処理を行い、主要素決定手段116及び香り選定手段117を異なる装置や処理手段で行ってもよい。また、装置10の各手段をそれぞれ異なる装置や処理手段で行ってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力手段
14 出力手段
110 感性フレーズ受付手段
111 第1基準脳波測定手段
112 香り脳波測定手段
113 第2基準脳波測定手段
114 第1感性出力取得手段
115 第2感性出力取得手段
116 主要素決定手段
117 香り選定手段
121 リファレンス脳波記憶手段
122 第1基準脳波記憶手段
123 香り脳波記憶手段
124 第2基準脳波記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液吸収性物品に付すのに好ましい香りを、複数の香りの中から選定する方法であって、
前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズを設定する第1工程と、
それぞれの前記感性フレーズを個別に想起した際の第1基準脳波を測定して処理する第2工程と、
前記複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理する第3工程と、
前記体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理する第4工程と、
前記処理後の第1基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を得る第5工程と、
前記処理後の第2基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得る第6工程と、
前記第2感性出力と、前記感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、前記体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を前記複数の感性フレーズの中から決定する第7工程と、
前記感性フレーズの主要素における前記第1感性出力を指標にして、前記複数の香りの中から好ましい香りを選定する第8工程と、を備える体液吸収性物品の香り選定方法。
【請求項2】
前記脳波の測定後の処理を脳波フラクタル次元解析法により行う請求項1記載の体液吸収性物品の香り選定方法。
【請求項3】
前記第7工程は、前記第2感性出力を目的変数とし、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を説明変数とした重回帰分析により行う請求項1又は2に記載の体液吸収性物品の香り選定方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載の香り選定方法によって選定された香りを付した体液吸収性物品。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の香り選定方法によって選定された香りを付した体液吸収性物品の包装体に、前記主要素の感性フレーズ、又は該感性フレーズに類似のフレーズが付されている体液吸収性物品包装体。
【請求項6】
体液吸収性物品に付すのに好ましい香りを、複数の香りの中から選定する装置であって、
前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズの入力を入力手段から受け付け、記憶手段に記憶させる手段と、
前記体液吸収性物品に関連する複数の感性フレーズをそれぞれ個別に想起した際の第1基準脳波を測定して処理する第1基準脳波測定手段と、
前記複数の香りを嗅いだ際の香り脳波をそれぞれ測定して処理する香り脳波測定手段と、
前記体液吸収性物品に付すのに最も好ましい香りを想起した際の第2基準脳波を測定して処理する第2基準脳波測定手段と、
前記処理後の第1基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、前記感性フレーズ毎の第1感性出力を得る第1感性出力取得手段と、
前記処理後の第2基準脳波と前記処理後の香り脳波とを比較して得られる、第2感性出力を得る第2感性出力取得手段と、
前記第2感性出力と、前記感性フレーズ毎の第1感性出力との相関性から、前記体液吸収性物品に求められる好ましい香りの主要素を前記複数の感性フレーズの中から決定する主要素決定手段と、
前記感性フレーズの主要素における前記第1感性出力を指標にして、前記複数の香りの中から好ましい香りを選定する香り選定手段と、を備える装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−27435(P2013−27435A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163745(P2011−163745)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】