説明

香料組成物

【課題】人間の精神的作業効率を、簡便かつ顕著に改善する香料組成物の提供。
【解決手段】パチョリ油を含有する精神的作業の効率改善用の香料組成物、これを含有し、精神的作業の効率改善のために使用される旨の表示を付した製品、及びこの香料組成物を揮散させて吸入することによる精神的作業効率の改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精神的作業効率の改善のために使用される香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、香りが嗅覚を介して人間の生理や心理状態に種々の影響を与えることが報告されている。この生理的、心理的作用には、例えば、リラックス感・鎮静感の向上効果、高揚感の向上効果、安眠促進(誘眠)、ストレス緩和、反応性の向上又は抑制効果などがあり、これらは、香料素材、あるいは調合香料として様々な手法により効果が検証されている。
【0003】
香りによる作業効率への影響もまた、これら香りのもたらす効果の一つである。香りによる作業効率への効果が検証された先行研究として、例えば、ジャスミン茶、ラベンダー又はそれらの香気成分であるR-(-)-リナロールの香りを5分間嗅がせた後にクレペリン作業を行わせた場合、作業量が増加し、誤答率が低下したことが報告されている(非特許文献1)。また、ジャスミン又はα-ピネンの香りを被験者に与えた場合、クレペリン検査における作業解答訂正率が、コントロールに対し有意に低下したことが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
【非特許文献1】AROMA RESEARCH No.15 (Vol.4/No.3 2003) p.68-75
【非特許文献2】日本味と匂学会誌,第23巻,第55〜38頁,1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、人間の精神的作業効率を、簡便かつ顕著に改善する香料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、パチョリ油を含有する精神的作業の効率改善用の香料組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、上記の香料組成物を含有し、精神的作業改善のために使用される旨の表示を付した製品を提供するものである。
【0008】
更に、本発明は、上記の香料組成物を揮散させて吸入することによる精神的作業効率の改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精神的作業の効率を、極めて簡便にかつ顕著に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、「精神的作業」とは、肉体的作業以外の、人間の精神活動に基づいた作業をいい、「効率改善」とは、作業量の向上、ミスの低減等、精神的作業の量的・質的向上をいう。
【0011】
本発明に使用されるパチョリ油としては、例えば、シソ科の多年草であるパチョリ(Pogostemon Cablin又はPogostemon Patchouli)の葉を水蒸気蒸留することにより得られた精油を用いることができる。
【0012】
パチョリ油は、単独で用いてもよいし、本発明の効果を損なわない限り、他の香料(他の精油又は合成香料)と混合して用いてもよい。本発明の香料組成物におけるパチョリ油の含有量は、0.1〜100質量%、特に1〜50質量%が好ましい。
【0013】
また、匂いの強さを調整するため、水や有機溶剤、例えばクエン酸トリエチル、ジプロピレングリコール、エタノール、ベンジルベンゾエート、イソプロピルミリステート、ジエチルフタレート、流動パラフィン、グリセリン等で希釈して用いてもよい。
【0014】
また、本発明の香料組成物は、そのまま又は希釈した状態で、布、不織布、綿等の繊維、セラミック、シルカゲル、多孔性セルロース粒子等の多孔物質;ゼラチン、寒天、メチルセルロース等の天然高分子物質を使用した水系ゲル;ポリアクリル酸系化合物、ポリメタクリル酸系化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂等の合成高分子物質;その他、木材チップ、粘土物質、高級脂肪酸エステル、高級ワックス、油性物質等に担持させて用いてもよい。
【0015】
本発明の香料組成物を揮散させる方法としては、上記のような担体中に含浸させ、自然に揮散させる方法のほか、芳香器や芳香装置を用いた揮散、スプレーやエアゾールによる揮散、エアコン、加湿器、空気清浄機、扇風機等の空調器を介した揮散、温水を用いた揮散等による方法がある。揮散濃度は、80〜500ppb、特に100〜300ppbが好ましい。
【0016】
本発明の香料組成物は、精神的作業に関しあらゆるレベルにある人間に適用可能であるが、特に、代表的な精神的作業検査であるクレペリン検査において、作業量から低レベル群(内田クレペリン検査におけるB〜D段階)に分類される者、すなわちクレペリン検査の結果を下記の3つの作業量レベルに分類したとき、低レベル群に分類される者に対し、好適に適用することができる。
【0017】
【表1】

【0018】
更に、本発明の香料組成物は、必要に応じて補助成分と組み合わせて調合し、又は更にこれを配合して製品化することができる。その形態は、香水、コロン等のフレグランス製品;クリーム、乳液、ボディーローション、ボディーパウダー、制汗防臭剤等のスキンケア製品;ヘアーシャンプー、ヘアーコンディショナー、ヘアートリートメント、ヘアークリーム、ヘアーローション、ヘアースプレー等のヘアケア製品;室内芳香剤、消臭剤、薫香、線香、ろうそく等の環境衛生製品;繊維用洗剤、柔軟剤、住居用洗剤等のハウスホールド製品;吸入薬等の医薬品等、いずれの形態であってもよい。
【0019】
これら製品への本発明の香料組成物の配合量は、使用目的などを考慮して適宜決定すればよく、吸入により精神的作業効率の改善する効果が充分得られる量であればよい。使用形態および選択される香料組成物の処方によっても異なるが、上記製品における本発明の香料組成物の含有量は、0.001〜50重量%、更には0.001〜30質量%、特に0.01〜10質量%が好ましい。
【0020】
以上のような本発明の香料組成物、又はこれを含有する製品は、精神的作業の効率改善のために使用される旨の表示を付して提供することができる。
【実施例】
【0021】
〔精神的作業効率の改善の検査方法〕
精神的作業効率の改善程度の測定は「内田クレペリン精神検査・基礎テキスト」、(株)日本・精神技術研究所発行、金子書房、2002年5月10日改定版、第18頁「検査実施方法」の項に記載された方法に従って行った。
女子大学生39名(平均年齢=19.41歳、標準偏差=0.72)を対象とした。クレペリン検査実施用号令テープに従い、15分間の前期検査、5分間の休憩、15分間の後期検査を行った。パチョリ油を揮散させた場合(パチョリ油条件)と、パチョリ油を揮散させない空気のみの場合(香り無し条件)について検査を行った。検査に対する慣れを排除するため、各条件間はおよそ1ヶ月の期間をおいて行った。
パチョリ油の揮散条件は次のとおりである。パチョリ油は、100%天然の精油(葉,水蒸気蒸留)を3mLスポイトで2滴(約0.06g)、25mm×35mm×厚さ2.1mmの濾紙に含浸させ、これをシャーレに置いたものを芳香拡散装置内のケースに入れた。この芳香器を2台用意し、実験室(890(縦)×745(横)×324(高さ)cm=214.8×103 m3)の前後に、噴出し口の位置がそれぞれ床から135cmの高さになるように設置した。
クレペリン検査実施用号令テープの開始合図から約1分後に、風量が芳香器1台あたり2.14×10-2 m3/minとなるように、芳香器2台を稼動させた。
【0022】
〔解析〕
熟練した専門テスターにより、検査の作業量、作業曲線等から、被験者の検査結果を作業量レベルという指標に基づき判定した。この作業量レベルをもとに、下記の3つの群に分類し、それぞれの群に対する、誤答率、後期上回り率を算出した。
【0023】
算出方法:
「後期誤答率」=「後期総誤答数÷後期総作業数×100」
「後期上回り率」=「後期平均作業量÷前期平均作業量×100」
【0024】
作業量レベルの分類は、パチョリ油を揮散させない空気のみの場合における前期及び後期の作業量から、被験者を以下のように分類した。作業量は、「知能」、「作業の処理能力」、「積極性」、「活動のテンポ」、「意欲」、「気働き(ことに応じてすばやく反応する能力)」などの高低と関係があると考えられている(「内田クレペリン精神検査・基礎テキスト」,(株)日本・精神技術研究所発行,(株)金子書房,第11頁,2002年改訂版第19刷)。
【0025】
【表2】

【0026】
〔結果〕
パチョリ油条件において、全被験者の平均の誤答率が、香り無し条件より低下した。特に後期においてその傾向が強かった。これを図1に示す。
更に作業量レベル別にみたところ、低レベル群でも、香り無し条件よりもパチョリ油条件で、後期の誤答率が低下していることが分かった。これを図2に示す。更に、低レベル群では、後期上回り率、後期作業量のいずれも、香り無し条件よりもパチョリ油条件で、スコアが向上することが確認された。これを図3及び図4に示す。
【0027】
〔処方例〕
パチョリ油を配合した各製品の香料処方例、及び、それを応用した製品配合例を示す。尚、処方量は全て質量部で示した。
【0028】
実施例1 ゲル芳香剤用香料組成物(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
パチョリアイアンフリー 4
スチラリルアセテート 10
ラズベリーケトン 16
アルデハイドC-14ピーチ 2
シトロネロール 100
フェニルエチルアルコール 50
メチルジヒドロジャスモネート 30
シクラメンアルデハイド 15
リナロール 50
イオノンベータ 4
メチルイオノンガンマ 160
アセチルセドレン 60
サンダルマイソールコア 20
ガラクソライドIPM 340
テンタローム 100
カラナール 6
ヘリオトロピン 15
ジプロピレングリコール 18
合計 1000
【0029】
実施例2 液体ボディソープ用香料組成物(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
パチョリアイアンフリー 20
アルデハイドC-12(L) 10
ラベンダーオイル 45
シトロネロール 60
ゲラニオール 170
ヒドロキシシトロネラール 45
リラール 175
インドール 10
ターピネオール 150
p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート 165
テンタローム 150
ジプロピレングリコール バランス
合計 1000
【0030】
実施例3 オーデコロン用香料組成物(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
パチョリアイアンフリー 30
シス-3-ヘキセニルアセテート 0.26
カローン 3
ヘリオナール 30
アリルアミルグリコレート 0.1
ネロール 5
メチルジヒドロジャスモネート 400
エチルリナロール 130
リリアール 40
アセチルセドレン 50
ムセノンデルタ 8
アンブロキサン 15
ベンジルサリシレート 4
ジプロピレングリコール バランス
合計 715.36
【0031】
実施例4 スキンクリーム用香料組成物(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
パチョリアイアンフリー 2
ベルガモットオイル 30
シス-3-ヘキセニルサリシレート 20
メチルイソオイゲノール 30
アルファダマスコン 1.5
シトロネロール 70
メチルジヒドロジャスモネート 200
イランイランエクストラ 10
リナロール 100
メチルイオノン 60
アンバーコア 50
イソボルニルシクロヘキサノール 60
ガラクソライドBB 200
ベンジルサリシレート 40
ジプロピレングリコール 126.5
合計 1000
【0032】
実施例5 繊維柔軟剤用香料組成物(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
パチョリアイアンフリー 60
ジヒドロミルセノール 30
アリルアミルグリコレート 5
トリシクロデセニルアセテート 50
シトロネロール 50
デルタダマスコン 10
ジフェニルオキシド 10
ヘキシルシンナミックアルデハイド 150
メチルアンスラニレート 2
リリアール 60
リナロール 100
p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート 100
ガラクソライドI.P.M. 200
エチルバニリン 15
クマリン 35
ジプロピレングリコール 126.5
合計 1000
【0033】
実施例6 ゲル芳香剤(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
カラギーナン 3
プロピレングリコール 2
プロピルパラベン 0.3
実施例1の香料組成物 5
イオン交換水 89.7
合計 100
【0034】
実施例7 液体ボディソープ(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
ヤシ油脂肪酸カリ 10
ミリスチン酸カリ 15
プロピレングリコール 8
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 5
ソルビット 5
エデト酸四ナトリウム四水塩 適量
色素 適量
実施例2の香料組成物 0.5
精製水 バランス
合計 100
【0035】
実施例8 オーデコロン(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
エタノール 60
実施例3の香料組成物 10
水 29.9
ポリオキシエチレン(60)硬化ひまし油 0.1
合計 100
【0036】
実施例9 スキンクリーム(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
ステアリン酸 10
ステアリルアルコール 4
ステアリン酸ブチル 8
ステアリン酸モノグリセリンエステル 2
ビタミンEアセテート 0.5
ビタミンAパルミテート 0.1
マカデミアナッツ油 1
茶実油 3
グリセリン 4
1,2-ペンタンジオール 3
ヒアルロン酸ナトリウム 1
水酸化カリウム 2
アスコルビン酸リン酸マグネシウム 0.1
L-アルギニン塩酸塩 0.01
エデト酸三ナトリウム 0.05
実施例4の香料組成物 0.4
防腐剤 適量
精製水 バランス
合計 100
【0037】
実施例10 繊維柔軟剤(精神的作業効率改善用)
配合成分 (質量部)
N-(3-アルカノイルアミノ)プロピル-N,N-ジメチルアミン塩酸塩 10
ステアリン酸 0.1
ラウリン酸/ミリスチン酸=50/50 0.1
ゲルベ型アルキル(C24)硫酸エステルナトリウム
(2-デシルテトラデシル硫酸エステルナトリウム) 5
塩化ナトリウム 1
エタノール 1.5
実施例5の香料組成物 0.3
イオン交換水又はpH調整剤 バランス
合計 100
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】パチョリ油の揮散により、全被験者の後期平均誤答率が低下することを示す図である。
【図2】低レベル群においても、パチョリ油の揮散により、後期平均誤答率が低下することを示す図である。
【図3】パチョリ油の揮散により、低レベル群における後期上回り率が向上することを示す図である。
【図4】パチョリ油の揮散により、低レベル群における後期平均作業量が向上することを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パチョリ油を含有する精神的作業の効率改善用の香料組成物。
【請求項2】
パチョリ油の含有量が0.1〜100質量%である請求項1記載の香料組成物。
【請求項3】
揮散された香料組成物を吸入して使用されるものである請求項1又は2記載の香料組成物。
【請求項4】
クレペリン検査の結果を下記の3つの作業量レベルに分類したとき、低レベル群に属する者に適用するものである請求項1〜3のいずれかに記載の香料組成物。
【表1】

【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の香料組成物を含有し、精神的作業の効率改善のために使用される旨の表示を付した製品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の香料組成物を揮散させて吸入することによる精神的作業効率の改善方法。
【請求項7】
クレペリン検査の結果を下記の3つの作業量レベルに分類したとき、低レベル群に属する者に適用するものである請求項6記載の精神的作業効率の改善方法。
【表2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−312691(P2006−312691A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136253(P2005−136253)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】