説明

香料組成物

【課題】フローラル−バルサミック調の香気を有する新規な香料組成物及び香料化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を含有する香料組成物、及びo−アニス酸シス−3−ヘキセニルである。


(式中、R1は、炭素数5〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基、又は炭素数7〜10のアリールアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローラル−バルサミック調の香気を有するo−アニス酸エステル類を含有する香料組成物、及び香料化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アニス酸エステル類は香料化合物として知られている。例えば、ステフェン・アークテンダー著「パーフューム アンド フレーバー ケミカルズ」(非特許文献1)には、アニス酸エステル類の種々のp−体が香料化合物として記載されている。具体的には、p−アニス酸プロピル(2662)が温和でデリケートな甘さのあるワイン調のフローラル香気を有すること、p−アニス酸イソプロピル(2663)が甘く、温和な暖かいフローラルハーバル様の香気を有すること、p−アニス酸ブチル(397)がかすかに甘いフローラル香気を有すること、p−アニス酸イソブチル(398)が新鮮なハーバル様、ワインフルーティ香気を有すること、p−アニス酸第3級ブチル(399)がかすかに重いウッディフローラル香気を有すること、p−アニス酸ヘキシル(1640)が温和なチェリーアニシック様フルーティフローラル香気を有すること、p−アニス酸ヘプチル(1517)がかすかに甘いフルーティワイン様香気を有することが記載されている。
【0003】
また、p−アニス酸メチル、p−アニス酸エチルは甘いフローラルの香気を有しており実際に使用されている。さらに、アニス酸メチル及びアニス酸エチルを有効成分として含有する、口腔用香料組成物(特許文献1)、及びフルーツ様香料組成物(特許文献2)も提案されている。
一方、o−アニス酸エステル類については、非特許文献1には、o−アニス酸メチル(1877)が暖かなハーバル様フローラルで少しスパイシーな香りを有すること、o−アニス酸エチル(1285)が甘いフローラル、重いフルーティな暖かい香気を有することが記載されているのみであり、その他のo−アニス酸エステル類の香気は知られていなかった。
【0004】
フローラル香気を有する香料素材は数多く知られているが、香りの流行は時代とともに絶えず変化しているため、新しい香料素材を見出すことは調香上極めて重要である。しかし、香料素材の香気は、化合物のわずかな構造の違いにより大きく異なるのが一般的である。また、香料素材に関しては低価格であること、化学的に安定であること、新しい香りであること等の様々な要望が存在する。例えば、バルサミック調の香りを有する香料としてはサリチル酸エステル類が知られているが、製造中や保存中に、しばしば鉄等の金属イオンとの接触でピンク色に着色し、そのままでは使用が困難になることも香料業界ではよく知られており、化学的に安定なバルサミック調の香料が望まれていた。
そのため、新しい香料を得るためには、僅かでも構造の異なる種々の化合物を合成し、その香気を検討することが極めて重要である。
【0005】
【非特許文献1】Steffen Arctander, “Perfume and flavor chemicals” Montclair, N.J., 1969
【特許文献1】特開2004−18431号公報
【特許文献2】特開2005−15686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フローラル−バルサミック調の香気を有する新規な香料組成物、及び香料化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、様々なo−アニス酸エステル類を合成し、その香気及び配合系について検討した結果、特定のo−アニス酸エステル類を含有する香料組成物が優れたフローラル−バルサミック調の香気を有し、残香性にも非常に優れ、化学的にも安定で、幅広い製品の賦香に有用であることを見出した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を含有する香料組成物、及び下記一般式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニルを提供する。
【0008】
【化1】

(式中、R1は、炭素数5〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基、又は炭素数7〜10のアリールアルキル基を示す。)
【0009】
【化2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フローラル−バルサミック調の香気を有し、かつ非常に高い残香性と化学的安定性を有する香料組成物、及び香料化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の香料組成物は、下記一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を含有することを特徴とする。
【0012】
【化3】

(式中、R1は、炭素数5〜10、好ましくは炭素数6〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数5〜10、好ましくは炭素数6〜8のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基、又は炭素数7〜10、好ましくは炭素数7〜8のアリールアルキル基を示す。)
【0013】
一般式(1)における炭素数5〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、3−メチル−1−ペンチル基、ヘプチル基、2−又は3−ヘプチル基、オクチル基、2−又は3−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、2−ノニル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基、2,6−ジメチルヘプチル基、3,7−ジメチル−1−オクチル基、デシル基等を例示することができる。
炭素数5〜10の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基としては、プレニル基(3−メチル−2−ブテニル基)、1−ペンテン−3−イル基、cis−3−ヘキセニル基(trans−2−ヘキセニル基、trans−3−ヘキセニル基、cis−4−ヘキセニル基、2,4−ヘキサジエニル基、1−オクテン−3−イル基、cis−6−ノネニル、2,6−ノナジエニル基、1−ノネン−3−イル基、9−デセニル基、シトロネリル基(3,7−ジメチル−6−オクテニル基)、ゲラニル基(2−trans−3,7−ジメチルー2,6−オクタジエニル基)、ネリル基(cis−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエニル基)等を例示することができる。
【0014】
炭素数5〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、4−イソプロピルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、2−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−(1−メチルエチル)シクロヘキサンメチル基、5−メチル−2−イソプロピルシクロヘキシル基、4−メチル−1−イソプロピルビシクロ[3.1.0]ヘキサン−3−イル基、1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−イル基)、endo−1,7,7−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−イル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、デカヒドロ−β−ナフチル基等を例示することができる。
炭素数5〜10のシクロアルケニル基としては、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニルメチル基、1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−イル基、6−メチル−3−イソプロペニルシクロヘキシル基、4−イソプロペニル−1−シクロヘキセニルメチル基、イソシクロゲラニオール(2,4,6−トリメチルー3−シクロヘキセニルメチル基等を例示することができる。
炭素数7〜10のアリールアルキル基としては、ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−メトキシ−2−フェニルエチル基等を例示することができる。
【0015】
一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類は、例えば、次の反応式で表される方法により製造することができる。
【0016】
【化4】

(式中、R2は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。R1は前記と同じである。)
【0017】
すなわち、o−アニス酸メチル、o−アニス酸エチル等のo−アニス酸低級アルキルエステル(3)とR1OH(2)とを、エステル交換触媒(4)の存在下で、エステル交換反応させることにより、一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を得ることができる。反応が進行するに従い発生するR2OH(5)は系外へ留去する。
【0018】
上記反応に用いられるエステル交換触媒(4)としては、特に制限はないが、収率の観点から、ナトリウムメトキシド、ジ−n−ブチルスズジアセテート等の有機スズ触媒、炭酸カリウム、有機チタン触媒等が好ましい。これらの中では、特にナトリウムメトキシド、ジ−n−ブチルスズジアセテート等の有機スズ触媒が好ましい。
溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒やジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒中で行うことができるが、生産性の観点から、無溶媒で行うことが好ましい。
用いるR1OH(2)の量は、o−アニス酸低級アルキルエステル(3)に対して0.7〜1.7倍モル、好ましくは0.8モル〜1.5倍モル、より好ましくは0.9〜1.3倍モルである。
エステル交換触媒(4)の使用量は、o−アニス酸低級アルキルエステル(3)に対して0.01〜10モル%、好ましくは0.05〜5モル%、より好ましくは0.1〜3モル%である。
【0019】
反応温度は、用いる溶媒の種類等により、適宜決定することができるが、通常80℃〜220℃、好ましくは130℃〜180℃である。反応圧力は常圧下又は減圧下で行うことができる。
反応が所望の平衡値に到達した後、酸を用いてエステル交換触媒(4)を中和して終了させるか、そのまま蒸留によりエステル交換触媒(4)を分離する。用いる酸としては、塩酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。これらの中では、無機酸が好ましい。
得られたo−アニス酸エステル類の含有液は、過剰に使用したR1OH(2)を減圧または常圧下に留去した後、通常の精密蒸留やシリカゲル等を充填したカラムクロマトグラフィにより精製し、香料として使用しうる純度にする。
【0020】
一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類は、例えば、次の反応式で表される方法によっても製造することができる。
【0021】
【化5】

(式中、R1は前記と同じである。)
【0022】
すなわち、o−アニス酸(6)とR1OH(2)とを酸触媒(7)の存在下に加熱して、直接エステル化することによっても、一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を得ることができる。
【0023】
上記反応に用いられる酸触媒(7)としては、特に制限はないが、収率の観点から、硫酸、塩酸等の鉱酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸、又は三フッ化ホウ素エーテラート等のルイス酸が好ましい。これらの中では、特に硫酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。
この反応は、一般に平衡反応であるため生成する水(8)を系外へ留去する方法が用いられる。そのために共沸溶媒として、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒やジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を用いることができるが、生産性の観点から、無溶媒で行うことが好ましい。
用いるR1OH(2)の量は、o−アニス酸(6)に対して0.7〜1.7倍モル、好ましくは0.8〜1.5倍モル、より好ましくは0.9〜1.3倍モルである。
また、酸触媒(7)の使用量は、o−アニス酸(6)に対して0.01〜30モル%、好ましくは0.05〜5モル%、より好ましくは0.1〜3モル%である。
【0024】
反応温度は、用いる溶媒の種類等により、適宜決定することができるが、通常50℃〜220℃、好ましくは80℃〜150℃である。反応圧力は常圧下又は減圧下で行うことができる。
反応が所望の平衡値に到達した後、アルカリを用いて酸触媒(7)を中和し、反応を終了させる。用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類水酸化物等が挙げられる。これらの中では、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
得られたo−アニス酸エステル類の含有液は、前記と同様にして精製し、香料として使用しうる純度にする。
【0025】
なお、一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類のうち、一般式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニルは新規化合物である。
【0026】
【化6】

【0027】
このようにして得られた一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類、及び一般式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニルは、新規なフローラル−バルサミック調の香気を有し、単独で使用することができるし、また、他の香料物質と組み合わせることにより、容易に新しい香りを作ることができる。
ここで、組み合わせることのできる他の香料物質としては、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、カーボネート類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、ニトリル類、カルボン酸類、ラクトン類等の他の天然精油や天然抽出物が挙げられる。
【0028】
炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、1−(2−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール等が挙げられる。
フェノール類としては、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、バニリン等が挙げられる。
【0029】
エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が挙げられる。
【0030】
ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート等、酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート等、プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート等、酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート等が挙げられる。
【0031】
また、ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエート等、安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエート等、桂皮酸エステルとしては、メチルシンナメート、ベンジルシンナメート等、サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレート等が挙げられる。
さらに、ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレート等、チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレート等、ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート等、グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデート等、アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレート等が挙げられる。
その他、市販品として、花王株式会社製、フルテート(エチルトリシクロ[5,2,1,02,6]デカン−2−カルボキシレート:商品名:FRUITATE)等が挙げられる。
【0032】
カーボネート類としては、市販品として、花王株式会社製、ジャスマシクラット(商品名:JASMACYCLAT)、花王株式会社製、フロラマット(商品名:FLORAMAT)、インターナショナルフレーバー・アンド・フレグランス(IFF)社製、バイオリッフ(商品名:VIOLIFF)等が挙げられる。
アルデヒド類としては、n−オクタナール、n−デカナ−ル、n−ドデカナ−ル、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセン−1−カルボアルデヒド(IFF社、商品名:リラール)、2−シクロヘキシルプロパナール、p−t−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
【0033】
ケトン類としては、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3−メチル−2−(シス−2−ペンテン−1−イル)−2−シクロペンテン−1−オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ−メチルヨノン、α−ヨノン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、マルトール、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセン等が挙げられる。
アセタール類としては、ホルムアルデヒドシクロドデシルエチルアセタール、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタール等が挙げられる。
【0034】
エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、デカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2.1−b]フラン等が挙げられる。
ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリル等が挙げられる。
カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリド等が挙げられる。
【0035】
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等が挙げられる。
【0036】
本発明の一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類、及び一般式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニルは、単独で、又は前記香料物質と任意の割合で組み合わせることができる。香料組成物におけるo−アニス酸エステル類の含有量は、特に限定はされないが、フローラル香にボリューム感のある甘さ、柔らかさ、及び高い残香性を賦与する観点から、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。
【実施例】
【0037】
合成例1〔o−アニス酸シクロヘキシル(本発明化合物1)の合成〕
ガラス製四つ口フラスコに、o−アニス酸メチル40.23g(0.242モル)及びシクロヘキサノール48.27g(0.482モル)を仕込み、攪拌下にジ−n−ブチルスズジアセテート0.430g(0.00123モル;o−アニス酸メチルに対して0.51モル%)を添加した。常圧下、151℃より170℃まで徐々に昇温し、遊離するメタノールを反応系外に留去させながら6時間反応を行った。反応液の温度が170℃に達した後、86.7kPaまで減圧し、引続き遊離するメタノールを留去させながら6時間反応させた。反応終了液について、ガスクロマトグラフィーによりo−アニス酸シクロヘキシルの定量分析を行ったところ、その反応収率は99.5%であった。
この反応終了液73.9gを10段蒸留塔を用いて、未反応のシクロヘキサノール及びo−アニス酸メチルを減圧0.4〜0.13kPa下で留去し、引き続き減圧0.13kPa下で目的物を留出させ、下記式(9)で表されるo−アニス酸シクロヘキシル42.6gを得た。この留分についてガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、o−アニス酸シクロヘキシル純度は99.8%であった。
【0038】
【化7】

【0039】
得られたo−アニス酸シクロヘキシルについて、1H−NMR(Varian社製、400MHzNMR装置)、及びFT−IR(株式会社堀場製作所製、フーリエ変換赤外分光光度計、型式:FT−710)の測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)
δ7.76(1H,dd J=2.0Hz,8.0Hz),7.44(1H,m),6.96(2H,m),5.02(1H,m),3.89(3H,s),1.94(2H,m),1.78(2H,m),1.57(3H,m),1.41(3H,m)
(2)FT−IR(neat):(cm-1
νmax 2937,2858,1728,1601,1493,1464,1300,1254,1132,1080,1026,756
(3)香気特性:フローラル−バルサミック、スウイート様の香気を有し、残香性にも優れていた。
また、1H−NMR測定チャートを図1に、FT−IR測定チャートを図2に示す。
【0040】
合成例2〔o−アニス酸シス−3−ヘキセニル(本発明化合物2)の合成〕
ガラス製四つ口フラスコに、o−アニス酸メチル58.00g(0.349モル)及びシスー3−ヘキセノール70.01g(0.699モル)を仕込み、攪拌下にジ−n−ブチルスズジアセテート0.595g(0.00170モル;o−アニス酸メチルに対して0.49モル%)を添加した。常圧下、150℃より170℃まで徐々に昇温し、遊離するメタノールを反応系外に留去させながら6時間反応を行った。反応液の温度が170℃に達した後、86.7kPaまで減圧し、引続き遊離するメタノールを留去させながら6時間反応させた。反応終了液について、ガスクロマトグラフィーによりo−アニス酸シスー3−ヘキセニルの定量分析を行ったところ、その反応収率は100%であった。
この反応終了液110.01gを10段蒸留塔を用いて、未反応のシスー3−ヘキサノール、及びo−アニス酸メチルを減圧0.4〜0.13kPa下で留去し、引き続き減圧0.13kPa下で目的物を留出させ、下記式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニル58.64gを得た。この留分についてガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、o−アニス酸シス−3−ヘキセニル純度は99.7%であった。
【0041】
【化8】

【0042】
得られたo−アニス酸シス−3−ヘキセニルについて、合成例1と同様にして、1H−NMR、及びFT−IRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)
δ7.77(1H,dd J=2.0Hz,8.0Hz),7.45(1H,m),6.96(2H,m),5.52(1H,m),5.40(1H,m),4.28(2H,t J=6.8Hz),3.89(3H,s),2.50(2H,m),2.09(2H,m),0.97(3H,t J=6.8Hz)
(2)FT−IR(neat):(cm-1
νmax 2962,1728,1601,1493,1464,1302,1252,1130,1082,756
(3)香気特性:フローラル−バルサミック、グリーン様の香気を有し、残香性にも優れていた。
また、1H−NMR測定チャートを図3に、FT−IR測定チャートを図4に示す。
【0043】
合成例3〔o−アニス酸ベンジル(本発明化合物3)の合成〕
ガラス製四つ口フラスコに、o−アニス酸メチル20.1g(0.120モル)及びベンジルアルコール15.6g(0.144モル)を仕込み、撹拌子で撹拌下ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液を0.46g(0.002モル)添加した。常圧下、120℃で2時間撹拌し、冷却後水10mLとジエチルエーテル50mLを加え、更に0.1mol/Lの塩酸を下層のpHが7になるまで加え、二層分離した。下層水を抜き出し、有機層を飽和硫酸ナトリウムで洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後溶媒及び未反応の原料を蒸留留去後、シリカゲルクロマト精製を行い、下記式(11)で表されるo−アニス酸ベンジル5.4gを得た。得られたサンプルのガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、o−アニス酸ベンジル純度は99.9%であった(収率30%)。
【0044】
【化9】

【0045】
得られたo−アニス酸ベンジルについて、合成例1と同様にして、1H−NMR、及びFT−IRの測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)
δ7.82(1H,dd J=1.6Hz,7.6Hz),7.45(3H,m),7.35(3H,m),6.95(2H,m),5.34(2H,s),3.90(3H,s)
(2)FT−IR(neat):(cm-1
νmax 2945,1732,1601,1491,1464,1300,1252,1130,1074,756
(3)香気特性:フローラル−バルサミック様の香気を有し、残香性にも優れていた。
また、1H−NMR測定チャートを図5に、FT−IR測定チャートを図6に示す。
【0046】
実施例1及び比較例1(フローラル・スウィート様香料)
合成例1で得られたo−アニス酸シクロヘキシルを用いて、表1に記載の配合組成になるように、香料を調合した。ここで、実施例1では、比較例1(フローラル・スウィート様調合香料)で使用したジプロピレングリコール169重量部を59重量部に減じ、その代りにo−アニス酸シクロヘキシル110重量部を加えることにより、天然らしい、パウダリーな甘さのあるフローラル香気が強調され、かつ高い残香性を有するフローラル・スウィート様の調合香料が得られた。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2及び比較例2(フローラル・ムスク様香料)
合成例1で得られたo−アニス酸シクロヘキシルを用いて、表2に記載の配合組成になるように、香料を調合した。ここで、実施例2では、比較例2(フローラル・ムスク様調合香料)で使用したジプロピレングリコール114重量部を14重量部に減じ、その代りにo−アニス酸シクロヘキシル100重量部を加えることにより、ムスク香と調和のとれた白い花を想起させる香気が増強され、かつ高い残香性を有するフローラル・ムスク様の調合香料が得られた。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例3及び比較例3(フローラル・フルーティ様香料)
合成例2で得られたo−アニス酸シス−3−ヘキセニルを用いて、表3に記載の配合組成になるように、香料を調合した。実施例3では、比較例3(フローラル・フルーティ様調合香料)で使用したジプロピレングリコール261重量部を141重量部に減じ、その代りにo−アニス酸シス−3−ヘキセニル120重量部を加えることにより、フルーツ様の甘さが増強され、かつ高い残香性を有するフローラル・フルーツ調の製品用香料が得られた。
【0051】
【表3】

【0052】
実施例4及び比較例4(フローラル・スパイシー調香料)
合成例3で得られたo−アニス酸ベンジルを用いて、表4に記載の配合組成になるように、香料を調合した。実施例4では、比較例4(フローラル・スパイシー調香料)で使用したジプロピレングリコール475重量部を275重量部に減じ、その代りにo−アニス酸ベンジル200重量部を加えることにより、天然の花らしい香気、スパイシーな甘さが強調され、かつ高い残香性を有するフローラル・スパイシー調の製品用香料が得られた。
【0053】
【表4】

【0054】
化学的安定性(着色性)試験
合成例1〜3で得られた本発明化合物1〜3と、バルサミック香料として知られるサリチル酸エステル類との鉄イオン存在時の着色性を比較した。
塩化第2鉄6水和物の0.1重量%エタノール溶液7.4mgを、本発明化合物と下記サリチル酸エステルのそれぞれ1gに加え、目視により着色性を調べた。その結果を表5に示す。
サリチル酸エステル類は、鉄溶液と接触すると瞬時にピンク色に変色するのに対し、本発明化合物は色の変化がなく化学的に安定であった。
【0055】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の香料組成物及び香料化合物は、単独で又は他の成分と組み合わせて、家庭用製品、化粧品、トイレタリー製品等の分野において、様々な形態の芳香性製品に配合又は適用することができる。例えば、香水、石鹸、シャンプーリンス、洗剤、化粧品、芳香剤等の賦香成分として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】合成例1で得られた、o−アニス酸シクロヘキシルの1H−NMR測定チャートである。
【図2】合成例1で得られた、o−アニス酸シクロヘキシルのFT−IR測定チャートである。
【図3】合成例2で得られた、o−アニス酸シス−3−ヘキセニルの1H−NMR測定チャートである。
【図4】合成例2で得られた、o−アニス酸シス−3−ヘキセニルのFT−IR測定チャートである。
【図5】合成例3で得られた、o−アニス酸ベンジルの1H−NMR測定チャートである。
【図6】合成例3で得られた、o−アニス酸ベンジルのFT−IR測定チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるo−アニス酸エステル類を含有する香料組成物。
【化1】

(式中、R1は、炭素数5〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基、又は炭素数7〜10のアリールアルキル基を示す。)
【請求項2】
1が、炭素数6〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数6〜8のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基、又は炭素数7〜8のアリールアルキル基である請求項1に記載の香料組成物。
【請求項3】
1が、シクロヘキシル基、シス−3−ヘキセニル基、又はベンジル基である請求項1に記載の香料組成物。
【請求項4】
下記一般式(10)で表されるo−アニス酸シス−3−ヘキセニル。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−119663(P2007−119663A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315855(P2005−315855)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】