説明

香気の提示方法及び装置

【課題】単一もしくは複合揮発性成分を気相状態で任意に、かつ定量的に混合し、これらの揮発性成分に対し実効のある香気増強剤を容易かつ成分の残留なく連続的に提示し、持ち運びが容易な程度に小型軽量化された装置および方法の提供。
【解決手段】複数の試料容器に制御定量されたキャリアーガスを供給し、試料容器以後に滞留箇所を設けず、香気提示用の排出口で揮発性成分を合流させることで成分の残留をなく、さらに装置の構成が簡略化されることで持ち運びが容易な程度に小型軽量化されたことを特徴とする香気増強成分の提示装置、および該装置に関する提示方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気成分の提示方法および該方法に使用する提示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、香気の提示方法としては、香気成分と水を気相中で混合することで自然感のある匂いを放散する方法が提示されている(特許文献1)。
【0003】
また、気相で香気成分を混合することにより、調合作業の簡易化、迅速化が行われている。従来の気相中で香気成分を混合する装置には、試料容器に不活性ガスを供給し揮発性成分を混合室で混ぜる方法が採られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、特許文献3には、気相で香気成分と消臭剤を混合することで消臭剤を容易に検索しうる方法と装置が提示されている。
【0005】
一方、香気成分の相互作用や香気増強剤の探索方法として、ガスクロマトグラフで分離した揮発性成分と試料から揮散する成分を混合することで、分離した揮発性成分の香気に対する影響を連続的に評価する方法が提示されている。(特許文献4)
【0006】
香気増強成分の具体的な評価事例は、例えば非特許文献1等に紹介されている。香気の増強効果は、閾値が低い成分だけでなく高い成分にも見られる。つまり、特定の匂い成分が香気を増強させるためその予測は難しく、実際に香気成分ごとに濃度を変えもとの動植物原材料と混合させた後、その香気の変化を評価しないとわからない。
【特許文献1】特開2002−85542号公報
【特許文献2】特開2002−113339号公報
【特許文献3】特開2002−303566号公報
【特許文献4】特開2003−107067号公報
【非特許文献1】Food Sci. Technol. Res. 9, 350−352 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の香気提示装置には、前記特許文献1に記載された装置があるが、これは水を含んだ状態での単独の香気の提示することを目的にしているため、複数の香気成分を混合し提示することには不向きであった。また、前記特許文献1に記載された装置は、試料に供給するガスの圧力でのみ香気成分と水を気相で混合させるため、揮発性成分の評価を行う際に、その流量を細かく調整できなかった。
【0008】
また、前記特許文献2、3に記載された気相中での香気成分の調合装置は、混合室が設置されており、混合した揮発性成分が混合室に滞留するため、混合室内の揮発性成分を排出しなければ異なる試料の評価をすることができないため、簡便に試料を切り替えて揮発性成分の効果を提示または評価することができなかった。
【0009】
一方、香気成分の増強剤の提示法には、前記特許文献4に記載されたガスクロマトグラフを利用した気相中で香気成分の相互作用を評価する方法は、多くの複合成分からガスクロマトグラフにより分離し評価することには向いているが、ガスクロマトグラフを利用した装置であるため、複雑な構成であり装置を小型軽量化することが困難であり、特定の揮発性成分の効果を簡便に提示するには不向きであった。また、ガスクロマトグラフから分離した成分は瞬間的に大気に放出されるため、混合した香気成分の評価を被験者間で共通の認識となるまで繰り返して行う必要があった。さらに、ガスクロマトグラフを利用するため、保持時間が長い揮発性成分を評価するには多大な時間を必要とし、一日に行う回数には限度があり、ガスクロマトグラフで分離しない成分は評価することが出来なかった。
【0010】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、上記の問題点を解決すべく、最小限のラグタイムで揮発性成分の効果を連続的に切り替えて提示するより簡便な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような従来の揮発性成分を気相で混合させる装置とガスクロマトグラフを利用した香気成分の相互作用評価方法による欠点及び限界を克服し、動植物原材料の芳香の忠実な再現及び機能性開発を目的に鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。すなわち本発明は、複数の試料容器を有する揮発性成分の混合装置において、試料容器から混合気体の排出口までの経路に、混合槽およびバルブ類を設置しないことを特徴とする揮発性成分の提示用装置である。より具体的には、揮発性成分混合装置の構成が、キャリアーガス供給手段からの流路を2以上有し、前記流路を流量調整手段に接続し、流量調整手段からの流路をそれぞれ試料容器に接続し、さらに試料容器に揮発性成分をキャリアーガスで排出する流路それぞれ接続し、流路を合流させた揮発性成分の排出路を設けることを特徴とする揮発性成分の提示用装置である。キャリアーガス供給手段としては小型ポンプを使用することができ、キャリアーガスの流量調整手段としては、調整バルブ付きフロート型流量計などを使用することができる。
【0012】
さらに本発明の別の態様としては、前記装置を用いて、混合気と非混合気を連続的に切り替えることを特徴とする香気増強成分の提示方法が挙げられ、また、試料容器に導入する試料が、動植物原料であることを特徴とする香気増強成分の評価方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料容器以後の経路に滞留箇所がなく、成分の残留が起こりにくいため、最小限のラグタイムで混合気、非混合気を切り替えることができる。装置上の切り替え操作と排出気体の変化の時間差が小さいため、試料の添加効果を確認することが極めて容易である。さらに、本発明の装置は構成が簡略化されることにより、持ち運びが容易な程度に小型軽量化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の混合装置は、キャリアーガスを試料容器に供給し、複数ある容器中の気相状態にある被添加用の揮発性成分と、香気増強成分など添加効果を提示・評価するための添加用揮発性成分を気相で混合させることにより添加効果を連続的に評価することを主な用途とするものである。以下、本発明を図1に基づいて説明する。キャリアーガスを供給手段1、2から流路3、4を経て、流量調整手段5、6に供給し、流路7、8を経て、バルブ9、10を経由し、試料容器11、12に供給する。試料それぞれのキャリアーガスと揮発性成分は、排出流路13、14を経て、香気提示用気体排出口15で合流する。図1を含め本説明において、説明の便宜上キャリアーガスの供給手段、キャリアーガスの流量調整手段、試料容器をそれぞれ2個としているが、これらの数は必要に応じさらに多数設けることができる。
【0015】
本発明におけるキャリアーガスの供給手段は、装置を持ち運びが容易な程度に小型軽量化するために不活性ガスまたは空気の小型ボンベ、もしくは環境の空気を供給するための小型ポンプが用いられる。本発明においては、ボンベの内圧変化による影響を考慮する必要がなく、またガス容量による連続使用時間の制限がないことから小型ポンプが好ましい。本発明のキャリアーガス供給手段は、一基でも構わないが、たとえば、被添加用試料と添加用試料にそれぞれ導入する2以上の流路を独立させる目的で複数設置することもできる。本発明においては装置を小型軽量化するために、好ましくは一基もしくは被添加用試料用流路と添加用試料用流路に各一基、合計2基の供給手段を設けて、各試料容器の設置数に合わせて、流路を分岐させることが好ましい。
【0016】
本発明において、キャリアーガスは複数流路に分割して流量調整手段に供給することができるが、その場合は一つの揮発性成分の流量を調整することで、他の揮発性成分の流量に影響がでないよう、電子制御装置を備えたマスフローコントローラにより複雑な流量を計算、反映されることが好ましい。もしくは、供給手段を流量調整手段と同数設置することで複雑な電子制御装置を備えたマスフローコントローラを、例えば調整バルブ付きフロート型流量計のような手段で小型簡略化することもできる。
【0017】
本発明においては、キャリアーガスの流量調整手段の前後いずれかの分岐流路に切り替えバルブ9、10を接続することができる。このバルブは各分岐流路の通気の有無を切り替えるものであって、流路調整手段を用いて切り替えるのと比較してより短時間で混合気、非混合気の切り替えをする目的で設置される。切り替えバルブの設置位置は、揮発性成分がバルブ内に付着残留することによる影響を避けるために、各試料容器より前の流路上に設置される。本発明の切り替えバルブの形状は、例えばスイッチングバルブのように流路上で流路の切り替え操作が可能な手段や、各流路上で簡便な開閉操作が可能な手段であればいずれであっても使用することができる。
【0018】
本発明の試料容器は、少なくとも2以上が設置される。これらの試料容器は、着脱式とすることが好ましい。容器を着脱式とすることにより、試料を容器ごと交換することができるため、より簡便に多数の試料を連続して提示・評価することができる。試料容器の形状は、キャリアーガスの導入流路と排出流路を付すことができるものであれば、特に制限されない。たとえば、蓋付きのビン状であってもよく、両端を流路と接続する管状の容器であってもよい。管状の容器を使用する場合は通常、揮発性成分を担持した担体を導入し、両端付近にフィルターを設置したカラム状構造のものが使用される。
【0019】
本発明の香気提示装置は、揮発性成分の添加効果を提示・評価することが主たる目的であるため、試料容器の少なくとも1つには添加対象となる被添加用試料が投入される。試料容器に投入する被添加用試料は、固体、液体、気体など形態はいずれのものであっても良い。試料が液体の場合には、試料容器中で攪拌することが好ましく、その方法としては公知の方法を使用することができる。また、試料が気体の場合は、ポンプなどで試料を試料容器中に連続的に導入することもできる。
【0020】
その他の試料容器には効果を提示・評価する評価用試料が投入される。これら評価用試料は並列に設置された試料容器にそれぞれ投入することができる。これにより、キャリアーガスの流路を切り替えて、複数の評価用試料の添加効果を比較評価することができる。また、評価用試料を投入した試料容器へのキャリアーガス流路を複数同時に解放することも可能であるため、複数の評価用試料を単独で添加した場合と、組み合わせて添加した場合の比較評価も簡便に行うことができる。
【0021】
本発明では、試料容器は試料もしくは評価の目的により、必要に応じて加熱もしくは冷却することができる。試料容器中の温度調節の方法は、容器外部にヒーターを設置する方法や容器にジャケットを付して、温度調整用の流体を通じる方法など公知の方法が使用できる。また、容器内部もしくは外表面に温度計測用の器具を設置することもでき、計測機器の出力によって温度調節をする手段を適用することもできる。容器の材質としては、それ自体が臭気など揮発性成分を放出せず、かつ揮発性成分を吸着しないものが好ましく、通常はガラス製容器などが使用される。
【0022】
本発明において、揮発性成分排出流路は試料数と同数設置し、香気提示用の排出口で合流するものとする。香気提示用の排出口の形状は、揮発性成分が混合されれば束ねるだけでも良いが、好ましくは被験者の疲労が少ない形状、例えばガラス製のロート状の容器があげられる。これらの香気提示用の排出口に用いる容器は、着脱式とすることが好ましい。容器を着脱式とすることにより、排出口付近に香気成分が残存した場合に容器ごと交換することができるため、より簡便に多数の試料を連続して提示・評価することができる。
【0023】
本発明の香気提示装置では、試料容器以後の流路に混合室など気体が滞留する構成を設けないことを特徴とする。これにより、試料切り替え後に混合室などの滞留気体を排出するための時間や混合室内の気体が一定となるまでの時間を必要としない。また、試料容器以後にバルブなど構造が比較的複雑な構成を設けないことで、揮発性成分が流路内に付着することが少なく、試料を交換しても交換前の揮発性成分の影響を最小限に抑制することができる。
【0024】
以下図1に本発明に用いる最も簡略な装置の概念図の一例を示すが、本発明はこの図面によって何ら限定されるものではない。
【0025】
実施例:図1に示す装置を用い、緑茶とその香気増強成分として知られているIndoleの気相中における混合効果を調べた。
【0026】
試料容器の一つに緑茶抽出液を、もう一方の容器に脱脂綿を詰め、Indoleが1%となるよう調製したアルコール溶液を染み込ませた。調整バルブ付きフロート型流量計で緑茶250ml/min、1%Indole溶液20ml/minに調製し、その混合ガスを評価した。
【0027】
上記条件で官能評価を行ったところ、香気を単独で評価したときとは違い、非特許文献1に記載されているような緑茶全体が底上げされるような効果が連続的に確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、試料容器から供給された混合ガスに香気増強成分を持続的に混合させることで、香気増強効果に有用な香気増強成分の提示をするときに大変有力な手法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の香気の提示装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 キャリアーガス供給手段
2 キャリアーガス供給手段
3 流路
4 流路
5 キャリアーガス流量調整手段
6 キャリアーガス流量調整手段
7 流路
8 流路
9 バルブ
10 バルブ
11 試料容器
12 試料容器
13 揮発性成分排出流路
14 揮発性成分排出流路
15 香気提示用気体排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料容器を有する揮発性成分の混合装置において、試料容器から混合気体の排出口までの経路に、混合槽およびバルブ類を設置しないことを特徴とする香気提示装置。
【請求項2】
揮発性成分混合装置の構成が、キャリアーガス供給手段からの流路を少なくとも2以上有し、前記流路をそれぞれ流量調整手段に接続し、流量調整手段からの流路をそれぞれ試料容器に接続し、さらに試料容器に揮発性成分の排出流路をそれぞれ接続し、混合槽を設けずに香気提示用の気体排出口付近で揮発性成分の排出流路を合流させることを特徴とする香気提示装置。
【請求項3】
キャリアーガス供給手段が小型ポンプであることを特徴とする請求項2に記載の香気提示装置。
【請求項4】
キャリアーガスの流量調整手段が調整バルブ付き流量計であることを特徴とする請求項2に記載の揮発性成分の提示装置。
【請求項5】
キャリアーガスの流量調整手段の前後いずれかの流路上に流路の開閉バルブを設置することを特徴とする請求項2乃至4に記載の香気提示装置。
【請求項6】
試料容器が着脱式であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の香気提示装置。
【請求項7】
請求項6において、試料容器に導入する試料の少なくとも1つが、香気成分増強剤であることを特徴とする香気の提示方法。
【請求項8】
請求項1乃至6に記載の装置を用いて、複数の揮発成分を連続的に混合することを特徴とする香気の提示方法。
【請求項9】
請求項5において、試料容器に導入する試料の少なくとも1つが、動植物原料であることを特徴とする香気の提示方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−17940(P2009−17940A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181038(P2007−181038)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】