説明

駆動伝達装置

【課題】駆動力の伝達経路を切換える機能を有する駆動伝達装置について、コンパクト性を高め、駆動力の伝達経路の切換えを自動的に実行できるようにする。
【解決手段】駆動力を受けて回転する駆動円盤1と、駆動円盤1の両端面に接合され駆動円盤1と同軸線上で回転される従動円盤2,3と、駆動円盤1,従動円盤2,3の間に設けられ駆動円盤1の一方向の回転に従動円盤2,3を追従して回転させ他方向の回転に従動円盤2,3を追従して回転させないワンウエイクラッチ4とを備えている。ワンウエイクラッチ4は、両従動盤側2,3で回転が追従される方向が逆向きである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力の伝達経路を切換える機能を有する駆動伝達装置に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、駆動源であるモータや駆動源制御システムの性能の向上にともなって、1台のモータに駆動力の伝達経路を切換える機能を有する駆動伝達装置を連結して複数台の被駆動側機器を駆動させることで、駆動源の共有化,小規模化が図られるようになってきている。このため、駆動伝達装置における駆動力の伝達経路を切換える機能を奏する切換機構について、被駆動側機器に対応した種々改良の要請が生じてきている。
【0003】
従来、駆動力の伝達経路を切換える機能を有する駆動伝達装置としては、例えば、下記特許文献1に記載のものが知られている。
この特許文献1には、駆動部と駆動部の両側に配置された従動部との間に軸方向にスライドするピンを備え、駆動部と両従動部とがピンで選択的に連結される駆動伝達装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に係る駆動伝達装置は、駆動力を伝達しようとする従動部と駆動部とをピンのスライド操作で連結させるものである。
【特許文献1】実開昭56−15828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る駆動伝達装置では、駆動力の伝達経路の切換えにピンのスライド操作が必要であるため、駆動力の伝達経路の切換えを自動的に実行することができないという問題点がある。また、ピンのスライド操作のための操作部を外部に露出するように設けなければならないため、コンパクト性が低下してしまうという問題点がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、駆動力の伝達経路の切換えを自動的に実行することのできるコンパクトな駆動伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するため、本発明に係る駆動伝達装置は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0008】
即ち、請求項1では、駆動力を受けて回転する駆動円盤と、駆動円盤の両端面に接合され駆動円盤と同軸線上で回転される従動円盤と、駆動円盤,従動円盤の間に設けられ駆動円盤の一方向の回転に従動円盤を追従して回転させ他方向の回転に従動円盤を追従して回転させないワンウエイクラッチとを備え、ワンウエイクラッチは両従動盤側で回転が追従される方向が逆向きであることを特徴とする。
【0009】
この手段では、ワンウエイクラッチが駆動円盤,従動円盤の間に設けられることで、ワンウエイクラッチが駆動円盤,従動円盤から露出されなくなる。そして、駆動円盤が正方向に回転されるとワンウエイクラッチによって一方の従動円盤のみが正方向に回転され、駆動円盤が逆方向に回転されるとワンウエイクラッチによって他方の従動円盤のみが逆方向に回転される。
【0010】
また、請求項2では、請求項1の駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチは従動円盤の駆動円盤への当接面に軸方向に傾斜した深さを有して周方向に円弧形に延びた係合溝と駆動円盤に収容され両従動円盤に設けられた係合溝に対して選択的に出没して係合,離脱する係合体とからなることを特徴とする。
【0011】
この手段では、ワンウエイクラッチが従動円盤の駆動円盤への当接面に設けられた係合溝と駆動円盤に収容された係合体とで構成される。
【0012】
また、請求項3では、請求項2の駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチの係合溝は最も深い部分に深さが一定の平坦部分が設けられていることを特徴とする。
【0013】
この手段では、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合に係合溝の平坦部分であそびが確保される。
【0014】
また、請求項4では、請求項2または3の駆動伝達装置において、駆動円盤にはワンウエイクラッチの係合体を係合溝に対する出没の限界位置でロックするロック機構が設けられていることを特徴とする。
【0015】
この手段では、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合がロック機構で保持される。
【0016】
また、請求項5では、請求項2〜4のいずれかの駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチの係合体は軸線が駆動円盤,従動円盤の軸線方向と一致されたピンからなることを特徴とする。
【0017】
この手段では、ワンウエイクラッチの係合体がスムースなスライドが期待されるピンとされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る駆動伝達装置は、ワンウエイクラッチが駆動円盤,従動円盤の間に設けられることで、ワンウエイクラッチが駆動円盤,従動円盤から露出されなくなるため、全体がコンパクト化される効果がある。また、駆動円盤が正方向に回転されるとワンウエイクラッチによって一方の従動円盤のみが正方向に回転され、駆動円盤が逆方向に回転されるとワンウエイクラッチによって他方の従動円盤のみが逆方向に回転されるため、駆動力の伝達経路の切換えを自動的に実行することができる効果がある。
【0019】
さらに、請求項2として、ワンウエイクラッチが従動円盤の駆動円盤への当接面に設けられた係合溝と駆動円盤に収容された係合体とで構成されるため、構造の複雑化が避けられる効果がある。
【0020】
さらに、請求項3として、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合に係合溝の平坦部分であそびが確保されるため、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合の機械的なデッドロックを避けることができる効果がある。
【0021】
さらに、請求項4として、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合がロック機構で保持されるため、ワンウエイクラッチの係合溝,係合体の係合が不測に解除されることがない効果がある。
【0022】
さらに請求項5として、ワンウエイクラッチの係合体がスムースなスライドが期待されるピンとされるため、ワンウエイクラッチの係合,離脱が円滑に動作される効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る駆動伝達装置を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
この形態では、チェーン駆動に使用されるスプロケットに適用されるものを示してある。
【0025】
この形態は、図1に示すように、駆動円盤1,従動円盤2,3,ワンウエイクラッチ4,ロック機構5を主要部として構成されている。
【0026】
駆動円盤1は、モータ等に連結された駆動軸6が挿通される挿通孔11と、駆動軸6を固定する固定リング7が嵌合される嵌合孔12とが中心部に連通して同軸に開孔された円盤形に形成されている。両端面には、ワンウエイクラッチ4の一部が収容される6個のワンウエイクラッチ収容孔13が放射状の配置で貫通されている。周面には、ロック機構5が収容される6個のロック機構収容孔14が放射状の配置でワンウエイクラッチ収容孔13に到達するように開孔されている。
【0027】
従動円盤2,3は、駆動円盤1と同軸線上で回転されるように駆動軸6が挿通される挿通孔21,31と、駆動軸6を支承するベアリング8が嵌合される嵌合孔22,32とが中心部に連通して同軸に開孔された円盤形に形成されている。一方の端面は、駆動円盤1の端面に当接されるようになっている。他方の端面(周面の一部)には、図示しないチェーンが掛けられるスプロケット9が取付けられている。
【0028】
ワンウエイクラッチ4は、係合溝41,係合体42からなる。係合溝41は、従動円盤2,3の駆動円盤への当接面である一方の端面に軸方向に傾斜した深さを有して周方向に円弧形に延びて6個が放射状の配置で刻設されている。この係合溝41は、傾斜面41aの最も深い部分に深さを一定にした平坦部分41bが設けられ、傾斜面41aの最も浅い部分が、従動円盤2,3の端面に到達している。なお、図1,図9から明らかなように、従動円盤2,3の係合溝41の傾斜面41aの傾斜方向が両従動円盤2,3で互いに逆方向に設定されている。係合体42は、外径が駆動円盤1のワンウエイクラッチ収容孔13の径とほぼ一致し軸長が駆動円盤1の軸長と係合溝41の平坦部分41bの深さとの和とほぼ一致するピン形に形成されている。係合体42の端面は、半球形の丸頭42aに形成されている。係合体42の周面には、断面が半円形に凹んだ環状溝42bが間隔を介して2条刻設されている。この係合体42は、駆動円盤1のワンウエイクラッチ収容孔13に収容されて係合溝41に対して出没されるもので、出没の限界位置で環状溝42bが駆動円盤1のロック機構収容孔14に対面するようになっている。
【0029】
ロック機構5は、ボール51,コイルスプリング52,止ネジ53からなる。ボール51は、駆動円盤1のロック機構収容孔14から出没してワンウエイクラッチ4の係合体42の環状溝42bに係合する球体からなる。コイルスプリング52は、駆動円盤1のロック機構収容孔14に収容されてボール51をワンウエイクラッチ4の係合体42方向に弾圧する。止ネジ53は、駆動円盤1のロック機構収容孔14の駆動円盤1の周面近くに螺合されてコイルスプリング52の弾圧の反力を受ける。
【0030】
この形態によると、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1,従動円盤2,3の間に設けられ、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1,従動円盤2,3から露出されなくなるため、全体がコンパクト化される。また、ワンウエイクラッチ4が従動円盤2,3の駆動円盤への当接面である一方の端面に設けられた係合溝41と駆動円盤1に収容された係合体42とで構成されるため、構造の複雑化が避けられ安価,容易な製造が可能になる。
【0031】
この形態で駆動軸6が正方向に回転駆動されると、固定リング7を介して駆動円盤1が一体的に正方向に回転されることになる。このとき、図2(A),図3,図4,図9に示すように、ワンウエイクラッチ4の係合体42が係合溝41の傾斜面41bを滑り一方の従動円盤2に設けられている係合溝41の平坦部分41bに至って係合溝41に係止される。即ち、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1と一方の従動円盤2との間で係合接続された状態となって、一方の従動円盤2が駆動円盤1に追従して正方向に回転されることになる。なお、このとき、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1と他方の従動円盤3との間で離脱解除された状態となっているため、他方の従動円盤3が回転することはない。なお、ワンウエイクラッチ4の係合体42がスムースなスライドが期待されるピンとされているため、ワンウエイクラッチ4の係合,離脱が円滑に動作される。
【0032】
この一方の従動円盤2の駆動円盤1に追従した正方向に回転の際には、ロック機構5のボール51がワンウエイクラッチ4の係合体42の環状溝42bに弾圧係合している。従って、回転の応力や周囲の振動が伝導しても、ワンウエイクラッチ4の係合接続が不測に解除されることはない。
【0033】
この形態で駆動軸6が逆方向に回転駆動されると、固定リング7を介して駆動円盤1が一体的に逆方向に回転されることになる。このとき、図5,図6,図9に示すように、ワンウエイクラッチ4の駆動円盤1と一方の従動円盤2との間での係合接続が解除される。なお、ワンウエイクラッチ4の係合溝41に平坦部分41bが設けられて係合体42との間にあそびが確保されるため、ワンウエイクラッチ4の係合溝41,係合体42の係合の機械的なデッドロックが避けられ円滑な離脱が保障される。
【0034】
そして、図2(B),図3,図4,図9に示すように、ワンウエイクラッチ4の係合体42が係合溝41の傾斜面41bを滑り他方の従動円盤3に設けられている係合溝41の平坦部分41bに至って係合溝41に係止される。即ち、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1と他方の従動円盤3との間で係合接続された状態となって、他方の従動円盤3が駆動円盤1に追従して逆方向に回転されることになる。なお、このとき、ワンウエイクラッチ4が駆動円盤1と一方の従動円盤2との間で離脱解除された状態となっているため、一方の従動円盤2が回転することはない。なお、ワンウエイクラッチ4の係合体42がスムースなスライドが期待されるピンとされているため、ワンウエイクラッチ4の係合,離脱が円滑に動作される。
【0035】
この他方の従動円盤3の駆動円盤1に追従した逆方向に回転の際には、ロック機構5のボール51がワンウエイクラッチ4の係合体42の環状溝42bに弾圧係合している。従って、回転の応力や周囲の振動が伝導しても、ワンウエイクラッチ4の係合接続が不測に解除されることはない。
【0036】
この形態は、駆動側(駆動円盤1)の正逆の回転の切換えによって、従動側(従動円盤2,3)の伝達経路を自動的に切換えることができる。なお、切換えられた伝達経路の回転方向が逆になるが、必要な中継機構を付設して回転方向を同一方向にすることも可能である。
【0037】
以上、図示した形態の外に、駆動軸6を省略して、駆動円盤1をギア,スプロケット,ベルト車構造等として直接的に駆動することも可能である。
【0038】
さらに、従動円盤2,3をギア構造等とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る駆動伝達装置を実施するための最良の形態の分解状態の斜視図である。
【図2】図1の組立状態図であり、(A)に正方向への回転が示され、(B)に逆方向への回転が示されている。
【図3】図2(A)の拡大された縦断面図である。
【図4】図3の要部の拡大された断面図である。
【図5】図2(A)から図2(B)への切換途中の拡大された縦断面図である。
【図6】図5の要部の拡大された断面図である。
【図7】図2(B)の拡大された縦断面図である。である。
【図8】図7の要部の拡大された断面図である。
【図9】図4,図6,図8の間の動作経過を示す平面に展開した簡略図である。
【符号の説明】
【0040】
1 駆動円盤
2,3 従動円盤
4 ワンウエイクラッチ
41 係合溝
41b 平坦部分
42 係合体
5 ロック機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を受けて回転する駆動円盤と、駆動円盤の両端面に接合され駆動円盤と同軸線上で回転される従動円盤と、駆動円盤,従動円盤の間に設けられ駆動円盤の一方向の回転に従動円盤を追従して回転させ他方向の回転に従動円盤を追従して回転させないワンウエイクラッチとを備え、ワンウエイクラッチは両従動盤側で回転が追従される方向が逆向きであることを特徴とする駆動伝達装置。
【請求項2】
請求項1の駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチは従動円盤の駆動円盤への当接面に軸方向に傾斜した深さを有して周方向に円弧形に延びた係合溝と駆動円盤に収容され両従動円盤に設けられた係合溝に対して選択的に出没して係合,離脱する係合体とからなることを特徴とする駆動伝達装置。
【請求項3】
請求項2の駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチの係合溝は最も深い部分に深さが一定の平坦部分が設けられていることを特徴とする駆動伝達装置。
【請求項4】
請求項2または3の駆動伝達装置において、駆動円盤にはワンウエイクラッチの係合体を係合溝に対する出没の限界位置でロックするロック機構が設けられていることを特徴とする駆動伝達装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかの駆動伝達装置において、ワンウエイクラッチの係合体は軸線が駆動円盤,従動円盤の軸線方向と一致されたピンからなることを特徴とする駆動伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−281568(P2009−281568A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136944(P2008−136944)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(591218293)株式会社立和運輸倉庫 (7)