説明

駆動信号設定方法、液体噴射ヘッドの駆動方法及び液体噴射ヘッド

【課題】多階調記録を行う液体噴射ヘッドの駆動信号を短時間で設定する。
【解決手段】液体噴射ヘッド1の駆動素子3にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録する多階調記録用の駆動信号設定方法であって、単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、圧力室2の固有振動周期Apを特定するステップBと、第1パルスの開始から第nパルスの終了までを駆動期間Lpとして、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の期間の奇数倍に設定するステップCと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出して記録する液体噴射ヘッドの駆動信号設定方法、液体噴射ヘッドの駆動方法及び液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。インクの吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。近年、この種の装置として、1ドットを複数の液滴を噴射して記録する多階調記録方式が実用化されている。
【0003】
例えば特許文献1には階調記録を行うインクジェットヘッドの駆動信号の波形(以下、駆動波形という。)が記載されている。図8はインクジェットヘッド100の断面を表し、図9は駆動波形を表す(特許文献1の図2及び図3)。図8(a)に示されるように、インクジェットヘッド100は、複数の圧力室102が形成されたセラミックシート101と、この圧力室102の上部開口を塞ぐ圧電素子103と、圧電素子103を駆動するための独立電極104、105を備えている。各圧力室102にはインクが充填されている。図8(b)に示されるように、独立電極104、105と独立電極106、107との間に駆動電圧Vを与えると圧電素子103が変形し、圧力室102の容積が増大する。これによりインクが圧力室102に引き込まれる。次に、駆動電圧0Vを与えると圧電素子103は元の形状に戻るように動作し、圧力室102の容積が収縮する。これにより圧力室102に連通する図示しないノズルからインク滴が吐出される。
【0004】
図9は、1周期において2つの連続する第一パルスと第二パルスにより第一液滴と第二液滴を吐出して1つのドットを記録する駆動波形を表している。第1ドットを時間T0〜T2の間に、第2ドットを時間T2以降に吐出する。まず時間T0において時間幅がΔTpの第一パルスを与えて第一液滴を吐出し、次に時間T1において時間幅がΔTpの第二パルスを与えて第二液滴を吐出して被記録媒体に第1ドットを記録する。通常、第一パルスと第二パルスの間の期間ΔT0を極めて短時間に設定し、第一液滴と第二液滴を合体させた1ドットとして被記録媒体に到達させる。即ち、パルス数に応じて単位ドットのインク体積を変化させて多階調記録を行う。パルス数を更に増加させて更に多くの階調記録を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−334072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェットヘッドの方式は、インク等の液体に対して急激な圧力変動を与えることから圧力室の液体には圧力波が発生する。この圧力波は、圧力室102の形状、材質、容積、液体の種類に応じた固有振動を有する。即ち、第一パルスにより第一液滴を吐出した後に固有振動が発生し、第二液滴を吐出する際にこの固有振動が重畳される。その結果、同じ第二パルスを与えても重畳される固有振動のタイミングに応じて吐出速度が変化し、一定量の液滴を吐出することができない。そこで、特許文献1においては、第一液滴の吐出速度と第二液滴の吐出速度を等しくできるタイミングを決定している。更に、第二パルスの開始と次の周期の第一パルスの開始との間の期間を固有振動周期の整数倍としている。
【0007】
従って、駆動波形の設定の際には、第一パルスにより与えられる第二パルスへの影響とともに、第二パルスにより与えられる次の周期の第一パルスへの影響や、各ドットを記録する駆動周期による制約も受けることになる。また、多くの階調記録を実現するためにパルス数が増加するに伴い、一つのパルスを決定すると、その決定したパルスが他のパルスの設定にも影響を与える。
【0008】
そこで、複数のパルスによる多階調記録を行う場合の駆動波形を次のように決定していた。まず、(1)単パルスの吐出特性を測定し、ヘッドの固有振動周期を測定する。次に、(2)単パルスでの吐出特性に合うように他の複数パルスのオン/オフのタイミングを調整し、これを順次繰り返して駆動波形を選定する。次に、(3)選定した駆動波形で周波数特性を測定し、測定結果を見て使用周波数を決定する。
【0009】
しかしながら、上記(2)において、パルス数が多くなるにつれてオン/オフのタイミングの調整箇所が増加し、多大な時間を要した。また、上記(3)において、測定した結果から要求仕様の範囲でよい特性が得られなかった場合、上記(2)に戻って駆動波形の再選定を行う必要があった。そのため、駆動波形の決定に更に時間を要した。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、液体噴射ヘッドの駆動波形を短時間で設定することができるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の駆動信号設定方法は、圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記圧力室に連通するノズルとを備える液体噴射ヘッドにおいて、前記駆動素子にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録する多階調記録用の駆動信号設定方法であって、前記単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、前記圧力室の固有振動周期Apを特定するステップBと、第1パルスの開始から第nパルスの終了までを駆動期間Lpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の奇数倍に設定するステップCと、を備えることとした。
【0011】
また、前記第nパルスのパルス幅を略Ap/2に設定し、各パルスの開始の時間間隔を略Apに設定し、前記第1パルスのパルス幅を設定するステップDを備えることとした。
【0012】
また、第2パルスから第(n−1)パルスのいずれか一のパルス幅を設定するステップEを備えることとした。
【0013】
本発明の液体噴射ヘッドの駆動方法は、圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記圧力室に連通するノズルと、前記駆動素子に駆動信号を供給する制御部とを備える液体噴射ヘッドの駆動方法であって、前記制御部は前記駆動素子に、単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、前記圧力室の固有振動周期Apを特定するステップBと、第1パルスの開始から第n(nは2以上の整数)パルスの終了までを駆動期間Lpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の奇数倍に設定するステップCにより設定した前記第1パルスから前記第nパルスを順次与えることとした。
【0014】
本発明の液体噴射ヘッドは、圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記駆動素子に駆動信号を供給する制御部とを備え、前記制御部は前記駆動素子にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録するとともに、前記単位ドットを記録する駆動周期をTとし、前記圧力室の固有振動周期をApとし、第1パルスの開始から第nパルスの終了までの駆動期間をLpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)が略Ap/4の奇数倍に設定されている。
【0015】
また、前記駆動周期Tが略Ap/4の奇数倍に設定されることとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の駆動信号設定方法は、圧力室と、圧力室を駆動する駆動素子と、圧力室に連通するノズルとを備える液体噴射ヘッドにおいて、駆動素子にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録する多階調記録用の駆動信号設定方法であって、単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、圧力室の固有振動周期Apを特定するステップBと、第1パルスの開始から第nパルスの終了までを駆動期間Lpとして、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の期間の奇数倍に設定するステップCと、を備える。
【0017】
つまり、駆動周期Tを設定し、次に残期間ΔTを、第nパルス以降に発生する圧力振動が次の周期の第1パルスの液滴吐出の際に重畳されないように設定して駆動信号の大枠を先に決定する。その後に、第1パルスから第nパルスの個々の条件を微調整して設定すればよいので、設定すべき調整箇所、即ち設定パラメータ数が減少し、短時間で駆動信号を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法によって設定した駆動信号を適用する液体噴射ヘッドの概念図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法において設定する駆動波形を表す図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法の手順を表す工程図である。
【図4】残期間ΔTと吐出される吐出液滴量Vの関係を表すグラフである。
【図5】残期間ΔTと吐出液滴量の変化量ΔVの関係を表すグラフである。
【図6】本発明の第二実施形態に係る駆動信号設定方法を表す工程図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る駆動信号設定方法によって設定する駆動波形を表す図である。
【図8】従来公知のインクジェットヘッドの断面図である。
【図9】従来公知のインクジェットヘッドの駆動波形を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法によって設定した駆動信号を適用する液体噴射ヘッド1の概念図である。図1に示すように、液体噴射ヘッド1は、周囲が壁8により囲まれる圧力室2と、圧力室2を駆動する駆動素子3と、この駆動素子3に駆動信号を供給する制御部7とを備えている。駆動素子3は圧電体4とこの圧電体4を挟むように設置した電極5を備え、制御部7から供給される駆動信号に応じて駆動素子3が壁8を変形させ、内部に充填された液体をノズル6から吐出して被記録媒体に記録する。
【0020】
図2は、本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法において設定する駆動波形を表し、図3は、本発明の第一実施形態に係る駆動信号設定方法の手順を表す工程図である。図2に示すように、駆動信号は、第一周期C1、第二周期C2・・・の周期毎に1ドットを吐出する。そして、各駆動周期がTであり、1ドットを記録するための最大パルス数がn個であり、第1パルスの開始から第nパルスの終了までの駆動期間がLpであり、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間がΔT=(T−Lp)である。この駆動信号の駆動周波数fは、f=(1/T)である。
【0021】
この駆動信号を用いて、次のように多階調記録を行うことができる。ノズル6から液体を吐出しないときを1階調とし、以下、吐出滴数ごとに2階調、3階調・・・n+1階調として説明する。制御部7は、1階調を記録するときは駆動素子3にパルスを供給せず、2階調を記録するときは第nパルスを単独供給し、3階調を記録するときは第(n−1)パルスと第nパルスを連続供給し、(n+1)階調を記録するときは第1パルス〜第nパルスを連続供給する。第nパルスの単独パルスにより吐出される液滴量よりも、第(n−1)パルスと第nパルスの連続パルスにより吐出される液滴量が大きい。更にパルス数を増やすことにより吐出液滴量を増加させることができる。このように、パルス数に応じて液滴量を段階的に増加させて多階調記録を行うことができる。
【0022】
上記多階調記録用の駆動信号を図3に示すステップにより設定する。即ち、ステップAにおいて、1ドットを記録する駆動周期Tを設定する。つまり、液体噴射ヘッドの駆動周波数f(=1/T)を設定する。この周波数fは、液体噴射ヘッド1の記録速度を決定するものであり、液体噴射ヘッド1の性能とこれを使用する液体噴射装置の駆動能力に応じて設定される。
【0023】
次に、ステップBにおいて、圧力室2の固有振動周期Apを特定する。圧力室2に充填された液体に瞬間的に圧力を印加するとその圧力室2に固有な振動周期を持つ圧力振動が生成される。一旦圧力振動が生成されると、次に液滴を吐出する際に残存する圧力振動が重畳され、吐出液滴の速度や液滴量が変化する。そのため、圧力振動は記録品質を低下させる原因となる。そして、固有振動周期Apは圧力室2の形状、材質、容積、液体の種類等により変化するので実測して特定するのが最も正確である。
【0024】
次に、ステップCにおいて、第1パルスの開始から第nパルスの終了までを駆動期間Lpとして、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を固有振動周期Apの略Ap/4の期間の奇数倍に設定する。これにより、第1周期C1の駆動により生成された固有振動が第二周期C2の駆動に重畳し、吐出速度や吐出液滴量を変動させることを最小限に抑制することができる。図4と図5を用いて残期間ΔTを固有振動周期Apの略Ap/4の期間の奇数倍に設定する物理的な意味を説明する。
【0025】
図4は、残期間ΔTと吐出される吐出液滴量Vとの関係について、パルス数を変えて測定したグラフであり、図5は、残期間ΔTと吐出液滴量の変化量ΔVとの関係を表すグラフである。図4において、横軸は残期間ΔTであり、縦軸は吐出液滴量Vである。グラフG1は単独パルスにより吐出したときの残期間ΔTと吐出液滴量Vの関係を表し、グラフG2は2つのパルス、例えば第(n−1)パルスと第nパルスを連続させて吐出したときの残期間ΔTと吐出液滴量Vの関係を表し、以下同様にして、グラフG7は7つのパルス、例えば第(n−7)パルス、第(n−6)パルス、・・・第(n−1)パルス、第nパルスを連続させて吐出したときの残期間ΔTと吐出液滴量Vの関係を表す。グラフG1からグラフG7から明らかに、パルス数を増加させることにより吐出される液滴の体積Vが比例して増加する。更に、残期間ΔTの開始直後からの吐出液滴量Vの変化量は各グラフG2〜G7において共通する。
【0026】
図5は、図4の各グラフG1〜G7に現れる吐出液滴量Vの変化をグラフにした。横軸が残期間ΔT、縦軸が吐出液滴量の変化量ΔVである。図4から明らかに、各グラフG1〜G7において、残期間ΔTの開始直後から発生する吐出液滴量Vの変化量ΔVは、圧力室2に発生した圧力振動が液滴吐出の際に重畳された結果である。即ち、図5に示される残期間ΔT対吐出液滴量の変化量ΔVは圧力室2の固有振動に基づくものであり、式(1)により表される。
ΔV=A0cos(2πΔT/Ap)・exp(−λΔT)・・・・(1)
ここで、A0は振幅、λは減衰率
そこで、残期間ΔTを次式(2)のように設定すれば吐出液滴量の変化量ΔVを最小に制限することができる。
ΔT=T−Lp=(2m−1)Ap/4・・・・・・・・・・・(2)
ここでmは正の整数
つまり、残期間ΔTをAp/4,3Ap/4,5Ap/4,7Ap/4のように、残期間ΔTを固有振動周期Apの略Ap/4の期間の奇数倍に設定することにより、吐出液滴量の変化量ΔVを最小に抑制することができる。なお、ここで最小とは無限時間後の固有振動が存在しなくなった状態である。これは、第一周期C1の駆動により発生した固有振動が第二周期C2の吐出に重畳されない条件、つまり先の周期の駆動が後の周期の駆動に影響を与えない条件となる。しかも、吐出液滴量が増減しても(パルス数を変化させても)上記式(1)及び式(2)が成り立つので、駆動信号を設定する際の主要な条件とすることができる。
【0027】
以上の通り、まず、液体噴射ヘッドやこれを搭載する液体噴射装置から要請される駆動周期Tを設定し、液体ヘッド固有の固有振動周期Apを特定した後に、第nパルス以降に発生する圧力振動が次の周期の第1パルスの液滴吐出の際に重畳されないように残期間ΔTを設定して駆動信号の大枠を決定する。その後、第1パルスから第nパルスの個々の条件を微調整して設定すればよいので、設定数が減少する。また、要請される駆動周期を基に波形を設定しているため再設定を行う必要が無く、短時間で駆動信号を決定することができる。
【0028】
なお、上記ステップAとステップBは時間的な順序を規定するものではなく、先にステップBにより固有振動周期Apを特定した後にステップAにより駆動周期Tを設定しても良いことは言うまでもない。また、液体噴射ヘッド1の構成は、図1に示すように圧力室2を構成する壁8の一部が圧電体4からなる駆動素子3であるものに限定されず、非圧電素子により壁8を構成し、その外部又は内部に駆動素子3を接合し、圧力室2内に充填される液体に圧力振動を印加することができるものであればよい。
【0029】
次に、本発明の液体噴射ヘッドの駆動方法は次のとおりである。即ち、液体噴射ヘッド1は、圧力室2と、圧力室2を駆動する駆動素子3と、圧力室2に連通するノズル6とを備える。そして、単位ドットを記録する駆動周期Tを設定し(ステップA)、圧力室2の固有振動周期Apを特定し(ステップB)、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔTを略Ap/4の期間の奇数倍に設定した(ステップC)第1パルスから第nパルスを制御部7は駆動素子3に順次供給して液体噴射ヘッド1を駆動する。
【0030】
また、本発明の液体噴射ヘッド1は、制御部7が駆動素子3にn個のパルスを順次与えて単位ドットを記録するとともに、単位ドットを記録する駆動周期をTとし、圧力室2の固有振動周期をApとし、第1パルスの開始から第nパルスの終了までの駆動期間をLpとしたときに、駆動周期Tから駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)が略Ap/4の期間の奇数倍に設定されている。
【0031】
(第二実施形態)
図6は本発明の第二実施形態に係る駆動信号設定方法を表す工程図であり、図7は設定する駆動信号の波形を表す。図6に示すように、ステップA〜ステップCは第一実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0032】
次に、ステップDにおいて、図7に示すように、第nパルスのパルス幅を固有振動周期Apの略Ap/2に設定する。これにより、概ね最大の吐出速度を得ることができる。また、第1〜第nの各パルスの開始の時間間隔を固有振動周期Apに設定する。これにより、各パルスにより吐出される液滴の吐出速度をほぼ等しく設定することができる。次に、第nパルスに先行する第1パルスから第(n−1)パルスのパルス幅を暫定的に固有振動周期Apの略Ap/4とする。つまり、電圧ONの期間を略Ap/4とし,電圧OFFの期間を略3Ap/4とする。これにより、各吐出パルスにより吐出される液滴の吐出量や吐出速度をほぼ等しくすることができる。しかし、実際は圧力室2の形状、材質、容積、液体の種類等に応じて液滴の吐出量や吐出速度が変動する。そこで、図7の矢印で示すように、更に第1パルスの終了タイミングを微調整して、所定の吐出量及び吐出速度が得られるパルス幅に設定する。
【0033】
次に、ステップEにおいて、第2パルスのパルス幅を設定する。上記第1パルスの設定と同様に、第2パルスのパルス幅を暫定的に略Ap/4とし、第2パルスの終了タイミングを微小に変化させて調整し(図7の矢印)、最適の終了タイミングに設定する。以降、第(n−1)パルスまで各パルスのパルス幅を調整して最適値に設定する。なお、第1パルスの設定後に必ず第2パルスのパルス幅を設定しなければならない、というものではなく、第2パルスから第(n−1)パルスのいずれか一のパルスのパルス幅を設定するものであってもよい。すでに説明したように、本発明においては第一周期C1の駆動信号がそれ以降の第二周期C2の駆動に与える影響が低減しているので、例えば第1パルスを設定し、次に第2パルスを設定する際に、戻って第1パルスを再設定する必要が無い。更に、最初に駆動周期Tを設定しているので、各パルスの設定後に駆動周期が合わず、戻って最初から各パルスの再設定を行う必要もない。
【0034】
このように、ステップAからステップCにおいて、駆動信号の大枠を決定し、次に、第1パルス、第2パルス・・・というように個々のパルスを調整しながら設定することにより、最適な駆動条件を少ないパラメータ数(設定数)により短時間で決定することができる。各パルスの設定は、第1パルス、第2パルス・・・の順に行うのが好ましい。パルス幅を設定することによる影響は、時間的に前のパルスに対するよりも後のパルスに対する影響が大きいからである。
【0035】
なお、上記第二実施形態において、駆動期間Lpにn個のパルスを設定し、各パルスの開始の時間間隔を略Apに、第nパルスのパルス幅を略Ap/2に設定した。従って、駆動期間Lp=(2k+1)Ap/2、(ここでkは正の整数)となるので、駆動周期Tは式(2)を用いて次式(3)の関係を満たす必要がある。
T=ΔT+Lp=(2j+1)Ap/4・・・・・・・・・(3)
ここでjは3以上の正の整数
つまり、ステップAにおいて駆動周期Tを7Ap/4、9Ap/4、11Ap/4・・・のように、圧力室2の固有振動周期Apの略Ap/4の奇数倍となるように設定することが好ましい。従って、先にステップBにより圧力室2の固有振動周期Apを特定し、次に駆動周期Tを設定することが望ましい。なお、本実施形態においては、第1から第(n−1)の各パルス幅を略Ap/4としたが、これに限られるものではない。電圧ONの期間を略3Ap/4とし、電圧OFFの期間を略Ap/4とすることも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 液体噴射ヘッド
2 圧力室
3 駆動素子
4 圧電体
5 電極
6 ノズル
7 制御部
8 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記圧力室に連通するノズルとを備える液体噴射ヘッドにおいて、前記駆動素子にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録する多階調記録用の駆動信号設定方法であって、
前記単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、
前記圧力室の固有振動周期Apを特定するステップBと、
第1パルスの開始から第nパルスの終了までを駆動期間Lpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の奇数倍に設定するステップCと、を備える駆動信号設定方法。
【請求項2】
前記第nパルスのパルス幅を略Ap/2に設定し、各パルスの開始の時間間隔を略Apに設定し、前記第1パルスのパルス幅を設定するステップDを備える請求項1に記載の駆動信号設定方法。
【請求項3】
第2パルスから第(n−1)パルスのいずれか一のパルス幅を設定するステップEを備える請求項2に記載の駆動信号設定方法。
【請求項4】
圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記圧力室に連通するノズルと、前記駆動素子に駆動信号を供給する制御部とを備える液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記制御部は前記駆動素子に、
単位ドットを記録する駆動周期Tを設定するステップAと、前記圧力室の固有振動周期Apを特定するステップBと、第1パルスの開始から第n(nは2以上の整数)パルスの終了までを駆動期間Lpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)を略Ap/4の奇数倍に設定するステップCにより設定した前記第1パルスから前記第nパルスを順次与える液体噴射ヘッドの駆動方法。
【請求項5】
圧力室と、前記圧力室を駆動する駆動素子と、前記駆動素子に駆動信号を供給する制御部とを備え、
前記制御部は前記駆動素子にn個(nは2以上の整数)のパルスを順次与えて単位ドットを記録するとともに、
前記単位ドットを記録する駆動周期をTとし、前記圧力室の固有振動周期をApとし、第1パルスの開始から第nパルスの終了までの駆動期間をLpとして、前記駆動周期Tから前記駆動期間Lpを差し引いた残期間ΔT=(T−Lp)が略Ap/4の奇数倍に設定されている液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記駆動周期Tが略Ap/4の奇数倍に設定されている請求項5に記載の液体噴射ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−218184(P2012−218184A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83055(P2011−83055)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】