説明

駆動力伝達装置

【課題】引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、第1のクラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1は、パイロットクラッチ10のクラッチ動作による作動によってハウジング12からの回転力をカム推力Pに変換するカム機構15を備え、カム機構15は、ハウジング12からの回転力を受けて回転するパイロットカム150、パイロットカム150との間でカム推力Pを発生させてメインクラッチ8に出力するメインカム151、及びメインカム151とパイロットカム150との間に介在する転動体152を有し、パイロットカム150がその初期状態において第1のスプリング30による回転一方向のばね力、及び第2のスプリング31による回転他方向のばね力を受けて回転方向中立位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、この第1の回転部材の回転軸線上で回転可能な第2の回転部材と、この第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式の第1のクラッチと、この第1のクラッチに第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線に沿って並列する電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて駆動される摩擦式の第2のクラッチと、この第2のクラッチのクラッチ動作によって第1の回転部材からの回転力を第1のクラッチ側へのカム推力(押付力)に変換するカム機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転するように構成されている。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に回転軸線上で相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。
【0006】
第1のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、第1のクラッチは、メインクラッチとして機能し、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0007】
電磁クラッチは、第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線上に配置されている。そして、電磁クラッチは、電磁力を発生させて第2のクラッチを駆動するように構成されている。
【0008】
第2のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、メインクラッチの電磁クラッチ側に配置されている。そして、第2のクラッチは、電磁クラッチの電磁力を受けて駆動されるパイロットクラッチとして機能し、第1の回転部材の回転力をカム機構に付与するように構成されている。
【0009】
カム機構は、第1の回転部材からの回転力によるカム作用によって第1のクラッチに押付力を付与する押付部を有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。
【0010】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によって第2のクラッチが駆動される。
【0011】
次に、第2のクラッチの駆動時に第1の回転部材からの回転力をカム機構が受けると、この回転力がカム機構によって押付力に変換され、この押付力が第1のクラッチに付与される。
【0012】
そして、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−14001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1の駆動力伝達装置によると、四輪駆動車の二輪駆動による走行時にカム機構が第2の回転部材からの回転力のみならず、第2のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによって第1の回転部材からの回転力も受け、この回転力によるカム推力の発生によってカム機構の押付部が第1のクラッチを押し付ける。このため、第1のクラッチがカム機構によって増幅された押付力を受け、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに摩擦係合する。この結果、旋回性や燃費に悪影響を及ぼすばかりか、四輪駆動車の二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際にクラッチによる良好なクラッチ動作を得ることができない。
【0015】
一方、上記した引き摺りトルクによる悪影響を抑制するために、例えば第1のクラッチのクラッチプレートのうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスを広げることが考えられるが、この場合には第1のクラッチにおけるクラッチ動作の応答性が低下する。
【0016】
従って、本発明の目的は、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、第1のクラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(10)の駆動力伝達装置を提供する。
【0018】
(1)四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置された第2の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを断続可能に連結する第1のクラッチと、前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、前記カム機構は、前記第1の回転部材からの回転力を受けて回転する入力用のカム部材、前記入力用のカム部材との間で前記カム推力を発生させて前記第1のクラッチに出力する出力用のカム部材、及び前記出力用のカム部材と前記入力用のカム部材との間に介在するカムフォロアを有し、前記入力用のカム部材がその初期状態において第1のスプリングによる回転一方向のばね力、及び第2のスプリングによる回転他方向のばね力を受けて回転方向中立位置に配置されている駆動力伝達装置。
【0019】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記第1のクラッチから前記回転軸線に沿って離間する方向のばね力を前記第1のスプリングから受ける軸線方向位置に配置されている。
【0020】
(3)上記(1)又は(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記入力用のカム部材及び前記出力用のカム部材に前記カムフォロアを介して互いに対向するカム面を有し、前記カム面が前記出力用のカム部材を前記第1のクラッチから前記回転軸線に沿って最も離間させる遠方位置に配置するための凹面と、前記出力用のカム部材を前記第1のクラッチに押し付ける押付位置、及び前記出力用のカム部材を前記遠方位置と前記押付位置との間の中間位置としての軸線方向初期位置に配置するための凹面とによって形成されている。
【0021】
(4)上記(3)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記四輪駆動車の二輪駆動状態において前記遠方位置に配置されている。
【0022】
(5)上記(3)又は(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記四輪駆動車の四輪駆動状態において前記押付位置に配置されている。
【0023】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記入力用のカム部材と前記出力用のカム部材との間に介在する内外2つのスプリング受部材を有し、前記内外2つのスプリング受部材のうち内側のスプリング受部材が前記出力用のカム部材との間で前記第2のスプリングから前記入力用のカム部材を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力を常時受ける回転方向位置に、また外側のスプリング受部材が前記内側のスプリング受部材との間で第3のスプリングから前記入力用のカム部材を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力を前記四輪駆動車の二輪駆動状態において受ける回転方向位置にそれぞれ配置されている。
【0024】
(7)上記(6)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記内側のスプリング受部材が前記出力用のカム部材との間で前記第2のスプリングのばね力を受ける第1のスプリング内側受部、及び前記外側のスプリング受部材との間で前記第3のスプリングのばね力を受ける第2のスプリング内側受部を有する。
【0025】
(8)上記(7)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記外側のスプリング受部材が前記第2のスプリング内側受部との間で前記第3のスプリングのばね力を受けるスプリング外側受部を有し、前記出力用のカム部材が前記スプリング外側受部から前記第3のスプリングのばね力を受けて前記外側のスプリング受部材の前記第2のスプリング内側受部と反対側への回転を規制する回転規制部を有する。
【0026】
(9)上記(6)乃至(8)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記内側のスプリング受部材が前記入力用のカム部材との間に互いに連結する連結部を有し、前記入力用のカム部材の回転によって前記回転軸線の回りに回転する回転部材によって形成されている。
【0027】
(10)上記(9)に記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記連結部を案内するガイドを有する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、第1のクラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図は四輪駆動車の二輪駆動状態を示す。
【図3】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置におけるカム機構を説明するために示す分解斜視図。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における入力用のカム部材を説明するために示す側面図と断面図。(a)は側面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における出力用のカム部材を説明するために示す側面図と断面図。(a)は側面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構におけるリテーナを説明するために示す側面図と断面図。(a)は側面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における内側のスプリング受部材を説明するために示す側面図と断面図。(a)は側面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【図8】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における外側のスプリング受部材を説明するために示す側面図と断面図。(a)は側面図を、また(b)は断面図をそれぞれ示す。
【図9】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における入力用のカム部材及び出力用のカム部材の動作を説明するために示す断面図。(a)は初期状態を、(b)は二輪駆動状態を、また(c)は四輪駆動状態をそれぞれ示す。
【図10】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム機構における動作を説明するために示す断面図。(a)は初期状態を、(b)は二輪駆動状態を、また(c)は四輪駆動状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車200は、駆動力伝達系201,エンジン202,トランスミッション203,主駆動輪としての前輪204L,204R及び補助駆動輪としての後輪205L,205Rを備えている。
【0031】
駆動力伝達系201は、四輪駆動車200におけるトランスミッション203側から後輪205L,205R側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル206及びリヤディファレンシャル207と共に配置され、かつ四輪駆動車200の車体(図示せず)に搭載されている。
【0032】
そして、駆動力伝達系201は、駆動力伝達装置1,プロペラシャフト2及び駆動力断続装置3を有し、四輪駆動車200の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0033】
フロントディファレンシャル206は、前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに連結されたサイドギヤ209L,209R、サイドギヤ209L,209Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ210、及び一対のピニオンギヤ210を支持するギヤ支持部材211、ギヤ支持部材211,一対のピニオンギヤ210及びサイドギヤ209L・209Rを収容するフロントデフケース212を有し、トランスミッション203と駆動力断続装置3との間に配置されている。
【0034】
リヤディファレンシャル207は、後輪側のアクスルシャフト213L,213Rに連結されたサイドギヤ214L,214R、サイドギヤ214L,214Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ215、一対のピニオンギヤ215を支持するギヤ支持部材216、ギヤ支持部材216,一対のピニオンギヤ215及びサイドギヤ214L・214Rを収容するリヤデフケース217を有し、プロペラシャフト2と駆動力伝達装置1との間に配置されている。
【0035】
エンジン202は、トランスミッション203及びフロントディファレンシャル206を介して前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに駆動力を出力することにより前輪204L,204Rを駆動する。
【0036】
また、エンジン202は、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介して一方の後輪側のアクスルシャフト213Lに駆動力を出力することにより一方の後輪205Lを、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル207を介して他方の後輪側のアクスルシャフト213Rに駆動力を出力することにより他方の後輪205Rをそれぞれ駆動する。
【0037】
プロペラシャフト2は、駆動力伝達装置1と駆動力断続装置3との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン202の駆動力をフロントデフケース212から受けて前輪204L,204R側から後輪205L,205R側に伝達するように構成されている。
【0038】
プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる後輪側の歯車機構7が配置されている。
【0039】
駆動力断続装置3は、フロントデフケース212に対して回転不能な第1のスプライン歯部3a、リングギヤ61に対して回転不能な第2のスプライン歯部3b、及び第1のスプライン歯部3a,第2のスプライン歯部3bにスプライン嵌合可能なスリーブ3cを有する例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車200の前輪204L,204R側に配置され、かつアクチュエータ(図示せず)を介して車両用のECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、駆動力断続装置3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース212とを断続可能に連結するように構成されている。
【0040】
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2は駆動力伝達装置を示す。図2に示すように、駆動力伝達装置1は、第1のクラッチとしてのメインクラッチ(多板クラッチ)8,電磁クラッチ9,第2のクラッチとしてのパイロットクラッチ10,ハウジング12,インナシャフト13,カム機構15を有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205L側に配置され、かつ装置ケース(図示せず)内に収容されている。
【0041】
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)とを断続可能に、またプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とをそれぞれ連結するように構成されている。
【0042】
すなわち、駆動力伝達装置1による連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7,リヤディファレンシャル207(共に図1に示す)及びサイドギヤシャフト14を介して、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2との連結が遮断されるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してトルク伝達可能に連結されたままである。
【0043】
(メインクラッチ8の構成)
メインクラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有する摩擦式のメインクラッチからなり、ハウジング12とインナシャフト13との間に配置されている。
【0044】
そして、メインクラッチ8は、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結するように構成されている。
【0045】
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間における回転軸線O方向のクリアランスGは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0046】
インナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部13iに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0047】
インナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80bが設けられている。複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の入力部として機能し、カム機構15のメインカム151(後述)からアウタクラッチプレート81側にスペーサ82を介して押付力(カム推力)Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させるように構成されている。
【0048】
アウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aをフロントハウジング18のストレートスプライン嵌合部18b(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0049】
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、フロントハウジング18及びリヤハウジング19からなり、後輪側のアクスルシャフト213L,213R(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上に配置されている。
【0050】
フロントハウジング18は、リヤハウジング19側に開口して潤滑油を収容する収容空間18a、及びこの収容空間18aに露出するストレートスプライン嵌合部18bを有し、プロペラシャフト2(図1に示す)にリヤディファレンシャル207(図1に示す)及びサイドギヤ14等を介して連結され、全体がアルミニウムなど非磁性の金属材料からなる有底円筒状の部材によって形成されている。そして、フロントハウジング18は、エンジン202(図1に示す)の駆動力をサイドギヤ14から受けてリヤハウジング19と共に回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。
【0051】
リヤハウジング19は、第1〜第3のリヤハウジングエレメント20〜22からなり、フロントハウジング18の開口内周面にねじ結合され、かつ車体(装置ケース)側のコイルホルダ23に玉軸受24を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。リヤハウジング19には、フロントハウジング18側と反対側に開口し、かつコイルホルダ23を収容する円環状の収容凹部19aが設けられている。
【0052】
第1のリヤハウジングエレメント20は、リヤハウジング19の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第1のリヤハウジングエレメント20の内周面は、インナシャフト13における中間外径の円筒部13d〜13f(後述)のうち円筒部13dの外周面との間に玉軸受25が、また中間外径の円筒部13fの外周面との間にシール機構26がそれぞれ介在して配置されている。
【0053】
第2のリヤハウジングエレメント21は、リヤハウジング19の外周側に配置され、全体が第1のリヤハウジングエレメント20と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のリヤハウジングエレメント21の外周面は、フロントハウジング18の内周面との間にシール部材27が介在して配置されている。
【0054】
第3のリヤハウジングエレメント22は、第1のリヤハウジングエレメント20と第2のリヤハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるリヤハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0055】
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、かつフロントハウジング18の内周面に玉軸受28を介して、またリヤハウジング19(第1のリヤハウジングエレメント20)の内周面に玉軸受25を介してそれぞれ回転可能に支持されている。また、インナシャフト13は、各外径が互いに異なる複数の円筒部13a〜13f(円筒部13b,13cは胴部)、これら円筒部13a〜13fのうち両円筒部13b,13c間に介在する段差面13g、及び両円筒部13a,13d間に介在する段差面13hを有し、全体が軸線方向片側に開口する有底円筒部材によって形成されている。
【0056】
円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、円筒部(胴部)13cの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13d〜13fの外径は円筒部13aの外径と円筒部(胴部)13cの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。
【0057】
そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)の先端部を挿入させて収容するように構成されている。後輪側のアクスルシャフト213Lは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0058】
インナシャフト13(円筒部13a)の外周面には、フロントハウジング18の収容空間18aに露出し、メインクラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部13iが設けられている。
【0059】
(電磁クラッチ9の構成)
電磁クラッチ9は、電磁コイル90及びアーマチャ91を有し、メインクラッチ8にハウジング12の回転軸線O上で並列して配置されている。そして、電磁クラッチ9は、ハウジング12の回転時に電磁力Fの発生によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によってパイロットクラッチ10を駆動し、パイロットクラッチ10のインナクラッチプレート100とアウタクラッチプレート101とを互いに摩擦係合させるように構成されている。
【0060】
電磁コイル90は、車両用のECU(図示せず)に接続され、かつコイルホルダ23に保持されている。そして、電磁コイル90は、通電によってリヤハウジング19及びアーマチャ91等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ91にリヤハウジング19側への移動力を付与するための電磁力Fを発生させるように構成されている。
【0061】
アーマチャ91は、その外周面にストレートスプライン嵌合部91aを有し、ストレートスプライン嵌合部91aをストレートスプライン嵌合部18bに嵌合させてフロントハウジング18に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、カム機構15(パイロットカム150)とパイロットクラッチ10との間に介在して配置され、かつフロントハウジング18の収容空間18aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ91は、電磁コイル90の電磁力Fを受け、リヤハウジング19側に回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。
【0062】
(パイロットクラッチ10の構成)
パイロットクラッチ10は、インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101を有し、アーマチャ91とリヤハウジング19との間に配置され、かつフロントハウジング18の収容空間18aに収容されている。そして、パイロットクラッチ10は、電磁クラッチ9への通電によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によってインナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してフロントハウジング18とカム機構15(パイロットカム150)とを断続可能に連結するように構成されている。
【0063】
インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
【0064】
インナクラッチプレート100は、その内周部にストレートスプライン嵌合部100aを有し、ストレートスプライン嵌合部100aをストレートスプライン嵌合部150bに嵌合させてパイロットカム150に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0065】
アウタクラッチプレート101は、その外周部にストレートスプライン嵌合部101aを有し、ストレートスプライン嵌合部101aをストレートスプライン嵌合部18bに嵌合させてフロントハウジング18に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0066】
(カム機構15の構成)
図3はカム機構を示す。図2及び図3に示すように、カム機構は15は、パイロットカム(入力用のカム部材)150,メインカム(出力用のカム部材)151及び転動体(カムフォロア)152を有するとともに、内側のスプリング受部材153及び外側のスプリング受部材154を有し、メインクラッチ8(スペーサ82)とリヤハウジング19との間に配置され、かつフロントハウジング18の収容空間18aに収容されている。
【0067】
図4(a)及び(b)はパイロットカムを示す。パイロットカム150は、図2〜図4(a),(b)に示すように、メインカム151側にフランジ150aを有するとともに、リヤハウジング19側にストレートスプライン嵌合部150bを有し、カム機構15の一方側(パイロットクラッチ10側)に配置され、かつリヤハウジング19(第1のリヤハウジングエレメント20)に針状ころ軸受29を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0068】
パイロットカム150には、メインカム151の一部(ボス部151c)を収容するカム用の収容孔150c、針状ころ軸受29を収容する軸受用の収容孔150d、及びこれら両収容孔150c,150dに連通する連通孔150eが設けられている。
【0069】
パイロットカム150のメインクラッチ8側には、メインカム151における複数(本実施の形態では3個)のカム面157(後述)に転動体152を介して対向する複数(本実施の形態では3個)のカム面155(図10(a)〜(c)にも示す)が設けられている。
【0070】
複数のカム面155は、パイロットカム150の円周方向に等間隔をもって配置され、メインカム151をメインクラッチ8から回転軸線Oに沿って最も離間させる遠方位置aに配置するための凹面155aと、メインカム151をメインクラッチ8に最も接近させる近傍位置(押付位置)b、及びメインカム151を遠方位置aと近傍位置bとの間の中間位置としての軸線方向初期位置cに配置するための凹面155bとから構成されている。
【0071】
一方の凹面155aは、その円周方向中央部から円周方向両端部に向かって上る(メインカム151のカム面157に向かって漸次接近する)勾配をもつ曲面で形成されている。他方の凹面155bは、一方の凹面155aからパイロットカム150の円周方向に離間する部位に向かって上る勾配(凹面155aの勾配よりも緩やかな勾配)をもつ曲面で形成されている。
【0072】
また、パイロットカム150のメインクラッチ8側には、複数のカム面155のうち互いに隣り合う2つのカム面155間に介在する複数対(本実施の形態では3対)の凸部156a,156b、及び各対の両凸部156a,156b間に介在する係合溝156cが配置されている。複数対の凸部156a,156bは、パイロットカム150の円周方向に等間隔をもって配置されている。一方の凸部156aは、他方の凸部156bと比べ、周方向寸法が大きい寸法に、また軸線方向寸法(突出長さ)が略同一の寸法にそれぞれ設定されている。
【0073】
そして、パイロットカム150は、その初期状態において第1のスプリング30による回転一方向に作用するばね力S(凹面155bに作用するばね力Sの分力:図10(a)に示す)、及び第2のスプリング31による回転他方向に作用するばね力S(S=S:図10(a)に示す)を受けて回転方向中立位置に配置されている。初期状態においては、パイロットカム150の凹面155b(四輪駆動状態の場合と比べて凹面155aに近い部位)及びメインカム151の凹面157b(四輪駆動状態の場合と比べて凹面157aに近い部位)に転動体152が乗り上げ、メインカム151がメインクラッチ8(スペーサ82)との間のクリアランスCをC=0とする軸線方向初期位置cに配置されている。
【0074】
第1のスプリング30は、メインクラッチ8(スペーサ82)とメインカム151との間に初期状態(四輪駆動車200の非駆動状態)においてクリアランスC(C≠0)を確保するためのばね力Sを回転軸線O方向にもつ圧縮コイルスプリングからなり、インナシャフト13の段差面13hとメインカム151における内フランジ151dのフランジ端面との間に介在して円筒部13d(インナシャフト13)の外周囲に配置されている。
【0075】
第2のスプリング31は、パイロットカム150を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力Sをもつ圧縮コイルスプリングからなり、内側のスプリング受部材153における第1のスプリング内側受部153a(後述)とメインカム151のスプリング受部151l(後述)との間に介在して配置され、かつメインカム151における内側のスプリング収容部151i(後述)に収容されている。
【0076】
一方、パイロットカム150は、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態においてインナシャフト13から回転力を受けてメインカム151を軸線方向初期位置cよりもメインクラッチ8から回転軸線Oに沿って離間させる遠方位置aに配置されている。また、パイロットカム150は、四輪駆動車200の四輪駆動状態においてハウジング12からの回転力を受けてメインカム151を軸線方向初期位置cよりもメインクラッチ8に回転軸線Oに沿って接近させて押し付ける押付位置bに配置されている。
【0077】
第3のスプリング32は、パイロットカム150を四輪駆動車200の二輪駆動状態における回転方向位置から回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力Sをもつ圧縮コイルスプリングからなり、内側のスプリング受部材153における第2のスプリング内側受部153b(後述)と外側のスプリング受部材154のスプリング外側受部154aとの間に介在して配置され、かつメインカム151における外側のスプリング収容部151j(後述)に収容されている。
【0078】
図5(a)及び(b)はメインカムを示す。メインカム151は、図2〜図5(a),(b)に示すように、パイロットカム150側に円筒状の立ち上がり部151aを、またカム中央部にシャフト挿通孔151bをそれぞれ有し、カム機構15の他方側(メインクラッチ8側)に配置され、かつインナシャフト13(円筒部13a)に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0079】
そして、メインカム151は、初期状態(四輪駆動車200の非駆動状態)においてメインクラッチ8(スペーサ82)との間における回転軸線O方向のクリアランスCをC=0(互いに隣り合う2つのインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間における回転軸線O方向のクリアランスGはG≠0)とする軸線方向初期位置cに配置されている。また、メインカム151は、四輪駆動車200の二輪駆動状態においてクリアランスC,GをC≠0,G≠0とする遠方位置aに、四輪駆動車200の四輪駆動状態においてクリアランスC,GをC=0,G=0とする押付位置bにそれぞれ配置されている。
【0080】
メインカム151には、シャフト挿通孔151bのパイロットカム150側開口周縁に突出する円筒状のボス部151c、及びパイロットカム150側でボス部151cの径方向に突出する内フランジ151dが設けられている。
【0081】
ボス部151cは、その一部がパイロットカム150におけるカム用の収容孔150cに収容されている。ボス部151cの内周面には、インナシャフト13における円筒部13aのストレートスプライン嵌合部13iに嵌合するストレートスプライン嵌合部151eがシャフト挿通孔151bの内周面に跨って設けられている。
【0082】
内フランジ151dは、そのフランジ端面がスプリング受面として機能し、インナシャフト13の段差面13hに第1のスプリング30を介して対向する位置に配置されている。
【0083】
また、メインカム151には、ボス部151cの外周面に開口する円環状の内側凹溝151f、及び内側凹溝151fの外周囲で立ち上がり部151aの内周面に開口する円環状の外側凹溝151gが設けられている。
【0084】
内側凹溝151fにはメインカム151の軸線方向端面との間で内側のスプリング受部材153の軸線方向への移動を規制する止め輪33が、また外側凹溝151gにはメインカム151の軸線方向端面との間で外側のスプリング受部材154の軸線方向への移動を規制する止め輪34がそれぞれ取り付けられている。
【0085】
メインカム151の軸線方向端面には、ボス部151cの外周面と立ち上がり部151aの内周面との間に介在する複数(本実施の形態では3個)のガイド151h、及びガイド151hを介して内外で互いに対向する複数対(本実施の形態では3対)のスプリング収容部151i,151j(内側のスプリング収容部151i,外側のスプリング収容部151j)が設けられている。
【0086】
複数のガイド151hは、メインカム151の円周方向に等間隔をもって配置されている。複数のガイド151hには、パイロットカム150(凸部156a,156b及び係合溝156c)と内側のスプリング受部材153(第1のスプリング内側受部153a及び第2のスプリング内側受部153b)との間に介在する連結部A(図9に示す)を回転軸線Oの回りに案内するガイド溝151kが設けられている。
【0087】
複数対のスプリング収容部151i,151j(内側のスプリング収容部151i,外側のスプリング収容部151j)は、複数のガイド151hと同様にメインカム151の円周方向に等間隔をもって配置されている。内側のスプリング収容部151iの片側端部には、第2のスプリング31のばね力Sを受けるスプリング受部151lが設けられている。
【0088】
また、メインカム151の軸線方向端面には、外側のスプリング受部材154におけるスプリング外側受部154aからリテーナ158の受部158b(図9に示す)を介して第3のスプリング32のばね力Sを受け、外側のスプリング受部材154及びリテーナ158の回転を第3のスプリング32と反対側で規制する複数(本実施の形態では3個)の回転規制部151mが設けられている。
【0089】
メインカム151のパイロットカム150側には、パイロットカム150のカム面155に転動体152を介して対向する複数(本実施の形態では3個)のカム面157(図10(a)〜(c)にも示す)が設けられている。
【0090】
複数のカム面157は、メインカム151の円周方向に等間隔をもって配置され、パイロットカム150のカム面155と共にメインカム151をメインクラッチ8から回転軸線Oに沿って最も離間させる遠方位置aに配置するための凹面157aと、メインカム151をメインクラッチ8に最も接近させる近傍位置(押付位置)b、及びメインカム151を遠方位置aと近傍位置bとの間の中間位置としての軸線方向初期位置cに配置するための凹面157bとから構成されている。
【0091】
一方の凹面157aは、その円周方向中央部から円周方向両端部に向かって上る(パイロットカム150の一方のカム面155に向かって漸次接近する)勾配をもつ曲面で形成されている。他方の凹面157bは、凹面157aからメインカム151の円周方向に離間する部位に向かって上る勾配(凹面157aの勾配よりも緩やかな勾配)をもつ曲面で形成されている。
【0092】
転動体152は、鋼製のボールからなり、パイロットカム150のカム面155とメインカム151のカム面157との間に介在して複数個(本実施の形態では3個)配置され、かつリテーナ158によって転動可能に保持されている。
【0093】
図6(a)及び(b)はリテーナを示す。図2,図3及び図6(a),(b)に示すように、リテーナ158は、ポケット158a及び受部158bを共に複数個(本実施の形態では3個)有し、パイロットカム150のカム面155とメインカム151のカム面157との間に介在して配置され、全体がボス部151cを挿通させる円環部材によって形成されている。ポケット158aは転動体152を転動可能に保持するように、また受部158bはメインカム151の回転規制部151mに押し付けて外側のスプリング受部材154のスプリング外側受部154aと共に第3のスプリング32のばね力Sを受けるようにそれぞれ構成されている。
【0094】
図7(a)及び(b)は内側のスプリング受部材を示す。図2,図3及び図7(a),(b)に示すように、内側のスプリング受部材153は、止め輪33の端面とメインカム150の軸線方向端面との間に介在して第2のスプリング31からパイロットカム150を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力Sを常時受ける回転方向位置に配置され、かつ内側のスプリング収容部151iに収容され、全体がメインカム151のボス部151cを挿通させる円環部材によって形成されている。そして、内側のスプリング受部材153は、パイロットカム150の回転によって回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。
【0095】
内側のスプリング受部材153には、メインカム151の回転規制部151mとの間で第2のスプリング31のばね力Sを常時受ける第1のスプリング内側受部153a、及び外側のスプリング受部材154におけるスプリング外側受部154aとの間で第3のスプリング32のばね力Sを四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態において受ける第2のスプリング内側受部153bがそれぞれ複数個(本実施の形態では3個)設けられている。
【0096】
また、内側のスプリング受部材153には、第1のスプリング内側受部153aと第2のスプリング内側受部153bとを連結し、かつパイロットカム150の係合溝156cに係合する基部153cが設けられている。基部153cは、パイロットカム150の凸部156a,156b及び係合溝156cと共に連結部A(図9に示す)として機能するように構成されている。
【0097】
図8(a)及び(b)は外側のスプリング受部材を示す。図2,図3及び図8(a)及び(b)に示すように、外側のスプリング受部材154は、内側のスプリング受部材153の外周囲で止め輪34の端面とメインカム150の軸線方向端面との間に介在して第3のスプリング32からパイロットカム150を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力Sを四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動状態において受ける回転方向位置に配置され、かつ外側のスプリング収容部151jに収容され、全体が内側のスプリング受部材153と同様にメインカム151のボス部151cを挿通させる円環部材によって形成されている。
【0098】
外側のスプリング受部材154には、内側のスプリング受部材153における第2のスプリング内側受部153bとの間で第3のスプリング32のばね力Sを受ける複数(本実施の形態では3個)のスプリング外側受部154aが設けられている。
【0099】
(駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1,図2,図9(a)〜(c)及び図10(a)〜(c)を用いて説明する。図9(a)〜(c)は入力用のカム部材及び出力用のカム部材の動作状態と非動作状態とを示す。図10(a)〜(c)はカム機構の作動状態と非作動状態とを示す。
【0100】
図1において、四輪駆動車200の二輪駆動時にエンジン202を始動すると、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達され、さらにフロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rに伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。
【0101】
この場合、図2において、電磁クラッチ9では電磁コイル90が非通電状態にあるため、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mが形成されず、アーマチャ91が電磁コイル90側に移動してパイロットクラッチ10のインナクラッチプレート100とアウタクラッチプレート101とを摩擦係合させることがない。
【0102】
一方、カム機構15では、インナシャフト13の回転力がメインカム151に作用するとともに、パイロットクラッチ10のインナクラッチプレート100とアウタクラッチプレート101との間に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクTがパイロットカム150に作用する。
【0103】
これに伴い、パイロットカム150とメインカム151との間に回転差が発生してカム機構15が作動し、図9(a)に示す回転方向中立位置からパイロットカム150の回転によってその回転方向に内側のスプリング受部材153が図9(b)に示す矢印R方向に回転して第3のスプリング32を圧縮し、第3のスプリング32のばね力Sが内側のスプリング受部材153に作用する。第2のスプリング31のばね力Sは内側のスプリング受部材153に常時作用する。
【0104】
また、図10(a)に示す回転方向中立位置から図10(b)に示すようにカム面155の凹面155aとカム面157の凹面157aとを対向させる回転方向位置に配置されるとともに、これら両凹面155a,157a間に転動体152が配置される。
【0105】
このため、メインカム151が軸線方向初期位置cから回転軸線O上を移動して遠方位置(メインクラッチ8から最も離間する位置)aに配置される。
【0106】
この状態においては、パイロットカム150に回転方向中立位置に復帰させる方向に第2のスプリング31のばね力S及び第3のスプリング32のばね力Sが作用し、これらばね力S,Sを加算したばね力(S+S)と上記した引き摺りトルクTが釣り合うこととなり、この釣り合い位置からパイロットカム150が回転方向中立位置に向かって回転することがない。
【0107】
従って、本実施の形態においては、四輪駆動車200の二輪駆動時にカム機構15がカム推力Pを発生させることがないため、メインカム151とメインクラッチ8(スペーサ82)との間のクリアランスC(C≠0)及びインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスG(G≠0)が確保される。
【0108】
これにより、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが摩擦係合せず、エンジン202の回転駆動力はハウジング12からインナシャフト13に伝達されない。
【0109】
次に、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L,213Rとをトルク伝達可能に連結し、引き続き駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。
【0110】
そして、電磁コイル90が通電されると、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mがコイルホルダ23,アーマチャ91及びリヤハウジング19等に跨って形成され、アーマチャ91が電磁コイル90への通電に基づいて発生する電磁力F(吸引力)によって電磁コイル90に接近する方向に移動する。
【0111】
アーマチャ91の電磁コイル90側への移動によってパイロットクラッチ10のインナクラッチプレート100とアウタクラッチプレート101とが摩擦係合し、ハウジング12とパイロットカム150とがパイロットクラッチ10を介して連結される。
【0112】
このため、ハウジング12の回転力がパイロットカム150に伝達され、パイロットカム150が図9(c)に示す矢印R方向に回転する。
【0113】
これに伴い、パイロットカム150が図9(b)に示す回転方向位置から図9(a)に示す回転方向中立位置を経て図9(c)に示す回転方向位置に配置される。
【0114】
同時に、パイロットカム150の回転によってカム機構15が作動し、カム機構15において発生するカム作用によってハウジング12の回転力がカム推力Pに変換され、このカム推力Pによってメインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させる方向(メインクラッチ8側)にメインカム151が第1のスプリング30のばね力Sに抗して移動する。
【0115】
このため、メインカム151が図10(b)に示す位置(図2に示す遠方位置a)から回転軸線O上を移動して図10(c)に示すようにカム面155の凹面155bとカム面157の凹面157bとを対向させる位置(二輪駆動状態の場合よりも凹面155a,157aから離間する部位:図2に示す押付位置b)に配置される。この場合、パイロットカム150の回転方向に内側のスプリング受部材153が回転して第3のスプリング32から離間する。
【0116】
そして、メインカム151が押付位置bにおいて互いに隣り合う2つのインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させる方向にメインクラッチ8を押し付ける。
【0117】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213L,213Rを介して後輪205L,205Rに伝達され、後輪205L,205Rが回転駆動される。
【0118】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0119】
引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、メインクラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0120】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0121】
(1)上記実施の形態では、メインカム151の円周方向一方側において、第3のスプリング32のばね力Sが外側のスプリング受部材154のスプリング外側受部154a及びリテーナ158の受部158bを介してメインカム151の回転規制部151mで受ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、メインカムがリテーナを介して第3のスプリングのばね力を受けてもよい。この場合、外側のスプリング受部材が不要となり、部品点数を削減してコストの低廉化を図ることができる。
【0122】
(2)上記実施の形態では、四輪駆動車200の非駆動時にメインカム151とメインクラッチ8(スペーサ82)との間のクリアランスCをC=0とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、四輪駆動車の非駆動時にクリアランスCをC≠0としてもよい。
【0123】
(3)上記実施の形態では、ハウジング12が入力軸側に、またインナシャフト13が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0124】
1…駆動力伝達装置、2…プロペラシャフト、3…駆動力断続装置、3a…第1のスプライン歯部、3b…第2のスプライン歯部、3c…スリーブ、6…歯車機構、60…ドライブピニオン、61…リングギヤ、7…歯車機構、70…ドライブピニオン、71…リングギヤ、8…メインクラッチ、80…インナクラッチプレート、80a…ストレートスプライン嵌合部、80b…油孔、81…アウタクラッチプレート、81a…ストレートスプライン嵌合部、82…スペーサ、9…電磁クラッチ、90…電磁コイル、91…アーマチャ、91a…ストレートスプライン嵌合部、10…パイロットクラッチ、100…インナクラッチプレート、100a…ストレートスプライン嵌合部、101…アウタクラッチプレート、101a…ストレートスプライン嵌合部、12…ハウジング、13…インナシャフト、13a〜13f…円筒部、13g,13h…段差面、13i…ストレートスプライン嵌合部、14…サイドギヤシャフト、15…カム機構、150…パイロットカム、150a…フランジ、150b…ストレートスプライン嵌合部、150c…カム用の収容孔、150d…軸受用の収容孔、150e…連通孔、151…メインカム、151a…立ち上がり部、151b…シャフト挿通孔、151c…ボス部、151d…内フランジ、151e…ストレートスプライン嵌合部、151f…内側凹溝、151g…外側凹溝、151h…ガイド、151i…内側のスプリング収容部、151j…外側のスプリング収容部、151k…ガイド溝、151l…スプリング受部、151m…回転規制部、152…転動体、153…内側のスプリング受部材、153a…第1のスプリング内側受部、153b…第2のスプリング内側受部、153c…基部、154…外側のスプリング受部材、154a…スプリング外側受部、155…カム面、155a,155b…凹面、156a,156b…凸部、156c…係合溝、157…カム面、157a,157b…凹面、158…リテーナ、158a…ポケット、158b…受部、18…フロントハウジング、18a…収容空間、18b…ストレートスプライン嵌合部、19…リヤハウジング、19a…収容凹部、20…第1のリヤハウジングエレメント、21…第2のリヤハウジングエレメント、22…第3のリヤハウジングエレメント、23…コイルホルダ、24,25…玉軸受、26…シール機構、27…シール部材、28…玉軸受、29…針状ころ軸受、30…第1のスプリング、31…第2のスプリング、32…第3のスプリング、33,34…止め輪、200…四輪駆動車、201…駆動力伝達系、202…エンジン、203…トランスミッション、204L,204R…前輪、205L,205R…後輪、206…フロントディファレンシャル、207…リヤディファレンシャル、208L,208R…前輪側のアクスルシャフト、209L,209R…サイドギヤ、210…ピニオンギヤ、211…ギヤ支持部材、212…フロントデフケース、213L,213R…後輪側のアクスルシャフト、214L,214R…サイドギヤ、215…ピニオンギヤ、216…ギヤ支持部材、217…リヤデフケース、a…遠方位置、b…近傍位置(押付位置)、c…軸線方向初期位置、A…連結部、C,G…クリアランス、F…電磁力、M…磁気回路、O…回転軸線、P…カム推力、R,R…矢印、S,S,S,S,S…ばね力、T…引き摺りトルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、
前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを断続可能に連結する第1のクラッチと、
前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、
前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、
前記カム機構は、前記第1の回転部材からの回転力を受けて回転する入力用のカム部材、前記入力用のカム部材との間で前記カム推力を発生させて前記第1のクラッチに出力する出力用のカム部材、及び前記出力用のカム部材と前記入力用のカム部材との間に介在するカムフォロアを有し、前記入力用のカム部材がその初期状態において第1のスプリングによる回転一方向のばね力、及び第2のスプリングによる回転他方向のばね力を受けて回転方向中立位置に配置されている
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記第1のクラッチから前記回転軸線に沿って離間する方向のばね力を前記第1のスプリングから受ける軸線方向位置に配置されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記カム機構は、前記入力用のカム部材及び前記出力用のカム部材に前記カムフォロアを介して互いに対向するカム面を有し、前記カム面が前記出力用のカム部材を前記第1のクラッチから前記回転軸線に沿って最も離間させる遠方位置に配置するための凹面と、前記出力用のカム部材を前記第1のクラッチに押し付ける押付位置、及び前記出力用のカム部材を前記遠方位置と前記押付位置との間の中間位置としての軸線方向初期位置に配置するための凹面とによって形成されている請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記四輪駆動車の二輪駆動状態において前記遠方位置に配置されている請求項3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記四輪駆動車の四輪駆動状態において前記押付位置に配置されている請求項3又は4に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記カム機構は、前記入力用のカム部材と前記出力用のカム部材との間に介在する内外2つのスプリング受部材を有し、前記内外2つのスプリング受部材のうち内側のスプリング受部材が前記出力用のカム部材との間で前記第2のスプリングから前記入力用のカム部材を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力を常時受ける回転方向位置に、また外側のスプリング受部材が前記内側のスプリング受部材との間で第3のスプリングから前記入力用のカム部材を回転方向中立位置に復帰させる方向のばね力を前記四輪駆動車の二輪駆動状態において受ける回転方向位置にそれぞれ配置されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記カム機構は、前記内側のスプリング受部材が前記出力用のカム部材との間で前記第2のスプリングのばね力を受ける第1のスプリング内側受部、及び前記外側のスプリング受部材との間で前記第3のスプリングのばね力を受ける第2のスプリング内側受部を有する請求項6に記載の駆動力伝達装置。
【請求項8】
前記カム機構は、前記外側のスプリング受部材が前記第2のスプリング内側受部との間で前記第3のスプリングのばね力を受けるスプリング外側受部を有し、前記出力用のカム部材が前記スプリング外側受部から前記第3のスプリングのばね力を受けて前記外側のスプリング受部材の前記第2のスプリング内側受部と反対側への回転を規制する回転規制部を有する請求項7に記載の駆動力伝達装置。
【請求項9】
前記カム機構は、前記内側のスプリング受部材が前記入力用のカム部材との間に互いに連結する連結部を有し、前記入力用のカム部材の回転によって前記回転軸線の回りに回転する回転部材によって形成されている請求項6乃至8のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項10】
前記カム機構は、前記出力用のカム部材が前記連結部を案内するガイドを有する請求項9に記載の駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−64472(P2013−64472A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204473(P2011−204473)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)