説明

駐車支援システム

【課題】車庫入れ運転中の利便性を損なうことなく、駐車支援情報を視覚を通じて運転者に提供することを課題とする。
【解決手段】可視画像を投影する可視光源21及び投影用偏向器20等の投影手段と、決定した運転手順に基づいて、次の運転動作によって自車両1が位置すべき目標位置を決定する駐車計画決定部5と、駐車計画決定部が決定した目標位置を運転者へ指示するためのマーカーが運転者から視認可能な路面部分に投影されるように投影手段を制御する投影光制御部8とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両を駐車スペースに駐車する車庫入れ運転を支援する駐車支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の駐車支援(パーキングアシスト)に用いられるシステムとしては、駐車スペースに対して自車両を所定位置に停車させた後に運転者がボタンを押せば、運転者が全く操縦せずに自車両に搭載された制御部による自動運転で車庫入れが完了するシステムが知られている。しかしながら、このように車庫入れに際して運転者が全く操縦しないシステムは、車庫入れ運転をすべて機械制御に任せることに対する不安を運転者に与える。このような観点からすると、少なくとも一部の車庫入れ運転を運転者が自ら操縦して行うことを前提に、その操縦に際して有用な情報を運転者に提供して、その操縦を容易にする駐車支援システムが好ましい。
【0003】
このような駐車支援システムとしては、例えば、駐車スペースの周囲の障害物と自車両との距離が近づいたときに運転者へ警告を発するものが知られている。このシステムにより発せられる警告は、運転者による車庫入れ運転中に自車両が駐車スペース周囲の障害物に衝突することを回避するのに有用な情報を提供するものである。しかしながら、このシステムでは、駐車スペースに対して自車両をどのような手順で車庫入れするかは、すべて運転者が判断する必要がある。特に車庫入れ経験の少ない初心者にとっては、駐車スペースに対して自車両をどのような手順で車庫入れするかを適切に判断することが難しいので、この車庫入れ運転の手順を示す情報は、車庫入れ運転の際に運転者にとって非常に有用な情報である。
【0004】
このような車庫入れ運転の手順を示す情報を提供するシステムとしては、例えば、特許文献1に開示されたシステムが知られている。このシステムでは、自車両と駐車スペースとの位置関係を測定し、所定の駐車計画に従って自車両を駐車スペースに駐車させるための自車両の目標移動経路(設定経路)を決定する。そして、駐車スペースと、自車両の現在位置と、設定経路と、その設定経路に沿って自車両を移動させたときに自車両が到達すると予想される駐車スペース内の目標駐車位置とを含んだ駐車状況画像(駐車支援情報画像)を、自車両室内の画像表示装置上に表示させる。この駐車状況画像を見た運転者は、自車両を設定経路に沿って移動させれば自車両を駐車スペース内に駐車できることを知ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転者は、車庫入れ運転を行う際、通常、フロントガラスを介して自車両前方の状況を確認したり、バックミラーやサイドミラーを介して自車両後方や自車両側方の状況を確認したり、後ろを振り返ってリアガラスを介して自車両後方の状況を確認したりする。すなわち、車庫入れ運転を行う場合、運転者は、通常、自車両周囲の状況を目で見て常時確認しながら、慎重に車庫入れ運転を行う。
【0006】
ところが、上記特許文献1に開示された従来の駐車支援システムは、自車両室内の画像表示装置上に表示される駐車状況画像によって運転者へ駐車支援の情報提供を行う。そのため、この駐車支援システムでは、運転者が駐車状況画像(駐車支援情報画像)を確認して駐車支援情報を把握するためには、運転者の視線を自車両室内の画像表示装置に向けさせる必要がある。その結果、運転者に駐車支援情報を提供するには、車庫入れ運転中の運転者に対し、自車両周囲の状況確認を一時中断して自車両室内に視線を向けることを強いることになり、車庫入れ運転中の運転者の利便性を損なうという問題があった。
【0007】
上記特許文献1に開示された駐車支援システムを含め、運転者が車庫入れ運転する際に有用な情報(駐車支援情報)を運転者の視覚を通じて提供する従来の駐車支援システムは、その駐車支援情報を示す駐車支援情報画像を自車両室内の画像表示装置に表示させるものであった。したがって、このような従来の駐車支援システムは、駐車支援情報を確認するためには、車庫入れ運転中の運転者に対し、自車両周囲の状況確認を一時中断して自車両室内に視線を向けることを強いることとなり、車庫入れ運転中の運転者の利便性を損なうという上述した問題を抱えていた。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、車庫入れ運転中の利便性を損なうことなく、車庫入れ運転中の運転者にとって有用な運転支援情報を運転者の視覚を通じて運転者に提供できる駐車支援システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、駐車スペースに自車両を駐車するための運転を行う運転者に対し、所定の駐車支援情報を運転者の視覚を通じて提供することにより、該駐車スペースへ自車両を駐車する際の運転支援を行う駐車支援システムであって、自車両周囲の物体表面に可視画像を投影する投影手段と、上記所定の駐車支援情報を示す駐車支援情報画像が運転者から視認可能な自車両周囲の物体表面に投影されるように、上記投影手段を制御する投影制御手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、自車両を駐車スペースに駐車するための運転動作を行う際、駐車支援情報を、運転者は、自車両周囲の物体表面に投影される駐車支援情報画像(可視画像)を見ることで把握することができる。よって、駐車支援情報を確認するために、運転者は、車庫入れ運転中に自車両周囲から自車両室内へ視線を外す必要がない。
なお、ここでいう「駐車支援情報画像」は、自車両を駐車スペースに駐車するための運転動作を行う運転者にとって有用な駐車支援情報を示す画像であればよい。したがって、従来の自車両室内の画像表示装置に表示されていた各種駐車支援情報画像と同様の画像であってもよいし、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置を路上に直接指し示すような画像があってもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によれば、車庫入れ運転中の利便性を損なうことなく、車庫入れ運転中の運転者にとって有用な運転支援情報を運転者の視覚を通じて運転者に提供することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るパーキングアシストシステムの概要を示すブロック図である。
【図2】同パーキングアシストシステムによる駐車支援プロセスの流れを示すフローチャートである。
【図3】(a)〜(d)は、駐車計画に基づく運転手順の各時点における自車両周囲画像をそれぞれ模式的に示した説明図である。
【図4】共通基板上に形成された検出用偏向器と投影用偏向器を模式的に示した説明図である。
【図5】同検出用偏向器に接続される電気回路を示す説明図である。
【図6】偏向角と印加電圧との関係の概要を示すグラフである。
【図7】車載時の使用例を説明する説明図である。
【図8】複数の検出光や投影光を組み合わせて全体で大きな偏向角θを実現する構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、自動車を駐車スペースに駐車する車庫入れ運転を支援する駐車支援システムとしてのパーキングアシストシステムに適用した一実施形態について、自車両周囲の駐車障害物の検出と駐車支援情報の提供に関わる構成を中心に説明する。
図1は、本実施形態に係るパーキングアシストシステムの概要を示すブロック図である。
図2は、パーキングアシストシステムによる駐車支援プロセスの流れを示すフローチャートである。
【0014】
運転者は、駐車スペースへ自車両1を駐車させるために本パーキングアシストシステムによる駐車支援を利用する場合、駐車スペースの近傍に自車両1を停車させてから、駐車支援の開始指示のための操作を行う(S1)。例えば、自車両の室内に設置されたタッチパネル2に表示されている駐車開始ボタンをタッチすることで、運転者は駐車支援を開始させることができる。また、タッチパネルとは別のスイッチを押すなどの操作によって駐車支援の開始を指示するようにしてもよい。このような駐車支援開始指示を受けた本パーキングアシストシステムの制御部3は、カメラ4を起動して、自車両を含む自車両周囲の画像を撮像し、撮像した自車両周囲画像をタッチパネル2に表示させる。これにより、タッチパネル2には、自車両と、駐車スペースと、駐車の際に自車両を移動させるための駐車作業用スペース(以下「切り返しスペース」という。)とを含む自車両周囲を鉛直方向真上から見た自車両周囲画像が表示される(S2)。制御部3は、CPUや記憶装置等によって構成され、所定のコンピュータプログラムを実行することで、本実施形態で説明する種々の機能を実現するものである。また、このような自車両周囲画像を撮像する撮像装置としては、公知のものを利用することができる。
【0015】
運転者は、タッチパネル2に表示された自車両周囲画像を見ながら、自車両を駐車させたい駐車スペースの画像部分をタッチして、駐車スペースを指定する(S3)。また、自車両を駐車させる際に使用する自車両の切り返しスペースも、タッチパネル2をタッチして指定する(S3)。これらの指定により、駐車計画決定部5は、駐車スペースの位置、形、広さなどの駐車スペース情報と、切り返しスペースの位置、形、広さなどの切り返しスペース情報とを取得する。駐車計画決定部5は、CPUや記憶装置等によって構成され、所定のコンピュータプログラムを実行することで、本実施形態で説明する種々の機能を実現するものである。
【0016】
駐車スペース情報及び切り返しスペース情報を取得した駐車計画決定部5は、まず、駐車スペース情報により特定される駐車スペースに駐車の際に障害となる駐車障害物が存在するか否かを検出する(S4)。また、切り返しスペース情報により特定される切り返しスペースについても駐車の際に障害となる駐車障害物が存在するか否かを検出する(S4)。このような駐車障害物の検出は、本実施形態では次のような構成によって行うが、他の構成によって行ってもよい。
【0017】
本実施形態では、駐車計画決定部5からの制御信号に基づき、検出光制御部6が非可視光源11を制御して、駐車スペース及び切り返しスペースに対して非可視光レーザーを照射する。非可視光源11から照射された非可視光レーザーは、検出用偏向器10によって駐車スペース及び切り返しスペースそれぞれの全域にわたって走査される。駐車スペース及び切り返しスペースに照射された非可視光レーザーの反射光は、カメラ4によって受光される。カメラ4は、非可視光レーザーの波長帯にも受光感度をもつもので、カメラ4による非可視光レーザーの受光結果は、障害物検出部7に送られる。
【0018】
障害物検出部7は、CPUや記憶装置等によって構成され、所定のコンピュータプログラムを実行することで、本実施形態で説明する種々の機能を実現するものである。具体的には、カメラ4による非可視光レーザーの受光結果に基づいて画像解析を行い、駐車スペース及び切り返しスペースに駐車障害物が存在するか否かを判定する。駐車障害物の検出精度は、汎用のレーザーレーダーやミリ波レーダーによる物体検出精度と同程度である。なお、本実施形態で説明した駐車障害物を検出するための構成は、一例であり、汎用のレーザーレーダーやミリ波レーダーを利用した物体検出の構成など、他の構成を広く採用することができる。
【0019】
障害物検出部7による駐車障害物の検出結果は、駐車計画決定部5へ送られる。駐車計画決定部5は、駐車障害物の検出結果から、駐車スペース及び切り返しスペースのいずれかに駐車障害物が存在すると判断したら(S5のNo)、駐車支援を中止する旨を運転者に報知する(S6)。報知の方法は、例えば、タッチパネル2に駐車支援を中止する旨のメッセージを表示したり、タッチパネル2に駐車支援を中止する旨を音声で発したりする方法が考えられる。
【0020】
一方、駐車計画決定部5は、駐車障害物の検出結果から、駐車スペース及び切り返しスペースに駐車障害物が存在しないと判断したら(S5のYes)、切り返しスペースを用いて自車両1を駐車スペースへ駐車するための駐車計画を決定する(S7)。具体的には、駐車計画決定部5は、所定の駐車計画決定プログラムを実行し、公知の駐車支援システムで利用されているアルゴリズムを利用して、駐車計画を決定する。駐車計画は、自車両1を駐車障害物に接触させないように駐車スペースへ駐車するための運転手順を示すものである。
【0021】
図3(a)〜(d)は、駐車計画に基づく運転手順の各時点における自車両周囲画像をそれぞれ模式的に示した説明図である。
本実施形態では、説明の簡略化のため、自車両を切り返しスペースへ前進させた後に、自車両を駐車スペースAに向けて後進させて駐車スペースA内に自車両を駐車する運転手順を例に挙げて説明する。
【0022】
駐車計画決定部5は、決定した駐車計画に基づき、図3(a)に示すように停車中の現在の自車両を駐車スペースへ駐車させやすい切り返しスペース内の理想的な車両位置(次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置)及び車両の向きを含む運転目標を特定する(S8)。そして、駐車計画決定部5は、特定した運転目標を運転者へ指示するための目標指示画像(可視画像)であるマーカーM1,M2が運転者から視認可能な路面部分に投影させる投影制御命令を、投影光制御部8へ出力する。
【0023】
この投影制御命令を受けた投影光制御部8は、可視光源21を制御して、マーカーM1,M2を路面に投影するための投影光を照射させる。また、投影光制御部8は、投影用偏向器20を制御して、当該投影制御命令に係る運転目標を運転者へ指示する位置にマーカーM1,M2が投影されるように、投影光を偏向させる。これにより、本実施形態では、自車両1が運転目標に位置したときに自車両1の2つのヘッドライト1aの位置を鉛直方向から路面上に投影した投影箇所に、図3(b)に示すような2つのマーカーM1,M2が投影される(S9)。本実施形態のマーカーM1,M2は、それぞれ、自車両1に搭載されている2つのヘッドライト1aに対応しており、運転者は、路面上に投影された各マーカーM1,M2の上方に自車両1の各ヘッドライト1aがそれぞれ位置する地点を目標にして、自車両を移動させることになる。
【0024】
運転者は、路面上に投影された2つのマーカーM1,M2を、フロントガラスを介して視認することができる。よって、自車両室内のタッチパネル2などに視線を外すことなく、自車両を進行させる進行方向前方に視線を向けたままで運転目標を示すマーカーM1,M2を確認できる。よって、運転者は、自車両の進行方向前方の安全を目視確認しつつ、マーカーM1,M2を確認しながら、自車両を運転目標に向けて運転することができる。
【0025】
ここで、運転者が停車中の自車両を前進させて2つのマーカーM1,M2によって示される運転目標に向けて自車両を移動させると(S10のYes)、自車両に搭載されている可視光源21及び投影用偏向器20も自車両と一緒に移動する。そのため、可視光源21及び投影用偏向器20によって投影されるマーカーM1,M2の路面上の投影位置は、自車両の移動に伴って移動してしまう。
【0026】
本実施形態では、自車両が移動しても、マーカーM1,M2の路面上の投影位置が移動しないように、自車両の現在位置を連続的に把握しながら、移動する現在位置に応じて投影用偏向器20を制御している(S11)。具体的には、例えば、カメラ4によって自車両周囲画像を連続的に撮像し、駐車計画決定部5は、それらの自車両周囲画像を取得することで、自車両の現在位置を連続的に把握することができ、自車両の移動を把握することができる。これにより、駐車計画決定部5は、マーカーM1,M2が投影される路面上の投影位置と自車両との相対位置関係の変化を把握することができるので、この変化に応じた投影制御命令を投影光制御部8へ出力する。この投影制御命令を受けた投影光制御部8は、投影用偏向器20を制御して、マーカーM1,M2が投影される路面上の投影位置が移動しないように、投影光を偏向させる。このような偏向制御を連続的に行うことで、運転者が運転目標に向けて自車両を移動させても、マーカーM1,M2は常に路面上の一定位置に投影される。
【0027】
図3(c)に示すように、各マーカーM1,M2の上方に自車両1の各ヘッドライト1aがそれぞれ位置する運転目標まで自車両を移動させたら、運転者は、今度は、自車両を後進させるためにシフトレバーを操作してギヤをバックに入れる(S12のYes)。このシフトレバーの操作が検出されると、駐車計画決定部5は、マーカーM1,M2の投影を停止させる制御命令を投影光制御部8へ出力する。マーカーM1,M2の路面への投影が終了し(S13)、駐車支援プロセスが終了する。
【0028】
運転者は、マーカーM1,M2によって示された運転目標まで自車両を移動させることで、自車両1の位置と向きは駐車スペースAへ自車両を入れる際に適した位置と向きとなる。したがって、図3(d)に示すように、その後に自車両を後進させて駐車スペースAへ入れる運転は容易なものとなる。
【0029】
なお、ここでは、運転目標を示すマーカーM1,M2が自車両のヘッドライト1aに対応させた場合について説明したが、自車両の前輪に対応させてもよいし、自車両のフロントバンパーの角部に対応させてもよいし、自車両上の他の箇所(特定箇所)であってもよい。
また、本実施形態では、2つのマーカーM1,M2を用いることで、自車両の目標位置だけでなく目標の向きをも案内するようになっているが、少なくとも自車両の目標位置を指示できればよい。
また、本実施形態では、自車両が運転目標に位置したときの自車両のヘッドライト1aの位置を鉛直方向から路面上に投影した箇所に2つのマーカーM1,M2を投影させる場合について説明したが、自車両が運転目標に位置したときの自車両のヘッドライト1aの位置を運転者の視線方向から路面上に投影した箇所に2つのマーカーM1,M2を投影させてもよい。この場合、運転者は、自分の視線上で2つのマーカーM1,M2と自車両のヘッドライト1aが重なる位置を運転目標として自車両を移動させることになる。この場合には、自車両が運転目標に位置する直前まで、マーカーM1,M2が自車両に隠れることなく、運転者はマーカーM1,M2を確認し続けることができる。
【0030】
次に、本実施形態で使用する検出用偏向器10及び投影用偏向器20の一例について説明する。
図4は、共通基板30上に形成された検出用偏向器10と投影用偏向器20を模式的に示した説明図である。
本実施形態の検出用偏向器10及び投影用偏向器20は、いずれも、電気光学効果を有する材料によって形成された偏向領域を挟み込むように電極が配置された構造を有し、検出光制御部6及び投影光制御部8からの制御信号に基づいて電極間に印加される電圧を変更することで当該偏向領域の内部電界が変化して投影光や検出光を偏向するものである。
【0031】
図5は、検出用偏向器10に接続される電気回路を示す説明図である。なお、投影用偏向器20についても同様である。
本実施形態の検出用偏向器10は、電気光学効果を有する材料によって形成された偏向領域10aを図5中上下方向から挟み込むように2つの電極10bが配置されている(図中上側の電極のみ図示されている。)。これらの電極10bには、出力電圧を制御可能な電圧印加装置12が接続されている。この電圧印加装置12は、検出光制御部6の制御の下、出力電圧Vを所定のマイナス値から所定のプラス値までの範囲内で変化させることができる。電圧印加装置12の出力電圧が変化すると、これに応じて偏向領域10aを挟み込んでいる2つの電極10b間の電圧が変化する。これにより、偏向領域10aの内部電界が変化して偏向領域10aの屈折率が変化し、偏向領域10aに入射する検出光の偏向領域10aからの出射角(偏向角θ)が変わる。偏向角θは、概ね、図6に示すように、電圧印加装置12の出力電圧値に比例するので、電圧印加装置12の出力電圧値を制御することで、所定の角度範囲内において偏向角θを自在に制御できる。
【0032】
偏向領域10aが有する電気光学効果とは、結晶を構成している原子またはイオンが結晶に加えた直流電界で変位すると、原子(イオン)の周りにある電子雲が変形して屈折率が変化するというものである。なお、偏向領域10aの内部電界Eと偏向領域10aの屈折率nとの関係式は、電気光学定数rを用いて、下記の式(1)によって表すことができる。ただし、下記の式(1)中、i=1〜6、j=1〜3である。
Δ(1/n2 = Σ(rij×E) ・・・(1)
【0033】
本実施形態の検出用偏向器10と投影用偏向器20は、分極反転プロセスにより形成された基板内プリズムドメインに上下電極を成膜することで作製することができる。本実施形態では、これらの検出用偏向器10と投影用偏向器20を同一の共通基板30上に形成することで、検出用偏向器10及び投影用偏向器20の製造コストの削減と小型化を図っている。
【0034】
本実施形態の投影用偏向器20は、これによって偏向された投影光による路面上のマーカーM1,M2を、自車両が移動しても、同じ路面上の位置に固定するように、自車両の移動に伴って偏向角θを調整する必要がある。そのため、従来広く用いられている偏向器であるポリゴンミラーでは、このような偏向制御を行うことは困難である。これに対し、本実施形態で採用している投影用偏向器20は、電気光学効果がある材料を用いた偏向器であり、印加電圧に応じて偏向角θをランダムに変化させることができるので、本実施形態の投影用偏向器20として有効なデバイスである。
【0035】
一方、非可視光レーザーを偏向させる検出用偏向器10については、偏向角θをランダムに偏向を変化させる必要がないので、ポリゴンミラー等の一般的な偏向器を利用してもよい。ただし、ポリゴンミラー等の一般的な偏向器は、モーターやアクチュエーターなどの機械的な可動部を有する構成である。このような機械的な可動部を有するシステムは、一般に、機械的な可動部を有しないシステムよりも信頼性が低い。本実施形態のように、検出用偏向器10についても電気光学効果がある材料を用いた偏向器を採用すれば、機械的な可動部を有しないシステムを実現でき、高信頼性のシステム構築が可能である。なお、検出用偏向器10の電圧印加を制御する回路は、一定動作を繰り返すような安価な回路でよい。
【0036】
図7は、車載時の使用例を説明する説明図である。
本実施形態においては、非可視光源11及び検出用偏向器10並びに可視光源21及び投影用偏向器20は、それぞれ、自車両のヘッドライト1aの内部に設置されているが、これらの設置箇所はこれに限られない。また、非可視光レーザー(検出光)の反射光を受光するカメラ4は、フロントガラス1bの横方向中央の上部(室内バックミラーの近傍)に配置されているが、フロントバンパーなどの他の箇所に設置してもよい。
【0037】
本実施形態の検出用偏向器10及び投影用偏向器20が採用する電気光学効果を利用した偏向制御では、一般に、大きな偏向角θを得ることが容易でない。基板内プリズムドメインの長さを「L」とし、基板内プリズムドメインの幅をDとしたときの偏向角θは、下記の式(2)より得ることができる。
θ = (2×Δn×L)/D ・・・(2)
【0038】
上記式(2)より、屈折率の変化量Δnか、基板内プリズムドメイン(電気光学結晶)の形状因子L/Dの値を大きくすれば、偏向角θを大きくすることができる。ここで、検出用偏向器10や投影用偏向器20はヘッドライト1a等の自車両上に車載されるので、これらに印加できる電圧値は車載電源から得られる電圧に制限される。また、ヘッドライト1aの内部に搭載する場合、形状因子L/Dは、例えば長さL=50mm、幅D=1mm程度である。この場合、用いる材料の電気光学係数にもよるが、偏向角θは大きく見積もっても、最大で10[°]程度である。
【0039】
ただし、偏向角θを大きくする方法は種々考えられる。例えば、検出用偏向器10及び投影用偏向器20の後段に拡大光学系を配置することで、検出用偏向器10及び投影用偏向器20から出力される出力光の偏向角を5倍程度まで拡大することができる。この場合、最大偏向角として50[°]程度を実現できる。
【0040】
また、複数の検出光や投影光を組み合わせて、全体で大きな偏向角θを実現することも可能である。例えば、検出光や投影光を照射する光学系(非可視光源11及び検出用偏向器10、可視光源21及び投影用偏向器20)を、ヘッドライト1a内の正面と側面に設ければ、最大100[°]程度の偏向角θを実現できる。更に、フロントバンパーの横方向中央にも検出光や投影光を照射する光学系を追加すれば、最大150[°]程度の偏向角θを実現することもできる。
【0041】
図8は、複数の検出光や投影光を組み合わせて全体で大きな偏向角θを実現する構成の一例を示す説明図である。
図8に示す例は、2つの投影用偏向器20A,20Bを配置し、単一の可視光源21から照射された投影光をビームスプリッタ22で分割して各投影用偏向器20A,20Bへ入射させたものである。また、各投影用偏向器20A,20Bの後段には、それぞれ、拡大光学系23A,23Bが配置されている。この例では、ビームスプリッタ22によって50[°]の方向に可視光レーザーを分割し、各投影用偏向器20A,20Bでそれぞれ最大10[°]の偏向角を得るとともに、拡大光学系23A,23Bでそれぞれ偏向角を5倍にする。その結果、投影用偏向器20A側では最大50[°]の偏向角θ1が得られ、投影用偏向器20B側でも最大50[°]の偏向角θ2が得られ、合わせて最大100[°]の偏向角θが得られる。
【0042】
以上、本実施形態は、駐車支援情報画像として、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置(運転目標)を指し示す目標指示画像を路面上に表示(投影)させるものについて例示したが、駐車支援情報画像の内容はこれに限られるものではない。例えば、上述したタッチパネル2に表示される自車両周囲画像を、駐車支援情報画像として、路面上に投影させてもよいし、その他」、車庫入れ運転を行う運転者にとって有用な各種情報を示す画像を、駐車支援情報画像として路面上に投影させてもよい。
【0043】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
駐車スペースAに自車両1を駐車するための運転を行う運転者に対し、運転目標情報等の駐車支援情報を運転者の視覚を通じて提供することにより、該駐車スペースAへ自車両1を駐車する際の運転支援を行う駐車支援システムであって、自車両周囲の物体表面に可視画像を投影する可視光源21及び投影用偏向器20等の投影手段と、上記駐車支援情報を示すマーカーM1,M2等の駐車支援情報画像が運転者から視認可能な路面部分等の自車両周囲の物体表面に投影されるように、上記投影手段を制御する投影光制御部8等の投影制御手段とを有することを特徴とする。
これによれば、自車両1を駐車スペースAに駐車するために行う運転動作を行う際、駐車支援情報を、運転者は、自車両周囲の物体表面(例えば路面部分)に投影されるマーカーM1,M2等の駐車支援情報画像(可視画像)を見ることで把握することができる。よって、駐車支援情報を確認するために、運転者は、車庫入れ運転中に自車両周囲から自車両室内へ視線を外す必要がないので、車庫入れ運転中に自車両周囲から自車両室内へ視線を外す必要があった従来の駐車支援システムよりも、運転者にとっての利便性が高まる。
【0044】
(態様B)
上記態様Aにおいて、上記投影制御手段は、上記目標位置に向けて自車両を進行させるときの進行方向前方における運転者から視認可能な自車両周囲の物体表面(路面部分)に上記目標指示画像が投影されるように、上記投影手段を制御することを特徴とするものである。
これによれば、自車両の進行方向前方の安全を目視確認しつつ、目標指示画像を確認しながら自車両を運転目標に向けて運転することができ、運転者の利便性が更に高まる。
【0045】
(態様C)
上記態様A又はBにおいて、自車両周囲の駐車障害物を検出する、非可視光源11、検出用偏向器10、検出光制御部6、カメラ4及び障害物検出部7等によって構成される障害物検出手段と、上記障害物検出手段の検出結果に基づいて自車両1を該駐車障害物に接触させないように駐車スペースAへ駐車するための運転手順を決定し、決定した運転手順に基づいて、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置を決定する駐車計画決定部5等の目標位置決定手段とを有し、上記投影制御手段は、上記目標位置決定手段が決定した目標位置を運転者へ指示するためのマーカーM1,M2等の目標指示画像を上記駐車支援情報画像として上記投影手段に投影させることを特徴とする。
これによれば、目標指示画像を見た運転者は、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置(運転目標)を直感的に把握することができるので、運転者の利便性が更に高まる。
【0046】
(態様D)
上記態様Cにおいて、上記投影制御手段は、次の運転動作によって自車両1が位置すべき目標位置に自車両1が位置したときに該自車両上のヘッドライト1a等の特定箇所を鉛直方向又は運転者の視線方向から路面上に投影した投影箇所に上記目標指示画像が投影されるように、上記投影手段を制御することを特徴とするものである。
これによれば、運転者は、運転目標を、より直感的に把握することができる。
【0047】
(態様E)
上記態様C又はDにおいて、上記投影手段は、上記投影制御手段からの制御信号に基づいて変化する印加電圧に応じて上記目標指示画像を投影する投影光の偏向角が変化する投影用偏向器を備えていることを特徴とするものである。
これによれば、機械的な可動部を有しない投影手段を実現でき、高信頼性のシステム構築が可能となる。
【0048】
(態様F)
上記態様Eにおいて、上記投影用偏向器20は、上記投影制御手段からの制御信号に基づいて、電気光学効果を有する材料によって形成された基板内プリズムドメイン等の偏向領域を挟み込むように配置された電極間に印加される電圧が変更されることで、該偏向領域の内部電界が変化して上記投影光が偏向することを特徴とするものである。
これによれば、機械的な可動部を有しない投影手段を容易に実現できる。
【0049】
(態様G)
上記態様E又はFにおいて、上記障害物検出手段は、検出用偏向器10によりレーザー光を走査することで自車両周囲の駐車障害物を検出するものであり、上記検出用偏向器10と上記投影用偏向器20とを共通基板30等の同一基板上に形成したことを特徴とするものである。
これによれば、製造コストの削減と小型化を実現することができる。
【0050】
(態様H)
上記態様E〜Gのいずれかの態様において、上記投影手段は、上記投影用偏向器20A,20Bを複数有するとともに、可視光源21等の単一光源から照射された投影光をビームスプリッタ22で分割して各投影用偏向器20A,20Bへ入射させるものであることを特徴とするものである。
これによれば、投影手段による目標指示画像の投影範囲を広げることができる。
【0051】
(態様I)
上記態様E〜Hのいずれかの態様において、上記投影用偏向器20により偏向された後の投影光の偏向角を拡大する拡大光学系23等のレンズ光学系を配置したことを特徴とするものである。
これによれば、投影手段による目標指示画像の投影範囲を広げることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 自車両
1a ヘッドライト
1b フロントガラス
2 タッチパネル
3 制御部
4 カメラ
5 駐車計画決定部
6 検出光制御部
7 障害物検出部
8 投影光制御部
10 検出用偏向器
10a 偏向領域
10b 電極
11 非可視光源
12 電圧印加装置
20 投影用偏向器
21 可視光源
22 ビームスプリッタ
23 拡大光学系
30 共通基板
A 駐車スペース
M1,M2 マーカー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特表2006−510541号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駐車スペースに自車両を駐車するための運転を行う運転者に対し、所定の駐車支援情報を運転者の視覚を通じて提供することにより、該駐車スペースへ自車両を駐車する際の運転支援を行う駐車支援システムであって、
自車両周囲の物体表面に可視画像を投影する投影手段と、
上記所定の駐車支援情報を示す駐車支援情報画像が運転者から視認可能な自車両周囲の物体表面に投影されるように、上記投影手段を制御する投影制御手段とを有することを特徴とする駐車支援システム。
【請求項2】
請求項1の駐車支援システムにおいて、
上記投影制御手段は、上記目標位置に向けて自車両を進行させるときの進行方向前方における運転者から視認可能な自車両周囲の物体表面に上記駐車支援情報画像が投影されるように、上記投影手段を制御することを特徴とする駐車支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2の駐車支援システムにおいて、
自車両周囲の駐車障害物を検出する障害物検出手段と、
上記障害物検出手段の検出結果に基づいて自車両を該駐車障害物に接触させないように駐車スペースへ駐車するための運転手順を決定し、決定した運転手順に基づいて、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置を決定する目標位置決定手段とを有し、
上記投影制御手段は、上記目標位置決定手段が決定した目標位置を運転者へ指示するための目標指示画像を上記駐車支援情報画像として上記投影手段に投影させることを特徴とする駐車支援システム。
【請求項4】
請求項3の駐車支援システムにおいて、
上記投影制御手段は、次の運転動作によって自車両が位置すべき目標位置に自車両が位置したときに該自車両上の特定箇所を鉛直方向又は運転者の視線方向から路面上に投影した投影箇所に上記目標指示画像が投影されるように、上記投影手段を制御することを特徴とする駐車支援システム。
【請求項5】
請求項3又は4のいずれか1項に記載の駐車支援システムにおいて、
上記投影手段は、上記投影制御手段からの制御信号に基づいて変化する印加電圧に応じて上記目標指示画像を投影する投影光の偏向角が変化する投影用偏向器を備えていることを特徴とする駐車支援システム。
【請求項6】
請求項5の駐車支援システムにおいて、
上記投影用偏向器は、上記投影制御手段からの制御信号に基づいて、電気光学効果を有する材料によって形成された偏向領域を挟み込むように配置された電極間に印加される電圧が変更されることで、該偏向領域の内部電界が変化して上記投影光が偏向するものであることを特徴とする駐車支援システム。
【請求項7】
請求項5又は6の駐車支援システムにおいて、
上記障害物検出手段は、検出用偏向器によりレーザー光を走査することで自車両周囲の駐車障害物を検出するものであり、
上記検出用偏向器と上記投影用偏向器とを同一基板上に形成したことを特徴とする駐車支援システム。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の駐車支援システムにおいて、
上記投影手段は、上記投影用偏向器を複数有するとともに、単一光源から照射された投影光をビームスプリッタで分割して各投影用偏向器へ入射させるものであることを特徴とする駐車支援システム。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の駐車支援システムにおいて、
上記投影用偏向器により偏向された後の投影光の偏向角を拡大するレンズ光学系を配置したことを特徴とする駐車支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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