説明

騒音抑制イヤホンマイク

【課題】高騒音環境下における通話装置を用いた通話に用いられる、騒音を抑制して明瞭な音声による通話を可能にする騒音抑制イヤホンマイクを提供する。
【解決手段】外耳道に連通する連通路11aを有し外耳道に挿入されるイヤチップ11と一体的に構成されて、イヤチップ11の外耳道挿入時、外耳道の外側に露出する本体部12と、本体部12に装着した、空気振動を発生させない骨伝導式スピーカ18と、収音部を連通路11aに臨ませ、骨伝導式スピーカ18が発生させる振動を伝達させない非接触状態で本体部12に装着したマイクロホン17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高騒音環境下における通話装置を用いた通話に用いられる、騒音を抑制して明瞭な音声による通話を可能にする騒音抑制イヤホンマイクに関する。
【背景技術】
【0002】
高騒音環境下で会話をする場合、騒音の影響が避けられず、騒音レベルが90dB以上の環境では、会話が殆ど不可能になる。
騒音レベルが90dB以上の環境として、例えば、機械作業場、空調機械室、印刷工場内等は騒音レベルが約90dBであり、例えば、列車通過時の高架下、地下鉄車内、電車の駅等は騒音レベルが約100dBであり、例えば、工場サイレンの近く等は騒音レベルが約110dBであり、例えば、航空機のエンジン近く、騒音の激しい地下鉄の駅は騒音レベルが約120dBである。
【0003】
なお、例えば、交差点、幹線道路沿いは騒音レベルが約80dBであり会話が困難となり、例えば、劇場、百貨店等は騒音レベルが約70dBであり会話に少し大きな声が必要となる。
このような、騒音レベルが90dB以上の高騒音環境下で通話装置を用いた通話を行う場合、受話音量に比して外部騒音の方が大きかったり、発話音声に発話者の周囲の騒音が混入したりして、通話相手の声が聞こえなくなって通話が困難になってしまう。
そこで、通話装置を使用せずに手による合図を用いたり、通話装置と遮音用のイヤーマフ(特許文献1参照)を併用したり、騒音抑制型の通話装置を使用したりして、対応していた。
【0004】
騒音抑制型の通話装置としては、骨伝導方式のイヤホンマイクを用いる方法や発話時に耳穴内部に発生する空気振動を増幅して音声に変えるイヤホンマイクを用いる方法がある。骨伝導方式は、音声が人の頭骨や筋肉或いは皮膚を通過してイヤホンマイクに達するものであり、人の頭骨や筋肉或いは皮膚が音の通路となることにより、音の通路に騒音が入らず会話の邪魔となる騒音を抑制することができる。空気振動を増幅する方法は、送受装置に増幅回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−023277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、骨伝導方式の場合、空中を伝播してくる音は、空気振動板のようなものが無くてもマイクに入力されるし人の頭骨や筋肉、皮膚を通じても入力されるので、騒音となってしまい、頭骨等の音伝播の周波数特性は、低域に偏っていてこもった音になるので、例えば「む」が「う」に聞こえてしまって聞きづらかった。
空気振動を増幅する方法の場合、送受装置に増幅回路を備えていることから、残響エコーによる音響帰還系が形成され易くハウリングが発生し易いので、ハウリングの発生を抑制するためマイク出力又はスピーカ出力を抑える必要があり、その結果、受話音量が小さくなって高騒音下での通話が困難になってしまい、また、ハウリング対策から広帯域(高感度)のマイクの使用が困難であるため、音声の再現性が制限されたこもった音になってしまうのが避けられない。
【0007】
この発明の目的は、高騒音環境下での通話に際し、外部騒音による影響を受け難くして音声が聞きづらく無く、十分な音量を確保することができる騒音抑制イヤホンマイクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明に係る騒音抑制イヤホンマイクは、外耳道に連通する連通路を有し前記外耳道に挿入されるイヤチップと一体的に構成されて、前記イヤチップの外耳道挿入時、前記外耳道の外側に露出する本体部と、前記本体部に装着した、空気振動を発生させない骨伝導式スピーカと、収音部を前記連通路に臨ませ、前記骨伝導式スピーカが発生させる振動を伝達させない非接触状態で前記本体部に装着したマイクロホンとを有している。
また、この発明の他の態様に係る騒音抑制イヤホンマイクは、前記マイクロホンが、前記連通路に開口する凹部に、凹部底面との間に圧縮コイルバネを介在させると共に、凹部内周面との間に前記マイクロホンを前記凹部内周面に接着する弾力性接着剤を介して、配置されている。
【0009】
また、この発明の他の態様に係る騒音抑制イヤホンマイクは、前記マイクロホンが、前記連通路に開口する凹部に、凹部底面及び凹部内周面に点接触するスパイク部材に支持されて、配置されている。
また、この発明の他の態様に係る騒音抑制イヤホンマイクは、前記マイクロホンが、前記連通路に開口する凹部に充填した衝撃吸収部材に、凹部底面及び凹部内周面から離間すると共に前記収音部を除き埋設された状態で、前記凹部に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る騒音抑制イヤホンマイクによれば、外耳道に連通する連通路を有し外耳道に挿入されるイヤチップと一体的に構成されて、イヤチップの外耳道挿入時、外耳道の外側に露出する本体部は、空気振動を発生させない骨伝導式スピーカと共に、収音部を連通路に臨ませ、骨伝導式スピーカが発生させる振動を伝達させない非接触状態で本体部に装着したマイクロホンを有するので、高騒音環境下での通話に際し、外部騒音による影響を受け難くして音声が聞きづらく無く、十分な音量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施の形態に係る騒音抑制イヤホンマイクの外観を示す説明図である。
【図2】図1の騒音抑制イヤホンマイクを用いた通話システムの構成を示すブロック図である。
【図3】図1の騒音抑制イヤホンマイクの内部構造を概略的に示し、(a)は第1例の断面説明図、(b)は第2例の断面説明図、(c)は第3例の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る騒音抑制イヤホンマイクの外観を示す説明図であり、図2は、図1の騒音抑制イヤホンマイクを用いた通話システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、騒音抑制イヤホンマイク10は、受話(スピーカ)機能と共に送話(マイク)機能も備えた、小型で片方の耳に装着することができるイヤホン(インナーイヤー型ヘッドホン)であり、耳穴、即ち外耳道に挿入して装着されるイヤチップ11と、イヤチップ11と一体的に構成されて、イヤチップ11の外耳道挿入時、外耳道の外側となる耳介側に露出する本体部12とを有している。
【0013】
この騒音抑制イヤホンマイク10は、例えば、騒音レベルが90dB以上の高騒音環境下の作業場に居る作業者が耳に装着することにより、作業場から離れた場所、例えば管理施設に設置した通話装置を介して通話することができる通話システムを構成する。
図2に示すように、通話システム13は、騒音抑制イヤホンマイク10、騒音抑制イヤホンマイク10と接続コードで接続された伝送制御ユニット14、音響制御ユニット15、及び音響制御ユニット15と接続コードで接続された通話装置16を有しており、伝送制御ユニット14と音響制御ユニット15の間は、伝送制御ユニット14に設けた無線アンテナ14aと音響制御ユニット15に設けた無線アンテナ15aを介して、無線通信が行われる。
【0014】
なお、伝送制御ユニット14と音響制御ユニット15の間の信号伝送は、有線通信或いは無線通信により行うが、作業場と通話装置を設置した管理施設との通信距離が短い場合、短距離の無線通信規格であるブルートゥース(Bluetooth)やアナログ微弱無線を使用することができる。
騒音抑制イヤホンマイク10は、コンデンサーマイクロホン或いはシリコンマイクロホンからなるマイクロホン17、及び骨伝導素子を用いた骨伝導式スピーカ18を有しており、伝送制御ユニット14は、無線送受信部19を有しており、音響制御ユニット15は、無線送受信部20、エコーキャンセル部21、及びノイズキャンセル部22を有している。
【0015】
無線送受信部19は、騒音抑制イヤホンマイク10から出力される音声情報に基づく出力信号を無線信号として無線アンテナ14aから出力すると共に、無線アンテナ14aから入力する無線信号に基づく音声情報を騒音抑制イヤホンマイク10へと出力する。
無線送受信部20は、無線アンテナ15aから入力する無線信号に基づく音声情報を通話装置16へと出力すると共に、通話装置16から出力される音声情報に基づく出力信号を無線信号として無線アンテナ15aから出力する。
エコーキャンセル部21は、無線送受信部20を経て入力した信号からエコー成分を除去し、ノイズキャンセル部22は、エコーキャンセル部21を経て入力した信号からノイズ成分を除去する。
【0016】
なお、通話システム13を構成する通話装置16として、例えば、携帯電話等の携帯音声無線装置を用いることができる。また、通話システム13において、イヤチップ11により、外部騒音の影響を十分排除することができる場合は、ノイズキャンセル部22を設けなくても良い。
図3は、図1の騒音抑制イヤホンマイクの内部構造を概略的に示し、(a)は第1例の説明図、(b)は第2例の説明図、(c)は第3例の説明図である。
図3(a)に示すように、第1例に係る騒音抑制イヤホンマイク10のイヤチップ11は、外耳道挿入時、外耳道に連通する連通路11aを有する円筒状に形成されており、本体部12は、一端側に突設された、イヤチップ11の一端側に結合させる連結部23を有している。
【0017】
本体部12の連結部23とは反対側の端面近傍には、本体部12に埋設された状態で、空気振動を発生させない骨伝導式スピーカ18が装着されている。この骨伝導式スピーカ18が発生する振動が頭骨等に伝えられ、聞くことができるので、騒音抑制イヤホンマイク10は、イヤホンとして機能する。
連結部23は、連通路11aの内径より若干拡大された外径を有すると共に、その端面に外向きのフランジ23aを有しており、イヤチップ11との結合時、連結部23を連通路11aに押し込んで、フランジ23aを連通路11aの内周面に沿う円環状溝11bに嵌め込むことにより、連通路11aに密着し、イヤチップ11と一体化した状態になる。
【0018】
また、連結部23は、その端面に開口する、開口形状が例えば円形で連結部12aの長さより若干短い深さの、凹部24を有しており、凹部24には、収音部を連通路11a、即ち、鼓膜に臨ませて、気動式(空気伝播式)のマイクロホン17が配置されている。
このマイクロホン17により、発話時に外耳道内部に発生する空気振動を収音することができ、また、空気振動が発生する外耳道をイヤチップ11により密閉して外部騒音を遮断することができるので、高騒音下での通話が可能になる。
【0019】
マイクロホン17は、凹部24に、凹部24の底面(凹部底面)24aとの間に圧縮コイルバネ25を介在させると共に、凹部24の内周面(凹部内周面)24bに弾力性接着剤26により接着されて、配置されている。圧縮コイルバネ25は、付勢力により圧縮変形し、弾力性接着剤26は、マイクロホン17を内周面24bに接着固定する接着力を発揮する硬化後も弾力性を保持している。
これにより、凹部24に配置されたマイクロホン17は、骨伝導式スピーカ18が埋設された本体部12に開けられた凹部24に、圧縮コイルバネ25と弾力性接着剤26を介在させて、即ち、底面24aと内周面24bとから離間した状態に、保持されることになる。
【0020】
つまり、気動式マイクロホン17と骨伝導式スピーカ18を同一筐体に組み込んで形成した騒音抑制イヤホンマイク10にあって、マイクロホン17は、骨伝導式スピーカ18が発生させる振動を伝達させない非接触状態で本体部12に装着されることになる。このため、骨伝導式スピーカ18が発生させる振動を伝達させないので、残響エコーによる音響帰還系が形成され難くなりハウリングの発生を抑制することができ、その結果、マイク出力或いはスピーカ出力を増大させることが可能になり、音量が小さくなって高騒音下での通話が困難になることも無い。また、ハウリング対策を必要としないので、広帯域(高感度)のマイクを使用した明瞭な音声送信が可能になり、広帯域(高感度)のマイクを使用することができない場合の音声の再現性が制限されたこもった音になってしまうことも無い。
【0021】
図3(b)に示すように、第2例に係る騒音抑制イヤホンマイク30は、圧縮コイルバネ25と弾力性接着剤26に代えて、スパイク部材31を用いており、スパイク部材31により、凹部24に配置されたマイクロホン17を、底面24aと内周面24bとから離間した状態に保持している。その他の構成及び効果は、第1例に係る騒音抑制イヤホンマイク10と同様である。
【0022】
スパイク部材31は、凹部24の底面24aに一箇所で、内周面24bに少なくとも三箇所で、それぞれ点接触する、多角形錐状に形成されており、底面にマイクロホン17を載置した状態で凹部24に配置されている。つまり、マイクロホン17は、凹部24に、底面24a及び内周面24bに点接触するスパイク部材31に保持されており、骨伝導式スピーカ18が発生させる振動を伝達させない非接触状態で本体部12に装着されることになる。
なお、スパイク部材31の内周面24bとの接触箇所は、四箇所以上でも良いが、できるだけ少ない方が好ましい。
【0023】
図3(c)に示すように、第3例に係る騒音抑制イヤホンマイク35は、圧縮コイルバネ25と弾力性接着剤26に代えて、衝撃吸収部材36を用いており、衝撃吸収部材36により、凹部24に配置されたマイクロホン17を、底面24aと内周面24bとから離間した状態に保持している。その他の構成及び効果は、第1例に係る騒音抑制イヤホンマイク10と同様である。
【0024】
衝撃吸収部材36は、例えば、シリコンゴム等の衝撃吸収機能を有する衝撃吸収ゲル部材により形成されており、凹部24に充填した衝撃吸収部材36により、マイクロホン17は、底面24aと内周面24bから離間すると共に収音部を除き埋設された状態で、凹部24に配置されている。つまり、マイクロホン17は、凹部24に充填した衝撃吸収部材36に埋設されて保持されており、骨伝導式スピーカ18が発生させる振動を伝達させない非接触状態で本体部12に装着されることになる。
【0025】
このように、この発明に係る騒音抑制イヤホンマイク10,30,35を用いた通話システム13により、例えば、騒音レベルが90dB以上の高騒音環境下の作業場に居る作業者等、騒音レベルが90dB以上の高騒音環境下において騒音抑制イヤホンマイク10,30,35を耳に装着して通話する場合に、外部騒音による影響を受け難くすることができるので、騒音抑制イヤホンマイク10,30,35を介して通話する音声が聞きづらく無く、また、通話時に十分な音量を確保することができる。
【符号の説明】
【0026】
10,30,35 騒音抑制イヤホンマイク
11 イヤチップ
11a 連通路
11b 円環状溝
12 本体部
13 通話システム
14 伝送制御ユニット
14a,15a 無線アンテナ
15 音響制御ユニット
16 通話装置
17 マイクロホン
18 骨伝導式スピーカ
19,20 無線送受信部
21 エコーキャンセル部
22 ノイズキャンセル部
23 連結部
23a フランジ
24 凹部
24a 底面
24b 内周面
25 圧縮コイルバネ
26 弾力性接着剤
31 スパイク部材
36 衝撃吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道に連通する連通路を有し前記外耳道に挿入されるイヤチップと一体的に構成されて、前記イヤチップの外耳道挿入時、前記外耳道の外側に露出する本体部と、
前記本体部に装着した、空気振動を発生させない骨伝導式スピーカと、
収音部を前記連通路に臨ませ、前記骨伝導式スピーカが発生させる振動を伝達させない非接触状態で前記本体部に装着したマイクロホンと
を有する騒音抑制イヤホンマイク。
【請求項2】
前記マイクロホンは、
前記連通路に開口する凹部に、凹部底面との間に圧縮コイルバネを介在させると共に、凹部内周面との間に前記マイクロホンを前記凹部内周面に接着する弾力性接着剤を介して、配置されている請求項1に記載の騒音抑制イヤホンマイク。
【請求項3】
前記マイクロホンは、
前記連通路に開口する凹部に、凹部底面及び凹部内周面に点接触するスパイク部材に支持されて、配置されている請求項1に記載の騒音抑制イヤホンマイク。
【請求項4】
前記マイクロホンは、
前記連通路に開口する凹部に充填した衝撃吸収部材に、凹部底面及び凹部内周面から離間すると共に前記収音部を除き埋設された状態で、前記凹部に配置されている請求項1に記載の騒音抑制イヤホンマイク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−38455(P2013−38455A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170294(P2011−170294)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000233697)株式会社日鉄エレックス (51)
【Fターム(参考)】