説明

騒音観測装置及び騒音観測方法

【課題】飛行場周辺のような複雑な騒音環境下においても、航空機等から発生する地上騒音の判定に対応することができる技術を提供する。
【解決手段】飛行場内にマイクロホンユニット10を設置し、駐機エリア20やタクシング路30、エンジン試運転エリア60等の騒音発生源となる区域ごとに窓領域Wa〜Wcを個別に規定する。マイクロホンユニット10をX軸、Y軸、Z軸の3軸相関法による音識別に利用することで、地上騒音についても到来方向ベクトルを算出することができる。観測点Pと実際に騒音が発生する区域との位置関係から窓領域Wa〜Wcを規定すれば、到来方向ベクトルの割合からいずれの窓領域Wa〜Wcの地上騒音かを識別可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測対象の地域に航空機の飛行騒音や地上騒音が入り交じっている環境下での利用に適した騒音観測装置及び騒音観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば航空機等の飛行ルート下で観測される航空機の飛行騒音の自動識別に有効な先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術は、相関法による上空音識別手法を用いて音源の仰角と方位角を算出し、これを移動音源の到来方向ベクトルとすることで、得られたベクトルの集合から移動音源の移動軌跡を自動で識別するものである。
【0003】
先行技術の識別手法によれば、複数箇所の空港から離着陸する航空機の騒音の影響を受けるような観測地点であっても、各空港から離着陸する航空機の騒音の影響をそれぞれ区別しながら正確に把握し、航空機の移動コースを高精度で識別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−43203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
航空機等の運行に伴って発生する騒音の観測は、これまでは上空からの騒音や滑走路上で発生する離陸滑走路騒音や着陸時のリバース騒音等の飛行騒音だけでよかったが、現在では(今後は)飛行場内における航空機の運用や機体の整備に伴って発生する航空機の地上騒音についても飛行場周辺で観測する必要がある。地上騒音には、例えば、駐機中の航空機が補助動力供給装置(APU)の稼動によって発生する騒音や、ターミナルと滑走路との間を移動中(タクシング)の航空機がやはり推進のために発生する騒音や、さらに飛行場内のエンジン試運転エリアで航空機がエンジンの試運転を行う場合等に発生する騒音がある。
【0006】
さらには、飛行場周辺で観測される騒音は複雑であり、観測点には周辺から自動車やサイレンなど多様な騒音が入り交じって到来するため、航空機が発生する地上騒音のみを地上からの他の騒音と区別してピンポイントで検出することは難しい。
【0007】
また航空機騒音には、航空機の運行に伴って飛行場で観測される単発的に発生する一過性の単発騒音や、航空機の整備等に伴って飛行場周辺で観測されるエンジン試運転やAPU稼動などの騒音が長時間にわたって継続し、定常的であるがかなりのレベル変動を伴う準定常騒音などがあり、騒音の識別をさらに困難にしている。
【0008】
そこで本発明は、飛行場周辺のような複雑な騒音環境下においても、航空機等によって発生する騒音の判定に対応することができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明は、相関法による上空音識別手法に加えて、騒音の判定(識別)に窓判定手法を用いている。窓判定手法は、騒音の発生源に相当する区域を実際の観測点との位置関係に基づいて領域化し、その領域化した区域を観測空間内に窓領域として規定することで、騒音の到来方向ベクトルが窓領域内にあれば、これに対応する区域から発生した騒音であると判定するものである。
【0010】
このため騒音観測装置は、検出手段の他に算出手段、窓領域規定手段及び判定手段を備えている。騒音観測方法は、このような騒音観測装置を用いて実行される。
【0011】
上記の検出手段は、騒音を観測する対象地域内に設置された観測点を基準として、この観測点に到来する騒音を検出するステップを実行する。すなわち検出手段は、騒音レベルだけでなく、例えば観測点からみた音の到来方向について検出を行う。算出手段は、検出手段による検出結果に基づき、観測点を基準とする観測空間内で観測点に到来した騒音の方向ベクトルを算出するステップを実行する。判定手段が判定ステップを実行するにあたり、窓領域規定手段は、対象地域内で騒音の発生源に相当する区域を観測点との相対的な位置関係に基づいて領域化し、この領域化した区域を観測空間内に窓領域として規定する。また判定手段は、上記の窓領域を規定したとき、算出された到来方向ベクトルが前記窓領域内に含まれる場合、対象地域内の窓領域に対応する区域から騒音が発生したと判定するステップを実行する。
【0012】
これにより、複雑多様な騒音が発生する環境下にあっても、騒音の到来方向ベクトルが騒音発生源の区域に対応する窓領域に多く存在すれば、これを当該区域から発生した騒音であると識別することができる。
【0013】
また本発明において、異なるタイプの騒音発生源となる複数の区域ごとに個別の窓領域を規定することで、騒音の発生時に、どのようなタイプの騒音であるかを含めて判定することもできる。すなわち窓領域の規定に際しては、互いに発生する騒音のタイプが異なる複数の区域を観測点との相対的な位置関係に基づいて個別に領域化し、これら領域化した複数の区域をそれぞれ個別に対応する複数の前記窓領域として前記観測空間内に規定しておく。そして窓判定に際しては、算出された到来方向ベクトルが複数の窓領域のいずれに含まれるかを識別することで、その対応する窓領域に対応した区域に固有なタイプの騒音が発生したと判定する。
【0014】
これにより、多様な種類の騒音が発生する環境下であっても、特定の区域から騒音が発生したと判定することに加えて、いかなるタイプの騒音であるかを含めて騒音を高精度に識別することが可能となる。
【0015】
なお本発明においては、観測点を基準として観測空間内に設定された水平面からの仰角の範囲と、観測点を基準として観測空間内に設定された基準方位に対する方位角の範囲とで窓領域を規定することができる。
【0016】
例えば、算出する到来方向ベクトルが仰角θと方位角δとで表されるとした場合、そのベクトル要素が窓領域の座標系と対応していれば、判定に伴う演算処理が容易になり、演算負荷を軽減することができる。
【0017】
また本発明では、算出された到来方向ベクトルと窓領域との位置関係に基づいて、観測点に到来する騒音が地上騒音であることを識別することもできる。
【0018】
これにより、既存の相関法による上空音識別手法とともに、窓判定手法による地上騒音の判定を活用することで、より利便性の高い観測装置及び観測方法として実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の騒音観測装置及び騒音観測方法によれば、航空機の飛行騒音を識別するだけでなく、地上からの騒音が複雑に発生する対象地域においても、航空機の地上騒音を容易に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】飛行場内に騒音観測装置を設置した場合の一実施形態を示す概要図である。
【図2】騒音観測装置の構成と相関法による上空音識別手法を概略的に示した図である。
【図3】飛行場内で地上騒音の発生源となる区域と観測点との相対的な位置関係を示した図である。
【図4】単発騒音についての騒音イベント検出手法について、航路下の騒音レベルの時間的な変化とともに解説した図である。
【図5】準定常騒音についての騒音イベント検出手法について、飛行場内(又は近傍)での騒音レベルの時間的な変化とともに解説した図である。
【図6】騒音観測装置の観測ユニットにより実行される騒音観測処理の手順例を示すフローチャートである。
【図7】ベクトル識別部による窓判定手法を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、飛行場内に騒音観測装置を設置した場合の一実施形態を示す概要図である。飛行場(又はその周辺)のような対象地域においては、航空機の航行に伴って上空から到来する騒音及び滑走路上で発生する離着陸走行騒音や着陸時のリバース騒音(以下、「飛行騒音」と称する。)の他に、飛行場内における航空機の運用や機体の整備に伴う騒音で、タクシングやエンジン試運転、APUの稼動などに伴う騒音(以下、「地上騒音」と称する。)が入り交じった騒音環境が形成されている。
【0023】
図1に示されているように、騒音観測装置は、飛行場内の観測点にマイクロホンユニット10を設置した状態で使用することができる。またマイクロホンユニット10には、図示しない観測ユニットが接続されている。
【0024】
対象地域となる飛行場内には、例えば駐機エリア20やタクシング路30、滑走路25上を走行あるいは飛行する着陸機40や離陸機50、エンジン試運転エリア60等の騒音発生源となる区域が各所に存在している。飛行場内では、これら各所から様々な騒音が発生し、それぞれの方向から観測点に到来する。本実施形態の騒音観測装置は、マイクロホンユニット10を用いることで、観測点に到来する騒音を自動で検出することができる。以下、騒音発生源となる区域別に説明する。
【0025】
〔APU〕
駐機エリア20からは、補助動力装置(APU:Auxiliary Power Unit)の稼動に伴う騒音が発生している。なお補助動力装置は、駐機中の航空機AP内に圧縮空気や油圧、電力等を供給する動力源として用いられる小型エンジンである。
【0026】
〔タクシング〕
タクシング路30は、上記の駐機エリアと滑走路25との間を航空機APが移動する走路である。タクシング中の航空機APからは、地上滑走に必要な推進力を得るためにエンジンが作動し、それによって騒音が発生する。
【0027】
〔着陸音〕
着陸機40は、航空機APが到着時に滑走路25に向けて進入降下して着地し、さらに多くの場合減速のため滑走路25上でエンジンの逆噴射(リバース)を行い、最終的に滑走路25から離脱するまでの運航に伴う騒音を発生する。
【0028】
〔離陸音〕
離陸機50は、航空機APの出発時に滑走路25の始端位置で滑走を開始し、滑走路25半ばで浮上・上昇して飛び去っていくまでの間の運航に伴う騒音を発生する。
【0029】
〔エンジン試運転〕
またエンジン試運転エリア60では、航空機AP用のエンジン(メインエンジン)の動作確認のために行われる試運転に伴って騒音が発生する。
【0030】
なお、図1には示されていないが、その他にも飛行場内では以下の騒音が発生する。
【0031】
〔タッチアンドゴー〕
航空機APが離着陸訓練等のために、例えば滑走路25に進入、着地、減速した後、再びエンジン出力を上げて離陸する飛行形態(タッチアンドゴー)を行う場合、これら一連の動作に伴う騒音が発生する。
【0032】
〔ホバリング〕
ヘリコプタが浮上してほぼ静止している飛行形態をとる場合、これに伴う騒音が発生する。
【0033】
〔市街地〕
その他にも飛行場の周辺に例えば市街地70がある場合、市街地70での様々な社会活動(交通機関の運行、道路交通、市民生活等)に伴うその他の地上からの騒音が発生する。
【0034】
〔観測点との位置関係〕
マイクロホンユニット10は、例えば飛行場内で1箇所(複数箇所でもよい)に観測点として設置されている。この観測点を基準として北(N)を規定すると、駐機エリア20は例えば北北東(NNE)から北東(NE)にまたがって位置している。またタクシング路30は、北東(NE)から東北東(ENE)にまたがり、滑走路25は、例えば東北東(ENE)から西北西(WNW)に跨って位置している。またエンジン試運転エリア60は、例えば北西(NW)に位置している。
【0035】
図2は、騒音観測装置の構成と相関法による上空音識別手法を概略的に示した図である。騒音観測装置は、上記のマイクロホンユニット10を用いて演算処理を行い、相関法により上空音を識別する機能を有している。
【0036】
〔マイクロホンユニット〕
マイクロホンユニット10は、例えば4つのマイクロホンM0,M1,M2,M3を備えた構成であり、個々のマイクロホンM0〜M3は、仮想的に定められたX軸上、Y軸上、Z軸上、及び3軸座標系の原点に配置されている。具体的には、マイクロホンM0が原点に配置されており、原点から鉛直方向に延びたZ軸上に別のマイクロホンM1が配置されている。また、原点から水平方向に延び、かつ、X軸と90°の開きをなすY軸上に別のマイクロホンM2が設置されており、原点から水平方向に延びるX軸上に他のマイクロホンM3が設置されている。マイクロホンユニット10は、個々のマイクロホンM0〜M3を機械的に固定しつつ、その設置状態でマイクロホンM0〜M3の相対的な位置関係(3軸相関)を保持している。
【0037】
その他にマイクロホンユニット10は、上述した4つのマイクロホンM0〜M3とは別のマイクロホンMBを備えている。4つのマイクロホンM0〜M3は相関法による上空音識別用のものであるが、マイクロホンMBは騒音計測用である。マイクロホンMBは、例えば単独で観測点での騒音レベルを計測するために用いられる。
【0038】
〔観測ユニット〕
騒音観測装置は観測ユニット100を備えており、この観測ユニット100にマイクロホンユニット10が接続されている。観測ユニット100は、例えば図示しない中央演算処理装置(CPU)や半導体メモリ(ROM、RAM)、ハードディスクドライブ(HDD)、入出力インタフェース、液晶ディスプレイ等を備えたコンピュータ機器で構成されている。
【0039】
〔相関法による飛行音識別手法〕
次に4つのマイクロホンM0〜M3を用いた相関法による上空音識別手法について説明する。なお、相関法による上空音識別手法は既に公知であるため、ここではその概略を説明する。
【0040】
例えば、鉛直線(Z軸)上に2つのマイクロホンM1,M0が垂直に設置されているとき、これらの間隔をd(m)とする。そして、飛行している航空機APの音が仰角θで進入する場合、その音が2つのマイクロホンM1,M0に到達する時間差τ(s)は、音速をc(m/s)として次式(1)により表される。
τ=d/c・sin(θ)・・・(1)
そして上式(1)より、観測点からみた音源の仰角θを得ることができる。
【0041】
音の到来方向が充分に上空側(θ>0)にあると考えられる場合、この仰角θの情報を飛行騒音の識別に利用することができる(先行技術で挙げた特許文献1参照。)。すなわち、例えばマイクロホンMBで検出された騒音レベルがある閾値を超えた場合(騒音イベント発生時)、時々刻々の仰角変化θ(t)を音到来方向データとして同時に記録しておけば、予め指定しておいた仰角より大きい音到来方向データの騒音を航空機APによる飛行騒音であると判断することができる。
【0042】
〔到来方向ベクトルの算出〕
また、音の到来方向を鉛直方向だけでなく、X−Y軸、Y−Z軸、Z−X軸の3軸相互間での相関に展開すれば、仰角θに加えて方位角δを計算により求めることが可能である。そしてこれら仰角θ及び方位角δを求めることにより、観測点を基準とした3軸の観測空間(ベクトル空間)内で騒音の到来方向ベクトル(単位ベクトル)を算出することができる。また、算出した到来方向ベクトルの外積により、観測点を基準として音源(航空機AP)の移動方向(どの方角からどの方角へ向かったか)をより確実に知ることができる。
【0043】
〔飛行音識別手法の地上騒音判別への応用〕
上記のように、音の3軸到来方向ベクトルを算出することができれば、仰角θが地上を指すものであった場合、その方位角δから地上からの騒音の到来方向を判別することができる。地上からの騒音が航空機APから発生したものであるかどうかは、仰角θ及び方位角δの値と予め登録しておいた窓領域との関係によって判別することができる。以下、本実施形態で用いる騒音観測方法(窓判別手法)について説明する。
【0044】
〔騒音観測装置としての構成〕
観測ユニット100は、その機能要素として騒音検出部102、検出条件設定部104、到来方向ベクトル識別部106、窓判定条件設定部108及び判定結果記録部110を備えている。
【0045】
このうち騒音検出部102は、例えばマイクロホンMB,M0〜M3等からの騒音検出信号に基づき、対象地域内で発生している地上の騒音レベルを検出する。具体的には、騒音検出信号をデジタル変換した結果をサンプリングし、観測点における騒音レベル値(dB)を算出する。
【0046】
〔単発騒音/準定常騒音〕
航空機の騒音には、大きく分けて単発騒音と準定常騒音がある。このうち単発騒音とは、単発的に発生する一過性の騒音であり、航空機APの航空機の運航に伴って飛行場周辺で観測される騒音などが該当する。また、地上騒音の場合はタクシングの騒音が単発騒音として観測されることが多い。
【0047】
準定常騒音とは、長時間にわたって継続し、定常的であるがかなりのレベル変動を伴う騒音である。航空機から発生している場合は航空機の地上騒音とされる。航空機APの整備等に伴って飛行場の周辺で観測されるエンジン試運転やAPUの稼動騒音や滑走路端で離陸前に待機するときの騒音等がこれに該当する。また、ヘリコプタのアイドリングやホバリングの騒音も定常的に続くことが多く、準定常騒音として観測されることもある。
【0048】
検出条件設定部104には、騒音レベル値から単発騒音又は準定常騒音の騒音イベントを検出するための条件(閾値レベル)が登録されている。騒音検出部102は、算出した騒音レベル値(dB)を検出条件設定部104から読み込んだ条件にあてはめ、単発騒音の飛行騒音や地上騒音のイベントを検出したり、準定常騒音の地上騒音イベントを検出したりすることができる。なお、騒音イベントの検出例についてはさらに後述する。
【0049】
到来方向ベクトル識別部106は、4つのマイクロホンM0〜M3からの検出信号に基づき、上記の3軸相関法によって音の到来方向ベクトル(仰角θ,方位角δ)を算出する。また到来方向ベクトル識別部106は、時間関数で表される仰角θ(t)及び方位角δ(t)を音到来方向データとして記録する。
【0050】
窓判定条件設定部108は、飛行場内で予め登録しておいた窓判定についての条件を記憶している。窓判定についての条件は、例えば観測点を基準とした観測空間内で、予め航空機APからの地上騒音(APU音、タクシング音、エンジン試運転音、ホバリング)が到来すると想定される領域(窓領域)として規定されている。このような窓領域は、実際の飛行場と観測点(マイクロホンユニット10の基準点)との相対的な位置関係に基づいて規定することができる。なお、窓領域の規定についてはさらに後述する。
【0051】
したがって到来方向ベクトル識別部106は、窓判定条件設定部108から窓判定の条件(窓領域)を取得すると、算出した到来方向ベクトル(θ,δ)を窓領域にあてはめることで、飛行場内で窓領域に対応する区域から発生した地上騒音であると判定(識別)する。
【0052】
判定結果記録部110は、上記の判定結果(窓判定の結果)を記録しておき、外部からの要求に応じて記録内容を出力する。
【0053】
〔観測点と騒音発生区域との位置関係〕
図3は、飛行場内で地上騒音の発生源となる区域と観測点との相対的な位置関係を示した図である。
【0054】
騒音の到来方向という観点から見れば、マイクロホンユニット10の設置地点(観測点)から騒音発生源までの距離には関係なく、騒音の発生源に対応する区域を方角(方位角の範囲)や高さ(仰角の範囲)だけで規定することができる。
【0055】
〔窓領域の規定〕
例えば、上記のようにエンジン試運転エリア60は、マイクロホンユニット10の設置地点(観測点)からみて北西(NW)の方角に位置していた。これはつまり、飛行場内には観測点を基準として北西(NW)の方角に騒音の発生源となる1つの区域が存在していることを意味する。実際にはエンジン試運転エリア60の大きさ(幅や高さ)も考慮する必要があるため、この区域を観測空間内で仮想的に領域化すると、観測点から北西(NW)の方向にエンジン試運転エリア60がすっぽり収まる程度の窓領域Wcを規定することができる。
【0056】
〔窓領域の範囲〕
また、マイクロホンユニット10の物理的な構成(マイクロホンM0〜M3の3軸上の配置関係)から観測点P(マイクロホンM0の位置に相当)を規定すると、窓領域Wcは観測点Pを通る水平面からの仰角の範囲と方位角の範囲とで規定することができる。
【0057】
すなわち図3に示される例では、例えばマイクロホンM0を含む水平面をとった場合、窓領域Wcについての仰角の範囲は、水平面より下向きにみた角度θw1から角度θw2まで(θw2とθw1との差)となる。
【0058】
また、観測点Pから基準となる方位を地表面上にX軸で表した場合、窓領域Wcについての方位角の範囲は、X軸より左回りにみた角度δw1から角度δw2まで(δw2とδw1との差)となる。なお図3では判読の容易さを優先して、X軸を南方位で表していることに留意されたい。
【0059】
〔その他の窓領域の規定〕
上記と同様の考え方に基づき、例えばクシング路30については、これを領域化した個別の窓領域Waを観測空間内で規定することができ、また駐機エリア20については、これを領域化した個別の窓領域Wbを観測空間内で規定することができる。
【0060】
〔窓領域についての設定値〕
以上は、あくまで観測空間内でみた窓領域Wa〜Wcの規定についてであるが、上述した窓判定条件設定部108には、仰角の範囲や方位角の範囲といった線形領域を定義する値だけでなく、各窓領域Wa〜Wcでの騒音のタイプや騒音の発生メカニズムに固有の設定値を登録することができる。固有の設定値は、例えば窓領域Wa〜Wc別の「割合閾値」や「判定種別(どの地上騒音であるか)」とすることができる。
【0061】
例えば、航空機APの移動距離が比較的少ない駐機エリア20やエンジン試運転エリア60については、それぞれ対応する窓領域Wb,Wcの割合閾値を大きく設定することができる。割合閾値は、騒音イベント検出時にどの程度の割合で窓領域Wb,Wcに到来方向ベクトルを識別したかによって窓判定の結果を決める際の基準閾値である。判定種別は、窓領域Wa〜Wcと具体的事象を結びつけるものである。例えば、窓領域Wcで地上騒音を識別した場合はエンジン試運転による地上騒音であると判定する。
【0062】
〔騒音イベント検出手法〕
次に、騒音イベントの検出手法について説明する。
図4は、単発騒音における騒音イベント検出手法について、航路下の騒音レベルの時間的な変化とともに解説した図である。上記の観測ユニット100は、例えば騒音検出部102において連続的に騒音レベルを検出することで、観測点での暗騒音レベル(BGN)を算出している。
【0063】
単発騒音は、上記のように航空機APが上空を通過する等により、一過性の騒音として発生する。したがって単発騒音レベルの時間的な変化は、時間の経過とともに騒音レベルは上昇し、時刻t1で暗騒音レベルより10dB高いレベルにまで上昇する。この後、騒音レベルは最大値(Nmax)に達し、再び暗騒音レベル(BGN)となる。
【0064】
この場合、観測ユニット100は、騒音検出部102において時刻t1から騒音イベントの検出を開始する。つまり、マイクロホンMBの騒音レベルが暗騒音レベル(BGN)より10dB高いレベルまで上昇すると、騒音イベントの検出処理が開始される。
【0065】
検出条件設定部104には、単発騒音が発生したと判定するための閾値レベル(Na)が予め設定されている。したがって騒音検出部102は、観測値が閾値レベル(Na)を超えた場合にのみ単発騒音と識別する。この例では、実際に観測値が閾値レベル(Na)を超えているため、騒音検出部102は騒音レベルが最大値(Nmax)に達した時刻t3をもって単発騒音の発生時刻と判定することができる。
【0066】
また、このとき騒音検出部102は、騒音レベルが最大値(Nmax)から10dB下がった時刻t4を単発騒音の終了時刻と判定する。この結果、時刻t1(開始時)から時刻t4(終了時)までが騒音イベント検出中(検出処理)の期間となる。
【0067】
そして騒音検出部102は、騒音レベルが最大値(Nmax)より10dBだけ下がった値よりも高いレベルにあった期間を切り出し、これを騒音イベント区間として判定する。騒音イベント区間は、観測点において単発騒音が継続した時間とみなされる。
【0068】
次に図5は、準定常騒音についての騒音イベント検出手法について、飛行場内(又は近傍)での騒音レベルの時間的な変化とともに解説した図である。ここでも観測ユニット100は、騒音検出部102において連続的に騒音レベルを検出することで、観測点での暗騒音レベル(BGN)を算出している。
【0069】
〔準定常騒音の検出〕
飛行場内で航空機APによる準定常騒音が発生した場合を想定する。ある時刻t12より前では、例えばタクシング路30の移動等により、観測点での観測値が暗騒音レベル(BGN)より10dB高いレベル(NP1)まで上昇する。この後さらに上昇し、騒音レベルは準定常的に高いレベルをある程度の長い時間維持したまま推移し、暗騒音レベル(BGN)より10dB高いレベル(NP2)に低下し、再び暗騒音レベル(BGN)になる。
【0070】
この場合、観測ユニット100は、騒音検出部102において時刻t12から騒音イベントの検出を開始する。つまり、ここでも暗騒音レベル(BGN)より10dB高いレベル(NP1)まで上昇すると、騒音イベントの検出処理が開始されることになる。ただし、準定常騒音の場合は閾値レベルが設定されていない。
【0071】
そして騒音検出部102は、観測値が暗騒音レベル(BGN)より10dB高いレベルにあった期間を切り出し、これを騒音イベント区間として判定する。この場合の騒音イベント区間は、観測点においてある程度の長い時間継続した場合に準定常騒音が継続した時間とみなされる。
【0072】
〔騒音観測処理〕
図6は、騒音観測装置の観測ユニット100により実行される騒音観測処理の手順例を示すフローチャートである。また以下の説明により、騒音観測方法に用いられる各ステップの内容が明らかとなる。
【0073】
ステップS10:観測ユニット100は、騒音検出部102において騒音イベント検出処理を実行する。この処理では、マイクロホンMB及びマイクロホンM0〜M3の騒音レベルを検出し、検出した所定時間分の騒音レベルデータと時刻を半導体メモリに保存する。
【0074】
保存した騒音レベルを検出条件設定部104から読み出した検出条件にあてはめ、騒音イベントの検出条件を満たすか否かを判断する。
【0075】
単発騒音か準定常騒音を識別した場合、次のステップS14に進む。
【0076】
ステップS14:観測ユニット100は、マイクロホンM0〜M3の騒音レベルと時刻から到来方向ベクトル識別部106において到来方向ベクトル識別処理を実行する。この処理では、上記のように3軸の相関法を用いて騒音の到来方向ベクトル(仰角θ,方位角δ)を算出する。
【0077】
ステップS16:次に到来方向ベクトル識別部106は、到来方向ベクトルに基づいて窓判定を行う。具体的には、上記の窓領域Wa,Wb,Wcを順番に指定し、そのとき指定した窓領域Wa〜Wc内に騒音イベント区間における到来方向ベクトルが含まれる割合を確認する。なお、このとき上記の窓判定条件設定部108から読み出した割合閾値を適用することができる。窓領域Wa,Wb,Wcのうち到来方向ベクトルが存在する割合が割合閾値より大きい窓領域があれば、そのうち一番割合が大きい窓領域を騒音イベントが生じた窓領域に決定する。
【0078】
ステップS18:指定した窓領域Wa〜Wc内に騒音イベントが生じた窓領域を決定できれば(ステップS16:Yes)、到来方向ベクトル識別部106でそのとき指定した窓領域Wa〜Wcに対応する区域から地上騒音が発生したと判定する。また、判定の結果は判定結果記録部110に保存される。またこのとき、どの窓領域Wa〜Wcに対応する区域からの地上騒音であるか、また、単発騒音か準定常騒音かにより、騒音のタイプがいずれに該当するかを合わせて判定することができる。騒音のタイプは、例えばAPU音、タクシング音、エンジン試運転音、ホバリング音等であり、窓領域Wa〜Wcのそれぞれと単発騒音/準定常騒音の組合せが対応する。
【0079】
ステップS20:一方、指定した窓領域Wa〜Wc内に到来方向ベクトルが所定の割合に含まれていなければ(ステップS16:No)、観測点に到来した騒音を航空機の飛行騒音と識別するか、その他の騒音と識別する。
【0080】
〔窓判定手法の概要〕
図7は、到来方向ベクトル識別部106による窓判定手法を概略的に示した図である。
図7中(A)に示されているように、観測点Pを基準として仮想的な球面VSを設定する。観測点Pを含む水平面上の方位角は、実際の飛行場内で基準とする方位(例えば北(N))を基準(0°)とする。
【0081】
また、実際の飛行場内で地上騒音の発生源となる区域を領域化し、球面VS内に窓領域を規定する。この例では、3つの区域に対応して3つの窓領域A1,A2,A3を規定している。
【0082】
図7中(B)には、球面VSを仰角θ,方位角δの直交座標系に置き換えた例を示す。3つのエリアA1,A2,A3は、それぞれ対応する実際の区域の特性に応じて方位角の範囲(幅)と仰角の範囲がそれぞれに規定されている。
【0083】
このように窓判定手法においては、指定した座標位置から垂直方向及び水平方向のそれぞれに指定した幅で形成される窓領域を窓判定のエリアA1,A2,A3とすることができる。
【0084】
本発明の発明者等は、窓判定手法において以下の好ましい詳細項目を提示している。
(1)到来方向ベクトル識別部106は、騒音イベントで算出した全ベクトル数のうち、窓判定の各エリアA1,A2,A3内にあったベクトルの数が指定した割合(割合閾値)以上あった場合、その指定した判定タイプを結果として返す。
(2)このとき判定タイプは、航空機の飛行騒音、航空機の地上騒音、その他の騒音から選ぶことができる。
(3)また、窓判定のエリアA1〜A3等は、任意に設定することができる。
(4)また、2つ以上のエリア(例えばエリアA1とエリアA3)で重複したベクトルは、それぞれのエリアでカウントすることとする。この場合、カウントした後で航空機の飛行騒音と窓判定の各エリアA1〜A3でベクトルの存在する割合を算出し、割合閾値以上であるエリアを候補として後の処理を実行することとする。例えば、航空機の飛行騒音判定が有効ならば従来の処理(相関法による上空音識別手法)を行い、窓判定が有効ならば本実施形態による窓判定の処理を行うこととする。また複数の候補が出た場合は、割合の多いエリアの処理を実行する。
(5)指定した複数の窓判定のエリアにわたって騒音イベントが存在した場合は、ベクトルの数が多い領域の判定を採用する。
【0085】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。一実施形態では、飛行場を対象地域としているが、本発明の観測装置及び観測方法は、飛行場以外を観測の対象区域とすることができる。騒音が到来する方向と継続時間の特徴がわかれば、たとえば、線路の所定区間を通過する電車、高速道路の所定区間を通過する自動車、工場や建設作業などから生じる騒音を区別して1つの装置で観測することができる。
【0086】
また、一実施形態で挙げた騒音イベントの検出に関わる条件(暗騒音レベル±10dB)等は一例であり、条件の設定は観測の対象地域や音発生源の特性に合わせて適宜に変更することができる。
【0087】
窓判定に用いる窓領域は、仰角と方位角による直交座標系だけでなく、極座標系で規定してもよい。
【0088】
その他、一実施形態であげた判定タイプは飛行場を例としたものであり、その他の判定タイプを設定して窓判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 マイクロホンユニット
100 観測ユニット
102 騒音検出部
104 検出条件設定部
106 到来方向ベクトル識別部
108 窓判定条件設定部
110 判定結果記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を観測する対象地域内に設置された観測点を基準として、この観測点に到来する騒音を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出結果に基づき、前記観測点を基準とする観測空間内で前記観測点に到来した騒音の方向ベクトルを算出する算出手段と、
前記対象地域内で騒音の発生源に相当する区域を前記観測点との相対的な位置関係に基づいて領域化し、この領域化した区域を前記観測空間内に窓領域として規定する窓領域規定手段と、
前記算出手段により算出された到来方向ベクトルが前記窓領域内に含まれる場合、騒音が前記対象地域内の前記窓領域に対応する区域から発生したと判定する判定手段と
を備えた騒音観測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の騒音観測装置において、
前記窓領域規定手段は、
互いに発生する騒音のタイプが異なる複数の区域を前記観測点との相対的な位置関係に基づいて個別に領域化し、これら領域化した複数の区域をそれぞれ個別に対応する複数の前記窓領域として前記観測空間内に規定し、
前記判定手段は、
前記算出手段により算出された到来方向ベクトルが複数の前記窓領域のいずれに含まれるかを識別することで、その対応する前記窓領域に対応した区域に固有なタイプの騒音が発生したと判定することを特徴とする騒音観測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の騒音観測装置において、
前記窓領域規定手段は、
前記観測点を基準として前記観測空間内に設定された水平面からの仰角の範囲と、前記観測点を基準として前記観測空間内に設定された基準方位に対する方位角の範囲とで前記窓領域を規定することを特徴とする騒音観測装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の騒音観測装置において、
前記算出手段により算出された到来方向ベクトルと前記窓領域との位置関係に基づいて、前記観測点に到来する騒音が航空機の地上騒音であることを識別する識別手段をさらに備えたことを特徴とする騒音観測装置。
【請求項5】
騒音を観測する対象地域内に設置された観測点を基準として、この観測点に到来する騒音を検出する検出ステップと、
前記検出ステップでの検出結果に基づき、前記観測点を基準とする観測空間内で前記観測点に到来した騒音の方向ベクトルを算出する算出ステップと、
前記対象地域内で騒音の発生源に相当する区域を前記観測点との相対的な位置関係に基づいて領域化し、この領域化した区域を前記観測空間内に窓領域として規定したとき、前記算出ステップで算出した到来方向ベクトルが前記窓領域内に含まれるか否かによって、騒音が前記対象地域内の前記窓領域に対応する区域から発生したかを判定する判定ステップと
から構成される騒音観測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の騒音観測方法において、
前記判定ステップでは、
互いに発生する騒音のタイプが異なる複数の区域を前記観測点との相対的な位置関係に基づいて個別に領域化し、これら領域化した複数の区域をそれぞれ個別に対応する複数の前記窓領域として前記観測空間内に規定したとき、前記算出ステップで算出した到来方向ベクトルが複数の前記窓領域のいずれに含まれるかを識別することで、その対応する前記窓領域に対応した区域に固有なタイプの騒音が発生したと判定することを特徴とする騒音観測方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の騒音観測方法において、
前記判定ステップでは、
前記観測点を基準として前記観測空間内に設定された水平面からの仰角の範囲と、前記観測点を基準として前記観測空間内に設定された基準方位に対する方位角の範囲とで前記窓領域を規定することを特徴とする騒音観測方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の騒音観測方法において、
前記算出ステップで算出した到来方向ベクトルと前記窓領域との位置関係に基づいて、前記観測点に到来する騒音が航空機の地上騒音であることを識別する識別ステップをさらに有する騒音観測方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−198063(P2012−198063A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61280(P2011−61280)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【特許番号】特許第5016724号(P5016724)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 社団法人日本騒音制御工学会平成22年秋季研究発表会 〔主催者名〕 社団法人日本騒音制御工学会 〔開催日〕 平成22年9月29日
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)
【Fターム(参考)】