説明

骨アンカー装置

【課題】 骨アンカー装置を提供する。
【解決手段】 骨アンカー装置は、骨に係止するための軸および頭部を備えるアンカー要素と、上端部および底端部を有する受け部と、ロッドを受けるための凹部と、上端部から底端部の方向に延在する同軸ボアと、底端部付近で頭部を受けるための座部と、ボア内で移動可能な圧力要素と、頭部と圧力要素との間に配置され高分子材料でできた要素とを含む。骨アンカー装置は手術中の取り扱いを向上させるために設けられ、単純な態様で製造される。頭部は受け部に対して回動可能であり、圧力要素を介して頭部に圧力を加えることによって角度をなして固定することができる。圧力要素が取り得る第1の位置では、圧力要素が要素を介して頭部に予荷重力を加えて、頭部がロックされる前に摩擦によって或る角度位置で維持されるように、要素と圧力要素とが直接接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨または堆骨に安定化ロッドを係止するための骨アンカー装置に関する。骨アンカー装置は、アンカー要素と、骨アンカー要素の頭部を受け、アンカー要素に接続される安定化ロッドを受けるための受け部とを含む。アンカー要素は、受け部に回動可能に接続され、受け部に配置される圧力要素を介して頭部に圧力を加えることによって角度をなして固定することができる。頭部は、閉リングを収容する凹部を含む。この閉リングは、圧力要素が、受け部内で、頭部をロックしてしまうことなくリングを介して摩擦によってこの頭部を締め付けるような位置を取ることができるように、頭部および圧力要素と協働するよう構成される。
【背景技術】
【0002】
US2004/0267264A1は、多軸固定装置を開示する。多軸骨ねじは係合部材を含む。当該係合部材は、球形の頭部と受け部材との間に十分な摩擦をもたらすよう適合され、これにより、球形の頭部が受け部材内でロックされる前に、軸を所望の角度方向に維持することが可能となる。係合部材は、たとえば、頭部のまわりにある開いたスナップリングによって実現されるか、圧縮キャップに設けられて球形の頭部と摩擦によって係合するばね部材によって実現されるか、または、圧縮キャップに設けられたスロットによって実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2004/0267264A1
【特許文献2】US2008/0269809A1
【特許文献3】WO/2009/132110A1
【特許文献4】US2006/0173456A1
【特許文献5】US7,867,258B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、手術中の取り扱いの改善が可能であり、かつ、費用効率良く単純な態様で製造することのできる骨アンカー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の骨アンカー装置によって解決される。さらなる展開例が従属請求項に記載される。
【発明の効果】
【0006】
骨アンカー装置によれば、頭部をロックすることなく、頭部を受け部に対して所望の角度位置で一時的に締め付けることができる。これにより、受け部を調整可能な角度位置で保持することが可能となる。この位置で、圧力要素がリングを介して頭部に予荷重を加える。この場合、頭部はロックされないが、その自由な回動が摩擦によって防止される。頭部が一時的に締め付けられると、受け部をロッドに位置合わせしたり、ロッドを挿入したりすることが容易になる。また、ロッドが既に受け部に挿入されていれば、受け部内で頭部を十分に緩めなくてもロッドを調整することができる。最後に、圧力要素を頭部に押当てて、頭部をその所望の部分にロックすることができる。
【0007】
加えて、骨アンカー装置は、単純設計されたほんのわずかの部品しか備えていない。
さらに、既に製造された骨アンカー装置の頭部は、この発明に従ったシステムへと容易に改良することができる。頭部のまわりの溝と、この溝によって収容される閉リングとを設けるだけでよい。
【0008】
骨アンカー装置の部品は、順次、低価格で製造することができる。
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面によって実施例の記載から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】骨アンカー装置を示す分解斜視図である。
【図2】図1の骨アンカー装置を組立てられた状態で示す図である。
【図3a】骨アンカー要素を示す斜視図である。
【図3b】ねじの中心軸を含む面に沿った骨アンカー要素の断面図である。
【図3c】骨アンカー要素を示す上面図である。
【図4a】リングを示す斜視図である。
【図4b】リングを示す側面図である。
【図4c】リングを示す断面図である。
【図4d】リングを示す上面図である。
【図5a】頭部を最終的にロックする前の、組立てられた状態の骨アンカー装置を示す断面図である。
【図5b】図5aの拡大部分を示す図である。
【図6a】骨アンカー要素およびリングを示す分解断面図である。
【図6b】骨アンカー要素およびリングを組立てられた状態で示す断面図である。
【図6c】図6bの拡大部分を示す図である。
【図6d】骨アンカー要素、リングおよび圧力要素を組立てられた状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1、図2および図5aに示される第1の実施例に従った多軸骨アンカー装置1は、ねじ軸3および頭部4を有するねじ部材2の形状をした骨アンカー要素2を含む。頭部4の自由端には、ねじ軸3を骨に挿入するための工具(図示せず)と係合させる工具凹部4aを備える。骨アンカー装置1はさらに、ロッド20にねじ部材2を接続するための受け部5を含む。圧力要素6は頭部4の上の受け部5に配置される。ロッド20を受け部5に固定し、頭部4に圧力を加えるために、ロック装置、たとえば受け部5と協働する内ねじ7、が設けられる。
【0011】
図3a、図3bおよび図3cに図示のとおり、頭部4は球台の形状であり、平坦な自由端と、この平坦な自由端に工具凹部4aとを有する。環状溝41は、自由端に向かう方向で最大直径を有する部分の上方の位置にある。図6aから分かるように、環状溝41の断面は、開いている側部を有する実質的に台形である。環状溝41はリング8を収容する役割を果たす。環状溝41の底は、ねじ部材2の中心線と実質的に同軸である。環状溝41の底の端縁には丸みを付けることができる。頭部4の自由端は平坦な形状とは異なる形状であってもよい。
【0012】
受け部5は実質的に円筒形の1片の部品であり、上端部51および底端部52を有する。上端部51から底端部52に延在する通路は、同軸のボア53と、その後に続きねじ部材2の頭部4を受けるための座部54とによって形成される。座部54は、底端部52に開口部55を有し、そこを通ってねじ部材2の軸3が延在する。座部54は、球状に形成されているように図示されるが、先細になっていてもよく、または、受け部5に対して回動可能となるように頭部4を受けることができるのであれば他の如何なる形状であってもよい。上端部51には実質的にU字型の凹部56が設けられており、これにより、ロッド20を受けるためのチャネルの側壁をなす2本の自由な脚部57および58が形成されている。内ねじ7と協働するための雌ねじ59が脚部に設けられる。
【0013】
受け部5はさらに、上端部51からの距離よりも短い距離だけ底端部52から離れた箇所に、圧着穴を形成する2つの止まり穴500a、500bを備える。これらの止まり穴500a、500bは、以下に記載する態様で圧着するために、外面から延在し、同軸ボア53の内壁から距離を空けた位置まで延びている。止まり穴500a、500bは、互いから180°オフセットして設けられ、U字型の凹部56によって形成されるチャネルに対して90°で配置される。止まり穴500a、500bは、同軸ボア53のボア軸に対して垂直に位置合わせされている。受け部5のうち、止まり穴500a、500bの閉じられた端部と同軸ボア53との間に位置する部分は、変形可能な部分として構成される。
【0014】
圧力要素6は一部品に形成される。これは実質的に円筒形の構造を有し、受け部5のボア53内で軸方向に移動できるような外径を有する。圧力要素6は上端部61および底端部62を有する。圧力要素6が受け部5に挿入されると、底端部62はねじ要素2の頭部4に面する。上端部61にはU字型の凹部64が設けられ、これにより、2本の自由な脚部65および66が形成されて、ロッド20を受けるためのチャネルが形成される。さらに、圧力要素6は、工具(図示せず)でねじ頭部4にアクセスするための同軸ボア67を含む。図1および図2に図示のとおり、圧力要素6は、受け部5のU字型の凹部56と圧力要素6のU字型の凹部64とが位置合わせされるように受け部5に配置される固体の部材である。
【0015】
圧力要素6は、受け部5の圧着穴500a、500bに対応する2つの圧着穴を含む。この場合、圧着した後、圧力要素6は、回転方向に位置合わせされた位置であって、圧力要素6が頭部4にわずかな予荷重を加えることのできる軸方向位置で、保持される。
【0016】
図4aから図4dはリング8を示す。図4cに図示のとおり、リング8は閉じられており、変形していない状態では実質的に円形の断面を有する。リング8は、弾性変形可能なプラスチック材料、たとえば生体適合性のあるエラストマーでできている。エラストマーとして、たとえば、UHMWPE(Ultra-high-molecular-weight polyethylene:超高分子量ポリエチレン)、シリコン、PCU、SIBS、またはそれらの組合せを用いることができる。骨アンカー装置1の他の部分は、身体適合性のある材料、たとえばチタンなどの身体適合性のある金属、たとえばニチノールなどの身体適合性のある金属合金、もしくは、たとえばPEEKなどの身体適合性のあるプラスチック材料、またはそれらの組合せから製造される。
【0017】
リング8は、このリングが環状溝41に挿入されても実質的に変形せず、環状溝41からわずかに突出るような大きさにされる。環状溝41の断面が台形であるので、環状溝41は、圧力要素6によってリング8に荷重が加えられたときにリング8が変形するための空間を提供する。
【0018】
図5aに示されるように組立てられた状態では、頭部4は座部54に位置し、圧力要素6は頭部4の上に配置される。圧力要素6の自由な脚部65および66は、ロッドが挿入されてチャネルの底に載ったときに自由な脚部65および66がロッド20の上方には延在しないような高さを有するよう構成される。図5aおよび図5bに図示される圧力要素6は、圧着穴500a、500b、600a、600bを介して圧着することにより圧力要素6と受け部5とを接続することによって規定される第1の位置を取ることができる。この場合、リング8と圧力要素6とは、圧力要素6がリング8を介して頭部4に予荷重力を加え、これにより、頭部4がロックされる前に摩擦によって或る角度位置で維持されるように、協働する。この力は、内ねじ7、ロッド20、圧力要素6およびリング8を介して頭部4に加えられる。実質的に円形の断面を有するリング8は、その断面がこの第1の位置では実質的に楕円形になるように変形する。この変形により、リング8が圧力要素6に対して反力を加え、これにより、頭部4が角度位置で維持される。この位置は、摩擦力に打勝つような力をねじ部材2に加えることによって調整することができる。圧力要素6はまた、内ねじ7を捩じ込むことによって頭部4がロックされる第2の位置を取ることができる。さらに、圧力要素6は、頭部4が自由に回動することのできる第3の位置を取ることができる。これらの位置では、圧力要素6はリング8と実質的に摩擦接触しない。リング8の大きさおよび環状溝41の大きさを選択することによって、所望の摩擦力を達成することができる。
【0019】
図6a〜図6dは、骨アンカー要素2のアセンブリを示す。リング8は、図6bおよび図6cに図示のとおり、骨アンカー要素2の頭部4に装着され、環状溝41に収容される。図6dは、圧力要素6が搭載されている骨アンカー要素2を示す。圧力要素6を軸3の方向に下方へ移動させると、頭部4が摩擦によって角度位置で維持される。
【0020】
使用時には、まず、骨アンカー装置1は予め組立てられた状態で設けられる。この状態では、圧力要素6は、頭部4が摩擦によって一時的に締め付けられている第1の位置にある。通常、複数個の骨アンカー装置1が必要である。次いで、ねじ部材2が骨または堆骨に捩込まれる。次いで、各々の受け部5がロッド20を挿入するための正確な向きになるまで、締め付け力に打勝つような力を加えることによって受け部5を回動させる。一時的に締め付けているために、受け部5はこの角度位置で保持される。骨アンカー装置1を接続するロッド20が挿入され、内ねじ7が締められると、圧力要素6が下方へと移動して頭部4をロックし、これにより、受け部5に対するねじ部材2の角度位置が固定される。次いで、ロッド20が内ねじ7によって固定される。
【0021】
アンカー要素については、あらゆる種類のアンカー要素を用いることができ、受け部と組合わせることができる。これらのアンカー要素は、たとえば、長さや直径の異なるねじ、中空ねじ(cannulated screws)、さまざまなねじ形状を有するねじ、釘などである。頭部と軸とは、互いに接続可能な別個の部品であってもよい。
【0022】
さまざまな種類の受け部を、特にこのようなさまざまなロック装置と用いることもできる。たとえば、ロッドおよび頭部を同時にロックする内ねじなどの1部品からなるロック装置の代わりに、外ねじおよび内ねじを備えた2部品からなるロック装置を用いることもできる。この場合、圧力要素は、脚部がロッドの上方に延在しているU字型の凹部を有する。2部品からなるロック装置では、頭部およびロッドを独立して固定することができる。さらに、外側ナット、外側キャップ、バヨネット式ロック装置なども可能である。受け部の形状は、図示される実施例に限定されない。たとえば、受け部は、ねじ部材の一方側への回動角度をより大きくすることができるように非対称な端部分を有していてもよい。
【0023】
変形例においては、環状溝は、頭部にではなく、リングを収容するための受け部の内壁に設けられる。リングと頭部とは、圧力要素がリングを介して頭部に予荷重力を加えて、頭部4が、ロックされる前に摩擦によって或る角度位置で維持されるように、協働する。
【0024】
さらなる変形例においては、たとえばPEEKなどの可撓性のない材料でできたリングが設けられる。このようなリングは、摩擦接触を確実にするために頭部の表面に比べてわずかに大きい寸法を有していればよい。さらに、リングの断面はまた、実質的に楕円形、長方形などであってもよく、または、リングの円周に応じて異なっていてもよい。
【0025】
また、単一のリングを用いる代わりに、頭部または圧力要素の環状溝に配置される1つまたはいくつかの可撓性のある要素を用いることもできる。これらの要素またはリングの断面もそれぞれ異なっていてもよい。
【0026】
さらなる変形例においては、受け部は、底端部からねじ要素を差込むことを可能にするよう構成される。
【符号の説明】
【0027】
1 骨アンカー装置、2 骨アンカー要素、3 ねじ軸、4 頭部、5 受け部、6 圧力要素、7 内ねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨アンカー装置(1)であって、
骨に係止するための軸(3)および頭部(4)を備えるアンカー要素(2)と、
上端部(51)および底端部(52)、ロッド(20)を受けるための凹部(56)、上端部(51)から底端部(52)の方向に延在する同軸ボア(53)、ならびに、底端部(52)付近で頭部(4)を受けるための座部(54)を備える受け部(5)と、
ボア(53)内で移動可能な圧力要素(6)と、
頭部(4)と圧力要素(6)との間に配置され高分子材料でできた要素(8)とを含み、
頭部(4)は、受け部(5)に対して回動可能であり、圧力要素(6)を介して頭部(4)に圧力を加えることによって角度をなして固定することができ、
圧力要素(6)は第1の位置を取ることができ、前記第1の位置では、圧力要素(6)が要素(8)を介して頭部(4)に予荷重力を加えて、頭部(4)が、ロックされる前に摩擦によって或る角度位置で維持されるように、要素(8)と圧力要素(6)とが直接接触している、骨アンカー装置(1)。
【請求項2】
圧力要素(6)は、頭部(4)がロックされるように頭部(4)を押圧する第2の位置を取ることができる、請求項1に記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項3】
要素(8)は閉リング(8)である、請求項1または2に記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項4】
頭部(4)は、要素(8)を収容することができるように形成された溝(41)を備える、請求項1から3のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項5】
頭部(4)は球形であり、自由端を有し、溝(41)は、頭部(4)のうち自由端に向かう方向で最大直径を有する部分の上方の位置にある、請求項4に記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項6】
圧力要素(6)は、要素(8)を収容することができるように形成された溝(41)を備える、請求項1から3のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項7】
圧力要素(6)が第1の位置にある場合、要素(8)と圧力要素(6)との間で摩擦嵌合が達成されるように、要素(8)が環状溝(41)に対してわずかに大きな寸法を有する、請求項1から6のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項8】
要素(8)はエラストマー材料でできている、請求項1から7のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項9】
要素(8)の断面は、変形していない状態では実質的に円形である、請求項1から8のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。
【請求項10】
ロッド(20)を固定するための固定要素(7)が設けられる、請求項1から9のいずれかに記載の骨アンカー装置(1)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図4c】
image rotate

【図4d】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図6c】
image rotate

【図6d】
image rotate


【公開番号】特開2012−130697(P2012−130697A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278133(P2011−278133)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【出願人】(511211737)ビーダーマン・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディートゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】BIEDERMANN TECHNOLOGIES GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】