説明

骨固定器具

【課題】簡易な構成で、骨折した骨を安定して固定することが可能な骨固定器具を提供することを目的とする。
【解決手段】骨固定器具1は、筒状体2と押棒3とを備える。筒状体2は、筒部21と当該筒部21に連続して当該筒部21の軸方向に延びる複数の分岐部22とを有する。また、押棒3は、筒状体2に挿入可能である。また、分岐部22は、筒状体2の筒径方向内側を向く面から突出する突部22aを有する。当該押棒3を筒状体2に挿入することで突部22aが筒径方向外側に付勢され、分岐部22が筒径方向外側に広がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折部を固定するための骨固定器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折部を固定するための骨固定器具として、特許文献1に記載の固定装置が知られている。この固定装置における骨接合用固定要素は、骨に挿入可能な前方柄部分と他の結合要素に挿入可能な後方柄部分とを有する円筒形の柄を備える。当該柄には、前方柄部分に長手軸線と平行に延びる溝孔が形成されている。そして、当該溝孔から半径方向外側へ円弧状に弾性曲げ可能な固定ワイヤが導入される。この固定ワイヤは、前端を柄の前端部分に固定され、後端を柄内に配置されるスピンドルの支承部材に固定される。そして、スピンドルをねじ込むことにより、当該支承部材は、柄の前端部分との間隔が狭まるように摺動し、これにより固定ワイヤは、前記溝孔から筒外側に張り出すように曲げられる。
この構成によると、骨折した股関節頭を大腿骨の主部に固定する場合においては、円筒形の柄の前方柄部分を骨折した股関節頭に挿入し、スピンドルをねじ込んで固定ワイヤを曲げることにより、当該前方柄部分を股関節頭の海綿質内に固定することができる。尚、円筒形の後方柄部分は、大腿骨の主部に固定された内部板に対して固定される。これにより、股関節頭が大腿骨の主部に固定される。
【0003】
【特許文献1】特表2003−531654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の骨接合用固定要素は、溝孔が形成された円筒状の柄、固定ワイヤ、摺動可能な支承部材を有するスピンドル等構成が複雑であり、製造時の加工、組立等が困難であり製造コストが増加する虞がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、簡易な構成で、骨折した骨を安定して固定することが可能な骨固定器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る骨接合用固定器具は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明に係る骨固定器具は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る骨固定器具における第1の特徴は、筒部と当該筒部に連続して筒軸方向に延びる複数の分岐部とを有する筒状体と、前記筒状体に挿入可能に形成された押棒と、を備え、前記分岐部は、筒径方向内側を向く面から突出する突部を有し、前記押棒を前記筒状体に挿入することで前記突部が筒径方向外側に付勢され、前記分岐部が筒径方向外側に広がることである。
【0008】
この構成によると、筒状体の分岐部を骨折した骨に挿入した後、押棒を当該筒状体に挿入することで分岐部を筒径方向外側に広げて骨折した骨に圧接させることができる。これにより、押棒を筒状体に挿入するという単純な動作で、骨折した骨を筒状体に対して固定することができる。更に、当該筒状体は、筒部と分岐部とを有する簡易な構成であるため、低コストで当該構成を実現できる。
【0009】
また、本発明に係る骨固定器具における第2の特徴は、第1の特徴を備える骨固定器具において、筒状部材の一端から筒軸方向中間部まで延びるスリットを、筒周方向において複数形成することにより前記筒状体が形成されていることである。
【0010】
この構成によると、押棒を挿入することで分岐部が筒径方向外側に広がる筒状体の製造が容易になる。
【0011】
また、本発明に係る骨固定器具における第3の特徴は、第1の特徴又は第2の特徴を備える骨固定器具において、前記押棒は、前記筒状体に挿入可能な筒型押棒部と、先端部が先細りのテーパ状に形成され、当該先端部が前記筒型押棒部の一端から突出するように当該筒型押棒部に挿入可能で、且つ、挿入した状態から抜出可能な芯部と、を有することである。
【0012】
この構成によると、芯部の先端部が先細りのテーパ状に形成されているため、筒型押棒部に当該芯部を挿入した状態の押棒を、筒状体に挿入し易い。即ち、押棒が筒状体に押し込まれたときに、分岐部の内面の突部は、芯部の先端部のテーパ状に形成された外面に沿うように当該押棒に対して相対移動して、筒型押棒部の外周面上まで乗り上げる。そのため、小さな力で押棒を筒状体に押し込むことができる。
さらに、押棒を筒状体に押し込んで分岐部を広げた後、押棒の筒型押棒部から芯部を抜出することで、当該筒型押棒部の筒孔を介して、筒状体が挿入された骨の内部に、骨補填材を注入することができる。これにより、骨密度の向上を図ることが可能になる。
【0013】
また、本発明に係る骨固定器具における第4の特徴は、第1〜3の特徴のいずれかを備える骨固定器具において、前記分岐部は、前記筒状体の筒径方向外側を向く面が筒軸方向と平行に延びる滑らかな面として形成され、前記押棒が挿入されると筒径方向外側に弾性的に変形することである。
【0014】
この構成によると、骨折した骨に挿入して固定された筒状体を当該骨から容易に抜き取ることが可能である。即ち、まず、筒状体に挿入された押棒を当該筒状体から抜出する。その後、筒状体を骨から引き抜くことになるが、筒径方向外側に弾性的に広がった状態の分岐部は、弾性回復力により筒径方向内側に窄まるように変形しながら引き出される。そのため、分岐部が広がったままの状態で筒状体を引き抜く場合に比べ、小さな力で引き抜くことが可能である。更に、分岐部における筒径方向外側を向く面が滑らかな面として形成されているので、分岐部が抜出方向に滑り易く、より小さな力で引き抜くことが可能である。
【0015】
また、本発明に係る骨固定器具における第5の特徴は、第1〜4の特徴のいずれかを備える骨固定器具において、大腿骨頚部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するために用いられ、前記遠位部側の骨に固定可能に構成され、前記筒状体を保持する保持機構を更に備え、前記保持機構は、前記近位部側の骨内に挿入された前記筒状体に対して前記押棒を挿抜できるように、当該筒状体を保持することである。
【0016】
この構成によると、近位部側の部分の骨内に挿入された状態で保持機構により保持される筒状体に押棒を挿入することで、当該近位部側の部分を当該筒状体に対して固定することができる。そして、当該保持機構を遠位部側の部分に固定することで、当該筒状体及び当該保持機構を介して、大腿骨の近位部側の部分を遠位部側の部分に対して固定することができる。これにより、大腿骨頚部骨折時における骨の固定が容易になる。
【発明の効果】
【0017】
押棒を筒状体に挿入するという単純な動作で、骨折した骨を筒状体に対して固定することができる。更に、当該筒状体は、筒部と分岐部とを有する簡易な構成であるため、低コストで当該構成を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る骨固定器具1の部品を示す斜視図である。
図2は、本発明の実施形態に係る骨固定器具1の部品を示す断面または部分断面の模式図である。尚、図2において筒状体2のX−X断面模式図を併せて示す。
図1及び図2に示すように、骨固定器具1は、筒状体2と、当該筒状体2に挿入可能な押棒3とを有する。押棒3は、当該押棒3の外周部を形成する筒型押棒部4と、当該筒型押棒部4に挿入される芯部5とを有する。これらの部品には、チタン合金、ステンレス鋼等、生体適合性を有する材料が用いられる。
【0020】
筒状体2は、筒状に形成された筒部21と当該筒部21の端部に連続して当該筒部21の軸方向に延びる8本の分岐部22とを有する。尚、筒部21と分岐部22とは一体的に形成されている。本実施形態においては、筒状部材に筒軸方向の中間部まで延びるスリット22bを当該筒状部材の筒周方向において等間隔に8本形成することにより、8本の分岐部22が形成される。
【0021】
筒部21は、外周面に段部21aが形成されており、基端側(分岐部22側とは逆側)の筒外径が分岐部22側に比べて拡径している。また、筒部21は、段部21aよりも基端側において、内径が拡径するとともに雌ねじが螺刻された雌ねじ部21bを有している。
【0022】
8本の分岐部22は、それぞれ、当該分岐部22における筒軸方向中間部に筒径方向内側に向かって突出する突部22aを有している。そして、8本の分岐部22の集合として筒状に形成される分岐集合部23は、筒軸方向において、突部22aよりも先端側(筒部21とは逆側)の筒内径が、筒部21側の内径(図2においてd1で示す)より小さくなるように形成されている。尚、当該分岐集合部23の突部22aの頂部における内径(図2においてd2で示す)が筒状体2の筒軸方向において最も小さい内径となる。また、当該分岐集合部23における、突部22aよりも筒部21側の、当該筒部21に連続する部分の内径及び外径は、筒部21における段部21aよりも分岐部22側の部分と同径である。
【0023】
押棒3は、図1及び図2に示すように、筒型押棒部4と芯部5とを有する。図1及び図2においては、押棒3を構成する筒型押棒部4と芯部5とが分離した状態を示している。
【0024】
筒型押棒部4は、先端に先細(先端に向かって筒外径が小さくなる形状)のテーパ状部分4aが形成された筒状部材である。当該筒型押棒部4は、外径(非テーパ部分の外径)が、筒状体2における筒部21の内径d1よりも小さく、且つ、分岐集合部23の突部22aの頂部における内径d2よりも大きくなるように形成される。尚、筒型押棒部4は、基端部(テーパ状部分4aと逆側の端部)において、内周面に雌ねじが螺刻された雌ねじ部4bを有する。
【0025】
芯部5は、先端に先細(先端に向かって外径が小さくなる形状)のテーパ状部分5aが形成された棒状部材である。当該芯部5は、外径(非テーパ部分の外径)が、筒部21の内径よりも小さく、且つ、分岐集合部23の突部22aの頂部における内径d2よりも大きくなるように形成される。
また、芯部5の軸方向に対するテーパ状部分5aのテーパ面の傾きは、筒型押棒部4の軸方向に対するテーパ状部分4aのテーパ面の傾きと略同じになるように形成されている。尚、本実施形態においては、当該テーパ状部分4aの軸方向に対する傾きの角度は、約15°である。
また、テーパ状部分5aの先端部の外径(図2においてd3で示す)は、分岐集合部23の突部22aの頂部における内径d2よりも小さくなるように形成される。尚、芯部5の基端面(テーパ状部分5aと逆側の端面)には、内周面に雌ねじが螺刻されたねじ穴5bが形成されている。
【0026】
次に、骨固定器具1の使用方法について説明する。
図3〜図8は、大腿骨頚部にて骨折が発生した際に、遠位部側の部分100b(骨幹部)に対して近位部側の部分100a(骨頭部)を固定するための、骨固定器具1の使用方法を説明するための模式図である。
図3は、骨固定器具1を大腿骨に挿入した状態であり、当該骨固定器具1で大腿骨の骨折部が固定される前の状態を示す全体模式図である。
図4〜図7は、骨固定器具1で大腿骨の骨折部が固定されるまでの過程を示す筒状体2近傍部の拡大断面模式図である。尚、図4〜図7において、筒状体2近傍部のY−Y断面模式図を併せて示す。
図8は、骨固定器具1で大腿骨の骨折部が固定された状態を示す全体模式図である。
【0027】
大腿骨頚部において骨折した近位部側の部分100aを遠位部側の部分100bに対して固定する手術は、以下の(1)〜(6)に示す手順で行われる。
ここで、本実施形態における骨固定器具1は、筒状体2を保持可能であるとともに大腿骨の遠位部側の部分100bに固定可能な保持機構6(図3、図8参照)を備えている。この保持機構6は、図8に示すように、骨ねじ6aにより遠位部側の部分100bに沿って固定される長尺板状のプレート部7と、当該プレート部7の端部に設けられ、筒状体2を貫通させて保持するための貫通孔8aを有するスリーブ部8とを一体的に備えている。スリーブ部8には、先端部の内周面において、径方向内側に突出する突部8bが設けられている。
【0028】
(1)骨折部を固定する手術においては、まず、大腿骨の遠位部側の部分100bの側面から骨折した近位部側の部分100aにかけて、骨固定器具1を挿入するための下穴が形成される。その後、図3に示すように、当該下穴の遠位部側の部分100bに保持機構6のスリーブ部8が挿入されるとともに、骨固定器具1の筒状体2が当該スリーブ部8の貫通孔8aを通って近位部側の部分100aまで挿入される。このとき、筒状体2の挿入方向への移動は、筒状体2の段部21a(図1及び図2参照)が、スリーブ部8の先端部に形成された突部8bに当接する位置で規制される。
尚、筒状体2を挿入する際には、筒状体2の雌ねじ部21bに筒状に形成された押込用補助部材11の一端が螺合される(図4参照)。これにより、当該押込用補助部材11の位置を調整することで、筒状体2のスリーブ部8内における位置を調整することができる。
【0029】
(2)筒状体2を骨内に挿入した後、図4に示すように、押込棒12により、押棒3(筒型押棒部4内に芯部5が挿入されたもの)が、筒状体2内の先端側に向かって押込まれる。尚、当該押棒3の押込み時において、押込用補助部材11の位置を所定の位置に固定することで、当該筒状体2の位置がずれることを防止できる。
【0030】
この押込棒12は、基端側部分の外径が筒型押棒部4の外径と略同径となるように形成され、先端側において筒型押棒部4の内径よりも小さい外径となるように形成された縮径部12aを有している。そして、当該押込棒12が押し込まれたとき、縮径部12aが筒型押棒部4内に挿入され、当該縮径部12aの端部で、芯部5の端部が付勢される。また、当該縮径部12aの基端側に形成される筒型押棒部4の端部に対面する付勢面12bにより当該筒型押棒部4の端部が付勢される。これにより、筒型押棒部4と芯部5とは軸方向において所定の位置関係を保ちつつ押し込まれる。本実施形態においては、当該所定の位置関係は、筒型押棒部4のテーパ状部分4aと芯部5のテーパ状部分5aとが連続するような位置関係である。
【0031】
押込棒12によって押棒3が筒状体2の先端付近まで押込まれると、分岐部22の突部22aは、テーパ状部分5aに沿って押棒3に対して相対移動し、続いてテーパ状部分4aに沿って相対移動し、筒型押棒部4の外周面まで乗り上げる。その結果、図4に示すように、分岐部22が筒径方向外側に広がるように曲げ変形する。尚、筒状体2は、弾性的に変形可能な金属により形成されており、当該曲げ変形は弾性変形の範囲内の変形である。
【0032】
このように、分岐部22が筒径方向外側広がることにより、筒状体2の抜出方向(挿入方向とは逆方向)への移動が規制される。そして、分岐部22は、骨内の海綿質に対して、当該海綿質を圧縮するような力を加えながら、当該海綿質と接触する。これにより、筒状体2が大腿骨の近位部側の部分100aに対して固定される。
【0033】
(3)筒状体2が近位部側の部分100aに固定された後、保持機構6は骨螺子6aで遠位部側の部分100bに固定される(図8における保持機構6の部分を参照)。
【0034】
(4)保持機構6が遠位部側の部分100bに固定された後、図5に示すように、筒型押棒部4内から芯部5が引き抜かれる。本実施形態においては、芯部5のねじ穴5bに、芯抜用補助部材13の先端が螺合され、当該芯抜用補助部材13を軸方向に引き抜くことにより、芯部5が筒型押棒部4内から引き抜かれる。
【0035】
(5)筒型押棒部4から芯部5を抜いた後、図6に示すように、筒状体2の先端側に、筒型押棒部4の筒孔を介して骨補填材14が充填される。骨補填材14は、市販の医療用アパタイト顆粒、TCP顆粒、リン酸カルシウム系ペースト人工骨、粉砕した自家骨・他家骨、脱灰凍結乾燥骨顆粒などの顆粒状又は液体状の材料を適宜用いることができる。当該骨補填材14が骨折した近位部側の部分100aの髄内に充填されることにより、骨密度を大きくすることができる。特に骨粗鬆症を発症している場合は、骨密度が小さいと骨固定器具1による固定が不十分になる虞があるため有効である。また、図7におけるY−Y断面模式図に示すように、一の分岐部22と、これに隣接する他の分岐部22との間に骨補填材14が充填されるため、分岐部22と骨補填材14との接触面積が大きくなる。これにより、大腿骨の近位部側の部分100aが筒状体2に対して強固に固定される。
【0036】
(6)筒状体2の先端側に骨補填材14を充填した後、図7に示すように、当該骨補填材14が、逆流しないように、逆流防止棒15が筒型押棒部4内に挿入される。逆流防止棒15の先端部15aは拡径して形成され、当該先端部15aの外径が筒型押棒部4の内径と略同径となるように形成されている。これにより、先端部15aにおける外周面と、筒型押棒部4の内周面との隙間から、骨補填材14が漏れることを防ぐことができる。また、逆流防止棒15の基端部15bは、拡径して形成され、外周に雄ねじ部が形成されている。逆流防止棒15は、当該基端部15bが筒型押棒部4の雌ねじ部4bに螺合されることにより当該筒型押棒部4に対して固定される。尚、基端部15bの端面には六角穴15cが形成され、この六角穴15cを用いて逆流防止棒15を軸回りに回転させることができる。
筒状体2の基端部の雌ねじ部21bには抜止プラグ16がねじ込まれ、これにより筒型押棒部4の挿入方向とは逆方向への移動が拘束される。尚、抜止プラグ16の端面には六角穴16aが形成され、この六角穴16aを用いて当該抜止プラグ16を軸回りに回転させることができる。
【0037】
以上(1)〜(6)で説明した手順で、骨固定器具1が大腿骨の近位部側の部分100aに固定される。これにより、図8に示すように、骨折した大腿骨の近位部側の部分100aを、遠位部側の部分100bに固定することができる。
なお、後述する「骨折部位が治癒した後に本骨固定器具1を抜出する」という付加的手術を実施しない場合には、大腿骨の近位部側の部分100aと筒状体2の先端側部分との固定をより確実にするため、前記筒状体2の筒径方向外側を向く面に、生体骨との固着に適した表面処理を施しても良い。そのような表面処理としては、人工関節や人工歯根において生体骨との固着を高めるために用いられている表面処理を用いることが出来、例えば、金属の溶射により数ミクロンから数百ミクロンのサイズの凹凸を表面に付加するもの、切削加工などにより数ミリサイズの凹凸を付加するもの、リン酸カルシウム材料等の生体活性物質をコーティングするもの等、及びこれらの組合せを用いることが出来る。
【0038】
次に、骨折部位が治癒した後に、近位部側の部分100aに挿入された筒状体2を抜くための抜出方法について図9及び図10を用いて説明する。
【0039】
(1)図9に示すように、抜止プラグ16(図7参照)を外して、筒型押棒部4の基端の雌ねじ部4bに抜出用補助部材17の先端を螺合させる。そして、当該抜出用補助部材17を軸方向(図9において矢印で示す方向)に引っ張って移動させることにより、筒型押棒部4及び当該筒型押棒部4に挿入された逆流防止棒15を引き抜くことができる。
【0040】
(2)筒型押棒部4及び逆流防止棒15を引き抜いた後、図10に示すように、筒状体2の基端の雌ねじ部21bに、抜出用補助部材18の先端を螺合する。そして、当該抜出用補助部材18を軸方向(図10において矢印で示す方向)に引っ張って移動することにより、筒状体2が大腿骨の近位部側の部分100aから抜出される。このとき、筒状体2の分岐部22が弾性回復する。これにより、筒状体2が抜出方向に移動するにつれて、分岐集合部23(分岐部22の集合体)は、先端部の外径が小さくなるように変形する。即ち、当該分岐集合部23が徐々に窄まりながら引き抜かれることになる。したがって、小さな力で筒状体2を引き抜くことができる。特に、本実施形態においては、分岐部22の筒径方向外側を向く面が滑らかな面として形成されているので、容易に引き抜くことができる。
【0041】
尚、本実施形態においては、筒径方向外側を向く面と同じように、分岐部22における突部22aよりも先端側の筒径方向内側を向く面が、滑らかな面として形成されている。そのため、骨補填材14との摩擦抵抗が少なく、より小さな力で筒状体2を引き抜くことができる。
【0042】
また、別途、抜出用補助部材18を用意して使用する場合に限らない。例えば、当該抜出用補助部材18の代わりに、筒状体2の位置ズレ防止に用いた押込用補助部材11を用いて、図4等に示すように、当該押込用補助部材11を筒状体2の部21bに螺合させて、当該押込用補助部材11を引っ張って筒状体2を抜出してもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る骨固定器具1は、筒部21と当該筒部21に連続して当該筒部21の軸方向に延びる8本の分岐部22とを有する筒状体2を備える。また、筒状体2に挿入可能に形成された押棒3を備える。この分岐部22は、筒状体2の筒径方向内側を向く面から突出する突部22aを有している。そして、押棒3を筒状体2に挿入することで押棒3の外周面により突部22aが筒径方向外側に付勢され、分岐部22が筒径方向外側に広がるように構成されている。
【0044】
この構成によると、筒状体2の分岐部22を、骨折した大腿骨の近位部側の部分100aに挿入した状態で、押棒3を筒状体2に挿入することで、分岐部22が筒径方向外側に広がって当該骨折した骨内の海綿質に圧接する。これにより、押棒3を筒状体2に挿入するという単純な動作で、骨折した骨折した大腿骨の近位部側の部分100aを筒状体2に対して固定することができる。更に、当該筒状体2は、筒部21と分岐部22とを有する簡易な構成であるため、骨固定器具1の製造コストを低下できる。
【0045】
また、筒状体2は、所定の筒状部材に対して、一端から筒軸方向中間部まで延びるスリット22bが、筒周方向に8本形成されたものである。
【0046】
この構成によると、押棒3を挿入することで分岐部22が筒径方向外側に広がる筒状体2の製造が容易になる。
【0047】
また、骨固定器具1において、押棒3は、筒状体2に挿入可能な筒型押棒部4と、先端部に先細りのテーパ状部分5aを有する芯部5と、を備える。当該芯部5は、先端部が筒型押棒部4の一端から突出するように筒型押棒部4に挿入可能である。また、筒型押棒部4に挿入された当該芯部5は、当該筒型押棒部4から抜出可能である。
【0048】
この構成によると、芯部5の先端部が先細りのテーパ状に形成されているため、筒型押棒部4の一端からテーパ状部分4aを突出させるように芯部5を筒型押棒部4に挿入して、当該筒型押棒部4及び芯部5を筒状体2に挿入することで、テーパ状部分4aが形成されていない場合に比べ、小さな力で当該筒型押棒部4及び芯部5を筒状体2に挿入することができる。即ち、当該筒型押棒部4及び芯部5が筒状体2に押し込まれたときに、分岐部22の内面の突部22aは、芯部5のテーパ状部分5aの外周面に沿うように当該芯部5に対して相対移動して、筒型押棒部4の外周面上まで乗り上げる。そのため、小さな力で当該筒型押棒部4及び芯部5を筒状体2に挿入し、分岐部22を筒径方向外側に広げることができる。特に、本実施形態においては、筒型押棒部4にも先細りのテーパ状部分4aが形成されているため、さらに小さな力で当該筒型押棒部4及び芯部5を筒状体2に挿入することができる。
さらに上記のように分岐部22を広げた後、筒型押棒部4から芯部5を抜き取ることで、当該筒型押棒部4の筒孔を介して、筒状体2が挿入された大腿骨の近位部側の部分100aの内部に、骨補填材14を注入することができる。これにより、骨密度の向上を図ることが可能になる。
【0049】
尚、骨補填材14を充填する必要がない場合は、筒型押棒部4と芯部5とを有する押棒3の代わりに、中実の棒状に形成された押棒を用いてもよい。
【0050】
また、骨固定器具1において、分岐部22は、筒状体2の筒径方向外側を向く面が筒軸方向と平行に延びる滑らかな面として形成され、押棒3が挿入されると筒径方向外側に弾性的に変形する。
【0051】
この構成によると、骨折した大腿骨の近位部側の部分100aに挿入して固定された筒状体2を当該近位部側の部分100aから容易に抜き取ることが可能である。即ち、まず、筒状体2に挿入された押棒3を当該筒状体2から抜き取る。その後、筒状体2を骨から引き抜くことになるが、このとき筒径方向外側に弾性的に広がった状態の分岐部22は、弾性力により筒径方向内側に窄まるように変形しながら引き出される。そのため、分岐部22が広がったままの状態で筒状体2を引き抜く場合に比べ、小さな力で引き抜くことが可能である。更に、分岐部22における筒径方向外側を向く面が滑らかな面として形成されているので、分岐部22が抜出方向に滑り易く、より小さな力で引き抜くことが可能である。
【0052】
また、本実施形態においては、骨固定器具1は、大腿骨頚部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分100bに対して近位部側の部分100aを固定するための大腿骨頚部骨折用骨固定器具として使用されている。
この骨固定器具1は、遠位部側の部分に固定可能に構成され、筒状体2を保持する保持機構6を備えている。当該保持機構6は、近位部側の骨内に挿入された筒状体2に対して押棒3を挿抜できるように、当該筒状体2を保持する。具体的には、筒状体2がスリーブ部8の貫通孔8aに挿入されることで、当該筒状体2の筒径方向への動きが規制されて保持される。
【0053】
この構成によると、近位部側の部分100aに挿入された状態で保持機構6により保持される筒状体2に押棒3を挿入することで、当該近位部側の部分100aを当該筒状体2に対して固定することができる。そして、当該保持機構6を遠位部側の部分100bに固定することで、当該筒状体2及び当該保持機構6を介して、大腿骨の近位部側の部分100aを遠位部側の部分100bに対して固定することができる。これにより、大腿骨頚部骨折時における骨の固定が容易になる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、以下に示すように、変形して実施することもできる。
【0055】
(1)本実施形態に示した分岐部22の構成に限らず、例えば、図11に示すように、変形して実施してもよい。図11(a)、(b)は、それぞれ、図2におけるX−X断面模式図に相当する図である。図11(a)に示すように、筒状部材に4本のスリット122bを入れ、分岐部122を4本として構成してもよい。尚、この場合においても、分岐部122の筒径方向内側を向く面に突部122aが設けられる。尚、上述したように8本、又は4本に分岐する構成に限らず、複数の分岐部を有する構成に変形して実施することができる。
また、図11(b)に示すように、分岐部222を、断面円形状となるように形成してもよい。尚、この場合においても、分岐部222の筒径方向内側を向く面に突部222aが設けられる。
【0056】
(2)本実施形態においては、筒状体2を保持する保持機構として、大腿骨の遠位部側の部分100bにおいて骨の長手方向に沿ってプレート部7を配置して、当該プレート部7を骨ねじで固定する構成を示しているが、この場合に限定されない。
例えば、図12に示すように、遠位部側の部分100bに髄内に沿って挿入される棒状に形成されるとともに、側面で貫通する貫通孔27aが設けられた髄内棒27と、当該貫通孔27aに挿通されて固定される筒状部材としてのスリーブ28と、を備える構成であって、スリーブ28内に筒状体2を挿入して保持する構成であってもよい。
また、筒状体2とは別部材としての保持機構6を備える構成に限らず、筒状体2を直接遠位部側の部分100bに固定できる構成であってもよい。
【0057】
(3)本実施形態においては、大腿骨頚部の骨折を治療するための骨固定器具1を例示したが、この場合に限定されない。
例えば、図13(a)に示すように、骨固定器具1を、大腿骨顆部201の骨折を治療するために用いてもよい。
また、図13(b)に示すように、骨固定器具1を、上腕骨近位端202の骨折を治療するために用いてもよい。
【0058】
(4)本実施形態においては、保持機構6を骨螺子6aで固定した後に、芯部5の抜出及び骨補填材14を充填しているが、この場合に限らず、芯部5の抜出及び骨補填材14の充填を行った後に、保持機構6を骨螺子6aで固定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、骨折部を固定するための骨固定器具、例えば、大腿骨頚部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するための骨固定器具として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る骨固定器具の部品を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る骨固定器具の部品を示す断面模式図である。
【図3】骨固定器具の使用方法を説明するための全体模式図である。
【図4】骨固定器具の使用方法を説明するための拡大断面模式図である。
【図5】骨固定器具の使用方法を説明するための拡大断面模式図である。
【図6】骨固定器具の使用方法を説明するための拡大断面模式図である。
【図7】骨固定器具の使用方法を説明するための拡大断面模式図である。
【図8】骨固定器具が骨に固定された状態を示す全体模式図である。
【図9】近位部側の部分から筒状体を抜く方法の説明図である。
【図10】近位部側の部分から筒状体を抜く方法の説明図である。
【図11】本実施形態に係る分岐部の変形例を示す図である。
【図12】本実施形態に係る保持機構の変形例を示す図である。
【図13】本実施形態に係る骨固定器具を(a)大腿骨顆部の骨折、及び(b)上腕骨近位端の骨折を治療するために用いた図である。
【符号の説明】
【0061】
1 骨固定器具
2 筒状体
21 筒部
22 分岐部
22a 突部
22b スリット
3 押棒
4 筒型押棒部
4a テーパ状部分
5 芯部
5a テーパ状部分
6 保持機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部と当該筒部に連続して筒軸方向に延びる複数の分岐部とを有する筒状体と、
前記筒状体に挿入可能に形成された押棒と、
を備え、
前記分岐部は、筒径方向内側を向く面から突出する突部を有し、
前記押棒を前記筒状体に挿入することで前記突部が筒径方向外側に付勢され、前記分岐部が筒径方向外側に広がる骨固定器具。
【請求項2】
筒状部材の一端から筒軸方向中間部まで延びるスリットを、筒周方向において複数形成することにより前記筒状体が形成されている請求項1に記載の骨固定器具。
【請求項3】
前記押棒は、前記筒状体に挿入可能な筒型押棒部と、先端部が先細りのテーパ状に形成され、当該先端部が前記筒型押棒部の一端から突出するように当該筒型押棒部に挿入可能で、且つ、挿入した状態から抜出可能な芯部と、を有する請求項1又は請求項2に記載の骨固定器具。
【請求項4】
前記分岐部は、前記筒状体の筒径方向外側を向く面が筒軸方向と平行に延びる滑らかな面として形成され、前記押棒が挿入されると筒径方向外側に弾性的に変形する請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨固定器具。
【請求項5】
大腿骨頚部にて骨折が発生した際に大腿骨における骨折位置から遠位部側の部分に対して近位部側の部分を固定するために用いられ、
前記遠位部側の骨に固定可能に構成され、前記筒状体を保持する保持機構を更に備え、
前記保持機構は、前記近位部側の骨内に挿入された前記筒状体に対して前記押棒を挿抜できるように、当該筒状体を保持する請求項1〜4いずれか一項に記載の骨固定器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−46307(P2010−46307A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213522(P2008−213522)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】