説明

骨固定釘

【課題】外部の安定化ロッドまたはロッド状要素に接続することができ、ねじに匹敵する確実な固定を供しつつ公知の装置よりもさらに迅速かつ小さい力で挿入することができる骨固定装置を提供する。
【解決手段】自由端(2)を有するねじが切られていないシャフト(1,1′)と、ロッド(12)またはロッド状要素を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有する自由端と反対側の頭部(3,3′)と、シャフトを通って延在しかつ少なくとも頭部(3,3′)または自由端(2)に開口する縦長のボア(4)と、シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、シャフト(1,1′)の外側表面は骨内への釘の挿入を容易にする摺動性を高めるために被覆されまたは磨かれている骨固定釘を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨固定釘に関する。特に、縦長のボアおよび壁面に複数の開口部を有するシャフトと、ロッドを収容するためのほぼU字形の凹部を有する頭部とを備えた骨固定釘に関する。骨固定釘は、たとえば、脊柱を安定させるために隣接する脊椎の背骨に脊柱ロッドを固定するのに用いられたり、ロッドまたはロッド状要素を用いる他のいずれの種類の骨固定用途においても用いることができる。
【背景技術】
【0002】
ねじ頭部とねじが切られたシャフトとを備え、複数の半径方向のボアを介して外部と接続される軸方向のボアが設けられた骨ねじの形状の骨固定装置が、国際公開第WO01/26568号から公知である。骨セメントを当該骨ねじを介して、ねじが切られたシャフトを取囲む骨組織に注入することができる。米国特許出願公開第2004/0147929号は、外壁上の一部分に骨ねじ山を有する管状の要素と、先端部と、頭部とを備え、頭部がロッドを収容するためのU字形の凹部を有する骨固定装置を開示している。このような骨固定装置の挿入は捩じ込みによって行なわれるが、力と時間がかかる。さらに、捩じ込み中骨に力が作用するが、ある状況、たとえば古く、および/または弱い骨の場合には、この力は大き過ぎるおそれがある。
【0003】
米国特許出願公開第2004/0220575号は、外部装置を骨に固定するための骨固定要素を開示している。骨固定要素は、外部装置に接続可能な頭部と、頭部に接続されたシャフトとを備え、シャフトは、骨ねじ山を有する所定の部分と、前記所定の部分内に骨ねじが切られていない少なくとも1つの部分とを含む。骨固定装置は、骨に予め開けられた穴に押込んで、骨ねじ山による固定が可能になるように回すことができる。骨固定装置は、骨ねじ山が存在するために取外し可能である。具体的な実施例において、シャフトは、予め開けられた穴に医療用薬剤または骨セメントを導入可能にする目的で、外部に通じる半径方向のボアを有する縦長のボアを含む。
【0004】
米国特許第5,743,912号および特開平9−149906号は、縦長のボアおよび半径方向の開口部を有するシャフトと、一端にねじが切られた部分とを備える医療用インプラントを開示している。
【0005】
米国特許出願公開第2006/0089642号は、脊椎およびその他の骨用のインプラントについて記載しており、これは円筒体の壁面を貫通しかつ円筒体のボアに連通する一連の穿孔を備えた長い円筒体として形成されている。ボアは骨成長混合薬で充填してもよい。当該インプラントは、脊柱安定化ロッドとの接続には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO01/26568号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0147929号
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0220575号
【特許文献4】米国特許第5,743,912号
【特許文献5】特開平9−149906号
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0089642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ある臨床上の要件、特に骨粗鬆症の弱い骨の安定化、小児外科、頸椎外科または脳神経外科においては、外部の安定化ロッドまたはロッド状要素に接続することができ、ねじに匹敵する確実な固定を供しつつ公知の装置よりもさらに迅速かつ小さい力で挿入することができる骨固定装置が必要である。
【0008】
本発明の目的は、このような骨固定装置を提供することである。当該目的は、請求項1に記載の骨固定釘によって達せられる。従属項においてさらなる進展が示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る骨固定釘は、骨に予め設けられた芯穴への迅速な挿入を可能にする。導管が開口部内に内方成長し、その後開口部内に新たな骨が形成されることによって、および/または、骨セメントを縦長のボアを介して注入し、その骨セメントが開口部から流出して硬化し、釘を周囲の骨材料に接続することによって、確実かつ永続的な固定が実現される。
【0010】
骨固定釘は、特に最小侵襲手術(MIS)、脊椎手術、および長骨の安定化に適用可能である。
【0011】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面と組合せれば以下の詳細な実施例の説明から明らかになり、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施例に係る骨固定釘の分解斜視図である。
【図2】ロッドに接続された組立状態における図1の骨固定釘を示す図である。
【図3】第1の実施例に係る、ロッドを伴った骨固定釘のロッド軸方向から見た側面図である。
【図4】第1の実施例に係る、ロッドを伴った骨固定釘のロッド軸に沿った断面図である。
【図5】第2の実施例に係る骨固定釘の分解斜視図である。
【図6】ロッドに接続された組立状態における第2の実施例に係る骨固定釘を示す図である。
【図7】ロッドに接続された第2の実施例に係る骨固定釘のロッド軸に沿った断面図であり、血管の内方成長を示す模式図である。
【図8】医療用薬剤または骨セメントを注入するための注入装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から4を参照して、本発明の第1の実施例に係る骨固定釘を説明する。骨固定釘は、自由端2を有するシャフト1と、自由端2の反対側の頭部3とを含む。同軸ボア4は、頭部3が位置する端部から、自由端2からある距離離れたところまでシャフトを通って延在する。同軸ボア4の直径は、シャフトが破損に対して十分な強度を有するものである。
【0014】
複数の開口部5は、ボア4からシャフト1の壁面を通って外部へ半径方向に延在する。開口部の断面は、好ましくは円形などの丸みを帯びた形である。開口部は、シャフト1の一部分において均一に分布するように、たとえば互いにずれた円周方向の列のように規則的に配置してもよい。図示したように、シャフト1には、頭部3に隣接した、開口部が設けられていない部分もあり得る。開口部の数および配置は臨床上の要件によって異なる。開口部の直径は少なくとも、周囲の骨材料からの血管が内方成長でき、その後開口部に新たな骨が形成される程度の大きさである。また、開口部の直径は、骨セメントおよび/または医療用薬剤が閉塞することなく開口部から流出することができるように選択される。シャフト1の外壁には、内方成長を容易にするべく開口部の周りに皿穴領域(図示せず)を設けることもできる。開口部5はシャフト軸Mに対して半径方向に延在して示されている。しかし、開口部5のいくつかまたはすべてが、軸方向のボアに対して90度とは異なる角度を有する方向に延在してもよい。シャフトの長さは、個別の用途に適するように選択される。
【0015】
自由端2は頂点を有して形成されているが、平坦であってもよい。シャフト1は、部分6において自由端2に向かって、たとえば円錐状に先細りにすることができる。同軸ボア4は、自由端2に開口部を設けるように、シャフト1の全長にわたって自由端2まで延在してもよい。また、先端部をシャフト1と接続可能な別個の部品として設けてもよい。この場合、別個の先端部をシャフトに接続することによって同軸ボア4を閉じればよい。
【0016】
図示したとおり、シャフト1の外面にはねじが切られていない。さらに、芯穴におけるシャフトの固定性または摺動性を向上させるためにシャフト1の外面に処理を施してもよい。たとえば、固定性を向上させるために外面を粗面化したり、内方成長を促進する材料で被覆してもよい。別の例では、摺動性を向上させるために表面を被覆したり磨くなどの方法で処理して、挿入を容易にすることもできる。
【0017】
図示の実施例において、頭部3はほぼ円筒形であり、外径はシャフト1の直径よりも大きい。頭部3は、ほぼU字形の凹部7と、頭部を貫通して延在しかつシャフト同軸ボア4に連通する同軸ボア8とを含む。U字形の凹部7によって、内側ねじ山11が設けられた2つの自由脚部9および10が形成される。U字形の凹部7の直径は、いくつかの骨固定釘を互いに接続するのに用いられるロッド12を挿入することができるような大きさである。ロッド12は、固定要素、たとえば内側ねじ13によって固定され、内側ねじ13は脚部9と10との間に捩じ込むことができ、ロッドに当接する。
【0018】
図示の実施例において、頭部3およびシャフト1は単一の部品として設計されている。しかし、頭部3およびシャフト1を別個の部品として設計し、強固な単軸接続をなすように頭部3とシャフト1とを互いにしっかりと接続することもできる。代替的に、頭部3とシャフト1とをシャフト軸を回転軸として回転可能に接続してもよい。
【0019】
固定要素は内側ねじ13以外のものでも実現できる。たとえば、頭部3上の外側ねじ山と協働する外側ナットと内側ねじとの組合せを設けてもよい。代替的に、別の固定機構、たとえば固定要素と頭部との間の差込みカップリングも考えられる。
【0020】
骨固定釘は、チタンもしくはチタン合金、または生体適合性プラスチック材料などの生体適合性材料でできている。さらに、骨固定釘は形状記憶合金でできていてもよい。
【0021】
動作の際、まず、骨固定釘が固定されるべき骨領域に芯穴が作製される。芯穴の内径はシャフトの外径に相当するかまたは若干小さい。その後シャフト1が芯穴に押込まれるかまたは圧入される。シャフト1が芯穴に圧入されると、摩擦力によって留まる。シャフト穴に挿入する動作は、たとえ骨ねじのために予め穴を開けていたとしても、骨ねじを骨に捩じ込むよりもかかる時間が大幅に短い。したがって骨固定釘は、非常に迅速な挿入が必要な、および/または、骨材が弱いために、骨ねじを使用する場合に生じ得る大きな挿入力を加えることができないような臨床上の状況に用いることができる。
【0022】
少なくとも2つの骨固定釘を挿入した後、それらをロッドによって接続することができる。ロッドは内側ねじを締めることによって固定される。骨固定釘はロッドとの接続に用いられる従来の単軸骨ねじと組合せることもできる。
【0023】
しばらく後血管が開口部5を介して同軸ボア4内に成長し始め、その後新たな骨が形成されることにより、固定性が向上する。
【0024】
さらに固定性を向上させるために、ロッドを挿入する前にたとえばPMMAまたはTCPなどの骨セメントを頭部のボア8とシャフトの縦長のボア4とを介して導入してもよい。骨セメントはほぼ液状であり、開口部5を介して流出する。固まると、シャフト1を周囲の骨材料にしっかりと接続する。
【0025】
第2の実施例を図5から図7に示す。第2の実施例は、頭部とシャフトとが、多軸調整が可能になるように旋回可能に接続された別個の部品として構成されている点で第1の実施例と異なる。第1の実施例と同一の部品は同じ参照符号で示す。シャフト1′は、球形セグメント形状の端部1aを有し、縦長のボア4が端部1aから延在している点で第1の実施例と異なる。球形セグメント形状の端部1aは、その自由端において、捩じ込みツールと係合するための凹部1bを有する。
【0026】
頭部3′は別個の部品として形成される。第1の実施例の頭部3のようにほぼ円筒形であり、ほぼU字形の凹部7と同軸ボア8とを有し、それらによって2つの脚部9および10が形成され、その上に内側ねじ山11が設けられている。頭部3′は、組立状態において球形セグメント形状の端部1aが脱落しないような大きさの開口部3bを有する下面3aを含む。ボア8と開口部3bとの間には、球形セグメント形状の端部1aのための座部3cが設けられている。組立状態では、シャフト1′は頭部3′に対して旋回可能である。
【0027】
第2の実施例に係る骨固定釘は、同軸ボア15と、端部1a上に当接するのに適した球面部分16とを有するほぼ円筒形の加圧要素14をさらに備える。図示の実施例において、加圧要素14は、ロッド12を受けるために球面部分16の反対側にほぼU字形の凹部17を有する。加圧要素14は、回転したり脱落しないように頭部3′内に固定することができる。好ましくは、シャフト1′、頭部3′および加圧要素14を予め組立ておく。
【0028】
第2の実施例に係る骨固定釘の用途は、第1の実施例と同様である。第2の実施例に係る骨固定釘は、シャフト1′に対する頭部3′の多軸調整を可能にする。頭部3′に対するシャフト1′の角度位置は、加圧要素14を球形セグメント形状の端部1a上に押付け、それにより球形セグメント形状の端部1aが座部3cに押付けられることによって固定される。固定は、ロッド12が固定されて加圧要素14に力を伝え、球形セグメント形状の端部1aを塞ぐように内側ねじを締めることによって行なわれる。
【0029】
変形例において、シャフト1′の球形セグメント形状の端部1aおよびロッド12は互いに独立して固定してもよい。
【0030】
図7は、血管が開口部5を介して内方成長する様子を概略的に示す。血管は開口部を通って延在しており、同軸ボア4内にさらに成長し続けることができる。
【0031】
図8は、骨セメントまたは医療用薬剤をシャフト1および1′に注入するための注入器具20を概略的に示す。注入器具20は、薬剤または骨セメント用の貯留部21と、注入管22と、注入を始動させるためのアクチュエータ23とを含む。注入管22の外径は、開口部付近に到達する程度にまで同軸ボア4内に導くことができるように、同軸ボア4の直径よりも小さい。
【符号の説明】
【0032】
1,1′ シャフト、1a 端部、1b 凹部、2 自由端、3,3′ 頭部、3b 開口部、3c 座部、4 同軸ボア、5 開口部、6 部分、7 凹部、8 同軸ボア、9,10 脚部、11 内側ねじ山、12 ロッド、13 内側ねじ、14 加圧要素、15 同軸ボア、16 球面部分、20 注入器具、21 貯留部、22 注入管、23 アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨固定釘であって、
自由端(2)を有しかつねじが切られていないシャフト(1,1′)と、
前記自由端と反対側の頭部(3,3′)とを備え、前記頭部はロッド(12)またはロッド状要素を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有し、さらに、
前記シャフトを通って延在していて少なくとも前記頭部(3,3′)または前記自由端(2)に開口する縦長のボア(4)と、
前記シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、
前記ねじが切られていないシャフト(1,1′)は外側表面を有し、前記外側表面は骨内への前記釘の挿入を容易にする摺動性を高めるために被覆されまたは磨かれている、骨固定釘。
【請求項2】
前記ボア(4)は前記頭部(3,3′)に向かって開口し、前記自由端(2)で閉じている、請求項1に記載の骨固定釘。
【請求項3】
前記ねじが切られていないシャフトはほぼ円筒形である、請求項1または2に記載の骨固定釘。
【請求項4】
前記開口部(5)は断面が円形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項5】
前記開口部(5)はシャフト軸(M)から半径方向に延在する、請求項1から4のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項6】
前記ねじが切られていないシャフト(1,1′)は管状部分と前記自由端(2)との間に配置された部分(6)をさらに有し、この部分は前記自由端(2)に向けて先細になっている、請求項1から5のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項7】
前記シャフト(1)および前記頭部(3)は単軸に接続される、請求項1から6のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項8】
前記シャフト(1′)は球形セグメント形状の端部(1a)を有し、前記頭部(3′)は前記端部を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品であり、前記球形セグメント形状の端部(1a)と前記ロッド(12)とは互いに独立に固定され得る、請求項1から6のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項9】
加圧要素(14)が前記ロッド(12)と前記端部(1a)との間に設けられ、前記加圧要素は圧力が加えられると前記端部(1a)を前記座部(3c)に固定する、請求項8に記載の骨固定釘。
【請求項10】
前記ロッド(12)またはロッド状要素を前記凹部(7)内に固定するための固定要素(13)が設けられ、前記固定要素は前記頭部(3,3′)と協働する、請求項1から9のいずれか1項に記載の骨固定釘。
【請求項11】
内方成長を容易にするために各前記開口部(5)の周りに皿穴が設けられている、請求項1から9のいずれか1項に記載の骨固定釘。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−90987(P2013−90987A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−31045(P2013−31045)
【出願日】平成25年2月20日(2013.2.20)
【分割の表示】特願2007−288616(P2007−288616)の分割
【原出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(511211737)ビーダーマン・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディートゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】BIEDERMANN TECHNOLOGIES GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】