説明

骨折治療用装置

【課題】橈骨遠位端部等の骨折部位の整復手術を簡易かつ正確に行う。
【解決手段】スクリュー又はピン12を通す孔10が複数個形成され、これらの孔にそれぞれ通される複数本のスクリュー又はピン12によって骨折部位に固定されるプレート6と、刺入線材7が貫通するスリーブ8と、スリーブが貫通するガイド溝9a,9b,9c,9dが形成され、連結手段によってプレートに着脱自在に連結されるガイド本体9とを具備した骨折治療用装置である。ガイド溝は、プレートを固定する列状に並んだ複数本のスクリュー又はピンの全軸線が含まれる平面と平行に延びるように形成され、スリーブがガイド溝内でスライド及び首振りが可能に案内されることによって、スリーブ中の刺入線材が上記平面と平行にスライド及び首振りが可能とされたものであるから、熟練度の低い術者であっても刺入線材で骨片1aを簡易に捕捉することができ、手術を短時間で正確に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橈骨遠位端、脛骨近位端等の長幹骨骨端部の骨折を治療するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば人間の腕の橈骨はその遠位端部において骨折しやすい。この骨折の治療には、チタン合金等でできたプレートが用いられる。このプレートは一般に橈骨遠位端部の掌側面に倣う形状に形成され、先端部にはプレートを橈骨に固定するためのロッキング孔が複数個形成される。術者は切開創から露出する橈骨遠位端部の掌側面にプレートを当て、このプレートのロッキング孔にロッキングスクリュー又はロッキングピンを橈骨側へと貫通させ、これによりプレートを橈骨の骨折部位の近傍にロックする。その後、プレートの他の孔にもスクリュー又はピンを通し、プレートをより強固に橈骨に固定する(例えば、特許文献1参照。)。その後、切開創を縫合し、骨折部位の組織の再生を待つ。
【0003】
また、橈骨遠位端部の骨折では、関節面付近に小骨片が生じたり、茎状突起等が破断して骨片が生じたりする場合がある。これらの小骨片や骨片は上記スクリュー又はピンで捕らえることができないので、刺入線材であるキルシュナー鋼線を用いた経皮ピンニングによって捕捉される。キルシュナー鋼線が皮膚の上から橈骨へと刺し通され骨片に向かって刺入されることによって、骨片が橈骨体側に保持されることになる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−313514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
骨折の治療を行う術者は、橈骨の骨折部位にプレートをロックした後、外科用X線装置でX線を骨折部位に照射しつつ、キルシュナー鋼線の位置と骨片の位置とを確認しながら、骨片に向かってキルシュナー鋼線を刺入する。その際、プレートを橈骨に固定するためのロッキングスクリューやロッキングピンが橈骨に埋設されているので、このロッキングスクリューやロッキングピンに当たらないようにキルシュナー鋼線を刺入しなければならない。このため、この骨折部位の骨片を捕捉して橈骨側に固定する整復作業には高度な熟練が必要とされる。
【0006】
本発明は熟練度の低い術者であっても刺入線材で骨片を簡易に捕捉することができ、手術を短時間で正確に行うことができる骨折治療用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、スクリュー又はピン(12)を通す孔(10,11)が複数個形成され、これらの孔(10,11)にそれぞれ通される複数本のスクリュー又はピン(12)によって骨折部位に固定されるプレート(6)と、刺入線材(7)が貫通するスリーブ(8,17)と、上記スリーブ(8,17)が貫通するガイド溝(9a,9b,9c,9d)が形成され、連結手段によって上記プレート(6)に着脱自在に連結されるガイド本体(9)とを具備した骨折治療用装置であって、上記ガイド溝(9a,9b,9c,9d)は、上記プレート(6)を固定する列状に並んだ複数本のスクリュー又はピン(12)の全軸線が含まれる平面(13)と平行に延びるように形成され、上記スリーブ(8,17)が上記ガイド溝(9a,9b,9c,9d)内でスライド及び首振りが可能に案内されることによって、上記スリーブ(8,17)中の刺入線材(7)が上記平面(13)と平行にスライド及び首振りが可能とされた構成を採用する。
【0009】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の骨折治療用装置において、少なくとも上記ガイド本体(9)がX線透過材で形成されたものとすることができる。
【0010】
請求項3に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載の骨折治療用装置において、上記連結手段が、上記プレート(6)の孔(10,11)に形成された雌ネジと、上記ガイド本体(9)から突出するアーム(19)と、このアーム(19)を上記プレート(6)へと貫通して上記いずれかの孔(10,11)の雌ネジと螺合する固定ネジ(18)とを含んでいるものとすることができる。
【0011】
請求項4に記載されるように、請求項3に記載の骨折治療用装置において、上記固定ネジ(18)の位置を対称軸として複数個のガイド溝(9a,9b,9c,9d)が対称的に配置されることによって、右手用と左手用のいずれのプレート(6)に対しても上記ガイド本体(9)が連結可能とされたものとすることができる。
【0012】
請求項5に記載されるように、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の骨折治療用装置において、上記スリーブ(8,17)には、複数種の刺入線材(7)をそれぞれ通し得る通し孔(8a,17a,17b)が形成されているものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スクリュー又はピン(12)を通す孔(10,11)が複数個形成され、これらの孔(10,11)にそれぞれ通される複数本のスクリュー又はピン(12)によって骨折部位に固定されるプレート(6)と、刺入線材(7)が貫通するスリーブ(8,17)と、上記スリーブ(8,17)が貫通するガイド溝(9a,9b,9c,9d)が形成され、連結手段によって上記プレート(6)に着脱自在に連結されるガイド本体(9)とを具備した骨折治療用装置であって、上記ガイド溝(9a,9b,9c,9d)は、上記プレート(6)を固定する列状に並んだ複数本のスクリュー又はピン(12)の全軸線が含まれる平面(13)と平行に延びるように形成され、上記スリーブ(8,17)が上記ガイド溝(9a,9b,9c,9d)内でスライド及び首振りが可能に案内されることによって、上記スリーブ(8,17)中の刺入線材(7)が上記平面(13)と平行にスライド及び首振りが可能とされたものであるから、熟練度の低い術者であっても刺入線材(7)で骨片(1a,1b,1c,1d,1e,1f)を簡易に捕捉することができ、手術を短時間で正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
図1乃至図3に示すように、この実施の形態では、人間の右手橈骨1の遠位端部における骨折についてこの骨折治療用装置で整復しようとする。図示例では、この橈骨1の遠位端部に骨折が生じ、茎状突起が橈骨体から破断して骨片1aとなっている。図2中、符号2は骨折線を表す。また、図1中、符号3は橈骨に隣り合う尺骨、符号4は右手首、符号5は掌をそれぞれ示す。
【0016】
図1乃至図3に示すように、この骨折治療用装置は、インプラントであるプレート6と、刺入線材であるキルシュナー鋼線7を通すパイプ状のスリーブ8と、スリーブ8を案内するガイド本体9とを具備する。
【0017】
プレート6は、図1乃至図3に示すように、橈骨1の遠位端部の掌側面における輪郭に倣ったような形状に形成され、橈骨1の遠位端側に当てられる略三角形の展延部6aと、展延部6aの一頂点側から橈骨1の本体側へと伸びる略長方形の幹板部6bとを具備する。図示例のプレート6は右手橈骨用のものを示す。左手橈骨用のものは図示例のプレート6と対称的に形成される。プレート6は、ステンレス鋼、チタン合金鋼等で形成される。
【0018】
三角形の展延部6aの一辺は橈骨1の遠位端縁に沿うように伸び、図7に示すように、この一辺に沿って多数個のロッキング孔10,11が複数列で設けられる。この実施の形態では、外側の列では四個のロッキング孔10が並び、内側の列では二個のロッキング孔11が並んでいる。また、展延部6aは橈骨1の遠位端部における掌側面の傾斜に倣うように幹板部6bに対して緩傾斜で反り返っている。ロッキング孔10,11には骨折の形態によってそのすべてに又は選択的にロッキングピン又はロッキングスクリュー12が橈骨1に向かって通される。これらのロッキングピン又はロッキングスクリュー12によってプレート6が骨折部位に固定される。
【0019】
上記複数個のロッキング孔10,11は、図7に示すように、すべて同じ向きに形成される。このため、図1に示すように、ロッキング孔10に挿入されたロッキングピン又はロッキングスクリュー12も同じ向きに突出し、それらの軸線は各列内においてそれぞれ一平面内に含まれることになる。図2及び図3中、この平面13は一点鎖線で示される。
【0020】
長方形の幹板部6bにも、図2及び図3に示すように、ピン又はスクリュー14を橈骨1に向かって通すための各種の孔15が形成される。これらの孔15にもピン又はスクリュー14が橈骨1に向かって通されることによって、プレート6が橈骨1に強固に固定される。
【0021】
その他、プレート6を橈骨1に位置決めする等のために刺入線材であるキルシュナー鋼線を通す小孔16が、必要に応じてプレート6の所望箇所に形成される。
【0022】
スリーブ8は金属製の筒体であり、図1及び図4に示すように、その中心の細長い通し孔8a内を刺入線材であるキルシュナー鋼線7が回転及びスライド自在に貫通可能である。この通し孔8aは、キルシュナー鋼線7がスリーブ8内でガタツクことなく回転及びスライドのみ行うように形成される。スリーブ8の一端には術者が指で持つ摘み部8bが設けられる。スリーブ8の外周面は後述するガイド本体9の各ガイド溝9a,9b,9c,9d内でスライド及び首振りが可能なように仕上げられる。図1、図2及び図4に示すスリーブ8は外周面が各ガイド溝9a,9b,9c,9dの幅と同じ径の円筒形に形成される。このため、このスリーブ8は各ガイド溝9a,9b,9c,9d内でスライド可能であり、実線及び二点鎖線で示すように首振り可能であり、またスリーブ8の軸心回りに回転可能である。
【0023】
また、スリーブ8は必要に応じて各種のものが用意される。図6に示すスリーブ17は、径の異なる二種類のキルシュナー鋼線を通すことができるように二種類の径の通し孔17a,17bが穿設される。いずれかの通し孔の17a,17b中に、対応する径のキルシュナー鋼線が通される。また、複数個の通し孔17a,17bを有することから、スリーブ17はその外径がガイド本体9の各ガイド溝9a,9b,9c,9dの幅よりも大きく形成される。このスリーブ17をガイド本体9の各ガイド溝9a,9b,9c,9d内に挿入可能とし、各ガイド溝9a,9b,9c,9d内でのスライド及び首振りを可能とするため、スリーブ17の外周面にはガイド本体9のガイド溝9a,9b,9c,9dの内面に接触可能な平滑面17cがスリーブ17の軸心に平行に形成される。また、スリーブ17の一端には摘み部17dが設けられる。
【0024】
刺入線材であるキルシュナー鋼線7は各種の径及び長さのものが多数本用意される。術者の必要とする径及び長さのキルシュナー鋼線7が所望のスリーブ8,17の通し孔8a,17a,17bに挿入される。刺入線材は、ステンレス鋼、チタン合金鋼等で形成される。
【0025】
ガイド本体9は、図1乃至図5に示すように、上記スリーブ8,17を案内する同じ大きさの複数個のガイド溝9a,9b,9c,9dを有し、所定の連結手段によって上記プレート6に着脱自在に連結される。
【0026】
ガイド本体9は、略直六面体に形成される。もちろん、直六面体に限られるものではなく、必要に応じて球形、回転楕円体形等他の形状とすることも可能である。
【0027】
ガイド溝9a,9b,9c,9dは、このガイド本体9の平行二平面間を貫通し、かつ、これらの二平面に直交する他の平行二平面に平行に延びるように形成される。また、ガイド溝9a,9b,9c,9dはこの実施の形態では四個形成される。片側の二個のガイド溝9a,9bは上記右手橈骨1の骨折治療用であり、他の二個のガイド溝9c,9dは、図示しない左手橈骨の骨折治療用である。具体的には、後述する連結手段の固定ネジ18の位置を対称軸として、片側二個のガイド溝9a,9bが他の二個のガイド溝9c,9dと対称的に設けられる。これにより、一つのガイド本体9によって、右手用と左手用のいずれのプレート6に対しても連結可能であり、左右いずれの橈骨1の骨折にも対処可能である。
【0028】
ガイド本体9は、図1乃至図5に示すように、所定の連結手段によって上記プレート6に着脱自在に連結される。
【0029】
この連結手段は、上記プレート6のロッキング孔10,11内に形成された雌ネジと、上記ガイド本体9から突出するアーム19と、このアーム19をプレート6へと貫通してプレート6のいずれかのロッキング孔10,11の雌ネジと螺合する固定ネジ18とを含んだ構成となっている。
【0030】
アーム19は、ガイド本体9の上記二組の平行二平面を除く残りの平行二平面のうちの一平面からこの平面の延長方向すなわちガイド溝9a,9b,9c,9dの貫通方向に片持ち状に突出する。もちろん、施術に支障がないならば、アーム19は他の平面から或いは稜から突出させることも可能である。
【0031】
雌ネジはこの実施の形態ではプレート6のすべてのロッキング孔10,11に形成されるが、一部のロッキング孔にのみ形成してもよい。この雌ネジは、ロッキングピン又はロッキングスクリュー12の頭部近傍に設けられた雄ネジと螺合可能であり、また、アーム19をプレート6に固定するための固定ネジ18の雄ネジ18aとも螺合可能である。
【0032】
固定ネジ18は、図1及び図4に示すように、ガイド本体9のガイド溝9a,9b,9c,9dが開口する平面と各ガイド溝9a,9b,9c,9dの延在面との交線に平行な方向に上記アーム19の先端部を貫通する。固定ネジ18の先端部には雄ネジ18aが形成され、後端部には術者が持つ摘み部18bが段差部18cを介して雄ネジ18a側よりも大径に形成される。アーム19には固定ネジ18が通り抜け得る貫通孔20が形成され、この貫通孔20の中間に固定ネジ18の雄ネジ18aと螺合可能であり、かつ、雄ネジ18aが通り抜け得る雌ネジ20aが形成される。貫通孔20内における雌ネジ20aの後方には固定ネジ18の段差部18cに合致するように段差部20bが設けられる。固定ネジ18及び貫通孔20は望ましくは複数組設けられる。
【0033】
これにより、固定ネジ18をアーム19の貫通孔20に挿入し、固定ネジ18を回しながらその雄ネジ18aを雌ネジ20aに螺合させた後に雌ネジ20aを通過させ、アーム19の先端部をプレート6の展延部6aに内側列のロッキング孔11の上から当て、更に固定ネジ18を回すと、雄ネジ18aがこれら内側列のロッキング孔11の雌ネジと螺合する。図4に示すように、固定ネジ18の段差部18cが貫通孔20の段差部20bに当たるまで固定ネジ18を回すと、図1乃至図3に示すように、アーム19がプレート6に固定され、ガイド本体9がプレート6に対して一定の位置および姿勢で連結される。
【0034】
固定ネジ18は、その雄ネジ18aがアーム19の貫通孔20の雌ネジ20aを通り抜けているので、以後固定ネジ18のアーム19からの脱落が防止される。また、固定ネジ18を逆回しすると、アーム19から固定ネジ18を外すことができ、術後の洗浄処理等を簡易に行うことができる。
【0035】
図1に示すように、上記連結手段によってガイド本体9がプレート6に連結されると、ガイド本体9のガイド溝9a,9b,9c,9dは上記プレート6の外側列のロッキング孔10に挿入された複数本のロッキングスクリュー又はロッキングピン12の全軸線が含まれる平面13と平行に延びることになる。そして、スリーブ8,17が各ガイド溝9a,9b,9c,9d内でスライド及び首振りが可能に案内されることによって、スリーブ8,17中の刺入線材であるキルシュナー鋼線7が上記平面13と平行にスライド及び首振りが可能となる。従って、図2及び図3に示す如く、術者はキルシュナー鋼線7の刺入方向を定めやすくなり、キルシュナー鋼線7をロッキング孔10に通したロッキングスクリュー又はロッキングピン12に当てることなく、簡易に骨片1aに到達せしめ骨片1aを捕捉することができる。
【0036】
上記キルシュナー鋼線7の刺入方向を定める際、術者は図示しない外科用X線装置により骨折部位の画像を観察するが、この外科用X線装置からのX線を遮断しないように、上記ガイド本体9及びアーム19は、X線透過材で形成される。X線透過材としては、例えば、カーボン、アルミニウム、樹脂を用いることができる。
【0037】
次に、上記構成の骨折治療用装置の作用について説明する。
【0038】
(1)図7(A)(B)に示すように、右手の橈骨1の遠位端部に生じた骨折を治療するものとする。この骨折の形態は一般にB1と呼ばれる。この骨折では、茎状突起が橈骨1の本体から破断し、骨片1aとなっている。
【0039】
まず、図1に示すように、術者が右手の手首4を切開し、切開創4a内に右手橈骨用プレート6を挿入し、橈骨1の遠位端部に当てる。
【0040】
そして、術者はプレート6の外側列のロッキング孔10から図示しないドリル等を挿入して橈骨1に下孔を開け、ロッキングスクリュー又はロッキングピン12をロッキング孔10から橈骨1に向かって挿入し、プレート6を橈骨1に仮止めする。また、ロッキングスクリュー又はロッキングピン12の図示しない雄ネジをロッキング孔10の図示しない雌ネジと螺合させる。
【0041】
なお、骨折の形態により、すべてのロッキング孔10にロッキングスクリュー又はロッキングピン12が通されることもあれば、一部のロッキング孔10にのみロッキングスクリュー又はロッキングピン12が通されることもある。
【0042】
すべてのロッキング孔10は同じ方向に向かって伸びているので、これらのロッキングスクリュー又はロッキングピン12の軸線は図2、図3及び図7(B)中、一点鎖線で示す一平面13内に含まれる。
【0043】
(2)図4に示すように固定ネジ18が装着されたアーム19の先端部を術者がプレート6の展延部6aに内側列のロッキング孔11の上から当て、固定ネジ18を回してその雄ネジ18aをこれら内側列のロッキング孔11の雌ネジと螺合させる。
【0044】
固定ネジ18の段差部18cが貫通孔20の段差部20bに当たるまで固定ネジ18を回すと、図1乃至図3に示すように、アーム19がプレート6に固定され、ガイド本体9がプレート6に対して一定の位置および姿勢で連結される。
【0045】
これにより、ガイド本体9のすべてのガイド溝9a,9b,9c,9dが、プレート6の外側列のロッキング孔10に挿入された複数本のロッキングスクリュー又はロッキングピン12の全軸線が含まれる平面13と平行に延びることになる。
【0046】
(3)図1及び図2に示すように、術者がスリーブ8をガイド本体9の所望のガイド溝9a内に挿入する。このスリーブ8を挿入するガイド溝9aは骨折した茎状突起の骨片1aに対応するものが選択される。スリーブは、図4及び図5に示すもの8或いは図6(A)(B)(C)に示すもの17等所望のものを選択可能である。選択されたスリーブ8の通し孔8a内には、手術に適した太さ及び長さのキルシュナー鋼線7が通される。
【0047】
(4)術者はスリーブ8の摘み部8bを指で摘んで、スリーブ8をガイド溝9a内でスライド運動や首振り運動をさせ、スリーブ8中のキルシュナー鋼線7の刺入方向を患者の手首4の皮膚上から図2のごとく定める。術者の操作によりスリーブ8はガイド溝9a内でガタツクことなく円滑にスライド運動や首振り運動を行うことができるので、キルシュナー鋼線7の向きを簡易かつ正確に定めることができる。
【0048】
その際、術者は図示しない外科用X線装置により骨折部位の画像を観察する。ガイド本体9及びアーム19はX線透過材で形成され、X線を透過するので、術者は骨折部位の明瞭な画像を見ながら、キルシュナー鋼線7の刺入方向を正確に定めることができる。
【0049】
(5)術者がガイド溝9a内のスリーブ8を保持しつつスリーブ8内のキルシュナー鋼線7を茎状突起の骨片1aに向かって押し込むことにより、図1及び図7(A)(B)に示すように、キルシュナー鋼線7がロッキング孔10に通したいずれのロッキングスクリュー又はロッキングピン12にも当たることなく、茎状突起の骨片1aに到達し、この骨片1aを捕捉する。キルシュナー鋼線7は更に橈骨1内に押し込まれ、これにより骨片1aが橈骨1の本体に連結される。
【0050】
キルシュナー鋼線7が患者の手首4の皮膚外に突出した余剰部は術者により切除される。
【0051】
(6)その後、固定ネジ18がプレート6から外され、ガイド本体9がプレート6から除去される。また、固定ネジ18を抜いた跡のロッキング孔11にも必要に応じてロッキングスクリュー又はロッキングピン12が橈骨1に向かって挿入される。最後に切開創4aが縫合され、手術が終了する。
【0052】
(7)なお、キルシュナー鋼線7の刺入深さ、刺入位置、刺入方向は骨折の形態によって異なる。
【0053】
例えば、図8(A)(B)に示す骨折の形態では、茎状突起の骨片1aに隣接する箇所も破断して骨片1bになっていることから、キルシュナー鋼線7は骨片1aを貫通し、さらにこの骨片1bに向かって更に深く挿入されている。この骨折の形態はC1と呼ばれる。
【0054】
また、図9(A)(B)に示す骨折の形態では、茎状突起と橈骨1の本体との間も粉砕されて骨片1c,1dが生じている。この骨折の形態はC2と呼ばれる。この場合、ガイド本体9の他のガイド溝9bにスリーブ8が挿入されることにより、キルシュナー鋼線7の刺入位置及び刺入方向が定められ、キルシュナー鋼線7は複数個の骨片1c,1dを貫通するように刺入される。
【0055】
また、図10(A)(B)に示す骨折の形態では、茎状突起を含む橈骨1の遠位端部の全体が粉砕され、多数の骨片1a,1e,1fが生じている。この骨折の形態はC3と呼ばれる。C3ではキルシュナー鋼線7はなるべく多数の骨片1a,1e,1fを串刺しすることができるような方向及び深さに挿入される。
【0056】
上記実施形態のガイド本体9によれば、スリーブ8をガイド溝9a,9b内でスライドさせたり、首振り動作させたりすることで、キルシュナー鋼線7の刺入方向を簡易に定めることができるので、上記各種の骨折の形態C1、C2、C3において骨片1a,1b,1c,1d,1e,1fを適正に捕捉することができる。
【0057】
(8)左手の橈骨の遠位端部に骨折が生じた場合は、ガイド本体9等は図1に示される向きと反対向きに左手用のプレートに固定されることになる。この場合、スリーブ8,17の案内には他の二つのガイド溝9c,9dの一方又は双方が使用される。
【0058】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば上記実施の形態では橈骨の遠位端部の骨折治療について説明したが、脛骨の近位端部の骨折治療にも適用可能である。また、手術の手順も適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る骨折治療用装置の全体を右手橈骨の遠位端部と共に示す斜視図である。
【図2】図1中、II方向矢視図である。
【図3】図1中、III−III線矢視図である。
【図4】ガイド本体の正面図である。
【図5】ガイド本体の平面図である。
【図6】スリーブの変形例を示し、(A)はその正面図、(B)は拡大左側面図、(C)は拡大右側面図である。
【図7】骨折の形態B1における整復法の一例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図8】骨折の形態C1における整復法の一例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図9】骨折の形態C2における整復法の一例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図10】骨折の形態C3における整復法の一例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0060】
6…プレート
7…キルシュナー鋼線
8,17…スリーブ
8a,17a,17b…通し孔
9…ガイド本体
9a,9b,9c,9d…ガイド溝
10,11…孔
12…スクリュー又はピン
13…平面
18…固定ネジ
19…アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュー又はピンを通す孔が複数個形成され、これらの孔にそれぞれ通される複数本のスクリュー又はピンによって骨折部位に固定されるプレートと、刺入線材が貫通するスリーブと、上記スリーブが貫通するガイド溝が形成され、連結手段によって上記プレートに着脱自在に連結されるガイド本体とを具備した骨折治療用装置であって、上記ガイド溝は、上記プレートを固定する列状に並んだ複数本のスクリュー又はピンの全軸線が含まれる平面と平行に延びるように形成され、上記スリーブが上記ガイド溝内でスライド及び首振りが可能に案内されることによって、上記スリーブ中の刺入線材が上記平面と平行にスライド及び首振りが可能とされたことを特徴とする骨折治療用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の骨折治療用装置において、少なくとも上記ガイド本体がX線透過材で形成されていることを特徴とする骨折治療用装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の骨折治療用装置において、上記連結手段が、上記プレートの孔に形成された雌ネジと、上記ガイド本体から突出するアームと、このアームを上記プレートへと貫通して上記いずれかの孔の雌ネジと螺合する固定ネジとを含んでいることを特徴とする骨折治療用装置。
【請求項4】
請求項3に記載の骨折治療用装置において、上記固定ネジの位置を対称軸として複数個のガイド溝が対称的に配置されることによって、右手用と左手用のいずれのプレートに対しても上記ガイド本体が連結可能とされたことを特徴とする骨折治療用装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の骨折治療用装置において、上記スリーブには、複数種の刺入線材をそれぞれ通し得る通し孔が形成されていることを特徴とする骨折治療用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−247681(P2009−247681A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100457(P2008−100457)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】