説明

骨置換材料、方法及びデバイス

合成骨材料の顆粒を含む骨グラフト材料であって、顆粒の少なくともいくつかが、血液凝固剤を含む固体コーティングを有する骨グラフト材料、が提供される。また、骨置換材料を治療対象領域に送達するためのデバイスであって、血液凝固剤が予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆された、骨置換材料を収容するためのチャンバーと、骨置換材料をチャンバー内に導入して血液凝固剤と接触させるための手段と、骨置換材料をチャンバーから治療対象領域に送達するための手段と、を含むデバイス、が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、骨置換材料、方法及びデバイスに関する。
【0002】
骨置換材料は、損傷した骨や関節の置換、修復又は増強に使用される。そのため、先進国の人口高齢化及びそれに伴う高齢者の生活の質に関する人々の期待の増大の結果、骨置換材料に対する世界的な関心が増大している。この要求を満たすために、信頼できる性質を有し、容易かつ手軽に患者に投与できる骨置換材料が求められている。
【0003】
伝統的に、骨置換材料が必要な際には移植骨が使用されてきた。この移植骨は、ドナーから得ても(アログラフトと呼ばれる場合)、治療を受ける患者の別の部位から得ても(オートグラフトと呼ばれる場合)よい。しかし、これらの移植技術には、移植製品の供給及び一貫性が制限されているという問題がある。そのため、合成の骨置換材料が開発されている。
【0004】
合成の骨置換材料は、移植骨の代替物として使用することができる。或いは、移植技術と併せて使用して、移植骨と治療部位に既に存在している骨との間の空隙を効果的に埋めてもよい。骨置換材料の具体的な役割は、その機能に応じて決まる。例えば、骨置換材料は、例えば関節や顔面の再建において、荷重骨及び非荷重骨の欠損を充填するための使用に適したものとなる可能性がある。
【0005】
「天然の」骨は、無機成分及び有機成分でできたマトリックスと表現することができる。マトリックスは、骨細胞を含む生きた骨成分の足場の役割をする。そして、骨細胞がそれ自体でマトリックスに接着し、その上で成長することから、マトリックスは骨伝導性を有するといえる。マトリックスの無機成分はヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))であり、これはマトリックスの硬い成分として働き、骨構造に強度を与える。有機成分は主としてI型コラーゲンであり、これは骨の弾性及び破壊抵抗を増大する働きがある。
【0006】
合成の骨置換材料は、天然骨のマトリックス材料の性質のいくつかを効果的に模倣しようとしている。これを達成するため、合成の骨置換材料は典型的には下記成分:
(i)骨伝導性材料、
(ii)任意選択で担体、及び
(iii)任意選択で骨誘導性添加物、
を含む。
【0007】
骨伝導性材料はセラミック材料であってもよい。そのような材料としてはリン酸カルシウム(例えば、アパタイトグループの鉱物)が挙げられ、これらは天然骨の無機成分に類似する点で好ましい。アパタイトはリン酸カルシウムの一形態であり、モル比Ca/P=1.67の化学量論的ヒドロキシアパタイトである。これらの鉱物と骨の無機成分との類似性は、アパタイト材料の強い生体親和性を伴う。リン酸カルシウムを組み込んだ多くの形態の「骨粉」が現在市販されており、骨置換材料において使用されている。或いは、主として天然骨の有機成分(例えばコラーゲン)をベースとする製剤がいくつかある。
【0008】
合成の骨置換材料の第2の成分は一般に担体である。これは、骨伝導性材料を治療部位に送達するために使用される。そして、担体は生理的条件下で時とともに溶解し、無機の足場を後に残す。担体は、単に、乾燥した骨伝導性材料をスラリー状にする働きもし、これはゲルとして提供してもよい。或いは、いくつかの骨置換材料は、担体なしに、例えば乾燥顆粒形態で供給されてもよい。
【0009】
任意選択で添加される第3の成分は骨誘導性添加物である。この種の添加物は、足場上での骨細胞の成長を刺激する働きをする。骨誘導性添加物としては、成長因子(例えばPGF−β成長因子)が挙げられる。骨伝導性材料は骨誘導性添加物としても働き得る。
【0010】
これまで常に、一方で、取扱い及び患者への投与が容易になるように骨置換材料の組成を最適化することと、他方で、天然骨の役割を効果的に模倣するように組成を最適化することと、の間にバランスが存在した。理想的には、骨置換材料は、担体の使用なしに治療部位に送達されるであろう。これは、担体は、体内で時間とともに溶解する際に、骨伝導性成分を可動化させる働きがあり、その構造を弱くし、さらには治療部位から遠ざける可能性があるからである。さらに、担体を治療領域から除去するのに要する時間は著しく長くなる可能性がある。これは骨の成長カスケードの遅延の原因となるが、これにより骨置換材料の性能が低下する可能性がある。
【0011】
しかし、骨伝導性材料の乾燥顆粒を単に治療部位に送達するだけでは不十分である。乾燥顆粒は治療部位に置くのが困難で、電荷を帯びやすく、これにより散乱が生じる傾向がある。
【0012】
別のアプローチは、患者自身の血液を骨置換材料の担体として使用することである。これは、例えば、抜歯後の歯槽の周囲の骨材料を保存する方法に関する国際公開第01/28448号パンフレットに記載されている。この文献には、どのようにして、患者から採取して骨置換材料と混合した血液を2〜4分間凝固させ、その後、混合物を治療領域に投与するか、が記載されている。
【0013】
本発明の発明者らは、この種の方法がいくつかの理由で有利となり得ることを認識していた。第1に、凝固した血液は他の担体製剤のようには体内で溶解せず、その代わりに細胞の作用により分解する。これは、担体に関連する問題が少なく、活性部位からの骨伝導性材料の除去が容易になることを意味する。さらに、血液は、骨細胞付着及び創傷修復に適した多くのタンパク質を含む。そのため、担体は骨誘導性成分として働くこともできる。これは、例えば国際公開第2006/015275号パンフレットで利用されている。さらに、血液は、骨細胞の前駆細胞である生存した間葉系幹細胞を含むことが示されている。それ故、骨置換材料の足場上での生存組織の成長をさらに促進することが可能である。
【0014】
しかし、血液を採取し、骨置換材料と混合し、これを短時間で凝固させるという、この単純な方法には難点がある。特に、得られた製剤の性質は予測可能ではない。本発明者らは、患者に投与される混合物の粘度の重要性を認識している。例えば、粘度が低すぎると、骨置換材料は治療部位から単純に流れ去ってしまう。それ故、所望の粘度の溶液を再現性よく製造できる必要がある。同様の理由により、製剤の凝集性、粘着性及び成形性が重要である。
【0015】
血液を担体として用いる場合、粘度(並びに凝集性、粘着性及び成形性)は、血液の凝固の程度に依存する。そして、凝固の程度は凝固の速度に影響される。しかし、これは患者によっても大きく異なり、ある患者の血液は非常に速く凝固するが、別のある患者の血液はゆっくりと凝固する。したがって、血液を骨置換材料の担体として用いる場合、骨置換材料の所望の粘度を再現するのは難しい。
【0016】
この難点を考慮して、最近使用されている骨置換材料は、材料の粘度を制御するためにそれ自身の(通常合成の)担体を含む。国際公開第2006/058153号パンフレットにあるように、血液由来製剤を使用しようとする場合、これは特別の複雑な混合・送達デバイスの使用を伴う。
【0017】
本発明は、先行技術に伴う少なくともいくつかの問題点に対処することを目的としている。特に、本発明者らは、骨置換材料の担体として凝固血液を用いて、所望の粘度の骨置換材料を再現性良く得る方法を見出した。
【0018】
本明細書において、合成骨材料はリン酸カルシウムベースの材料を意味し、ここで、リン酸カルシウム材料はヒト又は「生きた」供給源に直接由来するものではない。本発明では、これは、ヒト又は「生きた」供給源に由来する骨グラフト材料と混合するか、これと併せて使用することができることが想定されている。さらに、リン酸カルシウム材料は好ましい合成骨材料であるが、合成骨材料の定義には、天然骨の有機成分を複製した合成材料(すなわち生きた供給源に直接由来しない材料)、例えばコラーゲンベースの材料、も含まれる。
【0019】
リン酸カルシウムは、カルシウム及びリン酸からなる材料を意味する。この材料中の2成分の化学量論に制限はない。しかし、カルシウム及びリン酸の化学量論は好ましくは1:1.5〜1:2であり、より好ましくは約1.67である。この用語は、その範囲内に、リン酸カルシウムを他の成分(例えばケイ素)とともに含有する製品を含む。ケイ素置換ヒドロキシアパタイトがそうである。
【0020】
顆粒は、単一、一体、均一の製品として供給されない製品を単に意味する一般的な用語である。そのため、個々の顆粒の粒径及び顆粒の粒径分布には制限がない。しかし、好ましくは顆粒の少なくとも90%(より好ましくは95%)は0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmの範囲の直径を有するであろう[直径は、従来の方法、例えば、(適切であれば)光学顕微鏡によって(例えば)100個の粒子の最大粒径を測定し、その平均を取ることによる]。
【0021】
顆粒は多孔質であっても固体であってもよい。しかし、リン酸カルシウム材料を用いる場合は、通常、顆粒は多孔質であることが予想される。粒子はほぼ球形であってもよい。
【0022】
血液凝固剤は、血液凝固に関与する天然及び合成の全ての材料を意味する。そのため、血液凝固剤の定義には、1次止血及び2次止血を開始し、及び/又はこれに関与する材料が含まれる。血液凝固剤の定義にはまた、血液の凝固に関与するコファクター(カルシウムイオン等)が含まれる。
【0023】
骨グラフト材料は、骨置換材料の先駆材料である。本発明において、骨グラフト材料は、単に血液製剤(例えば全血)と混合して骨置換材料を作り出せるのが好ましい。
【0024】
「血液」とは、血液及び血液由来製剤の両者を意味する。「全血」とは、処理されていない血液のみを意味する。本発明においては、骨置換治療を要する患者から全血を採取し、これを骨グラフト材料と混合して骨置換材料を形成するのが好ましい。患者自身の血液を採取し、直ちに、或いはある期間正常条件下で保存した後、骨グラフト材料と混合することができる。
【0025】
以下、本発明について説明する。以下では、本発明の種々の態様を詳細に説明する。そのように説明された各態様は、特に断らない限り、1以上の任意の他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいか有利であるとされた特徴は、いかなるものも、好ましいか有利であるとされた1以上の任意の他の特徴と組み合わせることができる。
【0026】
第1の態様において、本発明は、合成骨材料の顆粒を含む骨グラフト材料であって、前記顆粒の少なくともいくつかが、血液凝固剤を含む固体コーティングを有する骨グラフト材料、を提供する。
【0027】
合成骨顆粒を部分的に又は完全に血液凝固剤で被覆することにより、本発明の骨グラフト材料を血液と混合する際に予測可能な粘度特性を有する骨置換材料を得ることができる。特に、合成骨材料に血液凝固剤が予め装填された骨グラフト材料が提供されるので、使用の時点においてどれだけの量の血液凝固剤を合成骨顆粒に混合すべきかを決定する必要がない。これは、合成骨グラフト材料及び血液凝固剤を別々に用意することに比べて、骨グラフト材料の使用がより好都合でより予測可能であることを意味する。
【0028】
さらに、血液凝固剤が合成骨顆粒上に被覆されているので、血液凝固は合成骨材料の表面で開始される。本発明者らは、凝固血液の骨誘導成分が合成骨材料の表面に直接供給される点でそれが有利であり得ることを見出した。対照的に、血液凝固剤及び合成骨材料が別々に供給された骨グラフト材料では、合成骨材料の表面で血液凝固が開始せず、凝固血液中に含まれる骨誘導性成分は合成骨材料にさほど密接には結合しない可能性がある。したがって、血液凝固剤を合成骨顆粒上に実際に被覆することは、患者の治療部位に投与した際に合成骨材料の表面で骨成長を誘導することを助ける可能性がある。これは、より「自然な」又は「より強い」骨置換材料をもたらす可能性がある。
【0029】
血液凝固剤を合成骨顆粒上に被覆する方法としては、凝固剤を顆粒表面に化学的に結合すること、顆粒の空孔の中に凝固剤を吸収させること(顆粒が多孔質の場合)、又は凝固剤を含む表面被覆を顆粒表面に接着すること、が挙げられる。
【0030】
合成骨材料及び凝固剤の相対量は、最終の骨置換材料の好ましい特性に従って選択される。例えば、密な骨置換材料が必要な場合は、骨グラフト材料中の合成骨材料の量を最大にすることと、骨グラフト材料を最小限の血液で濡らすことができるように十分な凝固剤を存在させることと、の間にバランスが存在する。
【0031】
本発明者らは、骨置換材料として効果的であるために、好ましくは、骨グラフト材料中に合成骨材料の最小量が存在するべきことを見出した。好ましくは、合成骨材料の質量は、血液凝固剤及び合成骨材料の合計質量の60%以上である。より好ましくは、これは80%以上である。より好ましくは、これは90%以上である。
【0032】
本発明者らはまた、好ましくは血液凝固剤の最小量が存在すべきことを見出した。もし少なすぎれば、血液凝固速度に対する血液凝固剤の効果が少なく、凝固プロセスは、血液凝固剤を含む骨グラフト材料の性質よりもむしろ血液それ自体の性質により依存することになる。したがって、骨グラフト材料の血液凝固特性がより予測可能であるためには、血液凝固剤の最小量が存在するのが好ましい。好ましくは、血液凝固剤の質量は、血液凝固剤及び合成骨材料の合計質量の2%以上である。より好ましくは、これは5%以上である。
【0033】
本発明のこの実施形態において、合成骨顆粒は血液凝固剤によって被覆される。骨顆粒上のコーティングは、図1Cに示すように顆粒を完全に覆ってもよく、また、図1A及び図1Bに示すように顆粒表面の一部にのみ存在してもよい。例えば、血液凝固剤に対して多孔質の顆粒を用いる場合は、顆粒は血液凝固剤を吸収し、図1Aに示すように顆粒の空孔の上に被覆層の形成をもたらす。血液凝固剤は、引き続き顆粒の固体表面上に形成されてもよい。
【0034】
しかし、合成骨材料を被覆する層に血液凝固剤を含ませることの有益な効果を得るためには、好ましくは、固体コーティングは合成骨材料の外表面の50%以上を覆う。より好ましくは、固体コーティングは合成骨材料の外表面の90%以上を覆う。
【0035】
顆粒表面における血液凝固剤の吸収の程度は、包埋・研磨した被覆顆粒の光学反射光顕微鏡によって測定することができる。
【0036】
本発明の骨グラフト材料は、全血(自家若しくは同種)又は任意の血液由来製剤(多血小板血漿等)と混合することができる。血液由来製剤は、精製した血液抽出物を含む任意の製剤である。したがって、それは多血小板血漿、濃厚赤血球、顆粒球濃縮物、血小板濃縮物、新鮮凍結血漿、凍結乾燥血漿、任意の他の形態のヒト血漿、血漿タンパク質分画、ヒトアルブミン25%及びクリオプレシピテート(寒冷沈降物)の少なくとも1種であり得る。しかし、骨グラフト材料は、好ましくは全血(すなわち未処理血液)と混合するためのものである。自家血は供血者血液よりも好ましい。自家血は、検出されないウイルス、病原体等を患者に感染させる心配がないので、供血者(同種)血液よりも有利であろう。さらに、骨置換材料によって治療する直前に患者から血液を採取することは、通常好都合である。加えて、自家血を用いる場合は、骨置換材料が生体によって拒絶される危険が少ないであろう。しかし、適切と考えられる場合は、供血者血液を使用することもできる。
【0037】
大部分の状況下では全血のみを使用することが好ましいが、処理血液製剤(すなわち血液由来製剤)を、それ自体又は「全」血と組み合わせて使用することも可能である。これは、全血を使用することが常に好都合とは限らないからである。さらに、虚弱な患者を治療する際には、患者から大量の血液を採取することは望ましくないであろう。
【0038】
したがって、時には少量の自家(又は、必要に応じて同種)血を処理血液製剤に「補給」してもよい。例えば、血液を、凝固挙動をより予測可能にするか骨形成挙動をより有益なものにする成分に補給してもよい。
【0039】
好ましくは、合成骨材料はリン酸カルシウムを含む。合成骨材料は、例えば、ヒドロキシアパタイトを含む任意のアパタイト鉱物である。これには、置換(例えばSi−置換)アパタイト/ヒドロキシアパタイトの使用が含まれる。
【0040】
好ましくは、凝固剤は、塩化カルシウム、ゼオライト、キトサン、鉄(VI)酸塩、凝固因子VIII、凝固因子Xa、凝固因子XIIa及び組織因子の少なくとも1種を含む。凝固剤は、フィブリノーゲン、トランスグルタミナーゼ又は凝固の形成若しくは維持に関与する任意の調節タンパク質であり得る。好ましくは、凝固剤は、塩化カルシウム及びゼオライトの1つ又は両者である。これらは、患者、動物源から又は(不便な)組み換え法によって誘導する必要のない非薬学的薬剤であるので、好ましい凝固剤である。
【0041】
好ましくは、骨グラフト材料には脱水剤が含まれる。脱水剤の存在により、骨置換材料の液相から水が除去され、凝固プロセスの間の凝固速度が増大する。例えばゼオライトを使用するいくつかの例において、脱水剤は凝固剤としての役割を果たすこともできる。
【0042】
第2の態様において、本発明は、骨置換材料を形成する方法並びにこの方法によって製造される骨置換材料に関する。特に、本発明はまた、骨置換材料を形成する方法であって、
(a)全血と、
(b)合成骨材料及び血液凝固剤を含む骨グラフト材料と、
を混合するステップを含む方法に関する。
【0043】
本発明の第1の態様に関して述べたように、合成骨材料及び血液凝固剤をともに提供することがより好都合である。なぜなら、これにより骨置換材料の形成の再現性を増大させることができるからである。本発明の第1の態様に関して述べたように、血液凝固剤を合成骨材料上のコーティングとして提供する場合は付加的な利点がある。したがって、上述の方法において使用される骨グラフト材料は、好ましくは本発明の第1の態様に関連して記載した骨グラフト材料である。
【0044】
好ましくは、脱水剤を、この第2の態様において使用される骨グラフト材料に添加する。本発明の第1の態様に関連して記載した好ましい脱水剤は、この第2の態様に同様に適用される。
【0045】
さらに、本発明の第1の態様に関連して記載した好ましい血液凝固剤及び合成骨材料は、この第2の態様に同様に適用される。
【0046】
好ましくは、骨グラフト材料1体積部を、全血0.05〜25重量部に添加する。骨グラフト材料を0.05体積部未満の血液に添加すると、骨置換材料は好ましい粘度特性を示さない可能性がある。骨グラフト材料を25体積部より多い血液に添加すると、骨置換材料は流動性が高すぎて十分な密度にならない可能性がある。より好ましくは、骨グラフト材料1体積部を、全血0.1〜10体積部、より好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは約1体積部に添加する。骨グラフト材料の体積は、骨グラフト材料を容器に注ぎ、材料が容器中で落ち着くまで数分間(例えば30分)放置し、粉体の体積を測定することにより測定することができる。
【0047】
好ましくは、この第2の態様の方法の生成物は、凝集性、成形性があり、破壊されることなくブロックに切ることができ、持ち上げた時に自重を支えることができる。好ましくは、生成物は骨グラフト材料と血液を混合して10分以内、より好ましくは5分以内、例えば2分以内に形成される。生成物は次に治療対象領域に投与される。
【0048】
本発明者らは、有利な骨置換材料を提供するという課題に対する代替の解決策を発見した。ここでは、血液は骨グラフト材料の担体としての役割を果たす。本発明のこの第3の態様では、損傷した骨又は関節の治療において、また、骨置換材料の調製において使用可能なデバイスが提供される。このデバイスは、
血液凝固剤が予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆された、骨置換材料を収容するためのチャンバーと、
骨置換材料をチャンバー内に導入して血液凝固剤と接触させるための手段と、
骨置換材料をチャンバーから治療対象領域に送達するための手段と、
を含む。
【0049】
したがって、治療対象領域に投与する前に予測可能で再現性のある血液凝固を可能にするデバイスが提供される。
【0050】
好ましくは、該デバイスは血液凝固剤で被覆されたチャンバーを含むシリンジであり、これは骨置換材料を患者に投与するために使用することができる。
【0051】
本発明によるデバイスは、骨置換材料中に含まれる血液を凝固させるインサイチュの方法において使用されるように設計される。したがって、担体として自家血液(すなわち、治療される患者からの血液)を含む骨置換材料とともに使用するのが理想的である。本発明の第1の態様に関連して記載したように、全血(自家又は同種)をそのまま使用するのが好ましい。しかし、適切と考えられる場合は、処理血液製剤を「補給した」全血、又は処理血液製剤をそのまま使用してもよい。
【0052】
骨置換材料をチャンバー内に導入する手段には、典型的には単に注入口、好ましくはシールできる注入口が含まれる。
【0053】
骨置換材料をチャンバーから治療対象領域に送達する手段には、典型的には単に排出口、好ましくはシールできる排出口が含まれる。注入口はまた、排出口としても役立つであろうことが考えられる。チャンバーから治療対象領域への骨置換材料の送達を容易にするため、ポンプ手段を備えることもできる。
【0054】
好ましくは、凝固プロセスの前又はその間に、脱水剤を加えることもできる。脱水剤は、凝固剤とともに、本発明のデバイスのチャンバーに予め装填しておくか、チャンバーの内側に予め被覆しておくこともできる。本発明の第1の態様に関連して記載した好ましい脱水剤は、この第3の態様に同様に適用される。
【0055】
さらに、本発明の第1の態様に関連して記載した好ましい血液凝固剤及び合成骨材料は、この第2の態様に同様に適用される。好ましくは、凝固剤は塩化カルシウムである。なぜなら、本発明者らによって、これが本発明によるデバイスの内側に好都合に被覆できることが見出されたからである。同様の理由により、別の好都合な物質はゼオライトである。
【0056】
本発明のデバイスのチャンバーは、血液凝固剤及び任意選択により脱水剤によって部分的又は全体に被覆することができる。これにより、骨置換材料に露出する血液凝固剤の量を制御することができる。
【0057】
デバイスは好ましくはシリンジの形態である。したがって、骨置換材料に露出される凝固剤の表面積は、シリンジに装填される骨置換材料の体積に直接依存する。これにより、骨置換材料が露出される血液凝固剤の量をより大きく制御することができる。
【0058】
本発明のデバイスは、デバイスのチャンバーに付随した加熱手段をさらに含んでもよい。これは骨置換材料を生理的温度にまで加熱するために使用することができ、同時に血液凝固速度が増大する。血液凝固を促進するために骨置換材料を生理的温度より高い温度に加熱し、次いで骨置換材料をチャンバーから送達する前又はその間にそれを冷却することも可能である。
【0059】
第4の態様において、本発明は、骨置換材料を製造するための方法であって、
(i)リン酸カルシウムを含む固体材料を供給するステップ、
(ii)血液及び/又は処理血液製剤を含む液体を前記固体材料に添加して固体/液体混合物を得るステップ、
(iii)前記固体/液体混合物を本発明の第3の態様に関連して記載したデバイスのチャンバー内に入れて、チャンバーに予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆された血液凝固剤と接触させるステップ、
(iv)前記固体/液体混合物中の血液を凝固させて骨置換材料を作り出すステップ、及び
(v)骨置換材料をデバイスから取り出すステップ、
を含む方法を提供する。
【0060】
上記の考察から明らかなように、本発明のデバイスを使用することができる前述の可能な方法は、本方法に同様に適用できる(逆も同様である)。
【0061】
本発明の方法において、血液は、骨置換材料が生理的温度でゲル状のレオロジー的挙動を示すように凝固させてもよい。
【0062】
[実施例]
2〜5mmのActifuse(登録商標)顆粒10cm及び凝固剤を、サンプルチューブ中で、頚静脈から採取した新鮮ヒツジ血液10cmと混合した。次いで、このチューブを穏やかに攪拌して成分を混合し、その後放置して凝固させた。顆粒周囲及び顆粒間の血液の流れが止まる時間を測定して、凝固時間とした。使用した凝固剤及び各凝固剤の結果を表1に示す。凝固剤のwt%は、Actifuse(登録商標)顆粒及び凝固剤の合計重量に対する重量パーセントを表す。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】血液凝固剤で被覆された合成骨顆粒を示す図である。
【図1B】血液凝固剤で被覆された合成骨顆粒を示す図である。
【図1C】血液凝固剤で被覆された合成骨顆粒を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成骨材料の顆粒を含む骨グラフト材料であって、前記顆粒の少なくともいくつかが、血液凝固剤を含む固体コーティングを有する骨グラフト材料。
【請求項2】
骨グラフト材料中の血液凝固剤の質量が、血液凝固剤及び合成骨材料の合計質量の40%以下である、請求項1に記載の骨グラフト材料。
【請求項3】
骨グラフト材料中の血液凝固剤の質量が、血液凝固剤及び合成骨材料の合計質量の2%以上である、請求項1又は2に記載の骨グラフト材料。
【請求項4】
固体コーティングが合成骨材料の外表面の50%以上を覆う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨グラフト材料。
【請求項5】
全血と混合するためのものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の骨グラフト材料。
【請求項6】
合成骨材料が、リン酸カルシウム、好ましくはヒドロキシアパタイトを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の骨グラフト材料。
【請求項7】
血液凝固剤が、塩化カルシウム、ゼオライト、キトサン、鉄(VI)酸塩、凝固因子VIII、凝固因子Xa、凝固因子XIIa及び組織因子の少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の骨グラフト材料。
【請求項8】
骨置換材料を形成する方法であって、
(a)全血と、
(b)合成骨材料及び血液凝固剤を含む骨グラフト材料と、
を混合するステップを含む方法。
【請求項9】
前記合成骨材料がリン酸カルシウムを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
血液凝固剤が、塩化カルシウム、ゼオライト、キトサン、鉄(VI)酸塩、凝固因子VIII、凝固因子Xa、凝固因子XIIa及び組織因子の少なくとも1種を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
骨グラフト材料が固体材料である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
骨グラフト材料が、請求項1〜7のいずれか一項に記載の骨グラフト材料である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
骨グラフト材料1重量部が血液0.1〜10体積部に添加される、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
骨置換材料を治療対象領域に送達するためのデバイスであって、
血液凝固剤が予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆された、骨置換材料を収容するためのチャンバーと、
骨置換材料をチャンバー内に導入して血液凝固剤と接触させるための手段と、
骨置換材料をチャンバーから治療対象領域に送達するための手段と、
を含むデバイス。
【請求項15】
シリンジである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
血液凝固剤が、塩化カルシウム、ゼオライト、キトサン、鉄(VI)酸塩、凝固因子VIII、凝固因子Xa、凝固因子XIIa及び組織因子の少なくとも1種を含む、請求項14又は15に記載のデバイス。
【請求項17】
さらに脱水剤がチャンバーに予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆されている、請求項14〜16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
チャンバーの内容物を加熱するための加熱手段をさらに含む、請求項14〜17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
骨置換材料を製造するための方法であって、
(i)リン酸カルシウムを含む固体材料を供給するステップ、
(ii)血液及び/又は処理血液製剤を含む液体を前記固体材料に添加して固体/液体混合物を得るステップ、
(iii)前記固体/液体混合物を請求項14〜18のいずれか一項に記載のデバイスのチャンバー内に入れて、チャンバーに予め装填され、及び/又はその内表面に予め被覆された血液凝固剤と接触させるステップ、
(iv)前記固体/液体混合物中の血液を凝固させて骨置換材料を作り出すステップ、及び
(v)骨置換材料をデバイスから取り出すステップ、
を含む方法。
【請求項20】
ステップ(i)の前記固体がさらに脱水剤を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法によって形成される骨置換材料。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公表番号】特表2010−519000(P2010−519000A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551262(P2009−551262)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000648
【国際公開番号】WO2008/104762
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(508004557)アパテック リミテッド (6)
【Fターム(参考)】