説明

骨芽細胞の評価方法

【課題】短時間で間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を評価して、時間の無駄をなくし、患者にかかる負担を軽減することを目的とする。
【解決手段】骨分化培地を用いた細胞培養の開始前に、間葉系幹細胞について表面抗原マーカCD73の発現を測定する第1のステップS1と、前記骨分化培地を用いた細胞培養開始後に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する第2のステップS2と、前記第1のステップにおいて測定された前記表面抗原マーカCD73の発現と、前記第2のステップにおいて測定された前記表面抗原マーカCD73の発現とを比較する第3のステップとS3を備える骨芽細胞の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させる場合に、骨芽細胞への分化を評価するには、骨分化を誘導する培養により細胞内に形成される、骨特異的なタンパク質により評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−46058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞内に骨特異的なタンパク質が形成されるには、分化誘導剤を用いた培養を開始してから4〜7日以上経過することが必要であり、長時間を要するという不都合がある。また、この方法では長時間経過後に何らかの理由により分化が行われていないことが判明した場合には、その後に再度の培養が必要となり、患者に負担がかかるという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、短時間で間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を評価して、時間の無駄をなくし、患者にかかる負担を軽減する骨芽細胞の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、骨分化培地を用いた細胞培養の開始前に、間葉系幹細胞について表面抗原マーカCD73の発現を測定する第1のステップと、前記骨分化培地を用いた細胞培養開始後に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する第2のステップと、測定された細胞培養開始前の前記表面抗原マーカCD73の発現と、細胞培養開始後の前記表面抗原マーカCD73の発現を比較する第3のステップとを備える骨芽細胞の評価方法を提供する。
【0007】
発明者らは骨分化培地による培養後3日以内に、培養細胞の表面抗原マーカCD73(抗原:グリコシル‐フォスファチジル‐イノシトール)の発現が大きく変化することを見出した。
本発明によれば、前記間葉系幹細胞について、骨分化誘導開始前および開始後の表面抗原マーカCD73の発現を比較することにより、短時間で間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化していることを確認することができる。
【0008】
上記発明においては、前記第2のステップが、細胞培養開始後1日目から3日目に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定するステップであってもよい。
また、上記発明においては、前記骨分化培地が、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM培地に、10mMグリセロール2‐リン酸ナトリウム、50μg/mLビタミンC及び10−7Mデキサメタゾンを添加してなる培地であってもよい。
また、上記発明においては、前記第1のステップおよび前記第2のステップが、前記表面抗原マーカCD73の発現をフローサイトメトリによって測定するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、骨分化誘導開始後3日目以内に表面抗原マーカCD73の発現の変動がみられることにより、短時間に間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を確認することができる。したがって、時間の無駄をなくし、患者にかかる負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係る骨芽細胞の評価方法について、図1を参照して説明する。
以下、本発明の実施形態に係る骨芽細胞の評価方法は、例えば、間葉系幹細胞について、骨分化培地を用いて分化誘導培養した骨芽細胞の評価方法である。この評価方法は、骨分化培地を用いた細胞培養の開始前に、間葉系幹細胞について表面抗原マーカCD73の発現を測定する第1のステップS1と、前記骨分化培地を用いた細胞培養開始後に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する第2のステップS2と、測定された細胞培養開始前後の前記表面抗原マーカCD73の発現とを比較する第3のステップS3とを備えている。
【0011】
前記第1のステップS1は、上記の方法で増殖培養された間葉系幹細胞についてフローサイトメトリにより前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する。すなわち、細胞の膜表面で発現している前記表面抗原マーカCD73に対して、前記表面抗原マーカCD73に対する抗体(細胞表面マーカ)であって、予め蛍光色素等で標識されているCD73抗体が結合される。該CD73抗体が結合されている細胞に、フローサイトメータ等から発せられた励起光が照射されると、前記CD73抗体が結合している細胞から蛍光が発せられ、この蛍光を測定することにより前記表面抗原マーカCD73の発現を確認することができる。次に、増殖培地を骨分化培地に培地交換して、分化誘導培養を開始した後に行う前記第2のステップS2は、前記第1のステップS1と同様にして、前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する。
【0012】
発明者らは骨分化培地による培養後3日以内に、培養細胞の表面抗原マーカCD73の発現が大きく変化することを見出した。したがって、前記第3のステップS3において、培養開始後1〜3日で骨芽細胞の評価を行うことができる。
前記第3のステップS3の比較による評価は、一定細胞数について測定された前記表面抗原マーカCD73の蛍光強度をヒストグラムとして表し、該ヒストグラムのピーク位置およびピークの形状等によって前記表面抗原マーカCD73の発現を比較することにより行う。これにより、間葉系幹細胞の分化誘導開始前後で、前記表面抗原マーカCD73の発現が変動しているかどうかについて確認することができる。
【0013】
次に、本実施形態に係る骨芽細胞の評価方法の一実施例について図2および図3を参照して説明する。
図2は間葉系幹細胞について、分化誘導培養開始前後に測定された、前記表面抗原マーカCD73の発現を示すヒストグラムである。縦軸は細胞量、横軸は蛍光強度を表している。
【0014】
間葉系幹細胞は、5000cells/cmになるように培養容器に播種し、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM培地に50μg/mLビタミンC及び10ng/mLの繊維芽細胞増殖因子を加えた増殖培地を用いて24時間培養し、分化誘導培養開始前にフローサイトメトリによる前記表面抗原マーカCD73の測定を行った。次に、増殖培地を、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM培地に10mMグリセロール2‐リン酸ナトリウム、50μg/mLビタミンC及び10−7Mデキサメタゾンが加えられた骨分化培地に培地交換して、分化誘導培養を開始し、分化誘導培養開始後1日目および3日目にフローサイトメトリによる前記表面抗原マーカCD73の測定を行った。
【0015】
図2に示されるように、分化誘導培養開始後1日目および3日目の細胞群は、分化誘導培養開始前の細胞群と比較して前記表面抗原マーカCD73の発現が減少していることがわかる。分化誘導培養開始後3日目のピークは、分化誘導培養開始前と比較して全く別の位置にピークが検出されている。また、分化誘導培養開始後1日目のピークは、分化誘導培養開始前のピークと部分的に重なっているが、分化誘導培養開始前と比較してピークの位置が変動していることが確認できる。このことから、分化誘導培養開始からわずか1日目から3日目であっても、前記表面抗原マーカCD73の発現を培養開始前と比較することによって、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を確認することができる。さらに、分化開始を確認して早期に移植できるという効果を奏する。
【0016】
図3は、参考例として、前記骨分化培地、または比較例として前記増殖培地を用いて培養した間葉系幹細胞について、分化誘導培養開始後1日目、4日目、7日目および14日目のALP活性を示すグラフである。
図3に示されるように、前記増殖培地を用いて培養した細胞と比較して、前記骨分化培地によって培養した細胞は、培養開始4日目、7日目および14日目について高いALP活性値を示していることがわかる。このことから、前記骨分化培地を用いれば、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化されることが従来の評価方法によっても観察された。
なお、前記骨分化培地を用いて培養した間葉系幹細胞について、Ca測定により、分化誘導培養開始後14日目にCaの蓄積が観察された(図示せず)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨芽細胞の評価方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の実施形態に係る骨芽細胞の評価方法において、フローサイトメトリによって測定された間葉系幹細胞について、表面抗原マーカCD73抗体の発現を示すヒストグラムである。
【図3】図1の実施形態に係る骨芽細胞の評価方法の参考例であって、従来の評価方法による、骨分化誘導された間葉系幹細胞のALP活性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
S1 第1のステップ
S2 第2のステップ
S3 第3のステップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨分化培地を用いた細胞培養の開始前に、間葉系幹細胞について表面抗原マーカCD73の発現を測定する第1のステップと、
前記骨分化培地を用いた細胞培養開始後に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する第2のステップと、
前記第1のステップにおいて測定された前記表面抗原マーカCD73の発現と、前記第2のステップにおいて測定された前記表面抗原マーカCD73の発現とを比較する第3のステップとを備える骨芽細胞の評価方法。
【請求項2】
前記第2のステップが、細胞培養開始後1日目から3日目に、前記間葉系幹細胞について前記表面抗原マーカCD73の発現を測定する請求項1に記載の骨芽細胞の評価方法。
【請求項3】
前記骨分化培地が、10%胎児ウシ血清を含有するDMEM培地に、10mMグリセロール2‐リン酸ナトリウム、50μg/mLビタミンC及び10−7Mデキサメタゾンを添加してなる請求項1に記載の骨芽細胞の評価方法。
【請求項4】
前記第1のステップおよび前記第2のステップが、前記表面抗原マーカCD73の発現をフローサイトメトリによって測定する請求項1に記載の骨芽細胞の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−103590(P2009−103590A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275945(P2007−275945)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】