説明

骨軟骨様構造体

【課題】本発明は、スキャフォールドフリーで作成する軟骨様構造体と人工骨材料とが強固に結合した移植用の骨軟骨様構造体およびその作成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させたものである。即ち、本発明は少なくとも、遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れて遠心分離した後、遠心沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養において、培養開始以降に該培養容器底面上の該細胞塊の上に骨様固体を載せて作成することを特徴とする骨軟骨様構造体に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【産業上の利用分野】
本発明は、骨軟骨様構造体およびその作成に係わる。
【背景技術】
近年ヒト細胞などの動物細胞を用いた組織再生に関する基礎的知見が多々発見されその臨床応用に期待が寄せられている。作成する組織の種類に応じて様々な形状の組織を作成する必要があり、軟骨、皮膚、網膜ではシート状組織の作成が必要となる。これまでシート状組織を作成する方法としては、皮膚細胞のような特殊な例を除けば、温度応答性ポリマーのコーティング面に細胞を接着培養し細胞増殖後に温度を低下させポリマーを分解して細胞シートを回収する方法(WO01/068799)、あるいは、不織布やコラーゲンゲルなどのスキャフォールドをシート状に成型しその内部で細胞を培養する方法(Journal of Bioscience and Bioengineering,98(6),477−481,2004)などがあった。
しかし、これらの方法では温度応答性ポリマーやコラーゲンなどの薬剤が作成した組織に混入し、組織を人体に移植した後も残留し影響する懸念があった。また、これらの薬剤の使用は組織の製造コストを上げる要因になるばかりでなく、薬剤の操作のために組織作成プロセスが複雑となり、これらの組織を用いた移植治療の実用化の障害となることが懸念されている。
そのため、特殊な薬剤や担体を使用しない“スキャフォールドフリー”な培養方法による立体組織の構築方法の開発が求められている。これに対して、軟骨細胞を用いた古典的な培養方法であるペレット培養法(細胞培養技術、東京化学同人、p.189、1990)や旋回凝集培養法(再生医療(日本再生医療学会雑誌),Vol.7Suppl,p.124−125,2008)がある。しかし、ペレット培養法や旋回凝集培養法で作成できる細胞凝集塊はシート状ではなく球状でその大きさや正確な形状をコントロールできない。
軟骨組織の例についてより詳しく説明する。軟骨は骨と共に骨格系を形成する結合組織の一部であり、身体や器官の支持作用にあずかる非常に重要な組織である。関節軟骨は硝子軟骨で構成されており、硝子軟骨の特徴的な物理学的特性は、構成する細胞外マトリックス(ECM:Extracellular matrix)の生化学的特性により規定される。ECMの主成分はII型コラーゲン、アグリカン(プロテオグリカンの一種)、ヒアルロン酸、その他のマトリックスタンパクからなる。軟骨の内部ではII型コラーゲン細繊維はIX、XI型コラーゲンと共に網目構造を形成し、その間隙には高度に水和したアグリカンとヒアルロン酸、リンクタンパクからなる巨大会合体が含まれている。このような三次元構造が形成されているため、硝子軟骨は高い含水率と粘弾性(抗圧縮性)を持ち、体重の数倍もの荷重に耐えることができる。また、滑膜や軟骨細胞から分泌される潤滑物質であるヒアルロン酸によって軟骨表面の摩擦係数は低く関節の円滑な運動が可能となり、さらに軟骨そのものの磨耗も抑えられている。しかし、これらの豊富なECMのために周囲の組織からの細胞の浸潤が困難である上に、血管、神経、リンパ管を欠き栄養分の供給も遅いため、軟骨は自己修復能力の非常に乏しい組織である。例えば、損傷が関節軟骨層内に留まる程度の浅いものの場合、欠損周辺部の細胞が増殖してECM産生を促すが、欠損を埋めるだけの反応を励起しない。また、軟骨下骨に達する深い損傷の場合は、骨髄からの出血を生じ、軟骨前駆細胞及び各種サイトカインが供給されるために、軟骨様組織で修復される。しかし、この修復された組織は組織学的、生化学的及び生体力学的にみて、本来の硝子軟骨とは異なるため、長期的には変性を生じて変形関節症へと進行することが多い。そこで、以上のような軟骨組織の損傷あるいは疾患に対する治療手段として、人工関節による外科的置換術が提案され、実用化されている。しかし、繰り返し応力などによる人工関節の破損のため、耐用年数が限られ、再手術によって人工関節を交換しなければならないが、患者への負担が大きいため、人工関節の適用は高齢者のみとなっているのが現状である。また、感染症の危険性や可動域が限られるなどの欠点もある。(骨と軟骨のバイオロジー 基礎から臨床への展開、金原出版株式会社、87−112(2002)、再生医学 ティッシュエンジニアリングの基礎から最先端技術まで、NTS、225−283、691−701(2002)、関節マーカー 病態診断の分子生物学的アプローチ、メディカルレビュー社、96(1997)、Arthritis Rhem、43(9)、1916−1926(2000)、Biomaterials、21、431−440(2002))
これらの問題を解決するため、細胞を用いて組織を再生させることが有効であると考えられ、関節軟骨組織、あるいは分離した軟骨細胞の移植が試みられている。例えば、患者本人の重量負荷の少ない複数の部位から少量の軟骨片を採取し、それらを欠損部に移植するモザイク移植法(Mosaicplasty)が臨床的に行われている。しかし、移植できる軟骨には量的な限界があるため大きな欠損には適用できないという問題があり、さらに、移植後の機能は短期的には改善されるものの、長期的には繊維化などの不具合が生じてくる。(Clin Orthop Relat Res、401、170−184(2002))
また、別法として、軟骨小片から酵素処理にて分離した軟骨細胞を単層培養で増殖させてから移植する自家培養軟骨細胞移植法(CarticelTM)があるが、細胞は単層培養の過程で繊維芽細胞様に脱分化し、移植後も癒着、繊維化、肥大化が生じるなどの問題がある。(J Bone Joint Surg Am、88、503−507(2006)、J Bone Joint Surg Am、86、286−295(2004))従って、軟骨細胞移植により欠損部の再生を成功させるためには、脱分化していない正常な軟骨細胞を大量に確保できる技術の開発が必要である。
ところで、1999年に骨髄中に、骨、軟骨、脂肪、腱などの間葉系組織への多分化能を示す細胞の存在が報告され、間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cell)と名付けられた。(Sciene、4、(276)、71−74(1997))MSC独自の表面抗原はまだ完全には同定されていないがCD90、CD105、CD166、CD29、CD44などが陽性で、CD14、CD34、CD45などが陰性であるものをMSCと呼ぶことが現在一般的である。(Biochemical and Biophysical Research Communication、265、134−139(1999))また、MSCは骨芽細胞への分化能を保ったまま38PDL(Population Doubling Level)まで増殖でき(Journal of Cellular Biochemistry、64、278−294(1997))、軟骨細胞への分化能は22PDLまでは有していることが報告されている。(Experimental Hematology、28、707−715(2002))すなわち、MSCを増殖させた後で軟骨細胞へ分化させることにより、上述の量的な問題を解決できるとともに、患者本人の細胞を用いるため拒絶反応を回避した治療が可能となる。また、MSCからの軟骨再生の他の利点として、骨髄液採取に関する患者の負担が軽いこと、骨髄液からのMSCの分離が容易なことなども挙げられる。このように、MSCからの軟骨再生は非常に有望視されているが、この再生プロセスには、MSCの分離、増殖、分化、三次元化の一連の工程の開発が必要となる。
細胞を三次元的に培養する方法として、様々な足場材料を用いた培養法が考案されている。(Tissue Eng、13(7)、1583−1592(2007)、J Biomed Master Res、50、138−143(2000)、J Biomed Mater Res A(2005))例えば、天然高分子であるコラーゲンや合成高分子であるポリ乳酸(PLA:Poly lactic acid)、ポリグリコール酸(PGA:Poly glycolic acid)、ポリ乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA:Poly lactic glycolic acid)などの生体吸収性ポリマーを主成分としたスポンジやメッシュ材料を用いた方法がある。軟骨には抗圧縮性が求められるため、機械的強度の点に関してスポンジやメッシュは優れた足場材料となりうるが、細胞を担体内に均一に播種することが難しく、均質な組織の作成は困難と考えられる。さらにPLAやPGAにおいては移植後に分解生成物(PLAでは乳酸、PGAではグリコール酸)が炎症反応を引き起こすという問題がある。一方、コラーゲンやフィブリン、アガロース、アルギン酸などのゲル材料を用いたゲル包埋培養法がある。この方法は機械的強度は低いものの、担体内に細胞を均一に播種できる利点がある。しかし、これらの担体を用いる三次元培養には生体内に異物を移植するということで拒絶反応の可能性がある。
これらの担体の問題を解決するために、担体を使用しない培養方法が有用であることが考えられる。この代表例として軟骨細胞のペレット培養がある。(セルプロセッシング工学 −抗体医薬から再生医療まで−、コロナ社、111−112(2007))この培養法は細胞懸濁液を遠心分離することによって球状細胞凝集体を作成し、培養するというものである。MSCもペレット培養により軟骨細胞へ分化できることが確認されており(Tissue Engineering、4(4)、415−428(1998))、ペレット中では細胞密度が高く、パラクリン、ジャクスタクリンを含めた細胞間相互作用が強いため、効率良くMSCから軟骨細胞への分化させることができると考えられている。よって、MSCから担体を使用しないで三次元軟骨組織を作成できることが考えられたが、この方法では1本の遠心管で1つのペレットしか作成できず、直径も約0.03mmと臨床研究に用いるには小さすぎるという欠点がある。(Tissue Engineering、14(12)、2041−2049(2008))
これに対して我々は、スキャフォールドフリーで、形状や大きさを制御できるシート状組織の作成方法を検討し、遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れて遠心分離し、シート状動物細胞塊を形成させたまま該当容器内で培養開始して得られることを特徴とするシート状動物細胞塊培養組成物を発明した。(特願2008−244903)また、水平方向に平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れ、自然沈降した細胞を培養しても、シートの形状に偏りが生じるもののシート状動物細胞塊作成できることも見出している。(再生医療学会にて発表予定。2010年3月18、19日。広島国際会議場)
ところで、作成した移植用組織を患部に移植する際に、作成した移植用組織構造体が本来の組織と結合し固定生着されるまでの間、作成した移植用組織構造体が動かない様に患部に固定する必要がある。上述の不織布スキャフォールドを用いて作成した組織構造体の場合は作成した移植用組織構造体を患部に縫合して固定生着することが可能である。しかし、スキャフォールドフリーで作成した移植用組織構造体の場合機械的強度に劣るため縫合できない。また、その移植用構造体の主成分は軟骨細胞や分化したMSCの産生する細胞外マトリックスであるため、移植した際に母床軟骨組織の間の結合が新規に産生された細胞外マトリックスに阻害され生着が困難である。(Osteoarthritis Cartlage,9(SupplA),S6−15(2001)、整スポ会誌,Vol.27(2),215−221)
関節軟骨の疾患としては軟骨層の表層のみが浅く部分的に欠損した部分欠損と、軟骨下層の骨(下骨)にまで達する深い全層欠損とがある。後者の場合は軟骨組織構造体を作成して移植するだけでは下骨の再生が見られず不十分である。一方、作成し移植した軟骨構造体と周辺の正常な軟骨組織との結合生着が上記のように困難であるのに対して、移植した人工骨などの骨様構造体と周辺の正常な骨組織との結合が容易に、強固に行われることも知られている。ここで、移植用の人工骨材料としては、円柱状、棒状など種々の形態に成形されたハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウムなどが用いられている。
そこで、スキャフォールドフリーで作成された軟骨構造体と人工骨材料とが強固に結合した骨軟骨様構造体を作成し、下骨欠損部分にこの骨軟骨様構造体を移植すれば、骨軟骨様構造体の上部に固定されている軟骨構造体も患部に良好に固定され、軟骨組織が良好に再生するとともに、下骨も再生すると考えられた。これに関して、ハイドロキシアパタイトの上に軟骨細胞を播種して3週間培養し骨軟骨様構造体の作成を試みた報告があるが、軟骨様構造体とハイドロキシアパタイトとの結合強度が弱く強固に固定されない。(The Open Biomedical Engineering Journal,2,64−70(2008))
そこで、スキャフォールドフリーで作成する軟骨様構造体と人工骨材料とが強固に結合した移植用の骨軟骨様構造体の開発が必要であった。
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、スキャフォールドフリーで作成する軟骨様構造体と人工骨材料とが強固に結合した移植用の骨軟骨様構造体およびその作成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させたものである。即ち、本発明は少なくとも、遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れて遠心分離した後、遠心沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養において、培養開始以降に該培養容器底面上の該細胞塊の上に骨様固体を載せて作成することを特徴とする骨軟骨様構造体に関する。
本発明で用いる遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面の形状としては、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、正五角形、ドーナツ型などを例として挙げることができる。
本発明で用いる遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面の面積としては、0.15〜1000cmのいずれでもよいが、0.2〜10cmが好ましい。
本発明で用いる容器の深さとしては、3〜100mmのいずれでもよいが、5〜50mmが好ましい。
本発明で用いる容器の材質は、その成分が培養液に溶出し細胞に悪影響を与えるものでなくてはならないが、例としてポリスチレン、ポリプロピレン、ステンレス、ガラスなどを挙げることができる。
特に、動物細胞の接着に適した材質とは、動物細胞が接着しやすいように親水化処理を施されたり、接着タンパク質をコーティングされた材質などであり、接着培養用にプラズマ放電処理を施され「細胞培養用」として市販されているポリスチレン製培養器などを例として挙げることができる。
本発明で用いる遠心分離に用いる遠心分離器としては、遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面を含む容器を遠心できるものであればどのようなものでもよいが、スイング型が望ましい。
遠心速度としては、50〜15000rpmのいずれでもよいが、100〜3000rpmが好ましい。
本発明で用いる動物細胞は、動物由来の細胞であり、動物の種類としては鳥類、爬虫類、両生類、魚類、哺乳類などを挙げることができる。哺乳類動物としては、たとえばヒト、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネズミなどを例としてあげることができる。また、動物から採取してから一般的に50回程度までの限られた回数のみ分裂、増殖できる初代細胞および動物から採取された後一般に50回以上の多数回分裂、増殖できる細胞株の両方とも用いることができる。初代細胞の例として、ヒト関節軟骨細胞、ラット初代肝細胞、マウス初代骨髄細胞、ブタ初代肝細胞、ヒト初代臍帯血細胞などを挙げることができる。細胞株の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO細胞、ヒト子宮癌細胞株HeLa、アフリカミドリザル腎細胞株Vero細胞、ヒト肝ガン細胞株Huh7細胞などを挙げることができる。また、以上にあげた細胞に対して、プラスミドの導入、ウイルス感染などの手段により遺伝子操作を施して得られた細胞も本発明で用いることができる。
本発明で用いる軟骨細胞は、関節軟骨組織から採取した軟骨細胞、骨髄液や臍帯血に含まれる間葉系幹様細胞およびそれらから体外で分化させて得られる軟骨細胞、ある時期の受精卵から分離される胚性幹細胞(ES細胞)およびそれらから体外で分化させて得られる軟骨細胞などを例として挙げることができる。また、以上にあげた細胞に対して、プラスミドの導入、ウイルス感染などの手段により遺伝子操作を施して得られた細胞も本発明で用いることができる。
本発明で作成するシート状動物細胞塊の面積は、遠心分離に用いる容器の遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の面積以下である。
本発明で作成するシート状動物細胞塊の厚さは、0.1〜100mmのいずれでもよいが、0.5〜15mmが好ましい。
本発明で作成するシート状動物細胞塊の厚さは同じ細胞塊でも場所により差異が生じる場合があるが、その偏差は±50%の範囲内であればよいが、±20%以内が好ましい。
本発明で用いる培養用の培地としては、細胞の増殖及び維持を支援すべく使用される成長因子及び栄養素を含む標準培地や標準培地に動物血清をはじめとする種々の添加物を加えた培地を例として挙げることができる。用いる標準培地は培養を所望する細胞種によって異なり、通常動物細胞の培養で用いられるイスコフ培地、RPMI培地、ダルベッコMEM培地など培地を用いうるが、公知文献等により、細胞の増殖及び維持に有効であることが知られている血清以外の因子、たとえば血清アルブミン、トランスフェリン、脂質及び脂肪酸源、コレステロール、ピルビン酸塩、グルココルチコイド、DNA及びRNA合成用ヌクレオシド、増殖因子(例えば表皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子及びインシュリン)、並びに細胞外マトリックス細胞(例えばコラーゲン、フィブロネクチン及びラミニン)等を添加してもよい。
本発明で行う培養の期間は、1〜2000hのいずれでもよいが、24〜504hが好ましい。
本発明で用いる骨様固体の材質としては、一定以上の機械的強度を有する必要があり、培養中に動物細胞に有害な成分を溶出するなど動物細胞に有害な作用を及ぼすものでないものがよく、例として三リン酸カルシウム(βTCPなど)、ハイドロキシアパタイトなどを挙げることができる。
本発明で用いる骨様固体の形状としては、円柱、三角柱、立方体、直方体などを例として挙げることができる。
【実施例】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
ブタの大腿骨ヒザ関節軟骨をメスで採取し、0.25%コラゲナーゼ溶液(DMEM+10%FCSに溶かす。)に懸濁し、37℃で4時間インキュベートして、軟骨細胞懸濁液を得た。
18.6×10cells/mlの細胞懸濁液(DMEM+10%FCS+50mg/Lアスコルビン酸リン酸エステル)0.3mlを96穴マルチウェル(SUMILON MS−8096F)に入れ、1200rpmで5分間遠心分離した後、37℃、5%CO下で静置培養した。培養開始後1、2、3、4、5、6、7日のいずれかの時間に、細胞塊の上にβTCP円柱体(直径5mm、高さ3mm)を静かに置いて、それぞれ合計3週間培養した。いずれも2日ごとに培地を交換した。
培養終了後、骨軟骨様構造体を固定(フォルムアルデヒド)、パラフィン包埋後、切片(厚さ3μm)を作成し、アルシアンブルー染色し、軟骨様細胞シートの厚さをTCPの上とTCPの中について測定した。(図1)
その結果、軟骨様細胞シートの一部がTCP内に入っていることが分かった。TCPの上と中のシート厚さの合計はTCPを載せるまでの培養時間に関わらずほぼ一定であった。一方、TCPの中のシート厚さは、TCPを載せるまでの培養時間が短い方が厚い傾向にあることが認められた。すなわち、TCPを培養初期に載せた方がシートとTCPが十分に結合できることが示唆された。
【実施例2】
ブタの大腿骨ヒザ関節軟骨をメスで採取し、0.25%コラゲナーゼ溶液(DMEM+10%FCSに溶かす。)に懸濁し、37℃で4時間インキュベートして、軟骨細胞懸濁液を得た。
18.6×10cells/mlの細胞懸濁液(DMEM+10%FCS+50mg/Lアスコルビン酸リン酸エステル)0.3mlを96穴マルチウェル(SUMILON MS−8096F)に入れ、1200rpmで5分間遠心分離した後、37℃、5%CO下で静置培養した。培養開始後5、7、10日のいずれかの時間に、細胞塊の上にβTCP円柱体(直径5mm、高さ3mm)を静かに置いて、それぞれ合計3週間培養した。いずれも2日ごとに培地を交換した。
培養終了後、シートの上にTCPが結合した構造体を、TCPをピンセットでつまんで静かに引き上げることにより、96穴ウェルから出すことを試みた。
その結果、培養開始後5日後にβTCPを置いたものは、12個培養したものすべてについて、TCPが細胞シートから外れることなく、TCPをピンセットで持ってシート状の細胞塊をウェルから出せた。(図2)それに対して、培養開始後7日後にβTCPを置いたものは、11個培養したもののうち7個については、TCPが細胞シートから外れることなく、TCPをピンセットで持ってシート状の細胞塊をウェルから出せたが、4個はTCPがシートから外れてしまいシートをウェルから出すことができなかった。さらに、培養開始後10日後にβTCPを置いたものは、6個培養したもののうち6個すべてにおいて、TCPがシートから外れてしまいシートをウェルから出すことができなかった。すなわち、培養開始後5日後にβTCPを置いたものはTCPと細胞シートが強固に結合していたが、培養開始後7日後にβTCPを置いたものはやや弱く、培養開始後10日後にβTCPを置いたものは明らかに結合が弱いということが判明した。
これは実施例1の結果と符合する結果と考えられた。すなわち、細胞シートがまだ柔らかい培養初期にTCPを載せることにより、TCPがシート中により深く沈みこみTCP中のシート部分が厚くなることにより、シートとTCPとの結合が強くなると考えられた。
【発明の効果】
以上示したように、本発明によれば、少なくとも、遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れて遠心分離した後、遠心沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養あるいは、水平方向に平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れた後、自然沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養において、培養開始以降に該培養容器底面上の該細胞塊の上に骨様固体を載せることにより、細胞塊(シート)と骨様固体が強固に結合した骨軟骨様構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】TCPの上およびTCPの中の軟骨様細胞シートの厚さとTCPを載せるまでの培養時間の関係
【図2】TCPを載せるまでの培養時間とシート/TCP結合強度の関係

【特許請求の範囲】
1.遠心回転半径方向に垂直な平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れて遠心分離した後、遠心沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養において、培養開始以降に該培養容器底面上の該細胞塊の上に骨様固体を載せて作成することを特徴とする骨軟骨様構造体。
2.水平方向に平坦な内面の底面を含む容器に動物細胞懸濁液を入れた後、自然沈降により形成したシート状動物細胞塊を該当容器内で培養するシート状動物細胞塊の培養において、培養開始以降に該培養容器底面上の該細胞塊の上に骨様固体を載せて作成することを特徴とする骨軟骨様構造体。
3.使用動物細胞が軟骨細胞であることを特徴とする請求項1乃至2に記載の骨軟骨様構造体。
4.使用動物細胞が間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1乃至2に記載の骨軟骨様構造体。
5.平坦な内面の面積が0.3cm以上であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の骨軟骨様構造体。
6.平坦な内面が動物細胞の接着に適した材質からなることを特徴とする請求項1乃至5に記載の骨軟骨様構造体。
7.骨様固体がセラミックスであることを特徴とする請求項1乃至6に記載の骨軟骨様構造体。
8.骨様固体がβTCPであることを特徴とする請求項1乃至6に記載の骨軟骨様構造体。
9.骨様固体がハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項1乃至6に記載の骨軟骨様構造体。
10.遠心分離操作後、168時間以内の間に骨様固体を載せて作成することを特徴とする請求項1乃至9に記載の骨軟骨様構造体。

【図1】
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【図2】
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