説明

骨適合性チタン材料の製造方法及び骨適合性チタン材料

【課題】チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成する。
【解決手段】骨適合性チタン材料の製造方法は、HAP粉末2と蒸留水3とを混合して、HAPスラリー5を作製する工程と、そのHAPスラリー5内にチタンまたはチタン合金よりなる試料6を埋入する工程と、当該試料6が埋入されたHAPスラリー5を大気雰囲気中で熱処理することにより、試料6の表面に厚さ略5nm〜100nmのHAP層を形成する工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば人工股関節や歯科用インプラント等の材料として利用される骨適合性チタン材料の製造方法及び骨適合性チタン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン又はチタン合金は、機械的特性、体液に対する耐食性、及び生体適合性(骨適合性)に優れているため、人工股関節や歯科用インプラント等の材料として利用されている。しかしながら、チタン又はチタン合金は、骨との親和性が低く骨との結合に長時間を要する、すなわち、生体活性が低いという問題があり、チタン又はチタン合金の骨に対する親和性は、当該チタン又はチタン合金の表面特性によって決まることが知られている。
【0003】
そこで、骨に対して親和性の高い、すなわち、生体活性な、チタン又はチタン合金の表面を得るために、各種のチタン又はチタン合金の表面改質法が研究されている。表面改質法としては、プラズマ溶射法が最もよく知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、生体活性なハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムの粉末を、プラズマアークを使用して、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面に溶着させている。これにより、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面に、生体活性なハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムを形成してなる骨適合性チタン材料を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−52471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマ溶射法による骨適合性チタン材料の製造方法では、溶射材料であるハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム系化合物の粉末を一旦瞬間的に高温に曝させ、半溶解のリン酸カルシウム系化合物の粉末を吹き付けることによりチタン又はチタン合金の表面上に堆積させるだけのため、チタン又はチタン合金の表面に形成されるリン酸カルシウム系化合物層の組成及び結晶性を制御することは困難であった。このため、リン酸カルシウム系化合物層のチタン又はチタン合金に対する密着性が不十分になり、リン酸カルシウム系化合物層とチタンまたはチタン合金との間の界面から骨適合性チタン材料の破壊が起きやすかった。また、これと共に、チタン又はチタン合金の表面に形成されるリン酸カルシウム系化合物層が厚くなって、リン酸カルシウム系化合物層の機械的強度が損なわれて、当該リン酸カルシウム系化合物層自体の層内破壊が起きやすかった。またさらに、プラズマ溶射法による骨適合性チタン材料の製造方法は、処理プロセスが複雑であり、高価な装置を要するため、製造コストが高かった。
【0006】
本発明の目的は、チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成することができる骨適合性チタン材料の製造方法及び骨適合性チタン材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明の骨適合性チタン材料の製造方法は、チタンまたはチタン合金の表面にリン酸カルシウム系化合物層を形成してなる骨適合性チタン材料の製造方法であって、リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤を作製する工程と、前記スラリー状態の処理剤内に前記チタンまたはチタン合金を埋入する工程と、前記チタンまたはチタン合金が埋入された前記スラリー状態の処理剤を大気中で熱処理することにより、前記チタンまたはチタン合金の表面に厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本願第1発明の骨適合性チタン材料の製造方法においては、リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤を作製する。そして、そのスラリー状態の処理剤内に、チタンまたはチタン合金を埋入する。その後、チタンまたはチタン合金が埋入されたスラリー状態の処理剤を大気中で熱処理する。これにより、化学的表面処理によって、チタンまたはチタン合金の表面に、厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層が形成される。リン酸カルシウム系化合物は、骨の無機成分であり、骨に対する親和性に優れ、骨と直接結合するという性質、すなわち、生体活性を有している。したがって、チタンまたはチタン合金の表面にリン酸カルシウム系化合物層を形成してなるチタン材料は、リン酸カルシウム系化合物層を介して骨と結合される。
【0009】
また、チタンまたはチタン合金が埋入されたスラリー状態の処理剤を熱処理することにより、チタンまたはチタン合金の表面に、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、極めて薄いリン酸カルシウム系化合物層を形成することができる。これにより、リン酸カルシウム系化合物層自体の機械的強度を飛躍的に向上させることができる。また、これと共に、リン酸カルシウム系化合物層とチタンまたはチタン合金との間の界面をチタンやカルシウム等に関して傾斜組成とすることができる。これにより、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、リン酸カルシウム系化合物層とチタンまたはチタン合金との間を不明瞭な界面とすることができ、チタンまたはチタン合金の表面に形成されるリン酸カルシウム系化合物層の、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性を向上させることができる。これらの結果、上記界面からのチタン材料の破壊を防止することができる。また、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、リン酸カルシウム系化合物層を形成するための、処理プロセスが極めて簡便であるので、製造コストを著しく低下させることができる。
【0010】
以上のように、本願第1発明の骨適合性チタン材料の製造方法においては、チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成することができる。
【0011】
第2の発明の骨適合性チタン材料の製造方法は、上記第1発明において、前記リン酸カルシウム系化合物層は、ハイドロキシアパタイト層であることを特徴とする。
【0012】
ハイドロキシアパタイトは、骨の主成分であり、優れた生体活性を有している。したがって、チタンまたはチタン合金の表面にハイドロキシアパタイト層を形成することにより、当該ハイドロキシアパタイト層を介して、チタン材料をより確実に骨と結合させることができる。
【0013】
第3の発明の骨適合性チタン材料の製造方法は、上記第1発明において、前記スラリー状態の処理剤内に前記チタンまたはチタン合金を埋入する前に、酸性水溶液で前処理を行う工程をさらに含むことを特徴とする。
【0014】
これにより、スラリー状態の処理剤による処理効果を促進させることができる。
【0015】
上記目的を達成するために、第4の発明の骨適合性チタン材料は、チタンまたはチタン合金と、リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して作製されたリン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤内に、前記チタンまたはチタン合金を埋入し、前記チタンまたはチタン合金が埋入された前記スラリー状態の処理剤を大気中で熱処理することにより、前記チタンまたはチタン合金の表面に形成される厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層とを有することを特徴とする。
【0016】
本願第4発明の骨適合性チタン材料は、チタンまたはチタン合金と、当該チタンまたはチタン合金の表面に形成される厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層とを有している。当該リン酸カルシウム系化合物層は、リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して作製されたリン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤内に、チタンまたはチタン合金を埋入し、当該チタンまたはチタン合金が埋入されたスラリー状態の処理剤を大気中で熱処理することにより、化学的表面処理によって形成される。リン酸カルシウム系化合物は、骨の無機成分であり、骨に対する親和性に優れ、骨と直接結合するという性質、すなわち、生体活性を有している。したがって、チタンまたはチタン合金の表面にリン酸カルシウム系化合物層を形成してなるチタン材料は、リン酸カルシウム系化合物層を介して骨と結合される。
【0017】
また、チタンまたはチタン合金が埋入されたスラリー状態の処理剤を熱処理することにより、チタンまたはチタン合金の表面に、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、極めて薄いリン酸カルシウム系化合物層を形成することができる。これにより、リン酸カルシウム系化合物層自体の機械的強度を飛躍的に向上させることができる。また、これと共に、リン酸カルシウム系化合物層とチタンまたはチタン合金との間の界面をチタンやカルシウム等に関して傾斜組成とする、言い換えれば、リン酸カルシウム系化合物層とチタンまたはチタン合金との間を不明瞭な界面とする、ことができる。これにより、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、チタンまたはチタン合金の表面に形成されるリン酸カルシウム系化合物層の、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性を向上させることができる。これらの結果、上記界面からのチタン材料の破壊を防止することができる。また、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、リン酸カルシウム系化合物層を形成するための、処理プロセスが極めて簡便であるので、製造コストを著しく低下させることができる。
【0018】
以上のように、本願第4発明の骨適合性チタン材料は、チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成することができる。
【0019】
第5の発明の骨適合性チタン材料は、上記第4発明において、前記リン酸カルシウム系化合物層は、ハイドロキシアパタイト層であることを特徴とする。
【0020】
ハイドロキシアパタイトは、骨の主成分であり、優れた生体活性を有している。したがって、チタンまたはチタン合金の表面にハイドロキシアパタイト層を形成することにより、当該ハイドロキシアパタイト層を介して、チタン材料をより確実に骨と結合させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態の骨適合性チタン材料の製造方法の一例を表す概略工程図である。
【図2】チタン材料の表面のSEM像を示す写真である。
【図3】チタン材料の表面に対するGI−XRDパターンを示すグラフである。
【図4】HBSS溶液中に6日間浸漬した後のチタン材料の表面のSEM像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1を参照して本発明の一実施の形態を説明する。図1は、本実施形態の骨適合性チタン材料の製造方法の一例を表す概略工程図である。
【0024】
図1において、本実施形態においては、チタン又はチタン合金の表面に、リン酸カルシウム系化合物層の一例として、ハイドロキシアパタイト(以下適宜、「HAP」と称する)層を形成してなる骨適合性チタン材料を製造する。なお、チタンとしては、工業用純チタンが使用される。また、チタン合金としては、特に限定されないが、例えば、工業用純チタンを主成分とし、Ca,P,O,Fe,Al,Sn,Pd,Cr,Ta,Nb,Zr等の合金元素を含有したチタン合金が使用される。
【0025】
すなわち、図1(a)に示すように、まず、容器1内においてHAP粉末2(リン及びカルシウムを含む粉末)と蒸留水3とを混合する。そして、これら混合物を攪拌棒4により攪拌することにより、HAPを含むスラリー状態の処理剤5(リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤。後述の図1(b)参照)を作製する。この工程が、各請求項記載のリン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤を作製する工程に相当する。なお、以下適宜、上記HAPを含むスラリー状態の処理剤5を、「HAPスラリー5」と称する。
【0026】
その後、図1(b)に示すように、上記作製されたHAPスラリー5内に、チタン又はチタン合金よりなる試料6を埋入する。この工程が、各請求項記載のスラリー状態の処理剤内にチタンまたはチタン合金を埋入する工程に相当する。
【0027】
そして、図1(c)に示すように、上記試料6が埋入されたHAPスラリー5が入っている容器1を電気炉7内に入れ、当該試料6が埋入されたHAPスラリー5を、大気雰囲気中(大気中)で熱処理、言い換えれば、高温酸化処理する。これにより、試料6の表面に、結晶化された厚さ略5nm〜100nmのHAP層を形成させる。この工程が、各請求項記載のチタンまたはチタン合金の表面に厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層を形成する工程に相当する。
【0028】
その後、上記HAP層に被覆された試料6を容器1内から取り出し、当該試料6を蒸留水で洗浄する。これにより、試料6の表面に厚さ略5nm〜100nmのHAP層を形成してなる骨適合性チタン材料(以下適宜、省略して「チタン材料」と称する)が得られる。
【0029】
すなわち、本実施形態におけるチタン材料は、チタン又はチタン合金からなる試料6と、当該試料6の表面に形成される厚さ略5nm〜100nmのHAP層とを有している。当該HAP層は、上述したように、HAP粉末2と蒸留水とを混合して作製されたHAPスラリー5内に、試料6を埋入し、当該試料6が埋入されたHAPスラリー5を大気中で熱処理することにより形成される。
【0030】
以上説明したように、本実施形態においては、リン及びカルシウムを含む粉末(上記の例ではHAP粉末2)と蒸留水3とを混合して、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤(上記の例ではHAPスラリー5)を作製する(図1(a)を参照)。そして、その作製されたHAPスラリー5内に、チタンまたはチタン合金よりなる試料6を埋入する(図1(b)を参照)。その後、当該試料6が埋入されたHAPスラリー5を、大気雰囲気中で熱処理する(図1(c)を参照)。これにより、化学的表面処理によって、試料6の表面に、厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層(上記の例ではHAP層)が形成される。リン酸カルシウム系化合物は、骨の無機成分であり、骨に対する親和性に優れ、骨と直接結合するという性質、すなわち、生体活性を有している。したがって、試料6の表面にHAP層を形成してなるチタン材料は、HAP層を介して骨と結合される。
【0031】
また、試料6が埋入されたHAPスラリー5を熱処理することにより、試料6の表面に、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、極めて薄いHAP層を形成することができる。これにより、HAP層自体の機械的強度を飛躍的に向上させることができる。また、これと共に、HAP層と試料6との間の界面をチタンやカルシウム等に関して傾斜組成とする、言い換えれば、HAP層と試料6との間を不明瞭な界面とする、ことができる。これにより、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、試料6の表面に形成されるHAP層の、当該試料6に対する密着性を向上させることができる。これらの結果、上記界面からのチタン材料の破壊を防止することができる。また、プラズマ溶射技術を用いる場合に比べ、HAP層を形成するための、処理プロセスが極めて簡便であるので、製造コストを著しく低下させることができる。
【0032】
以上のように、本実施形態においては、試料6の表面に、当該試料6に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なHAP層を簡便かつ安価に形成することができる。
【0033】
また、本実施形態では特に、上記試料6の表面に形成されるリン酸カルシウム系化合物層は、HAP層である。HAPは、骨の主成分であり、優れた生体活性を有している。したがって、試料6の表面にHAP層を形成することにより、当該HAP層を介して、チタン材料をより確実に骨と結合させることができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記HAPスラリー5内に試料6を埋入する前に、例えば塩酸などの酸性水溶液で前処理を行うようにしてもよい。この場合には、HAPスラリー5による処理効果を促進させることができる。
【0035】
また、上記実施形態においては、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤(上記の例ではHAPスラリー5)を作製するために、リン及びカルシウムを含む粉末(上記の例ではHAP粉末2)と蒸留水3とを混合していたが、これに限られない。すなわち、上記蒸留水3の代わりに、例えば水酸化アルカリ金属化合物やハロゲンイオン等を含む水溶液を用いてもよい。あるいは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合してもよいし、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合してもよい。これらの場合でも、上記実施形態と同様に、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤を作製することができる。
【0036】
また、上記実施形態においては、試料6の表面に、リン酸化カルシウム系化合物層の一例として、HAP層を形成してなるチタン材料を製造する場合を示したが、これに限られない。例えば、リン酸化カルシウム系化合物層として、リン酸三カルシウム層を形成してなるチタン材料を製造するようにしてもよい。あるいは、上記HAPやリン酸三カルシウム以外のリン酸化カルシウム系化合物よりなる層を形成してなるチタン材料を製造するようにしてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、具体例を用いて本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0038】
本実施例では、上記試料6として、エメリ紙#1500で研磨された円盤状(φ8mm×t1mm)の市販一種チタン板を準備した。そして、上記HAP粉末2・1gに対して上記蒸留水3・1.5mLを混合し、これら混合物を攪拌棒4により攪拌して、上記HAPスラリー5を作製した。
【0039】
そして、HAPスラリー5の作製後直ちに、当該HAPスラリー5内に試料6を埋入した。その後、試料6が埋入されたHAPスラリー5を上記電気炉7内に入れ、大気雰囲気中・923Kで2時間保持して熱処理を行った。熱処理後のHAPスラリー5は乾燥した固体あり、HAPスラリー5に含まれていた水分が熱処理により蒸発したため多くのひびが観察された。なお、熱処理温度及び熱処理時間は例示であり、上記の温度及び時間に限られない。
【0040】
そして、上記熱処理後の固体化されたHAPスラリー5内から試料6を取り出し、その取り出した試料6を、超音波洗浄機を用いて蒸留水で洗浄して、空気中・333Kで乾燥させ、チタン材料を得た。
【0041】
(1)チタン材料の表面特性
まず、上記のようにして得られたチタン材料の表面特性を、走査電子顕微鏡(以下適宜、「SEM」と称する)及び微小角入射X線回折(以下適宜、「GI−XRD」と称する)で評価した。
【0042】
図2に、上記のようにして得られたチタン材料の表面のSEM像を示す。図2に示すように、このSEM像では、チタン材料の表面は、ほぼ全域にわたって積層された結晶によって覆われていることが観察された。
【0043】
図3に、上記のようにして得られたチタン材料の表面に対するGI−XRDパターンを示す。図3に示すように、このGI−XRDパターンでは、試料6に由来するチタンのピーク以外に、HAPに帰属されるピーク、チタン酸カルシウムに帰属されるピーク、及び、二酸化チタンに帰属されるピークが観察された。
【0044】
この結果から、チタン材料の表面に、HAP層が形成されていることを確認した。また、この結果から、チタン材料は、試料6上にルチル構造の二酸化チタン層が形成され、その直上に中間層として、ペロブスカイト構造のチタン酸カルシウム層(あるいはチタン酸カルシウム及び二酸化チタンの混合層)が形成され、その直上に表面層として、生体活性なHAP層(あるいはHAP及びチタン酸カルシウムの混合層)が形成されていると考えられる。
【0045】
すなわち、HAP層と試料6との間の界面部分には、チタン酸カルシウム層や二酸化チタン層が形成され、チタンやカルシウム等に関して傾斜組成となっていると考えられる。具体的には、チタン材料の表面から内部に向かうに従って、チタンの濃度が増加し、カルシウムの濃度が減少していると考えられる。したがって、上記のようにして得られたチタン材料では、HAP層と試料6との間が不明瞭な界面になっていると考えられる。つまり、試料6の表面上に形成されたHAP層の、当該試料6に対する密着性は高いことが示唆される。
【0046】
また、チタン材料の表面層として形成されたHAP層は、当該チタン材料の表面の全域にわたって、概ね5nm〜100nmの厚さで形成されていた。
【0047】
(2)疑似体液中におけるHAP形成性能
次に、上述のようにして得られたチタン材料の疑似体液中におけるHAP形成性能を評価した。本実施例では、疑似体液として、血液の無機成分と類似した組成を持つハンクス緩衝塩類溶液(以下適宜、「HBSS溶液」と称する)を用いた。このHBSS溶液は、適量のNaCl,KCl,MgSO・7HO,NaHPO,KHPO,NaHCOをイオン交換水に溶解して作製した。なお、作製直後のHBSS溶液のpH値は約7.4であった。
【0048】
すなわち、まず、310Kに保持された12.6mLのHBSS溶液を容器に入れた。なお、この容器は、容器から溶出するSiの汚染を避けるため、テフロン(登録商標)PFA製容器を用いた。そして、上述のようにして得られたチタン材料を、上記HBSS溶液に浸漬した。そして、浸漬してから6日後にチタン材料をHSBB溶液から取り出した。その後、その取り出したチタン材料を蒸留水ですすぎ、大気中・313Kで乾燥させ、当該チタン材料のHAP形成性能をSEMで評価した。
【0049】
図4に、HBSS溶液中に6日間浸漬した後のチタン材料の表面のSEM像を示す。図4に示すように、このSEM像では、HBSS溶液中に6日間浸漬した後のチタン材料上(詳細にはHAP層上)に、球状のHAPの析出物が多数観察された。また、このHAPの析出物はチタン材料上で積層して、当該チタン材料の表面を覆っていた。
【0050】
ここで、チタン又はチタン合金が骨との親和性を示す条件は、体液中で表面にHAPを形成することである。したがって、このSEMによる結果は、上記のようにして得られたチタン材料のHAP層が生体活性であることを示唆している。
【0051】
以上の結果より、チタンまたはチタン合金の表面に、当該チタンまたはチタン合金に対する密着性が高く、厚さが極めて薄い、生体活性なリン酸カルシウム系化合物層を簡便かつ安価に形成することができるという、本発明の効果を実証することができた。
【符号の説明】
【0052】
1 容器
2 HAP粉末(リン及びカルシウムを含む粉末)
3 蒸留水
4 攪拌棒
5 HAPスラリー(リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤)
6 チタン又はチタン合金よりなる試料
7 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金の表面にリン酸カルシウム系化合物層を形成してなる骨適合性チタン材料の製造方法であって、
リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して、リン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤を作製する工程と、
前記スラリー状態の処理剤内に前記チタンまたはチタン合金を埋入する工程と、
前記チタンまたはチタン合金が埋入された前記スラリー状態の処理剤を大気中で熱処理することにより、前記チタンまたはチタン合金の表面に厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層を形成する工程とを含む
ことを特徴とする骨適合性チタン材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の骨適合性チタン材料の製造方法において、
前記リン酸カルシウム系化合物層は、ハイドロキシアパタイト層である
ことを特徴とする骨適合性チタン材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の骨適合性チタン材料の製造方法において、
前記スラリー状態の処理剤内に前記チタンまたはチタン合金を埋入する前に、酸性水溶液で前処理を行う工程をさらに含む
ことを特徴とする骨適合性チタン材料の製造方法。
【請求項4】
チタンまたはチタン合金と、
リン及びカルシウムを含む粉末と蒸留水または水溶液とを混合して、若しくは、リンを含む粉末とカルシウムを含む水溶液とを混合して、若しくは、カルシウムを含む粉末とリンを含む水溶液とを混合して作製されたリン及びカルシウムを含むスラリー状態の処理剤内に、前記チタンまたはチタン合金を埋入し、前記チタンまたはチタン合金が埋入された前記スラリー状態の処理剤を大気中で熱処理することにより、前記チタンまたはチタン合金の表面に形成される厚さ略5nm〜100nmのリン酸カルシウム系化合物層と
を有することを特徴とする骨適合性チタン材料。
【請求項5】
請求項4記載の骨適合性チタン材料において、
前記リン酸カルシウム系化合物層は、ハイドロキシアパタイト層である
ことを特徴とする骨適合性チタン材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate