説明

高い空間分解能の一定の構造部の製造

【課題】
本発明は、一定な構造部を高い空間分解能で製造する方法に関する。光学信号(5)によって変更可能である物質が書込領域(7)内に用意される。光学信号(5)が、空間的に限定された部分領域を適切に照射し、光学信号(5)によって検出された書込領域(7)の部分領域内とは違う物質の別の状態(C)が、この部分領域内に一定に設定されるように、この光学信号(5)は、書込領域(7)上に照射される。この場合、光学信号(5)によって適切に照射される部分領域は、光学信号(5)の局所の最小強度(9)であること、及び、飽和が、光学信号による物質の変更時に得られるように、適切に照射される空間的に限定された部分領域の外側の光学信号(5)が照射される。こうして、製造された構造部の回折限界が低減され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念の特徴に記載の光学信号を使用して高い空間分解能の一定の構造部を製造する方法に関する。さらに本発明は、請求項24の上位概念に記載の光学信号を使用して一定に構成可能な書込領域を有する装置に関する。本発明は、特に光学記憶装置への書込み及び微細リソグラフィック構造の形成で使用できる。
【背景技術】
【0002】
この方法又はこの装置で製造された構造部の耐久性は、少なくとも1分より遥かに長い期間に対して、特に1日より遥かに長い期間に対して又はさらに長い期間に対して、好ましくは構造部が不自然に変形するか又は消失するまで付与されなければならない。
【0003】
従来の技術
請求項24の上位概念に記載の装置が使用される請求項1の上位概念に記載の公知の方法の場合、フォトレジストから成る層の全体が、光学信号によって露光される。この層は、一定に形成されなければならない。この場合、希望する構造部は、書込領域のこの形成(veraenderten)された部分領域から構成されるのではなくて、光学信号によって適切に照射(ausgelassenen) される部分領域から構成される。
【0004】
結像光学方法及び変調光学方法の空間分解能は、基本的に使用される光の波長に依存する回折限界(アッベ限界)によって定められる。
【0005】
したがって、光学信号を使用して高い空間分解能の一定な構造部を製造する全ての公知の方法での回折限界は、例えば光学記憶装置内へのデータの書込み時の分解能に対する及び記憶装置内で実現可能な記憶密度に対する又は微細リソグラフィでの通常の下限である。例えばフォトレジストで常により小さい構造部を実現するため、これまで常により短い波長に移行することが強制されている。したがって現在では、遠紫外線光(英語:deep-UV light )が使用される。将来的には、X線の使用が試みられている。この場合、問題は、波長<250nmの光の焦点合わせが困難であること及び使用すべき光学系が高価でかつ効率的でないことである。
【0006】
蛍光顕微鏡法の分野では、試料の構造部の結像時の回折限界が、有効な焦点と入射された強度との間の非線形な関係を利用することによって有効に下回ることが既に公知である。例えば、試料中の多光子吸収又は入射光のより高い調和の生成である。例えば、励起放射による蛍光状態の減衰( 英語:stimulated emission depletion=STED) 時又は基底状態の減衰( 英語:ground state depletion=GSD) 時のような光学誘導遷移の飽和も、非線形な関係として利用され得る。原理的に分子の分解能が得られるこれらの両方法の場合、光学信号が、特性限界値、すなわち飽和限界値を超えるときに、蛍光色素が、蛍光を(もはや)起こさないエネルギー状態に遷移する。試料の関心のある構造部が、この蛍光色素でマーキングされる。空間領域が、零地点を有し例えば干渉によって生成される光学信号の局所の最小強度によって確定される時に、この空間領域の寸法及び同時に得られた場所分解能は、回折限界より小さい。このとき、さらに1つの測定信号が、この空間領域から記録される。この理由は、空間的に制限された部分領域が蛍光に関与する状態の減衰の飽和度の増大と共に狭まることによる。測定信号は、この部分領域から記録される。同様に、焦点又はパターンの縁部がより急勾配になる。このことは、場所分解能を同様に上げる。
【0007】
具体的なSTED法が、国際特許出願公開第95/21393号明細書から公知である。この方法の場合、試料又はこの試料中の蛍光色素が、光学励起信号によって蛍光励起される。励起の空間部分領域が、光学非励起信号の干渉パターンの最小強度に重畳されることによって、この励起の空間部分領域が小さくなる。一般に回折限界が、この空間部分領域に対して成立する。非励起信号が、飽和限界値を超えると、蛍光色素が、励起放射によって少なくともほぼ完全に遮断される、すなわち先に励起されたエネルギー状態に再び非励起される。この残っている空間部分領域は、最小強度の零地点周りの小さくなった領域だけに相当する。引き続き蛍光が、この空間部分領域から自然発生的に放出される。最小強度では、非励起信号が提供されないか又は十分な強度で提供されない。
【0008】
The Journal of Biological Chemistry 第275 巻,No.84 ,第25879-25882 頁(2000)から、緑色光によって赤色領域内で次第に蛍光励起可能であるタンパク質が公知である。しかしこのタンパク質は、青い光による照射時にその蛍光特性を失う。この過程は可逆である。明らかにこの緑色光は、タンパク質を、蛍光特性を有する立体配座状態に切り替え、同時に蛍光を調整する一方で、青い光は、タンパク質を蛍光特性なしの立体配座状態に切り替える。このタンパク質は、イソギンチャクであるヘビイソギンチャク中に存在する天然タンパク質である。この天然タンパク質のここに記されている機能が、適切なアミノ酸を置換することによって強化され得る。
【0009】
さらに雑誌Nature第388 巻,第355-358 号(1997)から、緑色蛍光タンパク質(英語:green-fluorescent protein, GFP)及び突然変異体が、これから2つの状態間で切り替えられ得ることが公知である。この場合、一方の状態は、他方の状態とスペクトル的に区別がつく。両タンパク質は、蛍光マーカとして生きている細胞中に入れられ得る。
【0010】
刊行物Nature第420 巻,第759-760 号(2002)から、Diarylethenen 族から成る蛍光分子が公知である。これらの蛍光分子は、蛍光状態と非蛍光状態との間を任意に往復することができる。両状態は熱的に安定である。その結果、その切替プロセスは、光学信号の比較的低い強度によって実施され得る。この切替プロセスは、光異性化又は光の周期変動(Photocyclisierung) である。光の影響下でその色を変える分子は、一般にホトクロミズム分子 (photochromenen Molekuele) と呼ばれる。
【特許文献1】国際特許出願公開第95/21393号明細書
【特許文献2】The Journal of Biological Chemistry 第275 巻,No.84 ,第25879-25882 頁(2000)
【特許文献3】Nature第388 巻,第355-358 号(1997)
【特許文献4】Nature第420 巻,第759-760 号(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題
本発明の課題は、請求項1に上位概念に記載の方法を提供することにある。この方法の場合、光学信号を使用して一定な構造部を製造する場合の回折限界が下回ることが可能である。さらに本発明の課題は、この方法に適した請求項24の上位概念に記載の装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要約
本発明のこの課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法及び請求項24に記載の特徴を有する装置によって解決される。
【0013】
この方法及びこの装置の好適な実施形は、従属請求項中に記載されている。この場合、従属請求項22及び23は、新規な方法の具体的な用途に関する。この場合、新規な装置のその他の好適な実施形は、この方法に対する従属請求項からも導き出すことができる。
【0014】
本発明の説明
この新規な方法の場合、光学信号によって適切に照射される部分領域が、この光学信号の局所の最小強度である。この部分領域内では、物質が、変化しないか又は少なくともほとんど変化しない。同時に、飽和が、光学部分領域による物質の変化時に得られるように、この光学信号が、適切に照射される空間的に限定された部分領域の外側に照射される。その結果、物質がこの光学信号によって変化されていない部分領域の寸法は、回折限界より小さい。
【0015】
光学信号の局所の最小強度は、この新規の方法の場合は干渉によって生成される。この場合、用語である干渉は、非常に広く捉える必要がある。すなわち、2本又はそれ以上の光ビームが、互いに重畳されるとは限らない。例えば、1本の光ビームの焦点合わせ時に生じる干渉効果も利用され得る。
【0016】
適切に照射される空間的に限定された部分領域の外側の光学信号が、飽和限界値の上の強度で照射されることによって、この光学信号による物質の変化時の飽和が得られる。この限界値から離れると、物質は、この光学信号によって完全に又は少なくともほとんど完全に変化する。回折限界を下回ると、飽和限界値は、最大強度の場所だけで得られない。この最大強度は、空間的に限定された部分領域内の最小強度に隣接している。むしろ、回折限界を効果的に下回るためには、飽和限界値が局所の最小強度の近くであっても上回る必要がある。このことは、光学信号の強度を上げることによって達成できる。
【0017】
この新規な方法は、1次元,2次元又は3次元の構造部を書込領域内に形成するために利用され得る。この場合、この書込領域は、構造部の希望の次元に応じて形成されかつ物質を有する必要がある。一定の状況を全書込領域にわたって提供するため、特に書込領域内のこの物質は、均質に分布して又は組織的に配置されている。
【0018】
書込領域内の構造部を完全に形成するため、書込領域が光学信号によって適切に照射される部分領域によって走査されることが提唱されている。この構造部は、互いに離れている多数の点、すなわち空間的に限定された多数の部分領域内でも同時に形成され得るので、この書込領域は、この光学信号によって適切に照射される多数の部分領域によっても同時に走査され得る。したがって、それぞれの構造部を製造するための所要時間が低減される。
【0019】
光学信号によって適切に照射される各部分領域は、干渉パターンの局所の最小強度であるので、走査は、光学信号の1つ又は多数の最小強度をシフトさせることによって実施できる。このシフトは、干渉ビームの移相によって起こし得る。
【0020】
この新規の方法の場合、光学信号は直接的に書込信号でもよい。希望の構造部が、この書込信号によって製造される。さらに物質は、光学信号によって出力状態から変化した状態に一定に変化可能である物質郡から選出する必要がある。このとき、光学信号によって適切に照射される領域は、回折限界の下の場所分解能を有する希望の構造部である。この場合、回折限界の下回りは、製造された構造部が回折限界より下の寸法を有するときだけではなくて、構造部に対する移行部分が、回折限界によって設けられる移行部分より鮮明であるときも得られる。具体的には、光学信号が直接的に書込信号として使用されるこの新規の方法の実施形の場合、複数のデータ点が、1つの光学メモリ内に書き込まれる。これらのデータ点は特に鮮明でかつ僅かな寸法を特徴とする一方で、これらのデータ点の間隔はさらに回折限界によって規定されている。
【0021】
この新規の方法の第2の基本的な実施形の場合、これらのデータ点の間隔も、回折限界下で変更できる。これに対して、物質は、光学信号によって繰り返し第1特性を有する第1状態から第2特性を有する第2状態に遷移し、そしてこの第2状態からこの第1状態に帰還可能である物質郡から選出される。この場合、書込信号を有する第1状態だけにある物質が、別の状態に一定に変化可能である。すなわち、光学信号は、ここではさらに照射される書込信号ではない。むしろこの光学信号は、適切に照射される部分領域の外側の物質をここでは第2状態と呼ばれている状態に遷移させるために利用される。物質は、書込信号によってこの第2状態から一定に変化しない。光学信号によるその第1状態からその第2状態への物質の一時的な遷移は、この新規の方法のこの第2の実施形では回折限界を製造された構造部の細部の間隔においても下回り得ることを条件とする。構造部は、常に回折限界より小さい寸法を有する部分領域内だけで書込信号によって変更される。さらなる変更がこの部分領域の周囲で実施されるかどうかは、これによってはまだ設定されていない。その第1状態とその第2状態とにある物質の第1特性と第2特性は、「2元」である必要はない。書込信号による物質の可変性は、第1状態で100 %にしかつ第2状態で0%にする必要はない。むしろ、書込信号に関するこれらの特性が、書込領域を第1状態に一義的に割り当てる程度の大きさの相違を有するだけで十分である。その結果、その第1状態だけにほぼある物質が、書込信号によって一定に変更される。
【0022】
この新規の方法の第2の実施形の好適な別形態では、光学信号に加えて照射される書込信号も、同様に光学信号である。この場合、その第1状態とその第2状態とにある物質の第1特性と第2特性とが、同様に相違する光学特性を有する。この場合、第1特性だけが、光学書込信号を支援する。この書込信号は、電磁スペクトルの可視領域からも、例えば遠赤外領域又はマイクロ波領域から発生し得る。同様に、光学書込信号より250nm 短い波長の電磁ビームが使用できる。あらゆる場合において、書込信号が書込領域内で一定に変更されなければならない部分領域上に焦点合わせされる必要がない点が従来の技術に対する利点として存在する。何故なら、一定に変更すべき部分領域は、光学信号を使用した物質の第2状態の空間的な確定によって確定されるからである。したがって書込信号は、非電磁信号でもよい、例えば熱的な信号や化学的な信号でもよい。
【0023】
この新規の方法に適している相違する特性を呈する2つの相違する状態を有する物質が、物質の小グループから選出され得る。これらの小グループの場合、相違する特性を呈するこれらの両状態は、分子若しくは分子郡の相違する立体配座状態又は相違する化学結合を有し及び/又は光異性化若しくは光の周期変動によって互いに遷移可能である。光学信号は、物質において結合若しくは原子郡の転位,cis-trans 異性化,周期変動応答,陽子化/脱陽子化(Protonierung/De-Protonierung),スピン回転,分子若しくは分子郡の方向変及び/又は電子遷移及び/又は結合分子若しくは分子下位単位間のエネルギー遷移を起こす。
【0024】
この新規の大きい利点は、対象となる多くの物質の第1特性及び第2特性を有する両状態が例えば色素の蛍光に関与するエネルギー状態より何倍も長い寿命を有する点にある。さらに、例えば立体配座の変化の飽和を得るために必要である強度が比較的僅かである。出力状態及び/又は終了状態が比較的長寿命(100nm 以上)である状態変化は、光学信号の比較的低い強度によって起こされ得る。これらの状態が長寿命であるほど、必要な強度はより僅かである。
【0025】
この新規の方法の第2の実施形の場合、スイッチ信号によって第2状態から第1状態に遷移可能である物質が好ましい。このとき、物質の光学信号による第2状態への遷移は、このスイッチ信号によって適切に元に戻され得る。このスイッチ信号は、光学的なスイッチ信号でもよい。しかしこのスイッチ信号は、電気的な信号又は熱的な信号又は電磁スペクトルの非光学的な部分から成る信号でもよい。さらに、物質がその第1状態に自然に戻ること、すなわち周囲温度で熱処理されることが可能である。すなわち、光誘導されるcis-trans 異性化を実施する分子が純粋に熱的に第1状態に帰還できることが公知である。物質を第1状態に適切に戻すスイッチ信号によって、この方法が一般に加速され得るか又は少なくともより良好に制御され得る。
【0026】
この新規の方法の第2の実施形で異なる信号間の希望しない相互作用を排除するためには、物質の書込信号による別の状態への一定の変更が光学信号によってもスイッチ信号によっても帰還されないことが好ましい。
【0027】
スイッチ信号が、書込領域上に照射される。又は物質の光学信号による第2状態への必要な遷移が、基本的に問題にならない場合は、スイッチ信号は、光学信号と一緒に書込領域上に照射される。
【0028】
特に、スイッチ信号を書込領域の構造部が製造される部分領域上に限定することが不要である。この新規の方法の場合、構造部の製造時の空間的な制限は、光学信号によって実施される。
【0029】
この新規の方法の第2の実施形の場合、書込信号は、光学信号後にか又は光学信号と一緒に試料上に照射される。この書込信号は、同様に書込領域の変更すべき部分領域上に局所的に照射される。同時の照射の場合、相互のノイズが発生しないことに再び考慮する必要がある。
【0030】
上述したように、これらの信号の時間的な重畳が可能であるにもかかわらず、この新規の方法の第2の実施形の理解が、周期的に繰り返される連続する信号列の観察時に容易になる。物質は、書込領域内ではその第1状態にある。この物質は、光学信号によって書込領域の部分領域内でその第2状態に遷移される。この場合、物質が一定に変更されることによって、空間的に限定された部分領域が形成(ausgelassen) される。この物質は、この限定された部分領域内で同様にその第1状態にある。引き続きこの物質は、書込信号によってその部分領域内でこの物質の別の状態に変更される。その後、この物質は、その書込領域内でその第1状態に再び戻る。このことは、スイッチ信号によって実施される。その後、サイクルが、書込領域の別の位置で最初から開始する。非常に弱い局所の書込信号の場合は、光学信号も書込領域の大部分をカバーする必要がある。この光学信号は、物質を書込信号に対して鈍感なこの物質の第2状態に遷移させる。強く局所化された書込信号の場合は、このことは不要である。この新規の方法の場合の個々の信号の存在の時点が、特定の強度を得た後に決定する。すなわち、信号の周期的な列を実現するため、信号の時間周期的な変調が実施され得る。
【0031】
物質は、例えばタンパク質のグループから選出され得る。公知のタンパク質であるasCP(asF595)及びT70a/A148S/S165Vが、これらのグループに属し又は緑色蛍光タンパク質(GFP)及びこれから導かれた突然変異体も、これらのグループに属する。これらのタンパク質は、異なる光学特性をもつ2つの立体配座状態を有する。物質の別の状態への一定な変更は、不可逆又は可逆でもよい。この変更が可逆である場合、この変更の反転は、スイッチ信号によっても最初の変更時に使用された信号と違う信号によっても引き起こされてはならない。むしろ別の特性を有する別の信号が、この変更を解消するために必要である。
【0032】
物質がこの新規な方法にしたがって一定に遷移されるこの物質の別の状態が、例えば吸収,散乱及び分極を含むグループから成る変更された光学特性又は蛍光,燐光,エレクトロルミネセンス及び化学ルミネセンスを含むグループから成る変更されたルミネセンスを有する場合、この新規な方法にしたがって一定に遷移される別の状態の製造された構造部が、試験ビームで照射され得る。
【0033】
本発明の可能性を利用する場合、光学データメモリが、この新規な方法によって特に高いデータ密度で書き込まれ得る。このデータ密度は、回折限界によってもはや制限されていない。同様に、マイクロ構造及びナノ構造が、回折限界よりも良好な分解能によって記述又は形成され得る。
【0034】
請求項24中に定義された新規な装置は、新規な方法の2つの実施形を実施するために使用でき、特に光学データ記憶装置として適する。
【0035】
図の簡単な説明
以下に、本発明の原理を図中に示された詳細に基づいて詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1は、2つの異なる状態A及びBにあり得る分子の構造式及びエネルギー状態を示す。この分子は、書込信号3によって上述及び請求項中で第1状態と呼ばれている状態Aからここではそれ自体示さなかった別の状態に一定に変更可能である;これに対して、上述及び請求項中で第1状態と呼ばれている状態Aからは変更できない。具体的には、光学的な書込信号3が、状態Aにある分子をエネルギー基底状態1からエネルギー励起状態2に遷移させる。この分子は、このエネルギー励起状態2から図示しなかった別の状態に一定に到達する。この場合、状態A及びBは、分子の2つの異性体(trans及びcis)である。この分子は、光学信号4による光異性化を用いて状態Aから状態Bに遷移可能であり、同様に光学的なスイッチ信号5によって状態Bから状態Aに遷移可能である。ここでは高くにあるエネルギー励起状態2に到達しないので、書込信号3は、状態Bでは僅かな光子エネルギーに対する理由から一定な変化を起こさない。
【0037】
図2は、信号、すなわち光学信号4,スイッチ信号5及び書込信号3の好適な周期シーケンスを示す。部分図2c)〜e)中には、状態A及びBに加えて、観察された物質の一定に変化する状態Cも示されている。これらの部分図によって示されたシーケンスを示す:a)スイッチ信号4が、物質を書込み可能な状態Aに切り替える。b)少なくとも1つの局所の最小強度9を有する光学信号5が、書込領域7上に適用され、最小強度9の外側の物質を状態Aから状態Bに切り替える。物質がまだ状態Aにある空間部分領域は、この切替プロセスの飽和に基づいて飽和度及び最小強度の最初のコントラスト(Steilheit) 又は幅に依存する寸法に低減されている。c)書込信号3は、状態Aにある物質を状態Cに遷移させるものの、状態Bにある物質を状態Cには遷移させない。d)書込信号4は、状態Cに遷移しなかった物質を再び状態Aに遷移させる。5)光学信号5が、新たに適用される。この場合、少なくとも1つの最小強度9の零地点16が、書込領域7の別の場所に対して位置決めされる。
【0038】
図3は、本発明を実施するための可能な配置を概略的に示す。光学信号5の光学ビーム10が、書込領域7内の二色性ミラー13及び対物レンズ9を通過した後に零地点16を有する最小強度9を備えた干渉パターンを形成するように、この光学ビーム10は、波面変形器12によって変形される。光学信号は、状態Aから状態Bへの遷移6を飽和させる。その結果、状態Aにある物質の副回折領域だけが、示されている位置座標Xに沿って存在する。二色性ミラー13及び対物レンズ4を通過して書込領域7上に照射される書込信号3は、状態Aにある物質を別の状態Cに一定に遷移させる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】新しい方法の第2実施形の場合の物質で使用可能である分子の2つの異なる実施形を構造式で示す。
【図2】新しい方法の第2実施形の場合の代表的な周期シーケンスを示す。
【図3】新しい方法を実施するための配置を概略的に示す。
【符号の説明】
【0040】
1 基底状態
2 励起状態
3 書込信号(Schreibsignal)
4 光学信号
5 スイッチ信号
6 遷移
7 ディスク領域
9 最小強度
10 光学ビーム
12 波面変形器
13 二色性ミラー
14 対物レンズ
16 零地点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定な構造部を高い空間分解能で製造する方法にあって、この場合、光学信号によって変更可能である物質が書込領域内に用意され、この場合、光学信号が、空間的に限定された部分領域を適切に照射し、光学信号によって検出された書込領域の部分領域内とは違う物質の別の状態が、この部分領域内に一定に設定されるように、この光学信号は、書込領域上に照射される方法において、光学信号(5)によって適切に照射される部分領域は、光学信号(5)の局所の最小強度(9)であること、及び、飽和が、光学信号による物質の変更時に得られるように、適切に照射される空間的に限定された部分領域の外側の光学信号(5)が照射されることを特徴とする方法。
【請求項2】
光学信号(5)の局所の最小強度(9)は、干渉によって零地点(16)で生成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
適切に照射される空間的に限定された部分領域の外側の光学信号(5)は、飽和限界値より上の強度で照射され、物質は、この飽和限界値から離れた光学信号によって完全に変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1次元,2次元又は3次元の構造部が、一定な設定によって書込領域(7)内に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
物質は、書込領域 (7) 内に均質に分布又は組織的に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
書込領域(7)は、光学信号(5)によって適切に照射される部分領域で走査されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
書込領域(7)は、光学信号(5)によって適切に照射される多数の部分領域で同時に走査されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
物質は、光学信号(5)によって出力状態から変更された状態に変更可能である物質のグループから選出されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
物質は、光学信号(5)によって繰り返し第1特性を有する第1状態(A)から第2特性を有する第2状態(B)に遷移可能であり、そして第2状態(B)から第1状態(A)に帰還可能である物質のグループから選出され、この場合、第1状態(A)だけにある物質が、書込信号(3)によって別の状態(C)に一定に変更可能であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
書込信号(3)は、光学的な書込信号(3)であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
相違する特性を呈する2つの相違する状態を有する物質が、物質の小グループから選出され、これらの小グループの場合、相違する特性を呈するこれらの両状態(A,B)は、分子若しくは分子群の相違する立体配座状態又は相違する化学結合を有し及び/又は光異性化若しくは光の周期変動によって互いに遷移可能であることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
物質は、スイッチ信号(4)によって第2状態(B)から第1状態(A)に遷移可能である物質の小グループから選出されることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
スイッチ信号(4)は、光学的なスイッチ信号(4)であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
物質の書込信号(3)による別の状態(C)への一定な変更は、光学信号(4)によってもスイッチ信号(5)によっても取り消されないことを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
スイッチ信号(4)は、光学信号(5)の前に又は光学信号(5)と同時に書込領域(7)上に照射されることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
スイッチ信号(4)は、適切に照射される部分領域と光学信号(5)によって検出される部分領域とを通過して書込領域(7)上に照射されることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
書込信号(3)は、光学信号(5)によって検出された部分領域と適切に照射される部分領域とを通過して書込領域(7)上に照射されることを特徴とする請求項9〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
書込信号(3)は、光学信号(5)の後に又は光学信号(5)と一緒に書込領域(7)上に照射されることを特徴とする請求項9〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
物質は、タンパク質を含む物質のグループから選出されることを特徴とする請求項9〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
物質の別の状態は、吸収,散乱及び分極を含むグループから成る変更された光学特性を有することを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
物質の別の状態は、蛍光,燐光,エレクトロルミネセンス及び化学ルミネセンスを含むグループから成る変更されたルミネセンスを有することを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
データメモリ内に書き込むために請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法を使用すること。
【請求項23】
マイクロリソグラフィー構造部又はナノリソグラフィー構造部を製造するために請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法を使用すること。
【請求項24】
光学信号によって変更可能な物質が設けられている一定に構成可能な書込領域を有する装置において、物質は、光学信号(5)によって繰り返し第1光学特性を呈する第1状態(A)から第2光学特性を呈する第2状態(B)に遷移可能であり、そして第2状態(B)から第1状態(A)に帰還可能である物質のグループに属し、この場合、状態(A)だけにある物質が、書込信号(3)によって別の状態(C)に一定に変更可能であることを特徴とする装置。
【請求項25】
請求項24に記載の装置を光学データメモリとして使用すること。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−522989(P2006−522989A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505065(P2006−505065)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003768
【国際公開番号】WO2004/090950
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505377304)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツーア・フェルデルング・デア・ヴィセンシャフテン・エー.ファウ. (4)
【Fターム(参考)】