説明

高い遮蔽性を有する熱可塑性材料の製造方法

【課題】高い遮蔽性を有する材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性マトリックスと、所定のナノ粒子化合物とを含む気体及び液体に対して高い遮蔽性を有する材料を製造する方法であって、該材料は該化合物を、前記マトリックスの重合用媒体に導入することによって得られ、該化合物は以下の連続的段階を含むプロセスにより得られることを特徴とする方法:
a)燐酸と、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物或いはチタン及びジルコニウムをベースとした混合化合物(チタン及び/又はジルコニウムはIV価の酸化状態)とを出発物質とした、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を酸性媒体中に沈殿させる段階、
b)前記化合物を結晶化する段階、
c)結晶化した前記化合物をpH3〜9の液状媒体中で処理する段階。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い遮蔽性を有する材料の分野に関し、特には熱可塑性マトリックス及び充填剤を含有する材料の分野に関し、より特別には熱可塑性マトリックス及びあるアスペクト比をもつナノ粒子の形態で分散した充填剤を含有する、高い遮蔽性を有する材料(以降は遮蔽材料と呼ぶ。)の分野に関する。
【0002】
本発明の遮蔽材料は様々な用途で、特に食品包装分野、化粧品分野、又はガソリンのような液体の輸送及び貯蔵分野で用いることができる。
【背景技術】
【0003】
遮蔽材料として、熱可塑性樹脂を含有するフィルターを使用することは公知である。例示的には特開平5−293916号公報では、燃料輸送用に、ポリアミドをベースとして1.5〜10重量%のケイ酸塩を含有する多層チューブを使用することについて開示している。同様に、欧州特許公開第1 044 806号では少なくとも三つの熱可塑性層を含み、その一つは0.05〜30重量%のケイ酸塩を含有するポリアミドでできている多層チューブを開示している。
【0004】
上で開示されているような遮蔽材料は着色されているため、包装、特に食品包装においては使用できない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−293916号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 044 806号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人が解決しようとする課題は、良好な機械的特性、とりわけ良好な係数(モジュラス)/衝撃(インパクト)の折衷(又は妥協)、及び高温での取り扱いを許容する熱挙動を有する無色で、好ましくは透明の遮蔽材料を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)
熱可塑性マトリックスと、個々の薄片が250又はそれを超えるアスペクト比を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとしたナノ粒子化合物とを含む気体及び液体に対して高い遮蔽性を有する材料を製造する方法であって、該材料は該化合物を、前記マトリックスの重合用媒体に導入することによって得られ、該化合物は以下の連続的段階を含むプロセスにより得られることを特徴とする方法:
a)燐酸と、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物或いはチタン及びジルコニウムをベースとした混合化合物(チタン及び/又はジルコニウムはIV価の酸化状態)とを出発物質とした、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を酸性媒体中に沈殿させる段階、
b)前記化合物を結晶化する段階、
c)結晶化した前記化合物をpH3〜9の液状媒体中で処理する段階。
(2)
前記熱可塑性マトリックスがポリアミド、ポリメチルメタクリレート、PET、ポリスチレン、コポリオレフィン(例えばEVA)、並びにこれらの(共)重合体をベースとしたブレンド及び共重合体よりなる群から選択されることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)
前記熱可塑性マトリックスがポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリアミド−11、ポリアミド−12、並びにこれらのポリアミドをベースとしたブレンド及び共重合体よりなる群から選択されるポリアミドであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)
前記材料中の燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の重量比が5%又はそれ未満であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れか一項に記載の方法。
(5)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の少なくとも一部が薄片の形態で分散していることを特徴とする、(1)〜(4)の何れか一項に記載の方法。
(6)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物は、個々の薄片が500又はそれを超えるアスペクト比を示すこと特徴とする、(1)〜(5)の何れか一項に記載の方法。
(7)
15Å又はそれ未満の薄片間距離を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を、前記マトリックスの重合用媒体に導入することにより得られることを特徴とする、(1)〜(6)の何れか一項に記載の方法。
(8)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の薄片間距離が13Å又はそれ未満であることを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物が、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる少なくとも一つの官能基を含有する無機又は有機化合物を含むことを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法。
(10)
前記無機又は有機化合物がカチオンの形態であることを特徴とする、(9)に記載の方法。
(11)
前記無機化合物がNa+イオンであることを特徴とする、(10)に記載の方法。
(12)
前記無機又は有機化合物が燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる官能基を一つ含むことを特徴とする、(9)〜(11)の何れか一項に記載の方法。
(13)
前記反応することができる官能基がアミン官能基であることを特徴とする、(12)に記載の方法。
(14)
前記有機化合物がモノアミンであることを特徴とする、(13)に記載の方法。
(15)
前記有機化合物がアミノ酸又はラクタムであることを特徴とする、(13)に記載の方法。
(16)
前記有機化合物が以下の式(I):
A−R−B (I)
(式中、A及びBは燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる同一又は異なる官能基であり、
Rは、ヘテロ原子を含有可能な、2〜20個の炭素原子を含む置換又は非置換の脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基である。)
に従う化合物であることを特徴とする、(9)〜(11)の何れか一項に記載の方法。
(17)
前記官能基A及びBがアミンであることを特徴とする、(16)に記載の方法。
(18)
前記化合物(I)がヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン又はメタ−キシレンジアミンよりなる群から選択されることを特徴とする、(17)に記載の方法。
(19)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンのモル数に対する無機又は有機化合物の反応可能な官能基のモル数のモル比αが0.1〜0.8であることを特徴とする、(9)〜(18)の何れか一項に記載の方法。
(20)
前記比αが0.4〜0.6であることを特徴とする、(19)に記載の方法。
(21)
前記比αが実質的に0.5に等しいことを特徴とする、(20)に記載の方法。
(22)
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の水性溶液を前記マトリックスの重合用媒体中に導入することを特徴とする、(7)〜(21)の何れか一項に記載の方法。
(23)
(1)〜(22)の何れか一項に記載の方法を実施する工程と、これにより得られた材料を成形する工程を含むフィルム、パイプ、中空体又はタンクの製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本出願人は上述した特性において良好な折衷を示し、したがって食品のような製品の包装又は貯蔵、ガソリンのような液体(例えば燃料油)の貯蔵及び輸送用の遮蔽材料として使用することのできる新規な材料群を発見した。
【0009】
「遮蔽材料」なる用語は、流体に対して低い透過性を示す材料を意味するものとして理解される。本発明によれば、流体は気体又は液体となり得る。当該材料が低透過性を示す気体の中では、酸素、二酸化炭素及び水蒸気が特に挙げられる。酸素及び二酸化炭素に対する遮蔽材料は、例えば包装、特に食品包装の分野における用途でかなりのアドバンテージを有することができる。
【0010】
当該材料が非透過性であるべき液体としては溶剤、特にはメタノール、トルエン又はイソオクタンのようなガソリン中の代表的な溶剤が挙げられる。溶剤及びガソリンに対して非透過性の材料がとりわけ有利であり、特に自動車業界の分野での用途、特にガソリンタンクや燃料パイプの製造には有利である。
【0011】
本発明の遮蔽材料は、主たる成分として、熱可塑性ポリマーを含有するマトリックスを含んでなる。
【0012】
本発明に好適な熱可塑性ポリマーの例としては:ポリラクトン、例えばポリ(ピバロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)及び同種のポリマー;ジイソシアネート、例えば1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニル−メタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン及び同種の化合物と、長い直鎖をもつジオール、例えばポリ(テトラメチレンアジパート)、ポリ(エチレンアジパート)、ポリ(1,4−ブチレンアジパート)、ポリ(エチレンスクシナート)、ポリ(2,3−ブチレンスクシナート)、ポリエーテルジオール及び同種の化合物との反応により得られるポリウレタン;ポリカーボネート、例えばポリ[メタンビス(4−フェニル)−カーボネート]、ポリ[1,1−エーテルビス(4−フェニル)カーボネート]、ポリ[ジフェニルメタンビス(4−フェニル)カーボネート]、ポリ[1,1−シクロヘキサンビス(4−フェニル)カーボネート]及び同種のポリマー;ポリスルホン;ポリエーテル;ポリケトン;ポリアミド、例えばポリ(4−アミノ酪酸)、ポリ−(ヘキサメチレンアジパミド)、ポリ(6−アミノヘキサン酸)、ポリ(m−キシレンアジパミド)、ポリ(p−キシレンセバカミド)、ポリ(2,2,2−トリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(メタ−フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)及び同種のポリマー;ポリエステル、例えばポリ(エチレンアゼラート)、ポリ(エチレン 1,5−ナフタレート)、ポリ−(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリ−(エチレンオキシベンゾアート)、ポリ(パラ−ヒドロキシベンゾアート)、ポリ(1,4−シクロヘキシリデンジメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−シクロヘキシリデンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及び同種のポリマー;ポリ(アリーレンオキシド)、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキシド)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)及び同種のポリマー;ポリ(アリーレンスルフィド)、例えばポリ(フェニレンスルフィド)及び同種のポリマー;ビニルポリマー及びその共重合体、例えばポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び同種のポリマー;アクリルポリマー、ポリアクリレート及びこれらの共重合体、例えばポリエチルアクリレート、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリル酸)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、アクリロニトリル共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、メタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、ABS及び同種のポリマー;ポリオレフィン、例えば低密度ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、低密度塩化ポリ(エチレン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリ(エチレン)、ポリ(スチレン)及び同種のポリマー;イオノマー;ポリ(エピクロロヒドリン);ポリ(ウレタン)、例えばジオール(例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、ペンタ−エリトリトール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及び同種の化合物)とポリイソシアネート(例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシル−メタンジイソシアネート及び同種の化合物)との重合生成物;ポリスルホン、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのナトリウム塩と4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとの反応生成物;フラン樹脂、例えばポリ(フラン);セルロースエステルプラスチック、例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース及び同種のポリマー;シリコーン、例えばポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ジメチルシロキサン−co−フェニルメチルシロキサン)及び同種のポリマー;或いは上記ポリマーの少なくとも2種のブレンドが挙げられる。
【0013】
上記の熱可塑性ポリマーの中でとりわけ好ましいのはポリアミド、半芳香族ポリアミド、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPO(ポリプロピレンオキシド)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、コポリオレフィン(例えばEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)、エチレンビニルアルコール共重合体)、並びに上記(共)重合体をベースとしたブレンド及び共重合体である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、熱可塑性マトリックスはポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリアミド−11、ポリアミド−12、並びにこれらのポリアミドをベースとしたブレンド及び共重合体よりなる群から選択されるポリアミドである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の遮蔽材料は、マトリックス又はマトリックスの重合用媒体へ、薄片間距離が15Å又はそれ未満で個々の薄片が250又はそれを超えるアスペクト比を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を導入することにより得られる。
【0016】
「アスペクト比」なる用語は、燐酸ジルコニウム又は燐酸チタンの個々の薄片又は薄片の集塊の厚さに対するその薄片のより大きな寸法の比率を意味するものとして理解される。この個々の薄片の厚さは結晶分析技術により測定し、薄片のより大きな寸法は透過電子顕微鏡(TEM)による分析で測定する。
【0017】
マトリックス中に分散した粒子のアスペクト比は、薄片が剥脱して個々の薄片となる割合が100%に近づくにつれ、個々の薄片のアスペクト比に次第に近づくことになる。
【0018】
マトリックスへ導入された燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物は好ましくは13Å又はそれ未満の薄片間距離を示す。
【0019】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとしたこの化合物は、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる少なくとも一つの官能基を含有する無機又は有機化合物を含む。
【0020】
例えば、そのような無機又は有機化合物はカチオンの形態とすることが可能である。カチオン形態の無機化合物として、例示的には金属カチオン、Na+、K+、又はLi+のようなアルカリ金属カチオン、或いはアンモニウムイオンNH4+を挙げることができる。いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、上記カチオンは燐酸ジルコニウム及び/又はチタンのプロトンと交換可能であると考えられる。
【0021】
Na+、K+、又はLi+又はNH4+ようなカチオンは、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる官能基に相当する。
【0022】
無機化合物は好ましくはNa+イオンである。
【0023】
本発明の特定の実施形態によれば、無機又は有機化合物は燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる官能基を一つ含む。
【0024】
この官能基は塩基性官能基とすることができる。塩基性官能基としては、例えばアミン官能基が挙げられる。この官能基は例えば中性又は正に帯電した形態とすることができる。
【0025】
好ましい形態によれば、有機化合物はモノアミンである。例えば、n−ブチルアミンのような脂肪族モノアミンとすることができる。
【0026】
別の有利な形態によれば、有機化合物はアミノ酸又はラクタムである。例えば、カプロラクタムが挙げられる。
【0027】
本発明の別の特定の実施形態によれば、無機又は有機化合物は燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる官能基を二つ含む。
【0028】
特別には、有機化合物は以下の式(I):
A−R−B (I)
(式中、A及びBは燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる同一又は異なる官能基であり、
Rは、ヘテロ原子を含有可能な2〜20個の炭素原子を含む置換又は非置換の脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基である。)
に従う化合物である。
【0029】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物中に存在する式(I)の化合物は、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる二つの官能基A及びBを含有する。
【0030】
官能基A及びBは、例えば燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンのプロトンと反応することができる塩基性の官能基とすることが可能である。官能基A及びBは好ましくは中性又は正に帯電した形態で供給される。本発明に好適に用いることが可能な官能基A及びBの例としては、アミン、アンモニウム又はホスホニウムが挙げられる。
【0031】
通常、基Rは燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基に対しても、一般の燐酸塩に対しても反応性を有しない。
【0032】
本発明の好ましい形態によれば、官能基A及びBはアミン官能基である。
【0033】
好ましくは、化合物(I)はヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン又はメタ−キシレンジアミンから選択される。
【0034】
本発明の特定の実施形態によれば、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンのモル数に対する無機又は有機化合物の反応可能な官能基のモル数のモル比αは0.1〜0.8である。
【0035】
「反応可能な官能基のモル数」なる語句は、反応可能な無機又は有機化合物の各官能基のモル数の合計を意味するものとして理解される。例えば、反応可能な単一の官能基を含有する化合物については、反応可能な官能基のモル数はその化合物のモル数に相当する。反応可能な二つの官能基を含有する化合物については、反応可能な官能基のモル数はその化合物のモル数の2倍に相当する。
【0036】
「燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンのモル数」なる語句は、燐元素のモル数を意味するものとして理解される。例えば、1モルの燐酸ジルコニウムは一般に2モルの燐元素に相当する。
【0037】
好ましくは、モル比αは0.4〜0.6である。有利には、モル比αは実質的に0.5に等しい。
【0038】
本発明の特定の代替的な形態によれば、薄片間距離が15Å又はそれ未満を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物は以下の連続的段階を含むプロセスにより得られる。
a)燐酸と、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物或いはチタン及びジルコニウムをベースとした混合化合物(チタン及び/又はジルコニウムはIV価の酸化状態)とを出発物質とした、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を酸性媒体中に沈殿させる段階
b)前記化合物を結晶化する段階
c)結晶化した前記化合物をpH3〜9で液状媒体中で処理する段階
【0039】
本発明による製造プロセスは少なくとも三つの連続的段階a)、b)及びc)を含む。これらの段階の前、後又は間に他のプロセス段階又は局面を含むことが可能である。これらは例えば、洗浄、精製、濾過、希釈、遠心分離、或いはpH又はイオン強度のようないくつかのプロセスパラメータを調整するための化合物の添加の局面である。そのようなプロセス局面の実施はとりわけ以下に提示する実施例に照らして明らかとなる。
【0040】
段階a)では燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を沈殿させる。上記沈殿物の作製は当業者であれば分かる。段階a)は燐酸と、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物(ここで、ジルコニウム及び/又はチタンはIV価の酸化状態である。)とから出発して行われる。ジルコニウム及び/又はチタンのテトラハライド或いはジルコニウム及び/又はチタンのオキシハライド、特にオキシ塩化ジルコニウム及びオキシ塩化チタンが挙げられる。ジルコニウムとチタンをベースとした混合化合物も使用可能である。
【0041】
沈殿反応の単純化した平衡は、例えば以下の通りである。
2H3PO4 + ZrOCl2 → Zr(H+, PO43-2 + 2HCl
【0042】
沈殿は好ましくは水性媒体中で行う。燐酸の使用により沈殿媒体が酸性となる。沈殿は酸性側のpHにて、好ましくは制御された酸性側のpH、例えば0.5〜2にて有利に行うことができる。この目的のために、酸を使用して沈殿物の前駆物質を補うことができる。例えば塩酸が挙げられる。
【0043】
この沈殿物は、沈殿段階と区別される結晶化のための操作を行う必要なしに室温(又は周囲温度)でラメラ(又は層状)構造として結晶化することができる。
【0044】
しかしながら、別個の結晶化段階を実施するのが有利である。そのような段階によって、沈殿化合物はより顕著な及び/又はより均一なラメラ構造を得ることができる。結晶化は水中又は水溶液中での熱処理により、例えば100〜200℃の温度の水中に該化合物を浸すことにより行なうことができる。結晶化は好ましくは酸性水溶液中で、例えば燐酸水溶液中で行う。結晶化の継続時間は数時間(例えば5〜6時間)とすることができる。
【0045】
有利には、結晶化段階の前に沈殿物の洗浄局面が先行し、これにより特に沈殿反応により生じたイオン性物質を除去できる。
【0046】
有利には、結晶化段階の後に洗浄及び遠心分離局面が続く。好ましい特性においては、固形分が20重量%の、結晶化化合物を含む分散物(又は分散液)の水性相中で測定されるpHは0.5〜2である。
【0047】
本プロセスの好ましい特性においては、本プロセスの全段階は酸性側のpHである0.5〜2にて行う。別の好ましい特性においては、層状の化合物は決して乾燥操作を受けることはなく、水分除去のための操作は濾過又は遠心分離操作だけである。「乾燥操作」とは、ここでは化合物を水のない高温の雰囲気中、例えばオーブン中へ、15分を超える時間導入する操作を意味するものとして理解される。
【0048】
この化合物では燐酸ジルコニウムのα相が結晶化する。この相の構造は、例えば「J.Inorg. Nucl. Chem., vol.26, p.117−129」において記載されている。この相は、プロトンが層間に挿入されたラメラ構造を示す。いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、上記プロトンは正に帯電した化学物質によって交換され得る。
【0049】
処理段階c)では、pH3〜9の液状媒体中で結晶化した化合物を処理する。
【0050】
この液状媒体は好ましくは水性溶液であり、その中に燐酸ジルコニウムをベースとした化合物が分散している。水性溶液はpHが3〜9となる性質及び/又は量の無機又は有機化合物を含む。好ましい特性においては、pHは4〜7である。
【0051】
前記無機又は有機化合物は水性溶液中で、3を上回り、好ましくは7を上回るpHを示す化合物から選択する。
【0052】
該化合物は通常、作製が所望される燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物と対応関係にある、上で示した式(I)の化合物である。ポリアミドの強化のためにラメラ構造をもつ化合物を使用するにあたっては、特に上記有機化合物の使用を示すことができる。
【0053】
本発明の第二の主題の好ましい実施形態においては、該有機化合物はヘキサメチレンジアミンである。
【0054】
例示的には、pH2〜7で処理するための無機化合物はアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム;水酸化アンモニウムのようなアンモニウムイオンの無機化合物;或いは随意的に塩基性薬剤の存在下で、リチウム、ナトリウム又はカリウムの陽イオンから選択することもできる。有機化合物は、例えばカプロラクタム又はアンモニアとすることができる。ポリアミドの強化を目的としてラメラ構造をもつ化合物を使用するにあたって、これらの化合物を示すことができる。
【0055】
処理段階の後は、該化合物は洗浄することができ、及び/又は例えば濾過又は液状媒体の蒸発により、好ましくは水の蒸発により、液状媒体から分離することができる。乾燥することもできる。
【0056】
処理段階c)の無機又は有機化合物は、作製が所望される燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物に応じて適切に選択される。
【0057】
こうして、容易に剥離して板状粒子となることのできるラメラ構造をもつ無機化合物が得られる。該化合物は種々の形態に調整可能である。液状媒体を除去し、随意的に乾燥して、粉末形態に調整することができる。液体媒体、例えば水中、に分散させた形態とすることもできる。
【0058】
調節された形態は一般には意図される用途に依存する。したがって、合成ポリマーの強化に用いるためには、該化合物は有利にはポリマーを合成するための媒体中へ分散の形態で導入することができる。好ましくは、該化合物は合成ポリマーの原料であるモノマーを含む媒体中へ分散の形態で導入する。
【0059】
本発明の遮蔽材料は、熱可塑性マトリックス及び燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物に加えて他の添加剤、例えば安定剤、可塑剤、難燃剤、染料、潤滑剤又は触媒も含むことができる。上記リストはいかなる限定的性質も有しない。更に別の強化用添加剤、例えば、随意的にグラフトしたエラストマーのような衝撃強さの改質剤、クレー又はカオリンのような無機強化材、或いはガラス繊維、アラミド繊維又は炭素繊維のような繊維状強化材を含むこともできる。
【0060】
この組成物を作製するために、巨大分子材料中に化合物を分散させることを可能にする任意の方法を使用することができる。第一のプロセスでは、ラメラ化合物を融解状態の熱可塑性材料中へ混ぜ合わせ、良く分散させるために随意的に該混合物を例えば二軸スクリュー押出機中で高剪断する。もう一つのプロセスでは分散すべき該化合物を重合媒体中でモノマーと混合し、次いで重合を行う。更に別のプロセスでは熱可塑性ポリマー及び分散粒子の濃縮ブレンド(該ブレンドは例えば上記のいずれかのプロセスに従って作製する。)を融解状態の熱可塑性ポリマーと混合する。
【0061】
巨大分子化合物の合成のための媒体へ、又は融解した熱可塑性ポリマーへ、ラメラ化合物を導入する形態に関して制限はない。該化合物は例えば固体粉末の形態又は水中若しくは有機分散剤中に分散した形態で導入することができる。
【0062】
ポリアミドをベースとした遮蔽材料においては、燐酸ジルコニウムをベースとしたラメラ化合物を水中へ分散させたものを重合媒体へ導入することが有利な実施形態となる。とりわけ、製造予定のポリアミドのモノマーを含む媒体中へこの分散物を導入することができる。本実施形態において実行される重合法は慣例の方法である。
【0063】
本組成物におけるラメラ化合物の重量比率は好ましくは5%又はそれ未満である。
【0064】
本発明の好ましい実施形態によれば、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の少なくとも一部は前記マトリックス中で薄片の形態で分散している。
【0065】
本発明の燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物は有利には個々の薄片が500又はそれを超えるアスペクト比を示す。
【0066】
本発明は、本発明の遮蔽材料を成形することにより、例えばモールディング、押出成形、射出成形又は押出吹込成形することにより得られる物品にも関する。本発明の好ましい物品は、とりわけフィルム、パイプ(又はチューブ)、中空体又はタンクである。これらの物品は、自動車業界や包装などの多くの分野で、燃料パイプやタンク、食品包装用のフィルムなどの多くの用途に使用可能である。
【0067】
本発明の他の詳細や利点は以下の実施例に照らしてより明瞭となるが、これらは例示目的のみに与えるものである。
【実施例】
【0068】
実施例1:燐酸ジルコニウムをベースとした結晶化化合物の作製
以下の反応物を使用した。
− 塩酸(Prolabo社、36%、d=1.19)
− 燐酸(Prolabo社、85%、d=1.695)
− 脱イオン水
− 32.8%のZrO2を含有するオキシ塩化ジルコニウム(粉末状)
【0069】
段階a):沈殿
事前に2.1mol/LのZrO2を含有するオキシ塩化ジルコニウムの水性溶液を作製した。
以下の溶液:
−塩酸 50mL
−燐酸 50mL
−脱イオン水 150mL
を室温で1リットルの攪拌反応器へ加えた。この混合物を攪拌した後、2.1Mのオキシ塩化ジルコニウム水性溶液140mLを5.7mL/minの流量で連続的に加えた。
オキシ塩化ジルコニウム溶液の添加後、攪拌を1時間継続した。
水性母液の除去後、1200mLのH3PO4(20g/L)を用い、次に脱イオン水を用い、導電率が6.5mS(上澄み)となるまで4500rev/minで遠心分離により沈殿物を洗浄した。燐酸ジルコニウムをベースとした沈殿物のケークが得られた。
【0070】
段階b):結晶化
このケークを10Mの燐酸水溶液1リットル中に分散させ、こうして得られた分散物を2リットルの反応器に移し、次いで115℃に加熱した。この温度を5時間維持した。
得られた分散物を脱イオン水を用いて導電率が1mS未満(上澄み)となるまで遠心分離により洗浄した。この最後の遠心分離によって生じたケークを、20%程度の固形分を得るために再分散させた。分散物のpHは1〜2であった。
燐酸ジルコニウムをベースとした結晶化化合物の分散液が得られ、その特性は以下の通りであった。
−粒子の寸法及び形態:透過電子顕微鏡(TEM)を用いた分析によりラメラ構造が得られたことが示された。そのラメラ(薄板)は寸法が200〜500nmの六方晶系の形を示していた。これら粒子は実質的に平行な小さな板状体の積み重ねにより構成されており、この板状体に垂直な方向に沿った積み重ねの厚さは約200nmであった。
−XRD分析によりZr(HPO42・1H2Oの結晶相が得られたことが示された。
−固形分: 18.9重量%
−pH: 1.8
−導電率: 8mS
【0071】
実施例2〜3:無機塩基を用いた化合物の処理(段階c))
実施例1で得られた生成物の805g(乾燥ベース)を遠心分離した。遠心分離機したペレットを10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水性溶液(500mL)中に再分散させた。上記と同一条件に従って洗浄操作を3度行った。最後の遠心分離で得られたケークは10-3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液500mL中に再分散させた。8mol/Lの水酸化ナトリウムの添加により、pHを5(実施例2)又は3(実施例3)に調節した。分散物を遠心分離し、次いでペレットを300mLの純水中(固形分:30重量%)へ再分散させた。懸濁物の最終的な導電率は1mS未満であった。
【0072】
実施例4:有機塩基を用いた化合物の処理(段階c))
実施例1で得られた生成物をヘキサメチレンジアミンを添加することにより中和した。すなわち、HMDの70%水溶液をpHが5になるまで前記分散液へ加えた。こうして得られた分散液をUltra−Turrax(製品名)を用いて均質化した。最終的な固形分は脱イオン水を添加することにより調節した(固形分:15重量%)。
【0073】
実施例5:カプロラクタムを用いた化合物の処理(段階c))
カプロラクタムを実施例1により得られた無機ゾル中に組み込んだ(前記固形分に対してカプロラクタムを33重量%)。溶液中で測定したpHは3.3であった。次いで、水の蒸留により、対応するカプロラクタム部分を含む粉末を回収した。
【0074】
実施例6〜8:燐酸ジルコニウムをベースとした板状粒子を含む遮蔽材料
実施例4で得た水性分散液を重合媒体中に導入しつつ、カプロラクタムから慣例の方法に従ってポリアミド−6を合成した。導入した燐酸ジルコニウムをベースとした化合物の比率は、材料の全重量に対して2.6重量%(実施例7)と4.2重量%(実施例8)であった。燐酸ジルコニウムをベースとした化合物を含有しないポリマーも合成した(比較用実施例6)。
重合後、ポリマーを顆粒に成形した。残留カプロラクタムを除去するためにこれを洗浄した。この目的のためには、この顆粒を90℃の過剰の水に2〜3時間浸し、次いで110℃の低真空下(<0.5mbar)で16時間乾燥した。
【0075】
機械的特性
上記材料の機械的特性を測定するために、以下に示す測定方法に従い上記材料に対して種々の試験を行った。
− 引張り強さ(試験片を23℃及び相対湿度50%の条件下に置いた後に、ISO 527規格に準拠して測定した。)
− 引張り係数(試験片を23℃及び相対湿度50%の条件下に置いた後に、ISO 527規格に準拠して測定した。)
− 曲げ弾性率(試験片を23℃及び相対湿度50%の条件下に置いた後に、ISO 178規格に準拠して測定した。)
− 熱変形温度(HDT)(1.81N/mm2の荷重下でISO 75規格に準拠して測定した。)
【0076】
種々の組成及び評価を以下の表1に示した。
【表1】


無機化合物を含有しないポリアミドよりも引張り強度、引張り係数、曲げ弾性率及び熱変形温度の高い、ポリアミドベースの材料を得た。
【0077】
フィルムの作製
上記のポリマー顆粒をCMP(商標名)の装置を用いて押出成形した。
加工特性は以下の通りである。
− 押出し成形機の温度: 260〜290℃
− スクリュー速度: 36rpm
− モーターのトルク:
− 実施例6(アンペア単位):8〜10A
− 実施例7(アンペア単位):10〜16A
− 可変延伸比(フィルム厚さ:50〜150μm)
【0078】
この加工により異なる厚さをもったフィルムの製造が可能となり、これらの気体O2及びCO2と水蒸気に対する透過性を試験した。
フィルムを23℃及び相対湿度(RH)0%の条件下に48時間置いた後、以下に記載の手順に従い気体O2及びCO2と水蒸気に対する透過性の測定を行った。
【0079】
酸素透過性
以下の特定条件下でASTM D3985規格に準拠して酸素の透過係数を測定した。
<測定条件>
− 温度: 23℃
− 湿度: 0%(RH)
− 0.5dm2の三つの試験片に対して酸素(100%)を用いて測定
− 安定化時間: 24時間
− 測定装置: Oxtran 2/20(製品名)
【0080】
二酸化炭素透過性
ISO/DIS 15105−2、Annex B(クロマトグラフ検出法)に準拠して二酸化炭素の透過係数を測定した。
<測定条件>
− 温度: 23℃
− 湿度: 0%(RH)
− 0.5dm2の三つの試験片に対して測定
− 安定化時間: 48時間
− 測定装置: Oxtran 2/20(製品名)
<クロマトグラフ条件>
− オーブン: 40℃
− カラム: ポラパックQ(Porapak Q)
検出器の前にメタン化オーブンを通過させ、水素炎イオン化検出法により検出した。
既知の濃度の二酸化炭素を含む基準気体を用いてクロマトグラフを較正した。
【0081】
水蒸気透過性
NF H 00044規格に準拠して二酸化炭素の透過係数を測定した(Lyssy社製の装置を使用)。
<測定条件>
− 温度: 38℃
− 湿度: 90%(RH)
− 0.5dm2の三つの試験片に対して測定
− 26.5、14及び2.1g/m2・24hの参照フィルムで較正した。
【0082】
結果
2.6%のZrPの充填剤(実施例7)の存在は、ナイロン−6フィルムの前記気体及び水蒸気の透過性に対して大きな影響を与えた(表2)。試験を行った試験片は50〜110μmの異なる厚さのものを用いた。
【0083】
【表2】

【0084】
酸素透過度
α−ZrPを2.6%含有するフィルム(実施例7)で得られた結果は、同程度の厚さで、酸素透過度の減少割合が比較例6のα−ZrPのないフィルムに対して61%(50μm)〜66%(90μm)であった。α−ZrPを4.2%含有するフィルム(実施例8)では酸素透過度は約80%減少した。
【0085】
二酸化炭素透過度
充填剤としてα−ZrPを2.6%(実施例7)及び4.2%(実施例8)含有するフィルムの二酸化炭素透過度は添加剤無しのPA−6フィルム(実施例6)に比べ低かった。二酸化炭素に対する透過度の低下率は67%(50μmのとき)から85%(90μmとき)まで変動した。α−ZrPを4.2%含有するフィルムでは二酸化炭素透過度は約90%減少した。
【0086】
水蒸気透過度
ナイロン−6のフィルム中に2.6%のα−ZrPの充填剤が存在(実施例7)することにより、水蒸気に対する透過度も減少した。水蒸気に対する透過度の低下率は、添加剤無しのPA−6フィルム(実施例6)に対して33%(50μm)から48%(90μm)まで変化した。4.2%のα−ZrPを有するフィルム(実施例8)では、透過度は65%減少した。
【0087】
UV−可視光吸収測定
合成により得られた実施例6〜8の材料をフラットダイを用いて押出成形した。得られたフィルムの厚さは350μmであった。
これらのフィルムについて、150mmの積分球を使ってL900で全体の透過を分析した。波長を250〜800nmで変化させた。結果を図1に示す。図中、曲線1は実施例6に、曲線2は実施例7に、そして曲線3は実施例8に対応する。図1において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示す。
図1では、α−ZrPの存在によって添加剤無しのポリアミドの透過スペクトルが変化したことが明らかに示されている。偶然だが、充填剤がUV領域(λ<400nm)で吸収を示し、可視領域ではそれほど多くの吸収を示さなかった。4.2%のα−ZrP充填剤を含むポリマーの透過率がそれを2.6%含むポリマーと実質的に等しいことも認められた。
【0088】
材料の耐老化性
合成により得られた実施例6〜8の材料をフラットダイで押出成形した。得られたフィルムの厚さは350μmであった。
Xenotest 1200(製品名)の装置(キセノンランプ)を用いて行った試験において人工的に老化をシミュレートした。試験条件は以下の通りとした。
− ブラックパネルの温度:63℃
− 放射照度:65W/m2(290〜400nmの領域)
− 乾燥雰囲気102分と雨雰囲気18分の交代変化
試料の色調変化を約200時間ごとにMinolta 508−d(製品名)の分光比色計(正反射光含む)を用いて測定することにより監視した。
フィルムの老化はコントラスト値の低下に特徴付けられる透明度の損失によって反映される。結果を図2に示す。図中、曲線4は実施例6に、曲線5は実施例7に、そして曲線6は実施例8に対応する。図2において、横軸は暴露時間(h)を示し、縦軸はコントラストを示す。開始時点におけるコントラストの差(充填剤の存在による透明度のわずかな損失)を考慮すると、PA−6中のα−ZrPの存在がポリマーの分解速度を変化させないことが認められた。
【0089】
実施例7〜9: 燐酸ジルコニウムをベースとした板状粒子を含有するポリアミド−11の組成物
実施例2で得られた水性分散物を重合媒体へ導入しつつ、ポリアミド−11を慣例の方法に従って合成した。燐酸ジルコニウムをベースとした化合物の比率は材料の質量に対して2又は4重量%であった(実施例7及び8)。燐酸ジルコニウム化合物を含有しないポリアミド−11も合成した(比較用実施例9)。
重合後、ポリマーを顆粒に成形した。残留モノマーを除去するためにこれを洗浄し、次いで110℃で低真空下(<0.5mbar)で16時間乾燥した。
得られたポリマーの平均分子量を測定したところ、充填剤を導入しても有害な作用を重合の進行に与えないことが示された(表3)。
【0090】
【表3】

【0091】
機械的特性
密着試験をISO 178:93規格に準拠して行い、衝撃強さ試験をISO 179:93規格に準拠して行った。
得られた結果を以下の表にまとめた。
【0092】
【表4】

【0093】
M15のガソリンに対する透過度(60℃)
原理: 脱離化学イオン化(DCI)・白金/2次元ガスクロマトグラフ(GC):
揮発性材料はDCI白金技術、すなわち温度を制御しながら窒素を流すことで揮発性材料を脱着し、次いでTenax(登録商標)の充填した低温トラップ中に凝縮させること、により直接試料から抜き出した。
トラップを急速に再加熱して極性カラムへの導入を行った。この揮発性材料をFID検知器の方のカラムへヘリウムで同伴した。
測定原理:2次元気相のクロマトグラフ装置をダイナミックヘッドスペース法で用いた。これによりトラップ時間tの間にポリマー膜を通り抜ける溶剤の流れの分析が可能となる。測定セル(バイアル瓶)は、ポリマーとガソリンの接触を確保するためにDCI白金のオーブン中で逆さにしなければならない。時間の関数として検知された面積すべてを合計することにより、流れの曲線が得られる。したがってそこから被験ガソリン(定常条件下での曲線の傾斜)を構成する種々の溶剤のそれぞれの流れと透過係数を導き出すことができる。
【0094】
【表5】

【0095】
結果:
M15のガソリンは15体積%のメタノール42.5体積%のトルエン及び42.5体積%のイソオクタン(2,2,4−トリ−メチルペンタン)により構成される。
【0096】
【表6】

【0097】
化合物を約2%組み込むことにより(実施例7)、対照標準のPA−11(実施例9)の60℃におけるM15のガソリン流量を2分の1に減少させることができた。
【0098】
酸素透過性
実験条件:測定はOxtran 1000H(製品名)の装置で行った。
試験は面積レジューサーを用いて行った。結果の表中の値はすべて50μmの厚さのものに調整した。
フィルムは以下の方法で条件付けした。
→23℃の0%(RH)で行った測定に対して:酸素下で2日間
→23℃の75%(RH)で行った測定に対して:酸素下で3日間
【0099】
結果:
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例6〜8の材料を用いて得られたフィルムの各波長における透過率(%)を示す。
【図2】実施例6〜8の材料を用いて得られたフィルムの老化試験によって得られたコントラスト値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリックスと、個々の薄片が250又はそれを超えるアスペクト比を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとしたナノ粒子化合物とを含む気体及び液体に対して高い遮蔽性を有する材料を製造する方法であって、該材料は該化合物を、前記マトリックスの重合用媒体に導入することによって得られ、該化合物は以下の連続的段階を含むプロセスにより得られることを特徴とする方法:
a)燐酸と、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物或いはチタン及びジルコニウムをベースとした混合化合物(チタン及び/又はジルコニウムはIV価の酸化状態)とを出発物質とした、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を酸性媒体中に沈殿させる段階、
b)前記化合物を結晶化する段階、
c)結晶化した前記化合物をpH3〜9の液状媒体中で処理する段階。
【請求項2】
前記熱可塑性マトリックスがポリアミド、ポリメチルメタクリレート、PET、ポリスチレン、コポリオレフィン(例えばEVA)、並びにこれらの(共)重合体をベースとしたブレンド及び共重合体よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性マトリックスがポリアミド−6、ポリアミド−6,6、ポリアミド−11、ポリアミド−12、並びにこれらのポリアミドをベースとしたブレンド及び共重合体よりなる群から選択されるポリアミドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記材料中の燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の重量比が5%又はそれ未満であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の少なくとも一部が薄片の形態で分散していることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物は、個々の薄片が500又はそれを超えるアスペクト比を示すこと特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
15Å又はそれ未満の薄片間距離を示す燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物を、前記マトリックスの重合用媒体に導入することにより得られることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の薄片間距離が13Å又はそれ未満であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物が、燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる少なくとも一つの官能基を含有する無機又は有機化合物を含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記無機又は有機化合物がカチオンの形態であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記無機化合物がNa+イオンであることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記無機又は有機化合物が燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる官能基を一つ含むことを特徴とする、請求項9〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応することができる官能基がアミン官能基であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有機化合物がモノアミンであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記有機化合物がアミノ酸又はラクタムであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記有機化合物が以下の式(I):
A−R−B (I)
(式中、A及びBは燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンの酸性官能基と反応することができる同一又は異なる官能基であり、
Rは、ヘテロ原子を含有可能な、2〜20個の炭素原子を含む置換又は非置換の脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基である。)
に従う化合物であることを特徴とする、請求項9〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記官能基A及びBがアミンであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物(I)がヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン又はメタ−キシレンジアミンよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンのモル数に対する無機又は有機化合物の反応可能な官能基のモル数のモル比αが0.1〜0.8であることを特徴とする、請求項9〜18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記比αが0.4〜0.6であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記比αが実質的に0.5に等しいことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
燐酸ジルコニウム及び/又は燐酸チタンをベースとした化合物の水性溶液を前記マトリックスの重合用媒体中に導入することを特徴とする、請求項7〜21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22の何れか一項に記載の方法を実施する工程と、これにより得られた材料を成形する工程を含むフィルム、パイプ、中空体又はタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−46692(P2009−46692A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297216(P2008−297216)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【分割の表示】特願2003−569722(P2003−569722)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(501475088)
【Fターム(参考)】