高アルカリ水処理方法および処理装置
【課題】 高アルカリ水を比較的簡単な装置で容易かつ安価に処理することができる高アルカリ水処理方法および処理装置を提供することである。
【解決手段】 本発明の高アルカリ水処理方法は、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいる。本発明の高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレームと、フレームに所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、各トレイが、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下流側の端部から一段下位にあるトレイの上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されている。
【解決手段】 本発明の高アルカリ水処理方法は、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいる。本発明の高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレームと、フレームに所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、各トレイが、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下流側の端部から一段下位にあるトレイの上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アルカリ水処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事において、地盤中の方解石などの炭酸塩鉱物の溶解等に起因して、アルカリ性の排水が発生する場合がある。このような排水の中には、pHが9を超えるアルカリ性の排水(以下「高アルカリ水」という)もあり、高アルカリ水をそのまま放流すると、水質汚染の原因となるため、種々の処理が施されている。
【0003】
従来、高アルカリ水の処理方法としては、二酸化炭素の液化ボンベを準備し、液化ボンベから高アルカリ水に二酸化炭素を注入することによって中和する方式が主流となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法によると、二酸化炭素の液化ボンベを準備したり交換したりしなければならず、手間と費用を要するという不都合がある。とりわけ、このような高アルカリ水が、地盤中の炭酸塩の溶解に起因して高アルカリ性を呈するようになった地下水である場合には、工事後であっても高アルカリ水が発生することとなり、半永久的に処理しなければならないため、その処理費用は膨大なものとなる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、高アルカリ水を比較的簡単な装置で容易かつ安価に処理することができる高アルカリ水処理方法および処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法および装置は、大気中の二酸化炭素を高アルカリ水に溶解させることによって、高アルカリ水のpHを低下させようとするものである。
【0007】
気体の液体への溶解速度又は吸収速度を理論的に考察する際には、一般的に、二重境膜説が用いられる。二重境膜説とは、気相と液相との界面に、気相側にも液相側にも乱れのない薄い境膜が形成され、境膜での被吸収物質の移動は拡散が支配的となり、物質移動の抵抗となるという考え方である。境膜を通しての物質移動については、水への溶解度の低い気体では液相側の液境膜が律速となり、水への溶解度の高い気体では気相側の気境膜(あるいはガス境膜)が律速となる。したがって、二酸化炭素が水に比較的溶解しにくいことを考慮すると、二酸化炭素を水に溶解させるには、液相側の液境膜の厚さを減少させることが効果的であると推測される。
【0008】
本発明者は、まず予備実験として、水を二酸化炭素に接触させることによって、水のpHがどの程度変化するのかを検討した。この実験においては、既知の接触面積A(=2500cm2)および容積V(=2L又は4L、すなわち水深h=2cm又は4cm)を有する容器に水を入れ、種々の条件(静置状態、マグネチックスターラーによる攪拌状態)の下で、pHがどの程度変化するのかを調べた。
【0009】
その結果(図8参照)、静置状態よりも攪拌状態、攪拌状態よりも曝気状態のほうが、pH低下が早いことがわかる。また、単位容積あたりの接触面積が大きいほうが、pH低下が早いことがわかる。
【0010】
上述のように、水と空気とを接触させることによって、pHを低下させることができた。なお、攪拌や曝気の効果を確認することができたが、攪拌器(マグネチックスターラー)や曝気装置の使用には動力設備の設置が不可欠であることから、本発明では、攪拌や曝気と同じ原理を使用しないこととした。
【0011】
本願請求項1に記載の高アルカリ水処理方法は、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいることを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項2に記載の高アルカリ水処理方法は、前記請求項1の方法において、被処理水を大気との接触面積が大きくなるように流下させることを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項3に記載の高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレームと、前記フレームに高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、前記トレイの各々が、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下部トレイの下流側の端部から一段下位にあるトレイの上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本願請求項4に記載の高アルカリ水処理装置は、前記請求項3の装置において、前記下部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板と、上流側に設けられた上流部側板と、左右に設けられた側部側板とを有し、前記下流部側板に、一段下位にあるトレイに被処理水を放流するための越流部が設けられており、前記上部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板とを有し、前記下部トレイの底板に配置された複数の突起に前記上部トレイを載せることによって、前記上部トレイの底板が流下方向に向かって傾斜した状態で、前記下部トレイの底板との間に一定の空間が維持されるように組み立てられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、動力設備を必要とせずに、高アルカリ水のpHを比較的容易かつ安価に減少させることができる。本発明の装置は、構造が簡単であるので、故障も少なく、維持コストを低廉に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理方法および装置について説明する。本発明の高アルカリ水処理方法は、処理しようとする高アルカリ水(以下「被処理水」という)を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいる。
【0017】
本明細書の「課題を解決するための手段」の項において、水と空気との接触によるpHの減少について説明したが、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に流下させることによって、pHがどの程度減少するのかを検証するための実験を実施した。
【0018】
実験は、図9に示されるように、給水槽(EL904.5m)から受水槽(EL897.5m)に至る斜面(高低差7m、法面勾配1:1.8)に水路を設置することによって行われた。水路として、越流1回当たりの落差を15cm(越流幅30cm)としたセキ板を設置した型式(Aタイプ)と、越流1回当たりの落差を30cm(越流幅30cm)としたセキ板を設置した型式(Bタイプ)の2種類を準備して比較検討した。なお、pHの測定箇所は、給水槽の箇所(測定箇所0)、受水槽の箇所(測定箇所3)および、給水槽と受水槽の中間の2箇所(測定箇所1、2)の計4点とした。実験における流量は、Aタイプでは、1.0リットル/秒、0.3リットル/秒、0.07リットル/秒、0.02リットル/秒の4種類、Bタイプでは、1.0リットル/秒、0.3リットル/秒、0.1リットル/秒の3種類とした。
【0019】
実験の結果は、図10に示すとおりである。図10から分かるように、pH変化率は、ほぼ線形的に変化しており、流量が少ない程その傾向が強い。また、AタイプとBタイプではpH変化量に殆ど差がないことも読み取ることができる(Aタイプ、Bタイプとも、大気との接触面積は同じである)。
【0020】
方法論および実験結果を裏付けるため、理論解を求めた。
一般に、大気から二酸化炭素が溶解するときは気相と液相の界面に薄い境膜が形成され、この境膜が物質移動の抵抗となるが、二酸化炭素のように水への溶解度の低い気体の場合、液境膜での拡散速度が律速となることが知られている。
ここで、液境膜による反応速度は、大気と平衡状態にあるH2CO3 濃度をCSとおき、アルカリ性の排水のH2CO3濃度であるCとの差の一次反応で表現される。
【0021】
【数1】
【0022】
しかし、上記方程式の解と実験結果とでは隔たりがあった(図12)ことから、H2CO3濃度の反応速度には何らかの反応を阻害する要因が存在すると考え、式(1)にパラメータλを導入して式(2)とした。
【0023】
【数2】
式(2)を解くと、
【0024】
【数3】
となる。
ただし、速度係数Kは、
【0025】
【数4】
【0026】
図11は実験と理論値におけるpH変化量と流量の相関関係を示したグラフ(横軸に流量を対数表示、縦軸にpH変化量を表示)である。図11から分かるように実験と理論値はほぼ一致しており、両者ともある流量範囲では線形的であり、越流セキの落差にはほとんど左右されない傾向を示している。なお、λの値はAタイプでは4.5×10-9mol/L/s、Bタイプでは7.9×10-9mol/L/sとした。
【0027】
本発明の高アルカリ水処理方法では、被処理水の流下段階において、被処理水と大気との接触面積を大きくするのが好ましい。これは、「課題を解決するための手段」の項において説明した予備実験から導き出される結果である。
【0028】
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレーム12と、フレーム12に高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイ14とを備えている。
【0029】
フレーム12には、図2に示されるように、高所から低所に向かって所定間隔隔てて、トレイ支持用の多数の戸当り12aが設けられている。戸当り12aは、アングル材や角形鋼管等の鋼材を組み立てて形成されている。フレーム12は好ましくは、コンクリートで形成されている。
【0030】
図3は、トレイ14のひとつを示した斜視図、図4は、トレイ14のひとつを示した分解斜視図である。トレイ14は、下部トレイ16と上部トレイ18とを備えた上下2段構造となっており、フレーム12の戸当り12aにそれぞれ支持されている。下部トレイ16および上部トレイ18は、アクリル樹脂や硬質塩化ビニル樹脂などの適当な材料で形成されている。
【0031】
下部トレイ16は、矩形の底板16aと、下流側に設けられた下流部側板16bと、上流側に設けられた上流部側板16cと、左右に設けられた側部側板16d、16eと有している。下部トレイ16の下流部側板16bには、一段下位にあるトレイ14に被処理水を放流するための越流部16fが設けられている。越流部16fは、下部トレイ16内において被処理水に一定の滞留時間を付与するため(換言すると、下部トレイ16内で被処理水が水深h1を維持するように)、底板16aの上面より上方h1に位置する箇所16f1から切除されている(図6(b)参照)。また、好ましくは下流部側板16bの下部に、裏漏りを防止するため、裏漏り防止用突起16gが設けられている(図6(b)参照)。
【0032】
上部トレイ18は、矩形の底板18aと、下流側に設けられた下流部側板18bとを有しており、上流側の側部は開放している。底板18aの上流側の端部には、裏漏り防止用突起18a1が設けられている(図6(a)参照)。上部トレイ18の底板18aの横幅wuは、下部トレイ16の側部側板16d、16eの内法寸法wdと実質的に同一となるように形成されている(図4参照)。
【0033】
トレイ14は、下部トレイ16の底板16aとの間に一定の空間が維持されるように上部トレイ18を下部トレイ16の上方に配置することによって、組み立てられる。トレイ14の組み立ては、下部トレイ16の底板16aに配置された複数の突起16a1に上部トレイ18を載せることによって行われる。なお、好ましくは、上部トレイ18は、底板18aが流下方向に向かって傾斜するように配置されている(図5参照)。
【0034】
次に図7を参照して、高アルカリ水処理装置10の作動について説明する。上部トレイ18の下流側に流入した被処理水(矢印A参照)は、上部トレイ18が流下方向に傾斜しているため、上部トレイ18に一定時間貯留する。その際、上部トレイ18に貯留した被処理水と大気とが接触して、大気中の二酸化炭素が被処理水に溶解する。上部トレイ18に貯留した被処理水が一定量を超えると、上部トレイ18の上流側の端部から下部トレイ16の上流側の端部に落下する(矢印B参照)。下部トレイ16に落下した被処理水は、下部トレイ16の越流部16fの下端16f1が底面16aから高さh1のところに位置しているため、下部トレイ16内の被処理水の水深がh1になるまで下部トレイ16内に貯留する。その際、下部トレイ16に貯留した被処理水と大気とが接触して、大気中の二酸化炭素が被処理水に溶解する。下部トレイ16に貯留した被処理水の水深がh1を超えると、被処理水は、下部トレイ16の越流部16fから、一段下位にあるトレイ12に落下する(矢印C参照)。各トレイ12において以上の状態を繰り返すことによって、被処理水を、大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させ、これにより被処理水のpHを減少させる。
【0035】
なお、上述のトレイの構造や形状は例示的なものであって、高所から低所に向かって流下する被処理水と大気との接触面積を大きくすることができる他の構造や形状を採用してもよい。
【0036】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置の全体を示した斜視図である。
【図2】図1の装置のフレームを示した斜視図である。
【図3】図1の装置のトレイのひとつを示した斜視図である。
【図4】図1の装置のトレイのひとつを示した分解斜視図である。
【図5】図3のトレイの断面図である。
【図6】図6(a)は図5の部分6aの拡大図、図6(b)は図5の部分6bの拡大図である。
【図7】図1の装置の作動を説明するための図である。
【図8】水を二酸化炭素に接触させることによるpHの変化率を検証した予備実験の結果を示したグラフである。
【図9】被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に流下させた場合のpHの減少度を検証するための実験の形態を示した図である。
【図10】図9の実験の結果を示したグラフである。
【図11】図11(a)は、図9の実験におけるpH変化量と流量の相関関係を示したグラフ、図11(b)は、図9の実験における必要越流幅とpH変化量との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0038】
10 高アルカリ水処理装置
12 フレーム
14 トレイ
16 上部トレイ
18 下部トレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アルカリ水処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事において、地盤中の方解石などの炭酸塩鉱物の溶解等に起因して、アルカリ性の排水が発生する場合がある。このような排水の中には、pHが9を超えるアルカリ性の排水(以下「高アルカリ水」という)もあり、高アルカリ水をそのまま放流すると、水質汚染の原因となるため、種々の処理が施されている。
【0003】
従来、高アルカリ水の処理方法としては、二酸化炭素の液化ボンベを準備し、液化ボンベから高アルカリ水に二酸化炭素を注入することによって中和する方式が主流となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法によると、二酸化炭素の液化ボンベを準備したり交換したりしなければならず、手間と費用を要するという不都合がある。とりわけ、このような高アルカリ水が、地盤中の炭酸塩の溶解に起因して高アルカリ性を呈するようになった地下水である場合には、工事後であっても高アルカリ水が発生することとなり、半永久的に処理しなければならないため、その処理費用は膨大なものとなる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、高アルカリ水を比較的簡単な装置で容易かつ安価に処理することができる高アルカリ水処理方法および処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法および装置は、大気中の二酸化炭素を高アルカリ水に溶解させることによって、高アルカリ水のpHを低下させようとするものである。
【0007】
気体の液体への溶解速度又は吸収速度を理論的に考察する際には、一般的に、二重境膜説が用いられる。二重境膜説とは、気相と液相との界面に、気相側にも液相側にも乱れのない薄い境膜が形成され、境膜での被吸収物質の移動は拡散が支配的となり、物質移動の抵抗となるという考え方である。境膜を通しての物質移動については、水への溶解度の低い気体では液相側の液境膜が律速となり、水への溶解度の高い気体では気相側の気境膜(あるいはガス境膜)が律速となる。したがって、二酸化炭素が水に比較的溶解しにくいことを考慮すると、二酸化炭素を水に溶解させるには、液相側の液境膜の厚さを減少させることが効果的であると推測される。
【0008】
本発明者は、まず予備実験として、水を二酸化炭素に接触させることによって、水のpHがどの程度変化するのかを検討した。この実験においては、既知の接触面積A(=2500cm2)および容積V(=2L又は4L、すなわち水深h=2cm又は4cm)を有する容器に水を入れ、種々の条件(静置状態、マグネチックスターラーによる攪拌状態)の下で、pHがどの程度変化するのかを調べた。
【0009】
その結果(図8参照)、静置状態よりも攪拌状態、攪拌状態よりも曝気状態のほうが、pH低下が早いことがわかる。また、単位容積あたりの接触面積が大きいほうが、pH低下が早いことがわかる。
【0010】
上述のように、水と空気とを接触させることによって、pHを低下させることができた。なお、攪拌や曝気の効果を確認することができたが、攪拌器(マグネチックスターラー)や曝気装置の使用には動力設備の設置が不可欠であることから、本発明では、攪拌や曝気と同じ原理を使用しないこととした。
【0011】
本願請求項1に記載の高アルカリ水処理方法は、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいることを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項2に記載の高アルカリ水処理方法は、前記請求項1の方法において、被処理水を大気との接触面積が大きくなるように流下させることを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項3に記載の高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレームと、前記フレームに高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、前記トレイの各々が、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下部トレイの下流側の端部から一段下位にあるトレイの上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本願請求項4に記載の高アルカリ水処理装置は、前記請求項3の装置において、前記下部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板と、上流側に設けられた上流部側板と、左右に設けられた側部側板とを有し、前記下流部側板に、一段下位にあるトレイに被処理水を放流するための越流部が設けられており、前記上部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板とを有し、前記下部トレイの底板に配置された複数の突起に前記上部トレイを載せることによって、前記上部トレイの底板が流下方向に向かって傾斜した状態で、前記下部トレイの底板との間に一定の空間が維持されるように組み立てられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、動力設備を必要とせずに、高アルカリ水のpHを比較的容易かつ安価に減少させることができる。本発明の装置は、構造が簡単であるので、故障も少なく、維持コストを低廉に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理方法および装置について説明する。本発明の高アルカリ水処理方法は、処理しようとする高アルカリ水(以下「被処理水」という)を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいる。
【0017】
本明細書の「課題を解決するための手段」の項において、水と空気との接触によるpHの減少について説明したが、被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に流下させることによって、pHがどの程度減少するのかを検証するための実験を実施した。
【0018】
実験は、図9に示されるように、給水槽(EL904.5m)から受水槽(EL897.5m)に至る斜面(高低差7m、法面勾配1:1.8)に水路を設置することによって行われた。水路として、越流1回当たりの落差を15cm(越流幅30cm)としたセキ板を設置した型式(Aタイプ)と、越流1回当たりの落差を30cm(越流幅30cm)としたセキ板を設置した型式(Bタイプ)の2種類を準備して比較検討した。なお、pHの測定箇所は、給水槽の箇所(測定箇所0)、受水槽の箇所(測定箇所3)および、給水槽と受水槽の中間の2箇所(測定箇所1、2)の計4点とした。実験における流量は、Aタイプでは、1.0リットル/秒、0.3リットル/秒、0.07リットル/秒、0.02リットル/秒の4種類、Bタイプでは、1.0リットル/秒、0.3リットル/秒、0.1リットル/秒の3種類とした。
【0019】
実験の結果は、図10に示すとおりである。図10から分かるように、pH変化率は、ほぼ線形的に変化しており、流量が少ない程その傾向が強い。また、AタイプとBタイプではpH変化量に殆ど差がないことも読み取ることができる(Aタイプ、Bタイプとも、大気との接触面積は同じである)。
【0020】
方法論および実験結果を裏付けるため、理論解を求めた。
一般に、大気から二酸化炭素が溶解するときは気相と液相の界面に薄い境膜が形成され、この境膜が物質移動の抵抗となるが、二酸化炭素のように水への溶解度の低い気体の場合、液境膜での拡散速度が律速となることが知られている。
ここで、液境膜による反応速度は、大気と平衡状態にあるH2CO3 濃度をCSとおき、アルカリ性の排水のH2CO3濃度であるCとの差の一次反応で表現される。
【0021】
【数1】
【0022】
しかし、上記方程式の解と実験結果とでは隔たりがあった(図12)ことから、H2CO3濃度の反応速度には何らかの反応を阻害する要因が存在すると考え、式(1)にパラメータλを導入して式(2)とした。
【0023】
【数2】
式(2)を解くと、
【0024】
【数3】
となる。
ただし、速度係数Kは、
【0025】
【数4】
【0026】
図11は実験と理論値におけるpH変化量と流量の相関関係を示したグラフ(横軸に流量を対数表示、縦軸にpH変化量を表示)である。図11から分かるように実験と理論値はほぼ一致しており、両者ともある流量範囲では線形的であり、越流セキの落差にはほとんど左右されない傾向を示している。なお、λの値はAタイプでは4.5×10-9mol/L/s、Bタイプでは7.9×10-9mol/L/sとした。
【0027】
本発明の高アルカリ水処理方法では、被処理水の流下段階において、被処理水と大気との接触面積を大きくするのが好ましい。これは、「課題を解決するための手段」の項において説明した予備実験から導き出される結果である。
【0028】
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置は、傾斜面に設けられたフレーム12と、フレーム12に高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイ14とを備えている。
【0029】
フレーム12には、図2に示されるように、高所から低所に向かって所定間隔隔てて、トレイ支持用の多数の戸当り12aが設けられている。戸当り12aは、アングル材や角形鋼管等の鋼材を組み立てて形成されている。フレーム12は好ましくは、コンクリートで形成されている。
【0030】
図3は、トレイ14のひとつを示した斜視図、図4は、トレイ14のひとつを示した分解斜視図である。トレイ14は、下部トレイ16と上部トレイ18とを備えた上下2段構造となっており、フレーム12の戸当り12aにそれぞれ支持されている。下部トレイ16および上部トレイ18は、アクリル樹脂や硬質塩化ビニル樹脂などの適当な材料で形成されている。
【0031】
下部トレイ16は、矩形の底板16aと、下流側に設けられた下流部側板16bと、上流側に設けられた上流部側板16cと、左右に設けられた側部側板16d、16eと有している。下部トレイ16の下流部側板16bには、一段下位にあるトレイ14に被処理水を放流するための越流部16fが設けられている。越流部16fは、下部トレイ16内において被処理水に一定の滞留時間を付与するため(換言すると、下部トレイ16内で被処理水が水深h1を維持するように)、底板16aの上面より上方h1に位置する箇所16f1から切除されている(図6(b)参照)。また、好ましくは下流部側板16bの下部に、裏漏りを防止するため、裏漏り防止用突起16gが設けられている(図6(b)参照)。
【0032】
上部トレイ18は、矩形の底板18aと、下流側に設けられた下流部側板18bとを有しており、上流側の側部は開放している。底板18aの上流側の端部には、裏漏り防止用突起18a1が設けられている(図6(a)参照)。上部トレイ18の底板18aの横幅wuは、下部トレイ16の側部側板16d、16eの内法寸法wdと実質的に同一となるように形成されている(図4参照)。
【0033】
トレイ14は、下部トレイ16の底板16aとの間に一定の空間が維持されるように上部トレイ18を下部トレイ16の上方に配置することによって、組み立てられる。トレイ14の組み立ては、下部トレイ16の底板16aに配置された複数の突起16a1に上部トレイ18を載せることによって行われる。なお、好ましくは、上部トレイ18は、底板18aが流下方向に向かって傾斜するように配置されている(図5参照)。
【0034】
次に図7を参照して、高アルカリ水処理装置10の作動について説明する。上部トレイ18の下流側に流入した被処理水(矢印A参照)は、上部トレイ18が流下方向に傾斜しているため、上部トレイ18に一定時間貯留する。その際、上部トレイ18に貯留した被処理水と大気とが接触して、大気中の二酸化炭素が被処理水に溶解する。上部トレイ18に貯留した被処理水が一定量を超えると、上部トレイ18の上流側の端部から下部トレイ16の上流側の端部に落下する(矢印B参照)。下部トレイ16に落下した被処理水は、下部トレイ16の越流部16fの下端16f1が底面16aから高さh1のところに位置しているため、下部トレイ16内の被処理水の水深がh1になるまで下部トレイ16内に貯留する。その際、下部トレイ16に貯留した被処理水と大気とが接触して、大気中の二酸化炭素が被処理水に溶解する。下部トレイ16に貯留した被処理水の水深がh1を超えると、被処理水は、下部トレイ16の越流部16fから、一段下位にあるトレイ12に落下する(矢印C参照)。各トレイ12において以上の状態を繰り返すことによって、被処理水を、大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させ、これにより被処理水のpHを減少させる。
【0035】
なお、上述のトレイの構造や形状は例示的なものであって、高所から低所に向かって流下する被処理水と大気との接触面積を大きくすることができる他の構造や形状を採用してもよい。
【0036】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る高アルカリ水処理装置の全体を示した斜視図である。
【図2】図1の装置のフレームを示した斜視図である。
【図3】図1の装置のトレイのひとつを示した斜視図である。
【図4】図1の装置のトレイのひとつを示した分解斜視図である。
【図5】図3のトレイの断面図である。
【図6】図6(a)は図5の部分6aの拡大図、図6(b)は図5の部分6bの拡大図である。
【図7】図1の装置の作動を説明するための図である。
【図8】水を二酸化炭素に接触させることによるpHの変化率を検証した予備実験の結果を示したグラフである。
【図9】被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に流下させた場合のpHの減少度を検証するための実験の形態を示した図である。
【図10】図9の実験の結果を示したグラフである。
【図11】図11(a)は、図9の実験におけるpH変化量と流量の相関関係を示したグラフ、図11(b)は、図9の実験における必要越流幅とpH変化量との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0038】
10 高アルカリ水処理装置
12 フレーム
14 トレイ
16 上部トレイ
18 下部トレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高アルカリ水を処理するための方法であって、
被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
被処理水を大気との接触面積が大きくなるように流下させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高アルカリ水を処理するための装置であって、
傾斜面に設けられたフレームと、前記フレームに高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、
前記トレイの各々が、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下部トレイの下流側の端部から一段下位にある上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項4】
前記下部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板と、上流側に設けられた上流部側板と、左右に設けられた側部側板とを有し、前記下流部側板に、一段下位にあるトレイに被処理水を放流するための越流部が設けられており、
前記上部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板とを有し、
前記下部トレイの底板に配置された複数の突起に前記上部トレイを載せることによって、前記上部トレイの底板が流下方向に向かって傾斜した状態で、前記下部トレイの底板との間に一定の空間が維持されるように組み立てられることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項1】
高アルカリ水を処理するための方法であって、
被処理水を大気と接触させた状態で高所から低所に向かって流下させる段階を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
被処理水を大気との接触面積が大きくなるように流下させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高アルカリ水を処理するための装置であって、
傾斜面に設けられたフレームと、前記フレームに高所から低所に向かって所定間隔隔てて配置された多数のトレイとを備え、
前記トレイの各々が、下部トレイと上部トレイとを有する上下2段構造となっており、上部トレイに流入した被処理水が、上流側の端部から下部トレイに落下し、次いで下部トレイの下流側の端部から一段下位にある上部トレイに流入することによって、被処理水が大気と接触した状態で高所から低所に向かって流下するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項4】
前記下部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板と、上流側に設けられた上流部側板と、左右に設けられた側部側板とを有し、前記下流部側板に、一段下位にあるトレイに被処理水を放流するための越流部が設けられており、
前記上部トレイが、矩形の底板と、下流側に設けられた下流部側板とを有し、
前記下部トレイの底板に配置された複数の突起に前記上部トレイを載せることによって、前記上部トレイの底板が流下方向に向かって傾斜した状態で、前記下部トレイの底板との間に一定の空間が維持されるように組み立てられることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−136862(P2009−136862A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288456(P2008−288456)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(594157418)株式会社ドーコン (20)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(594157418)株式会社ドーコン (20)
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