説明

高シス−1,4−結合量と高い官能性とを有する変性シス−1,4−ポリジエンの製造方法

【課題】高いシス-1,4-結合量と高い官能性を併せ持つ変性シス-1,4-ポリジエンの製造方法を提供する。
【解決手段】変性シス-1,4-ポリジエンは、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、前記ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)前記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含む方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月28日に出願された、米国仮出願第60/877,535号についての利益を主張するものであり、該仮出願を参照することにより本願に援用する。
本発明は、高シス-1,4-結合量と、高い反応性重合体鎖の割合とを併せ持つシス-1,4-ポリジエンの製造方法に関するものである。該方法は、特にランタニド系の触媒系を使用する。ポリジエンを変性し、高度の官能性を有する重合体を製造することができる。また、特定のランタニド系の触媒系を用い、狭い分子量分布を有する重合体を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
変性重合体は、アニオン重合法により調製することができ、例えば、変性開始剤を用いて1,3-ブタジエンの重合を開始させること及び/又はリビングアニオン重合体を変性剤と反応させることにより調製することができる。アニオン重合法で得た変性重合体は、高い官能性を有することができ、非変性重合体に比べてカーボンブラック充填剤又はシリカ充填剤に対する親和性が優れる重合体をもたらす。従って、変性重合体で作製された加硫ゴムは、非変性重合体で作製されたものより低いヒステリシスロスを与える。残念ながら、シス-1,4-ポリジエン等の立体規則性重合体は、特定のタイヤ部材の製造にしばしば求められるが、アニオン重合法がポリジエン重合体のシス-1,4-結合量等の重合体のミクロ構造に関し厳密な制御を提供することができないため、アニオン重合法により得ることができない。
【0003】
ランタニド化合物、アルキル化剤及びハロゲン含有化合物を含むランタニド系触媒等の配位触媒(チーグラー・ナッタ触媒とも知られる)は、非常に立体選択的であることが多い。この触媒は、高シス-1,4-結合量を有する共役ジエン重合体を製造することができる。得られたシス-1,4-ポリジエンは、特にサイドウォール及びトレッド等のタイヤ部材への使用に適している。それにもかかわらず、重合における配位触媒の使用は、配位触媒がむしろ幾つかの触媒成分間での相互作用を伴い、しばしば自己停止反応を伴う錯体化学の反応機構により作用するため、得られる重合体を変性する能力を制限する。結果として、配位触媒を用いる通常の条件下で、非常に変性された重合体を調製することは困難である。
【0004】
ランタニド系触媒を用いて触媒作用させる溶液重合法を経て調製したシス-1,4-ポリジエンは、重合体鎖の一部が反応性の鎖末端を有するように、幾らかの擬似リビング特性を示すことが知られている。従って、このシス-1,4-ポリジエンは、アミノケトン、ヘテロクムレン化合物、三員環の複素環式化合物、有機金属ハロゲン化物及び一部の他のハロゲン含有化合物等の特定の変性剤で反応させてもよい。残念ながら、配位触媒に関連する上述の制限によって、得られる変性シス-1,4-ポリジエンは、通常、アニオン重合法により製造される他の変性重合体と比べて低い官能性を有する。
【0005】
従って、高シス-1,4-結合量と高い官能性を併せ持つ変性シス-1,4-ポリジエンの製造方法を開発する必要がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一の実施態様において、本発明は、95%以上のシス-1,4-結合量と75%以上の官能性とを有する変性シス-1,4-ポリジエンを提供するものであり、ここで、官能性は、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として定義される。
【0007】
他の実施態様において、本発明は、反応性シス-1,4-ポリジエンの調製方法を提供するものであり、該方法は、単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させる工程を含み、ここで、該ランタニド系触媒は、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である。
【0008】
他の実施態様において、本発明は、変性シス-1,4-ポリジエンの製造方法を提供するものであり、該方法は、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、ここで、ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)上記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含み、得られる変性重合体が、約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として定義される。
【0009】
また、他の実施態様において、本発明は、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、ここで、ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)上記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含む方法により製造される変性シス-1,4-ポリジエンを提供するものであり、ここで、得られる重合体が、約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として定義される。
【0010】
更に、他の実施態様において、本発明は、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、ここで、ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)上記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含む方法により製造される変性シス-1,4-ポリジエンを含む加硫性組成物を提供するものであり、ここで、上記の方法により得られる重合体が、約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として定義される。
【0011】
また更に、本発明は、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、ここで、ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)上記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含む方法により製造される変性シス-1,4-ポリジエンを含む加硫性組成物から作製されるタイヤを提供するものであり、ここで、上記の方法により得られる重合体が、約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として定義される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一以上の実施態様は、反応性の鎖末端を有する重合体鎖の有利に高い割合を有するシス-1,4-ポリジエンの製造方法に向けられている。このポリジエンは、通常、塊状重合系内でランタニド系の触媒系を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより製造され、反応性重合体を形成する。ランタニド系の触媒系は、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物を含む。一以上の実施態様において、ハロゲン含有化合物がヨウ素含有化合物である場合、得られるシス-1,4-ポリジエンは、有利に狭い分子量分布を有する。また、反応性重合体は、有利に特定の変性剤と反応することができ、高シス-1,4-結合量と予想外に高い官能性を併せ持つ変性重合体を形成する。得られる変性重合体をタイヤ部材の製造に用いることができる。
【0013】
一以上の実施態様において、本発明者らは、予想外に、高シス-1,4-結合量と高い官能性を併せ持つ変性シス-1,4-ポリジエンが、(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、ここで、ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、(2)上記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含む方法により製造できることを見出した。一以上の実施態様においては、成分(a)〜(d)に加えて、他の有機金属化合物、ルイス塩基、及び/又は触媒変性剤を用いてもよい。一の実施態様では、参照することにより本願に援用される米国特許第6,699,813号明細書に開示されているように、分子量調整剤としてニッケル含有化合物を用いてもよい。
【0014】
本発明の実施に際して、種々の共役ジエン単量体又はそれらの混合物を用いることができる。共役ジエン単量体の具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン及び2,4-ヘキサジエンが挙げられる。一以上の実施態様では、二種以上の共役ジエン単量体の混合物(例えば、1,3-ブタジエンとイソプレン)を用い、共重合体を製造することができる。
【0015】
上記触媒系の成分(a)として、各種ランタニド化合物又はそれらの混合物を用いることができる。一の実施態様では、ランタニド化合物が、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素等の炭化水素溶媒に可溶でもよい。他の実施態様では、ランタニド化合物が、炭化水素溶媒に不溶でもよいが、重合媒質中で懸濁し、触媒活性種を形成することができる。また、ランタニド化合物を可溶化するための助剤として、テトラヒドロフラン、アセチルアセトン、ピリジン又はアルコール等のルイス塩基を用いてもよい。
【0016】
上記ランタニド化合物は、ランタン、ネオジム、セリウム、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム及びジジムの内の少なくとも一つの原子を含む場合がある。好ましくは、この化合物は、ネオジム、ランタン、サマリウム、又はジジムを含む。ジジムは、モズナ砂から得られる希土類元素の商業用混合物を含んでもよい。
【0017】
ランタニド化合物中のランタニド原子は、制限されないが0、+2、+3、+4の酸化状態を含む様々な酸化状態で存在することができる。適したランタニド化合物としては、制限されるものではないが、ランタニドカルボン酸塩、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、ランタニド有機ホスフィン酸塩、ランタニドカルバミン酸塩、ランタニドジチオカルバミン酸塩、ランタニドキサントゲン酸塩、ランタニドβ-ジケトナート、ランタニドアルコキシド又はランタニドアリールオキシド、ランタニドハロゲン化物、ランタニド擬似ハロゲン化物、ランタニドオキシハライド、及び有機ランタニド化合物が挙げられる。ランタニドハロゲン化物、ランタニドオキシハライド又は一つ以上の不安定なハロゲン原子を含む他のランタニド化合物を用いる場合、ランタニド含有化合物は、触媒系の成分(a)及び成分(b)の両方として機能することができる。
【0018】
適したランタニド化合物は、米国特許第7,094,849号明細書に記載されており、その内容を参照することにより本願に援用する。一の実施態様では、ネオジム化合物を用いる。他の実施態様では、ネオジムカルボン酸塩を用いる。また、他の実施態様では、ネオジム2-エチルへキサン酸塩及びネオジムネオデカン酸塩(ネオジムバーサチック酸塩とも称する)等のネオジムカルボン酸塩を用いる。更なる実施態様では、ネオジム有機リン酸塩を用いる。
【0019】
上記触媒系の成分(b)として、各種アルミノキサン又はそれらの混合物を用いることができる。アルミノキサンとしては、一般式:
【化1】

で表すことができるオリゴマー状の線状アルミノキサン及び一般式:
【化2】

で表すことができるオリゴマー状の環状アルミノキサン[式中、Xは1〜約100、好ましくは約10〜約50の整数であり;yは2〜約100、好ましくは約3〜約20の整数であり;各R1は、同一でも異なってもよいが、炭素原子を介してアルミニウム原子に結合する一価の有機基である]が挙げられる。好ましくは、各R1は、限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、アルキニル基等のヒドロカルビル基である。これらヒドロカルビル基は、限定されないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、スズ原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子を含んでもよい。本願で使用するアルミノキサンのモル数は、オリゴマー状のアルミノキサン分子のモル数というよりもアルミニウム原子のモル数を指すことに注意すべきである。この慣行は、アルミノキサンを利用する触媒の技術分野において一般に採用されている。
【0020】
アルミノキサンは、一種以上のトリヒドロカルビルアルミニウム化合物に水を反応させることによって調製できる。この反応は、(1)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を有機溶媒に溶解し、その後に水と接触させる方法、(2)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、例えば金属塩中に含まれる結晶水、又は無機化合物もしくは有機化合物に吸着した水と反応させる方法、(3)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、重合させる単量体又は単量体溶液の存在下で水と反応させる方法、等の公知の方法に従い実行できる。
【0021】
適したアルミノキサン化合物としては、メチルアルミノキサン(MAO)、変性メチルアルミノキサン(MMAO)、エチルアルミノキサン、n-プロピルアルミノキサン、イソプロピルアルミノキサン、n-ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、n-ペンチルアルミノキサン、ネオペンチルアルミノキサン、n-ヘキシルアルミノキサン、n-オクチルアルミノキサン、2-エチルヘキシルアルミノキサン、シクロヘキシルアルミノキサン、1-メチルシクロペンチルアルミノキサン、フェニルアルミノキサン、2,6-ジメチルフェニルアルミノキサン等、及びこれらの混合物が挙げられる。変性メチルアルミノキサンは、メチルアルミノキサンのメチル基の約20〜80%を、当業者に既知の技術を用いてC2〜C12のヒドロカルビル基、好ましくはイソブチル基で置換することによって形成できる。
【0022】
一の実施態様では、触媒系の成分(b)がメチルアルミノキサン(MAO)である。他の実施態様では、触媒組成物の成分(b)が変性メチルアルミノキサン(MMAO)である。
【0023】
上記触媒系の成分(c)として、各種有機アルミニウム化合物又はそれらの混合物を用いることができる。「有機アルミニウム化合物」の用語は、少なくとも一つのアルミニウム−炭素結合を含む任意のアルミニウム化合物を指す。一つ以上の不安定なハロゲン原子を含む有機アルミニウム化合物を用いる場合、有機アルミニウム化合物は、触媒系の成分(c)と成分(d)の両方として機能することができる。
【0024】
適した有機アルミニウム化合物の限定されない例としては、一般式AlRn3-n[式中、各Rは、同一でも異なってもよいが、炭素原子を介してアルミニウム原子に結合する一価の有機基であり、各Xは、同一でも異なってもよいが、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシレート基、アルコキシド基又はアリールオキシド基であり、nは1〜3の整数である]により表すことができる。好ましくは、各Rは、限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、アルキニル基等のヒドロカルビル基である。これらヒドロカルビル基は、限定されないが、窒素原子、酸素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、スズ原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子を含んでもよい。
【0025】
上記一般式AlRn3-nで表される有機アルミニウム化合物の限定されない例としては、トリヒドロカルビルアルミニウム化合物、ジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド化合物、ヒドロカルビルアルミニウムジヒドリド化合物、ジヒドロカルビルアルミニウムカルボキシレート化合物、ヒドロカルビルアルミニウムビス(カルボキシレート)化合物、ジヒドロカルビルアルミニウムアルコキシド化合物、ヒドロカルビルアルミニウムジアルコキシド化合物、ジヒドロカルビルアルミニウムハライド化合物、ヒドロカルビルアルミニウムジハライド化合物、ジヒドロカルビルアルミニウムアリールオキシド化合物、ヒドロカルビルアルミニウムジアリールオキシド化合物が挙げられる。一の実施態様では、触媒系の成分(c)がトリヒドロカルビルアルミニウム化合物である。他の実施態様では、触媒系の成分(c)がジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド化合物である。また、他の実施態様では、触媒系の成分(c)がヒドロカルビルアルミニウムジヒドリド化合物である。
【0026】
適したトリヒドロカルビルアルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリ-n-ペンチルアルミニウム、トリネオペンチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリス(2-エチルヘキシル)アルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリス(1-メチルシクロペンチル)アルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリ-p-トリルアルミニウム、トリス(2,6-ジメチルフェニル)アルミニウム、トリベンジルアルミニウム、ジエチルフェニルアルミニウム、ジエチル-p-トリルアルミニウム、ジエチルベンジルアルミニウム、エチルジフェニルアルミニウム、エチルジ-p-トリルアルミニウム及びエチルジベンジルアルミニウムが挙げられる。
【0027】
適したジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド化合物としては、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジ-n-プロピルアルミニウムヒドリド、ジイソプロピルアルミニウムヒドリド、ジ-n-ブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジ-n-オクチルアルミニウムヒドリド、ジフェニルアルミニウムヒドリド、ジ-p-トリルアルミニウムヒドリド、ジベンジルアルミニウムヒドリド、フェニルエチルアルミニウムヒドリド、フェニル-n-プロピルアルミニウムヒドリド、フェニルイソプロピルアルミニウムヒドリド、フェニル-n-ブチルアルミニウムヒドリド、フェニルイソブチルアルミニウムヒドリド、フェニル-n-オクチルアルミニウムヒドリド、p-トリルエチルアルミニウムヒドリド、p-トリル-n-プロピルアルミニウムヒドリド、p-トリルイソプロピルアルミニウムヒドリド、p-トリル-n-ブチルアルミニウムヒドリド、p-トリルイソブチルアルミニウムヒドリド、p-トリル-n-オクチルアルミニウムヒドリド、ベンジルエチルアルミニウムヒドリド、ベンジル-n-プロピルアルミニウムヒドリド、ベンジルイソプロピルアルミニウムヒドリド、ベンジル-n-ブチルアルミニウムヒドリド、ベンジルイソブチルアルミニウムヒドリド及びベンジル-n-オクチルアルミニウムヒドリドが挙げられる。
【0028】
適したヒドロカルビルアルミニウムジヒドリドとしては、エチルアルミニウムジヒドリド、n-プロピルアルミニウムジヒドリド、イソプロピルアルミニウムジヒドリド、n-ブチルアルミニウムジヒドリド、イソブチルアルミニウムジヒドリド及びn-オクチルアルミニウムジヒドリドが挙げられる。
【0029】
適したジヒドロカルビルアルミニウムクロリド化合物としては、ジエチルアルミニウムクロリド、ジ-n-プロピルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジ-n-ブチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジ-n-オクチルアルミニウムクロリド、ジフェニルアルミニウムクロリド、ジ-p-トリルアルミニウムクロリド、ジベンジルアルミニウムクロリド、フェニルエチルアルミニウムクロリド、フェニル-n-プロピルアルミニウムクロリド、フェニルイソプロピルアルミニウムクロリド、フェニル-n-ブチルアルミニウムクロリド、フェニルイソブチルアルミニウムクロリド、フェニル-n-オクチルアルミニウムクロリド、p-トリルエチルアルミニウムクロリド、p-トリル-n-プロピルアルミニウムクロリド、p-トリルイソプロピルアルミニウムクロリド、p-トリル-n-ブチルアルミニウムクロリド、p-トリルイソブチルアルミニウムクロリド、p-トリル-n-オクチルアルミニウムクロリド、ベンジルエチルアルミニウムクロリド、ベンジル-n-プロピルアルミニウムクロリド、ベンジルイソプロピルアルミニウムクロリド、ベンジル-n-ブチルアルミニウムクロリド、ベンジルイソブチルアルミニウムクロリド及びベンジル-n-オクチルアルミニウムクロリドが挙げられる。
【0030】
適したヒドロカルビルアルミニウムジクロリドとしては、エチルアルミニウムジクロリド、n-プロピルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、n-ブチルアルミニウムジクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド及びn-オクチルアルミニウムジクロリドが挙げられる。
【0031】
他の有機アルミニウム化合物としては、ジメチルアルミニウムヘキサノアート、ジエチルアルミニウムオクトアート、ジイソブチルアルミニウム2-エチルヘキサノアート、ジメチルアルミニウムネオデカノアート、ジエチルアルミニウムステアラート、ジイソブチルアルミニウムオレアート、メチルアルミニウムビス(ヘキサノアート)、エチルアルミニウムビス(オクトアート)、イソブチルアルミニウムビス(2-エチルヘキサノアート)、メチルアルミニウムビス(ネオデカノアート)、エチルアルミニウムビス(ステアラート)、イソブチルアルミニウムビス(オレアート)、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジメチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジイソブチルアルミニウムフェノキシド、メチルアルミニウムジメトキシド、エチルアルミニウムジメトキシド、イソブチルアルミニウムジメトキシド、メチルアルミニウムジエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジエトキシド、メチルアルミニウムジフェノキシド、エチルアルミニウムジフェノキシド、イソブチルアルミニウムジフェノキシド等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
上記触媒系の成分(d)として、一つ以上の不安定なハロゲン原子を含む各種ハロゲン含有化合物又はそれらの混合物を用いることができる。ハロゲン原子の例としては、制限されるものではないが、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。また、二種以上のハロゲン原子の組み合わせを利用することができる。一の実施態様において、ハロゲン含有化合物は、炭化水素溶媒に可溶でもよい。他の実施態様において、ハロゲン含有化合物は、炭化水素溶媒に不溶でもよいが、それらを重合媒質中で懸濁し、触媒活性種を形成することができる。
【0033】
ハロゲン含有化合物の有用な種類としては、制限されるものではないが、元素のハロゲン、混合ハロゲン、ハロゲン化水素、有機ハロゲン化物、無機ハロゲン化物、金属ハロゲン化物、有機金属ハロゲン化物及びそれらの混合物が挙げられる。一の実施態様では、触媒系の成分(d)が有機ハロゲン化物である。他の実施態様では、触媒系の成分(d)が金属ハロゲン化物である。また、他の実施態様では、触媒系の成分(d)が有機金属ハロゲン化物である。
【0034】
適した元素のハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。適した混合ハロゲンとしては、一塩化ヨウ素、一臭化ヨウ素、三塩化ヨウ素、五フッ化ヨウ素、一フッ化ヨウ素及び三フッ化ヨウ素が挙げられる。
【0035】
適したハロゲン化水素としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素及びヨウ化水素が挙げられる。
【0036】
適した有機ハロゲン化物としては、t-ブチルクロリド、t-ブチルブロミド、アリルクロリド、アリルブロミド、ベンジルクロリド、ベンジルブロミド、クロロ-ジ-フェニルメタン、ブロモ-ジ-フェニルメタン、トリフェニルメチルクロリド、トリフェニルメチルブロミド、ベンジリデンクロリド、ベンジリデンブロミド、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ベンゾイルクロリド、ベンゾイルブロミド、プロピオニルクロリド、プロピオニルブロミド、メチルクロロホルマート、メチルブロモホルマート、ヨードメタン、ジヨードメタン、トリヨードメタン(ヨードホルムとも称する)、テトラヨードメタン、1-ヨードプロパン、2-ヨードプロパン、1,3-ジヨードプロパン、t-ブチルヨージド、2,2-ジメチル-1-ヨードプロパン(ネオペンチルヨージドとも称する)、アリルヨージド、ヨードベンゼン、ベンジルヨージド、ジフェニルメチルヨージド、トリフェニルメチルヨージド、ベンジリデンヨージド(ベンザルヨージドとも称する)、トリメチルシリルヨージド、トリエチルシリルヨージド、トリフェニルシリルヨージド、ジメチルジヨードシラン、ジエチルジヨードシラン、ジフェニルジヨードシラン、メチルトリヨードシラン、エチルトリヨードシラン、フェニルトリヨードシラン、ベンゾイルヨージド、プロピオニルヨージド及びメチルヨードホルマートが挙げられる。
【0037】
適した無機ハロゲン化物としては、三塩化リン、三臭化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四フッ化ケイ素、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、三塩化ヒ素、三臭化ヒ素、四塩化セレン、四臭化セレン、四塩化テルル、四臭化テルル、四ヨウ化ケイ素、三ヨウ化ヒ素、四ヨウ化テルル、三ヨウ化ホウ素、三ヨウ化リン、オキシヨウ化リン及び四ヨウ化セレンが挙げられる。
【0038】
適した金属ハロゲン化物としては、四塩化スズ、四臭化スズ、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、三臭化アンチモン、三フッ化アルミニウム、三塩化ガリウム、三臭化ガリウム、三フッ化ガリウム、三塩化インジウム、三臭化インジウム、三フッ化インジウム、四塩化チタン、四臭化チタン、二塩化亜鉛、二臭化亜鉛、二フッ化亜鉛、三ヨウ化アルミニウム、三ヨウ化ガリウム、三ヨウ化インジウム、四ヨウ化チタン、二ヨウ化亜鉛、四ヨウ化ゲルマニウム、四ヨウ化スズ、二ヨウ化スズ、三ヨウ化アンチモン及び二ヨウ化マグネシウムが挙げられる。
【0039】
適した有機金属ハロゲン化物としては、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムフルオリド、ジエチルアルミニウムフルオリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジブロミド、メチルアルミニウムジフルオリド、エチルアルミニウムジフルオリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソブチルアルミニウムセスキクロリド、メチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、n-ブチルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムブロミド、ベンジルマグネシウムクロリド、トリメチルスズクロリド、トリメチルスズブロミド、トリエチルスズクロリド、トリエチルスズブロミド、ジ-t-ブチルスズジクロリド、ジ-t-ブチルスズジブロミド、ジ-n-ブチルスズジクロリド、ジ-n-ブチルスズジブロミド、トリ-n-ブチルスズクロリド、トリ-n-ブチルスズブロミド、メチルマグネシウムヨージド、ジメチルアルミニウムヨージド、ジエチルアルミニウムヨージド、ジ-n-ブチルアルミニウムヨージド、ジイソブチルアルミニウムヨージド、ジ-n-オクチルアルミニウムヨージド、メチルアルミニウムジヨージド、エチルアルミニウムジヨージド、n-ブチルアルミニウムジヨージド、イソブチルアルミニウムジヨージド、メチルアルミニウムセスキヨージド、エチルアルミニウムセスキヨージド、イソブチルアルミニウムセスキヨージド、エチルマグネシウムヨージド、n-ブチルマグネシウムヨージド、イソブチルマグネシウムヨージド、フェニルマグネシウムヨージド、ベンジルマグネシウムヨージド、トリメチルスズヨージド、トリエチルスズヨージド、トリ-n-ブチルスズヨージド、ジ-n-ブチルスズジヨージド及びジ-t-ブチルスズジヨージドが挙げられる。
【0040】
一以上の実施態様においては、ハロゲン含有化合物として、ヨウ素含有化合物を用いる。本願で用いるランタニド系の触媒系内でヨウ素含有化合物の使用が、高シス含量と反応性重合体鎖の高い割合で特徴づけられる重合体を製造するだけでなく、狭い分子量分布で特徴づけられる重合体を製造するのに好都合であることを有利に見出した。
【0041】
更に他の実施態様では、ハロゲン含有化合物の代わりに、非配位性アニオンを含む化合物、又は非配位性アニオン先駆体、即ち、化学反応を受けて非配位性アニオンを形成することができる化合物を用いてもよい。非配位性アニオンを含む化合物は、当技術分野において知られている。一般に、非配位性アニオンは、例えば、立体障害のために触媒系の活性中心と配位結合を形成しない立体的に嵩高いアニオンである。例示的な非配位性アニオンとしては、テトラアリールボラートアニオン及びフッ化テトラアリールボラートアニオンが挙げられる。また、非配位性アニオンを含む化合物は、カルボニウムカチオン、アルミニウムカチオン又はホスホニウムカチオン等の対カチオンを含む。例示的な対カチオンとしては、トリアリールカルボニウムカチオン及びN,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが挙げられる。非配位性アニオン及び対カチオンを含む化合物の例としては、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルカルボニウムテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、及びN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラートが挙げられる。
【0042】
非配位性アニオン先駆体としては、反応条件下で非配位性アニオンを形成することができる物質が挙げられる。例示的な非配位性アニオン先駆体としては、トリアルキルボラン化合物,BR3[式中、Rはペンタフルオロフェニル基又は3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基等の強い電子求引性のアリール基である]が挙げられる。
【0043】
本発明の実施に際して、上記ランタニド系触媒を広範囲の触媒濃度及び広範囲の触媒成分比に亘って用いることができる。ランタニド系触媒系の触媒成分(a)〜(d)が相互作用して触媒活性種を形成し得ると思われる。従って、いずれか一つの触媒成分の最適濃度は他の触媒成分の濃度に依存し得る。
【0044】
アルミノキサンのランタニド化合物に対するモル比(Al/Ln)を約5:1〜約1000:1、他の実施態様では約10:1〜約700:1、更に他の実施態様では約20:1〜約500:1の範囲で変えることができ、ここで、モル比とは、ランタニド化合物におけるランタニド原子に対するアルミノキサンにおけるアルミニウム原子のモルを指す。
【0045】
有機アルミニウム化合物のランタニド化合物に対するモル比(有機-Al/Ln)を約1:1〜約200:1、他の実施態様では約2:1〜約100:1、更に他の実施態様では約5:1〜約50:1の範囲で変えることができる。
【0046】
ハロゲン含有化合物のランタニド化合物に対するモル比(ハロゲン/Ln)は、ハロゲン含有化合物におけるハロゲン原子のモルのランタニド化合物におけるランタニド原子のモルに対する比として最もよく記載される。ハロゲン/Lnのモル比を約0.5:1〜約20:1、他の実施態様では約1:1〜約10:1、更に他の実施態様では約2:1〜約6:1の範囲で変えることができる。
【0047】
非配位性アニオン又は非配位性アニオン先駆体を用いるこれらの実施態様では、非配位性アニオン又は非配位性アニオン先駆体のランタニド化合物に対するモル比(An/Ln)を約0.5:1〜約20:1の範囲としてもよく、他の実施態様では約0.75:1〜約10:1、更に他の実施態様では約1:1〜約6:1の範囲としてもよい。
【0048】
上記触媒成分(a)、(b)、(c)及び(d)を組み合わせる又は混合することで、ランタニド系触媒を形成することができる。活性な触媒種はこの組み合わせに起因すると思われるが、各種成分又は要素間での相互作用又は反応の程度についてはあまり知られていない。それゆえ、「触媒組成物」の用語は、成分の単なる混合物、物理的又は化学的な引力により生じる各種成分の複合体、成分の化学反応生成物、又はこれらの組み合わせを包含するために使用されている。
【0049】
上記触媒組成物は、下記に示す方法の一つを用いることによって形成できる。
【0050】
一の実施態様において、上記触媒組成物は、インサイチューで四つの触媒成分を、段階的に又は同時に重合させる単量体に別々に加えることによって形成することができる。
【0051】
他の実施態様においては、上記触媒組成物を予備形成してもよい。即ち、単量体の存在下で、又は好ましくは少量の少なくとも一種の共役ジエン単量体の存在下で、通常約-20℃〜約80℃である適切な温度の重合系外で四つの触媒成分を予備混合してもよい。共役ジエン単量体の具体例は上記にて説明されている。触媒を予備形成するために用いる共役ジエン単量体は、重合させる単量体と同一でも異なっていてもよい。触媒を予備形成するために用いる共役ジエン単量体の量は、ランタニド化合物1モル当り約1〜約500モル、より好ましくは約5〜約250モル、更に好ましくは約10〜約100モルの範囲とすることができる。結果として生じる予備形成した触媒組成物を、必要に応じて重合させる単量体を加える前に熟成させることができる。
【0052】
更に他の実施態様においては、上記触媒組成物を二段階の手段により形成してもよい。第一段階は、あらゆる共役ジエン単量体の不在下で、又は好ましくは少量の少なくとも一種の共役ジエン単量体の存在下で、通常約-20℃〜約80℃の適切な温度にてランタニド化合物をアルミノキサン及び有機アルミニウム化合物と反応させることを含む。この第一段階に用いる共役ジエン単量体の量は、通常、先の段落で記載された触媒を予備形成するために用いる量と同じである。第二段階では、第一段階で調製された混合物と、ハロゲン含有化合物とを段階的に又は同時に重合させる単量体に投入する。
【0053】
上記ランタニド系触媒は、共役ジエンを重合させるのに高活性を示す。本発明の一の好適な実施態様は、1,3-ブタジエンのシス-1,4-ポリブタジエンへの重合に向けられているが、本発明の方法は、他の共役ジエンのシス-1,4-ポリジエンへの重合に利用することもできる。更に、本発明の方法は、二種以上の共役ジエンのシス-1,4ミクロ構造を有する共重合体への共重合に利用することもできる。共役ジエンの具体例は、上記にて説明されている。
【0054】
本発明に従う共役ジエンの重合は、触媒的に効果的な量のランタニド触媒組成物の存在下で行われる。触媒組成物、共役ジエン単量体、及び任意の溶媒(使用の場合)の導入は、重合混合物を形成し、該重合混合物中で重合生成物を形成する。重合生成物は、反応性重合体又は擬似リビング重合体と称される場合がある。重合混合物に用いられる全触媒濃度は、成分の純度、重合温度、所望の重合速度及び転化率、所望の分子量、並びに多数のその他の要因等、様々な要因の相互作用に依存し得る。従って、それぞれの触媒成分を触媒的に効果的な量で使用できるという以外、具体的な全触媒濃度を明確に説明することができない。通常、使用するランタニド化合物の量を、共役ジエン単量体100g当り約0.001〜約1mmol、他の実施態様では約0.005〜約0.5mmol、また他の実施態様では約0.01〜約0.2mmolの範囲で変えることができる。
【0055】
一般には、使用する重合系として、実質的に溶媒がない又は最低限の量の溶媒を含む塊状重合系を考慮することができる。当業者は、塊状重合法(即ち、単量体が溶媒として作用する方法)の利益を理解しており、従って、その重合系は、塊状重合を行うことで求められる利益に害を及ぼすことになる量より少ない溶媒を含む。一以上の実施態様では、重合混合物中の溶媒の含有量を、重合混合物の全重量に基づき、約20重量%未満、他の実施態様では約10重量%未満、更に他の実施態様では約5重量%未満とすることができる。更に他の実施態様において、重合混合物は実質的に溶媒を欠くが、このことは、重合過程に相当の影響を与える量の溶媒が存在しないことを指す。実質的に溶媒を欠いた重合系は、実質的に溶媒がないと称される場合がある。特定の実施態様では、重合混合物は溶媒を欠く。
【0056】
有機溶媒又は希釈剤の用語は、明細書中で慣習的に使用される。即ち、重合しない又は製造される重合体の構造の一部にならない有機化合物を指す。典型的に、これらの有機溶媒は、重合を触媒するために用いる触媒組成物に不活性である。例示的な有機溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等、低沸点又は比較的に低沸点の炭化水素である。芳香族炭化水素の限定されない例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン及びメシチレンが挙げられる。脂肪族炭化水素の限定されない例としては、n-ペンタン、n-へキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、イソペンタン、イソへキサン、イソオクタン、2,2-ジメチルブタン、石油エーテル、灯油及びペトロリウムスピリットが挙げられる。そして、脂環式炭化水素の限定されない例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン及びメチルシクロへキサンが挙げられる。また、上記炭化水素の商業用混合物を用いてもよい。環境に関する理由から、脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素が非常に好適である。低沸点の炭化水素溶媒は、一般に重合の完了によって重合体から分離される。
【0057】
有機溶媒の他の例としては、パラフィン系オイル、芳香油、又は油展重合体に通常用いられる他の炭化水素油等の高分子量の高沸点炭化水素が挙げられる。これらの炭化水素は非揮発性であるので、それらは一般的に分離を必要とせず、重合体中に組み込まれたままでもよい。重合体の性能特性は、通常、高分子量炭化水素の含有量が重合体中の約5重量%未満であれば、ほとんど影響を受けない。
【0058】
一の実施態様においては、触媒成分の重合系への送達を容易にするために触媒成分を溶解又は懸濁させるキャリヤーとして、少量の溶媒を用いてもよく、該溶媒は、低沸点又は高沸点とすることができる。他の実施態様においては、共役ジエン単量体を触媒のキャリヤーとして用いることができる。更に他の実施態様においては、触媒成分を溶媒のないニートの状態で用いることができる。
【0059】
転化率が約50%〜約60%未満のレベルに制限される場合、重合を標準的な攪拌槽型反応器中で行うことができる。高い転化率を所望する場合は、その後の高粘性セメントの存在の理由から、重合下でのセメントがピストン又は実質的にピストンで動くように送られる長形の反応器を用いることが好ましい。例えば、自洗式の一軸スクリュー又は二軸スクリュー攪拌器に沿ってセメントを押し出す押出機がこの目的に適している。有用な塊状重合法の例は、米国公報第2005/0197474A1号に開示されており、その内容を参照することにより本願に援用する。
【0060】
一以上の実施態様においては、重合に用いる成分の全部を単一の容器(例えば、標準的な攪拌槽型反応器)内で混ぜ合わせることができ、重合方法の全ての工程をこの容器内で行うことができる。他の実施態様においては、二つ以上の成分を一の容器中で予め混ぜ合わせ、次いで単量体の重合(又は少なくともその主要な部分)を行う他の容器に移送する。例えば、当技術分野において知られているように、単量体の不在又は存在下で特定の触媒成分を混ぜ合わせ、重合を開始する前にそれらを熟成させることが有利な場合がある。このタイプの技術は、米国特許第6,699,813号明細書、第6,897,270号明細書及び第7,094,849号明細書に開示されており、これらの内容を参照することにより本願に援用する。
【0061】
上記重合を回分法、連続法又は半連続法として行ってもよい。半連続法では、既に重合した単量体と置換するために、必要に応じて単量体を断続的に投入する。いずれの場合にも、嫌気性条件下で重合を行うことが好ましい。重合温度を変えてもよい。しかしながら、高温での1,3-ブタジエン単量体中におけるシス-1,4-ポリブタジエンの有限溶解度によって、重合体の分子量が厳密に制御されて均一の重合体生成物を与える単相均一系で、重合の大部分を維持するために比較的低い重合温度を採用することが好ましい。従って、重合温度は、約0℃〜約50℃の範囲が好ましく、約5℃〜約45℃の範囲がより好ましく、約10℃〜約40℃の範囲が更に好ましい。熱的に制御された反応ジャケットを用いる外部冷却、反応器に連結した還流冷却器の使用によって単量体の蒸発又は凝縮による内部冷却、又はこれら二つの方法の組み合わせにより、重合熱を除去してもよい。重合を行う圧力は、単量体の大部分が液相で存在することを確実にする圧力であることが好ましい。
【0062】
重合を所望の転化率まで行った後、重合を停止することができる。しかしながら、高い転化率がもたらす高セメント粘性や、単量体中での、例えばシス-1,4-ポリブタジエンの有限溶解度による高転化率時に単量体からの固相としての重合体の分離を避けることが好ましい。従って、一の実施態様では、転化率が約5%〜約60%の範囲内である。他の実施態様では、転化率が約10%〜約40%である。更に他の実施態様では、転化率が約15%〜約30%である。後で、未反応の単量体を重合過程に再利用することができる。
【0063】
有利には、本発明の重合方法で製造されるシス-1,4-ポリジエンは、従来の重合法で製造される重合体と比べて、重合体中の大きな割合の重合体鎖が反応性鎖末端を有するように、強化された擬似リビング特性を有する。ここで、該割合とは、重合体鎖の総数に対する反応性鎖末端を有する重合体鎖の数を指す。一以上の実施態様においては、反応性鎖末端を有する重合体鎖の割合が少なくとも75%であり、他の実施態様では少なくとも80%であり、他の実施態様では少なくとも85%であり、他の実施態様では少なくとも90%であり、他の実施態様では少なくとも95%である。反応性鎖末端を有する重合体鎖の割合が増加することにより、重合体に高い官能性の導入を可能にさせる。
【0064】
所望の単量体の転化率が達成され次第、変性剤を重合混合物中に導入し、変性重合体を与えるために反応性重合体鎖と反応させることができる。一以上の実施態様においては、重合混合物を失活剤又は酸化防止剤と接触させる前に変性剤を導入する。他の実施態様においては、重合体混合物が失活剤で部分的に失活された後に変性剤を導入してもよい。
【0065】
一以上の実施態様において、変性剤としては、本発明により製造される反応性重合体と反応し、それにより、変性剤と反応しなかった生長鎖と異なる、官能基を有する重合体を提供することができる化合物又は試薬が挙げられる。該官能基は、他の重合体鎖(生長及び/又は非生長)又は重合体と混合できる補強充填剤(例えば、カーボンブラック)等の他の構成成分と反応が可能でもよいし、相互作用が可能でもよい。一以上の実施態様において、変性剤と反応性重合体間での反応は、付加反応又は置換反応によって進行する。
【0066】
一以上の実施態様において、変性剤としては、重合体鎖にヘテロ原子を付加し又は与える化合物が挙げられる。特定の実施態様では、変性剤として、重合体鎖に官能基を与えて変性重合体を形成する化合物が挙げられ、該変性重合体から調製されるカーボンブラックが充填された加硫物の50℃でのヒステリシスロスを非変性重合体から調製される同様のカーボンブラックが充填された加硫物と比べて低減する。一以上の実施態様においては、このヒステリシスロスの低減が少なくとも5%であり、他の実施態様では少なくとも10%であり、他の実施態様では少なくとも15%である。
【0067】
有用な変性剤としては、二つ以上の重合体鎖を合わせて連結することなく単に重合体鎖の末端に官能基を提供する化合物や、官能性の結合を介して二つ以上の重合体鎖を合わせて結合又は連結し、単一の高分子を形成することができる化合物を挙げることができる。また、後者のタイプの変性剤をカップリング剤と称する場合もある。
【0068】
一以上の実施態様において、適した変性剤としては、擬似リビング重合体(例えば、本発明に従い製造されるもの)と反応し得る基を含む化合物が挙げられる。例示的な変性剤としては、ケトン類、キノン類、アルデヒド類、アミド類、エステル類、イソシアネート類、イソチオシアネート類、エポキシド類、イミン類、アミノケトン類、アミノチオケトン類及び酸無水物類が挙げられる。これらの化合物の例は、米国特許第4,906,706号、第4,990,573号、第5,064,910号、第5,567,784号、第5,844,050号、第6,838,526号、第6,977,281号、及び第6,992,147号;米国特許公報第2006/0004131A1号、第2006/0025539A1号、第2006/0030677A1号、及び第2004/0147694A1号;日本国特許出願第05−051406A号、第05−059103A号、第10−306113A号、及び第11−035633A号に開示されており、これらの内容を参照することにより本願に援用する。変性剤の他の例としては、米国出願番号第11/640,711号に開示のアジン化合物、米国出願番号第11/710,713号に開示のヒドロベンズアミド化合物、米国出願番号第11/710,845号に開示のニトロ化合物、及び米国出願番号第60/875,484号に開示の保護されたオキシム化合物が挙げられ、これらの内容を参照することにより本願に援用する。
【0069】
特定の実施態様において、用いる変性剤は、制限されるものではないが、四塩化スズ等の金属ハロゲン化物、四塩化ケイ素等の半金属ハロゲン化物、ビス(マレイン酸オクチル)ジオクチルスズ等の金属エステル−カルボキシレート複合体、オルトケイ酸テトラエチル等のアルコキシシラン、及びテトラエトキシスズ等のアルコキシスタンナンを含むカップリング剤とすることができる。カップリング剤は、単独で又は他の変性剤と組み合わせて用いることができる。変性剤の組み合わせは、任意のモル比で用いることができる。
【0070】
重合混合物に導入する変性剤の量は、重合の開始に用いる触媒の種類及び量、変性剤の種類、所望の程度の官能性、並びに多数の他の要因等、様々な要因に依存し得る。一以上の実施態様において、変性剤の量は、ランタニド化合物1モル当り、約1〜約200モルの範囲とすることができ、他の実施態様では約5〜約150モルであり、他の実施態様では約10〜約100モルである。
【0071】
反応性重合体鎖は、高温で緩徐に自己停止する場合があるので、一の実施態様においては、重合最高温度が観察された時点で重合混合物に変性剤を添加してもよい。他の実施態様においては、重合最高温度に達した後、約25〜35分以内に変性剤を添加する場合がる。
【0072】
一以上の実施態様では、所望の単量体の転化率を達成した後であってプロトン水素原子を含有する失活剤を添加する前に、変性剤を重合体混合物に導入してもよい。一以上の実施態様では、少なくとも5%、他の実施態様では少なくとも10%、他の実施態様では少なくとも20%、他の実施態様では少なくとも50%、他の実施態様では少なくとも80%の単量体転化率の後で、変性剤を重合体混合物に添加する。これらの実施態様又は他の実施態様では、90%の単量体転化率の前に、他の実施態様では70%の単量体転化率の前に、他の実施態様では50%の単量体転化率の前に、他の実施態様では20%の単量体転化率の前に、他の実施態様では15%の単量体転化率の前に、変性剤を重合混合物に添加する。一以上の実施態様では、単量体の転化を完了又は実質的に完了した後で変性剤を添加する。特定の実施態様では、参照することにより本願に援用される2007年8月7日に出願した同時係属の米国出願第11/890,590号に開示のルイス塩基の導入の直前、同時又はその後に、変性剤を重合混合物に導入する。
【0073】
一以上の実施態様では、重合(又は少なくとも重合の一部)を行った場所で(例えば、容器内で)変性剤を重合混合物に導入してもよい。他の実施態様では、重合(又は少なくとも重合の一部)を行ったところと異なる場所で変性剤を重合混合物に導入してもよい。例えば、下流反応器もしくは下流槽を含む下流容器、インライン反応器もしくはインラインミキサー、押出機、又は脱揮発槽中で、変性剤を重合混合物に導入してもよい。
【0074】
変性反応の後、残留したあらゆる反応性重合体鎖と触媒又は触媒成分とを不活性化するため、失活剤を重合混合物に添加することができる。失活剤は、制限されるものではないが、アルコール、カルボン酸、無機酸、水又はそれらの混合物を含むプロトン性化合物とすることができる。特定の実施態様では、失活剤として、参照することにより本願に援用される2007年8月7日に出願された同時係属の米国出願第11/890,591号に開示のポリヒドロキシ化合物が挙げられる。失活剤の添加と共に又はその前後で2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等の酸化防止剤を添加してもよい。用いる酸化防止剤の量は、重合体生成物の約0.2重量%〜約1重量%の範囲とすることができる。失活剤及び酸化防止剤をニートの物質として添加してもよいし、必要に応じて、重合混合物に添加する前に炭化水素溶媒又は共役ジエン単量体に溶解して添加することもできる。
【0075】
重合混合物を失活させたとき、当技術分野において知られる通常の脱溶媒方法及び乾燥方法を用いることで、変性シス-1,4-ポリジエンを重合混合物から回収することができる。例えば、重合体セメントを隣接する加熱したスクリュー装置(脱溶媒押出機)に通すことにより、重合体を最も都合よく回収することができ、該装置においては、約100℃〜約170℃の範囲の温度で且つ大気圧又は減圧下での蒸発により、揮発性物質を除去する。この処理は、未反応の単量体、触媒と共に導入された低沸点溶媒、及び触媒の不活性化に必要とされ過剰に導入した水等の失活剤を除去するために作用する。代わりに、重合体セメントにスチーム脱溶媒を施し、次いで得られる重合体の小片を熱風トンネル中で乾燥させることで、重合体を回収することもできる。いずれの場合も、未反応の単量体を単離し、重合過程に再利用する。一の実施態様では、乾燥した重合体における揮発性物質の含有率が約1%未満であり、他の実施態様では、この含有率が約0.5%未満である。
【0076】
有利には、本発明の一以上の実施態様に従い製造される重合体は、従来の重合方法で得ることができる重合体に比べて高いシス-1,4-結合量を示す。一の実施態様において、重合体は、約95%以上のシス-1,4-結合量を有する。他の実施態様においては、重合体が約98%以上のシス-1,4-結合量を有する。更に他の実施態様においては、重合体が約99%以上のシス-1,4-結合量を有する。
【0077】
また、本発明の一以上の実施態様に従い製造される重合体は、従来の重合方法で得ることができる重合体に比べて高い官能性を示す。該官能性は、重合体生成物における重合体鎖の総数に対する官能基を有する重合体鎖の数から算出される。一の実施態様において、重合体は約75%以上の官能性を有する。他の実施態様において、重合体は約80%以上の官能性を有する。更なる実施態様において、重合体は約85%以上の官能性を有する。他の実施態様において、重合体は少なくとも90%、又は他の実施態様では少なくとも95%の官能性を有する。
【0078】
このように高い官能性によって、本発明に従い製造される重合体は、従来の重合方法で製造される重合体に比べて、カーボンブラック充填剤又はシリカ充填剤に対する親和性が優れる。従って、それらは、ゴム配合物において良好な引張特性、高い耐摩耗性、低いヒステリシスロス及び顕著な耐疲労性を提供する。
【0079】
更に、本発明の一以上の実施態様、特に触媒系内でヨウ素含有化合物を用いる実施態様に従って製造される重合体は、塊状重合系又は溶液重合系において、他の触媒系を用いて得ることができる重合体に比べて、狭い分子量分布を示す。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割ることで決定される。Mw及びMnは、ポリスチレン基準と、対象とする重合体のマーク−ホーウインク定数とで較正した通常のGPC分析によって決定できる。一の実施態様において、重合体生成物は1.8未満、他の実施態様では1.6未満、他の実施態様では1.5未満、他の実施態様では1.4未満、他の実施態様では1.3未満の分子量分布を有する。
【0080】
本発明に従い製造される重合体の上記特徴で、それらは多くの用途に対し有利になる。例えば、変性シス-1,4-ポリブタジエンは、限定されないが、タイヤトレッド、サイドウォール、サブトレッド及びビードフィラーを含む様々なタイヤ部材の製造に特に有用である。タイヤ又はその部材の作製に有用なタイヤストック又はゴム組成物のエラストマー成分の全部又は一部として、変性シス-1,4-ポリブタジエンを用いることができる。他のゴムと併せて変性シス-1,4-ポリブタジエンを用いタイヤストックのエラストマー成分を形成する場合、このような他のゴムは、天然ゴム、合成ゴム及びそれらの混合物とすることができる。合成ゴムの例としては、ポリイソプレン、ポリ(スチレン-co-ブタジエン)、低シス-1,4-結合量のポリブタジエン、ポリ(スチレン-co-ブタジエン-co-イソプレン)、及びそれらの混合物が挙げられる。また、変性シス-1,4-ポリブタジエンは、ホース、ベルト、靴底、ウインドウシール及び他の工業製品に用いることができる。
【0081】
上記ゴム組成物は、無機充填剤及び有機充填剤等の充填剤を含むことができる。有機充填剤としては、カーボンブラック及び澱粉が挙げられる。無機充填材としては、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレー(水和ケイ酸アルミニウム)及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0082】
硫黄又は過酸化物系の硬化系を含めて、多くのゴム硬化剤(加硫剤とも称する)を用いることができる。硬化剤は、カーク・オスマー著,「化学技術百科事典(ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY)」,20巻,pgs.365-468(第三版,1982年)、特に「加硫剤及び助剤(Vulcanization Agents and Auxiliary Materials)」,pgs.390-402、並びにA.Y.コラン著,「高分子科学工学百科辞典(ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING)、加硫(Vulcanization)」(第二版,1989年)に記載されており、これらの内容を参照することにより援用する。加硫剤は、単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。
【0083】
使用することができる他の成分としては、促進剤、オイル、ワックス、スコーチ防止剤、加工助剤、酸化亜鉛、粘着性付与樹脂、補強樹脂、ステアリン酸等の脂肪酸、素練り促進剤、及び一種以上の追加のゴムが挙げられる。
【0084】
これらのゴム組成物は、トレッド、サブトレッド、ブラックサイドウォール、ボディプライスキン、ビードフィラー等のタイヤ部材の成形に有用である。特定の実施態様において、変性重合体をトレッド及びサイドウォールの配合物に用いる。一以上の実施態様において、このようなトレッド配合物は、配合物中のゴムの全重量に基づき、約10重量%〜約100重量%、他の実施態様では約35重量%〜約90重量%、他の実施態様では約50重量%〜80重量%の変性重合体を含むことができる。
【0085】
一以上の実施態様において、加硫性ゴム組成物は、ゴム成分及び充填剤を含む初期マスターバッチを形成することで調製できる(ゴム成分は任意に本発明の変性重合体を含む)。この初期マスターバッチは、約25℃〜約125℃の開始温度、約135℃〜約180℃の排出温度で混合することができる。早期加硫(スコーチとしても知られる)を防止するため、この初期マスターバッチは、加硫剤を除いてもよい。初期マスターバッチを加工したら、最終混合段階において低温で加硫剤を初期マスターバッチ中に導入してブレンドしてもよく、ここで、加硫工程を開始させないことが好ましい。任意には、マスターバッチ混合段階と最終混合段階の間に、レミルと呼ばれることもある追加の混合段階を採用することができる。本発明の変性重合体を含む各種成分をレミル時に加えることができる。本願に用いるゴム配合技術と添加剤は、「ゴム技術(Rubber Technology)」(第二版,1973年)の「ゴムの配合と加硫(The Compounding and Vulcanization of Rubber)」に開示の通り、一般的に知られている。
【0086】
また、シリカが充填されたタイヤ配合物に適用可能な混合条件及び混合手順は、米国特許第5,227,425号、第5,719,207号、第5,717,022号、及び欧州特許第890,606号に記載の通り、よく知られており、それらの全てを参照することにより本願に援用する。一以上の実施態様において、充填剤としてシリカを(単独で又は他の充填剤と組み合わせて)用いる場合は、混合時にカップリング剤及び/又は遮蔽剤をゴム配合物に加えてもよい。有用なカップリング剤及び遮蔽剤は、米国特許第3,842,111号、第3,873,489号、第3,978,103号、第3,997,581号、第4,002,594号、第5,580,919号、第5,583,245号、第5,663,396号、第5,674,932号、第5,684,171号、第5,684,172号、第5,696,197号、第6,608,145号、第6,667,362号、第6,579,949号、第6,590,017号、第6,525,118号、第6,342,552号、及び第6,683,135号に記載されており、それらを参照することにより本願に援用する。一の実施態様では、カップリング剤及び遮蔽剤が実質的に不在下で、本発明の変性重合体及びシリカを含有させることにより、初期マスターバッチを調製する。
【0087】
加硫性ゴム組成物をタイヤの製造に用いる場合には、標準的なゴム成形技術、鋳型技術及び加硫技術を含む通常のタイヤ製造技術に従い、かかる組成物をタイヤ部材に加工することができる。一般的に、加硫は金型内で加硫性組成物を加熱することで達成され、例えば、約140〜約180℃に加熱することができる。硬化又は架橋したゴム組成物は、加硫物と称される場合があり、一般に熱硬化性の三次元高分子網状構造を含む。加工助剤及び充填剤等の他の成分を加硫した網状構造の全体に亘って均一に分散させてもよい。空気入りタイヤは、米国特許第5,866,171号、第5,876,527号、第5,931,211号及び第5,971,046号に議論されるようにして製造でき、それらの内容を参照することにより本願に援用する。
【0088】
本発明の実施を明示するため、下記に示す例を用意して試験した。しかしながら、これらの例を発明の範囲を制限するものとしてみなすべきではない。特許請求の範囲が本発明を定める役割を果たす。
【実施例】
【0089】
下記に示す例では、大型ローターを具え、1分間の熱入れ時間と4分間の実行時間のモンサントムーニー粘度計を用いて、100℃での重合体試料のムーニー粘度(ML1+4)を測定した。ポリスチレン基準と、対象とする重合体のマーク−ホーウインク定数とで較正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、重合体試料の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)並びに分子量分布(Mw/Mn)を測定した。GPC測定器は、示唆屈折率(RI)検出器及び紫外線(UV)吸収検出器を具えた。GPC UV/RI比は、UV検出器の信号のRI検出器の信号に対する比であり、該GPC UV/RI比を用いて、アニオン重合により製造され同じMnを有する変性ポリブタジエンのGPC UV/RI比に対する変性シス-1,4-ポリブタジエンのGPC UV/RI比を参照することにより、重合体試料の官能性(%)を算出した。重合体試料のシス-1,4-結合量、トランス-1,4-結合量及び1,2-結合量を赤外分光法により測定した。
【0090】
(例1)
この例では、ネオジムバーサチック酸塩(以下、NdV)、メチルアルミノキサン(以下、MAO)、ジイソブチルアルミニウムヒドリド(以下、DIBAH)及びジエチルアルミニウムクロリド(以下、DEAC)を含む触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体をバルクで重合させ、次に重合の結果として得られる反応性重合体を4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(以下、DEAB)で処理することにより、変性シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。
【0091】
重合反応器は、高粘度の重合体セメントを混合することが可能な機械攪拌機(シャフト及びブレード)を具えた1ガロンのステンレス製反応器であった。反応器の上部には、重合の継続時間中に反応器の内部で発生する1,3-ブタジエンの蒸気を搬送、凝縮、再利用するため、還流冷却器システムを連結した。また、反応器は、冷却水を含む冷却ジャケットを具えた。重合の熱は、還流冷却器システムの使用による内部冷却で部分的に分散され、そして冷却ジャケットへの伝熱による外部冷却で部分的に冷却された。
【0092】
上記反応器が乾燥窒素流で完全にパージされ、次に、該反応器に乾燥1,3-ブタジエン単量体65gを投入し、反応器を65℃に加熱し、更に反応器中に液状1,3-ブタジエンが残留しなくなるまで還流冷却器システムの上部から1,3-ブタジエンの蒸気をガス抜きすることによって、乾燥窒素を1,3-ブタジエンの蒸気で置換した。冷却水を還流冷却器と反応器ジャケットに適用し、1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入した。該単量体を約13℃に温度調整した後、4.32MのMAOのトルエン溶液1.81mL、20.6重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液0.58mL、0.0944MのNdVのヘキサン溶液0.83mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液3.12mL及び1.0MのDEACのヘキサン溶液0.31mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。重合開始から1.2分後に、1.22MのDEABのトルエン溶液6.40mLを重合混合物に添加し、8分間攪拌した。その後、ヘキサン1360g中1.7mLのイソプロパノールの添加により、重合混合物を失活させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥し、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエン81.4gを得た。該重合体の特性を表1に集約する。
【0093】
【表1】

【0094】
(例2)
例2では、重合開始から1.5分後にDEABを添加した以外は、例1と同一の手順と同一の触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体をバルクで重合させ、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。重合体の収量は111.6gであった。得られた重合体の特性を表1に集約した。
【0095】
(例3(比較例))
この例では、ネオジムバーサチック酸塩(NdV)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)及びジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)を含む触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体をバルクで重合させ、次に重合の結果として得られる反応性重合体をDEABで処理することにより、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。
【0096】
例1と同一の反応器と同一の反応器調製手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を13℃に温度調整し、0.68MのTIBAのへキサン溶液29.1mLを反応器に投入し、次いで0.054MのNdV4.58mLを添加した。反応器内部の混合物を15分間熟成させた後、反応器中に0.14MのDEACのヘキサン溶液5.30mLを投入し重合を開始させた。重合開始から76分後に、1.22MのDEABのトルエン溶液10.1mLを重合混合物に添加し、8分間攪拌した。その後、ヘキサン1360g中4.56mLのイソプロパノールの添加により、重合混合物を失活させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥し、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエン248.9gを得た。得られた重合体の特性を表1に集約する。
【0097】
(例4(比較例))
この例では、ネオジムバーサチック酸塩(NdV)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、ジイソブチルアルミニウムヒドリド(DIBAH)及びジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)を含む触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体をバルクで重合させ、次に重合の結果として得られる反応性重合体をDEABで処理することにより、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。
【0098】
例1と同一の反応器と同一の反応器調製手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を13℃に温度調整し、0.68MのTIBAのへキサン溶液10.91mL及び1.0MのDIBAHのヘキサン溶液2.47mLを反応器に投入し、次いで0.054MのNdV4.58mLを添加した。反応器内部の混合物を15分間熟成させた後、反応器中に0.14MのDEACのヘキサン溶液5.30mLを投入し重合を開始させた。重合開始から80分後に、1.22MのDEABのトルエン溶液10.1mLを重合混合物に添加し、8分間攪拌した。その後、ヘキサン1360g中2.40mLのイソプロパノールの添加により、重合混合物を失活させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥し、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエン180.2gを得た。得られた重合体の特性を表1に集約する。
【0099】
例1及び例2で得られた結果と例3及び例4(比較例)で得られた結果の比較から、NdV、MAO、DIBAH及びDEACを含む触媒系を用いた1,3-ブタジエンの塊状重合が、他の触媒系を用いて1,3-ブタジエンの塊状重合により得られるよりも、高いシス-1,4-結合量と高い官能性を有するDEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを提供することが示される。
【0100】
(例5(比較例))
例5では、例1及び例2と同一の触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体を溶液中で重合させ、次に重合の結果として得られる反応性重合体をDEABで処理することにより、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。
【0101】
タービン攪拌ブレードを具える2-ガロンのステンレス製反応器に、ヘキサン1592g及び22.1重量%のブタジエンのヘキサン溶液2873gを加えた。4.32MのMAOのトルエン溶液6.98mL、22.1重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液1.47g、0.537MのNdVのシクロヘキサン溶液0.56mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液6.33mL及び1.0MのDEACのヘキサン溶液1.21mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。次に、反応ジャケットの温度を65℃に設定した。触媒の添加から65分後に、重合混合物を室温に冷却した。得られた反応性重合体セメント429gを窒素でパージしたボトルに移送し、0.502MのDEABのトルエン溶液3.41mLを添加した。そのボトルを水浴中で65℃に維持しながら30分間混転した。得られた混合物を2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.5gを含む3リットルのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥し、DEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエン54.9gを得た。得られた重合体の特性を表1に集約する。
【0102】
例1及び例2で得られた結果と例5(比較例)で得られた結果の比較から、NdV、MAO、DIBAH及びDEACを含む触媒系を用いた1,3-ブタジエンの塊状重合が、同一の触媒系を用いて1,3-ブタジエンの溶液重合により得られるよりも、高いシス-1,4-結合量と高い官能性を有するDEAB-変性シス-1,4-ポリブタジエンを提供することが示される。
【0103】
(例6)
この例では、ネオジムNdV、MAO、DIBAH、及びトリメチルシリルヨージド(TMSI)を含む触媒系を用い、1,3-ブタジエン単量体をバルクで重合させて、シス-1,4-ポリブタジエンを調製した。例1と同一の反応器と同一の反応器調製手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を10℃に温度調整し、19.2重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液6.5mL、0.054MのNdVのヘキサン溶液1.44mL、1.50MのMAOのトルエン溶液5.20mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液2.50mL及び0.050MのTMSIのヘキサン溶液3.12mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。その開始から5分後に、ヘキサン1360g中4.6mLのイソプロパノールの添加により、重合を停止させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は161.4gであった。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0104】
【表2】

【0105】
(例7(比較例))
TMSIに代えてトリメチルシリルブロミド(TMSBr)を用いた以外、例6と同一の手順を採用した。重合の開始から2.3分後に、ヘキサン1360g中4.6mLのイソプロパノールの添加により重合を停止し、得られた重合体セメントを2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含む3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は159.1gであった。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0106】
(例8(比較例))
TMSIに代えてトリメチルシリルクロリド(TMSCl)を用いた以外、例6と同一の手順を採用した。重合の開始から2.50分後に、ヘキサン1360g中4.6mLのイソプロパノールの添加により重合を停止し、得られた重合体セメントを2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含む3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0107】
例6で得られた結果と例7及び例8(比較例)で得られた結果の比較から、TMSBr又はTMSClに代えてTMSIを用いることにより、狭い分子量分布と高シス-1,4-結合量を有するシス-1,4-ポリブタジエンの形成をもたらすことが示される。加えて、TMSBr又はTMSClを含む触媒で行う塊状重合の実験は、その結果として生じる重合体の広い分子量分布のために大きな粘性重合体セメントの粘度をもたらす結果、不溶性重合体物質の反応器の内壁や攪拌機のシャフト及びブレードへの堆積によって、比較的容易に反応器を詰まらせることが観察された。一方、TMSIを含む触媒で行う塊状重合の実験では、得られる重合体の狭い分子量分布によって小さな粘性重合体セメントの粘度を得、その結果、反応器への堆積は極微量であった。
【0108】
(例9)
TMSIに代えてジエチルアルミニウムヨージド(DEAI)を用いた以外は、例6と同一の手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を10℃に温度調整した後、20.6重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液6.5g、0.054MのNdVのヘキサン溶液1.44mL、1.5MのMAOのトルエン溶液5.20mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液2.26mL及び0.05MのDEAIのヘキサン溶液3.12mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。その開始から10.5分後に、ヘキサン1360g中4.6mLのイソプロパノールの添加により、重合を停止させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は167.1gであった。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0109】
(例10(比較例))
DEAIに代えてDEACを用いた以外は、例9と同一の手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を10℃に温度調整した後、20.6重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液6.5g、0.054MのNdVのヘキサン溶液1.44mL、1.5MのMAOのトルエン溶液5.20mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液3.11mL及び1.0MのDEACのヘキサン溶液0.31mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。その開始から3.6分後に、ヘキサン1360g中1.7mLのイソプロパノールの添加により、重合を停止させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0110】
例9で得られた結果と例10(比較例)で得られた結果の比較から、DEACに代えたDEAIの使用が、狭い分子量分布を有するシス-1,4-ポリブタジエンの形成をもたらすことを示している。
【0111】
加えて、臭素又は塩素含有化合物を含む触媒で行う塊状重合の実験は、得られる重合体の広い分子量分布のために大きい粘性の重合体セメントをもたらす結果、不溶性重合体物質の反応器の内壁や攪拌機のシャフト及びブレードへの堆積によって、比較的容易に反応器を詰まらせることが一般に観察された。一方、ヨウ素含有化合物を含む触媒で行う塊状重合の実験では、得られる重合体の狭い分子量分布によって小さい粘性の重合体セメントを得、その結果、反応器への堆積を低減した。
【0112】
(例11)
重合を32℃の高温で行った以外は、例9と同一の手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を32℃に温度調整した後、19.2重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液6.5g、0.054MのNdVのヘキサン溶液1.44mL、1.5MのMAOのトルエン溶液5.20mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液1.95mL及び0.05MのDEAIのヘキサン溶液3.12mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。その開始から3.6分後に、ヘキサン1360g中1.7mLのイソプロパノールの添加により、重合を停止させた。得られる重合体セメントを、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール5gを含有する3ガロンのイソプロパノールで凝固させ、次いでドラム乾燥器で乾燥した。重合体の収量は164.0gであった。得られた重合体の特性を表2に集約する。
【0113】
(例12(比較例))
DEAIに代えてDEACを用いた以外は、例11と同一の手順を採用した。1,3-ブタジエン単量体1302gを反応器に投入し、該単量体を32℃に温度調整した後、20.6重量%の1,3-ブタジエンのヘキサン溶液6.5g、0.054MのNdVのヘキサン溶液1.44mL、1.5MのMAOのトルエン溶液5.20mL、1.0MのDIBAHのヘキサン溶液3.11mL及び1.0MのDEACのヘキサン溶液0.31mLを混合し、その混合物を15分間熟成させることで調製した予備形成の触媒を反応器に投入し重合を開始させた。重合反応が非常に速いことが分かっており、温度を急速に上昇させた。2分しないうちにゲル化した不溶性重合体によって反応器を詰まらせた。この段階で、暴走反応を避けるため、ヘキサン1360g中に溶解した1.7mLのイソプロパノールの添加により、重合を停止させた。重合混合物を反応器から排出した後、反応器内側の目視検査により、重度の反応器への堆積が起きたことが明らかとなった。特に、反応器の内壁並びに攪拌機のシャフト及びブレードは、ゲル化した不溶性重合体の塊で覆われていた。この堆積の理由から掃除のために反応器を開ける必要があった。
【0114】
例11で得られた結果と例12(比較例)で得られた結果の比較から、DEACに代えてのDEAIの使用が暴走する重合反応の危険性を低減することが示される。
【0115】
本発明の範囲と精神から逸脱しない様々な修正及び変更は、当業者に明らかとなる。本発明は、本願に示す実施態様に正規に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有する変性シス-1,4-ポリジエンであって、前記官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として規定される変性シス-1,4-ポリジエン。
【請求項2】
(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、前記ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、
(2)前記反応性重合体を変性剤と接触させる工程と、
を含む方法により製造される変性シス-1,4-ポリジエンであって、
約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として規定される変性シス-1,4-ポリジエン。
【請求項3】
変性シス-1,4-ポリジエンを製造する方法において、
(1)単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させることにより反応性重合体を調製し、前記ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である工程と、
(2)前記反応性重合体を変性剤と接触させる工程とを含み、得られる変性重合体が、約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として規定される方法。
【請求項4】
反応性シス-1,4-ポリジエンを調製する方法において、
単量体、有機溶媒及び重合の結果として生じる重合体の全重量に基づき、約20重量%未満の有機溶媒の存在下、ランタニド系触媒を用いて共役ジエン単量体を重合させる工程を含み、前記ランタニド系触媒が、(a)ランタニド化合物、(b)アルミノキサン、(c)アルミノキサン以外の有機アルミニウム化合物、及び(d)ハロゲン含有化合物の組合せ又は反応生成物である方法。
【請求項5】
約95%以上のシス-1,4-結合量と、約75%以上の官能性とを有し、該官能性が、重合体生成物における全重合体鎖に対する少なくとも一つの官能基を有する重合体鎖の割合として規定される変性シス-1,4-ポリジエンを含む加硫性組成物から作製されるタイヤ部材。

【公開番号】特開2008−163338(P2008−163338A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−336217(P2007−336217)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】