説明

高ストレッチ性ポリエステル系複合繊維、それを用いた布帛、および、その複合繊維の製造方法

【課題】糸質物性の保持や風合いが良好で、極めて高いストレッチ性を布帛に付与するポリエステル系複合繊維を提供するものである。
【解決手段】固有粘度の異なる2種類のポリマーを40/60〜60/40の質量比で接合させた複合繊維マルチフィラメントであって、そのマルチフィラメントの単繊維横断面のポリマー境界線と繊維外周との2つの交点A,Bを結ぶ線分を線分ABとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに平行な線分のうち長さが最大となる線分を線分CDとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに垂直な線分のうち長さが最大となる線分を線分EFとしたときに、線分EFと線分CDとの長さの比(EF/CD)が、0.70以上、1.40未満であるポリエステル系複合繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いストレッチ性能と上品な風合いに好適なポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から収縮特性が異なる2つのポリエステル成分を複合紡糸して捲縮糸とすることは、古くから知られており、それらの多くは、ポリエチレンテレフタレートを主体とする2種類のポリエステルを複合紡糸した捲縮糸である。
【0003】
この捲縮糸において、ストレッチ性能の発現を高める、最も一般的な手法としては、張り合わせる2種類のポリマーの固有粘度差が大きくする方法がある。しかし、前記固有粘度の差が大きくなると、2種類のポリマーにおいて、バラス効果が異なるため、吐出した直後に、高粘度成分側に大きく屈曲する現象、いわゆるニーリング現象が発生し、紡糸安定性が不良となることや、糸横断面が楕円状になる欠点がある。
【0004】
特許文献1には、捲縮性能をより向上させるために、複合成分の一方がハードセグメントとしてポリテトラメチレンテレフタレート成分、ソフトセグメントとしてポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーであり、複合成分の他方がポリテトラメチレンテレフタレートである捲縮性能に優れた複合繊維が記載されている。しかしながらこの複合繊維は、糸横断面が楕円状になる問題がある。
【0005】
また、特許文献2や特許文献3には、糸横断面2成分界面とストレッチ性能の相関性が示されているが糸横断面が楕円状であり、強伸度特性低下や風合い低下の問題がある。
【特許文献1】特開昭49−35621号公報
【特許文献2】特開2003−221735号
【特許文献3】特開2001−279520号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、糸質物性の保持や風合いが良好で、極めて高いストレッチ性を布帛に付与するポリエステル系複合繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の要旨は、固有粘度の異なる2種類のポリマーを40/60〜60/40の質量比で接合させた複合繊維マルチフィラメントであって、そのマルチフィラメントの単繊維横断面のポリマー境界線と繊維外周との2つの交点A,Bを結ぶ線分を線分ABとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに平行な線分のうち長さが最大となる線分を線分CDとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに垂直な線分のうち長さが最大となる線分を線分EFとしたときに、線分EFと線分CDとの長さの比(EF/CD)が、0.70以上、1.40未満であるポリエステル系複合繊維にある。
【0008】
また、本発明の第2の要旨は、前記ポリエステル系複合繊維を用いた布帛にある。
【0009】
また、本発明の第3の要旨は、固有粘度差が0.50以上、1.00以下である、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBを40/60〜60/40の質量比で、吐出孔内において紡糸口金の吐出面から2mm未満で合流した後、吐出線速度5.0m/min以上で吐出するポリエステル系複合繊維の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高いストレッチ性能と上品な風合いに好適なポリエステル複合繊維が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明の1実施形態を示す糸横断面である。図1において、単繊維横断面のポリマー境界線と繊維外周との2つの交点A,Bを結ぶ線分を線分ABとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに平行な線分のうち長さが最大となる線分を線分CDとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに垂直な線分のうち長さが最大となる線分を線分EFとしたときに、線分EFと線分CDとの長さの比(EF/CD)が、0.70以上、1.40未満とする。。EF/CDが、0.70未満、または、1.40以上になるとストレッチ性能が低下し、さらに、糸横断面が楕円形状になるため、布帛に使用した際には風合いが悪くなる。
【0012】
本発明における2種類のポリマーの固有粘度差は0.50以上、1.00以下であることが望ましく、前記固有粘度差が、0.50未満ではストレッチ性能が低く、固有粘度差が、1.00を超える場合は、吐出孔から吐出された糸条のニーリングが著しく大きいため安定に紡糸することは困難となる。
【0013】
なお、各ポリマーの固有粘度の測定は、複合紡糸繊維を紡糸する条件で、ノズルのみを該ブロック共重合ポリマーA、該ポリエチレンテレフタレートポリマーBそれぞれの単一成分のみを吐出可能なノズルに取り替えて、前記ブロック共重合ポリマーAのみから成る糸条と、前記ポリエチレンテレフタレートポリマーBのみから成る糸条をサンプリングし、それぞれの固有粘度の測定を行った。
【0014】
本発明において、複合繊維を構成する2種類のポリマーはそれぞれ、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーとポリエチレンテレフタレートポリマーである。これからなる複合繊維は、風合いが良好であり柔らかく、高いストレッチ性能が得られる。
本発明のポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーAは、ハードセグメントがポリテトラメチレンテレフタレート、ソフトセグメントがポリオキシテトラメチレングリコールであるポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体である。 ハードセグメントのポリテトラメチレンテレフタレートとしては、テトラメチレンテレフタレート単位で構成されたものであることが好ましいが、結晶性能を大きく阻害しない範囲でイソフタル酸等の第3成分を含有するものであってもよい。ソフトセグメントであるポリオキシテトラメチレングリコールの割合は、5〜50質量%であることが好ましく、ポリオキシテトラメチレングリコールの割合が5質量%未満であると、布帛のストレッチ性が不充分となりやすい。
【0015】
一方、ポリオキシテトラメチレングリコールの割合が50質量%を超えると、ブロック共重合ポリマーの融点が低下し、後加工工程での熱セットへの耐久性が低下する等、後加工が困難となりやすい。
【0016】
ソフトセグメントのポリオキシテトラメチレングリコールとしては、分子量が500〜5000の直鎖状のポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。分子量が500未満の場合には、ブロック共重合ポリマーの耐熱性の低下が大きく、製糸工程だけでなく、加工工程通過性が悪くなり易く、分子量が5000を超えると、ポリテトラメチレンテレフタレートに対するポリオキシテトラメチレングリコールの相溶性が低下し、繊維の不均一性が高くなり、製糸、加工工程通過性が悪くなるだけでなく、繊維の強度低下等の問題が発生しやすくなる。
【0017】
更に、本発明におけるポリエチレンテレフタレートポリマーBは、エチレンテレフタレート単位で構成されたものであることが好ましいが、結晶性能を大きく阻害しない範囲でイソフタル酸等の第3成分を含有するものであってもよい。
【0018】
また、本発明において、複合繊維を構成する2成分は、上記記載のポリブチレンテレフタレートだけでなく、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートを用いても良い。
【0019】
次に、本発明のポリエステル系複合繊維の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリエステル系複合繊維は、固有粘度差が0.50以上、1.00以下である、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBを、40/60〜60/40の質量比で、接合させることにより得られる。
【0021】
前記ブロック共重合ポリマーAは、例えばジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオール及びポリオキシテトラメチレングリコールを、チタン化合物を触媒として、150〜220℃の温度でエステル交換し、次いで230〜260℃に昇温し、0.5kPa以下の減圧下で加熱することによりポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体が得られる。
【0022】
この際、ポリオキシテトラメチレングリコールは、ブロック共重合体分子鎖中に導入されるものと考えることができ、従ってポリオキシテトラメチレングリコールの使用量からブロック共重合体中のソフトセグメントの質量比を計算で求めることができる。
【0023】
また、複合成分の他方のポリエチレンテレフタレートBは、例えばテレフタル酸とエチレングリコールを4kPaの加圧下、260℃程度の温度に加熱してエステル化反応を行い、得られたエステル化物にトリエチルフォスフェイト、三酸化アンチモンを加えた後に0.5kPa以下の減圧下で280〜290℃程度の温度に加熱して重縮合反応を行うことにより得られる。
【0024】
また、ブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBは、40/60〜60/40の質量比で接合させることが、好ましく、ブロック共重合ポリマーAの比率が、40/60よりも小さいと、高いストレッチ性が得られず、また、60/40よりも大きいと、繊維強度が劣るため好ましくない。
【0025】
本発明は、公知の複合紡糸方法で製造可能であるが、ブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBを、吐出孔内において各ポリマーの導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から2mm未満の位置にある紡糸口金を用い、両成分のポリマーを紡糸口金の吐出面から2mm未満で合流した後、吐出線速度5.0m/min以上で吐出することが望ましい。
【0026】
吐出孔内において各ポリマーの導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から2mm以上の位置にある紡糸口金を用いた場合は、ニーリングが発生しやすくなり紡糸安定性が低下する。また、吐出孔内において各ポリマーの導入孔が合流せず、それぞれのポリマーの導入孔が紡糸口金の吐出面の位置にある紡糸口金を用いた場合は、糸横断面が楕円形状になるため、布帛に使用した際には風合いが悪くなったり、ストレッチ性能が低下する。
【0027】
また、合流した後、吐出線速度が5.0m/min未満で吐出されると、長周期斑が悪くなり、染め品位が低下する。
【0028】
吐出孔より吐出したマルチフィラメント糸は、公知の方法で未延伸糸として巻き取った後に延伸を行っても、吐出後一旦巻き取ることなく延伸した後、巻き取って延伸糸としても良い。
【0029】
また本発明では、引き取り速度又は巻き取り速度は1200〜3000m/分、延伸倍率は未延伸糸の最大延伸倍率の0.65〜0.85倍程度が好ましい。
【0030】
また、本発明のポリエステル系複合繊維を含む布帛は、本発明のポリエステル系複合繊維を単独で用いても、他繊維を含んでいても良いが、高いストレッチ性を得るためには、本発明のポリエステル系複合繊維は、混繊糸中に30質量%以上含まれることが好ましい。
【0031】
なお各評価は以下の方法に従った。
(繊維断面の観察)
延伸糸を切断し、光学顕微鏡を用いて延伸糸の断面を400倍に拡大した写真を撮影し、さらにその写真を拡大コピーして繊維断面を観察した。
(線分CD、および線分EFの長さの測定)
前記繊維断面の写真をともに、単繊維の横断面のポリマー境界線と繊維外周との2つの交点A,Bを結ぶ線分ABに平行でありかつ繊維外周との2つの交点C、Dを両端に持ちながらその長さが最大となる線分CDと、線分ABに垂直でありかつ繊維外周と之2つの交点E、Fを両端に持ちながらその長さが最大となる線分EFを決定し、その長さを測定した。測定は、糸状長手方向に各3箇所の断面写真を測定し、各箇所毎に全フィラメントを測定して平均した。
【0032】
(ポリマーの融点)
セイコー電子工業社製、DSC220を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0033】
(ポリマーの固有粘度[η])
ポリマーをフェノールとテトラクロロエタンの1:1の混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計により、25℃において測定した。
【0034】
(未延伸糸の太さ斑の変動係数 U%(L))
計測器工業(株)製、糸斑試験機(KET80C)を用い、糸速200m/分、レンジ±12.5%、1/2イナートモードの条件で1分以上の太さ斑変動係数U%(L)を測定した。
【0035】
(布帛収縮率)
原糸に撚係数=10000(T=K/√D、Tは1m当りの撚数、Dはサンプル原糸の繊度(デシテックス))の条件で撚糸を施し、70℃、90%RHの雰囲気下で40分間撚止セットした後、WJLで該サンプル糸を緯糸に使用した平織物を作成する。織物上に緯糸方向に100cmの間隔で印を付けた後、経糸方向に10cm幅のサンプル布帛を切り出し、130℃で20分間湿熱処理する。湿熱処理したサンプル布帛を風乾後、片端を垂直に固定し、下方の他端に0.5g/D(Dはサンプル原糸の繊度(デシテックス))の荷重を付与して、先に付けた印の間隔(Lcm)を測定し、次式により織物収縮率を算出した。
織物収縮率(%)=100−L
(風合い評価)
該編物を分散染料で染色後のサンプルについてハンドフィーリングによる風合いを評価した。但し、本評価は、該サンプル糸での筒編物での評価である。
【0036】
◎:柔らかく非常に良好な風合いである。
【0037】
○:柔らかく良好な風合いである。
【0038】
×:シャリ感があり、やや硬い風合いである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0040】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート3.02kg、1,4−ブタンジオール1.70kg及び分子量約1000のポリオキシテトラメチレングリコール1.50kgを、チタンテトラブトキサイド3gの存在下で、150〜210℃で3時間加熱してエステル交換反応を行わせ、次いで徐々に減圧にしながら250℃まで昇温、最終的に0.2KPaの圧力で3時間反応させた。得られたブロック共重合ポリマーは、ポリテトラメチレンテレフタレート成分を70質量%、ポリオキシテトラメチレングリコール成分を30質量%含み、融点203℃、固有粘度は1.29であった。
【0041】
前記ブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマーの導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にある直径0.4mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得た。
【0042】
また、各複合成分のポリマーの固有粘度については、各成分の単独ポリマーの紡出糸を別々にサンプリングしたもので測定した結果、ブロック共重合ポリマー紡出糸の固有粘度は1.27、PET紡出糸の固有粘度は0.48であった。
【0043】
前記未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.61倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸の強度3.02cN/dtex、伸度は、28.0%であった。
【0044】
前記延伸糸を断面観察し、線分CD,および線分EFの長さを測定し、EF/CDの比を算出した結果、1.07であった。更に、この延伸糸を用いて得られた織物の布帛収縮率は63.6%と高く、非常に高いストレッチ性を有し、風合いも良好であり評点は◎であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマーの導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にあり、直径0.6mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得た。
【0046】
前記未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.48倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.05であった。更に、この延伸糸を用いて得られた織物の布帛収縮率は65.7%であり、非常に高いストレッチ性を有するものであった。また、風合いは良好であり、評点は◎であった。
【0047】
(実施例3)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマー導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にあり、丸断面に換算した孔直径が0.6mmに相当する楕円形断面吐出孔を12個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50のサイドバイサイド複合流とし、紡速1800m/分で2本引き揃え巻き取り未延伸糸を得た。
【0048】
前記未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.48倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.27であった。更に、この延伸糸を用いて得られた織物の布帛収縮率は56.7%であり、中程度のストレッチ性を有するものであり、風合いは良好であり、評点は○であった。
【0049】
(比較例1)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で、別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマー導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にあり、直径0.8mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得た。なお、このときの吐出線速度は、3.5m/minであった。
【0050】
この未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.96倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.08であった。更に、この延伸糸で得られた織物の布帛収縮率は63.0%であり、ストレッチ性は非常に高かったが、未延伸糸の長周期斑が1.00%と高く、染め品位に問題があった。
【0051】
(比較例2)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で、別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマー導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から2.0mmの位置にあり、直径0.4mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得ようとしたが、ニーリングが発生し、糸切れが多発し、巻き取り不能であった。
【0052】
(比較例3)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で、別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマー導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から2.0mmの位置にあり、直径0.6mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得ようとしたが、ニーリングが発生し、糸切れが多発し、巻き取り不能であった。
【0053】
(比較例4)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマー導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にあり、丸断面に換算した孔直径が0.72mmに相当する楕円形断面吐出孔を12個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50の接合型複合流とし、紡速1800m/分で2本引き揃え巻き取り未延伸糸を得た。
【0054】
このときの吐出線速度は、4.4m/minであった。
【0055】
前記未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.53倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.30であった。更に、この延伸糸を用いて得られた織物の布帛収縮率は53.0%であり、中程度のストレッチ性を有するものであったが、未延伸糸の長周期斑が0.90%と高く、染め品位に問題があった。ただし、風合いは良好であり、評点は○であった。
【0056】
(比較例5)
実施例1で得られたブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で、別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、孔径0.4mmの孔Aと孔径0.4mmの孔Bがそれぞれ、吐出面に個別に接続していて、その孔間隔が0.24mmで近接する2つの孔A、孔Bからポリマーを吐出して口金下面で張り合わせ、その2成分の質量比が50/50のサイドバイサイド複合糸とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得た。
【0057】
この未延伸糸を延伸速度600m/分、温度82℃、延伸倍率2.96倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.70であった。前記延伸糸で得られた織物の布帛収縮率は47.1%であり、ストレッチ性は低かった。また、風合いもシャリ感があり、硬く評点は×であった。
【0058】
(比較例6)
イソフタル酸を8モル%共重合した変性ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.70)を270℃で、未変性のポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で、別々に溶融した後に、280℃の紡糸頭に導入し、実施例1と同様の紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50のサイドバイサイド複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得た。
【0059】
また、紡糸後、各複合成分のポリマーの固有粘度については、各成分の単独ポリマーの紡出糸を別々にサンプリングしたもので測定した結果、変性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.68、未変性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.48であった。
【0060】
この未延伸糸を延伸速度600m/分、温度85℃、延伸倍率2.11倍(最大延伸倍率の0.82倍)で延伸し110dtex24フィラメントの延伸糸を得た。前記延伸糸のEF/CDの比は、1.05であった。しかし、前記延伸糸を用いて得られた織物の布帛収縮率は30.0%であり、ストレッチ性は非常に低かった。また、風合いもシャリ感があり、硬く評点は×であった。
【0061】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で、高粘度のブロック共重合ポリマー(固有粘度=1.44)を得た。前記ブロック共重合ポリマーを225℃で、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.51)を285℃で別々に溶融した後に、270℃の紡糸頭に導入し、吐出孔内において各ポリマーの導入孔の合流部が紡糸口金の吐出面から0.8mmの位置にあり、直径0.6mmの丸断面吐出孔を24個有する紡糸口金から吐出して2成分の質量比が50/50のサイドバイサイド複合流とし、紡速1800m/分で巻き取り未延伸糸を得ようとしたが、ニーリングが発生し、糸切れが多発し、巻き取り不能であった。
【0062】
また、紡糸後、各複合成分のポリマーの固有粘度については、各成分の単独ポリマーの紡出糸を別々にサンプリングしたもので測定した結果、変性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は1.40、未変性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.48であった。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の1実施形態を示す糸横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度の異なる2種類のポリマーを40/60〜60/40の質量比で接合させた複合繊維マルチフィラメントであって、そのマルチフィラメントの単繊維横断面のポリマー境界線と繊維外周との2つの交点A,Bを結ぶ線分を線分ABとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに平行な線分のうち長さが最大となる線分を線分CDとし、繊維外周を両端としかつ前記線分ABに垂直な線分のうち長さが最大となる線分を線分EFとしたときに、線分EFと線分CDとの長さの比(EF/CD)が、0.70以上、1.40未満であるポリエステル系複合繊維
【請求項2】
2種類のポリマーの固有粘度差が0.50以上、1.00以下である請求項1に記載のあるポリエステル系複合繊維。
【請求項3】
2種類のポリマーがそれぞれ、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBからなる、請求項1及び請求項2に記載のあるポリエステル系複合繊維
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの1項に記載のあるポリエステル系複合繊維を用いた布帛。
【請求項5】
固有粘度差が0.50以上、1.00以下である、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなるブロック共重合ポリマーAとポリエチレンテレフタレートポリマーBとを40/60〜60/40の質量比で、吐出孔内において紡糸口金の吐出面から2mm未満で合流した後、吐出線速度5.0m/min以上で吐出するポリエステル系複合繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7868(P2008−7868A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176684(P2006−176684)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】