説明

高レベルでタンパク質を発現する宿主細胞の選択

本発明は、i)所定のポリペプチドと、ii)真核宿主細胞において機能する選択可能なマーカーポリペプチドとをコードするマルチシストロニックな転写ユニットを含むDNA分子を提供し、所定のポリペプチドが選択可能なマーカーポリペプチドとは別に翻訳開始配列を有し、所定のポリペプチドのコード配列が、前記マルチシストロニックな転写ユニットにおいて選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列から上流にあり、配列内リボソーム進入部位(IRES)が所定のポリペプチドのコード配列から下流に、かつ選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列から上流に存在し、コード鎖における選択可能なマーカーポリペプチドをコードする核酸配列がGTG又はTTG開始コドンを含む。また、本発明は、本発明のDNA分子を含む、所定のポリペプチドを発現する宿主細胞を得る方法を提供する。本発明は、さらに、本発明に従うDNA分子を含む宿主細胞を培養することを含む、所定のポリペプチドの生産方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学及び生物工学の分野に関する。より詳細には、本発明は、高レベルでタンパク質を発現する宿主細胞の選択を改善する手段及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば生物医薬のような生物学及び生物工学における幅広い範囲にわたる用途のために、タンパク質は様々な宿主細胞において生産することができる。真核生物の、特に哺乳類の宿主細胞が、例えばそのようなタンパク質がグリコシル化などの特定の翻訳後修飾を有する場合、このような目的で、多くのタンパク質を発現させるために好ましい。そのような生産方法はよく確立されており、概して、所定のタンパク質をコードする核酸(「導入遺伝子」とも呼ぶ)を宿主細胞において発現させることを伴うものである。一般に、導入遺伝子は選択可能なマーカー遺伝子と共に前駆細胞に導入され、選択可能なマーカー遺伝子の発現について細胞が選択され、所定のタンパク質を高レベルで発現する1種又は複数のクローンが同定され、所定のタンパク質を発現させるために用いられる。
【0003】
導入遺伝子の発現に関連した問題の1つは、導入遺伝子が遺伝子抑制(ジーンサイレンシング)(非特許文献1)により不活性となる高い可能性から生じるものが予測不可能であることであり、したがって、多くの宿主細胞のクローンを、導入遺伝子の高発現について試験する必要がある。
【0004】
比較的高いレベルの望ましいタンパク質を発現する組み換え宿主細胞を選択する方法は既知であり、いくつかのそのような方法が特許文献1の序論において議論されており、該文献の内容を参照によって組み込むものとする。
【0005】
先行技術における特定の好都合な方法において、組換えタンパク質を発現する安定した哺乳類細胞株の迅速かつ効率的な作製のためのバイシストロニックな(bicistronic)発現ベクターが明らかにされている。これらのベクターは、配列内リボソーム進入部位(internal ribosome entry site、IRES)を、上流の所定のタンパク質のコード配列と下流の選択マーカーのコード配列との間に含む(非特許文献2)。そのようなベクターは市販されており、例えば、クロンテック(CLONTECHniques,October 1996)のpIRES1ベクターがある。そのようなベクターを宿主細胞への導入のために使用して、下流のマーカータンパク質が充分に発現しているものを選択することで、自動的に高い転写レベルのマルチシストロニックな(multicistronic)mRNAが選択され、それ故に、そのようなベクターを用いることで、所定のタンパク質の高発現の確率が強く増加することが想定される。好ましくは、そのような方法において、選択マーカータンパク質の発現について選択することによって所定のタンパク質の発現レベルが高い宿主細胞について選択する機会をさらに向上させるために、用いるIRESは、比較的低レベルの選択マーカー遺伝子の翻訳をもたらすIRESである(例えば、特許文献2及び3参照)。
【特許文献1】国際公開第2006/048459号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/106684号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/005718号パンフレット
【非特許文献1】McBurney, MW, Mai, T, Yang, X, and Jardine, K. (2002) Evidence for repeat-induced gene silencing in cultured Mammalian cells: inactivation of tandem repeats of transfected genes Exp Cell Res 274, 1-8.
【非特許文献2】Rees, S, Coote, J, Stables, J, Goodson, S, Harris, S, and Lee, MG. (1996) Bicistronic vector for the creation of stable mammalian cell lines that predisposes all antibiotic-resistant cells to express recombinant protein Biotechniques 20, 102-104, 106, 108-110.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高レベルの所定のタンパク質を発現する宿主細胞を選択するための改善された手段及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
国際公開第2006/048459号パンフレットが本願優先日前に出願され、本願の優先日後に公開されており、その内容を参照によって本明細書に組み込むものとする。国際公開第2006/048459号パンフレットには、高レベルの所定のポリペプチドを発現する宿主細胞を選択するコンセプトが開示されており、該コンセプトは、「互いの相互依存翻訳(reciprocal interdependent translation)」と呼ばれている。該コンセプトにおいて、マルチシストロニックな転写ユニットを用い、該転写ユニットにおいて、選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列が所定のポリペプチドをコードする配列の上流にあり、選択可能なマーカーポリペプチドの翻訳が変異によって阻害される一方で、所定のポリペプチドのポリペプチドの翻訳が非常に高い(例えば概略図について国際公開第2006/048459号パンフレット図13参照)。本発明は、高レベルのポリペプチドを発現する宿主細胞を選択する別の手段及び方法を提供する。
【0008】
一態様において、本発明は、i)所定のポリペプチドと、ii)真核宿主細胞において機能する選択可能なマーカーポリペプチドとをコードするマルチシストロニックな転写ユニットを含むDNA分子を提供し、所定のポリペプチドは、選択可能なマーカーポリペプチドのものとは別の転写開始配列を有し、前記マルチシストロニックな転写ユニットにおいて、所定のポリペプチドのコード配列が、選択可能なマーカーのポリペプチドのコード配列から上流にあり、配列内リボソーム進入部位(IRES)が所定のポリペプチドのコード配列のから下流に、かつ選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列の上流に存在し、コード鎖における選択可能なマーカーポリペプチドをコードする核酸配列が、a)GTG開始コドン、b)TTG開始コドン、c)CTG開始コドン、d)ATT開始コドン、及びe)ACG開始コドンからなる群より選択される転写開始配列を含む。
【0009】
選択可能なマーカーポリペプチドのコード鎖における転写開始配列は、GTG、TTG、CTG、ATT又はACG配列の1つなどのATG開始コドンとは異なる開始コドンを含み、それらのうち、最初の2つが最も好ましい。そのようなATGではない(非ATG)開始コドンは、少なくともいくつかのリボソームがこれらの開始コドンから翻訳を開始するように、開始コドンとしてATGではない配列の比較的良好な認識をもたらす配列に挟まれており(flanked)、すなわち、翻訳開始配列は、好ましくは、ACC[非ATG開始コドン]G又はGCC[非ATG開始コドン]Gの配列を含む。
【0010】
好ましい実施態様において、選択可能なマーカータンパク質が、抗生物質などの選択薬剤の致死及び/又は成長阻害効果に対する耐性をもたらす。
【0011】
本発明は、さらに、本発明に従うDNA分子を含む発現カセットを提供し、発現カセットは、さらに、マルチシストロニックな発現ユニットの上流に、マルチシストロニックな発現ユニットの転写開始のために真核細胞の宿主細胞において機能するプロモーターを含み、前記発現カセットは、さらに、マルチシストロニックな発現ユニットの下流に転写終結配列を含む。
【0012】
その好ましい実施態様において、そのような発現カセットは、さらに、マトリックス又は足場付着領域(MAR/SAR)、インスレーター配列、遍在性クロマチンオープニングエレメント(ubiquitous chromatin opener element、UCOE)、及び抗リプレッサー配列からなる群より選択されるクロマチン制御エレメントを少なくとも1つ含む。抗リプレッサー配列が本態様において好ましく、特定の実施態様において、前記抗リプレッサー配列は、a)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つ;b)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つの断片であって、抗リプレッサー活性を有する断片;c)a)又はb)とヌクレオチド配列において少なくとも70%同一である配列であって、抗リプレッサー活性を有する配列;d)a)〜c)のいずれか1つに対する相補体からなる群より選択される。
【0013】
また、本発明は、本発明に従うDNA分子を含む宿主細胞を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、所定のポリペプチドを発現する宿主細胞を生成する方法を提供し、該方法は、複数の前駆宿主細胞に本発明に従うDNA分子又は発現カセットを導入するステップと、選択可能なマーカーポリペプチドの発現について選択する条件下で該細胞を培養するステップと、所定のポリペプチドを生産する宿主細胞を少なくとも1つ選択するステップとを含む。
【0015】
更なる態様において、本発明は、所定のポリペプチドを生産する方法を提供し、該方法は、本発明に従う発現カセットを含む宿主細胞を培養することと、発現カセットから所定のポリペプチドを発現させることとを含む。その好ましい実施態様において、所定のポリペプチドを、さらに、宿主細胞及び/又は宿主細胞培養培地から分離する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一態様において、本発明は、請求項1記載のDNA分子を提供する。そのようなDNA分子は、本発明に従って、選択可能なマーカーポリペプチドの発現について選択することによって、高レベルの所定のポリペプチドを発現する真核宿主細胞を得るために使用することができる。後に、又は同時に、所定のポリペプチドを発現する1又は複数の宿主細胞を同定することができ、さらに、高レベルの所定のポリペプチドの発現のために使用することができる。
【0017】
「モノシストロニックな遺伝子」という用語は、1つのポリペプチドをコードするRNA分子をもたらすことが可能な遺伝子として定義される。「マルチシストロニックな転写ユニット」は、マルチシストロニックな遺伝子ともよばれ、少なくとも2つのポリペプチドをコードするRNA分子をもたらすことが可能な遺伝子と定義される。「バイシストロニックな遺伝子」という用語は、2つのポリペプチドをコードするRNA分子をもたらすことが可能な遺伝子と定義される。したがって、バイシストロニックな遺伝子は、マルチシストロニックな遺伝子の定義に包含される。本明細書で用いる「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって結合した少なくとも5アミノ酸を含み、例えば、タンパク質又はサブユニットなどの該タンパク質の一部であってもよい。多くは、ポリペプチド及びタンパク質という用語は、本明細書において交互に用いられる。本発明で用いる「遺伝子」又は「転写ユニット」は、染色体DNA、cDNA、人工DNA、それらの組み合わせなどを含むことができる。いくつかのシストロンを含む転写ユニットは、単一のmRNAとして転写される。
【0018】
本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットは、好ましくは、所定のポリペプチドを5'から3'まで、及び選択可能なマーカーポリペプチドをコードするバイシストロニックな転写ユニットである。それ故に、所定のポリペプチドは、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列から上流にてコードされる。IRESは、選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列に機能可能なように連結され、従って、選択可能なマーカーポリペプチドは、その翻訳のためにIRESに依存する。
【0019】
異なる所定のポリペプチドの発現のための別個の転写ユニットを使用するのが、これらが多量体のタンパク質の一部を形成する場合には好ましい(例えば国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例13を参照、該文献を参照によって組み込む:抗体の重鎖及び軽鎖の各々が別個の転写ユニットによってコードされ、これらの発現ユニットはそれぞれバイシストロニックな発現ユニットである)。
【0020】
本発明のDNA分子は、選択可能なマーカーポリペプチド及び所定のポリペプチドについてコード鎖と非コード鎖とを有する二重鎖DNAの形態で存在することができ、該コード鎖は、Uの代わりにTが存在する以外は翻訳したRNAと同じ配列を有する鎖である。それ故に、AUG開始コドンは、コード鎖においてATG配列でコードされ、RNAにおいてAUG開始コドンに対応するこのATG配列を含む鎖はDNAのコード鎖と呼ばれている。開始コドン又は翻訳開始配列が実際にはRNA分子中に存在するが、これらが、そのようなRNA分子をコードするDNA分子において等しく具現化されていると考えることができることは、当業者に明らかであり、それ故に、本発明が、開始コドン又は翻訳開始配列に言及する場合はいつでも、別段の指定が明らかにある場合を除いて、前記DNA分子のコード鎖においてUの代わりにTが存在することを別にすれば、RNA配列と同じ配列を有する対応するDNA分子が含まれることになり、逆もまた同様である。すなわち、開始コドンは、例えばRNAにおいてAUG配列であるが、DNAのコード鎖中の対応するATG配列は、本発明においては同様に開始コドンと呼ばれる。同じことが、アミノ酸に翻訳されるRNA分子中のトリプレット(3塩基)を意味するが、DNA分子のコード鎖において対応するトリヌクレオチド配列とも解釈される「インフレーム」コード配列の言及に用いられる。
【0021】
マルチシストロニックな遺伝子によってコードされる選択可能なマーカーポリペプチド及び所定のポリペプチドは、それぞれ自分自身の翻訳開始配列を有し、したがって、それぞれ自分自身の開始コドンを(停止コドンも)有し、すなわち、それらは、別個のオープン・リーディング・フレームによってコードされている。
【0022】
「選択マーカー」又は「選択可能なマーカー」は、通常、存在を細胞において直接又は間接的に検出することができる遺伝子及び/又はタンパク質、例えば、選択薬剤を不活性化し、薬剤の致死効果又は成長阻害効果から宿主細胞を保護するポリペプチド(例えば抗生物質耐性遺伝子及び/又はタンパク質)を呼ぶために用いられる。別の可能性は、前記選択マーカーが蛍光又は色の沈着を誘導し(例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)及び誘導体(例えばd2EGFP)、ルシフェラーゼ、lacZ、アルカリホスファターゼなど)、例えば、GFPを発現する細胞を選択するために蛍光標示式細胞分取器(FACS)を用いて、色の沈着を誘導するポリペプチドを発現する細胞を選択するために用いることができる。好ましくは、本発明に従う選択可能なマーカーポリペプチドは、選択薬剤の致死効果又は成長阻害効果に対する耐性を与える。選択可能なマーカーポリペプチドは本発明のDNAによってコードされている。本発明に従う選択可能なマーカーポリペプチドは、真核宿主細胞において機能しなければならず、それ故に、真核宿主細胞について選択することが可能である。このような基準を満たすいずれの選択可能なマーカーポリペプチドも原則として本発明において用いることができる。そのような選択可能なマーカーポリペプチドは本技術分野において周知であり、真核宿主細胞のクローンを得る際に、日常的に使用され、本明細書にいくつかの例を記載する。特定の実施態様において、本発明に使用される選択マーカーはゼオシンである。他の実施態様において、ブラストサイジンが用いられる。当業者であれば、他の選択マーカー、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン等を入手でき、用いることができることを知っている。他の実施態様において、カナマイシンが用いられる。さらに他の実施態様において、DHFR遺伝子が選択可能なマーカーとして用いられ、該マーカーはメトトレキサートによって選択することができ、特にメトトレキサートの濃度を増加させることによって、DHFR遺伝子のコピー数の増加について細胞を選択することができる。また、DHFR遺伝子を用いて、例えばdhfr-の表現型を有するCHO細胞におけるdhfr欠損を、葉酸を有し、グリシン、ヒポキサンチン及びチミジンを欠く培地において補完してもよい。同様に、グルタミンシンターゼ(GS)遺伝子用いることができ、該遺伝子について、不充分なGSを有する細胞(例えばNS-0細胞)においてグルタミンを有さない培地において培養することによって、又はその代わりとして充分なGSを有する細胞(例えばCHO細胞)においてGSの阻害剤であるメチオニンスルホキシミン(MSX)を添加することによって選択可能である。使用することができる他の選択可能なマーカー遺伝子及びその選択薬剤は、例えば、米国特許第5,561,053号明細書の表1に記載されており、その内容を参照によって本明細書に組み込むものとする。これらの総説について、Kaufman,Methods in Enzymology, 185:537-566(1990)も参照されたい。選択可能なマーカーポリペプチドがdhfrである場合、好都合な実施態様における宿主細胞は葉酸を含む培地において培養され、該培地は、本質的にヒポキサンチン及びチミジン、好ましくはグリシンも欠いている。
【0023】
2つのマルチシストロニックな転写ユニットを、本発明に従い、単独の宿主細胞において選択する場合、各自、好ましくは異なる選択可能なマーカーのコード配列を含んで、マルチシストロニックな転写ユニット両方についての選択を可能にする。当然、マルチシストロニックな転写ユニットが両方とも単独の核酸分子上に存在するか、又はその代わりに各々が別個の核酸分子上に存在してもよい。
【0024】
「選択」という用語は、通常、選択マーカー/選択可能なマーカー及び選択薬剤を用いて、特定の遺伝子特性を有する宿主細胞(例えば宿主細胞がそのゲノムに組み込まれた導入遺伝子を含む)を同定するプロセスとして定義される。選択マーカーの多数の組み合わせが可能であることは当業者に明らかである。特に好都合である1つの抗生物質はゼオシンであり、ゼオシン耐性タンパク質(ゼオシン-R)が薬剤を結合し、無害にすることによって作用するからである。したがって、低レベルのゼオシン-Rの発現を有する細胞を殺し、一方で高い発現をするものを生存させる薬剤の量を滴定するのが容易である。共用する他のすべての抗生物質耐性タンパク質は酵素であり、触媒作用的に作用する(薬剤と1:1ではない)。それ故に、抗生物質ゼオシンは好ましい選択マーカーである。別の好ましい選択マーカーは、5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸合成酵素(dhfr)である。しかしながら、本発明は他の選択マーカーによっても実施することができる。
【0025】
本発明に従う選択可能なマーカーポリペプチドは、本発明の核酸によってコードされるタンパク質であり、該ポリペプチドは、例えば抗生物質などの選択薬剤に対し耐性を与えることから、選択のために機能的に用いることができる。それ故に、抗生物質を選択薬剤として用いる場合、DNAは、選択薬剤に対する耐性を与えるポリペプチドをコードし、該ポリペプチドは選択可能なマーカーポリペプチドである。そのような選択可能なマーカーポリペプチドをコードするDNAは既知であり、選択可能なマーカータンパク質をコードするDNAの野生型の配列のいくつかの例を本明細書に記載する(例えば国際公開第2006/048459号パンフレットの図26〜32、参照によって本明細書に組み込む)。選択可能なマーカーの変異体又は誘導体も本発明において適切に使用することができ、それ故にそれらが、選択可能なマーカーが機能を有する限り「選択可能なマーカーポリペプチド」という用語の範囲内に含まれることは明らかである。
【0026】
便宜上、一般に当業者に受け入れられているように、多くの刊行物及び本明細書において、多くの場合、選択薬剤に対する耐性をコードする遺伝子及びタンパク質は、「選択可能な薬剤(耐性)遺伝子」又は「選択薬剤(耐性)タンパク質」とそれぞれ呼ばれているが、正式名称は異なる可能性があり、例えば、ネオマイシンに対する(並びにG418及びカナマイシンに対する)耐性を与えるタンパク質をコードする遺伝子は、多くの場合、ネオマイシン(耐性)(又はneor)遺伝子と呼ばれる一方で、正式名称はアミノグリコシド 3’−ホスホトランスフェラーゼ遺伝子である。
【0027】
本発明では、選択可能なマーカーポリペプチドの低レベルの発現を有し、それ故に厳密な選択が可能であることが有益である。本発明において、このことは、非ATG開始コドンを有する選択可能なマーカーのコード配列を用いることによってもたらされる。選択により、それにもかかわらず選択可能なマーカーポリペプチドの充分なレベルを有する細胞のみが選択され、このことは、そのような細胞が、マルチシストロニックな転写ユニットが組み入れられているか、又は該転写ユニットが、この転写ユニットからの発現レベルが高い場所で宿主細胞中に存在する細胞についての選択をもたらす、マルチシストロニックな転写ユニットの充分な転写及び選択可能なマーカーポリペプチドの充分な翻訳を有さなければならないことを意味する。
【0028】
本発明に従うDNA分子は、所定のポリペプチドのコード配列の下流に選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列を有する。それ故に、マルチシストロニックな転写ユニットは、5’から3'の方向に(DNAの転写される鎖及び生じる転写RNAの両方において)所定のポリペプチドをコードする配列と選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列とを含む。IRESは、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列の上流にある。
【0029】
本発明において、所定の遺伝子のコード領域は、好ましくは、キャップ依存的なORFから翻訳され、所定のポリペプチドが多量に生産される。選択可能なマーカーポリペプチドはIRESから翻訳される。選択可能なマーカーのシストロンの翻訳を減少させるために、本発明において、選択可能なマーカーポリペプチドをコードする核酸配列は、真核宿主細胞において選択可能なマーカーポリペプチドの翻訳開始効率を低下させる開始コドンにおける変異を有する。好ましくはGTG開始コドン又はより好ましくはTTG開始コドンを選択可能なマーカーポリペプチド中に設計する。翻訳効率は、同じ細胞における対応する野生型の配列のものより低く、すなわち、変異によって、ポリペプチドが細胞あたり時間単位あたりより少なくなり、それ故に、選択可能なマーカーポリペプチドがより少なくなる。
【0030】
翻訳開始配列は、多くの場合、本技術分野において「コザック(Kozak)配列」と呼ばれ、最適なコザック配列はRCCATGGであり、下線部は開始コドンを示し、Rはプリン、すなわちA又はGである(Kozak M,1986、1987、1989、1990、1997、2002参照)。それ故に、開始コドン自身に加えて、その前後関係、特に-3〜-1及び+4のヌクレオチドが関係し、最適な翻訳開始配列は、最適な開始コドン(すなわちATG)を最適な前後関係で(すなわちATGの前に直接RCCがあり、ATGの後に直接Gがある)有する。リボソームによる翻訳は、最適なコザック配列が存在する場合に最も効率が良い(Kozak M,1986、1987、1989、1990、1997、2002参照)。しかしながら、小さいパーセンテージで起こることとして、最適でない翻訳開始配列がリボソームによって認識され、使用されて、翻訳を開始する。本発明は、この原理を利用し、翻訳、従って選択可能なマーカーポリペプチドの発現の量を減少させ、また微調整することも可能にし、それ故に選択システムの厳密性を増大させるために使用することができる。
【0031】
本発明における選択可能なマーカーポリペプチドのATG開始コドンは、いくらかの翻訳開始をもたらすことが報告されている別のコドン、例えばGTG、TTG、CTG、ATT又はACG(まとめて本明細書では「非ATG開始コドン」と称する)に変異されている。好ましい実施態様において、ATG開始コドンはGTG開始コドンに変異されている。このことは、完全であるが最適でない前後関係でのATG開始コドンを用いたものよりさらに低い発現レベル(より少ない翻訳)をもたらす。より好ましくは、ATG開始コドンはTTG開始コドンに変異され、それによって、GTG開始コドンを用いたものよりさらに低い選択可能なマーカーポリペプチドの発現レベルがもたらされる(Kozak M,1986、1987、1989、1990、1997、2002;参照によって本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例9〜13も参照)。非ATG開始コドンを本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットにおける選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列において使用することは、先行技術において開示乃至示唆されておらず、参照によって本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットにおいても示されているように、好ましくはクロマチン制御エレメントと組み合わせて、所定のポリペプチドの非常に高いレベルの発現をもたらす。
【0032】
本発明における非ATG開始コドンの使用において、そのような開始コドンにとって最適な前後関係をもたらすことが強く好ましく、すなわち、非ATG開始コドンの前に直接、-3〜-1の位置にヌクレオチドであるRCCがあり、非ATG開始コドンの後に直接Gヌクレオチドがある(+4の位置)ことが好ましい。しかしながら、TTTGTGG(下線部が開始コドン)配列を用いて、少なくともインビトロにおいてある程度の開始が観察されることが報告されており、そのため、強く好ましいのではあるが、非ATG開始コドンにとって最適な前後関係をもたらすことは場合によっては絶対に必要とされるものではない。
【0033】
ATG開始コドンを除くポリペプチドのコード配列内のATG配列は「内部ATGs」と呼ばれ、これらはORFとインフレームにあり、それ故にメチオニンをコードし、ポリペプチド中の生じたメチオニンは「内部メチオニン」と呼ばれる。国際公開第2006/048459号パンフレットの発明において、選択可能なマーカーポリペプチドをコードするコード領域(開始コドンに続き、必ずしも開始コドンを含まない)は、所定のポリペプチドの開始コドンまで(含まない)、DNAのコード鎖においてATG配列を全く欠いている。国際公開第2006/048459号パンフレットには、これをもたらす方法及び生じた選択可能なマーカーポリペプチドを機能性について試験する方法が開示されている。本発明では、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列がIRESの下流及び所定のポリペプチドのコード配列の下流にある場合、選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列中の内部ATGsが完全なまま残存することができる。
【0034】
明らかなのは、所定のポリペプチドの翻訳開始配列が、最適な翻訳開始配列、すなわちコンセンサス配列RCCATGG(下線部が開始コドン)を有するものを含むことが本発明において強く好ましいことである。このことによって、所定のポリペプチドの翻訳が非常に効率のよいものとなる。
【0035】
マーカーのコード配列に異なる変異をもたらし、減少した翻訳効率の数種のレベルをもたらすことによって、選択の厳密性を増加させることができる。したがって、本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットを使用することによって、例えば選択マーカーポリペプチドにGTG開始コドンを使用することによって、選択システムの微調整が可能であり、少数のリボソームのみこの開始コドンから翻訳し、低レベルの選択可能なマーカータンパク質を生じ、それ故に選択の厳密性が高くなる。TTG開始コドンを用いると、さらに少ないリボソームがこの開始コドンから選択可能なマーカーポリペプチドを翻訳するので、選択の厳密性がさらに増加する。
【0036】
参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットには、該特許文献に記載のマルチシストロニックな発現ユニットを非常に強力な選択システムに使用することができ、要求どおりに、高レベルの所定のポリペプチドを発現するクローンの非常に大きいパーセンテージをもたらす。さらに、所定のポリペプチドについて得られた発現レベルは、従来の選択システムを用いてさらに大きい数のコロニーをスクリーニングする際に得られたものより極めて高いと思われる。
【0037】
転写開始効率の減少に加えて、必要に応じて、マーカーポリペプチドの翻訳レベルをさらに減少させ、さらにより厳密な選択条件を可能にするために、例えば、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列が宿主細胞のいくつかの好ましくないコドンを含むように該コード配列を変異させることによって、選択可能なマーカーポリペプチドの翻訳伸張効率の減少をもたらすことも有益である。特定の実施態様において、本発明における翻訳効率を減少させる変異に加えて、選択可能なマーカーポリペプチドは、さらに、その野生型の対応するものと比較して選択可能なマーカーポリペプチドの活性を減少させる変異を有する。これを用いて、選択の厳密性をさらに増加させてもよい。限定されない例として、ゼオシン耐性ポリペプチドの位置9のプロリンを、例えばThr又はPheに変異させてもよく(例えば、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例14を参照)、ネオマイシン耐性ポリペプチドでは、アミノ酸残基182又は261又はその両方をさらに変異させてもよい(例えば国際公開第01/32901号パンフレット参照)。
【0038】
本発明のいくつかの実施態様において、いわゆるスペーサー配列を選択可能なマーカーポリペプチドの開始コドンをコードする配列の下流に配置し、該スペーサー配列は、好ましくは、開始コドンとインフレームにある配列であり、数種のアミノ酸をコードし、二次構造を含まない(Kozak,1990)。そのようなスペーサー配列を用いて、二次構造が選択可能なマーカーポリペプチド(例えばゼオシンに対するもの、あるいはブラストサイジンに対するもの)のRNA中に存在する場合、翻訳開始頻度をさらに減少させることができ、それ故に本発明に従う選択システムの厳密性を増加させることができる(例えば、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例14参照)。
【0039】
記載されているとおりであるが、選択可能なマーカータンパク質をコードする第1のATG(開始コドン)の下流の配列において変異を有するいずれのDNA分子も使用することができ、したがって、各コードされる選択可能なマーカータンパク質がまだ活性を有する限り、本発明に包含されることは明らかである。例えば、遺伝暗号の重複性のためにコードされるタンパク質を改変しないサイレント変異のいずれも包含される。保存的なアミノ酸の変異又は他の変異をもたらす更なる変異も、コードされるタンパク質がまだ活性を有する限り包含され、前記活性は、示した配列によってコードされる野生型タンパク質のものより低いか、又は低くない可能性がある。特に、コードされるタンパク質が、各示した配列(例えば、本願の配列表の配列番号68〜80に示されるもの)によってコードされるタンパク質と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一であることが好ましい。選択可能なマーカータンパク質の活性があるかどうかの試験は常法によって行うことができる。
【0040】
本発明の好ましい態様は、マルチシストロニックな転写ユニットを有する、本発明に従うDNA分子を含む発現カセットを提供することである。そのような発現カセットは、例えば宿主細胞において所定の配列を発現させるのに有用である。本明細書で使用する「発現カセット」は、発現が望ましい配列に機能するように連結させたプロモーターを少なくとも含む核酸配列である。好ましくは、発現カセットは、さらに、転写終結配列とポリアデニル化配列を含む。エンハンサーなどの他の制御配列も含んでよい。それ故に、本発明は、以下の順序で:5’−プロモーター−所定のポリペプチドをコードし、かつその下流に選択可能なマーカーポリペプチドをコードする本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニット−転写終結配列−3’を含む発現カセットを提供する。プロモーターは真核宿主細胞において機能できなければならない、すなわち、マルチシストロニックな転写ユニットの転写を駆動できなければならない。したがって、プロモーターはマルチシストロニックな転写ユニットに機能可能なように連結される。発現カセットは、任意選択的に、本技術分野において既知の他のエレメント、例えばイントロンを含むスプライス部位などをさらに含有してもよい。いくつかの実施態様において、イントロンは、プロモーターの後に、かつ所定のポリペプチドをコードする配列の前に存在する。IRESは、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列を含むシストロンに機能可能なように連結される。更なる実施態様において、第2の選択可能なマーカーをコードする配列がマルチシストロニックな転写ユニット中に存在する(すなわち、この転写ユニットは、これらの実施態様において少なくともトリシストロニックな転写ユニットである)。その好ましい実施態様において、第2の選択可能なマーカーポリペプチドをコードする前記配列は、a)所定のポリペプチドのものとは別の翻訳開始配列を有し、b)所定のポリペプチドをコードする前記配列の上流に位置し、c)前記第2の選択可能なマーカーポリペプチドの開始コドンの後、所定のポリペプチドの開始コドンまでのコード鎖においてATG配列を有さず、d)最適でない翻訳開始配列、例えばGTG開始コドン又はTTG開始コドンを有する。そのような実施態様では、好ましい選択可能なマーカーポリペプチドが、5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸合成酵素(dhfr)である。これは、実施例2にて例示するように、所定のポリペプチドの高レベルの発現の連続的な選択を可能にする。
【0041】
タンパク質をコードする核酸配列の発現を得るために、そのような発現を駆動することが可能な配列を、タンパク質をコードする核酸配列に機能するように連結することができ、発現可能な形式でタンパク質をコードする組み換え核酸分子をもたらすことができることは当業者に周知である。本発明において、発現カセットは、マルチシストロニックな転写ユニットを含む。概して、プロモーター配列は、発現すべき配列の上流に配置される。多くの使用される発現ベクターが本技術分野において入手可能であり、例えば、InvitrogenのpcDNA及びpEFベクターシリーズ、BD SciencesのpMSCV及びpTK-Hyg、StratageneのpCMV-Scriptなどがあり、これらを用いて、適切なプロモーター及び/又は転写終結配列、polyA配列などを得ることができる。
【0042】
所定のポリペプチドをコードする配列が、コードされるポリペプチドの転写及び翻訳を支配する配列に関連して適切に挿入されている場合、生じる発現カセットは、所定のポリペプチドを生産するのに有用であり、発現と称される。発現を駆動する配列は、プロモーター、エンハンサー及びその同種のもの、並びにそれらの組み合わせを含んでもよい。これらは、宿主細胞において機能可能であるべきであり、それによって、それらに機能するように連結されている核酸配列の発現を駆動する。当業者であれば、種々のプロモーターを用いて、宿主細胞における遺伝子の発現を得ることができることを理解している。プロモーターは構成的であるか、又は制御されていてもよく、ウイルス、原核生物もしくは真核生物の供給源、又は人工的に設計されたものを含めて、種々の供給源から得ることができる。所定の核酸の発現は、天然のプロモーターもしくはその誘導体由来又は完全に異種のプロモーター(Kaufman,2000)由来であってもよい。本発明において、最適な真核細胞において高い転写レベルをもたらす強力なプロモーターが好ましい。適したプロモーターは当業者に周知であり、入手可能であり、いくつかが参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第28頁〜29頁)に記載されており、それには、CMV即時型(immediate early、IE)プロモーター(本明細書ではCMVプロモーターと称す)(例えばInvitrogenのpcDNAから得ることができる)及び多くの他のプロモータが含まれる。
【0043】
特定の実施態様において、本発明に従うDNA分子は、ベクター、例えばプラスミドの一部である。そのようなベクターは当業者に周知の方法によって容易に操作でき、例えば、原核細胞及び/又は真核細胞において複製可能なように設計することができる。さらに、多くのベクターを、直接的に、又はそこから分離した望ましい断片の形態で、真核細胞の形質転換に使用することができ、そのような細胞のゲノムに全部または一部として組み入れ、それによって、望ましい核酸をそのゲノムに有する安定した宿主細胞がもたらされる。
【0044】
従来の発現システムは、組み換えプラスミド又は組み替えウイルスゲノムの形態のDNA分子である。プラスミド又はウイルスゲノムを(真核宿主)細胞に導入し、好ましくは本技術分野において既知の方法によってそのゲノムに組み入れ、これについてのいくつかの態様が、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第30〜31頁)に記載されている。
【0045】
クロマチン構造及び他のエピジェネティックなコントロールメカニズムが真核細胞における導入遺伝子の発現に影響を与える可能性があることが広く認識されている(例えばWhitelawら,2001)。本発明に従うマルチシストロニックな発現ユニットは、むしろ厳密な選択の体制を有する選択システムの一部を形成する。これは、概して、最適な宿主細胞における高い転写レベルを必要とする。厳密な選択体制を切り抜ける宿主細胞のクローンを見出す機会を増加させ、場合によっては得られたクローンにおける発現の安定性を増加させるためには、転写の予測可能性を増加させることが概して好ましい。したがって、好ましい実施態様において、本発明に従う発現カセットは、さらに、少なくとも1つのクロマチン制御エレメントを含む。本明細書で使用される「クロマチン制御エレメント」は、クロマチン構造に対してなんらかの影響を与え、それとともに、真核細胞内の導入遺伝子の近辺において導入遺伝子の発現レベル及び/又は発現の安定性に対して影響を与える可能性があるDNA配列(「インシス(in cis)」にて機能し、それ故に、導入遺伝子から好ましくは5kb以内、より好ましくは2kb以内、さらにより好ましくは1kb以内に配置される)に対する集合名である。そのようなエレメントは、時折、望ましいレベルの導入遺伝子の発現を有するクローンの数を増加させるのに用いられる。本発明において用いることができる当該エレメントのいくつかのタイプが、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第32〜34頁)に記載され、本発明の目的のために、クロマチン制御エレメントは、マトリックス又は足場付着領域(MARs/SARs)、ベータ−グロビン・インスレーター・エレメント(ニワトリベータ−グロビン遺伝子座の5’HS4)、scs、scs’及びそれらと同種のものなどのインスレーター、遍在性クロマチンオープニングエレメント(UCOE)並びに抗リプレッサー配列(「STAR」配列とも称す)からなる群より選択される。
【0046】
好ましくは、前記クロマチン制御エレメントは抗リプレッサー配列であり、好ましくは、a)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つ、b)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つの断片であって、抗リプレッサー活性を有する断片(「機能的な断片」)、c)a)又はb)とヌクレオチド配列において少なくとも70%同一である配列であって、抗リプレッサー活性を有する配列(「機能的な誘導体」)、並びにd)a)〜c)のいずれか1つとの相補体からなる群より選択される。好ましくは、前記クロマチン制御エレメントは、STAR67(配列番号66)、STAR7(配列番号7)、STAR9(配列番号9)、STAR17(配列番号17)、STAR27(配列番号27)、STAR29(配列番号29)、STAR43(配列番号43)、STAR44(配列番号44)、STAR45(配列番号45)、STAR47(配列番号47)、STAR61(配列番号61)、又は前記STAR配列の機能的な断片もしくは機能的な誘導体からなる群より選択される。好ましい実施態様において、前記STAR配列は、STAR67(配列番号66)又はその機能的な断片もしくは機能的な誘導体である。特定の好ましい実施態様において、STAR67又はその機能的な断片もしくは機能的な誘導体が、マルチシストロニックな転写ユニットの発現を駆動するプロモーターの上流に位置する。他の好ましい実施態様において、本発明に従う発現カセットは、両側において、少なくとも1つの抗リプレッサー配列、例えば両側において、配列番号1〜65の1つによって、好ましくは転写ユニットに面するこれらの配列の3’末端でそれぞれ挟まれている。特定の実施態様において、発現カセットが本発明に従って提供され、該発現カセットは、以下の5’〜3’の順序で:抗リプレッサー配列A−抗リプレッサー配列B−[プロモーター−本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニット(所定のポリペプチドをコードし、その下流に機能的な選択可能なマーカータンパク質をコードする)−転写終結配列]−抗リプレッサー配列Cを含み、A、B、Cは同一又は異なっていてもよい。
【0047】
抗リプレッサー活性を有する配列(抗リプレッサー配列)、及びその特性、並びにその機能的な断片もしくは機能的な誘導体、並びにその構造的な及び機能的な定義、並びに本発明に有用であるそれら配列を得、用いる方法は、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第34〜38頁)に記載されている。
【0048】
マルチシストロニックなタンパク質の生産のために、2種又は3種以上の発現カセットを用いることができる。好ましくは、発現カセットの両方が本発明に従うマルチシストロニックな発現カセットであり、該発現カセットはそれぞれ異なる選択可能なマーカータンパク質をコードし、それ故に両方の発現カセットについての選択が可能である。この実施態様は、例えば抗体の重鎖及び軽鎖の発現において良好な結果を与えることが判明した。宿主細胞に導入する前に、両方の発現カセットを1の核酸分子上に配置してもよく、又は両方が別の核酸分子上に存在してもよいことは明らかである。1の核酸分子上にそれら発現カセットを配置する利点は、宿主細胞に導入する際に2つの発現カセットが、単一の所定の比率(例えば1:1)で存在することである。一方で、2つの異なる核酸分子上に存在する場合、このことは、宿主細胞に導入する際に2つの発現カセットのモル比を変動させる可能性を許容し、これは、好ましいモル比が1:1とは異なるか、又は好ましいモル比が何であるか前もって不明である場合に利点となり得、したがって、その変動及び最適条件を経験的に見出すことは当業者が容易に行うことができる。本発明において、好ましくは、少なくとも1つの発現カセット、より好ましくは各々の発現カセットが、クロマチン制御エレメント、より好ましくは抗リプレッサー配列を含む。
【0049】
別の実施態様において、多量体のタンパク質の異なるサブユニット又は一部が単一の発現カセット上に存在する。
【0050】
発現カセットと結合した抗リプレッサーの有用な構成は、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第40頁)に記載されている。
【0051】
特定の実施態様において、転写休止(transcription pause、TRAP)配列をさらに含む本発明に従う転写ユニット又は発現カセットが提供され、該配列は、基本的に、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットの第40〜41頁に記載されている。TRAP配列の制限されない例の1つを配列番号81に記載する。他のTRAP配列の例、これらを見出す方法及びその使用方法は、国際公開第2004/055215号パンフレットに記載されている。
【0052】
本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットを含むDNA分子及び/又は発現カセットを、好ましくは宿主細胞において核酸の発現を向上させるために用いることができる。「細胞」/「宿主細胞」及び「細胞株」/「宿主細胞株」は、それぞれ典型的には本技術分野において既知の方法によって細胞培養において維持することができ、かつ異種又は相同のタンパク質を発現する能力を有する細胞及びその均質の集団と定義される。
【0053】
使用することができるいくつかの宿主細胞の例示が、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第41〜42頁)に記載されており、そのような細胞としては、例えば哺乳類細胞が挙げられ、哺乳類細胞としては、特に限定されないが、CHO細胞、例えばCHO-K1、CHO-S、CHO-DG44、CHO-DUKXB11、dhfr-の表現型を有するCHO細胞に加えて、ミエローマ細胞(例えばSp2/0、NS0)、HEK293細胞及びPER.C6細胞が挙げられる。
【0054】
そのような真核宿主細胞は、望ましいポリペプチドを発現させることができ、多くの場合、その目的で使用される。それらは、好ましくは発現カセットの形態の本発明のDNA分子の細胞への導入によって得られる。好ましくは、発現カセットを、宿主細胞のゲノムに組み入れ、これは、種々の宿主細胞において異なる位置であってもよく、導入遺伝子が適した位置に組み入れられたクローンについての選択がもたらされ、それによって、発現レベル、安定性、成長特性などの点で望ましい性質を有する宿主細胞のクローンがもたらされる。別の方法として、マルチシストロニックな転写ユニットを、転写的に活性である染色体の領域への、例えばゲノム中に存在するプロモーターの後への組み入れの対象となるようにするか、又は該組み入れについて選択してもよい。本発明のDNAを含む細胞についての選択を、当業者に既知の常法を用いて、選択可能なマーカーポリペプチドについて選択することによって行うことができる。そのようなマルチシストロニックな転写ユニットをゲノム中のプロモーターの後に組み入れた場合、本発明に従う発現カセットをインサイチュで、すなわち宿主細胞のゲノム内で生成することができる。
【0055】
好ましくは、宿主細胞は、当業者に既知の標準的な手順に従って、選択及び増殖が可能な安定したクローン由来である。そのようなクローンの培養は、細胞が本発明のマルチシストロニックな転写ユニットを含む場合、所定のポリペプチドを生産することが可能である。
【0056】
細胞において発現される核酸の導入は、それ自体当業者に既知のいくつかの方法の1つによって、導入される核酸の形式にも依存して、行うことができる。前記方法としては、特に制限されないが、トランスフェクション、感染、インジェクション、形質転換などが挙げられる。所定のポリペプチドを発現する適した宿主細胞は選択によって得ることができる。
【0057】
好ましい実施態様において、本発明のマルチシストロニックな転写ユニットを好ましくは発現カセットの形態で含むDNA分子を本発明に従う真核宿主細胞のゲノムに組み入れる。これは、マルチシストロニックな転写ユニットの安定した遺伝をもたらす。
【0058】
選択可能なマーカーポリペプチドの存在、それ故に発現についての選択は、細胞の初めての入手の際に行うことができる。特定の実施態様において、培地中に、培養期間の少なくとも一部において、選択可能なマーカーポリペプチドを発現する細胞について選択するのに充分な濃度又はより低い濃度のいずれかにおいて選択薬剤が存在する。好ましい実施態様において、選択薬剤は、ポリペプチドが発現した際に、生産段階の間に、培地中にもはや存在しない。
【0059】
本発明に従う所定のポリペプチドはいずれのタンパク質であってもよく、単量体のタンパク質又は多量体のタンパク質(の一部)であってもよい。多量体のタンパク質は、少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む。本発明に従う所定のタンパク質の限定されない例は、酵素、ホルモン、イムノグロブリン鎖、抗癌タンパク質のような治療タンパク質、ファクターVIIIなどの血液凝固タンパク質、エリスロポエチンなどの多機能タンパク質、診断タンパク質、又はワクチン接種目的に有用なタンパク質もしくはその断片であり、すべて当業者に既知である。
【0060】
特定の実施態様において、本発明の発現カセットは、イムノグロブリンの重鎖もしくは軽鎖又はその抗原結合部分、誘導体及び/又は類似体をコードする。好ましい実施態様において、所定のタンパク質がイムノグロブリンの重鎖である本発明に従う前記タンパク質の発現ユニットを提供する。さらに別の好ましい実施態様において、所定のタンパク質がイムノグロブリンの軽鎖である、本発明に従う前記タンパク質の発現ユニットを提供する。これら2種のタンパク質の発現ユニットが、同じ(宿主)細胞内に存在する場合、多量体のタンパク質、より詳細にはイムノグロブリンが組み立てられる。それ故に、特定の実施態様において、所定のタンパク質は、多量体タンパク質である抗体などのイムノグロブリンである。好ましくは、そのような抗体は、ヒト又はヒト化抗体である。その特定の実施態様において、抗体は、IgG、IgA又はIgM抗体である。イムノグロブリンは、異なる発現カセット又は単一の発現カセット上の重鎖又は軽鎖によってコードされていてもよい。好ましくは、重鎖及び軽鎖が、それぞれ自身のプロモーター(2種の発現カセットにおいて同一でも異なっていてもよい)を有し、かつ重鎖及び軽鎖が所定のポリペプチドである本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットをそれぞれ有し、かつ好ましくは異なる選択可能なマーカータンパク質をそれぞれコードする別個の発現カセット上にそれぞれ存在し、従って、重鎖及び軽鎖の発現カセット両方についての選択を、発現カセットが真核宿主細胞に導入され、かつ/又は存在する場合に行うことができる。
【0061】
所定のポリペプチドは、いずれの供給源由来であってもよく、特定の実施態様において、哺乳類タンパク質、人工タンパク質(例えば融合タンパク質又は変異タンパク質)、好ましくはヒトタンパク質である。
【0062】
明らかに、本発明の発現カセットの構成を、最終的な目標が所定のポリペプチドの生産ではなく、例えば発現カセットから量を増加させたRNAを生産するためにRNA自体を生産することである際に用いてもよく、他の遺伝子の制御(例えばRNAi、アンチセンスRNA)、遺伝子治療、インビトロでのタンパク質の生産などの目的に用いてもよい。
【0063】
一態様において、本発明は、所定のポリペプチドを発現する宿主細胞を生成する方法を提供し、該方法は、複数の前駆細胞に本発明に従うDNA分子又は発現カセットを導入することと、選択条件下で生成した細胞を培養することと、所定のポリペプチドを生産する少なくとも1つの宿主細胞を選択することとを含む。この新規な方法の利点は、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレット(例えば第46〜47頁)に記載されている別の方法について説明されているものと類似している。
【0064】
比較的低いコピー数のマルチシストロニックな転写ユニットと高い発現レベルとを有するクローンを得ることができるが、それにもかかわらず、本発明の選択システムは、さらに発現レベルを向上させる増幅方法と組み合わせることができる。これは、例えば、メトトレキサートを用いる同時に組み入れたdhfr遺伝子の増幅によって、例えばdhfrを本発明のマルチシストロニックな転写ユニットと同じ核酸分子上に配置することによって、又はdhfrが別のDNA分子上にある場合には同時にトランスフェクションすることによって、達成することができる。また、dhfr遺伝子が本発明のマルチシストロニックな発現ユニットの一部であってもよい。
【0065】
また、本発明は、所定の1種又は複数のポリペプチドを生産する方法を提供し、該方法は、本発明の宿主細胞を培養することを含む。
【0066】
細胞を培養して、該細胞が代謝するか、かつ/又は成長するか、かつ/又は分裂するか、かつ/又は所定の組み換えタンパク質を生産できるようにする。これは、当業者に既知の方法によって達成することができ、特に限定されないが、栄養素を細胞に与えることが挙げられる。前記方法は、表面付着培養、懸濁培養又はその組み合わせを含む。培養は、例えばディッシュ、ローラーボトル、又はバッチ、流加培養(fed-batch)、潅流システムなどの連続システムを用いるバイオリアクターなどで行うことができる。細胞培養による組み替えタンパク質のラージスケールでの(連続)生産を達成するために、細胞が懸濁培養することが可能なようにすることが本技術分野において好ましく、細胞が、動物もしくはヒト由来の血清、又は動物もしくはヒト由来の血清成分の非存在下で培養することが可能なようにすることが好ましい。
【0067】
細胞を成長させるか、又は増殖させる条件(例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, editors (1973)参照)及び組み替え産物の発現の条件は当業者に既知である。概して、哺乳類細胞の培養物の生産性を最大にするための原理、プロトコール及び実践的技術は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach (M. Butler, ed., IRL Press, 1991) にて見出すことができる。
【0068】
好ましい実施態様において、発現したタンパク質を、細胞から又は培養培地から又はその両方から回収(分離)する。次に、既知の方法、例えばろ過、カラムクロマトグラフィーなどを用いて、当業者に一般的に既知の方法によって、さらに精製してもよい。
【0069】
本発明に従う選択方法はクロマチン制御エレメントの非存在下で効を奏するが、マルチシストロニックな発現ユニットにそのようなエレメントを与えた場合、向上した結果が得られる。本発明に従う選択方法は、少なくとも1つの抗リプレッサー配列を含む本発明に従う発現カセットを用いた場合、特に良好に効を奏する。選択薬剤及び条件に依存して、選択は、特定の場合において、抗リプレッサー配列が存在しない場合、非常に少数の宿主細胞のみ選択を切り抜けるか、又は宿主細胞が全く選択を切り抜けないという非常に厳密なものとなる。それ故に、新規な選択方法と抗リプレッサー配列とを組み合わせると、限られた数のコロニーのみ得られ、所定のポリペプチドが該コロニーにおいて高度に発現する機会が非常に向上している非常に魅力的な方法がもたらされ、同時に、抗リプレッサー配列を有する発現カセットを含む得られたクローンによって、所定のポリペプチドの安定した発現がもたらされ、すなわち、該クローンは、サイレンシング又は発現を低下させる他の機構が従来の発現カセットより少ない傾向にある。
【0070】
一態様において、本発明は、国際公開第2006/048459号パンフレットに記載の構成と比較して別の構成を有するマルチシストロニックな転写ユニットを提供し、本発明の別の構成において、所定のポリペプチドをコードする配列は、選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列の上流にあり、選択可能なマーカーポリペプチドは、キャップ非依存性翻訳開始配列、好ましくは配列内リボソーム進入部位(IRES)に機能可能なように連結されている。そのようなマルチシストロニックな転写ユニット自体既知であるが(例えばRees et al, 1996、国際公開第03/106684号パンフレット)、非ATG開始コドンと組み合わせたものではない。本発明の別の方法において、選択可能なマーカーポリペプチドの開始コドンは非ATG開始コドンに変えられて、選択可能なマーカーについての翻訳開始をさらに減少させている。したがって、このことは、選択可能なマーカーポリペプチドの望ましい発現レベルの減少をもたらし、国際公開第2006/048459号パンフレットに記載されている実施態様と同様に、高レベルの所定のポリペプチドを発現する宿主細胞を非常に効率的に選択することができるようになる。国際公開第2006/048459号パンフレットにて概説されている実施態様と比較した、本発明のこの別の態様の潜在的な利点の1つは、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列における内部のATG配列のいずれも無傷のままであることができ、該ATG配列がさらに下流のポリペプチドの翻訳にもはや関係しないので、前記選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列が内部のATG配列の更なる改変を全く必要としないことである。このことは、選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列がいくつかの内部ATG配列を含む場合、これらATG配列を変化させ、生じたコンストラクトを機能について試験する作業を本発明では行う必要がなく、すなわち、この場合、ATG開始コドンの変異のみで充分であるので、特に好都合である。本発明によって提供されるこの別の方法が、また、非常に良好な結果をもたらすことを下記(実施例1)に示す。
【0071】
本発明のDNA分子中の選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列は、好ましくは、IRESの翻訳制御下にあり、一方で、所定のタンパク質のコード配列は、好ましくはキャプ依存的な様式で翻訳される。所定のポリペプチドのコード配列は停止コドンを含み、したがって、第1のシストロンの翻訳はIRESの上流で終了し、該IRESは第2のシストロンに機能可能であるように連結されている。
【0072】
本明細書の記載を読んだ当業者にすぐに明らかとなるように、これらのマルチシストロニックな発現ユニットの大部分は、所定のポリペプチド及び選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列の逆の順序を有するマルチシストロニックな発現ユニットに関して同じ方針で好都合に変化させることができる(すなわち、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットのマルチシストロニックな転写ユニット)。例えば、選択可能なマーカーポリペプチドにとって好ましい開始コドン、発現カセットへの組み込み、宿主細胞、プロモーター、クロマチン制御エレメントの存在などを変化させ、上記のように好ましい実施態様において使用することができる。また、これらのマルチシストロニックな発現ユニット及び発現カセットの使用も上述した通りである。したがって、この態様は、実際には、組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットに記載の手段及び方法に代わるものであり、主要な違いはマルチシストロニックな発現ユニットにおけるポリペプチドの順序が逆転し、IRESが選択可能なマーカーポリペプチドの翻訳に必要であることである。
【0073】
本明細書で使用される「配列内リボソーム進入部位」又は「IRES」は、シストロン(タンパク質コード領域)の通常はATGであるが、本発明ではGTG又はTTGといった開始コドンへの直接的な配列内リボソーム進入を促進し、それによって遺伝子のキャップ非依存性の翻訳をもたらすエレメントを指す。例えば、Jackson R J, Howell M T, Kaminski A (1990) Trends Biochem Sci 15 (12): 477-83及びJackson R J及び Kaminski A. (1995) RNA 1 (10): 985-1000を参照されたい。本発明は、いずれのキャップ非依存性翻訳開始配列、特にシストロンの開始コドンへの直接的な配列内リボソーム進入を促進することができるいずれのIRESエレメントの使用も包含する。本明細書で使用する「IRESの翻訳制御下」とは、翻訳がIRESと関連し、キャップ非依存的な様式で進行することを意味する。本明細書で使用する「IRES」は、IRES配列の機能的な変化がシストロンの開始コドンへの直接的な配列内リボソーム進入を促進することができる限り、そのようなIRES配列を機能的に変化させたものを包含する。本明細書で使用する「シストロン」とは、所定のタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドのポリヌクレオチド配列もしくは遺伝子を指す。「機能可能なように連結されている」とは、記載されている構成成分が、それらの意図された様式でそれらを機能可能にする関係にある状況を指す。したがって、例えば、シストロンへ「機能可能なように連結されている」プロモーターは、シストロンの発現がプロモーターに適合する条件下で達成されるようにライゲーションされている。同様に、シストロンに機能可能なように連結されているIRESのヌクレオチド配列は、シストロンの翻訳がIRESに適合する条件下で達成されるようにライゲーションされている。
【0074】
配列内リボソーム結合部位(IRES)エレメントは、ウイルス及び哺乳類の遺伝子から既知であり(Martinez-Salas,1999)、また、小さい合成オリゴヌクレオチドの篩い分けにて同定されている(Venkatesan及びDasgupta,2001)。脳心筋炎ウイルス由来のIRESが詳細に分析されている(Mizuguchiら,2000)。IRESは、真核生物のリボソームが結合し、かつ翻訳を開始させることができる転写されたRNAにおいて構造を生じるDNAにおいてコードされているエレメントである。IRESは、2種または3種以上のタンパク質が単一のRNA分子から生産できるようにする(第1のタンパク質が、5’末端のキャップ構造においてRNAに結合するリボソームによって翻訳される(Martinez-Salas,1999))。IRESエレメントからのタンパク質の翻訳はキャップ依存性の翻訳より効率が低く、すなわち、IRES依存性のオープンリーディングフレーム(ORFs)からのタンパク質の量は、第1のORFからの量の20%〜50%より低い範囲内である(Mizuguchiら,2000)。IRES依存性翻訳の効率の減少によって、本発明のこの実施態様によって引き出される利点がもたらされる。さらに、IRESエレメントの変異によって、その活性を弱めることができ、IRES依存性ORFsからの発現を、第1のORFの10%以下に低くすることができる(Lopez de Quinto及びMartinez-Salas,1998,Reesら,1996)。したがって、IRESの機能の本質を変化させることなくIRESを変えることができ(それ故に、翻訳効率が減少したタンパク質翻訳開始部位をもたらす)、改変したIRESが得られることは当業者に明らかである。そのため、小さいパーセンテージの翻訳(5’キャップ翻訳と比較して)を依然としてもたらすことができる改変したIRESの使用も本発明に含まれる。本発明は、非ATG開始コドンを使用して、選択可能なマーカーのORFの翻訳開始をさらに著しく減少させ、それとともに、好ましい宿主細胞、すなわち高レベルの所定の組み換えタンパク質を発現する宿主細胞を得る機会をさらに向上させる。
【0075】
米国特許第5,648,267号明細書及び第5,733,779号明細書には、弱めたコンセンサスなコザック配列([Py]xxATG[Py]、[Py]はピリミジンヌクレオチド(すなわちC又はT)であり、xはヌクレオチド(すなわちG、A、T又はC)であり、ATG開始コドンを下線で示す)を有するドミナントな選択可能なマーカー配列を使用することが記載されている。米国特許第6,107,477には、最適でないコザック配列(AGATCTTTATGGACC、ATG開始コドンを下線で示す)を選択可能なマーカー遺伝子に使用することが記載されている。これらの特許文献のどれも、非ATG開始コドンを使用することについて記載しておらず、そのような示唆を与えるものではない。さらに、IRESとの組み合わせについて沈黙を貫いている。また、IRES自体、キャップ依存性翻訳と比較して、すでに翻訳開始を減少させているので、本発明の前に、選択可能なマーカーに対してIRESと非ATG開始コドンとを組み合わせることが、選択可能なマーカーポリペプチドの充分な翻訳をもたらして、その任意の選択可能なレベルが得られることを予測できたものではない。本発明は、これが事実であることを示し、驚くべきことに有効な選択システムを提供するものである。
【0076】
本発明は、また、IRES配列に機能可能なように連結した選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列を含むDNA分子を提供し、該選択可能なマーカーポリペプチドをコードするコード配列は、a)GTG開始コドン;b)TTG開始コドン;c)CTG開始コドン;d)ATT開始コドン;及びe)ACG開始コドンからなる群より選択される翻訳開始配列を含む。
【0077】
本発明の更なる改変が可能であることは当業者であれば理解し、そのような改変は、例えば米国特許出願公開第2006/0195935号明細書、特にその実施例20〜27に記載されており、該文献を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0078】
特定の実施態様において、哺乳類の5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸合成酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)を、ヒポキサンチン及びチミジンを(好ましくはグリシンも)培養培地から除き、葉酸(又は(ジヒドロ)葉酸)を培養培地に入れることによって、dhfr-の表現型を有する細胞(例えばCHO-DG44細胞)における選択マーカーとして用いることができる(Simonsenら,1988)。dhfr遺伝子は、例えばマウスゲノム又はマウスcDNAから得ることができ、好ましくはGTG又はTTG開始コドンを与えることによって、本発明に従って用いることができる(dhfr遺伝子の配列について配列番号73参照)。これらの実施態様のすべてにおいて、「培養培地から除くこと」によってとは、培養培地が、示した成分を本質的に欠いている必要があり、培養培地において細胞の増殖を持続するには不十分な示した成分が存在し、それ故に、示した酵素についての遺伝子情報が細胞において発現し、示した前駆体の成分が培地中に存在する場合、良好な選択が可能であることを意味する。例えば、示した成分が、特定の細胞のタイプのための培地に通常用いられる該成分の濃度の0.1%以下の濃度で存在する。好ましくは、示した成分は培地中に存在していない。示した成分を欠く培養培地は、当業者によって標準的な方法に従って用意することができるか、又は商業上の供給業者から入手可能である。これらのタイプの代謝酵素を選択可能なマーカーポリペプチドとして使用する潜在的な利点は、それらを、連続した選択の下でマルチシストロニックな転写ユニットを維持し、所定のポリペプチドのより高い発現をもたらすのに用いることができることである。
【0079】
別の態様において、本発明は、dhfr代謝選択マーカーを、本発明に従うマルチシストロニックな転写ユニットにおける更なる選択マーカーとして用いる。そのような実施態様において、高発現を有する宿主細胞のクローンの選択は、まず、例えば抗生物質の選択マーカー、例えばゼオシン、ネオマイシンなどを用いることによって確立され、該選択マーカーのコード配列は、本発明にしたがって、GTG又はTTG開始コドンを有する。適したクローンの選択後、抗生物質の選択を停止し、代謝酵素の選択マーカーを用いる連続的な又は断続的な選択を、上述した適切な特定成分を欠き、かつ上述した適切な前駆体の成分を含む培地中で細胞を培養することによって行うことができる。この態様において、代謝選択マーカーはIRESに機能可能なように連結され、その通常のATG内容物を有することができ、開始コドンは適切にはGTG又はTTGから選択することができる。この態様におけるマルチシストロニックな転写ユニットは少なくともトリシストロニックなものである。
【0080】
本発明の実施は、別段の定めがない限り、本技術分野における技術の範囲内である、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学及び組み替えDNAの従来の技術を用いる。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Mannual, 2nd edition, 1989; Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel FM, et al, eds, 1987; the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); PCR2: A Practical Approach, MacPherson MJ, Hams BD, Taylor GR, eds, 1995; Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane, eds, 1988を参照されたい。
【0081】
本発明をさらに以下の実施例にて説明する。実施例は本発明を何ら制限するものではなく、本発明を単に明確にするためのものに過ぎない。
【実施例】
【0082】
実施例1では、本発明のマルチシストロニックな転写ユニットを用いる選択システムについて説明し、参照により本明細書に組み込む国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例8〜26に記載のバリエーションも、本願のマルチシストロニックな転写ユニットに適用でき、試験することができることは明らかである。同様のことが、米国特許出願公開第2006/0195935号明細書の実施例20〜27に適用できる。
【0083】
国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例8〜26(その内容のすべてを参照により本明細書に組み込む)は、選択可能なマーカータンパク質をコードする配列が、マルチシストロニックな転写ユニットにおいて所定のタンパク質をコードする配列の上流にある場合の選択システムを示し、該選択システムにおいて、選択可能なマーカーの翻訳開始配列は最適ではなく、更なる内部のATGが選択可能なマーカーのコード配列から除去されている。このシステムは、厳密性が高い選択システムをもたらす。例えば、翻訳開始コドンがTTGに変えられているZeo選択マーカーが、非常に高い選択厳密性をもたらし、下流にコードされている所定のタンパク質の非常に高レベルの発現がもたらされることが示された。
【0084】
別の可能な選択システム(すなわち、本発明のシステム)において、選択マーカー、例えばZeoをIRES配列より下流に配置する。これによって、Zeo遺伝子の産物がIRES依存性の開始によって翻訳されるマルチシストロニックなmRNAが生じる。通常のd2EGFP-IRES-Zeoコンストラクト(すなわち、先行技術のコンストラクト、例えば国際公開第2006/005718号パンフレット)において、Zeoの開始コドンは最適なATGである。ZeoのATG開始コドンを例えばTTGに変えることによって(IRES-TTG Zeoと称す)通常のIRES-ATG Zeoと比べて選択の厳密性が増加するかどうか試験した。
【0085】
(結果)
使用したコンストラクトを図1に概略して示す。制御コンストラクトは、CMVプロモーター、d2EGFP遺伝子、IRES配列(本実施例において使用したIRESの配列(Reesら,1996)は:GCCCCTCTCCCTCCCCCCCCCCTAACGTTACTGGCCGAAGCCGCTTGGAATAAGGCCGGTGTGCGTTTGTCTATATGTGATTTTCCACCATATTGCCGTCTTTTGGCAATGTGAGGGCCCGGAAACCTGGCCCTGTCTTCTTGACGAGCATTCCTAGGGGTCTTTCCCCTCTCGCCAAAGGAATGCAAGGTCTGTTGAATGTCGTGAAGGAAGCAGTTCCTCTGGAAGCTTCTTGAAGACAAACAACGTCTGTAGCGACCCTTTGCAGGCAGCGGAACCCCCCACCTGGCGACAGGTGCCTCTGCGGCCAAAAGCCACGTGTATAAGATACACCTGCAAAGGCGGCACAACCCCAGTGCCACGTTGTGAGTTGGATAGTTGTGGAAAGAGTCAAATGGCTCTCCTCAAGCGTATTCAACAAGGGGCTGAAGGATGCCCAGAAGGTACCCCATTGTATGGGATCTGATCTGGGGCCTCGGTGCACATGCTTTACATGTGTTTAGTCGAGGTTAAAAAAACGTCTAGGCCCCCCGAACCACGGGGACGTGGTTTTCCTTTGAAAAACACGATGATAAGCTTGCCACAACCCCGGGATA;配列番号82である)、及びTTG Zeo選択マーカー、すなわちTTG開始コドンを有するゼオシン耐性遺伝子からなる(「d2EGFP-IRES-TTG Zeo」)。他のコンストラクトは同様であるが、発現カセットの上流にSTAR7及びSTAR67を組み合わせたものを配置し、カセットの下流にSTAR7を配置した(「STAR7/67 d2EGFP-IRES-TTG Zeo STAR7」)。両コンストラクトをCHO-K1細胞にトランスフェクトし、培地中100μg/mlのゼオシンで選択を行った。制御コンストラクトでトランスフェクションした後、4つのコロニーが現れ、STAR含有コンストラクトでは6つのコロニーが現れた。これらの独立したコロニーを分離し、d2EGFPの発現レベルの分析前に増殖させた。図1に示すように、コンストラクトにおけるSTARエレメントの組み込みによって、d2EGFPの高い発現レベルを有するコロニーが形成された。STARエレメントがないコントロールのコロニー(「d2EGFP-IRES-TTG Zeo」)のうち1つのコロニーのみ、いくらかのd2EGFPの発現を示した。また、発現レベルは、STARエレメントを有するか又は有さない、標準のATG開始コドンを有する、通常のZeoとともにIRESを含有する他の制御コンストラクト(「d2EGFP-IRES-ATG Zeo」及び「STAR 7/67 d2EGFP-IRES-ATG Zeo STAR7」;これらのATG Zeoコンストラクトにおいても、STARエレメントの増大効果があるが、これらは、新規のTTG Zeoバリアントと比較して小幅である」)で得られたものより、はるかに高い。
【0086】
これらの結果は、STARエレメントを組み合わせてIRES配列の下流にTTG開始コドンを有するZeo選択マーカーを配置すると、良好に機能し、厳密な選択システムを確立することを示す。
【0087】
これらのデータ及び国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例8〜26及び米国特許出願公開第2006/0195935号明細書の実施例20〜27から、マーカーを、国際公開第2006/048459号パンフレットの実施例8〜26及び米国特許出願公開第2006/0195935号明細書の実施例20〜27と同じ方針で変化させることができることは明らかである。例えば、TTG開始コドンの代わりに、GTG開始コドンを用いることができ、マーカーをZeoから、すべてGTG又はTTGを開始コドンとして有する異なるマーカー、例えばNeo、Blas、dhfr、puroなどに変えることができる。STARエレメントを、異なるSTAR配列又はその異なる配置を用いることによって、又はそれらを他のクロマチン制御エレメント、例えばMAR配列の代わりに用いることによって変化させることができる。このことによって、通常のATG開始コドンを有するマーカーと共にIRESを有する先行技術の選択システムを越える改善がもたらされる。
【0088】
限定されない例として、改変したZeo耐性遺伝子(TTG Zeo)の代わりに、改変したネオマイシン耐性遺伝子をIRES配列の下流に配置する。改変は、Neoコード配列のATG翻訳開始コドンをTTG翻訳開始コドンで置換し、TTG Neoを生じることからなる。STARエレメントで囲まれているか、又は囲まれていないCMV-d2EGFP-IRES-TTG NeoコンストラクトをCHO-K1細胞にトランスフェクトする。コロニーを採取し、細胞を増殖させ、d2EGFP値を測定する。これ(「IRES-TTG Neo」)によって、IRESの下流にATG開始コドンを有するNeoを有する既知の選択システム(「IRES-ATG Neo」)を越える改善がもたらされる。TTG NeoコンストラクトがSTARエレメントを含む場合、特に改善が明らかである。
【0089】
実施例2:改変したdhfr遺伝子をIRES配列の後に配置することによる発現の安定性
【0090】
ゼオシン選択マーカーの翻訳開始コドンを通常のATGコドンよりはるかに低い頻度で用いられる翻訳開始コドンに改変すると、厳密性が高い選択システムがもたらされる。国際公開第2006/048459号パンフレット記載の選択システムにおいて、TTG Zeoは所定の遺伝子の上流に配置されている。別の可能な選択システムにおいて、Zeo選択マーカーはIRES配列の下流に配置されている(本願の実施例1参照)。これは、Zeo遺伝子産物がIRES配列中の翻訳開始コドンから翻訳されるバイシストロニックなmRNAを生じる。
【0091】
本実験において、これらの2つのシステムの実施態様を組み合わせた。レポーター遺伝子の上流にTTG選択マーカーを配置し、GTG又はTTGで改変した代謝マーカーをIRESを用いてレポーター遺伝子に連結した。ゼオシン及びネオマイシンの耐性遺伝子に加えてdhfr遺伝子などの異なる選択マーカー遺伝子を用いることができる。ここでは、改変したゼオシン耐性遺伝子であるTTG Zeo(国際公開第2006/048459号パンフレット参照)を所定の遺伝子の上流に配置し、dhfr選択遺伝子を所定の遺伝子の下流に配置し、IRESによって連結した(図2)。本発現カセットの目的は、高レベルのタンパク質を生産する哺乳類細胞のクローンを、最初にゼオシンでの選択によって選択することである。TTG Zeo-所定の遺伝子の構成は最も効率良く本目的を達成する。この最初の選択段階の後、dhfrタンパク質の特性を用いて、ゼオシン抗生物質の非存在下での高い発現レベルの維持を達成する。
【0092】
積極的な選択の圧力は、TTG Zeoで選択されたコロニーにおいて、長期にわたって同じ高レベルでタンパク質の発現レベルを維持するのに有益であると思われる。これは、例えば、培地においてゼオシンの最低限の量を維持することによって達成することができるが、このことは、経済上の及び潜在的には規制の目的における産業上の設定において好まれない(ゼオシンは毒性があり、かつ高価である)。
【0093】
別のアプローチは、所定の遺伝子を、代謝経路において1種又は複数の必須のステップを代謝する酵素である選択マーカーに連結させることである。必須であるということは、細胞が、それ自体特定の必須の代謝の構成単位を合成することができないことを意味し、細胞を生存させるために、これらの構成単位が培養培地中に存在する必要があることを意味する。周知の例は、哺乳類細胞によって合成することができず、細胞を生存させるために培地中に存在する必要がある必須アミノ酸である。別の例は、5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸を合成するdhfr遺伝子に関連する。対応するdhfrタンパク質は葉酸経路中の酵素である。dhfrタンパク質は、葉酸を5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸に特異的に転換し、メチル基の往復(shuttle)が、プリン(ヒポキサンチン)、チミジル酸(チミジン)及びアミノ酸のグリシンのデノボ(de novo)合成に必要とされる。機能するために、毒性のない物質である葉酸が培地中に存在する必要がある(Urlaubら,1980)。さらに、培地は、ヒポキサンチン及びチミジンが細胞のために利用可能である場合、dhfr酵素の必要性が無視されるので、これらを欠く必要がある。CHO-DG44細胞は、dhfr遺伝子を欠き、それ故に、これらの細胞は、培地中のグリシン、ヒポキサンチン及びチミジンを生存するために必要とする。しかしながら、最終産物のグリシン、ヒポキサンチン及びチミジンが培地から除かれ、葉酸が存在する場合、細胞内の発現カセット上にdhfr遺伝子が存在するので該遺伝子が提供され、細胞が、葉酸を5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸に転換することができ、したがって、この培地中で生存できる。この原理を、長年、選択方法として使用して、安定的にトランスフェクトした哺乳類細胞株を作り出す。
【0094】
ここでは、この原理を、安定したクローンを最初に選択するのではなく(これはゼオシンによって行う)、代謝の選択の圧力下で細胞を維持するために用いる。利点は、最初の非常に高いタンパク質の発現を、TTG Zeo選択システムによって達成することができ、これらの高い発現レベルを、ゼオシンを培地中で保持する必要なく維持できることである。その代わりに、ゼオシンを培地から除くことができ、グリシン、ヒポキサンチン、チミジン(GHT)又はヒポキサンチン及びチミジン(HT)のみを培地から欠如させることが、高いタンパク質レベルを保証するほど充分に高い選択圧力を維持するのに充分である。そのような構成は、2つの選択マーカーの存在を必要とし、発現カセット上にゼオシン耐性遺伝子とdhfr遺伝子の両方が存在する必要がある。上記で概要を説明したように、これは、トリシストロニックなmRNAが単独のプロモーターから転写されるような構成で両方の遺伝子が所定の遺伝子とともに存在する場合、効率的に達成される。改変したゼオシン耐性遺伝子(TTG Neo)をd2EGFPの上流にて使用する場合、dhfr遺伝子は、例えばIRES配列を介して、下流でd2EGFP遺伝子に連結される必要がある(図1)。
【0095】
(結果)
TTG Zeo選択マーカーがd2EGFPレポーター遺伝子の上流に配置され、dhfr選択マーカーがd2EGFP遺伝子の下流に配置され、IRES配列によって連結されているコンストラクトを作製した(図2)。これらのコンストラクトは、STARs 7/67/7によって挟まれている。これらのコンストラクトの3つのバージョン:ATG dhfr、GTG dhfr又はTTG dhfr(各々の名前はdhfr遺伝子に使用した開始コドンを示す)を作製した。コンストラクトをCHO-DG44細胞にトランスフェクトした。DNAを、リポフェクタミン 2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクトし、細胞を、IMDM培地(Gibco)+10%FBS(Gibco)+HT-補充において400μg/mlのゼオシンの存在下で増殖させた。
【0096】
14個のTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は、400μg/mlのゼオシンの存在下で測定した際、341であった(1日目)(図2)。これらの測定後、細胞を分離し、さらに以下の3つの条件:
(1)培地中、400μg/mlのゼオシンあり、ヒポキサンチン及びチミジンあり(HT-補充)
(2)培地中、ゼオシンなし、HT補充あり、
(3)ゼオシンなし、HT補充なし
の下で培養した。
【0097】
要約すれば、条件1では、細胞はゼオシンの選択の圧力のみの下にあり、条件2では、細胞はまったく選択の圧力の下になく、条件3では、細胞は依然としてDHFRの選択の圧力の下にある。後の条件3は、結果としてdhfrタンパク質の発現と細胞の生存を可能にするために、dhfr遺伝子の連続した発現を必要とする。
【0098】
65日後、d2EGFP値を再び測定した。ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は159であった(図2)。ゼオシンがなく、HT補充があるTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は20であった(図2)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は37であった(図2)。概して、d2EGFP値の降下が見られたが、ゼオシンがないときが最も深刻であり、HT補充があるか否かは関係なかった。
【0099】
TTG Zeo IRES GTG dhfrコンストラクトを用いて同じプロトコールに従った。15個のTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンのd2EGFPの平均値は、400μg/mlのゼオシンの存在下で測定した際、455であった(1日目)(図3)。これらの測定後、細胞を分離し、上記の3つの条件下でさらに培養した。65日後、再びd2EGFP値を測定した。ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は356であった(図3)。ゼオシン選択がなく、HT補充があるTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は39であった(図3)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は705であった(図3)。
【0100】
このケースにおいて、ゼオシンがなく、HT補充があるとき(条件2)のみd2EGFPの降下が見られた。ゼオシンがなく、HT補充もないときに、d2EGFP値は実際には著しく高くなった(条件3)。これは、dhfrタンパク質の発現レベルが、GTG dhfrのmRNAの翻訳頻度が減じたために、非常に高い選択厳密性をもたらすのに充分に低いことを示す可能性がある。いずれの毒性物質がないこの選択圧力は、長期にわたって高いタンパク質の発現レベルを維持するほど充分に高く、長期にわたってこの発現レベルを明確に向上させる。
【0101】
TTG Zeo IRES TTG dhfrコンストラクトについても同様に行った。18個のTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンのd2EGFPの平均値は、400μg/mlのゼオシンの存在下で測定した際、531であった(1日目)(図4)。これらの測定後、細胞を分離し、上記の3つの条件下でさらに培養した。65日後、再びd2EGFP値を測定した。ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は324であった(図4)。ゼオシン選択がなく、HT補充があるTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は33であった(図4)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンにおけるd2EGFPの平均値は1124であった(図3)。
【0102】
再び、ゼオシンがなく、HT補充があるとき(条件2)のみd2EGFPの降下が見られた。ゼオシンがなく、HT補充がないとき、d2EGFP値は、TTG Zeo IRES GTG dhfrコンストラクトによるものよりさらに高くなった(条件3)。TTGバリアントはGTGバリアントより厳密であり、GTG dhfrバリアントによるものより、さらに少ないdhfrタンパク質が、TTG dhfrによって翻訳されていることが予測される。毒性物質が全くない選択圧力のTTG dhfrバリアントによる増加は、長期にわたって高いタンパク質の発現レベルを維持するほど充分に高く、また、長期にわたってタンパク質の発現レベルを明確にさらに向上させる。
【0103】
データは、dhfr遺伝子の非ATG開始コドンのバリアントをIRESを介してd2EGFPに連結させると、CHO-DG44細胞におけるd2EGFPの高発現の高度な安定性が可能になることを示す。これは、ゼオシンがなく、必須の代謝最終産物がない培地で起こる。改変したTTG Zeo選択マーカーによるゼオシンでの事前の選択によって、d2EGFPの発現レベルが高いコロニーが効率良く構築される。d2EGFPの高い発現レベルを維持し、この発現レベルを向上させるのに、単に培地の簡単な変化(ゼオシン及びHTの除去)のみ必要とされる。
【0104】
実施例3:改変したdhfr遺伝子を弱体化したIRES配列の後に配置することによって発現を増加させることは、遺伝子が増幅する結果とはならない
先行技術におけるdhfr遺伝子の選択マーカーとしての使用は、多くの場合、dhfr遺伝子の増幅に依存する。毒性物質であるメトトレキサートをそのようなシステムに用いて、dhfr遺伝子を増幅させ、それとともに、付随して、望ましい導入遺伝子を増幅させ、該導入遺伝子の最大で何千ものコピーが、そのような増幅の後、CHO細胞のゲノムに組み込まれているのを見ることができる。これらの高いコピー数によって、高い発現レベルがもたらされるが、それらは、非常に多くのコピーがゲノムの不安定性の増加を引き起こし、さらに、培地からのメトトレキサートの除去によって増幅した遺伝子座の多くが急速に除去されるようになるので、不利益であるとも考えられている。
【0105】
実施例2において、メトトレキサートを全く用いずに、dhfr酵素活性を阻害した。ヒポキサンチン及びチミジンの前駆体のみ培地から除去し、これは、タンパク質発現の安定性と増加した発現レベルの両方を達成するのに充分であった。したがって、我々の設定におけるdhfr酵素の使用が遺伝子増幅を生じさせるかどうか決定した。
【0106】
(結果)
d2EGFP値を測定した同じ日(65)において、実施例2に記載したクローンからDNAを単離した。このDNAを用いて、d2EGFPのコピー数を決定した。
【0107】
ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は86であった(条件1)(図5)。ゼオシン選択がなく、HT補充があるTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は53であった(条件2)(図5)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES ATG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は59であった(条件3)(図5)。
【0108】
ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は23であった(条件1)(図6)。ゼオシン選択がなく、HT補充があるTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は14であった(条件2)(図6)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES GTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は37であった(条件3)(図6)。
【0109】
ゼオシン選択下でのTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は33であった(条件1)(図7)。ゼオシン選択がなく、HT補充があるTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は26であった(条件2)(図7)。ゼオシン選択がなく、HT補充がないTTG Zeo IRES TTG dhfrクローンのd2EGFPの平均コピー数は32であった(条件3)(図7)。
【0110】
いずれのケースでも、GTG dhfr及びTTG dhfrのバリアントの場合にd2EGFP値の増加を結果としてもたらすHT補充の除去後にd2EGFPのコピー数の強い増加が見られなかった。両方のコンストラクトによって、d2EGFP値が長期にわたって安定したままであり、著しく増加することは、dhfrタンパク質の作用によるものでなければならない。それでも、d2EGFPのコピー数の増加が、TTG Zeo TTG dhfrクローンにおいて全く見られず、TTG Zeo GTG dhfrクローンにおいて小幅な増加のみ見られた。興味深いことに、最も低い生産者であるTTG Zeo ATG dhfrクローンにおける全体のd2EGFPのコピー数が、他の2つのバリアントにおけるものより高く、これらのクローンが最初の高いd2EGFPの蛍光値を維持しなかった(実施例2参照)。これらのデータから、メトトレキサートの添加と組み合わせてdhfrタンパク質を用いた場合に見られる、広く知られている遺伝子増幅が、d2EGFPの発現レベルを長期にわたって安定した状態に保つことを担うものではなく、かつこの発現レベルにおいて見られた増加を担うものではないと結論づけられる。その代わりに、d2EGFP遺伝子のコピー当たり、より多くのd2EGFPタンパク質がGTG及びTTG dhfrバリアントによって発現すると思われる。
【0111】
異なるクローンについて、上記と異なる条件下で、d2EGFPのmRNAレベルをさらに分析し、これらのmRNAレベルが、d2EGFPの蛍光値の傾向にほぼ従うことが見られた。したがって、d2EGFPの蛍光値の増加は、mRNAレベルの増加させたことによるものであり、翻訳効率を変化させたことによるものではないと結論づけられる。
【0112】
(参考文献)
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【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、本発明に従う発現コンストラクトによる結果を示す。発現コンストラクトは、本発明に従う選択可能なマーカーをコードする配列(ここでは、TTG開始コドンを有する(又はコントロールにおいてその通常のATG開始コドンを有する(ATG Zeo))ゼオシン耐性遺伝子(TTG Zeo)で例示)の上流にある所定のポリペプチド(ここでは、d2EGFPで例示)をコードする配列をIRESの上流に含む。詳細について実施例1を参照。ドットは、個々のデータの点を示し、線は、発現レベルの平均を示し、使用したコンストラクトを水平軸上に示し、グラフの上に表し、垂直軸はd2EGFPのシグナルを示す。
【図2】図2は、dhfrを維持マーカーとして有するトリシストロニックな発現カセットによる結果を示す。発現コンストラクトは、TTG開始コドンを有し、内部のATG配列を欠くゼオシン選択可能なマーカー遺伝子を、下流の代謝選択マーカーdhfr遺伝子(ATG開始コドンを有する)にIRESを介して機能可能なようにさらに連結されている所定のポリペプチド(ここでは、d2EGFPで例示)をコードする配列の上流に含む。ドットは、個々のデータの点(垂直軸上のZeoRコロニーにおけるGFPの蛍光シグナル)を示し、線は、発現レベルの平均を示す。使用したコンストラクトをグラフの上に示し、条件を水平軸上に示す(d:日)。詳細については実施例2参照。
【図3】図3は、図2と同様であるが、GTG開始コドンを有するdhfr遺伝子を用いた結果を示す。
【図4】図4は、図2と同様であるが、TTG開始コドンを有するdhfr遺伝子を用いた結果を示す。
【図5】図5は、異なる条件下でのdhfr酵素(ATG開始コドン)を有するクローンにおけるコピー数を示す。詳細については実施例3参照。
【図6】図6は、図5と同様であるが、GTG開始コドンを有するdhfr遺伝子を用いたコピー数を示す。
【図7】図7は、図5と同様であるが、TTG開始コドンを有するdhfr遺伝子を用いたコピー数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)所定のポリペプチドと、
ii)真核宿主細胞において機能する選択可能なマーカーポリペプチドとの両方をコードするマルチシストロニックな転写ユニットを含み、
前記所定のポリペプチドが前記選択可能なマーカーポリペプチドとは別に翻訳開始配列を有し、
前記所定のポリペプチドのコード配列の少なくとも1つが、前記マルチシストロニックな転写ユニットにおいて前記選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列の少なくとも1つから上流にあり、
配列内リボソーム進入部位(IRES)が、前記所定のポリペプチドのコード配列の少なくとも1つから下流に、かつ前記選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列の少なくとも1つから上流に存在するDNA分子であって、
前記選択可能なマーカーポリペプチドをコードするコード配列が、
a)GTG開始コドン、
b)TTG開始コドン、
c)CTG開始コドン、
d)ATT開始コドン、及び
e)ACG開始コドン
からなる群より選択される翻訳開始配列を含むことを特徴とする、DNA分子。
【請求項2】
前記選択可能なマーカーポリペプチドの翻訳開始配列がGTG開始コドン又はTTG開始コドンを含む請求項1記載のDNA分子。
【請求項3】
前記選択可能なマーカーポリペプチドが、選択薬剤の致死又は成長阻害効果に対する耐性を与える請求項1又は2記載のDNA分子。
【請求項4】
前記選択薬剤が、ゼオシン、ピューロマイシン、ブラストサイジン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキサート、メチオニンスルホキシミン及びカナマイシンからなる群より選択される請求項3記載のDNA分子。
【請求項5】
前記選択薬剤がゼオシンである請求項3記載のDNA分子。
【請求項6】
前記選択可能なマーカーポリペプチドが5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸合成酵素(dhfr)である請求項1又は2記載のDNA分子。
【請求項7】
前記マルチシストロニックな転写ユニットが、さらに、真核細胞において機能する第2の選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列を含み、前記第2の選択可能なマーカーポリペプチドをコードする配列が、
a)所定のポリペプチドのものとは別の翻訳開始配列を有し、
b)所定のポリペプチドをコードする前記配列の上流に位置し、
c)前記第2の選択可能なマーカーポリペプチドの開始コドンの後、所定のポリペプチドの開始コドンまでのコード鎖においてATG配列を有さず、
d)GTG開始コドン又はTTG開始コドンを有する
請求項1〜6のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のDNA分子を含む発現カセットであって、前記発現カセットが前記マルチシストロニックな転写ユニットの上流にプロモーターを、前記マルチシストロニックな転写ユニットの下流に転写終結配列を含み、前記発現カセットが、前記マルチシストロニックな転写ユニットの翻訳を開始させるために真核宿主細胞において機能する、発現カセット。
【請求項9】
さらに、マトリックス又は足場付着領域(MAR/SAR)、インスレーター配列、遍在性クロマチンオープニングエレメント(ubiquitous chromatin opener element、UCOE)、及び抗リプレッサー(STAR)配列からなる群より選択されるクロマチン制御エレメントを少なくとも1つ含む請求項8記載の発現カセット。
【請求項10】
前記少なくとも1つのクロマチン制御エレメントが、
a)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つ、
b)配列番号1〜配列番号66のいずれか1つの断片であって、抗リプレッサー活性を有する断片、
c)a)又はb)とヌクレオチド配列において少なくとも70%同一である配列であって、抗リプレッサー活性を有する配列、並びに
d)a)〜c)のいずれか1つとの相補体
からなる群より選択される抗リプレッサー配列である請求項9記載の発現カセット。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のDNA分子又は請求項8〜10のいずれか1項に記載の発現カセットを含み、好ましくは哺乳類細胞であり、好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である宿主細胞。
【請求項12】
所定のポリペプチドを発現することが可能な宿主細胞を生成する方法であって、
a)請求項1〜7のいずれか1項に記載のDNA分子又は請求項8〜10のいずれか1項に記載の発現カセットを複数の前駆細胞に導入するステップと、
b)選択可能なマーカーポリペプチドの発現に適した条件下で複数の前駆細胞を培養するステップと、
c)所定のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を選択するステップ
とを含む前記宿主細胞を生成する方法。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の発現カセットを含む宿主細胞を培養することと、前記発現カセットから所定のポリペプチドを発現させることとを含む、所定のポリペプチドを発現させる方法。
【請求項14】
さらに、所定のポリペプチドを回収することを含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞が、dhfr-表現型を有するCHO細胞であり、前記発現カセットが、5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸合成酵素(dhfr)である選択可能なマーカーポリペプチドのコード配列を含み、前記細胞を、葉酸を含む培地で培養し、該培地がヒポキサンチン及びチミジンを本質的に欠く請求項13又は14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−527240(P2009−527240A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555793(P2008−555793)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051696
【国際公開番号】WO2007/096399
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507006282)
【Fターム(参考)】