説明

高分子化合物およびその合成方法

【課題】機械強度(曲げ強度)の優れた新規高分子化合物を提供する。
【解決手段】下記式(2)である単位を有する高分子化合物。


(式(2)中、Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていなくてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを示し、nは重合度185以上600以下である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規高分子化合物およびその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、枯渇資源使用の抑制という観点から再生可能資源(バイオマス)の利用技術が注目を浴びている。プラスチックにおいては、ポリ乳酸が植物を原料としたプラスチック(以下植物由来プラスチックと表記する。)として注目されている。原料である乳酸は、とうもろこしやさつまいも等のでん粉を発酵させることで得られる。しかし、ポリ乳酸は、従来のプラスチックに比べ、機械強度、耐熱性が劣る場合が多く、その用途は包装材や食器等に限られていた。
【0003】
特許文献1の発明は、生分解性、機械的強度、熱安定性、さらに透明性に優れるというポリ乳酸の特徴を維持しつつ、ポリ乳酸の脆さが改善されたポリ乳酸系樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的としている。また、特許文献1の発明の更なる目的は、このポリ乳酸系樹脂組成物からなる包装材料や各種成形品を提供することにあるとしている。
【0004】
また非特許文献1や特許文献2には以下の骨格構造が実質記載されている。
【0005】
【化1】

【0006】
このうち非特許文献1は、2,5−フランジカルボン酸とα,ω−グリコールとの重縮合に関するものである。この非特許文献1には、α,ω−グリコールのメチレン鎖の数が生成した高分子化合物の融点に及ぼす影響を調査するため、α,ω−グリコールのメチレン鎖の数を変更して重縮合を行ったことが記載されている。また特許文献2には、複素環を高分子化合物の骨格に含んだポリエステルを合成するための実験条件と、高分子化合物の収率が記載されている。
【特許文献1】特開平11−140292号公報
【特許文献2】米国特許公報第2251731号
【非特許文献1】Y. Hachihama, T.Shono, and K. Hyono, Technol. Repts. Osaka Univ., 8, 475 (1958)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に示した骨格構造は特許文献2及び非特許文献1に記載はあるものの、これらの文献にはそのユニット数の記載が無い。更に、このような骨格構造が示されているものの、例えば非特許文献1に記載の(例えばP479のFig.1参照)物性は融点のみであり、機械強度は明らかになっておらず、この骨格構造の高分子化合物が電気・電子部品等の用途に使用できるか不明であった。
【0008】
そこで、我々が上記に示した骨格構造の高分子化合物を、重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)を規定しながら合成し、機械強度を検討した結果、電気・電子部品等の用途に使用できる高分子化合物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、
下記式(2)である単位を有することを特徴とする高分子化合物を提供する。
【0010】
【化2】

【0011】
(式(2)中、Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを示し、nは重合度で185以上600以下である。)
【0012】
また本発明は、前記高分子化合物と添加剤とから構成される成形品用組成物を提供する。
また本発明は、
下記式(1)
【0013】
【化3】

【0014】
(式(1)中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子のいずれかを表す。)
で表されるフランジカルボン酸化合物と、
下記式(3)
B−(OH)m (3)
(Bは、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを表し、mは2以上である。)で表わされる多価アルコールと、を反応させることにより下記(2)式
【0015】
【化4】

【0016】
(Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを表し、nは2以上である。)
で表される単位を有する高分子化合物を合成することを特徴とする高分子化合物の合成方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高分子化合物は、重合度(繰返しユニット数)が数値規定されており、成形性と機械強度(曲げ強度)に優れた高分子化合物である。またこのような高分子化合物は添加剤を含有した熱可塑性樹脂としても提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、下記式(2)である単位を有することを特徴とする高分子化合物である。
【0019】
【化5】

【0020】
式(2)中、Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを示し、nは重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)で185以上600以下である。
【0021】
nが185より小さい場合、曲げ強度が弱く、電気・電子部品の用途への使用が難しい。nが600より大きい場合、粘性が高すぎて成形性に乏しい。nが185以上600以下であると曲げ強度が、汎用プラスチックであるハイインパクトポリスチレン(PSジャパン株式会社、グレード名433)の曲げ強度である34MPaを超えるため機械強度が良好であるということが出来る。
【0022】
本発明に係る高分子化合物は、式(2)で示される単位が1種でもよく、また、Aが異なる2種以上の単位が含まれた共重合体であってもよい。前者はホモポリマーと呼ぶことができ、後者はコポリマーと呼ぶことが出来る。あるいは本発明に係る高分子化合物は、別のモノマーユニットとのコポリマーであってもよい。
【0023】
生物由来の原料から本発明の高分子化合物を得る場合、本発明に係る高分子化合物はホモポリマーとなる可能性が高い。
【0024】
式(2)のAにおける芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ビフェニル環及びビス(フェニル)アルカンの他、ナフタレン環、インデン環、アントラセン環、フェナントレン環等の縮合環が挙げられる。ビス(フェニル)アルカンのアルカン部分としては、炭素数1〜3のアルカンが好ましく、より好ましいビス(フェニル)アルカンとしては、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2'−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。一方、複素環としては、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール等の五員環;ピラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の六員環;インドール、カルバゾール、クマリン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ベンゾチアゾール、キノリキサン、プリン等の縮合環等が挙げられる。
【0025】
式(2)のAにおける脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基等が上げられる。より好ましい脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基などの炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を挙げることができる。
【0026】
式(2)のAにおける脂環式炭化水素基としては、シクロアルキレン基、シクロアルケニル基から得られる2価の基等を挙げることができる。シクロアルキレン基としては、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基などが挙げられる。また、シクロアルケニル基としてはシクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基およびシクロオクテニル基などが挙げられる。
【0027】
これらの芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基は、置換されていてもよい。この置換基としては、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む各種のもの、例えば脂肪族オキシ基、芳香族オキシ基、シロキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、シリル基、ハロゲノ基等が挙げられる。脂肪族オキシ基の脂肪族基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシルメチル基、トリメチルシロキシヘキシル基、クロロエチル基、メトキシブチル基、ジメチルアミノメチル基、ブテニル基、オクテニル基等を挙げることができる。芳香族オキシ基としては、フェノキシ基等が挙げられる。
【0028】
次に本発明の高分子化合物の合成について説明する。
【0029】
式(2)の単位を有する高分子化合物は、式(1)で示されるフランジカルボン酸化合物(フランジカルボン酸、及びXがアルコキシ基またはハロゲン原子である誘導体を含む)と、式(3)で示される多価アルコールとを反応させることにより得ることができる。これらの高分子化合物の原料となるフランジカルボン酸、フランジカルボン酸化合物及び多価アルコールの少なくとも1種は、バイオマスから製造されたものであってもよい。
【0030】
【化6】

【0031】
(式(1)中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)
フランジカルボン酸としては、2,5−フランジカルボン酸、2,4−フランジカルボン酸及び3,4−フランジカルボン酸を挙げることができる。また、式(1)におけるアルコキシ基としては、メトキシ基及びエトキシ基が好ましい。さらに、式(1)で表わされるフランジカルボン酸化合物は、セルロースやグルコース、フルクトースなどのいわゆる植物原料(バイオマス)から公知の方法で製造することができる。
【0032】
B−(OH)m (3)
式(3)中のBは、は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基を表し、mは2以上である。
【0033】
反応経路は一般式で以下のとおりである。
【0034】
【化7】

【0035】
即ち本発明に係る高分子化合物は反応経路から縮合物と呼ぶことが出来る。
【0036】
なお、式(3)のBにおける芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環やビフェニル環等の前記式(2)のAに関して示した各種芳香族を挙げることができる。また、この芳香族環は、各種の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、アルキル基やアルケニル基等の炭化水素基の他、前記式(2)のAに関して示した各種の置換基が挙げられる。
【0037】
式(3)のBにおける脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基等の炭化水素基など前記式(2)のAにおける脂肪族炭化水素基に関して示した各種の置換基が挙げられる。好ましい脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基などの炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を挙げることができる。
【0038】
式(3)のBにおける脂環式炭化水素基としては、シクロアルキレン基、シクロアルケニル基等の前記式(2)のAに関して示した脂環式炭化水素基を挙げることができる。これらの芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基は、置換されていてもよい。この置換基としては前記式(2)のAに関して示した各種の置換基が挙げることができる。
【0039】
式(3)におけるmは、2であることが好ましい。
【0040】
式(3)の具体例としては、脂肪族または脂環族ジオール、ジヒドロキシベンゼン、ビスフェノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスロース、ソルビトール、糖類を挙げることができる。また、ジオール類の分子間脱水から得られるエーテルジオール、さらにヒドロキシ安息香酸等のオキシカルボン酸を例示することができる。
【0041】
脂肪族または脂環族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等がある。またジヒドロキシベンゼンとしてはたとえば1,3−ジヒドロキシベンゼンや1,4ジヒドロキシベンゼン等がある。
【0042】
またビスフェノールとしては、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2'−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン等がある。
【0043】
好適な態様では、多価アルコールとしてジオールを用い、このジオールが、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールであり、植物を原料にして製造されるものである。
【0044】
本発明にかかる高分子化合物を得るための重合方法としては、通常公知の方法、例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、成形品の種類により適宜選択される。重合温度、重合触媒、溶剤などの媒体等についてはそれぞれの重合方法に従うものが用いうる。
【0045】
次に、本発明にかかる高分子化合物を合成する場合の反応温度について説明する。先に述べたとおり、本発明にかかる高分子化合物の合成方法は次のとおりである。即ちこの合成方法は、フランジカルボン酸化合物と多価アルコールとを、触媒の存在下で、エステル化を行い、エステル化合物を得る工程と、こうして得られたエステル化合物の重縮合を行う工程とを有する。エステル化を行う反応温度は、110℃〜200℃で、好ましくは150℃〜180℃である。重縮合を行う温度範囲は、180℃〜280℃で、より好ましくは180℃〜230℃の範囲である。
【0046】
この重縮合過程の終点で生じる溶融状態の高分子化合物をそのまま、あるいは必要に応じた形状にして、成形品用の熱可塑性樹脂として用いることができる。また、得られた高分子化合物に必要に応じて各種添加剤を添加した組成物を成形品用の原料として用いてもよい。
【0047】
さらに、発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。この形態でも、本発明の高分子化合物の製法は、二つの工程に分かれている。一工程目は、ジカルボン酸とジオールのエステル化であり、二工程目はエステル交換反応による重縮合である。
【0048】
一工程においては、フランジカルボン酸とジオール類、触媒または触媒混合物とを一緒に撹拌しながら徐々に110℃〜200℃に加熱、好ましくは150℃〜180℃で加熱し、フランジカルボン酸とジオールのエステル化を行う。このエステル化の終点は、反応混合物が透明になった時点で容易に確認できる。この時点で反応混合物はオリゴマーであり、ポリマーにはなっていない。二工程目においては、反応系の温度を180℃〜280℃に加熱、より好ましくは180℃〜230℃の範囲に加熱することでエステル交換反応を起こし、高分子量化を目的とした重縮合を開始させる。
【0049】
この上述の重縮合段階は、好ましくは真空下で実施する。重縮合反応においては、副生成物としてジオールが生成し、これを除去することで重縮合の反応速度を高めるためである。この加熱および撹拌、減圧は前記成形品を成形するのに耐えうる、または前記成形品の仕様に耐えうる分子量まで継続しておこなう。
【0050】
次に、反応初期に仕込むモノマーの量について詳細に説明する。初期に仕込むべきジオールの量は、望ましくは、フランジカルボン酸のモル数の1倍〜3倍の量とする。過剰なジオールや、重縮合反応が進行するにつれて生成するジオールは、反応系を減圧下にすることで留去するか、または他の溶媒と共沸させ留去するか、または他の方法により反応系外へ除去することができる。
【0051】
次に触媒について説明する。ジカルボン酸とジオールからの高分子化合物の合成は、ジカルボン酸の自己触媒作用のために触媒を加えなくても進行する。しかし、ジカルボン酸の濃度は重合の進行とともに低下するため、触媒を添加したほうがより好ましい。本発明の高分子化合物の合成はエステル化とエステル交換反応による重縮合の二工程を含んでいるため、それぞれに好適な触媒が存在する。
【0052】
第一工程のエステル化に好適な触媒としては、金属酸化物や塩、スズ、鉛、チタンなどの有機金属化合物や塩化ハフニウム(IV)や塩化ハフニウム(IV)・(THF)2などの四価のハフニウム化合物を挙げることができる。第二工程のエステル交換による重縮合に最適な触媒としては、鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウムなどの酢酸塩や炭酸塩、またはマグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモンなどの金属酸化物やスズ、鉛、チタンなどの有機金属化合物を挙げることができる。両工程に有効な触媒として特にチタンアルコキシドが好ましい。
【0053】
触媒は第一工程と第二工程の別々に加えてもよく、または前記の触媒群から任意の組み合わせで反応初期からフランジカルボン酸とジオールに混合してもよい。もちろん、フランジカルボン酸とジオールを加熱しながらそれに前記触媒を添加してもよく、さらに前記触媒群から任意の組み合わせで触媒を一回以上追加してよい。
【0054】
また、高分子化合物を得た後に、公知の方法で固相重合を行っても良い。こうして得られたポリマーの好ましい一具体例における、重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)は285であり、Tmは170℃、5%減量熱分解温度は338℃であった。
【0055】
上記の方法で得られた高分子化合物は熱可塑性樹脂である。光学機器やボトル、筐体材料の仕様に充分耐えうる物性をこの高分子化合物は有する。あるいはこの高分子化合物を成形用の熱可塑性樹脂とし、所望の形状に成形することで本発明にかかる成形品を得ることができる。成形方法は特に限定されない。例えば、圧縮成形、押し出し成形または射出成形などを利用することができる。また、上記の方法で得られた高分子化合物に、難燃剤、着色剤、内部離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種フィラーなどの添加剤を必要量添加してもよい。
【0056】
成形品の好ましい使用例としては、インクジェットプリンターのインクタンク、電子写真のトナー容器、包装用樹脂や複写機、プリンター等の事務機またはカメラの筐体等の構成材料としての用途を挙げることができる。
【実施例】
【0057】
実施例1乃至3において、本発明に係る3つの高分子化合物とそれぞれの合成方法を挙げる。また、実施例1乃至3における、高分子化合物の分子量測定やガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)の測定、高分子の構造確認のためのNMR測定には以下の装置、条件を用いた。
分子量測定
分析機器 :Waters社製アライアンス2695
検出器 :示差屈折検出器
溶離液 :5 mMトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度であるヘキサフルオロイソプロパノール溶液
流量 :1.0 ml/min
カラム温度:40 ℃
重合度 :PMMAの標準を用いて数平均分子量を求め、算出した。
Tg、Tc、Tm測定
装置名:ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量分析装置
パン:プラチナパン
試料重量:3mg
昇温開始温度:30℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素
NMR測定
装置名:JEOL製JNM−ECA−400
【0058】
(実施例1)ポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成
窒素導入管、分留管-冷却管、温度計、SUS製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(149.9g)と蒸留済み1,4―ブタンジオール(259.5g;モル比=1:3)、すず触媒(0.059wt%)、トルエンで溶解したチタン触媒(0.059 wt%)を測りとった。四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まり、約4時間かけて170℃まで昇温させた。
【0059】
分留管をト字管に換え、減圧を開始した。約一時間かけてフルバキューム(5 Pa)とし、以後、減圧下(5 Pa)、180℃で約390分間反応を続けた。得られたポリマーは、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60℃×一昼夜真空乾燥した。つづいて、分子量を高めるため反応温度150℃で固相重合を行った。こうして得られたポリマーの重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)は285でありTmは170℃、Tgは31℃、Tcは90℃、5%減量熱分解温度は338℃であった。また1H−NMRによる同定結果を図1に示す。プロトンの相対強度は理論値の(a):(b):(C)=1:2:2に一致し、目的の高分子化合物が得られていることが分かる。
【0060】
(実施例2)ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成
窒素導入管、分留管-冷却管、温度計、SUS製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(149.9 g)と蒸留済みエチレングリコール(186.2 g モル比=1:3)、すず触媒(0.05 wt%)、トルエンで溶解したチタン触媒(0.05 wt%)を測りとった。四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150 ℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まり、約4時間かけて280℃まで昇温させた。
【0061】
分留管をト字管に換え、減圧を開始した。約一時間かけてフルバキューム(5Pa)とし、以後、減圧下(5Pa)、280℃で約390分間反応を続けた。得られたポリマーは、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60 ℃×一昼夜真空乾燥した。つづいて、分子量を高めるため反応温度180℃で固相重合を行った。得られたポリマーの重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)は126であり、Tmは170℃、Tgは85℃、結晶化温度156℃、熱分解温度は332℃であった。また1H−NMRによる同定結果を図2に示す。プロトンの相対強度は理論値の(a):(b)=1:2に一致し、目的の高分子化合物が得られていることが分かる。
【0062】
(実施例3)ポリトリメチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成
窒素導入管、分留管-冷却管、温度計、SUS製撹拌羽を取り付けた1 Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(149.9 g)と蒸留済み1,3−プロパンジオール(228.3 g モル比=1:3)、すず触媒(0.05 wt%)、トルエンで溶解したチタン触媒(0.05 wt%)を測りとった。 四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150 ℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まり、約4時間かけて230℃まで昇温させた。分留管をト字管に換え、減圧を開始した。約一時間かけてフルバキューム(5Pa)とし、以後、減圧下(5Pa)、230 ℃で約390分間反応を続けた。得られたポリマーは、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60℃×一昼夜真空乾燥した。つづいて、分子量を高めるため反応温度140℃で固相重合を行った。得られたポリマーの重合度(DPn、ポリメチルメタクリレート換算)は78であり、Tmは150℃、Tgは39℃、結晶化温度102℃、熱分解温度は335℃であった。また1H−NMRによる同定結果を図3に示す。プロトンの相対強度は理論値の(a):(b):(C)=1:2:1に一致し、目的の高分子化合物が得られていることが分かる。
【0063】
(実施例4)熱分解温度測定
表1に実施例の熱分解温度をまとめた。比較例として、Polymersource,Inc.製のポリ乳酸(n=)を購入して以下の条件でのTGA測定を行った。その結果、このポリエステルの熱分解温度は279℃であった。熱分解温度は、充分に乾燥した試料を下記条件でTGA測定(熱重量測定)して、5%重量減をもって規定した。
装置名:ティー・エイ・インスツルメント製熱重量測定装置
パン:プラチナパン
試料重量:3mg
昇温開始温度:30℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素
その結果、いずれの高分子化合物も従来の植物由来プラスチックであるポリ乳酸に比べて熱分解温度が高く、耐熱性に優れていることが明らかとなった。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例5)
ここでは、合成した高分子化合物からなる成形品の機械強度について記述する。実施例1の高分子化合物を、成形前に80 ℃で8時間、真空乾燥で乾燥した。続いて、180℃、170Kg/cm2、プレス時間は2分でプレス成形を行った。このときの成形品の物性を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
また、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃試験(ノッチ付き)、荷重たわみ温度の測定には、得られた高分子化合物を射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの短冊試験片を作成し、ISOの規格に準拠して測定を行なった。それぞれの測定条件は以下のとおりである。
(1)曲げ強さ,曲げ弾性率の測定条件
試験方法:ISO178
試験温度:23℃
試験速度:2mm/min
(2)シャルピー衝撃試験(ノッチ付き)の測定条件
試験方法:ISO179/1eA(試験片1号Aノッチ,打撃方向エッジワイズ)
ハンマー:0.5J
(3)荷重たわみ温度の測定条件
試験方法:ISO75−2
荷重方向:フラットワイズ
曲げ応力:0.45MPa,1.80Mpa
このときの成形品の物性を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3から明らかなように、本発明の高分子化合物は機械強度(曲げ強度)が良好であり、電気・電子部品等の用途に使用できる高分子化合物であると分かる。
【0070】
汎用プラスチックであるハイインパクトポリスチレン(PSジャパン株式会社、グレード名433)の曲げ強度である34MPaを超える場合、そのサンプルの機械強度(曲げ強度)が良好であると評価する。そして表3に示す結果はいずれも良好な結果であるということができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレートとその1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートとその1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】ポリトリメチレン−2,5−フランジカルボキシレートとその1H−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)である単位を有することを特徴とする高分子化合物。
【化1】

(式(2)中、Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを示し、nは重合度で185以上600以下である。)
【請求項2】
請求項1に記載の前記高分子化合物と添加剤とから構成される成形品用組成物。
【請求項3】
下記式(1)
【化2】

(式(1)中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基またはハロゲン原子のいずれかを表す。)
で表されるフランジカルボン酸化合物と、
下記式(3)
B−(OH)m(3)
(Bは、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを表し、mは2以上である。)で表わされる多価アルコールと、を反応させることにより下記(2)式
【化3】

(Aは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基または置換されていてもよい脂環式炭化水素基のいずれかを表し、nは2以上である。)
で表される単位を有する高分子化合物を合成することを特徴とする高分子化合物の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−146153(P2007−146153A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295938(P2006−295938)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】