説明

高分子固体電解質およびそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】 メタノールクロスオーバーが少なく、高出力を達成できる新規な高分子固体電解質およびその製造方法ならびにそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池等を提供すること。
【解決手段】 アニオン性基を有するポリマと金属元素を含む3次元架橋重合体が内部貫入高分子網目構造を有していることを特徴とする高分子固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高分子固体電解質およびそれを用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】燃料電池は、排出物が少なく、かつ高エネルギー効率で環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】固体高分子型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCと記載する)に加えて、メタノールを直接供給するダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCと記載する)も注目されている。DMFCは、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のイオン伝導体となる電解質膜とが、膜―電極複合体(MEA)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる電極触媒層とから構成されている。たとえば固体高分子型燃料電池のアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子固体電解質へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、イオン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子固体電解質から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、イオン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0005】また、固体高分子型燃料電池の中でも、メタノールなどの有機溶媒を燃料とするDMFCにおいては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、DMFCにおいては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導、プロトンは高分子固体電解質に伝導、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、DMFCのカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールと酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが必要となる。
【0006】DMFCにおいては、前述のように燃料のメタノールが高分子固体電解質を透過するクロスオーバーが起こるため、電池出力およびエネルギー効率が低下するという課題がある。高分子固体電解質のメタノールクロスオーバーを防ぐための方策として、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜と異なる新規高分子電解質などがあり、非フッ素系のエンジニアリングプラスチックにイオン性基を導入した高分子固体電解質等が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0007】また、スルホン化ポリフェニレンスルフィドとポリビニリデンフルオライドからなる複合膜が提案されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】国際公開第98/22989号パンフレット
【0009】
【特許文献2】米国特許第6,103,414号明細書
【0010】
【発明が解決しようとする課題】従来は高分子固体電解質としてパーフルオロ系プロトン交換膜が使用されてきたがこれは、フッ素を使用するという点から環境面で好ましくなく、コストも非常に高くなっている。また、DMFCにおいては前述の通り、燃料のメタノール透過が大きく、電池出力やエネルギー効率が低下する問題を抱えている。非フッ素系高分子固体電解質としてはポリエーテルエーテルケトンやポリスルホンなどの数多くのエンジニアリングプラスチックにイオン性基を導入した高分子固体電解質が挙げられる。しかし、これらの高分子固体電解質は内部に自由水を取り込み易く、大きな水のクラスターが出来てしまい十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られなかった。
【0011】また、前記特許文献2に記載の高分子固体電解質膜は、スルホン化ポリフェニレンスルフィドとポリビニリデンフルオライドとのブレンド膜であって相溶性が悪く、μmオーダーの大きな相分離構造を取る。このような大きな相分離構造では各ポリマーの単独の性質がそのまま残っており、高伝導度とメタノールクロスオーバー抑制を両立させることは難しかった。
【0012】本発明は、上記課題を解決し、メタノールクロスオーバーを抑制し、高出力を達成できる新規な高分子電解質およびそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池等を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため次の構成を有する。すなわち、少なくとも下式(1)で示されるポリマを含み、該ポリマの分子鎖が拘束されていることを特徴とする高分子固体電解質である。
式(1)
【0014】
【化8】


【0015】(ここで、Xは極性基、I1、I2はアニオン性基(但し、Xが二価の基である場合はI1は存在しない。)、Rは水素または有機基、nは繰り返し数。)また、本発明の固体高分子型燃料電池は、本発明の高分子固体電解質またはそれを用いて得られる高分子固体電解質膜を用いて構成されることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0017】本発明の高分子固体電解質は少なくとも下式(1)で示されるポリマを含み、該ポリマの分子鎖が拘束されていることを特徴とする。
式(1)
【0018】
【化9】


【0019】(ここで、Xは極性基、I1、I2はアニオン性基(但し、Xが二価の基である場合はI1は存在しない。)、Rは水素または有機基、nは繰り返し数。)従来の、アニオン性基を有するエンジニアリングプラスチックを高分子固体電解質として用いた場合、高いイオン伝導性を得るためにイオン性基の量を増加すると、高分子固体電解質内部に径の大きな水のクラスターができ、高分子固体電解質中に自由水が多くなる。自由水中はメタノールの移動が容易に行なわれるため、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られず、従来のものではイオン伝導性とメタノール抑制効果を両立することが出来なかった。これに対して本発明の高分子固体電解質は内部に存在する水のクラスタ−径を小さくすることが出来るため、イオン伝導性とメタノールクロスオーバー抑制効果を両立することができる。また、分子鎖が拘束されているため膨潤変形などを抑制する効果もある。これらの効果は高分子固体電解質内部の水が、イオン性基に偏らず極性基にも配位しており、かつ、分子鎖が拘束されているため、高分子固体電解質中に水を大量に含んでも水のクラスター径を小さくできるからである。水のクラスター径が小さいと高分子固体電解質中の自由水が減少し、メタノールクロスオーバーを抑制できる。しかも大量の水が存在する為、高いイオン伝導性を達成することが可能となる。また、膨潤変形も小さくできる。
【0020】本発明において構造式(1)にて表されるポリマ中の極性基Xはアニオン性基と異なるものであれば特に限定されるものではないが、極性基に水が配位できるものが好ましい。中でもスルホニル基(−SO2−)、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、アミド基(−NRCO−)、イミド基、式(2)、式(3)が好ましく用いられる。極性基は高分子固体電解質中に2種類以上存在しても良く、組み合わせて使えば好ましい場合がある。
【0021】式(2)
【0022】
【化10】


【0023】式(3)
【0024】
【化11】


【0025】(ここで、Rは有機基。)
また、前記極性基Xを含むようなポリマは特に限定されるものではない。具体例として下式(4)で示されるポリフェニレンスルフィドスルホン、下式(5)で示されるポリフェニレンスルフィド、下式(6)で示されるポリフォスファゼン、下式(7)で示されるポリイミド、およびポリスルホン(PSF)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)などの耐熱・耐酸化性ポリマが好ましく用いられる。中でもポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリスルホンは水の配位やメタノールに対する親和性の点から特に好ましく用いられる。また、これらのポリマは2種類以上、組み合わせて使用することもできる。
式(4)
【0026】
【化12】


【0027】式(5)
【0028】
【化13】


【0029】式(6)
【0030】
【化14】


【0031】式(7)
【0032】
【化15】


【0033】(ここで、Zは芳香環を含む有機基、nは繰返しの数、R1,R2は有機基を指し、R1,R2は同じでも異なっていても良い。)
本発明において構造式(1)にて表されるポリマ中のアニオン性基(I1、I2)は特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸、リン酸、カルボン酸、ホスホン酸等が好ましく用いられる。中でも高イオン伝導性を有する点でスルホン酸が最も好ましい。これらのアニオン性基は前記ポリマ中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマの構造などにより適宜決められる。
【0034】本発明において構造式(1)にて表されるポリマ中の有機基Rは特に限定されるものではない。剛直性や、有機基へのイオン性基の導入などの点から芳香環を含んでいるのが好ましい。また、分子鎖を拘束するために架橋点を有することも好ましい。構造式(1)にて表されるポリマの中で、スルホン酸基を有するポリフェニレンオキシドは高イオン伝導性かつ高耐水性という特徴を有するために好ましい。またスルホン酸基を有するポリイミド、スルホン酸基を有するポリエーテルケトン(PEK)、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、スルホン酸基を有するポリエーテルスルホン(PES)は高イオン伝導性かつ高耐熱性いう特徴を有するために好ましい。
【0035】本発明において構造式(1)を有するポリマの分子鎖を拘束する方法は特に限定されるものではなく、架橋や内部貫入高分子網目などによる方法が挙げられる。分子鎖の拘束は強いほど自由水の取り込みが抑制できるが、イオン伝導性が低下する可能性がある。このため、分子鎖の拘束度合いは必要特性に応じて適宜選ぶ必要がある。分子鎖を拘束する具体的方法は構造式(1)を有するポリマに架橋可能な官能基を導入し分子同士で架橋させたり、構造式(1)を有するポリマとは別に架橋可能な高分子を用いる方法などがある。別に架橋可能な高分子を用いる方法としては、3次元架橋体の有機系高分子を用いる方法、および3次元架橋体の無機系高分子を用いる方法が挙げられる。3次元架橋体の有機系高分子としてはジビニルベンゼン、ジアクリレート、ジメタクリレートなどの多官能モノマーを用いたラジカル(またはイオン)重合系有機高分子、エポキシ系有機高分子、ウレタン(またはウレア)系有機高分子、メラミン系有機高分子、フェノール樹脂系有機高分子などが好適な例としてあげられる。3次元架橋体の無機系高分子としてはシロキサンなどの炭素以外の元素を架橋点とする3次元架橋体の無機系高分子が挙げられる。これらの3次元架橋体はイオン伝導性、相溶性の点からイオン性基を有していれば好ましい。3次元架橋体の中で炭素以外の元素を架橋点とする3次元架橋体の無機系高分子は耐酸化性、架橋密度の点から好ましい。これらの中でもケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ホウ素、リン、鉄などを架橋点とする3次元架橋体の無機系高分子はさらに好ましい。
【0036】前記エポキシ系有機高分子の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、ビスフェノキシエタノールフルオレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用することも可能である。
【0037】本発明により得られる高分子固体電解質に含まれる水のクラスター径は特に限定されないが、小さいほどメタノールクロスオーバー抑制効果が高まるため、3nm以下が好ましい。高分子固体電解質に含まれる水のクラスター径はDSCによる氷の融点、水の凝固点測定や小角X線により測定することができる。
【0038】本発明では固体高分子電解質を膜状の多孔基材に充填することも可能であり、この様にして得られた固体高分子電解質膜は膨潤による変形が抑制され好ましい。多孔基材の形状は特に限定されるものではなく、複数個の孔を有するものが例として挙げられるが、厚み方向に複数個の独立した貫通孔や三次元網目構造を有する多孔基材が好ましい。
【0039】また、多孔基材が、平面方向に整然と配列された貫通孔を有するものであることが、さらに好ましい。ここで、「平面方向に整然と配列された貫通孔」とは、貫通孔が略等間隔あるいは規則的に配列されている状態を示す。具体的には、隣り合った貫通孔の中心間隔同士を比較した場合に、それぞれの中心間隔の差が100%以内の範囲に入る配列状態のことである。すなわち、多孔基材の表面において、貫通孔は二次元的に配列しているので、隣り合った貫通孔は上下左右に存在するが、隣り合う貫通孔の中心間隔の差が100%以内の範囲に入り配列されていることが必要である。好ましくは50%以内であり、さらに好ましくは30%以内である。また、隣り合う貫通孔の中心間隔の差が100%を越えている場合でも、ある個数ごとの組み合わせが繰り返された規則的な配列であれば、各々の配列内部の隣り合う貫通孔の中心間隔の誤差が100%以内であれば好ましく用いられる。
【0040】本発明に用いられる多孔基材の具体例として、図1の形状が挙げられる。図1は、本発明の高分子固体電解質膜の一例を示す斜視模式図である。図1の多孔基材は、中央に多数の孔の空いた多孔部1があり、多孔部の周囲は孔の無い非多孔部2を有している。図2に多孔部の拡大模式図を示す。本発明の高分子固体電解質膜は、多孔部の孔3が、図2のように平面方向に見た配列ピッチが整然と等間隔に配列されていることが好ましい。図2中のLが、上述した「隣り合う貫通孔の中心間隔」である。Lは、0.5〜100μmの範囲が好ましく、1〜50μmの範囲が特に好ましい。また、孔の内径dとしては、0.5〜50μmの範囲が好ましく、1〜20μmの範囲が特に好ましい。
【0041】図1において、多孔部1にプロトン伝導体が充填されて高分子固体電解質膜としての機能を発現するのである。また、図2の孔3にプロトン伝導体が充填されることによって、膨潤が抑制され、燃料のメタノールがアノードからカソードに透過するクロスオーバーを低減するのであるが、孔3が整然と配列されていれば、開孔率を高めることが可能となり、イオン伝導性が向上する。
【0042】本発明の高分子固体電解質膜に用いられる多孔基材の好ましい作製方法としては、例えばフォトリソグラフィーの加工方法を適用することができる。従来、多孔基材としては、貫通孔を有する濾過用フィルター素材などが用いられてきた。これは通常、高分子フィルムにイオンを照射してポリマ鎖を破断し、アルカリ溶液などを用いて化学エッチング法で孔を開けたもの(トラックエッチ法)である。これに対してフォトリソグラフィー法を用いた孔3は、その孔径、形状、孔の間隔、多孔化する部分などを任意に設定することができ、メタノールクロスオーバーの低減による燃料電池の性能向上を図ることができる。さらに、フォトリソグラフィーは微細加工に優れるため、多孔部1と非多孔部2との微細な区分けが可能となり、燃料電池の小型化に優れた結果をもたらす。また、従来のトラックエッチ法に比べて生産性向上による低コスト化を達成することができる。
【0043】ここで、フォトリソグラフィー法を用いて作製した多孔基材の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示し、従来のトラックエッチ法で作製された多孔基材の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。図3のフォトリソグラフィー法の多孔基材の孔は、図4のトラックエッチ法に比べて整然と等間隔に配列されていることが明瞭である。
【0044】フォトリソグラフィー法により作製された多孔基材における孔の横断面形状としては、特に限定されるものではないが、円、楕円、正方形、長方形、菱形、台形などが好ましい。これらの中でも、プロトン伝導体の充填のしやすさ、膨潤抑制の点から、円あるいは楕円が好ましい。孔の大きさや間隔については特に限定されることはなく、プロトン伝導体の充填のしやすさ、電池性能などに基づき適宜決めればよい。
【0045】フォトリソグラフィー法を用いて製造する多孔基材における多孔部分全体の大きさは、用いられる電極触媒層や電極基材の大きさに合わせて決めればよい。また、多孔基材の厚さに関しても、求められる電池性能に基づいて決めればよいが、通常1〜50μmの範囲が好ましく、5〜30μmの範囲が特に好ましい。
【0046】本発明に使用するフォトリソグラフィー法の詳細な方法は特に限定されるものではないが、例えば、感光性ポリマを基板に塗工し、フォトマスクをかけて露光し、現像後にポリマを溶解して孔を形成し、基板から剥がして多孔性高分子フィルムを得る方法などが用いられる。感光性ポリマは、ネガ型あるいはポジ型どちらの方式でも構わないが、求められる孔の大きさ、孔の間隔、燃料電池性能等に応じて適宜選択できる。基板素材は、ポリマとの密着性や剥がしやすさの点から決められ、好ましくはシリコンウエハやアルミ板などが用いられるが、特に限定されるものではない。露光は、縮小露光、等倍露光どちらでも構わないが、作製される電解質の大きさ、孔の大きさ、形状、間隔などによって適宜決めればよい。また、現像、溶解、基板からの剥離等の条件についても、ポリマの性質によって適宜、条件を選択すればよい。また、予め基板上に非感光性ポリマを塗工し、その上にフォトレジストを塗工、露光、現像、ポリマ溶解による空隙作製を行うことも可能である。
【0047】本発明に使用するフォトリソグラフィー法に用いられる感光性あるいは非感光性ポリマとしては、特に限定されるものではないが、フォトリソグラフィーによる加工性、ポリマの耐酸化性、強度等からポリイミドが好ましく用いられる。
【0048】ポリイミドを用いたフォトリソグラフィー法による多孔作製の具体的方法としては、たとえば、前駆体のポリアミド酸溶液を基板に塗工し、約100℃程度にて溶媒を乾燥除去した後、フォトマスクを用いた露光、現像、アルカリ処理等によるフォトリソグラフィー加工を行うことで孔を形成した後、約300℃以上にてイミド閉環反応を行い、最後に基板から剥がして多孔性ポリイミドフィルムを得る方法が挙げられる。溶媒除去およびイミド閉環反応の温度や時間は、用いるポリイミドの種類により適宜決めることができる。ポリイミドフィルムを基板から剥がす際には、通常、酸への浸漬が行われるが、用いられる基板がシリコンウエハではフッ酸、アルミ板では塩酸が好ましく用いられる。
【0049】ここで、本発明に用いられるポリイミドとしては、ネガ型あるいはポジ型の感光性ポリイミド、あるいは非感光性ポリイミドのいずれでも構わないが、孔の大きさ、形状、間隔、フィルムの厚さ等から感光性ポリイミドが好ましく、ネガ型感光性ポリイミドがさらに好ましい。
【0050】上記多孔基材の他に三次元網目構造を有する多孔基材も好ましい。「三次元網目構造」とは、多孔基材を構成するポリマが立体的に繋がった三次元状の網目構造を有している状態をいう。ここで、本発明に好ましく用いられる三次元網目構造を有する多孔基材の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。
【0051】多孔基材が三次元網目構造を有している場合、その孔径が0.05〜5μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1μmの範囲である。孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)などで、表面を撮影した写真から、20個以上好ましくは100個以上の孔の平均から求めることができ、通常は100個で測定する。たとえば、湿式凝固法によって製造された三次元網目の多孔基材は、孔径の分布が広いので、できるだけ多く、たとえば100〜500個の孔径の平均をとることが好ましい。
【0052】三次元網目構造の空隙率は、10〜95%の範囲であることが好ましい。より好ましくは50〜90%の範囲である。ここで、空隙率とは、多孔基材全体積からポリマの占める体積を減じたものを、多孔基材全体積で除した百分率(%)である。
【0053】上記の三次元網目構造を有する多孔基材の製造方法としては、湿式凝固法が好ましく用いられる。具体的には、良溶媒を含む溶解溶媒にポリマを溶解したポリマ溶液を貧溶媒を含む凝固溶媒に浸漬することにより、三次元網目構造の微多孔を有する凝固ポリマを得ることができる。多孔基材をフィルム形状とする際には、基板上にポリマ溶液を塗工し、溶媒が乾燥除去される前に、凝固溶媒に浸漬することで微細な多孔を有する多孔基材を得ることができる。ここで、溶解溶媒や凝固溶媒は、用いられるポリマによって適宜選択することができ、また、所望する孔の大きさ、形状、燃料電池性能に応じて適宜選択することができるが、溶媒同士互いに相溶することが必要である。
【0054】湿式凝固法により作製された多孔基材を高分子固体電解質膜に用いる場合においても、図1のように、中央が多孔部であり周辺を緻密な高分子フィルムとする形状が好ましい実施態様となる。このような形状とするには、たとえば以下の方法が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0055】第一の方法としては、予め周辺部のみの緻密フィルムを作製し、その後に中央の多孔部を作製する方法が挙げられる。緻密なフィルムは、基板上にポリマ溶液を塗工、通常に乾燥して作製される。多孔とする中央部を後から切り取っても良いし、塗工時にマスキングを行うことで中央を未塗工とすることも可能である。その後、中央のみにポリマ溶液を塗工し、貧溶媒へ浸漬することで湿式凝固が行われる。
【0056】第二の方法としては、全体を湿式凝固法で多孔化したフィルムを作製し、周辺部の孔を閉塞するものである。孔の閉塞には、プレスで潰す方法、あるいは孔に非プロトン伝導性ポリマを充填する方法などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】本発明に用いられる多孔基材に用いられるポリマとしては特に限定されないが、好ましくは、ポリイミド(PI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン(PPSS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルフォン(PSF)など、あるいはこれらの共重合体、他のモノマとの共重合体(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体等)、さらには、ブレンドなども用いることができる。これらのポリマは、耐酸化性、強度、湿式凝固の容易性などから好ましいものである。
【0058】湿式凝固法を用いる場合、これらのポリマの溶解溶媒としては、高誘電率の極性溶媒が用いられ、凝固溶媒としては、アルコール、エーテル、エステル、水などが用いられる。なかでも溶解溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)が好ましく、凝固溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、水等が好ましい。また、孔径を制御するために開孔剤を添加しても良い。開孔剤には微粒子や塩、界面活性剤などが用いられる。また、本発明に用いられる多孔基材は、表面と裏面において、孔の形状や大きさが異なっていても良い。プロトン伝導体の充填のしやすさから、表面と裏面の孔の大きさが異なっていることも好ましい実施態様である。これによりプロトン伝導体の充填が容易になることが期待される。その程度としては、表と裏の孔径dの比が5:1〜1:1の範囲であることが好ましい。さらには、同一平面内に大きさや形状の異なる孔が混在していても構わない。
【0059】多孔基材に上記プロトン伝導体を充填する方法は特に限定されるものではない。たとえば、アニオン性基を有するポリマを溶液として、多孔基材への塗工あるいは浸漬することにより空隙内への充填が可能となる。空隙内への充填を容易にするために超音波を使用したり、減圧にするのも好ましく、これらを塗工あるいは浸漬時に併用するとさらに充填効率が向上し好ましい。また、アニオン性基を有するポリマの前駆体であるモノマを空隙内に充填した後に空隙内で重合する、あるいはモノマを気化してプラズマ重合を行う、などの方法を行っても良い。
【0060】本発明において燃料電池の形態、燃料電池の作製方法は特に限定されるものではない。以下にside−by−side構造の燃料電池作製にフォトリソグラフィー法を用いる方法を例に詳述する。ここで、side−by−side構造とは、単一の高分子固体電解質膜面の平面方向に、一組みの対向する電極からなるセルを2個以上配置する構造を指す。この構造によると、2個以上配置された隣り合ったセルのアノードとカソードを高分子固体電解質膜を貫通する電子伝導体で接続することによりセルが直列に接続されるため、side−by−side構造の高分子固体電解質膜断面はプロトン伝導部と電子伝導部が交互に存在する構造となる。このような構造を作製するには、小型化および生産性の観点からフォトリソグラフィー法を用いるのが好ましい。
【0061】Side−by−side構造の一例を図6R>6および図7に示す。図6は、side−by−side構造を持つ本発明の高分子固体電解質膜の斜視模式図であり、図7は、その製造プロセスの一部を示す断面模式図である。なお図6、図7においては、2個のセルを横に配置した例示をしたが、同様なside−by−side構造で、3個以上の複数個を平面方向に配置することも可能である。以下の説明は簡便のために2個のセルで行う。図6においてプロトン伝導部は多孔部1に図示しないプロトン伝導体が充填され、電子伝導部は膜導電部4に電子伝導体が充填されている。プロトン伝導部の多孔部1と電子伝導部の膜導電部4以外の部分はプロトンや電子が伝導しない非多孔部2であり、緻密な高分子フィルムとなっている。このように複雑かつ微細な構造の高分子フィルム作製には、本発明に述べるフォトリソグラフィー法が好適に用いられる。フォトリソグラフィー法により図6に示す多孔基材を作製し、これを図7に例示する方法で高分子固体電解質膜とする。図7では、予め膜貫通電子伝導部に電子伝導体を充填した後に、プロトン伝導部にプロトン伝導体を充填しているが、この順序は逆でも構わない。また、プロトン伝導体を充填してプロトン伝導部を作製し、次に電極を設け、最後に電子伝導部を作製成しても構わない。
【0062】前述のside−by−side構造の電子伝導部は、電解質膜を貫通した構造である。ここで電子伝導部として電解質膜を貫通した部分を膜導電部という。この膜導電部は、プロトン伝導体を充填するための多孔部とは異なる機能である。その膜導電部の、大きさ、形状などは特に限定されるものではない。膜導電部が大きいほどセルとセルの電気抵抗が低下し直列での電圧向上が期待できる。ただし、膜導電部が大きいほど、アノード側の水素あるいはメタノールなどの有機溶媒がカソード側にリークする可能性、あるいはカソード側の空気がアノード側にリークする可能性が高まり、性能低下を引き起こすことがある。このため、電子伝導部に用いられる電子伝導体の電気抵抗と耐リーク性とを考慮して、膜導電部の大きさや形状を決めることが好ましい。なお、電子伝導部は高分子固体電解質膜を貫通せず、外部を通しても良い。
【0063】前記膜導電部4の電子伝導体としては特に限定されるものではないが、導電ペーストが好ましく用いられる。導電ペーストとしては、カーボン、銀、ニッケル、銅、白金、パラジウムなどの導電剤がポリマに分散されいるものなどを好ましく用いることができ、電子抵抗の低下と耐リーク性の向上が両立できる。特にDMFCにおいては、メタノールのリークを防ぐことが重要であり、シリコーン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂などにカーボンや銀を分散した汎用導電ペーストのほか、カーボンブラック、銀、白金などをPVDFやポリイミドに分散した導電ペーストも好ましく用いられる。電子伝導部5は、セルの電極基材あるいは電極触媒層と電気的に接続されるが、この接触抵抗低下のためにも導電ペーストが好ましく使用される。
【0064】また、電子伝導部5として、ニッケル、ステンレススチール、アルミニウム、銅などの金属箔や金属線を用いても良い。また、これらの金属箔や金属線と導電ペーストを組み合わせることも可能である。
【0065】本発明の高分子固体電解質は、電極基材と電極触媒層とから構成される電極7と組み合わせて膜−電極複合体(MEA)として固体高分子型燃料電池に用いられる。
【0066】本発明の固体高分子型燃料電池における電極7における電極触媒層は、特に限定されることなく公知のものを利用することが可能である。電極触媒層とは、電極反応に必要な触媒や電極活物質(酸化あるいは還元する物質を言う)を含み、さらに電極反応を促進する電子伝導やイオン電導に寄与する物質を含む層を言う。また電極活物質が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが必要であり、電極反応に伴う生成物質の排出も促す構造が必要である。
【0067】本発明の固体高分子型燃料電池において、電極活物質としては、好ましくは水素、メタノールなどの有機溶媒あるいは酸素等が挙げられ、触媒は白金などの貴金属粒子が好適な例として挙げられる。また、電極触媒層の導電性を改善する材料を含むことが好ましく、形態は特に限定されるものではないが、例えば、導電性粒子を有することが好ましい。導電性粒子としてはカーボンブラック等が挙げられ、特に触媒を担持したカーボンブラックとして白金担持カーボンなどが好ましく用いられる。電極触媒層は、触媒、電子伝導体(たとえばカーボンブラック)、イオン伝導体(たとえばプロトン交換樹脂)が互いに接触して、電極活物質と反応生成物が効率よく出入りする構造が求められる。また、イオン伝導性を改善したり、材料の結着性を向上させたり、或いは撥水性を高めたりするのに、高分子化合物が有効である。したがって、電極触媒層に、少なくとも触媒粒子と導電性粒子と高分子化合物を含むことが好ましい。
【0068】本発明の固体高分子型燃料電池には、電極触媒層に含まれる触媒としては公知の触媒を用いることができ、特に限定されるものではないが、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、金などの貴金属触媒が好ましく用いられる。また、これらの貴金属触媒の合金、混合物など、2種以上の元素が含まれていても構わない。
【0069】電極触媒層に含まれる電子伝導体(導電材)としては、特に限定されるものではないが、電子伝導性と耐触性の点から無機導電性物質が好ましく用いられる。なかでも、カーボンブラック、黒鉛質や炭素質の炭素材、あるいは金属や半金属が挙げられる。ここで、炭素材としては、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが、電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ケッチェンブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製デンカブラックなどが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材の形態としては特に限定されず、粒子状のほか繊維状のものも用いることができる。また、これら炭素材を後処理加工した炭素材も用いることが可能である。このような炭素材の中でも、特に、キャボット社製のバルカンXC−72が電子伝導性の点から好ましく用いられる。
【0070】これら電子伝導体の添加量としては、要求される電極特性や用いられる物質の比表面積や電子抵抗などに応じて適宜決められるべきものであるが、電極触媒層中の重量比率として1〜80%の範囲が好ましく、20〜60%の範囲がさらに好ましい。電子伝導体は、少ない場合は電子抵抗が高くなり、多い場合はガス透過性を阻害したり触媒利用率が低下するなど、いずれも電極性能を低下させる。
【0071】電子伝導体は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましいものである。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として良く分散しておくことが好ましい。
【0072】電極触媒層として、触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボンを用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し、低コスト化に寄与できる。ここで、電極触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、さらに導電剤を添加することも可能である。このような導電剤としては、上述のカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0073】電極触媒層に用いられるイオン伝導体としては、公知のものを用いることが可能である。イオン伝導体としては、一般的に、種々の有機、無機材料が公知であるが、燃料電池に用いる場合には、プロトン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン交換基を有するポリマが好ましく用いられる。なかでも、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるプロトン交換基を有するポリマが好ましく用いられる。たとえば、DuPont社製のNafion、旭化成社製のAciplex、旭硝子社製Flemionなどが好ましく用いられる。これらのイオン交換ポリマは、溶液または分散液の状態で電極触媒層中に設ける。この際に、ポリマを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン交換ポリマの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。
【0074】イオン伝導体は、電極触媒層を作製する際に電極触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し、均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものであるが、電極触媒層を塗布した後にイオン導電体を塗布してもかまわない。ここで、電極触媒層にイオン導電体を塗布する方法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコートなどが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0075】電極触媒層に含まれるイオン伝導体の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の電導度などに応じて適宜決められるべきものであり、特に限定されるものではないが、重量比で1〜80%の範囲が好ましく、5〜50%の範囲がさらに好ましい。イオン伝導体は、少な過ぎる場合はイオン伝導度が低く、多過ぎる場合はガス透過性を阻害する点で、いずれも電極性能を低下させることがある。
【0076】電極触媒層には、上記の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に、種々の物質を含んでいてもかまわない。特に電極触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために、上述のプロトン交換樹脂以外のポリマを含むことが好ましい。このようなポリマとしては、フッ素原子を含むポリマが挙げられ、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)など、あるいはこれらの共重合体、これらのポリマを構成するモノマ単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマとの共重合体、さらには、ブレンドなども用いることができる。これらポリマの電極触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40%の範囲が好ましい。ポリマ含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。
【0077】電極触媒層は、触媒−ポリマ複合体が三次元網目構造を有することも好ましい実施態様である。触媒−ポリマ複合体は、触媒粒子を含んだポリマ複合体であって、この複合体が三次元網目構造となっている場合である。つまり、触媒−ポリマ複合体が立体的に繋がった三次元状の網目構造を有している状態である。
【0078】電極触媒層が三次元網目構造を有している場合、その孔径が0.05〜5μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1μmの範囲である。孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)などで、表面を撮影した写真から、20個以上好ましくは100個以上の平均から求めることができ、通常は100個で測定する。湿式凝固法によって製造された多孔質構造の電極触媒層は、孔径の分布が広いのでできるだけ多く、好ましくは100〜500個の孔径の平均をとることが好ましい。
【0079】電極触媒層の三次元網目構造の空隙率は、10〜95%の範囲であることが好ましい。より好ましくは50〜90%の範囲である。ここで、空隙率とは、電極触媒層全体積から触媒−ポリマ複合体の占める体積を減じたものを、電極触媒層全体積で除した百分率(%)である。
【0080】三次元網目構造を有する電極触媒層の作製には、通常、触媒層を電極基材、プロトン交換膜、それ以外の基材に塗布した後に湿式凝固を行う。電極触媒層を単独で空隙率を求めることが困難な場合には、電極基材、プロトン交換膜、それ以外の基材の空隙率を予め求めておき、これら基材と電極触媒層とを含む空隙率を求めた後に、電極触媒層単独での空隙率を求めることも可能である。
【0081】三次元網目構造を有する電極触媒層は、空隙率が大きくガス拡散性や生成水の排出が良好であり、かつ電子伝導性やプロトン伝導性も良好である。従来の多孔化では、触媒粒子径や添加ポリマの粒子径を増大させたり、造孔剤を用いて空隙を形成するなどが行われているが、このような多孔化方式では触媒担持カーボン間やプロトン交換樹脂間の接触抵抗が電極触媒層に比べて大きくなってしまう。それに対して、湿式凝固法による三次元網目構造では、触媒担持カーボンを含んだポリマ複合体が三次元網目状になっているので、このポリマ複合体を電子やプロトンが伝導しやすく、さらに微多孔質構造のためガス拡散性や生成水の排出も良好な構造となっており、好ましいものである。
【0082】電極触媒層が三次元網目構造を有している場合においても、触媒や電子伝導体、イオン伝導体に用いられる物質は、従来と同様の物質を用いることが可能である。ただし、三次元網目構造を有する電極触媒層を作製する際には、湿式凝固法を用いることが好ましいため、この湿式凝固法に適したポリマの選択が好ましく、触媒粒子を良く分散し、かつ燃料電池内の酸化−還元雰囲気で劣化しないポリマが好ましい。このようなポリマとしては、フッ素原子を含むポリマが挙げられ、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)など、あるいはこれらの共重合体、これらのポリマを構成するモノマ単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマとの共重合体(例えば、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体等)、さらには、ブレンドなども好ましく用いることができる。
【0083】この中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体は、非プロトン性極性溶媒を溶解溶媒として用い、プロトン性極性溶媒などを凝固溶媒とする湿式凝固法により、三次元網目構造を有する触媒−ポリマ複合体が得られる点で、特に好ましいポリマである。
【0084】ポリマの溶媒としては、具体的には、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)などが挙げられ、凝固溶媒としては水や、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類などのほか、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の有機溶剤を挙げることができる。
【0085】触媒−ポリマ複合体のポリマとしては、上記のポリマに加えて、プロトン伝導性を向上させるためにプロトン交換基を有するポリマも好ましいものである。このようなポリマに含まれるプロトン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などがあるが特に限定されるものではない。また、このようなプロトン交換基を骨格中に含有するポリマも、特に限定されることなく用いられる。たとえば、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるプロトン交換基を有するポリマが好ましく用いられる。具体的には、DuPont社製のNafionなどである。また、プロトン交換基を有する上述のフッ素原子を含むポリマや、エチレンやスチレンなどの他のポリマ、これらの共重合体やブレンドであっても構わない。
【0086】Nafionを用いた場合、市販のNafion膜を非プロトン性極性溶媒に溶かしても良いし、Aldrich社、DuPont社、あるいはIonPower社等から市販されている、水−メタノール−isoプロパノール、水−エタノール−isoプロパノール、水−エタノール−nプロパノールなどの含低級アルコール混合溶媒のNafion溶液を用いることも可能である。また、これらのNafion溶液を濃縮あるいは溶媒置換したものを用いても良い。この場合、湿式凝固の際の凝固溶媒は、Nafion溶液の溶媒種により適宜決められるべきものであるが、Nafion溶液の溶媒が非プロトン性極性溶媒である場合には、凝固溶媒としては水やアルコール類、エステル類のほか、種々の有機溶媒などが好ましく、水−メタノール−イソプロパノール混合溶媒などの低級アルコール溶媒の場合には、酢酸ブチルなどのエステル類、種々の有機溶媒が好ましく用いられる。
【0087】触媒−ポリマ複合体に用いられるポリマは、上記のフッ素原子を含むポリマやプロトン交換膜を含むポリマを共重合あるいはブレンドして用いることも好ましいものである。特にポリフッ化ビニリデン、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)共重合体などと、プロトン交換基にフルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖を有するNafionなどのポリマを、ブレンドすることは電極性能の点から好ましいものである。
【0088】触媒−ポリマ複合体の主たる成分は触媒担持カーボンとポリマであり、それらの比率は必要とされる電極特性に応じて適宜決められるべきもので特に限定されるものではないが、触媒担持カーボン/ポリマの重量比率で5/95〜95/5が好ましく用いられる。特に固体高分子型燃料電池用電極触媒層として用いる場合には、触媒担持カーボン/ポリマ重量比率で40/60〜85/15が好ましいものである。
【0089】触媒−ポリマ複合体には、種々の添加物を加えることもできる。たとえば、電子伝導性向上のための炭素などの導電剤や、結着性向上のためのポリマ、三次元網目構造の孔径を制御する添加物などがあるが、特に限定されることなく用いることができる。これら添加物の添加量としては、触媒−ポリマ複合体に対する重量比率として0.1〜50%の範囲が好ましく、1〜20%の範囲がさらに好ましい。
【0090】三次元網目構造を有する触媒−ポリマ複合体の製造方法としては、湿式凝固法によるものが好ましい。ここでは、触媒−ポリマ溶液組成物を塗布した後に、この塗布層をポリマに対する凝固溶媒と接触させて、触媒−ポリマ溶液組成物の凝固析出と溶媒抽出とを同時に行なうことができる。この触媒−ポリマ溶液組成物は、ポリマ溶液中に触媒担持カーボンが均一に分散したものである。触媒担持カーボンとポリマは前述のものが好ましく用いられる。ポリマを溶かす溶媒については、用いられるポリマに応じて適宜決められるべきもので、特に限定されるものではない。ポリマ溶液は触媒担持カーボンを良く分散していることが重要である。分散状態が悪い場合には、湿式凝固の際に、触媒担持カーボンとポリマとが複合体を形成することができず好ましくない。
【0091】触媒−ポリマ溶液組成物の塗布方法については、触媒−ポリマ溶液組成物の粘度や固形分などに応じた塗布方法が選択され、特に限定されるものではないが、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーターなどの一般的な塗布方法が用いられる。
【0092】また、ポリマを湿式凝固させる凝固溶媒についても特に限定されるものではないが、用いられるポリマを凝固析出しやすく、かつポリマ溶液の溶媒と相溶性のある溶媒が好ましい。基材と凝固溶媒との接触方法についても、特に限定されるものではないが、凝固溶媒に基材ごと浸漬する、塗布層のみを凝固溶媒の液面に接触させる、凝固溶媒を塗布層にシャワリングあるいはスプレーする、などの方法を用いることができる。
【0093】この触媒−ポリマ溶液組成物が塗布される基材については、電極基材、あるいは高分子固体電解質の何れにおいても、塗布した後に湿式凝固を行うことが可能である。また、電極基材や高分子電解質以外の基材(たとえば転写基材)に塗布し、その後に湿式凝固を行い、三次元網目構造を作製した後に、この電極触媒層を電極基材や高分子固体電解質に転写あるいは挟持させても良い。この場合の転写基材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシート、あるいは表面をフッ素やシリコーン系の離型剤処理したガラス板や金属板なども用いられる。
【0094】本発明の固体高分子型燃料電池においては、電極基材は特に限定されることなく公知のものを用いることが可能である。また、省スペース化のために電極基材が用いられない場合もある。
【0095】本発明に用いられる電極基材としては、電気抵抗が低く、集(給)電を行えるものであればとくに限定されることなく用いることが可能である。電極基材の構成材としては、たとえば、導電性無機物質を主とするものが挙げられ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。
【0096】電極基材の導電性無機物質の形態は特に限定されず、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から繊維状導電性無機物質(無機導電性繊維)、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。たとえば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E−TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されること無く用いられる。また編物であっても構わない。これらの布帛において、特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布を用いるのが好ましい。
【0097】電極基材に炭素繊維からなる無機導電性繊維を用いた場合、炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが例示される。なかでも、PAN系炭素繊維が好ましい。一般的に、PAN系炭素繊維はピッチ系炭素繊維にくらべて圧縮強さ、引張破断伸度が大きく、折れにくいからである。折れにくい炭素繊維を得るためには、炭素繊維の炭化温度は2,500℃以下が好ましく、2,000℃以下がより好ましい。
【0098】本発明の固体高分子型燃料電池に用いられる電極基材に、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐために行う撥水処理、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるために行われる炭素粉末の添加等を行うことも好ましい実施態様である。
【0099】本発明の固体高分子型燃料電池がside−by−side構造を有している場合、水素やメタノール水溶液などの燃料や空気の流入、水や二酸化炭素などの生成物の排出を促進するために、拡散層を設けることも好ましい実施態様である。このような拡散層は、前述の電極基材もその役割を持つが、非導電性布帛を拡散層として用いることがさらに好ましい。ここで、非導電性布帛の構成材としては、たとえば、非導電性繊維であれば特に限定されること無く用いられる。
【0100】拡散層の非導電性布帛を構成する非導電性繊維としては、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、塩素化ポリエチレン、耐炎化ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使用可能である。これらの非導電性繊維の中でも、PTFE、FEP、PFA、ETFE、PVDF、PVF、CTFEなどのフッ素原子含有ポリマからなる繊維が、電極反応時の耐食性などの点から好ましいものである。
【0101】拡散層の非導電性布帛としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法など、特に限定されること無く用いられる。また編物であっても構わない。これらの布帛において、特に平織物、ニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布、抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に多孔質で薄く強度のある布帛が得られる点から不織布が好ましく用いられる。
【0102】拡散層の非導電性布帛は、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理、水の排出路を形成するための部分的撥水あるいは親水処理等を行うことも好ましい実施態様である。さらには、熱処理、延伸、プレスなどの後処理を行うことも好ましい実施態様である。これらの後処理により、薄膜化、空隙率増加、強度増加などの効果が期待できる。
【0103】本発明の固体高分子型燃料電池においては、電極基材と電極触媒層の間に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマを含む導電性中間層を設けることが好ましい。特に、電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、電極触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0104】本発明の高分子固体電解質を、たとえば膜−電極複合体(MEA)に用いる場合、高分子固体電解質膜に後加工した後にMEAとすることが好ましい。例えば、燃料メタノールの透過をさらに低減するために、金属薄膜を高分子固体電解質に被覆することも好ましい態様である。このような金属薄膜の例としては、パラジウム、白金、銀などが挙げられる。
【0105】本発明の高分子固体電解質膜において、電極触媒層あるいは電極触媒層と電極基材を用いて膜−電極複合体(MEA)とする際の作製方法は特に限定されるものではない。ホットプレスにより一体化することが好ましいが、その温度や圧力は、高分子固体電解質膜の厚さ、空隙率、電極触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。通常、温度は40℃〜180℃、圧力は10kgf/cm2〜80kgf/cm2が好ましい。
【0106】本発明の高分子固体電解質は、種々の電気化学装置に適用可能である。例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池がもっとも好ましい。さらに燃料電池のなかでも固体高分子型燃料電池に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機溶媒を燃料とするものがあり、特に限定されるものではないが、メタノールを燃料とするDMFCに特に好ましく用いられる。
【0107】さらに、本発明の固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDAなどの携帯機器、掃除機等の家電、乗用車、バス、トラックなどの自動車や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源として好ましく用いられる。
【0108】
【実施例】以下、本発明を実施例を用いて説明する。
【0109】実施例1(1)高分子電解質膜の作製スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン(イオン交換当量:2meq)をDMFに溶解し、濃度が20%の黄色透明溶液(A)を得た。東レダウコーニングシリコーン社製テトラブトキシチタン5gに0.01N塩酸水溶液を添加し、室温にて30分間攪拌し、無色透明の加水分解物(B)を得た。(A)を10g採取し、(B)を0.5g添加した。この液を開孔率10%、孔径12μmのフォトリソにより作製した独立した貫通孔を有するポリイミド基材に含浸し、100℃で30分間加熱し高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は15μmであった。
【0110】(2)高分子固体電解質膜の性能高分子固体電解質膜のメタノール透過量、イオン伝導度を評価した。膜をエレクトロケム社製セルにセットし、片面に1mol/lメタノール水溶液を0.2ml/minで供給し、もう片面に空気を50ml/minで供給した。メタノール透過量は排気された空気中のメタノール濃度を測定し求めた。膜のイオン電導度は膜面に電流および電圧端子を接触させ抵抗を測定し求めた。
【0111】(3)電極の作製炭素繊維クロス基材に20%PTFE撥水処理を行ったのち、PTFEを20%含むカーボンブラック分散液を塗工、焼成して電極基材を作製した。この電極基材上に、Pt−Ru担持カーボンとNafion溶液からなるアノード電極触媒塗液を塗工、乾燥してアノード電極を、また、Pt担持カーボンとNafion溶液からなるカソード電極触媒塗液を塗工、乾燥してカソード電極を作製した。
【0112】(4)固体高分子型燃料電池の作製及び評価前記工程(2)の高分子電解質膜を、前記工程(3)で作製したアノード電極とカソード電極で夾持し加熱プレスすることで膜−電極複合体(MEA)を作製した。この時、高分子電解質膜のNafion層をカソード側になるよう配置した。このMEAをセパレータに挟みアノード側に3%メタノール水溶液、カソード側に空気を流してMEA評価を行った。評価はMEAに定電流を流し、その時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となる。
【0113】比較例1実施例1においてテトラブトキシチタンの加水分解物を添加しない以外は実施例1と同様にして高分子個体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0114】比較例2実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりに20%Nafion溶液を使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0115】実施例2実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりにリン酸基含有ポリイミド(イオン交換当量:2meq)の20%DMF溶液を使用し、テトラブトキシチタンの代わりにテトラメトキシシランを使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0116】実施例3実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりにスルホン化ポリジフェノキシフォスファゼン(イオン交換当量:1.5meq)の20%DMF溶液を使用し、ポリイミド基材を使用しない以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0117】実施例4実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりにホスホン酸基含有ポリフェニレンスルフィド(イオン交換当量:1meq)の20%DMF溶液を使用し、ポリイミド基材の代わりに3次元網目構造を有するポリビニリデンフルオライドの多孔基材を使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0118】実施例5実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりにカルボン酸基含有ポリフェニレンスルフィド(イオン交換当量:1meq)の20%DMF溶液を使用し、テトラブトキシチタンの代わりにテトライソプロピルビス(3−トリメトキシシリルプロピル)メタンビスホスホネートを使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0119】実施例6実施例5においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの20%DMF溶液の代わりにカルボン酸基含有ポリフェニルプロピルアミド(イオン交換当量:1meq)の20%DMF溶液を使用する以外は実施例5と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0120】実施例7実施例1においてテトラブトキシチタンの代わりにジビニルベンゼン2gとAIBN0.02gを添加する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0121】実施例8実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンの代わりにスルホン化ポリスルホン(イオン交換容量:2meq)を使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0122】実施例9実施例1においてスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン溶液10gの代わりにスルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン溶液5gとスルホン化ポリスルホン(イオン交換容量:2meq)溶液5gを使用する以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0123】実施例10実施例1においてテトラブトキシチタンの代わりにフェノキシトリメトキシシランとジフェノキシジメトキシシランを1:1混合したものを使用する以外は実施例1と同様にして高分子個体電解質膜および固体高分子型燃料電池を作製し、評価した。
【0124】実施例1から10で作製した高分子固体電解質およびその膜は比較例1,2に比べ、いずれも優れた性能を示した。また、各実施例で作製した固体高分子型燃料電池は比較例1,2に比べ優れた電池性能を示した。
【0125】実施例11(1)スルホン化ポリフェニレンオキシドの合成室温、窒素雰囲気下で三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリフェニレンオキシド(YPX−100L)(100g)をクロロホルム(1000g)に溶解させた後、撹拌しながらクロロスルホン酸(34mL)をゆっくり滴下した。滴下終了後室温で30分間撹拌を続けた。析出したポリマーを濾別後、ミルで粉砕し、水で十分に洗浄後、真空乾燥し、目的のスルホン化ポリフェニレンオキシドを得た。(イオン交換当量:3.0meq)
(2)高分子固体電解質膜の作製前記(1)で得たスルホン化ポリフェニレンオキシドをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し20重量%溶液(A)を得た。油化シェルエポキシ社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂“エピコート827”(0.5g)および(A)(10g)を混合してよく撹拌した。この液をガラス板上にキャストし、100℃、3時間加熱して高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は80μmであった。
(3)高分子固体電解質膜のイオン伝導度測定法北斗電工製電気化学測定システムHAG5010(HZ−3000 50V10A Power Unit, HZ−3000 Automatic Polarization System)およびエヌエフ回路設計ブロック製周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)5010を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、Nykist図からイオン伝導度を求めた。交流振幅は500mVとした。サンプルは幅10mm程度、長さ10〜30mm程度の膜を用いた。サンプルは測定直前まで水中に浸漬したものを用いた。電極として直径100μmの白金線(2本)を使用した。電極はサンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0126】同様にして溶媒キャスト法で作成した同一膜厚の“Nafion”膜のイオン伝導度も測定した。
(4)高分子固体電解質膜のメタノール透過量測定法図8のようなセル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水を入れ、他方のセルには1Mメタノール水溶液を入れた。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間,2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間、単位面積あたりのメタノール透過量を求めた。
【0127】同様にして溶媒キャスト法で作成した同一膜厚の“Nafion”膜のメタノール透過量も測定した。
(5)高分子固体電解質膜の性能前記(2)で得た高分子固体電解質膜はイオン伝導度は0.085S/cmであり、“Nafion”膜のイオン伝導度(0.085S/cm)と同等であった。
【0128】またメタノール透過量は同一膜厚の“Nafion”膜の0.70倍であり、メタノールクロスオーバーの抑制が観測された。
【0129】実施例12(1)高分子固体電解質膜の作製“エピコート827”のかわりに油化シェルエポキシ社製トリフェノールエタン型エポキシ樹脂“エピコート1032H60”を用いた他は実施例11(2)と同様にして高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は75μmであった。
(2)高分子固体電解質膜の性能イオン伝導度とメタノール透過量は実施例11(3)および(4)の方法で測定した。前記(1)で得た高分子固体電解質膜のイオン伝導度は0.070S/cmであり、“Nafion”膜のイオン伝導度(0.085S/cm)とほぼ同等であった。
【0130】またメタノール透過量は同一膜厚の“Nafion”膜の0.50倍であり、メタノールクロスオーバーの抑制が観測された。
【0131】実施例13(1)スルホン化ポリエーテルエーテルケトンの合成ビクトレックス社製ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(3.0g)を濃硫酸(150ml)中に溶解させ、撹拌しながら室温で4日間反応を行った。得られた混合物を多量のエーテル中に投入し、白色沈殿を濾別し、洗浄した後、乾燥してスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを得た。
(2)高分子固体電解質膜の作製スルホン化ポリフェニレンオキシドのかわりに前記(1)で得たスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを用いた他は実施例11(2)と同様にして高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は75μmであった。
(3)高分子固体電解質膜の性能イオン伝導度とメタノール透過量は実施例11(3)および(4)の方法で測定した。前記(1)で得た高分子固体電解質膜のイオン伝導度は0.080S/cmであり、“Nafion”膜のイオン伝導度(0.085S/cm)とほぼ同等であった。
【0132】またメタノール透過量は同一膜厚の“Nafion”膜の0.65倍であり、メタノールクロスオーバーの抑制が観測された。
【0133】実施例14(1)高分子固体電解質膜の作製“エピコート827”のかわりに大阪ガス社製ビスフェノキシエタノールフルオレン型エポキシ樹脂“BPEFG”を用いた他は実施例11(2)と同様にして高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は75μmであった。
(2)高分子固体電解質膜の性能イオン伝導度とメタノール透過量は実施例11(3)および(4)の方法で測定した。前記(1)で得た高分子固体電解質膜のイオン伝導度は0.075S/cmであり、“Nafion”膜のイオン伝導度(0.085S/cm)とほぼ同等であった。
【0134】またメタノール透過量は同一膜厚の“Nafion”膜の0.65倍であり、メタノールクロスオーバーの抑制が観測された。
【0135】実施例15(1)高分子固体電解質膜の作製“エピコート827”のかわりに、1,6−ヘキサンジイソシアネート(0.15g)、ポリプロピレングリコール(分子量1000)(0.30g)およびグリセリン(0.05g)からなる混合物を用いた他は実施例11(2)と同様にして高分子固体電解質膜を作製した。膜厚は80μmであった。
(2)高分子固体電解質膜の性能イオン伝導度とメタノール透過量は実施例11(3)および(4)の方法で測定した。前記(1)で得た高分子固体電解質膜のイオン伝導度は0.075S/cmであり、“Nafion”膜のイオン伝導度(0.085S/cm)とほぼ同等であった。
【0136】またメタノール透過量は同一膜厚の“Nafion”膜の0.60倍であり、メタノールクロスオーバーの抑制が観測された。
【0137】
【発明の効果】本発明によれば、メタノールクロスオーバーを抑制し、高出力を達成できる新規な高分子電解質およびそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池を提供でき、その実用性は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の高分子固体電解質の斜視模式図である。
【図2】 本発明の高分子固体電解質における多孔部1を拡大した平面模式図である。
【図3】 本発明の高分子固体電解質に用いられる多孔が整然と配列されている多孔基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】 従来の高分子固体電解質に用いられる多孔基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】 本発明の高分子固体電解質に用いられる三次元網目構造を有する多孔基材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】 本発明のside−by−side構造の高分子固体電解質の斜視模式図である。
【図7】 本発明の高分子固体電解質を用いたside−by−side構造燃料電池の製造プロセスの一部を示す断面模式図である。
【図8】 高分子固体電解質膜のメタノール透過量測定のためのセルの概略断面図である。
【符号の説明】
1:多孔部
2:非多孔部
3:孔
4:膜導電部
5:膜貫通電子伝導部
6:プロトン伝導部
7:電極
d:孔径
L:隣り合う貫通孔の中心間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも下式(1)で示されるポリマを含み、該ポリマの分子鎖が拘束されていることを特徴とする高分子固体電解質。
式(1)
【化1】


(ここで、Xは極性基、I1、I2はアニオン性基(但し、Xが二価の基である場合はI1は存在しない。)、Rは水素または有機基、nは繰り返し数。)
【請求項2】前記式(1)のポリマにおいて、極性基Xがスルホニル基、オキシ基、チオ基、カルボニル基、エステル基、アミド基およびイミド基ならびに式(2)および式(3)で示される極性基から選ばれる少なくとも1種類以上からなることを特徴とする請求項1記載の高分子固体電解質。
式(2)
【化2】


式(3)
【化3】


(ここで、Rは有機基。)
【請求項3】前記式(1)のポリマ中のアニオン性基I1および/またはI2が、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子固体電解質。
【請求項4】前記式(1)のポリマが下式(4)で示されるポリフェニレンスルフィドスルホン、下式(5)で示されるポリフェニレンスルフィド、下式(6)で示されるポリフォスファゼン、下式(7)で示されるポリイミド、およびポリベンゾイミダゾール、ポリスルホンから選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高分子固体電解質。
式(4)
【化4】


式(5)
【化5】


式(6)
【化6】


式(7)
【化7】


(ここで、Zは芳香環を含む有機基、nは繰返しの数、R1,R2は有機基を指し、R1,R2は同じでも異なっていても良い。)
【請求項5】前記式(1)のポリマの分子鎖が、内部貫入高分子網目構造あるいは高密度架橋構造により拘束されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項6】前記内部貫入高分子網目構造が、前記式(1)のポリマと炭素以外の元素を架橋点とする3次元架橋体からなることを特徴とする請求項5に記載の高分子固体電解質。
【請求項7】高分子固体電解質に含まれる水のクラスター径が3nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項8】請求項1から8のいずれかに記載の高分子固体電解質を多孔基材に充填したことを特徴とする高分子固体電解質膜。
【請求項9】前記多孔基材において、孔が膜厚方向に独立した複数個の貫通孔であり、かつ膜面方向に整然と配列されていることを特徴とする請求項8記載の高分子固体電解質膜。
【請求項10】請求項1から9のいずれかに記載の高分子固体電解質あるいは高分子固体電解質膜を用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項11】メタノール水溶液を燃料とする請求項10記載の固体高分子型燃料電池。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図6】
image rotate


【図8】
image rotate


【図4】
image rotate


【図7】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2003−257452(P2003−257452A)
【公開日】平成15年9月12日(2003.9.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−380321(P2002−380321)
【出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】