説明

高分子固体電解質膜積層体

【課題】 輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れ、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐと共に、次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取り扱い性にも優れた高分子固体電解質膜積層体の提供。
【解決手段】 結晶性ポリプロピレンからなる基材層の片面に、非晶性ポリプロピレンを含有しかつ、30℃、相対湿度60%における表面のダイナミック硬度が0.15〜1.4gf/μm2の範囲である粘着層を、該基材層のもう一方の面に離形層を、それぞれ有し、30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.1GPa〜1.0GPaの範囲であり、粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが5μm以上200μm以下であり、粘着層の厚みが0.2μm以上15μm以下であり、離型層の厚みが0.15μm以上13μm以下である粘着性高分子フィルムが、該粘着層を介して高分子固体電解質膜の少なくとも片面に貼り合わされてなり、該粘着性高分子フィルムと該高分子固体電解質膜との30℃、相対湿度60%における剥離強度が0.005〜1.0N/20mmの範囲であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子固体電解質膜と非電解質フィルムとの積層体であり、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れると共に、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐとともに、特に次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取り扱い性に優れた高分子固体電解質膜積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。これら特性を支配する要因として電解質膜のシワ、凹凸が影響することがわかっている。
【0004】
従来、輸送時や保存時の電解質膜のシワや凹凸の発生を防止する手段として、電解質膜をカバーシートとフィルムの間に挟みこむ方法が知られているが、この方法では、吸湿や温度などの環境変化による電解質膜の寸法変化が主な原因となる、シワ、凹凸、カールなどの発生を十分に抑制できない問題があった。
【0005】
特許文献1には、固体高分子固体電解質膜上に電極触媒層を形成させる燃料電池用電極構造体の製造に際し、粘着シート上に固体高分子固体電解質膜を設置、固定して、ペーストに含まれる溶媒による膨潤に起因するシワ発生を防止する方法が報告されているが、高分子固体電解質膜の輸送、保存時における形態安定化及び加工時の損壊の防止についてはなんら記載がない。
【0006】
また、特許文献2には、高分子固体電解質膜を加工する際に、粘着性を有するマスキング部材を積層することで、膨潤による電解質膜の変形を抑制することが記載されているが、高分子固体電解質膜の輸送、保存時における形態安定化及び加工時の損壊の防止についてはなんら記載がない。
【0007】
また、特許文献3には、高分子固体電解質膜と、その少なくとも一方の面に基材層が結晶性ポリプロピレン、粘着層が非晶性ポリプロピレン又は非結晶性ポリプロピレンと結晶性ポリプロピレンとを含み、溶融共押出により基材層と粘着層とが積層されており、粘着層の反対側の基材層上に離形層が溶融共押出により積層されている粘着高分子フィルムを貼り合わせることで、高分子固体電解質膜への粘着剤の転写が少なく、輸送時や保存時にシワや凹凸、剥離が発生し難い高分子固体電解質膜積層体が提案されているが、次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取扱い性については記載がない。
【0008】
また、特許文献4には、高分子固体電解質膜と、その少なくとも一方の面に粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムを貼りあわせることで高分子固体電解質膜の輸送、保存時における形態安定化及び加工時の損壊の防止できることが記載されているが、特許文献3の場合と同様に次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取扱い性については記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−339062号公報
【特許文献2】特開2005−063780号公報
【特許文献3】特開2009−140920号公報
【特許文献4】特願2009−014118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れると共に、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぎ、特に次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取り扱い性にも優れた高分子固体電解質膜積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)結晶性ポリプロピレンからなる基材層の片面に、非晶性ポリプロピレンを含有しかつ、30℃、相対湿度60%における表面のダイナミック硬度が0.15〜1.4gf/μm2の範囲である粘着層を、該基材層のもう一方の面に離形層を、それぞれ有し、30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.1GPa〜1.0GPaの範囲であり、粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが5μm以上200μm以下であり、粘着層の厚みが0.2μm以上15μm以下であり、離型層の厚みが0.15μm以上13μm以下である粘着性高分子フィルムが、該粘着層を介して高分子固体電解質膜の少なくとも片面に貼り合わされてなり、該粘着性高分子フィルムと該高分子固体電解質膜との30℃、相対湿度60%における剥離強度が0.005〜1.0N/20mmの範囲であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体。
(2)該粘着性高分子フィルムの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.3GPa以上0.8GPa以下であることを特徴とする(1)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(3)該粘着性高分子フィルムの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.4GPa以上0.7GPa以下であることを特徴とする(1)、(2)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(4)該粘着性高分子フィルムと前記高分子固体電解質膜との剥離強度が0.007N/20mm以上0.75N/20mm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(5)該粘着性高分子フィルムと前記高分子固体電解質膜との剥離強度が0.01N/20mm以上0.5N/20mm以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(6)該粘着性高分子フィルムの粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが7.5μm以上160μm以下であり、粘着層の厚みが0.4μm以上13μm以下であり、離型層の厚みが0.3μm以上11μm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(7)該粘着性高分子フィルムの粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが10μm以上120μm以下であり、粘着層の厚みが0.7μm以上11μm以下であり、離型層の厚みが0.4μm以上10μm以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(8)前記高分子固体電解質膜が、芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(9)前記高分子固体電解質膜がの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が1.0GPa以上(30℃、相対湿度60%)を有する芳香族炭化水素系高分子固体電解質膜であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(10)ロール状に巻き取られていることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(11)前記高分子固体電解質膜が、下記一般式1で表される繰り返し単位を有する芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーからなることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【0012】
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
(12)前記一般式1で表される繰り返し単位を有する芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーが、さらに一般式2で表される繰り返し単位を含有していることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【0013】
【化2】

[一般式2において、Ar1は二価の芳香族基を、Z3はO原子又はS原子のいずれかを、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子固体電解質膜積層体は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぐことができ形態安定性に優れている。また、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐことができる。
また、積層する粘着性高分子フィルムに特定の弾性率のものを選ぶことで、特に次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取扱い性に優れた高分子固体電解質膜積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の高分子固体電解質膜積層体の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明の粘着フィルムは結晶性ポリプロピレン樹脂からなる基材層に粘着層が積層されたものである。ここで用いる結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン、プロピレンと少量のα−オレフィンとのランダム共重合ブロック共重合体等を挙げることができ、さらに詳しくは、結晶性ポリプロピレン樹脂として、通常の押出成形などで使用するn−へプタン不溶性のアイソタクチックのプロピレン単独重合体又はプロピレンを60質量%以上含有するポリプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができ、このプロピレン単独重合体あるいはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を、単独又は混合して使用することができる。
ここで、n−ヘプタン不溶性とは、ポリプロピレンの結晶性を指標すると同時に安全性を示すものであり、本発明では、昭和57年2月厚生省告示第20号によるn−ヘプタン不溶性(25℃、60分抽出した際の溶出分が150ppm以下〔使用温度が100℃を超えるものは30ppm以下〕)に適合するものを使用することが好ましい態様である。
【0017】
プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体のα−オレフィン共重合成分としては、炭素数が2〜8のα−オレフィン、例えば、エチレンあるいは1−ブテン、1−ペンテン、 1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのC4以上のα−オレフィンが好ましい。
ここで共重合体とは、プロピレンに上記に例示されるα−オレフィンを1種又は2種以上重合して得られたランダム又はブロック共重合体であることが好ましい。
また、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を2種以上混合して使用することもできる
【0018】
粘着性高分子フィルムの粘着層としては、基材層と同種の高分子で基材層より結晶性が低いか非晶性であることが必要である。
ポリプロピレン系樹脂の場合、同種とは、炭素数が2〜8のα−オレフィンの1種又は2種以上を構成成分とするオレフィン系重合体であり、示差走査熱量測定において、結晶融解熱量及び結晶化熱量が10J/g以下となる重合体を用いることが好ましい。
【0019】
また、粘着層は、粘着層表面のダイナミック硬度が0.15gf/μm2以上1.4gf/μm2以下であることが好ましい。
ここで、ダイナミック硬度とは、島津評論,50,3,321(1993)に記載されているとおり、超微小領域における硬度をあらわすものであり、試料に対して圧子をあて、押圧力を0から設定荷重まで一定の割合で増加させ、試料に圧子を押し込んでいく過程で、圧子の押し込み深さと押圧力と、試料の変形抵抗とを連続的に測定し硬度を求めるものであり、式(1)より表されるものである。
DH=αP/D*D (1)
DH:ダイナミック硬度
α:圧子形状による定数、
P:試験荷重、D:押し込み深さ(μm)
このダイナミック硬度は、圧子を押し込んでいく過程の荷重と押し込み深さから得られる硬さであり、試料の塑性変形と弾性変形を合わせた状態での特性値になる。
【0020】
ダイナミック硬度は、フィルム表面の硬度であり、フィルム最表面から一定の深さにおける硬度を指し、深さ1μmの部位での硬度を指標とした。
粘着層において、ダイナミック硬度は、0.15gf/μm2以上1.4gf/μm2以下であり、より好ましい粘着層表面のダイナミック硬度は、0.20gf/μm2以上1.2gf/μm2以下であり、さらに好ましくは、0.25gf/μm2以上1.0gf/μm2以下である。
粘着層表面のダイナミック硬度が、0.15gf/μm2未満の場合は、軟らかく表面が変形しやすいため、被被着体と貼り合わせ後において、被被着体の表面状態の影響を受け易く、被被着体表面が平滑の場合は、粘着層表面がその平滑性に合わせて変形し、粘着層表面に形成されている微細な凹凸が経時で次第になくなり、その結果、被被着体との接触面積が増加することとなり、設定した値より粘着力が高くなり、剥離困難な状態になったり、糊残りが発生したりする場合がある。また、粘着層表面のダイナミック硬度が、1.4gf/μm2を超える場合は、粘着力が低くなりすぎることがある。
【0021】
ダイナミック硬度を上記範囲にするには、示差走査熱量測定において、結晶融解熱量及び結晶化熱量が10J/g以下となる非晶性重合体を単独又は30質量%以上混合して用いる事が好ましい。
ここでいう非晶性重合体としては、例えば、住友化学(株)製「タフセレンH3522A」、三井化学(株)製「ノティオTX1236A」、三菱化学(株)製「ゼラスMC707」などを例示することができる。また、非晶性重合体と混合するオレフィン系重合体としては、特に限定されるものではないが、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体等を挙げることができる。
また、これらの重合体のメルトフローレートは1〜10g/10分の範囲のものが好ましく、さらに2〜5g/10分の範囲のものが好ましい。
【0022】
本発明で用いる粘着性高分子フィルムの粘着層には、公知の添加剤を必要に応じて含有させたり、フィルム表面にコートすることが出来る。例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃改良剤などを含有させたり、表面にコートしても良い。但し、粘着層表面の低分子量物質を1mg/m2未満にすることが目的とする粘着力を得る上で好ましい。ここで、粘着層表面の低分子量物質の測定は、次の手順にて実施した。粘着層表面をエタノール等の粘着層を構成する樹脂を侵食しない有機溶剤を用いて洗浄後、その洗浄液から有機溶剤をエバポレーター等で除去した後、その残渣を秤量して求めた数値を洗浄した粘着層表面の表面積で割り、求めた。ここで、残渣が1mg/m2以上存在すると粘着層表面と被被着体表面の間に異物が存在する事となり、接触面積を減らし、ファンデルワールス力を低下させる原因となる為、粘着力が低下し好ましくない。添加剤を添加する場合は、高分子型等の添加剤を選択したり、添加方法を検討するなどして、粘着層への移行、転写がない様にすることが必要である。
【0023】
本発明で用いる粘着性高分子フィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、インフレーションフィルム製造装置やTダイフィルム製造装置を用いて基材層、粘着層をそれぞれ成形後、押出ラミネート法により貼り合せたり、最初から共押出により、多層フィルムを形成しても良い。
【0024】
本発明で用いる粘着性高分子フィルムは、粘着層の反対面に離形層を形成することが必要であり、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂からなる層や、プロピレンエチレンブロック共重合体からなる樹脂とポリエチレン樹脂を混合することによって得られるマット状に表面が荒れた層を積層することが出来る。マット状の表面を得るのに好適な樹脂としては、具体的にはサンアロマー(株)製「PC523D」や「PC523A」、日本ポリプロ(株)製 「BC3HF」などのプロピレン−エチレンブロックコポリマーを例示することが出来る。
この場合、フィルムに成形したときに平均表面粗さSRaで0.20μm以上0.40μm以下となる様な表面にすることが好ましい。平均表面粗さSRaが0.20μm未満の場合はフィルム同士がブロッキングを起こしやすく、0.40μmを超えると過剰な凹凸となり、フィルムとして好ましくない。
【0025】
本発明で用いる高分子固体電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。高分子固体電解質膜の厚みが3μmより薄いと高分子固体電解質膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子固体電解質膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。
【0026】
高分子固体電解質膜積層体において、本発明の粘着性高分子フィルムは、高分子固体電解質膜の全面を覆っていることが好ましい。粘着フィルムの面積は、高分子固体電解質膜と同じか、それよりも大きいことが好ましく、高分子固体電解質膜の片面にのみ、粘着フィルムを貼り付ける場合には、面積が同じであることがより好ましい。大きくなりすぎると、巻き出しが困難になるなどの問題が発生しやすくなるため、粘着性高分子フィルムの面積は、高分子固体電解質膜の面積に対して150%以下であることが好ましい。ただし、高分子固体電解質膜の面積よりも大きい粘着性高分子フィルムを、高分子固体電解質膜の片面に貼り付け、もう一方の面に、粘着層を有さない樹脂フィルムを、粘着性高分子フィルムが露出した部分の粘着性を用いて貼り付けることもできる。積層体をロールで巻き取る場合には、粘着性高分子フィルムの幅を調整することによって、高分子固体電解質膜との面積比を調整することができる。
【0027】
本発明に用いる粘着性高分子フィルムは、粘着性高分子フィルムの粘着層と高分子固体電解質膜との剥離強度が1N/20mm以下であるものを用いる。剥離強度が1N/20mmを超えると、粘着剤の移行や、高分子固体電解質膜から剥離する際に、高分子固体電解質膜にシワやキズが発生したり、高分子固体電解質膜が損壊したりするなどの問題が生じる場合があるため好ましくない。剥離強度が0.005N/20mm未満であると、積層後の剥離やシワが生じる場合があるため好ましくない。
剥離強度の範囲は0.005〜1.0N/20mmが必要であり、好ましい範囲は0.007〜0.75N/20mmであり、より好ましくは0.01〜0.5N/20mmである。
【0028】
粘着性高分子フィルムの弾性率は、本発明を構成する非常に重要な要件である。弾性率が高い場合、高分子固体電解質膜積層体を作成し、ロールに巻き取ることは容易にできるが次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際、カールを引き伸ばして固定することが難しくなる。一方、弾性率が低すぎる場合は粘着層性高分子フィルムと高分子固体電解質膜との貼り合わせ実施時の張力、及びその変動により寸法変化を起こし、高分子固体電解質膜との長さがそろわないことによりしわを発生させるため好ましくない。弾性率としては引張弾性率0.1GPa以上1.0GPa未満(JIS−K7127に準拠、30℃、相対湿度60%雰囲気下)であることが必要であり、好ましい範囲は0.3GPa以上0.8GPa以下であり、より好ましくは0.4GPa以上0.7GPa以下である。
【0029】
粘着性高分子フィルムの粘着層、基材層、離型層を含めた全体の厚みは、本発明を構成する重要な要件である。全体の厚みが厚い場合、高分子固体電解質膜積層体を作成し、ロールに巻き取ることは容易にできるが次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際、カールを引き伸ばして固定することが難しくなる。一方、全体の厚みが薄すぎる場合は粘着層性高分子フィルムと高分子固体電解質膜との貼り合わせ実施時の張力、及びその変動により寸法変化を起こし、高分子固体電解質膜との長さがそろわないことによりしわを発生させるため好ましくない。全体の厚みとしては5μm以上200μm以下であることが必要であり、好ましい範囲は7.5μm以上160μm以下であり、より好ましくは10μm以上120μm以下である。
【0030】
粘着性高分子フィルムの粘着層、離型層それぞれの厚みも、本発明を構成する重要な要件である。粘着層が厚すぎる場合には粘着性高分子フィルムを巻き取った際、また経時によりブロッキングが起こる問題点があり、薄すぎる場合には粘着層性高分子フィルムと高分子固体電解質膜との貼り合わせ実施時の張力変動に対して貼りむらが発生するため好ましくない。一方、離型層が厚すぎる場合には
基材層との弾性率差により粘着性高分子フィルム単体でのカールが発生し、薄すぎる場合には粘着層が厚すぎる場合と同様に粘着性高分子フィルム単体でのブロッキングが発生するため好ましくない。
具体的には、粘着層の厚みが0.2μm以上15μm以下、離型層の厚みが0.15μm以上13μm以下であることが必要であり、粘着層の厚みが0.4μm以上13μm以下、離型層の厚みが0.3μm以上11μm以下であることが好ましく、より好ましくは粘着層の厚みが0.7μm以上11μm以下、離型層の厚みが0.4μm以上10μm以下であることである。
【0031】
本発明における高分子固体電解質膜を形成するポリマーは任意の高分子固体電解質を用いることができる。一般に、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族炭化水素系高分子電解質を用いる場合、輸送、保管、加工時における膜の変形や損壊の問題が起こりやすいが、本発明の高分子固体電解質膜積層体とすることでそれらの問題を解消することができる。
【0032】
主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族炭化水素系高分子電解質としては、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーを例として挙げることができる。そのようなポリマーとしては、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系あるいは部分フッ素系のイオン伝導性ポリマーであり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、イオン性基が導入されているポリマーを挙げることができる。イオン性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホンイミド基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種を挙げることができるが、スルホン酸基、あるいはホスホン酸基が好ましい。また、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定されるものではない。
【0033】
上記のポリマーのうち、特に芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のイオン性基含有ポリマー、特にイオン伝導性がスルホン酸基であるポリマーを得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0034】
また、上記芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドにおいては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基やホスホン酸基を含有するジアミンを用いて酸性基含有ポリイミドとすることが出来る。芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾール、芳香族テトラミンと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズイミダゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸やホスホン酸基含有ジカルボン酸を使用することにより酸性基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールとすることが出来る。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0035】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、ホモポリマー、ランダム共重合体、セグメント化ブロック共重合体、長鎖あるいは短鎖の分岐を有する重合体、櫛型重合体、星型重合体、側鎖にイオン性基を導入した重合体などの高次構造を有していてもよい。中でも、セグメント化ブロック共重合体や側鎖にイオン性基を導入した重合体など、親水性部と疎水性部の相分離によって共連続構造を形成する重合体を用いると、耐久性や、プロトン伝導性の面でより好ましい。そのようなセグメント化ブロック共重合体としては、イオン性基を有する親水性セグメントと、イオン性基を有さない疎水性セグメントからなるセグメント化ブロック共重合体を挙げることができ、そのようなポリマーを製造する手段としては、前記のセグメントを構成するオリゴマーを、直接あるいは他の化合物を用いて反応させることによって得ることを挙げることができる。
【0036】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレン系化合物であることがより好ましい。
【0037】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーの中で特に好ましいのは、一般式1で表される繰り返し単位を有するものである。
【0038】
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
【0039】
一般式1において、Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子固体電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子固体電解質膜を得ることもできる。Z1はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z1がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n1は1〜30の範囲にあることが好ましく、n1が3以上の場合には、n1が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Z2が直接結合である場合は、得られる高分子固体電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n1が3以上の場合はZ2がO原子であると、高分子固体電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0040】
一般式1で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーは、さらに一般式2で表される繰り返し単位をさらに含有していることが好ましい。
【0041】
【化2】

[一般式2において、Ar1は二価の芳香族基を、Z3はO原子又はS原子のいずれかを、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]
【0042】
一般式2において、Z3はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z3がS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。n2は1〜30の範囲にあることが好ましく、n2が3以上の場合には、n2が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Z4が直接結合である場合は、得られる高分子固体電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n2が3以上の場合はZ4がO原子であると、高分子固体電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0043】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、主として、一般式1で表される繰り返し単位と、一般式2で表される繰り返し単位で構成される場合には、それぞれのモル比は、7:93〜70:30の範囲であることが好ましい。モル比が7:93とは、一般式1で表される繰り返し単位のモル数を7としたとき、一般式2で表される繰り返し単位のモル数が93であることを表す。70:30のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が多くなると、高分子固体電解質膜としたときの燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。7:93のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が少なくなると、高分子固体電解質膜としたときのプロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。10:90〜50:50の範囲であることがより好ましい。10:90〜40:60の範囲であることがさらに好ましい。本発明におけるイオン性基含有ポリマーは、一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位を有することによって適切な軟化温度を有し、高分子固体電解質膜としたときに良好な電極との接合性を示す。
【0044】
一般式2におけるAr1は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0045】
Ar1の好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0046】
【化3】

【0047】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、高分子固体電解質膜が主として、一般式1で表される構造と、一般式2で表される構造で構成され、かつ一般式1におけるZ1及びZ2がいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であるイオン性基含有ポリマーである。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性が特に向上するため好ましい。
【0048】
前記のイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式2における、Z3及びZ4がいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であるとより好ましい。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性がより一層向上するため好ましい。
【0049】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式1及び一般式2に加えて、一般式7で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーである。一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位に加え、一般式7で表される繰り返し単位をさらに有していることが、高分子固体電解質膜としたときの膜の形態安定性を高めることができるため好ましい。
【0050】
【化4】

[一般式7において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z5はO又はS原子のいずれかを表す。]
【0051】
一般式7において、Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子固体電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子固体電解質膜を得ることもできる。Z5はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z5がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
【0052】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位を有している場合には、Z1及びZ2が、O原子又はS原子であり、かつ、n1が1であると、高分子固体電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がより良好になるので好ましい。また、Z3及びZ4が、O原子又はS原子であり、かつ、n2が1であると、高分子固体電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がさらに良好になるので好ましい。
【0053】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーは、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位に加え、一般式8で表される繰り返し単位をさらに有していると、高分子固体電解質膜としたときに、電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性を大きく向上することができるためよりより好ましい。
【0054】
【化5】

[一般式8において、Ar2は2価の芳香族基を、Z6はO原子又はS原子のいずれかを表す。]
【0055】
一般式8におけるZ6はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z6がS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。化学式8におけるAr2は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0056】
Ar2の好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はイオン性基含有ポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はイオン性基含有ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はイオン性基含有ポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0057】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、7及び8でそれぞれ表される繰り返し単位を全て有している場合は、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し単位のモル%が下記数式1〜3を満たすことが好ましい。
【0058】
0.9≦(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)≦1.0(数式1)
0.05≦(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)≦0.7 (数式2)
0.01≦(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)≦0.95 (数式3)
(上記数式中、n3は一般式7で表される繰り返し単位のモル%を、n4は一般式1で表される繰り返し単位のモル%を、n5は一般式8で表される繰り返し単位のモル%を、n6は一般式2で表される繰り返し単位のモル%を、n7はその他の繰り返し単位のモル%を、それぞれ表す。)
【0059】
(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)が0.9よりも小さいと、高分子固体電解質膜としたときに良好な特性が得られないため好ましくない。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0060】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)が0.05よりも小さくなると、高分子固体電解質膜としたときに十分なプロトン伝導性が得られないため好ましくない。また、0.9よりも大きいと高分子固体電解質膜としたときの膨潤性が著しく大きくなるため好ましくない。より好ましい範囲は0.1〜0.7の範囲である。
【0061】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)は0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。0.5よりも大きいと、燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。0.07よりも小さいと、プロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。
【0062】
(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)が0.01よりも少ないと、高分子固体電解質膜としたときに電極触媒層との接合性が低下するため好ましくない。0.95よりも大きいと、高分子固体電解質膜としたときの膨潤性が大きくなりすぎる場合があるため好ましくない。0.05〜0.8がより好ましい範囲である。0.4〜0.8の範囲であることがさらに好ましい。
【0063】
なお、本発明におけるイオン性基含有ポリマーにおいて、上記各一般式で表される各繰り返し単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合など、いずれでもよい。
【0064】
本発明における上記イオン性基含有ポリマーの合成方法としては、公知の方法を採用でき、特に限定されないが、合成に用いる原料モノマーの好ましい例として、下記一般式9〜11で表される構造のモノマーを挙げることができる。さらに、一般式12で表される構造のモノマーをさらに用いると、膜の形態安定性など物理的な特性が向上するため好ましい。
【0065】
【化6】

【0066】
一般式9〜12において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z7及びZ10は、それぞれ独立してCl原子、F原子、I原子、Br原子、ニトロ基のいずれかを、Z8及びZ11は、それぞれ独立してOH基、SH基、−O−NH−C(=O)−R基、−S−NH−C(=O)−R基のいずれかを[Rは芳香族又は脂肪族の炭化水素基を表す。]、Z9は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、Ar4は分子中に、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などの電子吸引性基を有する芳香族基を表す。
【0067】
一般式9で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。
【0068】
一般式9で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0069】
一般式10で表される化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどを挙げることができ、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記化学式13で表される構造のもの)が好ましい。化学式13においては、nは1以上の整数からなり、nの異なる成分が混合されたものでも良い。
【0070】
【化7】

【0071】
一般式10で表される構造のモノマーは、イオン性基含有ポリマーの柔軟性を高め、変形に対する破壊を抑制したり、ガラス転移温度を低下させ電極触媒層との接合性を向上させたりするなどの効果をもたらすことができる。
【0072】
一般式11で表される化合物としては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0073】
一般式12で表される化合物の例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどを挙げることができ、4,4’−ビフェノールが好ましい。
上述の芳香族求核置換反応において、一般式9〜12で表される化合物とともに他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。
【0074】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0075】
本発明で用いるイオン性基含有高分子固体電解質膜の製造方法においては、上記の活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物や芳香族ジオール類又は芳香族ジチオール類を原料とし、塩基性化合物の存在下で、公知の芳香族求核置換反応により重合して得られるポリマーで、対数粘度が0.1〜5.0dL/gで、軟化温度が120℃以上のものが好ましく、さらに軟化温度が140〜300℃のものがより好ましい。
【0076】
本発明の高分子固体電解質膜積層体の形状は特に限定されず、シート、ロールでも構わないが、好ましくはロール状態に巻き取られた状態で本発明の効果がより発揮される。高分子固体電解質膜の片面にのみ、粘着フィルムを積層する場合には、高分子固体電解質膜を内側に巻いたほうが、輸送時や保管時の湿度変化による形状への影響を受けにくくより好ましい。
【実施例】
【0077】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は次のように行った。
【0078】
<引張弾性率>
JIS−K7127に準拠し、室温が30℃で相対湿度が60±5%にコントロールされた雰囲気下の測定室内で、試料幅10mm、試料長40mmのサンプルを引張試験機(東洋精機株式会社製)にて、ヘッド速度20mm/minで引っ張ったときの引張応力−ひずみ曲線の傾きより求めた。
【0079】
<積層体の剥離強度>
JIS−C5016に準拠して、室温が30℃で相対湿度が60±5%にコントロールされた雰囲気下の測定室内で、90度剥離法で測定した。
すなわち、積層体をロールのMD方向に幅20mm、長さ100mmにカットし、粘着フィルム側に両面テープを貼り、自由に回転できる回転ドラムに貼りつけた後、電解質膜の端部を少し引き剥がし、引張試験機のつかみ具に挟んでMD方向に引き剥がしたときの荷重を測定し、安定部分の平均荷重を剥離強さとし、n=5の平均値を求めた。
【0080】
<ダイナミック硬度>
島津ダイナミック超微小硬度計DUH−201を用い、室温が30℃で相対湿度が60±5%にコントロールされた測定室内で、下記条件にて測定し、下記式により算出した。
試験モード 軟質材料試験(MODE3)
圧子 三角すい圧子115°
試験荷重 0.20gf
負荷速度 10(0.0145gf/秒)
保持時間 1秒
変位フルスケール 10μ
5回の測定をした後、押し込み深さ1μmのダイナミック硬さを解析データからピックアップして平均値を求め、そのサンプルのダイナミック硬さとした。このダイナミック硬さ(DH)は圧子を押し込んでいく過程の荷重と押し込み深さから得られる硬さで、以下の式(1)で定義される。
DH=αP/D*D (1)
DH:ダイナミック硬度
α:圧子形状による定数
P:試験荷重、D:押し込み深さ(μm)
【0081】
<積層体における電解質膜の品位>
高分子固体電解質膜積層体の電解質膜のシワ、剥離、凹凸、貼り斑などを肉眼で観察して2段階に評価した。
○:シワ、剥離、貼り斑などが全く発生しないか、わずかに発生しても以後の工程での使用がで
きる。多数発生することにより以後の工程での使用ができない。
×:シワ、剥離、凹凸、貼り斑などが多数発生することにより以後の工程での使用ができない。
【0082】
<積層体における後加工工程での取扱い性>
室温30℃、相対湿度を30±5%にコントロールした雰囲気下の測定室内で、高分子固体電解質膜積層体を巻き取ったロールから先端部を2m引き出し、引き出した先端部のカール有無を肉眼で観察し、その後カールを広げる際の取扱い性を実際に広げる操作を行って3段階に評価した。
◎:カールが全く発生せず、取扱い性に問題が発生しない。
○:カールは発生するが、広げる際の取扱い性が良好であり、後工程に問題が発生しない。
×:カールが発生し、広げるのが難しいために後工程に支障が出る。
【0083】
<高分子固体電解質膜の製造例1>
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778g、2,6−ジクロロベンゾニトリル553g、4,4’−ビフェノール893g、炭酸カリウム763g、N−メチル−2−ピロリドンを5631g入れて、窒素雰囲気下にて200℃で10時間反応させた。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを10Lの水で5回洗浄した後、乾燥した。このポリマーのこのポリマーの対数粘度は1.25dL/gであった。
次いで、このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体である幅30cmの非粘着ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて、幅22cm、厚み200μmになるよう温度30℃で連続的に流延し、温度130℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく連続的に、30℃、20質量%硫酸水溶液に12分間浸漬し、次いで、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃の純水に18分間浸漬した後、30℃純水に18分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃、相対湿度60±5%の環境下で30分間風乾させ、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルムに接着した、厚さ30μmの高分子固体電解質膜を得た。得られた高分子固体電解質膜をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して引張弾性率を測定したところ、1.3GPaであった。
【0084】
<高分子固体電解質膜の製造例2>
結合水を取り除いた3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS)800.0g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)356.5g、4,4’−ビフェノール(略号:BP) 600.5g、4,4’−チオビスフェノール(略号:BPS) 96.9g、炭酸カリウム 562.7g、N−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP) 4624.3gを原料とする以外は、製造例1と同様にして対数粘度1.35dl/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.5GPaであった。
【0085】
<高分子固体電解質膜の製造例3>
乾燥したS−DCDPS 310.1g、DCBN 253.3g、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(大日本インキ化学工業社製SPECIANOL DPE−PL;化学式13においてnが1〜8の成分を含む混合物でnの平均値は5である構造であるもの)(略号:DPE) 1156.5g、炭酸カリウム319.0g、NMP 5165.3gを用い、反応時間を8時間にした他は、製造例1と同様にして対数粘度0.83dl/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.5GPaであった。
【0086】
<高分子固体電解質膜の製造例4>
製造例1において、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778gのかわりに3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン2ナトリウム塩721gを用いて同様にポリマーを合成した。得られたポリマーの対数粘度は1.29dL/gであった。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は2.0GPaであった。
【0087】
<高分子固体電解質膜の製造例5>
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン1.20g、ビスフェノールS2.00g、ジフルオロジフェニルスルホン2.90g、炭酸カリウム1.82gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素気流下で40mlのNMPを入れて、反応温度を175℃付近に設定して7時間反応させた。放冷の後、約300mlのメタノール中に再沈殿させ、ミキサーを用いて5回水洗処理をしてポリマーを得た。得られたポリマーの対数粘度は、0.62dL/gであった。ポリマー試料を濃硫酸(98%)とともに室温でマグネティックスターラーにより撹拌することで、スルホン化反応を行い、反応後、硫酸溶液を過剰の氷水中に投入して反応を止め、生じた沈殿を濾取、水洗して、スルホン酸基含有ポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.1GPaであった。
【0088】
<高分子固体電解質膜の製造例6>
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン45g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム42g、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)615g、五酸化リン500gを重合容器に量り取り、窒素を流し、オイルバス中でゆっくり撹拌しながら120℃まで昇温し、1時間保持した後、200℃に昇温して6時間反応させた。その後、放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いて5回水洗を繰り返した後の水浸漬ポリマーに炭酸ナトリウムを加えて中和し、更に水洗を繰り返して洗液のpHが中性となり変化しないことを確認した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.73dL/gを示した。得られたポリマーとNMPを25質量%になるようにはかり取り、撹拌しながら、オイルバス上で170℃に加熱して溶解させた。得られた溶液を用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.9GPaであった。
【0089】
<高分子固体電解質膜の製造例6>
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン18.3g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム5.30g、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸11.3g、ポリリン酸(五酸化リン含量5%)250g、五酸化リン200gを重合容器に量り取り、実施例8と同様にしてポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は、1.53dL/gを示した。得られたポリマーはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とともに25質量%濃度となるようにオイルバス中で溶解し、得られた溶液を用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.7GPaであった。
【0090】
<高分子固体電解質膜の製造例7>
(疎水性オリゴマー)
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)49.97g(290.5mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)54.99g(295.3mmol)、炭酸カリウム46.94g(339.6mmol)、NMP750mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。窒素導入管、攪拌翼、冷却還流管、温度計を取り付けた別の1000mL枝付きフラスコに、NMP200mLとパーフルオロビフェニル4.85gを入れ、窒素気流下、攪拌しながら、オイルバス中で110℃に加熱した。そこに、DCBNとBPの反応溶液を、滴下漏斗を用いて2時間かけて攪拌しながら投入し、投入完了後、さらに2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mLの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、100℃で2時間乾燥させた後、室温まで冷却し、3000mLのアセトンで2回洗浄し、過剰のパーフルオロビフェニルを除去した。再びオリゴマーを濾別し、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーAを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は13880だった。疎水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0091】
【化8】

【0092】
(親水性オリゴマー)
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ(略号:S−DCDPS)250.0g(508.9mmol)、BP97.04g(520.7mmol)、炭酸ナトリウム66.23g(624.9mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mLを投入し、攪拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーはさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は25560であった。親水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0093】
【化9】

【0094】
(セグメント化ブロックポリマー高分子固体電解質膜)
親水性オリゴマー 45.00g、疎水性オリゴマー 24.61g、炭酸ナトリウム0.28g、NMP400mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、窒素気流下50℃のオイルバス中で攪拌し溶解させた。その後、110℃まで加熱し、10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、3Lの純水中に滴下してポリマーを固化させた。純水で3回洗浄した後、純水に浸漬したまま80℃で16時間処理し、その後で純水を除いて熱水洗浄を行った。その後、熱水洗浄をもう一度繰り返した。さらに水を除去したポリマーを、1000mLのイソプロパノールと500mLの水との混合溶媒に室温で16時間浸漬し、ポリマーを取り出し洗浄を行った。同じ操作をもう一度行った。その後、濾過でポリマーを濾別し、120℃で12時間減圧乾燥してスルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーを得た。得られたポリマーの対数粘度は、2.1dL/gだった。得られたポリマーから製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。ポリマーAの化学構造を以下に示す。得られた30μmの高分子固体電解質膜をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して引張弾性率を測定したところ、1.7GPaであった。また、得られた高分子固体電解質膜を透過型電子顕微鏡観察したところ、親水性ドメインと疎水性ドメインがそれぞれラメラ状に共連続している相分離構造が観察された。
【0095】
【化10】

【0096】
<粘着性高分子フィルムの製造例A>
(基材層の作製)
ホモポリプロピレン重合体(住友化学社製:FLX80E4、引張弾性率:1500MPa)100wt%を60mmφ単軸押出し機(L/D:22.4)にて溶融押出しして基層とした。
【0097】
(粘着層の作製)
オレフィン系エラストマー(三菱化学製:ゼラスMC707)98wt%と、Irga
nox1076 50000ppm含有する熱安定剤マスターバッチ(MB)2wt%とを、45mmφ2軸押出し機(L/D:19)にて溶融押出しして粘着層とした。
【0098】
(離型層の作製)
プロピレン−エチレンブロック共重合体(日本ポリプロ BC3HF)50wt%とプロピレン−エチレンランダム共重合体(住友化学製:WF836DG3)50wt%を65mmφ単軸押出し機(L/D:25)にて溶融押出しして離型層とした。
【0099】
(フイルムの作製)
基材層、粘着層、離型層それぞれが各押出し機にて溶融された状態のまま、250℃の3層Tダイ(マルチマニホールド型、リップ幅250mm、リップギャップ1mm)内で積層押出しを行った。押出したフイルムを温度20℃のキャスティングロールへエアーナイフで吹きつけ、12m/min速度で引取り、冷却固化して基材層厚みが35μm、粘着層厚みが10μm、離型層厚みが5μmの3種3層未延伸フイルムを得た。粘着層のダイナミック硬度は、0.27gf/μm2であった。また本フィルムの引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.64GPaであった。
このフイルムの特性を評価した結果、平滑な粘着層が形成され、常温での粘着性を有し、被着体と粘着層の接触ムラが無く、被着体との貼着後の粘着力増加幅が小さく、外観に優れ、離型層と粘着層間のブロッキングが無く取扱い性の良好なものであった。

【0100】
<粘着性高分子フィルムの製造例B>
基材層の樹脂を、プロピレン−1−ブテン共重合体(住友化学製:SPX78J1、引張弾性率:530MPa)50wt%とホモポリプロピレン重合体(住友化学社製:FLX80E4、引張弾性率:1500MPa)50wt%とした以外は、製造例Aと同様にしてフィルムを作製した。粘着層のダイナミック硬度は、0.28gf/μm2であった。また本フィルムの引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.54GPaであった。
このフィルムも製造例A同様、平滑な粘着層が形成され、常温での粘着性を有し、被着体と粘着層の接触ムラが無く、被着体との貼着後の粘着力増加幅が小さく、外観に優れ、離型層と粘着層間のブロッキングが無く取扱い性の良好なものであった。
【0101】
<粘着性高分子フィルムの製造例C>
基材層、離型層の作製は製造例Aのままとした。粘着層とフィルムの作製は下記の通りとした。得られた粘着性高分子フィルムCの引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.63GPaであった。
このフィルムも製造例A同様、平滑な粘着層が形成され、常温での粘着性を有し、被着体と粘着層の接触ムラが無く、被着体との貼着後の粘着力増加幅が小さく、外観に優れ、離型層と粘着層間のブロッキングが無く取扱い性の良好なものであった。
【0102】
(粘着層)
非晶性PP(住友化学製:タフセレンH3522A、結晶融解熱量及び結晶化熱量が28J/g)とホモポリプロピレン樹脂(住友化学社製:FLX80E4、引張弾性率:1500MPa)を50/50wt%の比率で混合したものを、45mmφ2軸押出し機(L/D:19)にて溶融押出しして粘着層とした。
【0103】
(フイルムの作製)
基材層、粘着層、離型層それぞれが各押出し機にて溶融された状態のまま、250℃の3層Tダイ(マルチマニホールド型、リップ幅250mm、リップギャップ1mm)内で積層押出しを行った。押出したフイルムを温度20℃のキャスティングロールへエアーナイフで吹きつけ、12m/min速度で引取り、冷却固化した後、粘着層の表面を表面張力が37mN/mとなるようにコロナ処理を施して、基材層厚みが29μm、粘着層厚みが15μm、離型層厚みが5μmの3種3層未延伸フイルムを得た。粘着層のダイナミック硬度は、0.25gf/μm2であった。
【0104】
<粘着性高分子フィルムの製造例C2>
粘着層の非晶性PPとホモポリプロピレン樹脂の重量比を60/40wt%とした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC2を得た。得られた粘着性高分子フィルムC2の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.61GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.20gf/μm2であった。
【0105】
<粘着性高分子フィルムの製造例C3>
粘着層の非晶性PPとホモポリプロピレン樹脂の重量比を40/60wt%とした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC3を得た。得られた粘着性高分子フィルムC3の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.65GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.40gf/μm2であった。
【0106】
<粘着性高分子フィルムの製造例C4>
フィルム全体の厚みを25μm、粘着層の厚みを5μm、離型層の厚みを2μmとした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC4を得た。得られた粘着性高分子フィルムC4の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.68GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.30gf/μm2であった。
【0107】
<粘着性高分子フィルムの製造例C5>
フィルム全体の厚みを188μm、粘着層の厚みを12μm、離型層の厚みを7μmとした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC5を得た。得られた粘着性高分子フィルムC5の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.75GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.27gf/μm2であった。
【0108】
<粘着性高分子フィルムの製造例C6>
粘着層の非晶性PPとホモポリプロピレン樹脂の重量比を90/10wt%とした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC6を得た。得られた粘着性高分子フィルムC6の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.55GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.10gf/μm2であった。
【0109】
<粘着性高分子フィルムの製造例C7>
粘着層の非晶性PPとホモポリプロピレン樹脂の重量比を10/90wt%とした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC7を得た。得られた粘着性高分子フィルムC7の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.73GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、1.50gf/μm2であった。
【0110】
<粘着性高分子フィルムの製造例C8>
フィルム全体の厚みを4μm、粘着層の厚みを1μm、離型層の厚みを1μmとした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC8を得た。得られた粘着性高分子フィルムC8の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.55GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.26gf/μm2であった。
【0111】
<粘着性高分子フィルムの製造例C9>
フィルム全体の厚みを250μm、粘着層の厚みを13μm、離型層の厚みを10μmとした以外は製造例Cと同様にして粘着性高分子フィルムC9を得た。得られた粘着性高分子フィルムC9の引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、0.75GPaであり、粘着層のダイナミック硬度は、0.25gf/μm2であった。
【0112】
<粘着性高分子フィルムの製造例D>
(基材層の作成)
FS2011DG3(住友化学社製、エチレン含有量0.9質量%、メルトフローレート2.5g/10分)を60mmφ単軸押出機(L/D;22.4)にて溶融押出した。・粘着層:
H3522A(住友化学社製、メルトフローレート3g/10分)を45φ2軸押出機(L/D;19)にて溶融押出した。
【0113】
(離形層の作成)
PC523D(サンアロマー社製、メルトフローレート5g/10分)を65mmφ単軸押出機(L/D;25)にて溶融押出した。
【0114】
(フィルムの作成)
上記各押出機から押出された溶融状態の粘着層、基材層、離形層それぞれを、260℃の3層Tダイ(マルチマニホールド型、リップ幅250mm、リップギャップ1.2mm)内で積層押出した後、20℃のキャスティングロール上で冷却固化させてシートを得た。このシートを120℃で4.5倍の縦延伸をした後、50℃に加熱したロールで一度冷却した後、155℃にて7.0倍に横延伸を実施、さらに160℃の環境下で7%の緩和を実施して、粘着層10μm、基層35μm、離形層5μmの順に積層されたトータル50μmの3種3層フィルムを得た。
粘着層のダイナミック硬度は、0.30gf/μm2、粘着フィルムの引張弾性率(タテ+ヨコ/2)は、1.9GPaであった。
【0115】
<粘着性高分子フィルムの製造例E>
製造例Dにおいて、粘着層の厚みを5μm、基材層の厚みを40μm、離形層の厚みを5μmに
変更した以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを得た。この粘着層のダイナミック硬度は、0.55gf/μm2、粘着フィルムの引張弾性率は、2.0GPaであった。
【0116】
<粘着性高分子フィルムの製造例F>
厚み45μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに対し、アクリル樹脂のトルエン溶液を塗工、乾燥することによって5μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmの粘着高分子フィルムを得た。この粘着層のダイナミック硬度は、0.58gf/μm2、本フィルムの弾性率は3.8GPaであった。
【0117】
<粘着性高分子フィルムの製造例G>
厚さ45μmのエチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVA)フィルムに対し、アクリル樹脂の水分散液を塗工、乾燥することによって5μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmの粘着高分子フィルムを得た。この粘着層のダイナミック硬度は、0.31gf/μm2、本フィルムの弾性率は0.04GPaであった。
【0118】
<実施例1>
30℃、相対湿度60±5%の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜の高分子固体電解質膜面から支持体を剥離し、高分子固体電解質膜の剥離面と、幅が23cmである、製造例Aで作成した粘着性高分子フィルムの粘着面とを、粘着性高分子フィルムが高分子固体電解質膜を完全に覆うようにして貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールに通した後、幅を20cmとすることで粘着高分子フィルムの余った部分をスリットで除いてロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであった。次にこの高分子固体電解質膜積層体ロールを30℃、相対湿度30±5%の環境下に移し、
ロールから高分子固体電解質膜積層体を2m巻きだしてカールを評価した所、高分子固体電解質膜側を内側とするカールが発生した。しかし、後加工工程での取扱い性を確認するため拡げる操作を行うと問題なく拡げることができ、後加工工程での問題は発生しないことがわかった。また、得られた高分子固体電解質膜積層体は任意の形状に容易に加工することができた。他、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着性高分子フィルムの剥離強度は0.18N/20mmであり、高分子固体電解質膜を剥離して使用するにあたっても容易に実施することができた。条件及び得られた結果を表1に示す。
【0119】
<実施例2〜実施例13>
高分子固体電解質膜、粘着高分子フィルムの組み合わせを種々変更した以外は実施例1と同様に評価を実施した。得られた高分子固体電解質膜積層体は全て剥離やシワのない良好なものであり、後加工工程での取扱い性も良好であり、高分子固体電解質膜を剥離して使用するにあたっても容易に実施することができるものであった。条件及び得られた結果を表1に示す。
【0120】
<比較例1>
粘着性高分子フィルムを製造例Dで得られたものと変更した以外は実施例1と同様に評価を実施した。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであったが、粘着性高分子フィルムの弾性率が高いため後加工工程での取扱い性を確認するため拡げる操作を行うと容易に拡げることができず、後加工工程での問題が発生することがわかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0121】
<比較例2〜比較例9>
高分子固体電解質膜、粘着高分子フィルムの組み合わせを種々変更した以外は比較例1と同様に評価を実施した。得られた高分子固体電解質膜積層体は全て剥離やシワのない良好なものであったが、粘着性高分子フィルムの弾性率が高いため後加工工程での取扱い性を確認するため拡げる操作を行うと全て容易に拡げることができず、後加工工程での問題が発生することがわかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0122】
<比較例10>
粘着性高分子フィルムを製造例Gで得られたものと変更した以外は比較例1と同様に評価を実施した。製造例Gで得られた粘着性高分子フィルムの弾性率が非常に低いため、高分子固体電解質膜積層体に全てシワが発生してしまい、後加工工程での取扱い性を評価できなかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0123】
<比較例11>
粘着性高分子フィルムを製造例C6で得られたものと変更した以外は実施例3と同様に評価を実施した。粘着性高分子フィルムの粘着層のダイナミック硬度が非常に低いため、高分子固体電解質膜との積層自体に問題はなかったが両者を剥離する際に剥離強度が非常に高いため、高分子固体電解質膜にシワが多数発生してしまい、その後の工程に使用できなかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0124】
<比較例12>
粘着性高分子フィルムを製造例C7で得られたものと変更した以外は実施例3と同様に評価を実施した。粘着性高分子フィルムの粘着層のダイナミック硬度が非常に高いため、高分子固体電解質膜と積層する際に必要な剥離強度が得られず、巻き取る前に剥離することで積層体にシワが多数発生してしまい、その後の工程に使用できなかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0125】
<比較例13>
粘着性高分子フィルムを製造例C8で得られたものと変更した以外は実施例3と同様に評価を実施した。粘着性高分子フィルムの厚みが非常に薄いため、高分子固体電解質膜と積層する際に必要なフィルム全体の剛性が得られないことで積層体にシワが多数発生してしまい、その後の工程に使用できなかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0126】
<比較例14>
粘着性高分子フィルムを製造例C9で得られたものと変更した以外は実施例3と同様に評価を実施した。粘着性高分子フィルムの厚みが非常に厚いため、高分子固体電解質膜と積層する際には問題はなかったが、粘着性高分子フィルムの持つカールにより全体がカールしてしまい、その後の工程に使用することが難しかった。条件及び得られた結果を表2に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の高分子固体電解質膜積層体は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れ、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐと共に、次工程以降の使用時にカール等が発生してしまった際の取り扱い性にも優れている。
また、本発明の高分子固体電解質膜積層体は、上記の問題が発生しやすい、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなる高分子固体電解質膜に対して特に有効である。よって、耐熱性や耐メタノール透過性、価格において優れる芳香族系高分子電解質からなる高分子固体電解質膜であっても、輸送、保管、加工時の形態安定性や取扱い性に関わる問題の発生を抑制することができ、固体高分子形燃料電池の発展に大いに寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリプロピレンからなる基材層の片面に、非晶性ポリプロピレンを含有しかつ、30℃、相対湿度60%における表面のダイナミック硬度が0.15〜1.4gf/μm2の範囲である粘着層を、該基材層のもう一方の面に離形層を、それぞれ有し、30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.1GPa〜1.0GPaの範囲であり、粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが5μm以上200μm以下であり、粘着層の厚みが0.2μm以上15μm以下であり、離型層の厚みが0.15μm以上13μm以下である粘着性高分子フィルムが、該粘着層を介して高分子固体電解質膜の少なくとも片面に貼り合わされてなり、該粘着性高分子フィルムと該高分子固体電解質膜との30℃、相対湿度60%における剥離強度が0.005〜1.0N/20mmの範囲であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体。
【請求項2】
該粘着性高分子フィルムの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.3GPa以上0.8GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項3】
該粘着性高分子フィルムの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が0.4GPa以上0.7GPa以下であることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項4】
該粘着性高分子フィルムと前記高分子固体電解質膜との剥離強度が0.007N/20mm以上0.75N/20mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項5】
該粘着性高分子フィルムと前記高分子固体電解質膜との剥離強度が0.01N/20mm以上0.5N/20mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項6】
該粘着性高分子フィルムの粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが7.5μm以上160μm以下であり、粘着層の厚みが0.4μm以上13μm以下であり、離型層の厚みが0.3μm以上11μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項7】
該粘着性高分子フィルムの粘着層、基材層、離型層を合わせた全体の厚みが10μm以上120μm以下であり、粘着層の厚みが0.7μm以上11μm以下であり、離型層の厚みが0.4μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項8】
前記高分子固体電解質膜が、芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項9】
前記高分子固体電解質膜がの30℃、相対湿度60%雰囲気下における引張弾性率が1.0GPa以上(30℃、相対湿度60%)を有する芳香族炭化水素系高分子固体電解質膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項10】
ロール状に巻き取られていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項11】
前記高分子固体電解質膜が、下記一般式1で表される繰り返し単位を有する芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
【請求項12】
前記一般式1で表される繰り返し単位を有する芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーが、さらに一般式2で表される繰り返し単位を含有していることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【化2】

[一般式2において、Ar1は二価の芳香族基を、Z3はO原子又はS原子のいずれかを、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]