高分子固定型金属吸着材およびその製造方法
【課題】 広範囲な金属を迅速に吸着可能で、多種多彩な使用目的に対応可能な、高い金属吸着量を示す金属吸着材を提供する。
【解決手段】
主鎖から分岐した側鎖に一級のアミノ基を有する式(1)の官能基構造を含有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されているポリアミン系高分子が、不溶性で、かつ反応性の官能基を有する架橋性の高分子粒子あるいは繊維の担体に固定された、高分子固定型金属吸着材を用いることにより高効率の金属吸着特性を示し、かつ広範囲な金属と錯形成をすることが可能で、これらの金属を迅速な吸着・除去に対応可能なものとする。
【解決手段】
主鎖から分岐した側鎖に一級のアミノ基を有する式(1)の官能基構造を含有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されているポリアミン系高分子が、不溶性で、かつ反応性の官能基を有する架橋性の高分子粒子あるいは繊維の担体に固定された、高分子固定型金属吸着材を用いることにより高効率の金属吸着特性を示し、かつ広範囲な金属と錯形成をすることが可能で、これらの金属を迅速な吸着・除去に対応可能なものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水、用水、環境水等の被処理溶液中の広範囲な金属の除去・回収に使用される金属吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キレート樹脂は、イオン交換樹脂では困難な高濃度塩類を含む溶液中の金属元素の吸着材・回収材として利用されている。官能基構造により金属元素との錯形成能が異なるため、イミノ二酢酸(IDA)基、ポリアミン基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、グルカミン基等の官能基をもつキレート樹脂が市販されている。この内、多くの金属に対して錯形成能を示すIDA型のキレート樹脂が広く利用されている。キレート樹脂は金属吸着材として有用なものではあるが、吸着速度が遅いとされている。一般に使用されるIDA型の樹脂は、粒子状のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体にIDA基が導入されたものであり、粒子表面だけでなく基材となる樹脂内部にもIDA基が存在しており、平衡に達した状態では0.4〜0.6mmol/g以上金属吸着能力を有している。しかしながら、IDA基のほとんどは基材樹脂内部に存在しているものであり、この吸着能力は基材樹脂内部に存在するIDA基に起因している。そのため、基材樹脂内部への浸透速度が吸着速度を支配してしまうこととなる。一般に、基材樹脂内部への浸透速度は高くないため、迅速な吸着処理を行うことができない。また、IDA基は固体表面に直結して導入されているため、官能基の自由度が低いことも吸着速度が遅い一因となっている。
【0003】
このようなキレート樹脂における吸着速度の改善策として、スペーサ型のキレート樹脂に関する報告がある(非特許文献1および非特許文献2)。これらの非特許文献においては、片方の末端にアミノ基を持ち、他方の末端にキレート性官能基(ニトリロ三酢酸基あるいはIDA基)を持つ、比較的鎖長の長い化合物のアミノ基末端を介して多孔性の基材樹脂に結合したキレート樹脂を合成し、希土類元素に対しての吸着特性に関して、キレート試薬と比較している。スペーサ化合物を介してキレート性官能基を導入することにより、均一溶液中のキレート試薬と同等の吸着特性を示すことが報告されている。このことから、基材樹脂から離れた位置にキレート性官能基を持たせることで、官能基の自由度が改善されて吸着速度が大幅に改善できるものと考えられる。しかし、これらの非特許文献に示されたキレート樹脂は金属の分離剤として高い分離効率を示してはいるが、合成反応上の問題から官能基量を大きくすることができないため、吸着・除去用の吸着材としては適していない。
【0004】
上記のような問題を改善するための解決策として、キレート性官能基を多数もつ高分子を何らかの担体に固定するという方法が考えられる。高分子官能基を有するイオン交換樹脂やキレート樹脂に関するいくつかの開示がある。特許文献1には、有機溶媒中の金属の除去を目的とした、三級アミノ基型陰イオン交換樹脂にポリエチレンイミンを導入した高分子官能基型のキレート樹脂に関する開示がある。この開示例は、弱陰イオン交換樹脂の三級アンモニウム基にエポキシ基あるいはアルデヒド基を導入後、残存するエポキシ基あるいはアルデヒド基にポリエチレンイミンを反応させるというものである。ポリエチレンイミン自体もキレート性を有しており、この樹脂は水溶液中においてもキレート樹脂として機能を発揮するが、重金属に対しては効果的であるものの、カルシウムやマグネシウムに対する錯形成能は低く、広範囲に使用されているIDA型樹脂の代替とはならない。また、キレート樹脂ではないが、特許文献2には、ポリアミノ化合物が混合された樹脂成形体にポリアミノ化合物を架橋反応により固定した陰イオン交換体の開示がある。この方法により製造される陰イオン交換体の高分子官能基は架橋反応を伴って固定されているため、イオン交換体が樹脂成形体表面に層状に形成されている状態である。このような層状イオン交換体の場合、例えイオン交換容量が高いとしても、イオン交換体層へのイオンの浸透速度がイオン交換平衡を支配するため、前述したように、吸着速度を大幅に改善させることは難しい。
【0005】
また、高分子官能基を繊維に導入した吸着材に関してもいくつかの開示がある。特許文献3には、一級アミノ基を有する高分子であるポリアリルアミンをビスコース法により湿式混合紡糸をして得られるカチオン性再生セルロース繊維に関しての開示がある。この方法は、湿式混合紡糸という簡便な方法で陰イオン交換性を示すポリアミン系高分子を含有した繊維を製造できるという利点があるが、官能基となる高分子が繊維母材に埋もれて存在しているため、その自由度は決して高いものではない。この開示においては、吸着性官能基として高分子の優位性に視点を置いたものではなく、むしろ湿式混合紡糸法の制限上高分子を利用しているにすぎない。また、特許文献4には、繊維などに反応性官能基を有するモノマーをグラフト重合した後、グラフトポリマーの反応性官能基にポリアリルアミンを結合させた、イオン収着材に関する開示がある。この開示はキレート樹脂に関するものではないが、この方法により得られる繊維状吸着材は陽イオン性の高分子官能基が繊維の外側に高い自由度を持って結合しているため、陰イオン交換性の高分子官能基として効率よく機能するものと考えられる。しかしながら、グラフト重合は煩雑であり、グラフト度合いの調整も難しい。さらに、特許文献5には、特許文献4と同様のグラフト重合法を行った後にポリエチレンイミンを結合させたセレンとヒ素の繊維状吸着材が開示されている。この開示により得られる繊維状吸着材も、高分子官能基として効率よく機能するものと考えられる。しかしながら、ポリエチレンイミンは重金属に対しては効果的であるものの、カルシウムやマグネシウムに対する錯形成能は低く、広範囲に使用されているIDA型樹脂の代替とはならない。
【0006】
さらに、キレート性の高分子そのものを吸着材としたものに関しても開示がある。特許文献6にはポリアリルアミンをN−カルボキシメチル化した直鎖状の高分子に関する開示があり、有機溶媒中の金属除去が可能であると記載されている。このN−カルボキシメチル化ポリアミンはIDA型の官能基を有するため、多くの金属の吸着に利用することが可能である。しかしながら、カルボキシメチル化ポリアミンは水溶性であるため、この高分子単体では水中金属の吸着、回収材としては使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−21883号公報
【特許文献2】特開2007−39509号公報
【特許文献3】特開昭61−258801号公報
【特許文献4】特開2009−113034号公報
【特許文献5】特開2001−113272号公報
【特許文献6】特開2006−326465号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Inoue,H.Kumagai,T.Yokoyama and T.M.Suzuki.Analytical Chemistry,vol.68,p.1517−1520 (1996).
【非特許文献2】H.Kumagai,Y.Inoue,T.Yokoyama,T.M.Suzuki and T.Suzuki.Analytical Chemistry,vol.70,p.4070−4073 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、汎用性の高いイミノ二酢酸基を側鎖にもつ高分子鎖が不溶性の担体に固定されている、広範囲な金属の吸着・除去に対応可能で、かつ高い金属吸着能を示す金属吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、不溶性の担体に固定されており、主鎖から分岐した側鎖に一級のアミノ基を有する下記式(1)の官能基構造を含有し、かつ平均分子量が500〜150,000である高分子鎖中の一級アミノ基をN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とした高分子官能基を金属吸着性の官能基とすることで、高い金属吸着能を示し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着材を得ることができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に記載するものである。
(1)ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は−H またはCH3であり、R2は下記式(2)ないし(6)に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(2)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリアリルアミンポリマーまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(3)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子がアンモニアと反応させたものであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(4)上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する繊維であることを特徴とする(1)ないし(3)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(5)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを不溶性の担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
(6)ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体に反応させて不溶性の担体に固定した後,アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし,ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【0012】
不溶性の担体としては、ポリアミン系高分子が固定できるものであればどのようなものでも使用することができる。
まず担体の形態としては、粉末状のもの、粒子状のもの、あるいは繊維状のものなどがあげられるが、粒子状のもの、または繊維状のものが取扱上便利であるから、この形態のものが好ましく使用される。
粒子状のものとしては、各種のもの、たとえば高分子粒子、無機粒子などがあげられるが、好ましくは、架橋性の高分子粒子である。高分子粒子は、モノマーを選択することにより目的にかなった粒子の調製が容易であり、たとえばアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定するための官能基の選択とか、粒子の多孔質の程度の制御が容易であるなどの点から好ましい。そして、ポリアミン系高分子を高度に担体に固定するためには、比表面積の大きい多孔質の架橋性の高分子粒子を用いるのが効果的である。このような多孔質の架橋性の高分子粒子は、反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合時に、これらモノマーと相溶性があり、重合反応に寄与しない溶媒を添加して共重合させることにより得ることができる。本発明においては、平均細孔径8〜50nm、比表面積50〜1,000m2/gのものを採用するのが好ましい。
【0013】
繊維状のものとしては、各種の繊維状のものがあげられ、ポリアミン系高分子が固定できるものであればどのようなものでも差支えない。ポリアミン系高分子が固定しやすいものとしては、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、たんぱく質系繊維などがあげられる。
これらの担体については、発明を実施するための形態のところで、さらに詳細に説明する。
【0014】
不溶性の担体に固定されたポリアミン系高分子は、上述のように式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっているものである。
アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマー(以下では、アミノ基含有ポリマーという場合がある。)は、その平均分子量が500〜150,000のものである。好ましくは600〜100,000のものが使用される。この点については、発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
【0015】
アミノ基含有ポリマーは、ポリアリルアミンポリマー(ホモポリマーまたはこのコポリマー)、ポリメタクリルアミン(ホモポリマーまたはこのコポリマー)、またはグリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子をアンモニアと反応させて得られる一級アミノ基を有する高分子である。これらの点についても発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分子中に多くの金属と錯形成をすることが可能なイミノ二酢酸基を側鎖にもつ高分子鎖を金属吸着剤の官能基とすることで、高い金属吸着能を有し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1の高分子固定型金属吸着材Aと市販イミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂との種々の試料溶液pHにおける12種の金属(五価ヒ素As(V)、カルシウムCa、カドミウムCd、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Zn)の吸着特性を示すグラフである。ここで、◆は実施例1の高分子固定型金属吸着材Aの金属の回収率を示し、△は市販イミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂の金属の回収率を示す。
【図1a】図1aは、五価ヒ素As(V)の吸着特性比較を示す。
【図1b】図1bは、カルシウムCaの吸着特性比較を示す。
【図1c】図1cは、カドミウムCdの吸着特性比較を示す。
【図1d】図1dは、三価クロムCr(III)の吸着特性比較を示す。
【図1e】図1eは、銅Cuの吸着特性比較を示す。
【図1f】図1fは、鉄Feの吸着特性比較を示す。
【図1g】図1gは、マンガンMnの吸着特性比較を示す。
【図1h】図1hは、モリブデンMoの吸着特性比較を示す。
【図1i】図1iは、ニッケルNiの吸着特性比較を示す。
【図1j】図1jは、鉛Pbの吸着特性比較を示す。
【図1k】図1kは、バナジウムVの吸着特性比較を示す。
【図1l】図1lは、亜鉛Znの吸着特性比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記のように、不溶性の担体に固定されており、側鎖に一級アミノ基をもつ繰り返し単位を含有する高分子鎖中の一級アミノ基をN−カルボキシメチル化して、キレート性官能基であるIDA基を側鎖にもつ高分子官能基とすることにより、高い金属吸着能を有し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着体を製造するものである。
【0019】
不溶性の担体に固定されているポリアミン系高分子は、下記式(1)に示すとおり、側鎖に一級アミノ基をもつ繰り返し単位を分子中に含有する高分子構造の官能基構造をもつ。一般に、高分子は溶液中で完全に伸長しているものではなく、へリックス構造あるいは球状構造をして存在している。このとき、親水性の官能基はヘリックス構造の外側(水側)に向いているが、官能基が主鎖中に存在している場合には官能基の自由度は決して高くなく、主鎖の溶液中での構造に依存することとなる。そこで、非特許文献1および非特許文献2に示されているように、主鎖から何らかの基を介して官能基が存在していれば、官能基の自由度を高くすることが可能となる。このような形でキレート性官能基を導入させることができれば、官能基は水溶液中に手を伸ばした状態で存在し、かつ自由に動くことができるため、主鎖から離れた位置で効果的に錯形成能を発現することが可能となる。本発明では、官能基の自由度を高くして、均一溶液系での錯形成反応に近づけるため、側鎖としてキレート性官能基を有する高分子を用いるものである。
【0020】
そこで、上述したように、本願発明は、
「(1)ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は、 −H あるいは −CH3であり、さらにR2は、 下記式(2)ないし(6)
に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(2)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリアリルアミンまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(3)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる高分子がアンモニアと反応させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(4)上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基,クロロヒドリン基,水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子あるいは繊維であることを特徴とする(1)ないし(3)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(5)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
(6)ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体と反応させて不溶性の担体に固定した後、アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし、ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。」
に関するものである。
【0021】
本発明において、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一つの形態としては、ポリアリルアミンあるいはポリメタクリルアミンである。これらはアリルアミンあるいはメタクリルアミンの重合によって得ることができるが、ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドの還元、あるいはポリアリルクロリドまたはポリメタクリルクロリドとアンモニアとの反応によっても得ることができ、本発明ではこれらも用いることができる。また、これらのホモポリマーだけでなく他のモノマーとの共重合によって得られるコポリマーも使用することができる。例えば、アリルアミンはホモポリマーの他、ジアリルアミンとのコポリマーも容易に入手可能である。ジアリルアミンとの共重合体中には二級アミン(イミノ基)が存在するが、本発明においては一級アミンと二級アミンの比率はどのようなものであってもよい。
【0022】
また、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーのもう一つの形態としては、グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子をアンモニアと反応させて得られる一級アミノ基を有する高分子である。このような官能基を有する高分子としては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートあるいはアリルグリシジルエーテル等のようなグリシジル基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマー、クロロメチルスチレン、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート、アリルクロリド、メタクリルクロリド等のようなハロゲン化アルキル基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマー、3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンメタクリレートや3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンアクリレート等のようなクロロヒドリン基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマーがあげられる。本発明においては、これらの官能基を有する高分子を適宜選択して使用することが可能であるが、耐アルカリ性を考慮するならば、スチレン系あるいはメタクリレート系のポリマーを選択することが好ましい。
【0023】
本発明において、不溶性の担体に化学的に固定されているアミノ基含有ポリマーの平均分子量は、500〜150,000である。平均分子量が500以下であったとしても類似の金属吸着特性を示す吸着材を製造することが可能であるが、官能基鎖長が十分に長くなく、担体に近い位置に存在するため、旧来のイミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂の特性を大幅に改善することはできない。本発明の金属吸着材では側鎖にキレート性官能基をもつ高分子を吸着性の官能基とするため、キレート性官能基の自由度が高く、溶液中での反応と同様に迅速な錯形成反応が進行する。また、高分子型の官能基にすることにより、一般的なIDA型や短鎖IDA型では不可能な、1:2錯体を形成して、強く金属を吸着することが可能となる。しかしながら、平均分子量が150,000を超える場合には、高分子自身の立体障害などによって担体への反応率が低下する、高分子間の絡み合いによって官能基の自由度が低下するという問題も生じる。したがって、担体に固定される高分子の平均分子量は500〜150,000、好ましくは600〜100,000のものが使用される。
【0024】
本発明における不溶性の担体としては、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基およびアミノ基を有する繊維が用いられる。
これらの官能基のうち、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基およびクロロヒドリン基は、アミノ基含有ポリマーの有する一級アミノ基と直接反応して、アミノ基含有ポリマーを担体に固定させることが可能である。
一方、高分子粒子の有する水酸基およびアミノ基は、アミノ基含有ポリマーと直接反応させることができないため、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基を有する化合物であって水酸基またはアミノ基と反応する別の基を有する化合物と反応させてハロゲン化アルキル基、グリシジル基、あるいはクロロヒドリン基含有するものに変化させてから、アミノ基含有ポリマーと反応させ、担体に固定させる。例えば、不溶性の担体の水酸基あるいはアミノ基に、過剰のエピクロロヒドリンやエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジル化合物を反応させてグリシジル基を導入すれば、上記と同様の反応でアミノ基含有ポリマーを固定することができる。
【0025】
また、水酸基あるいはアミノ基を有する不溶性の担体に、または水酸基あるいはアミノ基を導入可能な不溶性の担体に水酸基あるいはアミノ基を導入した不溶性の担体に、グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子を反応させて固定した後、残存するこれらの官能基とアンモニアとを反応させて一級アミノ基に変換する方法によっても、一級アミノ基を側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを得ることができる。
【0026】
本発明における不溶性の担体の一つの形態としては、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基のいずれかを有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子が用いられる。
ハロゲン化アルキル基を有するモノマーとしては、例えば、クロロメチルスチレン、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート等があげられる。グリシジル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。クロロヒドリン基を有するモノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等があげられる。これら反応性モノマーと共重合が可能な架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族架橋性モノマー、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレート等の多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のシアヌル酸骨格をもつ架橋性モノマー等があげられる。
反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合は公知の懸濁重合法によって行われ、反応性官能基を有する架橋性の高分子粒子が得られる。必要に応じて、他の重合方法、例えば、塊状重合法により、反応性官能基を有する架橋性の高分子を得た後、粉砕によって高分子粒子を得てもよい。本発明においては、これらの反応性モノマーと架橋性モノマーを適宜選択して使用することが可能であるが、耐アルカリ性や耐薬品性を考慮するならば、クロロメチルスチレンとジビニルベンゼンとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子を用いることが好ましいが、水中の金属の吸着・除去を主目的とする場合には担体となる架橋性の高分子粒子にも適度な濡れ性が必要となる。この点を考慮すると、反応性モノマーあるいは架橋性モノマーのいずれかあるいは両方にメタクリレート系モノマーを使用することが好ましい。また、架橋性の高分子粒子の特性、例えば、親水性、保水性等の特性を改善するために、第3のモノマーを添加することも可能である。
【0027】
本発明の不溶性の担体に用いられる架橋性の高分子粒子としては、前記の他、水酸基およびアミノ基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子も用いることができる。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等があげられる。アミノ基を有するモノマーとしては、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等の他、前記ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基を有するモノマーとアンモニア、一級アミン、二級アミンとの反応により合成されるモノマーを使用することができる。これらの反応性モノマーは、前記と同様に適切な架橋性モノマーと共重合させて、架橋性の高分子粒子を得ることができる。
【0028】
本発明においては高分子型官能基であるポリアミン系高分子を担体に固定するものであるが、これを高度に固定するためには、比表面積の大きい多孔質の架橋性の高分子粒子を用いるのが効果的である。このような多孔質の架橋性の高分子粒子は、反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合時に、これらモノマーと相溶性があり、重合反応に寄与しない溶媒を添加して共重合させることにより得ることができる。本発明においては、平均細孔径8〜50nm、比表面積50〜1,000m2/gのものを採用するのが好ましい。
【0029】
架橋性の高分子粒子へのポリアミン系高分子の固定量は、架橋性の高分子粒子中の反応性官能基の量に依存する。反応性官能基の量は共重合時に配合される反応性モノマーの比率であり、金属吸着材の使用目的に応じて自由に変更可能である。しかし、反応性モノマーの比率を極端に多くして、共重合に用いられる架橋性モノマーの比率が低くなってしまうと、担体が軟質になるとともに、膨潤・収縮の度合いが大きくなる。高流速で金属吸着処理を行うには、膨潤・収縮が少ない、硬質の吸着材であることが好ましい。一方、反応性モノマーの比率が低くなってしまうと、高分子官能基の固定量が低くなってしまう。そのため、架橋性モノマーの比率は10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%とし、残りを反応性モノマーで占めるようにする。また、担体である架橋性の高分子粒子の特性を改善するために、反応性モノマーの一部を第3のモノマーに置き換えてもよいが、第3のモノマーの比率は20重量%以下とすることが望ましい。
【0030】
本発明のポリアミン系高分子が固定される不溶性の担体のもう一つの形態としては、水酸基あるいはアミノ基を有する繊維である。水酸基を有する繊維としては種々の繊維があるが、水酸基量が多いほどポリアミン系高分子を固定しやすくなるとともに、高い濡れ性を有する吸着材が得られるため、本発明ではレーヨン等のセルロース系繊維あるいはポリビニルアルコール系繊維を用いる。また、アミノ基を有する繊維としては、キトサン等のセルロース系繊維、ケラチンを含む羊毛などのたんぱく質系繊維等を用いる。これらの繊維へポリアミン系高分子の固定は、前述のように、水酸基をもつ繊維の場合には、一次反応としてエピクロロヒドリンやエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルを反応させてグリシジル基を導入後、一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定すればよく、アミノ基を有する繊維の場合も、同様の一次反応を行った後にアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定させればよい。また、水酸基あるいはアミノ基に、グリシジル基、クロロヒドリン基およびハロゲン化アルキル基のいずれかを有する高分子を固定後、アンモニアと反応させて、残存するこれらの官能基を一級アミノ基に変換するといった方法によっても、同様のアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを得ることができる。
【0031】
本発明の高分子固定型金属吸着剤は以下の方法により製造される。すなわち、
(1)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体、あるいはこれらの官能基のいずれかを導入可能な不溶性の担体にこれらの官能基を導入してこれらの官能基を有する不溶性の担体を用意する、
(2)(1)の不溶性の担体と一級アミンを側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを不溶性の担体に固定する、
(3)不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの側鎖にある一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基とする、
という工程により、金属吸着性の高分子官能基とする高分子固定型金属吸着材を製造する。
【0032】
反応性官能基を有する不溶性の担体と一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとの反応は、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解してのち、溶解した溶液中に反応性官能基を有する不溶性の担体を分散させて、攪拌下、室温〜80℃で、1〜60時間の反応により担体に固定する。この時、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一級アミノ基と不溶性の担体中の反応性官能基とが反応し、一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが不溶性の担体に固定される。
【0033】
また、本発明の高分子固定型金属吸着剤は以下の方法によっても製造することができる。すなわち、
(1)水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体、あるいはこれらの官能基のいずれかを導入可能な不溶性の担体にこれらの官能基を導入してこれらの官能基を有する不溶性の担体を用意する、
(2)グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子を用意する、
(3)(1)の不溶性の担体と上記(2)の高分子とを反応させて不溶性の担体に(2)の高分子を固定する、
(4)固定された(2)の高分子の有する官能基とアンモニアとを反応させて一級アミノ基を側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとする、
(5)不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの側鎖にある一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させる、
という工程により、金属吸着性の高分子官能基とする高分子固定型金属吸着材を製造することも可能である。この場合も反応方法は上記段落の製造方法と同様であるが、高分子を固定した後、アンモニアで処理して一級アミノ基を導入するという工程が加わる。
【0034】
不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基は、N−カルボキシメチル化されキレート性官能基であるIDA基に変換される。N−カルボキシメチル化は公知の方法によって行う。すなわち、0.5〜2Mの水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、さらには炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液中で、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一級アミノ基と、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等のハロゲン化酢酸との反応により行う。この時用いるハロゲン化酢酸の使用量は、担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーに含まれる窒素量に対して2倍モル以上使用してカルボキシメチル化を行う。ハロゲン化酢酸の使用量が2倍モル以下の場合には一級アミノ基のカルボキシメチル化度が低くなり十分な金属吸着特性を得ることができない。高い金属吸着量を得るためには、ハロゲン化酢酸の使用量は、2倍モル、好ましくは3倍モル以上用いる。一般に、一級アミノ基には2分子のカルボキシメチル基が導入されてIDA基になる。しかし、高分子のN−カルボキシメチル化においては立体障害によりすべての一級アミノ基に2分子のカルボキシメチル基が導入されてIDA基となるわけではなく、1分子しか導入されない一級アミノ基も一部存在してしまう。また、高分子に二級アミン(イミノ基)が存在している場合、これらもN−カルボキシメチル化される。例えば、アリルアミンとジアリルアミンとのコポリマーの場合、ジアリルアミン部位は二級アミン(イミノ基)であるため、1分子のカルボキシメチル基が導入される。1分子のカルボキシメチル基が導入された一級アミノ基、カルボキシメチル化されたイミノ基も金属と錯形成するが、IDA基よりも金属吸着能は低い。しかし、部分的にこれらの官能基が存在しても吸着特性が大きく低下することはない。
【0035】
以上のようにして得られる、一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されたIDA基の繰り返し単位を高分子官能基中にもつ高分子固定型金属吸着体は、例えば、水溶液中の重金属の吸着・除去、回収などに使用される。
なお、本発明の高分子固定型金属吸着材を用いて水溶液中の重金属を吸着・除去する条件は、本発明の記載により限定されるものではないが、例えば、銅、鉛、カドミウムの吸着に主眼をおく場合は、被処理溶液のpHを4〜7、好ましくは5〜6に調整することにより、それら金属を効率よく吸着することができる。この吸着最適pH域は金属により異なるため、目的金属の吸着特性に合わせて調整すれば種々の金属の吸着に適用することができる。さらに、重金属を吸着した金属吸着材を、例えば硝酸や塩酸等の酸性水溶液で処理すると、吸着された重金属は速やかに脱離するので、吸着した重金属を高効率で回収できるとともに、金属吸着材の再生を行うことができる。
【0036】
つぎに実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明は何ら限定されない。
【実施例1】
【0037】
高分子固定型金属吸着材Aの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
架橋性の高分子粒子の合成は、公知の懸濁重合法に従い行った。グリシジルメタクリレート60g、エチレンジメタクリレート140g、酢酸ブチル200gを混合した溶媒中に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解し、0.1%ポリビニルアルコール(重合度500)水溶液2,000mL中に加え、油滴径が60μmになるように攪拌羽根で攪拌し、70℃で6時間重合反応を行った。反応後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥した。その後、分級して45〜90μmの架橋性の高分子粒子85gを得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径をBeckman Coulter SA3100 Surface Area Analyzerで測定したところ、それぞれ228m2/g及び10.8nmであった。
【0038】
(2) 高分子鎖の固定
一級アミノ基を側鎖にもつ高分子としてポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−01、平均分子量:1,000、15%水溶液)を選び、その70mLを水130mLと混合し、前記実施例1の(1)で得られた架橋性の高分子粒子20gを加え、60℃で8時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄後、乾燥させ、一級アミノ基をもつ高分子鎖が固定された架橋性の高分子粒子を得た。この架橋性高分子の窒素量を元素分析装置(パーキンエルマー社製2400 Series II CHNS/O Elemental Analyzer)で測定したところ、4.28%であった。
【0039】
(3) N−カルボキシメチル化
イソプロピルアルコール20mLと1M水酸化ナトリウム80mLとを混合した溶液に、クロロ酢酸ナトリウム18gを溶解し、前記実施例1の(2)で得た一級アミノ基をもつ高分子鎖が固定された架橋性の高分子粒子10gを加え、50℃で6時間反応させた。この反応条件において、クロロ酢酸ナトリウムは、一級アミノ基を有する高分子が固定された架橋性の高分子粒子の窒素量の5倍モルである。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、高分子固定型金属吸着材Aを得た。
【0040】
(4) 金属吸着量の評価
前記実施例1の(3)で得られた高分子固定型金属吸着材Aを60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、その250mgを下部に孔径20μmのフィルタを挿入した注射筒型リザーバに充填し、さらに上部にも孔径20μmのフィルタを挿入した。このリザーバに、アセトニトリル、純水、3M硝酸、純水及び0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液して、リザーバ内の金属吸着材をコンディショニングした。その後、0.05M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)で調整された0.5M硫酸銅溶液3mLをゆっくり通液し、充填された金属吸着材を銅で飽和させた。その後、純水10mL、0.005Mの硝酸5mLで洗浄後、金属吸着材に吸着させた銅を3M硝酸3mLで溶出させ、溶出液を10mLに定容後、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定して銅吸着量を求めた。本高分子固定型金属吸着材Aの金属吸着量は0.85mmol Cu/gであり、市販IDA型キレート樹脂よりも高い金属吸着量を示した。
【0041】
(5) 金属吸着特性の比較
前記実施例1の(3)で得られた高分子固定型金属吸着材Aを前記実施例1の(4)と同様に固相抽出カートリッジに充填し、同様のコンディショニングを行った。その後、種々のpHに調整した金属混合標準液(各0.1mg/Lの五価ヒ素As(V)、カルシウムCa、カドミウムCd、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znを含む溶液)を通液し、金属を吸着させた。吸着させた金属は、前記実施例1の(4)と同様に3M硝酸3mLで溶出させ、ICP発光分析装置(パーキンエルマー社製Optima 3000 DV)を用いて溶液中濃度を測定し、吸着回収率を求めた。比較として、市販IDA型キレート樹脂であるキレックス100(バイオラッドラボラトリーズ社製、交換容量:0.4meq/mL)を用いて同様の金属吸着特性比較試験を行った。結果を図1(図1aないし図1lを含む。)に示す。本高分子固定型金属吸着材のキレート性官能基はIDA型であるため、図1に示すとおり、基本的には市販IDA型キレート樹脂と類似の吸着特性を示した。しかし、カドミウム、銅、鉄、ニッケル、鉛に関しては、酸性側での回収率が改善されており、特に鉄に関しては大幅な改善が見られている。カルシウムに関してはIDA型での錯体の安定度定数が低い元素の一つであるが、酸性側での回収率が改善されている。さらに、ヒ素、クロム、バナジウムに関しては、回収率が低いものの、市販IDA型キレート樹脂よりも高い回収率を示した。特に、クロムはアミノカルボン酸型キレート剤に対して錯形成速度が遅いとされている元素であるが、本高分子固定型金属吸着材ではかなり高い回収率が得られており、高分子官能基を用いた結果、吸着特性や速度が改善されたものと判断できる。
【実施例2】
【0042】
高分子固定型金属吸着材Bの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
クロロメチルスチレン80g、ジビニルベンゼン120g、トルエン140g、ラウリルアルコール60gを混合した溶媒中に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解し、0.1%ポリビニルアルコール(重合度500)水溶液2,000mL中に加え、油滴径が60μmになるように攪拌羽根で攪拌し、70℃で6時間重合反応を行った。反応後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥した。その後、分級して45〜90μmの架橋性の高分子粒子80gを得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径は、それぞれ590m2/g及び11.2nmであった。
【0043】
(2) 高分子鎖の固定とN−カルボキシメチル化
一級アミノ基の繰り返し単位をもつ高分子としてポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−03、平均分子量:3,000、15%水溶液)を選び、前記実施例1の(2)と同様の条件で前記実施例2の(1)で得られた架橋性の高分子粒子に高分子鎖を固定した。この架橋性高分子の窒素量は8.59%であった。この高分子鎖を固定した高分子粒子を、前記実施例1の(2)と同じ条件でカルボキシメチル化を行った。但し、モノクロロ酢酸ナトリウム量は、窒素量の3.5倍モルに相当する25gを使用した。この反応により、高分子固定型金属吸着材Bを得た。得られた高分子固定型金属吸着材Bを、前記実施例1の(4)と同様の方法で銅吸着量を求めたところ、1.52mmol Cu/gであった。
【実施例3】
【0044】
高分子固定型金属吸着材Cの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
ジエチレングリコールモノメタクリレート (日本油脂社製、ブレンマーPE−90) 50gおよびエチレンジメタクリレート150gをモノマーとして、実施例1の(1)と同様の方法により、水酸基を有する架橋性の高分子粒子を得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径は、それぞれ204m2/g及び12.5nmであった。
【0045】
(2) 高分子鎖の固定とN−カルボキシメチル化
グリシジル基を有する高分子としてグリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートの1:1のコポリマー(日油製、ブレンマーCP−0150M、平均分子量:8,000〜10,000)を選び、その20gをジメチルホルムアミド200mLに溶解し、ほうフッ化亜鉛 (Zn(BF4)2) 1gを加えた後、前記実施例3の(1)で得られた水酸基を有する架橋性の高分子20gを加え、40℃で2時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、ジメチルホルムアミド、メタノールの順で洗浄後、乾燥させた。イソプロピルアルコール40mLと水120mLとの混合溶液に28%のアンモニア水40mLを加えた溶液中に、上記反応により得られた高分子鎖を固定した架橋性の高分子粒子の全量を加え、室温で攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄後、乾燥させ、一級アミノ基を有する高分子化合物が固定された架橋性の高分子粒子を得た。この架橋性高分子の窒素量を元素分析装置で測定したところ、2.46%であった。この高分子鎖を固定した高分子粒子を、前記実施例1の(2)と同じ条件でカルボキシメチル化を行った。但し、モノクロロ酢酸ナトリウム量は、窒素量の4倍モルに相当する11gを使用した。この反応により、高分子固定型金属吸着材Cを得た。得られた高分子固定型金属吸着材Cを、前記実施例1の(4)と同様の方法で銅吸着量を求めたところ、0.48mmol Cu/gであった。
【実施例4】
【0046】
高分子固定型金属吸着材Dの製造
(1) セルロースへの高分子鎖の固定
ビスコース法により得られたセルロース繊維(繊維径:1.7dtex、繊維長:51mm)20gを、1M水酸化ナトリウムにエピクロロヒドリン20gを加えた溶液中に分散させ、40℃で3時間反応させた。反応後、反応物を濾別し、水、メタノール、水の順で洗浄後、全量をポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−08、平均分子量:8,000、15%水溶液)80mLと水120mLの混合溶液中に入れ、40℃で4時間反応させた。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、ポリアミン系高分子を固定したセルロース繊維を得た。この高分子鎖を固定したセルロース繊維の窒素量は、3.12N%であった。
【0047】
(2) N−カルボキシメチル化
イソプロピルアルコール20mLと1M水酸化ナトリウム80mLとを混合した溶液に、クロロ酢酸ナトリウム13gを溶解し、前記実施例4の(1)で得た一級アミノ基を有する高分子が固定されたセルロース繊維10gを加え、50℃で6時間反応させた。この反応条件において、クロロ酢酸ナトリウムは、一級アミノ基を有する高分子が固定された架橋性の高分子粒子の窒素量の5倍モルである。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、高分子固定型金属吸着材Dを得た。この高分子固定型金属吸着材Cを前記実施例1の(4)と同様の方法により銅吸着量を求めたところ、0.67mmol Cu/gであり、十分な金属吸着量を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、分子中に金属と錯形成をすることが可能な官能基を多数有する高分子を、金属吸着性の官能基として、架橋性の高分子粒子あるいは繊維に固定することにより、高い金属吸着能を有し、吸着特性の良好な金属吸着体を製造することが可能となる。これらの金属吸着材は広範囲の重金属類を広いpH範囲で高度に吸着することが可能であるため、排水や用水中の重金属除去、環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収、さらには食品や飲料水中からの有害金属の除去が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
◆:実施例1の高分子固定型金属吸着材Aにおける金属の回収率
△:市販イミノ二酢酸型キレート樹脂における金属の回収率
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水、用水、環境水等の被処理溶液中の広範囲な金属の除去・回収に使用される金属吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キレート樹脂は、イオン交換樹脂では困難な高濃度塩類を含む溶液中の金属元素の吸着材・回収材として利用されている。官能基構造により金属元素との錯形成能が異なるため、イミノ二酢酸(IDA)基、ポリアミン基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、グルカミン基等の官能基をもつキレート樹脂が市販されている。この内、多くの金属に対して錯形成能を示すIDA型のキレート樹脂が広く利用されている。キレート樹脂は金属吸着材として有用なものではあるが、吸着速度が遅いとされている。一般に使用されるIDA型の樹脂は、粒子状のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体にIDA基が導入されたものであり、粒子表面だけでなく基材となる樹脂内部にもIDA基が存在しており、平衡に達した状態では0.4〜0.6mmol/g以上金属吸着能力を有している。しかしながら、IDA基のほとんどは基材樹脂内部に存在しているものであり、この吸着能力は基材樹脂内部に存在するIDA基に起因している。そのため、基材樹脂内部への浸透速度が吸着速度を支配してしまうこととなる。一般に、基材樹脂内部への浸透速度は高くないため、迅速な吸着処理を行うことができない。また、IDA基は固体表面に直結して導入されているため、官能基の自由度が低いことも吸着速度が遅い一因となっている。
【0003】
このようなキレート樹脂における吸着速度の改善策として、スペーサ型のキレート樹脂に関する報告がある(非特許文献1および非特許文献2)。これらの非特許文献においては、片方の末端にアミノ基を持ち、他方の末端にキレート性官能基(ニトリロ三酢酸基あるいはIDA基)を持つ、比較的鎖長の長い化合物のアミノ基末端を介して多孔性の基材樹脂に結合したキレート樹脂を合成し、希土類元素に対しての吸着特性に関して、キレート試薬と比較している。スペーサ化合物を介してキレート性官能基を導入することにより、均一溶液中のキレート試薬と同等の吸着特性を示すことが報告されている。このことから、基材樹脂から離れた位置にキレート性官能基を持たせることで、官能基の自由度が改善されて吸着速度が大幅に改善できるものと考えられる。しかし、これらの非特許文献に示されたキレート樹脂は金属の分離剤として高い分離効率を示してはいるが、合成反応上の問題から官能基量を大きくすることができないため、吸着・除去用の吸着材としては適していない。
【0004】
上記のような問題を改善するための解決策として、キレート性官能基を多数もつ高分子を何らかの担体に固定するという方法が考えられる。高分子官能基を有するイオン交換樹脂やキレート樹脂に関するいくつかの開示がある。特許文献1には、有機溶媒中の金属の除去を目的とした、三級アミノ基型陰イオン交換樹脂にポリエチレンイミンを導入した高分子官能基型のキレート樹脂に関する開示がある。この開示例は、弱陰イオン交換樹脂の三級アンモニウム基にエポキシ基あるいはアルデヒド基を導入後、残存するエポキシ基あるいはアルデヒド基にポリエチレンイミンを反応させるというものである。ポリエチレンイミン自体もキレート性を有しており、この樹脂は水溶液中においてもキレート樹脂として機能を発揮するが、重金属に対しては効果的であるものの、カルシウムやマグネシウムに対する錯形成能は低く、広範囲に使用されているIDA型樹脂の代替とはならない。また、キレート樹脂ではないが、特許文献2には、ポリアミノ化合物が混合された樹脂成形体にポリアミノ化合物を架橋反応により固定した陰イオン交換体の開示がある。この方法により製造される陰イオン交換体の高分子官能基は架橋反応を伴って固定されているため、イオン交換体が樹脂成形体表面に層状に形成されている状態である。このような層状イオン交換体の場合、例えイオン交換容量が高いとしても、イオン交換体層へのイオンの浸透速度がイオン交換平衡を支配するため、前述したように、吸着速度を大幅に改善させることは難しい。
【0005】
また、高分子官能基を繊維に導入した吸着材に関してもいくつかの開示がある。特許文献3には、一級アミノ基を有する高分子であるポリアリルアミンをビスコース法により湿式混合紡糸をして得られるカチオン性再生セルロース繊維に関しての開示がある。この方法は、湿式混合紡糸という簡便な方法で陰イオン交換性を示すポリアミン系高分子を含有した繊維を製造できるという利点があるが、官能基となる高分子が繊維母材に埋もれて存在しているため、その自由度は決して高いものではない。この開示においては、吸着性官能基として高分子の優位性に視点を置いたものではなく、むしろ湿式混合紡糸法の制限上高分子を利用しているにすぎない。また、特許文献4には、繊維などに反応性官能基を有するモノマーをグラフト重合した後、グラフトポリマーの反応性官能基にポリアリルアミンを結合させた、イオン収着材に関する開示がある。この開示はキレート樹脂に関するものではないが、この方法により得られる繊維状吸着材は陽イオン性の高分子官能基が繊維の外側に高い自由度を持って結合しているため、陰イオン交換性の高分子官能基として効率よく機能するものと考えられる。しかしながら、グラフト重合は煩雑であり、グラフト度合いの調整も難しい。さらに、特許文献5には、特許文献4と同様のグラフト重合法を行った後にポリエチレンイミンを結合させたセレンとヒ素の繊維状吸着材が開示されている。この開示により得られる繊維状吸着材も、高分子官能基として効率よく機能するものと考えられる。しかしながら、ポリエチレンイミンは重金属に対しては効果的であるものの、カルシウムやマグネシウムに対する錯形成能は低く、広範囲に使用されているIDA型樹脂の代替とはならない。
【0006】
さらに、キレート性の高分子そのものを吸着材としたものに関しても開示がある。特許文献6にはポリアリルアミンをN−カルボキシメチル化した直鎖状の高分子に関する開示があり、有機溶媒中の金属除去が可能であると記載されている。このN−カルボキシメチル化ポリアミンはIDA型の官能基を有するため、多くの金属の吸着に利用することが可能である。しかしながら、カルボキシメチル化ポリアミンは水溶性であるため、この高分子単体では水中金属の吸着、回収材としては使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−21883号公報
【特許文献2】特開2007−39509号公報
【特許文献3】特開昭61−258801号公報
【特許文献4】特開2009−113034号公報
【特許文献5】特開2001−113272号公報
【特許文献6】特開2006−326465号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Inoue,H.Kumagai,T.Yokoyama and T.M.Suzuki.Analytical Chemistry,vol.68,p.1517−1520 (1996).
【非特許文献2】H.Kumagai,Y.Inoue,T.Yokoyama,T.M.Suzuki and T.Suzuki.Analytical Chemistry,vol.70,p.4070−4073 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、汎用性の高いイミノ二酢酸基を側鎖にもつ高分子鎖が不溶性の担体に固定されている、広範囲な金属の吸着・除去に対応可能で、かつ高い金属吸着能を示す金属吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、不溶性の担体に固定されており、主鎖から分岐した側鎖に一級のアミノ基を有する下記式(1)の官能基構造を含有し、かつ平均分子量が500〜150,000である高分子鎖中の一級アミノ基をN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とした高分子官能基を金属吸着性の官能基とすることで、高い金属吸着能を示し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着材を得ることができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に記載するものである。
(1)ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は−H またはCH3であり、R2は下記式(2)ないし(6)に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(2)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリアリルアミンポリマーまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(3)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子がアンモニアと反応させたものであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(4)上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する繊維であることを特徴とする(1)ないし(3)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(5)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを不溶性の担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
(6)ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体に反応させて不溶性の担体に固定した後,アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし,ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【0012】
不溶性の担体としては、ポリアミン系高分子が固定できるものであればどのようなものでも使用することができる。
まず担体の形態としては、粉末状のもの、粒子状のもの、あるいは繊維状のものなどがあげられるが、粒子状のもの、または繊維状のものが取扱上便利であるから、この形態のものが好ましく使用される。
粒子状のものとしては、各種のもの、たとえば高分子粒子、無機粒子などがあげられるが、好ましくは、架橋性の高分子粒子である。高分子粒子は、モノマーを選択することにより目的にかなった粒子の調製が容易であり、たとえばアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定するための官能基の選択とか、粒子の多孔質の程度の制御が容易であるなどの点から好ましい。そして、ポリアミン系高分子を高度に担体に固定するためには、比表面積の大きい多孔質の架橋性の高分子粒子を用いるのが効果的である。このような多孔質の架橋性の高分子粒子は、反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合時に、これらモノマーと相溶性があり、重合反応に寄与しない溶媒を添加して共重合させることにより得ることができる。本発明においては、平均細孔径8〜50nm、比表面積50〜1,000m2/gのものを採用するのが好ましい。
【0013】
繊維状のものとしては、各種の繊維状のものがあげられ、ポリアミン系高分子が固定できるものであればどのようなものでも差支えない。ポリアミン系高分子が固定しやすいものとしては、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、たんぱく質系繊維などがあげられる。
これらの担体については、発明を実施するための形態のところで、さらに詳細に説明する。
【0014】
不溶性の担体に固定されたポリアミン系高分子は、上述のように式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっているものである。
アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマー(以下では、アミノ基含有ポリマーという場合がある。)は、その平均分子量が500〜150,000のものである。好ましくは600〜100,000のものが使用される。この点については、発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
【0015】
アミノ基含有ポリマーは、ポリアリルアミンポリマー(ホモポリマーまたはこのコポリマー)、ポリメタクリルアミン(ホモポリマーまたはこのコポリマー)、またはグリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子をアンモニアと反応させて得られる一級アミノ基を有する高分子である。これらの点についても発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分子中に多くの金属と錯形成をすることが可能なイミノ二酢酸基を側鎖にもつ高分子鎖を金属吸着剤の官能基とすることで、高い金属吸着能を有し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1の高分子固定型金属吸着材Aと市販イミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂との種々の試料溶液pHにおける12種の金属(五価ヒ素As(V)、カルシウムCa、カドミウムCd、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Zn)の吸着特性を示すグラフである。ここで、◆は実施例1の高分子固定型金属吸着材Aの金属の回収率を示し、△は市販イミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂の金属の回収率を示す。
【図1a】図1aは、五価ヒ素As(V)の吸着特性比較を示す。
【図1b】図1bは、カルシウムCaの吸着特性比較を示す。
【図1c】図1cは、カドミウムCdの吸着特性比較を示す。
【図1d】図1dは、三価クロムCr(III)の吸着特性比較を示す。
【図1e】図1eは、銅Cuの吸着特性比較を示す。
【図1f】図1fは、鉄Feの吸着特性比較を示す。
【図1g】図1gは、マンガンMnの吸着特性比較を示す。
【図1h】図1hは、モリブデンMoの吸着特性比較を示す。
【図1i】図1iは、ニッケルNiの吸着特性比較を示す。
【図1j】図1jは、鉛Pbの吸着特性比較を示す。
【図1k】図1kは、バナジウムVの吸着特性比較を示す。
【図1l】図1lは、亜鉛Znの吸着特性比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記のように、不溶性の担体に固定されており、側鎖に一級アミノ基をもつ繰り返し単位を含有する高分子鎖中の一級アミノ基をN−カルボキシメチル化して、キレート性官能基であるIDA基を側鎖にもつ高分子官能基とすることにより、高い金属吸着能を有し、かつ広範囲な金属の迅速な吸着・除去に対応可能な高分子固定型の金属吸着体を製造するものである。
【0019】
不溶性の担体に固定されているポリアミン系高分子は、下記式(1)に示すとおり、側鎖に一級アミノ基をもつ繰り返し単位を分子中に含有する高分子構造の官能基構造をもつ。一般に、高分子は溶液中で完全に伸長しているものではなく、へリックス構造あるいは球状構造をして存在している。このとき、親水性の官能基はヘリックス構造の外側(水側)に向いているが、官能基が主鎖中に存在している場合には官能基の自由度は決して高くなく、主鎖の溶液中での構造に依存することとなる。そこで、非特許文献1および非特許文献2に示されているように、主鎖から何らかの基を介して官能基が存在していれば、官能基の自由度を高くすることが可能となる。このような形でキレート性官能基を導入させることができれば、官能基は水溶液中に手を伸ばした状態で存在し、かつ自由に動くことができるため、主鎖から離れた位置で効果的に錯形成能を発現することが可能となる。本発明では、官能基の自由度を高くして、均一溶液系での錯形成反応に近づけるため、側鎖としてキレート性官能基を有する高分子を用いるものである。
【0020】
そこで、上述したように、本願発明は、
「(1)ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は、 −H あるいは −CH3であり、さらにR2は、 下記式(2)ないし(6)
に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(2)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリアリルアミンまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(3)上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが,ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー,ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる高分子がアンモニアと反応させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(4)上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基,クロロヒドリン基,水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子あるいは繊維であることを特徴とする(1)ないし(3)に記載の高分子固定型金属吸着材。
(5)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
(6)ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー,ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体と反応させて不溶性の担体に固定した後、アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし、ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする(1)ないし(4)記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。」
に関するものである。
【0021】
本発明において、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一つの形態としては、ポリアリルアミンあるいはポリメタクリルアミンである。これらはアリルアミンあるいはメタクリルアミンの重合によって得ることができるが、ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドの還元、あるいはポリアリルクロリドまたはポリメタクリルクロリドとアンモニアとの反応によっても得ることができ、本発明ではこれらも用いることができる。また、これらのホモポリマーだけでなく他のモノマーとの共重合によって得られるコポリマーも使用することができる。例えば、アリルアミンはホモポリマーの他、ジアリルアミンとのコポリマーも容易に入手可能である。ジアリルアミンとの共重合体中には二級アミン(イミノ基)が存在するが、本発明においては一級アミンと二級アミンの比率はどのようなものであってもよい。
【0022】
また、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーのもう一つの形態としては、グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子をアンモニアと反応させて得られる一級アミノ基を有する高分子である。このような官能基を有する高分子としては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートあるいはアリルグリシジルエーテル等のようなグリシジル基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマー、クロロメチルスチレン、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート、アリルクロリド、メタクリルクロリド等のようなハロゲン化アルキル基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマー、3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンメタクリレートや3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンアクリレート等のようなクロロヒドリン基を有するモノマーのホモポリマーあるいはコポリマーがあげられる。本発明においては、これらの官能基を有する高分子を適宜選択して使用することが可能であるが、耐アルカリ性を考慮するならば、スチレン系あるいはメタクリレート系のポリマーを選択することが好ましい。
【0023】
本発明において、不溶性の担体に化学的に固定されているアミノ基含有ポリマーの平均分子量は、500〜150,000である。平均分子量が500以下であったとしても類似の金属吸着特性を示す吸着材を製造することが可能であるが、官能基鎖長が十分に長くなく、担体に近い位置に存在するため、旧来のイミノ二酢酸(IDA)型キレート樹脂の特性を大幅に改善することはできない。本発明の金属吸着材では側鎖にキレート性官能基をもつ高分子を吸着性の官能基とするため、キレート性官能基の自由度が高く、溶液中での反応と同様に迅速な錯形成反応が進行する。また、高分子型の官能基にすることにより、一般的なIDA型や短鎖IDA型では不可能な、1:2錯体を形成して、強く金属を吸着することが可能となる。しかしながら、平均分子量が150,000を超える場合には、高分子自身の立体障害などによって担体への反応率が低下する、高分子間の絡み合いによって官能基の自由度が低下するという問題も生じる。したがって、担体に固定される高分子の平均分子量は500〜150,000、好ましくは600〜100,000のものが使用される。
【0024】
本発明における不溶性の担体としては、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基およびアミノ基を有する繊維が用いられる。
これらの官能基のうち、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基およびクロロヒドリン基は、アミノ基含有ポリマーの有する一級アミノ基と直接反応して、アミノ基含有ポリマーを担体に固定させることが可能である。
一方、高分子粒子の有する水酸基およびアミノ基は、アミノ基含有ポリマーと直接反応させることができないため、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基を有する化合物であって水酸基またはアミノ基と反応する別の基を有する化合物と反応させてハロゲン化アルキル基、グリシジル基、あるいはクロロヒドリン基含有するものに変化させてから、アミノ基含有ポリマーと反応させ、担体に固定させる。例えば、不溶性の担体の水酸基あるいはアミノ基に、過剰のエピクロロヒドリンやエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジル化合物を反応させてグリシジル基を導入すれば、上記と同様の反応でアミノ基含有ポリマーを固定することができる。
【0025】
また、水酸基あるいはアミノ基を有する不溶性の担体に、または水酸基あるいはアミノ基を導入可能な不溶性の担体に水酸基あるいはアミノ基を導入した不溶性の担体に、グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子を反応させて固定した後、残存するこれらの官能基とアンモニアとを反応させて一級アミノ基に変換する方法によっても、一級アミノ基を側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを得ることができる。
【0026】
本発明における不溶性の担体の一つの形態としては、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基のいずれかを有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子が用いられる。
ハロゲン化アルキル基を有するモノマーとしては、例えば、クロロメチルスチレン、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート等があげられる。グリシジル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。クロロヒドリン基を有するモノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等があげられる。これら反応性モノマーと共重合が可能な架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族架橋性モノマー、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレート等の多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のシアヌル酸骨格をもつ架橋性モノマー等があげられる。
反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合は公知の懸濁重合法によって行われ、反応性官能基を有する架橋性の高分子粒子が得られる。必要に応じて、他の重合方法、例えば、塊状重合法により、反応性官能基を有する架橋性の高分子を得た後、粉砕によって高分子粒子を得てもよい。本発明においては、これらの反応性モノマーと架橋性モノマーを適宜選択して使用することが可能であるが、耐アルカリ性や耐薬品性を考慮するならば、クロロメチルスチレンとジビニルベンゼンとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子を用いることが好ましいが、水中の金属の吸着・除去を主目的とする場合には担体となる架橋性の高分子粒子にも適度な濡れ性が必要となる。この点を考慮すると、反応性モノマーあるいは架橋性モノマーのいずれかあるいは両方にメタクリレート系モノマーを使用することが好ましい。また、架橋性の高分子粒子の特性、例えば、親水性、保水性等の特性を改善するために、第3のモノマーを添加することも可能である。
【0027】
本発明の不溶性の担体に用いられる架橋性の高分子粒子としては、前記の他、水酸基およびアミノ基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合により得られる架橋性の高分子粒子も用いることができる。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等があげられる。アミノ基を有するモノマーとしては、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等の他、前記ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基を有するモノマーとアンモニア、一級アミン、二級アミンとの反応により合成されるモノマーを使用することができる。これらの反応性モノマーは、前記と同様に適切な架橋性モノマーと共重合させて、架橋性の高分子粒子を得ることができる。
【0028】
本発明においては高分子型官能基であるポリアミン系高分子を担体に固定するものであるが、これを高度に固定するためには、比表面積の大きい多孔質の架橋性の高分子粒子を用いるのが効果的である。このような多孔質の架橋性の高分子粒子は、反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合時に、これらモノマーと相溶性があり、重合反応に寄与しない溶媒を添加して共重合させることにより得ることができる。本発明においては、平均細孔径8〜50nm、比表面積50〜1,000m2/gのものを採用するのが好ましい。
【0029】
架橋性の高分子粒子へのポリアミン系高分子の固定量は、架橋性の高分子粒子中の反応性官能基の量に依存する。反応性官能基の量は共重合時に配合される反応性モノマーの比率であり、金属吸着材の使用目的に応じて自由に変更可能である。しかし、反応性モノマーの比率を極端に多くして、共重合に用いられる架橋性モノマーの比率が低くなってしまうと、担体が軟質になるとともに、膨潤・収縮の度合いが大きくなる。高流速で金属吸着処理を行うには、膨潤・収縮が少ない、硬質の吸着材であることが好ましい。一方、反応性モノマーの比率が低くなってしまうと、高分子官能基の固定量が低くなってしまう。そのため、架橋性モノマーの比率は10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%とし、残りを反応性モノマーで占めるようにする。また、担体である架橋性の高分子粒子の特性を改善するために、反応性モノマーの一部を第3のモノマーに置き換えてもよいが、第3のモノマーの比率は20重量%以下とすることが望ましい。
【0030】
本発明のポリアミン系高分子が固定される不溶性の担体のもう一つの形態としては、水酸基あるいはアミノ基を有する繊維である。水酸基を有する繊維としては種々の繊維があるが、水酸基量が多いほどポリアミン系高分子を固定しやすくなるとともに、高い濡れ性を有する吸着材が得られるため、本発明ではレーヨン等のセルロース系繊維あるいはポリビニルアルコール系繊維を用いる。また、アミノ基を有する繊維としては、キトサン等のセルロース系繊維、ケラチンを含む羊毛などのたんぱく質系繊維等を用いる。これらの繊維へポリアミン系高分子の固定は、前述のように、水酸基をもつ繊維の場合には、一次反応としてエピクロロヒドリンやエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルを反応させてグリシジル基を導入後、一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定すればよく、アミノ基を有する繊維の場合も、同様の一次反応を行った後にアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを固定させればよい。また、水酸基あるいはアミノ基に、グリシジル基、クロロヒドリン基およびハロゲン化アルキル基のいずれかを有する高分子を固定後、アンモニアと反応させて、残存するこれらの官能基を一級アミノ基に変換するといった方法によっても、同様のアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを得ることができる。
【0031】
本発明の高分子固定型金属吸着剤は以下の方法により製造される。すなわち、
(1)ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体、あるいはこれらの官能基のいずれかを導入可能な不溶性の担体にこれらの官能基を導入してこれらの官能基を有する不溶性の担体を用意する、
(2)(1)の不溶性の担体と一級アミンを側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを不溶性の担体に固定する、
(3)不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの側鎖にある一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基とする、
という工程により、金属吸着性の高分子官能基とする高分子固定型金属吸着材を製造する。
【0032】
反応性官能基を有する不溶性の担体と一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとの反応は、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解してのち、溶解した溶液中に反応性官能基を有する不溶性の担体を分散させて、攪拌下、室温〜80℃で、1〜60時間の反応により担体に固定する。この時、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一級アミノ基と不溶性の担体中の反応性官能基とが反応し、一級アミノ基をもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが不溶性の担体に固定される。
【0033】
また、本発明の高分子固定型金属吸着剤は以下の方法によっても製造することができる。すなわち、
(1)水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体、あるいはこれらの官能基のいずれかを導入可能な不溶性の担体にこれらの官能基を導入してこれらの官能基を有する不溶性の担体を用意する、
(2)グリシジル基、クロロヒドリン基またはハロゲン化アルキル基を有する高分子を用意する、
(3)(1)の不溶性の担体と上記(2)の高分子とを反応させて不溶性の担体に(2)の高分子を固定する、
(4)固定された(2)の高分子の有する官能基とアンモニアとを反応させて一級アミノ基を側鎖にもつアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとする、
(5)不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの側鎖にある一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させる、
という工程により、金属吸着性の高分子官能基とする高分子固定型金属吸着材を製造することも可能である。この場合も反応方法は上記段落の製造方法と同様であるが、高分子を固定した後、アンモニアで処理して一級アミノ基を導入するという工程が加わる。
【0034】
不溶性の担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基は、N−カルボキシメチル化されキレート性官能基であるIDA基に変換される。N−カルボキシメチル化は公知の方法によって行う。すなわち、0.5〜2Mの水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、さらには炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液中で、アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの一級アミノ基と、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等のハロゲン化酢酸との反応により行う。この時用いるハロゲン化酢酸の使用量は、担体に固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーに含まれる窒素量に対して2倍モル以上使用してカルボキシメチル化を行う。ハロゲン化酢酸の使用量が2倍モル以下の場合には一級アミノ基のカルボキシメチル化度が低くなり十分な金属吸着特性を得ることができない。高い金属吸着量を得るためには、ハロゲン化酢酸の使用量は、2倍モル、好ましくは3倍モル以上用いる。一般に、一級アミノ基には2分子のカルボキシメチル基が導入されてIDA基になる。しかし、高分子のN−カルボキシメチル化においては立体障害によりすべての一級アミノ基に2分子のカルボキシメチル基が導入されてIDA基となるわけではなく、1分子しか導入されない一級アミノ基も一部存在してしまう。また、高分子に二級アミン(イミノ基)が存在している場合、これらもN−カルボキシメチル化される。例えば、アリルアミンとジアリルアミンとのコポリマーの場合、ジアリルアミン部位は二級アミン(イミノ基)であるため、1分子のカルボキシメチル基が導入される。1分子のカルボキシメチル基が導入された一級アミノ基、カルボキシメチル化されたイミノ基も金属と錯形成するが、IDA基よりも金属吸着能は低い。しかし、部分的にこれらの官能基が存在しても吸着特性が大きく低下することはない。
【0035】
以上のようにして得られる、一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されたIDA基の繰り返し単位を高分子官能基中にもつ高分子固定型金属吸着体は、例えば、水溶液中の重金属の吸着・除去、回収などに使用される。
なお、本発明の高分子固定型金属吸着材を用いて水溶液中の重金属を吸着・除去する条件は、本発明の記載により限定されるものではないが、例えば、銅、鉛、カドミウムの吸着に主眼をおく場合は、被処理溶液のpHを4〜7、好ましくは5〜6に調整することにより、それら金属を効率よく吸着することができる。この吸着最適pH域は金属により異なるため、目的金属の吸着特性に合わせて調整すれば種々の金属の吸着に適用することができる。さらに、重金属を吸着した金属吸着材を、例えば硝酸や塩酸等の酸性水溶液で処理すると、吸着された重金属は速やかに脱離するので、吸着した重金属を高効率で回収できるとともに、金属吸着材の再生を行うことができる。
【0036】
つぎに実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明は何ら限定されない。
【実施例1】
【0037】
高分子固定型金属吸着材Aの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
架橋性の高分子粒子の合成は、公知の懸濁重合法に従い行った。グリシジルメタクリレート60g、エチレンジメタクリレート140g、酢酸ブチル200gを混合した溶媒中に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解し、0.1%ポリビニルアルコール(重合度500)水溶液2,000mL中に加え、油滴径が60μmになるように攪拌羽根で攪拌し、70℃で6時間重合反応を行った。反応後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥した。その後、分級して45〜90μmの架橋性の高分子粒子85gを得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径をBeckman Coulter SA3100 Surface Area Analyzerで測定したところ、それぞれ228m2/g及び10.8nmであった。
【0038】
(2) 高分子鎖の固定
一級アミノ基を側鎖にもつ高分子としてポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−01、平均分子量:1,000、15%水溶液)を選び、その70mLを水130mLと混合し、前記実施例1の(1)で得られた架橋性の高分子粒子20gを加え、60℃で8時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄後、乾燥させ、一級アミノ基をもつ高分子鎖が固定された架橋性の高分子粒子を得た。この架橋性高分子の窒素量を元素分析装置(パーキンエルマー社製2400 Series II CHNS/O Elemental Analyzer)で測定したところ、4.28%であった。
【0039】
(3) N−カルボキシメチル化
イソプロピルアルコール20mLと1M水酸化ナトリウム80mLとを混合した溶液に、クロロ酢酸ナトリウム18gを溶解し、前記実施例1の(2)で得た一級アミノ基をもつ高分子鎖が固定された架橋性の高分子粒子10gを加え、50℃で6時間反応させた。この反応条件において、クロロ酢酸ナトリウムは、一級アミノ基を有する高分子が固定された架橋性の高分子粒子の窒素量の5倍モルである。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、高分子固定型金属吸着材Aを得た。
【0040】
(4) 金属吸着量の評価
前記実施例1の(3)で得られた高分子固定型金属吸着材Aを60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、その250mgを下部に孔径20μmのフィルタを挿入した注射筒型リザーバに充填し、さらに上部にも孔径20μmのフィルタを挿入した。このリザーバに、アセトニトリル、純水、3M硝酸、純水及び0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液して、リザーバ内の金属吸着材をコンディショニングした。その後、0.05M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)で調整された0.5M硫酸銅溶液3mLをゆっくり通液し、充填された金属吸着材を銅で飽和させた。その後、純水10mL、0.005Mの硝酸5mLで洗浄後、金属吸着材に吸着させた銅を3M硝酸3mLで溶出させ、溶出液を10mLに定容後、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定して銅吸着量を求めた。本高分子固定型金属吸着材Aの金属吸着量は0.85mmol Cu/gであり、市販IDA型キレート樹脂よりも高い金属吸着量を示した。
【0041】
(5) 金属吸着特性の比較
前記実施例1の(3)で得られた高分子固定型金属吸着材Aを前記実施例1の(4)と同様に固相抽出カートリッジに充填し、同様のコンディショニングを行った。その後、種々のpHに調整した金属混合標準液(各0.1mg/Lの五価ヒ素As(V)、カルシウムCa、カドミウムCd、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znを含む溶液)を通液し、金属を吸着させた。吸着させた金属は、前記実施例1の(4)と同様に3M硝酸3mLで溶出させ、ICP発光分析装置(パーキンエルマー社製Optima 3000 DV)を用いて溶液中濃度を測定し、吸着回収率を求めた。比較として、市販IDA型キレート樹脂であるキレックス100(バイオラッドラボラトリーズ社製、交換容量:0.4meq/mL)を用いて同様の金属吸着特性比較試験を行った。結果を図1(図1aないし図1lを含む。)に示す。本高分子固定型金属吸着材のキレート性官能基はIDA型であるため、図1に示すとおり、基本的には市販IDA型キレート樹脂と類似の吸着特性を示した。しかし、カドミウム、銅、鉄、ニッケル、鉛に関しては、酸性側での回収率が改善されており、特に鉄に関しては大幅な改善が見られている。カルシウムに関してはIDA型での錯体の安定度定数が低い元素の一つであるが、酸性側での回収率が改善されている。さらに、ヒ素、クロム、バナジウムに関しては、回収率が低いものの、市販IDA型キレート樹脂よりも高い回収率を示した。特に、クロムはアミノカルボン酸型キレート剤に対して錯形成速度が遅いとされている元素であるが、本高分子固定型金属吸着材ではかなり高い回収率が得られており、高分子官能基を用いた結果、吸着特性や速度が改善されたものと判断できる。
【実施例2】
【0042】
高分子固定型金属吸着材Bの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
クロロメチルスチレン80g、ジビニルベンゼン120g、トルエン140g、ラウリルアルコール60gを混合した溶媒中に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解し、0.1%ポリビニルアルコール(重合度500)水溶液2,000mL中に加え、油滴径が60μmになるように攪拌羽根で攪拌し、70℃で6時間重合反応を行った。反応後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥した。その後、分級して45〜90μmの架橋性の高分子粒子80gを得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径は、それぞれ590m2/g及び11.2nmであった。
【0043】
(2) 高分子鎖の固定とN−カルボキシメチル化
一級アミノ基の繰り返し単位をもつ高分子としてポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−03、平均分子量:3,000、15%水溶液)を選び、前記実施例1の(2)と同様の条件で前記実施例2の(1)で得られた架橋性の高分子粒子に高分子鎖を固定した。この架橋性高分子の窒素量は8.59%であった。この高分子鎖を固定した高分子粒子を、前記実施例1の(2)と同じ条件でカルボキシメチル化を行った。但し、モノクロロ酢酸ナトリウム量は、窒素量の3.5倍モルに相当する25gを使用した。この反応により、高分子固定型金属吸着材Bを得た。得られた高分子固定型金属吸着材Bを、前記実施例1の(4)と同様の方法で銅吸着量を求めたところ、1.52mmol Cu/gであった。
【実施例3】
【0044】
高分子固定型金属吸着材Cの製造
(1) 架橋性の高分子粒子の製造
ジエチレングリコールモノメタクリレート (日本油脂社製、ブレンマーPE−90) 50gおよびエチレンジメタクリレート150gをモノマーとして、実施例1の(1)と同様の方法により、水酸基を有する架橋性の高分子粒子を得た。この高分子粒子の比表面積及び平均細孔径は、それぞれ204m2/g及び12.5nmであった。
【0045】
(2) 高分子鎖の固定とN−カルボキシメチル化
グリシジル基を有する高分子としてグリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートの1:1のコポリマー(日油製、ブレンマーCP−0150M、平均分子量:8,000〜10,000)を選び、その20gをジメチルホルムアミド200mLに溶解し、ほうフッ化亜鉛 (Zn(BF4)2) 1gを加えた後、前記実施例3の(1)で得られた水酸基を有する架橋性の高分子20gを加え、40℃で2時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、ジメチルホルムアミド、メタノールの順で洗浄後、乾燥させた。イソプロピルアルコール40mLと水120mLとの混合溶液に28%のアンモニア水40mLを加えた溶液中に、上記反応により得られた高分子鎖を固定した架橋性の高分子粒子の全量を加え、室温で攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄後、乾燥させ、一級アミノ基を有する高分子化合物が固定された架橋性の高分子粒子を得た。この架橋性高分子の窒素量を元素分析装置で測定したところ、2.46%であった。この高分子鎖を固定した高分子粒子を、前記実施例1の(2)と同じ条件でカルボキシメチル化を行った。但し、モノクロロ酢酸ナトリウム量は、窒素量の4倍モルに相当する11gを使用した。この反応により、高分子固定型金属吸着材Cを得た。得られた高分子固定型金属吸着材Cを、前記実施例1の(4)と同様の方法で銅吸着量を求めたところ、0.48mmol Cu/gであった。
【実施例4】
【0046】
高分子固定型金属吸着材Dの製造
(1) セルロースへの高分子鎖の固定
ビスコース法により得られたセルロース繊維(繊維径:1.7dtex、繊維長:51mm)20gを、1M水酸化ナトリウムにエピクロロヒドリン20gを加えた溶液中に分散させ、40℃で3時間反応させた。反応後、反応物を濾別し、水、メタノール、水の順で洗浄後、全量をポリアリルアミン(日東紡績社製、PAA−08、平均分子量:8,000、15%水溶液)80mLと水120mLの混合溶液中に入れ、40℃で4時間反応させた。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、ポリアミン系高分子を固定したセルロース繊維を得た。この高分子鎖を固定したセルロース繊維の窒素量は、3.12N%であった。
【0047】
(2) N−カルボキシメチル化
イソプロピルアルコール20mLと1M水酸化ナトリウム80mLとを混合した溶液に、クロロ酢酸ナトリウム13gを溶解し、前記実施例4の(1)で得た一級アミノ基を有する高分子が固定されたセルロース繊維10gを加え、50℃で6時間反応させた。この反応条件において、クロロ酢酸ナトリウムは、一級アミノ基を有する高分子が固定された架橋性の高分子粒子の窒素量の5倍モルである。反応後、反応物を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させ、高分子固定型金属吸着材Dを得た。この高分子固定型金属吸着材Cを前記実施例1の(4)と同様の方法により銅吸着量を求めたところ、0.67mmol Cu/gであり、十分な金属吸着量を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、分子中に金属と錯形成をすることが可能な官能基を多数有する高分子を、金属吸着性の官能基として、架橋性の高分子粒子あるいは繊維に固定することにより、高い金属吸着能を有し、吸着特性の良好な金属吸着体を製造することが可能となる。これらの金属吸着材は広範囲の重金属類を広いpH範囲で高度に吸着することが可能であるため、排水や用水中の重金属除去、環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収、さらには食品や飲料水中からの有害金属の除去が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
◆:実施例1の高分子固定型金属吸着材Aにおける金属の回収率
△:市販イミノ二酢酸型キレート樹脂における金属の回収率
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は−H または −CH3であり、R2は下記式(2)ないし(6)に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが、ポリアリルアミンまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項3】
上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが、ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子をアンモニアと反応させたものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項4】
上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する繊維であることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項5】
ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする請求項1ないし請求項4記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体と反応させて不溶性の担体に固定した後、アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし、ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【請求項1】
ポリアミン系高分子が不溶性の担体に固定された高分子固定型金属吸着材において、
上記ポリアミン系高分子は、下記式(1)の繰り返し単位の官能基構造を有し、かつ平均分子量が500〜150,000であるアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーよりなり、しかも上記官能基構造の有する一級アミノ基がN−カルボキシメチル化されてイミノ二酢酸基となっていることを特徴とする上記高分子固定型金属吸着材。
【化1】
ここで、nは正の整数であり、R1は−H または −CH3であり、R2は下記式(2)ないし(6)に記載された群より選ばれる2価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが、ポリアリルアミンまたはこのコポリマー、あるいはポリメタクリルアミンまたはこのコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項3】
上記アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーが、ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーからなる群より選ばれる高分子をアンモニアと反応させたものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項4】
上記不溶性の担体が、ハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する架橋性の高分子粒子、あるいはハロゲン化アルキル基、グリシジル基、クロロヒドリン基、水酸基またはアミノ基を有する繊維であることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の高分子固定型金属吸着材。
【請求項5】
ハロゲン化アルキル基、グリシジル基またはクロロヒドリン基を有する不溶性の担体とアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとを反応させて,アミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーを担体に固定した後,固定されたアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化させてイミノ二酢酸基としたことを特徴とする請求項1ないし請求項4記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
ポリグリシジルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリアリルグリシジルエーテルまたはこのコポリマー、ポリハロゲン化アルキルメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロヒドロキシメタクリレートまたはこのコポリマー、ポリクロロメチルスチレンまたはこのコポリマー、またはポリアリルクロリドまたはこのコポリマーなる群より選ばれる高分子を、水酸基またはアミノ基を有する不溶性の担体と反応させて不溶性の担体に固定した後、アンモニアと反応させてアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーとし、ついでこのアミノ基含有ホモポリマーまたはコポリマーの有する一級アミノ基をハロゲン化酢酸でN−カルボキシメチル化してイミノ二酢酸基とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4記載の高分子固定型金属吸着材の製造方法。
【図1】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図1g】
【図1h】
【図1i】
【図1j】
【図1k】
【図1l】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図1g】
【図1h】
【図1i】
【図1j】
【図1k】
【図1l】
【公開番号】特開2011−88047(P2011−88047A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242043(P2009−242043)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
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