説明

高分子系ナノコンポジットの製造方法及び該製造方法によって形成された難燃性高分子系ナノコンポジット

【課題】高分子系ナノコンポジットを層間表面からのラジカル重合を行うことにより短時間で製造することができ、耐熱性及び難燃性に優れる高分子系ナノコンポジットを製造する方法を提供すること。
【解決手段】有機オニウム塩を用いて層状無機化合物の層間を拡張した後、下記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を、層間表面に共有結合を介して固定化し、該重合開始剤から表面開始ラジカル重合を行うことを特徴とする、該製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子系ナノコンポジットの製造方法及び該製造方法によって形成された高分子系ナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成高分子(以下樹脂と記す場合もある)、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びスチレンブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、塩化ビニリデンアクリロニトリル樹脂、塩化ビニリデン塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等の樹脂は、各種の用途に使用されてきている。これら樹脂の機械特性、耐熱性又は難燃性等の諸物性を改良する手法として、高分子の特徴である柔軟性、低比重や成形性などを保持しつつ、無機化合物の特徴である高強度、高弾性率、耐熱性、電気特性などを併せ持つ材料の開発が盛んに行われており、このような物性改良手法として、従来のガラス繊維やタルク等による強化樹脂に代わり、三次元のうち少なくとも一次元がナノサイズの無機微粒子を用いた複合材料、いわゆる高分子系ナノコンポジットが注目されてきている。
【0003】
このような無機化合物として、層状無機化合物等の粘土鉱物が従来から使用されているが、高分子への分散性が悪いことから、例えば、下記特許文献1のように、アルカリ金属イオンを有機オニウムイオンに置換して有機化することにより高分子中への分散を容易にし、高分子の機械特性を向上させることが行われている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法でも未だ十分とはいえず、更に機械特性を向上させ、同時に耐熱性を向上させることのできる高分子系ナノコンポジットの製造方法が望まれていた。
【0005】
そこで、モノマー中において層状無機化合物の層間表面からモノマーのラジカル重合(表面開始ラジカル重合)を開始することによって、層間剥離を引き起こして樹脂への分散性を高める技術が検討されている。下記非特許文献1〜3にはリビングフリーラジカル重合開始能を有する有機アンモニウム塩で変性したモンモリロナイトでポリスチレンナノコンポジットを合成する方法が開示されている。しかし、有機アンモニウム塩は耐熱性が低く、また、重合に長時間を要する等の問題を有している。
【0006】
一方、アゾ系重合開始剤においても層状無機化合物の層間表面に固定化する手法は、アンモニウム塩のようなオニウム塩をアゾ系重合開始剤の分子内に導入し、静電的相互作用を利用して固定化する手法が全てであり、上述した耐熱性等の問題を同様に有する。加えて前述のリビングフリーラジカル重合開始剤(非特許文献1〜2)と異なり、分子量分布を制御しないので、分子量分布が幅広くなる傾向がある。分子量分布の制御は層状無機化合物の剥離分散に密接な関係があり、狭い分子量分布は、層間表面から均等に高分子が成長することを意味しており、層状無機化合物の剥離分散に寄与する。すなわち、狭い分子量分布は、層状無機化合物の剥離分散を有利にし、反対に高分子成長を制御しない幅広い分子量分布を提供する高分子においては、層状無機化合物の剥離分散を不完全にする傾向がある。
【特許文献1】特開2004−51817号公報
【非特許文献1】D.Y.Sogah,et al.,Macromole.,39,5052(2006)
【非特許文献2】D.Y.Sogah,et al.,J.Am.chem.Soc.,121,1615(1999)
【非特許文献3】C.J.Hawker,et al.,Macromole.,29,5245(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、合成高分子、特にラジカル重合で得られる高分子において、層状無機化合物の分散性が良好で、高分子量体且つ狭い分子量分布を有する高分子系ナノコンポジットをモノマー中で層間表面からの表面開始ラジカル重合を行うことにより短時間で製造することができる方法、更に高分子の耐熱性(熱分解温度)及び難燃性に優れる高分子系ナノコンポジットを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記に鑑み、鋭意研究の結果本発明に到達した。即ち、本発明は、有機オニウム塩を用いて層状無機化合物の層間を拡張した後、特定の重合開始剤を該層状無機化合物の層間表面に共有結合を介して固定することによって、層間拡張に用いた有機オニウム塩は系外へ除くことができ、更に、モノマー中で、層間表面に共有結合を介して固定した特定の重合開始剤から表面開始ラジカル重合を行うことにより、短時間での重合を可能とした。更に、本発明の製造方法によって形成される高分子系ナノコンポジットが、高分子量体且つ狭い分子量分布を有し、層状無機化合物の高分子への分散性並びに高分子の耐熱性及び難燃性を向上させることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の第1は、有機オニウム塩を用いて層状無機化合物の層間を拡張した後、下記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を、該層状無機化合物の層間表面に共有結合を介して固定化し、モノマー中でその固定化した該ラジカル重合開始剤から表面開始ラジカル重合を行うことを特徴とする、高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【化1】

(但し、前記一般式(1)中のR1は、炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数2〜25のアルケニレン基、炭素原子数5〜8のシクロアルキレン基又は炭素原子数6〜12のアリーレン基を表し、これらは炭素原子数1〜18のアルキル基、フェニル基又はシアノ基で置換されてもよく、また、酸素原子、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、更に、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。X1〜X3は、各々独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メチルオキシ基又はエチルオキシ基を表わす。)
【0010】
本発明の第2は、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、同式中のX1〜X3の少なくとも一つが塩素原子であるものを用いる、本発明の第1に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0011】
本発明の第3は、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、同式中のR1が、酸素原子又はエステル基で中断されてもよく、フェニル基で置換されてもよい、炭素原子数1〜25のアルキレン基又は炭素原子数2〜25のアルケニレン基であるものを用いる、本発明の第1又は2に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0012】
本発明の第4は、前記層状無機化合物として、マガディアイト、ケニヤアイト、マカタイト、カネマイト及びアイアライトの群の中から選ばれる層状ポリケイ酸塩を用いる、本発明の第1〜第3の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0013】
本発明の第5は、前記層状無機化合物の層間表面に共有結合を介して固定化される化合物として、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤と、下記一般式(2)で表わされるシラン化合物とを併用する、本発明の第1〜4の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【化2】

(但し、前記一般式(2)中のR2は、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数2〜25のアルケニル基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表し、これらは炭素原子数1〜18のアルキル基、フェニル基又はシアノ基で置換されてもよく、また、酸素原子、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、更に、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。X1〜X3は、前記一般式(1)中のX1〜X3と同じ基を表す。)
【0014】
本発明の第6は、前記一般式(2)で表わされるシラン化合物として、同式中のX1〜X3の少なくとも一つが塩素原子であるものを用いる、本発明の第5に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0015】
本発明の第7は、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、ニトロオキシド系又はアゾ系重合開始剤を用いる、本発明の第1〜6の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0016】
本発明の第8は、前記ニトロオキシド系重合開始剤として、下記一般式(3)で表されるテトラメチルピペリジンオキシド系化合物を用いる、本発明の第7に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【化3】

(但し、前記一般式(3)中のY1は、前記一般式(1)で表わされる基を表し、R3は、水素原子、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜8の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又は炭素原子数5〜8のシクロアルキル基を表し、また、これらのアルキル基及びアルコキシ基は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。)
【0017】
本発明の第9は、前記一般式(3)で表されるテトラメチルピペリジンオキシド系化合物として、同式中のR3が、水素原子、酸素原子又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基であるものを用いる、本発明の第8に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0018】
本発明の第10は、前記アゾ系重合開始剤として、下記一般式(4)で表されるアゾ系化合物を用いる、本発明の第7に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【化4】

(但し、前記一般式(4)中のY1は、前記一般式(1)で表わされる基を表し、Y2は、前記一般式(1)で表わされる基又はメチル基を表す。R4〜R7は、各々独立に、メチル基又はニトリル基を表す。)
【0019】
本発明の第11は、前記層状無機化合物の層間表面に固定化した前記一般式(4)で表わされるアゾ系化合物から表面開始ラジカル重合反応を行う際に、モノマー中に、更に、分子量調節剤として、ニトロオキシド系化合物、アルコキシアミン系化合物又はヨウ素系化合物を1種以上添加する、本発明の第10に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0020】
本発明の第12は、前記有機オニウム塩として、有機アンモニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機イミダゾリウム塩、有機ホスホニウム塩又は有機スルホニウム塩を用いる、本発明の第1〜11の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法である。
【0021】
本発明の第13は、本発明の第1〜12の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法によって形成された高分子系ナノコンポジットである。
【0022】
本発明の第14は、難燃材料として用いられる本発明の第13に記載の高分子系ナノコンポジットである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法により、合成高分子、特にラジカル重合で得られる高分子に対して、層状無機化合物の高分子への分散性並びに高分子の耐熱性(熱分解温度)及び難燃性を向上させることができ、加えて、短い重合時間で高分子量体且つ狭い分子量分布を有する高分子系ナノコンポジットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0025】
本発明に用いられる層状無機化合物としては、層間にナトリウムイオン等の交換性金属カチオン(陽イオン)及び層間表面に反応性ヒドロキシル基が存在しているものであれば制限されないが、例えば、層状ポリケイ酸塩が好ましく、具体的には、マガディアイト(Na2O・14SiO2・10H2O)、ケ二ヤアイト(Na2O・22SiO2・10H2O)、マカタイト(Na2O・4SiO2・5H2O)、カネマイト(Na2O・4SiO2・7H2O)及びアイアライト(Na2O・8SiO2・9H2O)等が挙げられ、中でも、常法により比較的穏やかな条件で且つ短い時間で合成可能であることから、特にマガディアイトが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる有機オニウム塩は、前記層状無機化合物の層間に存在するナトリウム等の陽イオンと陽イオン交換することにより、層状無機化合物の層間を拡張させ、前記一般式(1)で表わされる基を有する重合開始剤を層間に取り込み易くする。有機オニウム塩としては、例えば、有機アンモニウム、有機ピリジニウム、有機イミダゾリウム、有機ホスホニウム、有機オキソニウム、有機スルホニウム、有機スルホキソニウム、有機セレノニウム、有機カルボニウム、有機ジアゾニウム、有機ヨードニウム、有機ピリリニウム、有機ピロリジニウム、有機カルベニウム、有機アシリウム、有機チアゾリニウム、有機アルソニウム、有機スチボニウム、有機テルロニウム等の塩が挙げられ、中でも、有機アンモニウム、有機ピリジニウム、有機イミダゾリウム、有機ホスホニウム及び有機スルホニウムの塩が好ましく、これらのオニウム塩は単独又は2種以上組み合わせて用いられる。より具体的には、例えば、以下の化合物No.1〜10が挙げられる。但し、本発明は、以下の化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0027】
<有機アンモニウム塩>
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
<有機ピリジニウム塩>
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
<有機イミダゾリウム塩>
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
<有機ホスホニウム塩>
【化12】

【0035】
<有機スルホニウム塩>
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
本発明に用いられる有機オニウム塩の使用量は、前記層状無機化合物の層間に存在するナトリウムイオン等の交換性金属カチオンを置換し得る量とすることが好ましく、層状無機化合物として、層状ポリケイ酸塩を用いる場合、有機オニウム塩を10〜1500(meq/100g)使用することが好ましく、層状ポリケイ酸塩として、マガディアイトを用いる場合、有機オニウム塩を10〜1000(meq/100g)使用することが好ましい。
【0038】
前記有機オニウム塩を陽イオン交換により層状無機化合物の層間にインターカレーションさせる反応温度及び時間は、層状無機化合物と有機オニウム塩の種類に依存する。超音波照射又は攪拌条件における反応温度は、室温〜100℃が好ましく、室温〜50℃がより好ましく、反応時間は2〜72時間が好ましい。
【0039】
本発明に用いられる重合開始剤は、前記有機オニウム塩により拡張された前記層状無機化合物の層間表面に、共有結合を介して固定化される。重合開始剤は、前記一般式(1)で表わされる基を有する。一般式(1)中のR1で表される炭素原子数1〜25のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、第二ブチレン、第三ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、第三オクチレン、エチルヘキシレン、ノニレン、イソノニレン、デシレン、イソデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ナノデシレン、エイコシレン、ヘンエイコシレン、ドコシレン、トリコシレン、テトラコシレン、ペンタコシレン等が挙げられる。
【0040】
前記一般式(1)中のR1で表される炭素原子数2〜25のアルケニレン基としては、エテニレン、プロペニレン、イソプロペニレン、ブテニレン、第二ブテニレン、第三ブテニレン、ペンテニレン、ヘキセニレン、ヘプテニレン、オクテニレン、第三オクテニレン、エチルヘキセニレン、ノネニレン、イソノネニレン、デセニレン、イソデセニレン、ドデセニレン、トリデセニレン、テトラデセニレン、ペンタデセニレン、ヘキサデセニレン、ヘプタデセニレン、オクタデセニレン、ナノデセニレン、エイコセニレン、ヘンエイコセニレン、ドコセニレン、トリコセニレン、テトラコセニレン、ペンタコセニレン等が挙げられる。
【0041】
前記一般式(1)中のR1で表される炭素原子数5〜8のシクロアルキレン基としては、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。
【0042】
前記一般式(1)中のR1で表される炭素原子数6〜12のアリーレン基としては、フェニレン、トルイレン、キシリレン、ナフチレン、ビフェニレン等が挙げられる。
【0043】
前記一般式(1)中のR1で表わされるアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリレーン基を置換してもよい炭素原子数1〜18のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等が挙げられる。
【0044】
前記一般式(1)中のR1としては、合成容易性、原料コスト及び重合するモノマーとの相性の観点から、酸素原子又はエステル基で中断されてもよく、フェニル基で置換されてもよい、炭素原子数1〜25のアルキレン基又は炭素原子数2〜25のアルケニレン基が好ましい。
【0045】
前記一般式(1)中のX1〜X3は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メチルオキシ基又はエチルオキシ基を表わす。X1〜X3としては、層間表面に存在しているヒドロキシ基との共有結合形成における反応性及び原料コストの観点から、X1〜X3の少なくとも一つが塩素原子であるものが好ましい。
【0046】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤としては、より具体的には、以下の化合物No.11〜27が挙げられる。但し、本発明は以下の化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

【0053】
【化21】

【0054】
【化22】

【0055】
【化23】

【0056】
【化24】

【0057】
【化25】

【0058】
【化26】

【0059】
【化27】

【0060】
【化28】

【0061】
【化29】

【0062】
【化30】

【0063】
【化31】

【0064】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤は、前記一般式(1)で表わされる基を有するシラン化合物と一般に用いられるラジカル重合開始剤とを反応させて得られる。前記一般に用いられるラジカル重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、第三ブチルヒドロパーオキシド、ジ−第三ブチルパーオキシド、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、及び過酸化ラウロイル等の過酸化物系化合物、テトラメチルピペリジンオキシド系化合物等のニトロオキシド系化合物、アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、及び2,2'−アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系化合物等が挙げられる。
【0065】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤としては、合成容易性等の面から、前記一般式(1)で表わされる基を有するシラン化合物とニトロオキシド系化合物を反応させた化合物(以下、本発明のニトロオキシド系重合開始剤ともいう)、前記一般式(1)で表わされる基を有するシラン化合物とアゾ系化合物を反応させた化合物(以下、本発明のアゾ系重合開始剤ともいう)が好ましい。
【0066】
本発明のニトロオキシド系重合開始剤としては、例えば、前記一般式(3)で表されるテトラメチルピペリジンオキシド系の化合物が挙げられる。一般式中のR3で表される炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、第三オクチル、エチルヘキシル等が挙げられる。
【0067】
前記一般式(3)中のR3で表される炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、第三ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、第三オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ等の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられ、これらの中でも、反応容易性と経済性の面でより短鎖であるものが好ましく、メチルオキシ基、又はエチルオキシ基がより好ましい。
【0068】
前記一般式(3)中のR3で表される炭素原子数5〜8のシクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。
【0069】
前記一般式(3)中のR3としては、原料コストと合成容易性の観点から、水素原子、酸素原子又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基が好ましい
【0070】
前記一般式(3)で表される化合物としては、より具体的には、化合物前記No.11〜15の化合物が挙げられる。但し、本発明はこれらの化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0071】
本発明のアゾ系重合開始剤としては、例えば、前記一般式(4)で表されるアゾ系化合物が挙げられる。一般式(4)で表される化合物としては、より具体的には、前記No.23〜27の化合物が挙げられる。但し、本発明はこれらの化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0072】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤の合成方法としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルピペリジンオキシド系化合物の合成方法としては、テトラメテチルピペリジンオキシドをベンゾイル化、加水分解、エーテル化及びヒドロシリル化する工程を順に行って合成する方法が挙げられ、アゾ系化合物の合成方法としては、B.Zhao,W.J.Brittain, Prog.Polym.Sci.,25(2000)677-710に記載の方法等が挙げられる。
【0073】
前記層状無機化合物の層間表面に、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を、共有結合を介して固定するに際し、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤と共に、前記一般式(2)で表されるシラン化合物を併用することが原料コスト削減の観点から、好ましい。
【0074】
前記一般式(2)中のR2で表される炭素原子数1〜25のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、第三オクチル、エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ナノデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル等が挙げられる。
【0075】
前記一般式(2)中のR2で表される炭素原子数2〜25のアルケニル基としては、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、第二ブテニル、第三ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、第三オクテニル、エチルヘキセニル、ノネニル、イソノネニル、デセニル、イソデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ナノデセニル、エイコセニル、ヘンエイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル等が挙げられる。
【0076】
本発明における前記一般式(2)中のR2で表される炭素原子数5〜8のシクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。
【0077】
本発明における前記一般式(2)中のR2で表される炭素原子数6〜12のアリール基としては、フェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。
【0078】
本発明における前記一般式(2)で表わされるシラン化合物としては、より具体的には、以下の化合物No.28〜30が挙げられる。但し、本発明は以下の化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0079】
【化32】

【0080】
【化33】

【0081】
【化34】

【0082】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤と前記一般式(2)で表わされるシラン化合物との併用比率は、任意の比率で使用可能であるが、原料コストの観点から前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤の比率が少ない方が好ましく、更に、重合開始効率の面からモル比で0.1:99.9〜40:60(一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤:一般式(2)で表わされるシラン化合物)の範囲がより好ましい。
【0083】
本発明において、前記層状無機化合物の層間表面に前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤又は前記一般式(2)で表わされるシラン化合物を、共有結合を介して固定する方法は特に限定されるものではなく、使用するラジカル重合開始剤又はシラン化合物の反応活性によっても異なるが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の不活性溶媒中で、室温〜溶媒の還流温度において1〜100時間の反応でシリル化を行うことができる。
【0084】
本発明において、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤又は前記一般式(2)で表わされるシラン化合物の使用量は、通常は、有機オニウム塩で層間修飾した層状無機化合物1gに対して、0.01〜100mmol程度、好ましくは
1〜50mmol程度使用する。
【0085】
本発明では、モノマー中で、前記層状無機化合物の層間表面に固定化された前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を単独で又はこれに前記一般式(2)で表わされるシラン化合物を併用して表面開始重合を行う。一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、前記一般式(4)で表わされるアゾ系化合物を用いる場合、表面開始ラジカル重合反応を行う際に、モノマー中に、更に、ニトロオキシド系化合物、アルコキシアミン系化合物或いは、ヨードホルム及びヨードアセトニトリル等のヨウ素系化合物等の分子量調節剤を添加することが好ましい。具体的には、以下の化合物No.31〜37が挙げられる。但し、本発明は以下の化合物により何ら制限を受けるものではない。
【0086】
【化35】

【0087】
【化36】

【0088】
【化37】

【0089】
【化38】

【0090】
【化39】

【0091】
【化40】

【0092】
【化41】

【0093】
本発明において、前記分子量調節剤の使用量は、分子量調節剤の種類や化学構造、重合性モノマーの種類、及び重合方法によって異なるが、使用した重合開始剤1モルに対して、好ましくは0.01〜10等量モル程度、より好ましくは0.1〜5等量モル程度使用する。
【0094】
上記表面開始重合に用いられるモノマーとしては、特に限定されるものではなく、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であれば、どのような化合物であっても差し支えない。例えば、無水マレイン酸、シアン化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、α―シアノアクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、塩化ビニル、エチレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α―メチルスチレン、酢酸ビニル、イソブテン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、イソブチルビニルエーテル、ビニルアセテート等のモノマーが挙げられ、得られる合成樹脂としては、前記モノマーを1種又は2種以上(共)重合した樹脂で、例えば、スチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレートや各種アクリレート類、マレイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びスチレンブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、塩化ビニリデンアクリロニトリル樹脂、塩化ビニリデン塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。
【0095】
本発明における層状無機化合物の前記合成樹脂への配合量は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜40質量%であり、より好ましくは1〜20質量%である。40質量%を超えると合成樹脂の衝撃強度等の機械物性が低下する傾向にあり、0.1質量%未満では耐熱性及び難燃性向上等のナノコンポジット化の効果が発揮されない場合がある。
【0096】
本発明における表面開始ラジカル重合の反応温度及び時間は、使用する重合開始剤、モノマー等の種類そして重合方法によって異なるので、各々に応じて一般的な条件を適宜選択すればよいが、好ましくは、反応温度が−30〜180℃の範囲であり、反応時間が
1〜24時間の範囲である。
【0097】
また、本発明における表面開始ラジカル重合は、一般的な重合方法で行うことが可能であり、例えば、乳化重合、分散重合及び懸濁重合等の不均一系重合、並びに、バルク重合、溶液重合等が挙げられ、中でも、モノマー中で行うバルク重合又は適当な有機溶媒中で行う溶液重合が好ましい。また、溶液重合における適当な有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、アニソール、ヘキサン等の不活性溶媒が挙げられる。
【0098】
本発明の製造方法によって形成される高分子系ナノコンポジットは、高分子量体且つ狭い分子量分布を有し、機械特性、耐熱性又は難燃性等に優れることから、OA機器、建材等の部材、自動車、航空機等の乗物の構成材料、液晶テレビ等のディスプレイパネルやフィルム、高分子材料からなる日用品等広範な用途に用いられる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0100】
<製造例1>重合開始剤の合成
【0101】
<製造例1−1>(ラジカル重合開始剤:前記化合物No.11の合成)
I.第1段反応:(メチル化)
2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシ−4−ヒドロキシピペリジン((株)ADEKA製、アデカスタブLA−7RD)62g、ヨードメタン37ml及び55%水素化ナトリウム24gをジメチルホルムアミド溶媒に混合し、室温で24時間攪拌した。精製後、化合物aを得た。
【0102】
【化42】

【0103】
II.第2段反応:(ベンゾイル化)
前記化合物a14.9gとスチレンモノマー300ml及び70%過酸化ベンゾイル13.8gを混合し、90℃で18時間攪拌した。精製後、化合物bを得た。
【0104】
【化43】

【0105】
III.第3段反応:(加水分解)
前記化合物b4.3g及び水酸化ナトリウム水溶液1.2g/30mlを、エタノール300mlに加え、室温で24時間攪拌した。精製後、化合物cを得た。
【0106】
【化44】

【0107】
IV.第4段反応:(エーテル化)
前記化合物c4.9gに6−ブロモ−1−ヘキセン2.8ml及び55%水素化ナトリウム0.9gを加え、ジメチルホルムアミド70mlに混合し、室温で24時間攪拌した。精製後、化合物dを得た。
【0108】
【化45】

【0109】
V.第5段反応:(ヒドロシリル化)
前記化合物d5.02gにトリクロロシラン6.6ml及びPt触媒20mgを加え、30℃で5時間攪拌した。精製後、目的物の前記化合物No.11が得られた。
【0110】
<製造例1−2>(ラジカル重合開始剤:前記化合物No.12の合成)
2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシピペリジンを出発原料として、前記製造例1−1のIV(エーテル化反応)における6−ブロモ−1−ヘキセンを11−ブロモ−1−ウンデセンに替えた以外は、前記製造例1−1のII〜Vと同様の条件にて製造を行い前記化合物No.12を得た。
【0111】
<製造例1−3>(ラジカル重合開始剤:前記化合物No.13の合成)
前記製造例1−1のIV(エーテル化反応)における6−ブロモ−1−ヘキセンを11−ブロモ−1−ウンデセンに替えた以外は、前記製造例1−1のII〜Vと同様の条件にて製造を行い前記化合物No.13を得た。
【0112】
<実施例1>
I.マガディアイトの合成:
22.5gのシリカゲル(和光純薬製)、4.3gの水酸化ナトリウム及び蒸留水125gをオートクレーブ内に入れ、165〜170℃で18時間水熱合成を行ない、反応液を電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して球状シリカがないこと並びに対称反射X線回折(XRD:(株)リガク製、RINT2200)にてマガディアイトの底面間隔d(001)に由来する回折ピークが得られること及びその他のマガディアイト由来の回折ピークを確認し反応を終了した。得られた固形物を精製し、100℃にて12時間減圧乾燥させてマガディアイト(Na2O・14SiO2・10H2O)を得た。
【0113】
II.有機オニウム塩による陽イオン交換:
前記で得たマガディアイト5gとドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(前記化合物No.1:東京化成工業(株)製:以下DTMAと記す)2.5gを陽イオン交換にてインターカレーションした。得られた固形物を精製後、室温で12時間真空乾燥させて固体粉末を得た。得られた固体粉末をXRD及び元素分析にて同定し、DTMA−マガディアイトであることを確認した。
【0114】
III.層間修飾:
前記で得たDTMA−マガディアイト1.0gをトルエン40mlに分散し、このトルエン溶液に前記化合物No.11を10mmol加えた。室温で100時間攪拌して重合開始剤の固定化を行った。精製した後、室温で12時間以上真空乾燥し、ラジカル重合開始剤で層間表面を固定化された層状無機化合物を得た。
【0115】
IV.高分子系ナノコンポジットの製造:
前記重合開始剤で固定化された層状無機化合物6gとスチレンモノマー68gとをアルゴン置換した密閉反応容器中に仕込み、125℃で2時間反応を行った。精製した後、室温で12時間以上真空乾燥し、ポリスチレン−マガディアイトナノコンポジットを得た。
【0116】
V.高分子系ナノコンポジットの評価:
前記で得られた層状無機化合物の凝集状態、数平均分子量、分子量分布、熱分解温度、シリケート含有量、並びに、難燃性(最大発熱速度)を評価した。結果を〔表1〕に記す。
【0117】
<実施例2及び3>
前記実施例1のIIにおける有機オニウム塩及びIIIにおける層間修飾化合物を下記〔表1〕記載の層間修飾化合物に替えた以外は、同様の製造方法にて高分子系ナノコンポジットの製造を行い、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に併せて記す。
【0118】
<実施例4>
前記実施例1のIIにおける有機オニウム塩をNo.8に替え、IIIにおける層間修飾化合物を前記化合物No.23と前記化合物No.29(オクタデシルメチルジクロロシラン)との併用系(併用比率10/90(前者/後者mmol比)の層間修飾化合物に替え、IVにおいて更に分子量調節剤である前記化合物No.34を130mg加えて70℃で反応を行った以外は、同様の製造方法にて高分子系ナノコンポジットの製造を行い、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に併せて記す。
【0119】
<実施例5>
前記実施例1のIIにおける有機オニウムをNo.2に替え、IIIにおける層間修飾化合物を前記化合物No.11と前記化合物No.28(オクチルトリクロロシラン)との併用系(併用比率10/90( 前者/後者mmol比)の層間修飾化合物に替えた以外は、同様の製造方法にて高分子系ナノコンポジットの製造を行い、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に併せて記す。
【0120】
<比較例1及び2>
前記実施例1のIIIにおける層間修飾化合物を下記〔表1〕記載の層間修飾化合物として6gと、層間表面に固定化しないフリーの重合開始剤としてAIBN(2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)95mgとをスチレンモノマー68gに加えて70℃で反応を行った以外は、同様の製造方法にて高分子系ナノコンポジットの製造を行い、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に併せて記す。
【0121】
<比較例3>
前記実施例1のIIで得られたDTMA−マガディアイト6gと、層間表面に固定化しないフリーの重合開始剤としてAIBN95mgとをスチレンモノマー68gに加えて70℃で反応を行った以外は、同様の製造方法にて高分子系ナノコンポジットの製造を行い、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に記す。
【0122】
<比較例4>
実施例1のIと同様の手順で得られたマガディアイト6gを陽イオン交換及び層間修飾することなくそのまま用い、層間表面に固定化しないフリーの重合開始剤としてAIBN95mgをスチレンモノマー68gに加え70℃で反応を行った以外は、同様の製造方法にてナノコンポジット樹脂の製造を試み、また、同様の評価方法にて評価を行った。結果を〔表1〕に示す。
【0123】
[評価法]
<凝集状態>
透過型電子顕微鏡(TEM:(株)日立ハイテクノロジーズ製、H7500形透過電子顕微鏡)を用い一連のナノコンポジットの超薄切片の明視野観察を行ない、凝集状態を評価した。またX線回折装置(SAXS, WAXD:(株)リガク製、Ultima IV)を用い一連のコンポジットのSAXS, WAXD測定を行ない、小角領域と広角領域における層状無機化合物の剥離分散状態を評価した。
○:凝集見受けられず分散性良好
×:凝集が多く見受けられ分散性不十分
【0124】
<分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)>
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC:日本分光(株)製、検出器:RI−830、UV−875、カラムオーブン:CO−865、ポンプ:PU−880、展開溶媒:THF、ポリスチレン標準)を用い、あらかじめフッ酸処理によりシリケート層表面から成長した高分子を分離して数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0125】
<熱分解温度(℃)>
示差熱天秤(TG−DTA:(株)リガク製、Thermo Plus2)にて測定
昇温速度:10℃/mim、温度範囲:30〜900℃、窒素流量:200ml/mim
【0126】
<シリケート含有量(%)>
示差熱天秤(TG−DTA:(株)リガク製、Thermo Plus2)での900℃×30分保持後の残渣重量をシリケート含有量(%)とした。
【0127】
<難燃性>
コーンカロリーメーター(東洋精機(株)製、コーンカロリーメーターIII)を用いて、燃焼時の発熱速度(HRR:kW/m2)並びに、着火時間(sec)を下記の方法に基づき測定した。
【0128】
〔燃焼時の発熱速度〕(HRR:kW/m2
・試験片 : 100×100×3mm
・輻射熱流速 : 50kW/m2
【0129】
〔着火時間(sec)〕
ISO5660に準拠して、加熱強度50kW/m2で15分間加熱したときの着火開始時間を目視で確認し測定した。
【0130】
【表1】

【0131】
本発明の製造方法により、即ち、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を層状無機化合物の層間表面に固定化し、モノマー中においてその層間表面から表面開始ラジカル重合を行い作製した高分子系ナノコンポジットは、高分子マトリクス中における層状無機化合物の剥離分散性が良好で、層状無機化合物の高分子への含有量の多いナノコンポジットであることが確認された。また本発明の製造方法によれば、短い重合時間で分子量分布の狭い高分子量体を得ることができることが確認された。更に、本発明の製造方法によって作製された高分子系ナノコンポジットは、高分子の耐熱性が向上しており、また、評価例から最大発熱速度の抑制及び着火時間の遅延においても良好な結果が得られるものであることが確認された。このことから、本発明の製造方法によれば、難燃性の高い高分子系ナノコンポジットを提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機オニウム塩を用いて層状無機化合物の層間を拡張した後、下記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤を、該層状無機化合物の層間表面に共有結合を介して固定化し、モノマー中でその固定化した該ラジカル重合開始剤から表面開始ラジカル重合を行うことを特徴とする、高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【化1】

(但し、前記一般式(1)中のR1は、炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数2〜25のアルケニレン基、炭素原子数5〜8のシクロアルキレン基又は炭素原子数6〜12のアリーレン基を表し、これらは炭素原子数1〜18のアルキル基、フェニル基又はシアノ基で置換されてもよく、また、酸素原子、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、更に、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。X1〜X3は、各々独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、メチルオキシ基又はエチルオキシ基を表わす。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、同式中のX1〜X3の少なくとも一つが塩素原子であるものを用いる、請求項1に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、同式中のR1が、酸素原子又はエステル基で中断されてもよく、フェニル基で置換されてもよい、炭素原子数1〜25のアルキレン基又は炭素原子数2〜25のアルケニレン基であるものを用いる、請求項1又は2に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項4】
前記層状無機化合物として、マガディアイト、ケニヤアイト、マカタイト、カネマイト及びアイアライトの群の中から選ばれる層状ポリケイ酸塩を用いる、請求項1〜3の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項5】
前記層状無機化合物の層間表面に共有結合を介して固定化される化合物として、前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤と、下記一般式(2)で表わされるシラン化合物とを併用する、請求項1〜4の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【化2】

(但し、前記一般式(2)中のR2は、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数2〜25のアルケニル基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基又は炭素原子数6〜12のアリール基を表し、これらは炭素原子数1〜18のアルキル基、フェニル基又はシアノ基で置換されてもよく、また、酸素原子、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、更に、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。X1〜X3は、前記一般式(1)中のX1〜X3と同じ基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(2)で表わされるシラン化合物として、同式中のX1〜X3の少なくとも一つが塩素原子であるものを用いる、請求項5に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(1)で表わされる基を有するラジカル重合開始剤として、ニトロオキシド系又はアゾ系重合開始剤を用いる、請求項1〜6の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項8】
前記ニトロオキシド系重合開始剤として、下記一般式(3)で表されるテトラメチルピペリジンオキシド系化合物を用いる、請求項7に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【化3】

(但し、前記一般式(3)中のY1は、前記一般式(1)で表わされる基を表し、R3は、水素原子、酸素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜8の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基又は炭素原子数5〜8のシクロアルキル基を表し、また、これらのアルキル基及びアルコキシ基は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されてもよく、これらの置換及び中断は組み合わされてもよい。)
【請求項9】
前記一般式(3)で表されるテトラメチルピペリジンオキシド系化合物として、同式中のR3が、水素原子、酸素原子又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基であるものを用いる、請求項8に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項10】
前記アゾ系重合開始剤として、下記一般式(4)で表されるアゾ系化合物を用いる、請求項7に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【化4】

(但し、前記一般式(4)中のY1は、前記一般式(1)で表わされる基を表し、Y2は、前記一般式(1)で表わされる基又はメチル基を表す。R4〜R7は、各々独立に、メチル基又はニトリル基を表す。)
【請求項11】
前記層状無機化合物の層間表面に固定化した前記一般式(4)で表わされるアゾ系化合物から表面開始ラジカル重合反応を行う際に、モノマー中に、更に、分子量調節剤として、ニトロオキシド系化合物、アルコキシアミン系化合物又はヨウ素系化合物を1種以上添加する、請求項10に記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項12】
前記有機オニウム塩として、有機アンモニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機イミダゾリウム塩、有機ホスホニウム塩又は有機スルホニウム塩を用いる、請求項1〜11の何れかに記載の高分子系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載の高分子系ナノコンポジット製造方法によって形成された高分子系ナノコンポジット。
【請求項14】
難燃材料として用いられる請求項13に記載の高分子系ナノコンポジット。

【公開番号】特開2010−132800(P2010−132800A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310995(P2008−310995)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】